• モニターとフラットについて

    2017-04-01 01:17
    "モニター"について
    モニターというのは一言で言っても様々で、録音時に演奏者が使うもの、録音後にエンジニアがミキシング時に使うもの、ライブ時に演奏者が使うもの、ライブ時にPAが調整用に使うもの、DJがミックスに使うものなど、用途は多岐に渡ります。そして、用途に合わせて必要とされる周波数特性もそれぞれです。

    しかし現在、民生用のヘッドホン等にもモニターという名前が溢れています。いつ頃からなのかは分かりませんが、モニターらしい音とは"堅くて聞き疲れする音"や"高域がキンキンしている音"であったり、"解像度が高くフラットな音"を指すようになっているらしく、家電量販店はともかく、某専門店ですらモニターの意味がよくわからないまま宣伝文句に使っているのが現状です。

    少しヘッドホンのことに詳しければこの違和感に共感していただけるのですが、例えばATH-M50もK701もSE535も全てモニターです。ATH-M50は明らかに低音過多だし、K701は遮音性ゼロでバスドラあたりも聞こえ辛いし、SE535はモコモコしています。これは、用途が全然違うからなのです。ATH-M50はバスドラが非常に聴こえやすく、リズムキープに持って来いです。K701はライブステージや録音時に使用しませんし、SE535は遮音性が高くライブ時に聞こえ辛い低域が少し強めなので、騒音下でも全体域がしっかり聞えます。

    とにかく、モニターという言葉にはほとんど意味が無いことがわかりましたね。モニターライクなサウンドです!というレビューを見て、よし自分の好みの周波数特性だろう!といって購入すると痛い目に合います。

    ”フラット”について
    では、次はフラットという言葉について考えましょう。周波数特性を見ればわかると思いますが、モニター用とされるヘッドホンやイヤホンで、一直線にフラットな周波数特性を持っているものは一つもありません。

    一応、フラットというものには基準があります。以下は某Sandalなんとかさんのサイトの丸パクリでして、詳しくは「フラットな音色のヘッドホンとは」で検索して見て欲しいのですが、まとめると以下のようになります。

    まずは人間の聴覚特性を元に作られた「フリーフィールド・カーブ」というものがあります。3kHz付近が聴こえやすく、実際に刺さりの原因となっていますね。この補正カーブに従うようにヘッドホンから出力される周波数特性を調整すればフラットに聴こえるというものですが、「音源が前方に存在しており反響が一切無い」という仮定のもとにあるため、無響質でモノラル音源を聴くという状況を再現したい場合でない限り、自然な音になるとはとても言えません。自然で"フラット"に聴こえる周波数特性というのは、部屋などの反響を考慮に入れなければなりません。

    そこで、「ディフューズフィールド・カーブ」という新しいカーブが考案されました。反響を考慮に入れたため、より自然な補正カーブとなっており、K240DFやDT880、ER-4などが設計思想に取り入れています。しかし、特にER-4は"キンキンする"もしくは"聞き疲れする"という印象があるのではないでしょうか。これは、実際の生活環境やミキシングルームでは、無限に反響するということがなく、高域が減衰するということを考慮に入れていないからです。

    こうして、各社はER-4→ER-4SやHD600→HD650のように「ディフューズフィールド・カーブ」から高域を落とすようチューニングし始めました。その調整の仕方は各社様々ですが、依然として"高域が多い"とか"低域が少ない"といった意見が多いため、AKGはK712やK812のように低域を強めに、高域を弱めにしたヘッドホンを出して来ています。ETYMOTIC RESEARCHも、ER-4XRというイヤホンを発売しましたね。


    ここまでほぼ丸パクリでしたが、この新しい補正は本当に最近のもので、ディフューズフィールド補正の時代が長かったように感じます。ER-4Sのように低域が少なく高域強めのイヤホンを"フラット"だと思っている人も多いようですし、低域が少ないというと「ER-4は低域が十分出ているのにもっと欲しいのか」とか「上流が悪いから本来の性能を活かしきれていないだけ」といったことを言う人を何人も見て来ましたが、正直どうかと思います。DF補正神話の時代が終わり、新しい補正の時代に入りつつあるのです。ER-4で音作りをしたらバスドラム過多になったというDTMerも多いのではないでしょうか。

    多くのエンジニア用のリファレンスモニターに前述の補正とその亜種が使われていたため、"モニターは堅い音で聴き疲れする"とか"モニターは低域が出ずに高域が強い"といったよくわからない印象がついてしまったのでしょう。ただ、AKGも新しいフラットの定義については手探り状態のようで、「これこそがフラットだ」と万人にオススメ出来るヘッドホンやイヤホンはなかなかありませんね。

    個人的にはイヤホンではK3003が好きですね。イヤホンやヘッドホンというのは調整が非常に難しいので開発が難航しているようですが、手っ取り早くフラットなモニターが欲しいというなら、ミキシング用のモニタースピーカーですが、取り敢えずGENELECの8020DPMあたりでも買いましょう。補正なんて関係なくフラットな音が手に入るので、とにかくヘッドホンやイヤホンについて語る前に基準として一度GENELECあたりの音は知っていた方が良いでしょう。

    モニターとしての機材環境
    エンジニアのリファレンスモニターヘッドホンとしては、ケーブルの材質や再生機材の質に左右されない性質が必要です。スタジオAの環境では良いバランスで聴けるように調整しました!とエンジニアが主張したところで、スタジオBで聴くとモコモコした音でした、では話になりません。そこで、ケーブルの材質によるインピーダンス変化や再生機材の出力インピーダンスの影響が無視出来るほどに公称インピーダンスが高い必要があります。モニターヘッドホンとされるものの多くで公称インピーダンスが高い理由がこれでしょう。(いや、事の始めは機材への負荷を下げるための伝統として600Ωが定着したというのが主な原因なのかもしれませんね。)しかし、それでも周波数毎のインピーダンスは一定ではなく、HD800もある程度出力側の影響を受けてしまいます。DT880はそこそこインピーダンス特性がフラットめらしいですが、それでも一直線というわけではありません。MrSpeakersやLCDシリーズ、TH500RP、PM-1など、周波数毎のインピーダンスが一定に近い平面駆動式ヘッドホンというのもあるのですが、周波数特性もフラットもしくは好みであるとは限りません。困りましたね...

    今度は出力側の影響をなるべく小さくするという方向で考えていくと、アンプ側の出力インピーダンスがほぼゼロのものが好ましいということになります。しっかりと分離が良くてパワーがあり、まともな音が出るものというと、10万円越えの高級品ばかりで実に困ったものです。そこでオススメなのが、RNHPです。出力インピーダンスもかなり低くなっているため、ヘッドホンのインピーダンス特性の影響が少ないのですが、オーディオ界では珍しく良心的な価格設定で、5万円以下で買えることもあります。アナログアンプですが、アンプ以外の機能が全て削ぎ落とされているためコスパが良く、firefaceなどまともなDACを詰んだインターフェースと組み合わせると、モニターに適した環境を安く手に入れることが出来ます。


    おまけ(グチ)
    オーディオカルト集団とされている方々がよく好んで口にするのは、まず「リケーブルによる音質変化」や「アンプによる音色の変化」ですが、これは上記のようにインピーダンスによるものと考えられます。ケーブル如きで音が変わるわけがないと思う方もいらっしゃるでしょうが、リケーブルが盛んなのは"ポータブルDAP"や"低インピーダンスのBA型イヤホン"を使用している人達であり、十分に差を感じ取れる場合もあるにはあると思われます。ダイナミック型は周波数毎のインピーダンスはあまり差が無いらしいですが、BA機は高域になればなるほどインピーダンスが高くなるらしいですからね。しかも複数BAだとインピーダンス特性が複雑になります。これを、高インピーダンスのヘッドホンをメインで使っている人や、ダイナミック型のイヤホンをメインで使っている人が、オカルトだなんだ言ってるのでしょうか?環境や愛機なぞ使用者それぞれなので、何らかの測定結果を提示しようがしまいが、リケーブル全てについてオカルトだと決めつけるのも、逆にオカルトではなく有意な差があると断言するのも、おかしな話だと思います。

    ちなみに、私は18Ωの"Amperior"で純正のスチールケーブルと、オヤイデの銅か何かのケーブルを聴き比べましたが、そこそこ差があるように感じました。使用したのはポータブルDAPのDP-X1Aのアンバランスで、対応インピーダンスギリギリです。これはプラシーボ効果だったのかもしれませんが、正直そんなことはどうでもよく、モニターとしては「ケーブルの材質を変えたら音が変わりました」「ケーブルの長さを変えたら音が変わりました」というのはあってはならないことで、重要なのはケーブルで音が変わるかではなく、いかにケーブルの影響を小さく出来るかだと思います。

    ケーブルの材質や長さ、端子の金属の材質にこだわるなんてアホらしいので、なるべく出力インピーダンスがゼロに近いヘッドホンアンプを使い、公称インピーダンスの高いヘッドホンを使いましょう。好みかどうかは人によりますが、モニターとしてはそれが"正しい"はずです。

    さて、こういったケーブルの材質やアンプとの相性というのは理解出来ますし、電源ケーブルの材質による変化、バランス駆動による変化などもまだ理解できますが、最近話題の「ハイレゾ」というのは完全にオカルトの域に突っ込んでいると思いますよ。DTMをやっている人なら、これは簡単に実験できるのですが、録音時や編集時に影響あるだけで、再生出力が44.1kHzだろうが192kHzだろうが聴いている本人としては大差ありません。そもそも192kHzとか使っている人いるんですかね?

    これは私以外にも実に多くの方が苦言を呈しているので、是非とも調べて欲しいのですが、そもそも人間に聴きとれる範囲ではないし、"超高音域を出力しようとする振動版の振動"が"可聴域の出力"に与える影響を聞き取れるのだとしても、それが良い影響とは限りません。そもそもヘッドホンやイヤホン如きで再生できる周波数は限りがあります。ハイレゾ音源とされるもの自体が可聴域の高域を増量しているだけの場合もありますし、この悪徳商法の波には乗ってハイレゾ音源を買うよりかは、fireface、RNHP、8020DPMあたりを買い揃えた方が有意義でしょう。クラシックピアノ単体の録音などであれば、まだハイレゾの恩恵もある程度はあるかもしれないでしょうが、アニソンや、ましてメタルなんぞでは間違いなくオカルトレベルです。

    また、最近はバランス駆動商法が流行りつつありますが、こういう商売をする暇があったら周波数特性のチューニングに精を出すか、DAPの安定性や機能性を磨いて欲しいです。ちなみに、ドライバ側のインピーダンスは2倍になるんですかね?これもリケーブルと同じで、その効果は使用者の環境にかなり左右されそうですね。同じ音量で簡単に比較するのが難しいので、私もまだちゃんとした聴き比べはまだ出来ていないですが、Amperiorみたいな低インピーダンス機とQ701みたいな高インピーダンス機では結果も異なると予想しています。なお、ポータブルメイン機であるHD25-1Ⅱ改はパッと聴いた印象でなんとなくACGを使っています。端子自体は数百円で買えるのでそこまでガッカリはしていませんが、はんだ付けが面倒なわりに大した差はないです。

    日本勢は、デザインで勝負してたりハイレゾ対応!とかバランス駆動が凄い!とかわけわかんない宣伝に力を入れる会社が多い印象で、どうもズレているようで悲しいです。ヘッドホンのドライバ開発からBAドライバの自社開発まで様々な研究成果を誇っていた日本勢ですが、最近は型番の最後にXを付けたりZを付けたりANVを付けたりで、いつになったら新型が出るのやら。イヤホンやリスニング用ヘッドホンは新型が出続けていて、その進歩には目を見張るものがありますが、モニター機の開発はどうなっているんでしょうか。モニターとは違うかもしれないけど、STAXあたりは我が道を行くで新型を出し続けているのが救いですね。ドイツ方面ではorpheus、DT1770やDT1990やAMIRON HOME、K812など活発にヘッドホンの研究開発が進んでいるので、フラッグシップ機の性能で取り残されないように頑張って欲しいです。


    長くなりましたね。もし間違っているという所があったら、是非教えてください!ところどころ日本語がおかしくてすいません許してください!何でもしますから!けものフレンズ1期がおわってしまって精神が不安定なんです。早く2期を....
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  • SENNHEISERのHD25シリーズの音の違いについて

    2017-03-31 21:52


    SENNHEISER(ゼンハイザー)は1945年にドイツで設立され、プロ用のヘッドホンやマイクロホンの分野で一流の会社に成長しました。1998年には名機"HD25"が発売され、"プロ用のモニター"として世界中を魅了しました。その後はマイナーチャンジを続けてドイツ製造からアイルランド製造に移行し、プロ用の"HD25-13Ⅱ"や携帯機用にチューニングされた"Amperior"、25周年記念モデルの"HD25 ALUMINIUM"も登場しました。HD25シリーズは、見た目はほとんど同じですが、その音に違いはあるのでしょうか?違いがあるとしたら原因は何なのでしょうか?


    本当は全種類の違いについて語りたいのですが、ドイツ製"HD25"とプロ用の"HD25-13Ⅱ"は入手困難なので、アイルランド製の"HD25-1Ⅱ"と"Amperior"の比較をします。"HD25 ALUMINIUM"は買う気になれないほど音が好みでなかったのですが、"Amperior"をより激しくしたドンシャリです。外見的な違いなどは某eなんとかさんのブログとかを見てください。どうでもいいけどヘッドバンドのネジの長さが違ったりワッシャーの材質が違ったりします。重要なのは以下の二点です。
    ①"HD25-1Ⅱ"のハウジングはプラスチックか何かで"Amperior"はアルミニウムか何か
    ②"HD25-1Ⅱ"のハウジング内は白いスポンジのみで、"Amperior"は黒いスポンジが追加
    ③"HD25-1Ⅱ"のドライバは70Ωで"Amperior"のドライバは18Ω
    この違いが周波数特性にどう影響しているか見てみましょう。


    HeadRoomというサイトで公開されている周波数特性を見てみると、音の出方は結構違うようですね。なお、"HD25-1"と書いてありますが、"HD25-1Ⅱ"とほぼ同じとして考えます。Amperiorは明らかに低域がモリモリ盛られていて、高域も少し増えていますね。


    "HD25-1Ⅱ"と"Amperior"の比較に入る前に、ヘッドホンの交称インピーダンスに依る音質変化を考えてみましょう。インピーダンスはまぁ交流の抵抗として捉えてもらって構わないのですが、交称インピーダンスが高いと高電圧が必要となる代わりに、機材への負荷は低くなります。良い例えではないかもしれませんが、発電所で作られた電気も超高圧変電所で昇圧してから送電しますよね。そして、交称インピーダンスが高くなると残留雑音の割合も下がります。また、交称インピーダンスが高いと、ケーブルやアンプ側の内部抵抗ぶんの総抵抗値の変化も小さいため、モニター機は交称インピーダンスが高いものが多いのです。(ただの習慣というのもありますが)。このように、十分な音量が取れる場合は、交称インピーダンスが高い方が良いということがわかります。モニターとしては、アンプの特性やリケーブルによって音質が変化して欲しく無いので、なるべく高インピーダンスにしておきたいところです。

    全体的な話ではなく、今度は周波数毎のインピーダンスに着目しましょう。beyerdynamicの"DT880 - 600Ω"は周波数によるインピーダンスの変化幅が小さいため、ケーブルやアンプの出力インピーダンスによる周波数特性の変化も小さく、まさにモニターに適しています。しかし、どちらかというと中低域のインピーダンスが高く、中高域のインピーダンスが低いため、出力インピーダンスの高いDAPなどでは偏って聞えてしまいます。本来は32Ω版も250Ω版も600Ω版も、ちゃんとした上流で駆動すれば大差ないはずなんですが、周波数によるインピーダンス特性が少し違うのでしょうか、結構差があるように感じます。RNHPとかを持っていればもっと正確に言えるんですけど...

    周波数毎のインピーダンス特性調整で誤差があるのか、それとも高域のインピーダンスは下げにくいのか、交称インピーダンスが低いものは少し高域が強くなっているような気もします。

    "HD25-1Ⅱ"と"Amperior"を見てみると、400~2kHzはほぼ同じですが、2kHz以上はDT880シリーズと同様に、交称インピーダンスが低い方の"Amperior"が少し強く出ています。ハウジングの質の差もある程度は影響しているでしょうが、後述するスポンジの影響で、その影響はあまり無さそうだと言えます。2kHz以上がQ701改により近いのは"Amperior"ですね。"Amperior"で高域が出過ぎていると感じる人はドライバだけ"HD25-1Ⅱ"のものに変えるのもありでしょう。

    では話をハウジング内のスポンジに変えましょうか。

    まずはケーブルクランプのネジを外します。

    ヘッドバンドとケーブルから分離します。

    イヤパッドをスポッと外したら、中央部分を押し込みます。

    ものの数分でこんな感じに分解出来ます。

    ハウジングの白いスポンジを取り外すと、"Amperior"側にだけ2層めのスポンジが入っていました。見にくくてスマソ。

    K700シリーズの音の違いでも述べましたが、高域は減衰しやすいため、密閉型ヘッドホンのハウジング内の吸音スポンジを増量させた場合は、反射してドライバ側に帰ってくる中高域が減衰し、低域のみが強調されて聞えます。この黒いスポンジは低域を増量させる効果があり、同時に中高域の濁りを減らす効果があるといえます。それが、"Amperior"が"HD25-1Ⅱ"と比較して400Hz以下が異常に出る原因だと思われます。このスポンジはたぶん"HD25 ALUMINIUM"にも入っていると思います。私はAmperiorは低域が出過ぎな気がするので、このスポンジを取りました。

    このアルミニウムハウジングは気に入っていますが、残念ながらハウジング以外を完璧に同じ部品にして比較をした周波数特性データが存在しないのでなんとも言えません。ダミーヘッドとマイクがあれば私も測定してあれこれ言えるんですがね...高いんだもの...

    さて改造についてですが、"Amperior"で低域が出過ぎて気持ち悪いと思っている人は、分解してスポンジを抜きましょう。高域が出過ぎだと感じる方、刺さるって困るという方は、ドライバを"HD25-1Ⅱ"の70Ωのものや"HD25-13Ⅱ"の600Ωのものに変えてみましょう。ライブのモニターなどで"HD25-1Ⅱ"を使おうとしている方で、低域がもっと欲しいという場合は、逆にスポンジを詰めてみましょう。防振塗料を塗ってみるのもいいかもしれません。

    私は"HD25-1Ⅱ"のハウジングをアルミに変え、黒いスポンジを抜き、純正のベロアパッドにして使っていますが、かなりフラットです。Q701で不足しがちな低音がしっかりと出ているうえ、"HD25-1Ⅱ"や"Amperior"ほど過剰に出ているわけではなく、密閉型の中ではかなりフラットに聴こえます。難点といえば、密閉型特有の刺さりと音場の狭さ、高域のモニタリングのし辛さですかね。正直お金があるならK3003でも買った方が良い気がします。



    なお、某専門店がプッシュしていたYAXIのイヤパッドは全てオススメ出来ない酷い出来です。まず、YAXIのイヤパッドはベロアのものも含め全て純正のものより厚めに作られています。この数mm~数cmの厚みの違いは、"HD25"の根底を揺るがすほどに大きなものです。

    "HD25"はチャチな見た目とは裏腹に、設計思想に忠実で細かな所まで緻密に考え込まれています。"HD25"は見るからに密閉式ですが、そのコンパクトなハウジングは体積が小さいため少ない力で大きな圧力を生むことが可能で、小さなダイヤフラムで力強い低音を産むことが出来ます。また、イヤーパッドの内径も小さく、音の通り道は2.5cmしかありませんが、逆にこの狭さが上下への広がろを可能としているのです。密閉度が高くなっているため、ドライバと耳の間の空間が少なくなっているため高域の減衰が少なく、空気の逃げ道も無いため低域もドスドスと迫力を出せます。なんだかここら辺の内容はどこかのサイトで読んだ気がするのですが、ブックマークがどこかへいってしまった...

    イヤーパッドを大型のものに変えるということは、密閉度を低くすることになるため、ボワボワとした低域にしてしまいます。ドライバが遠くなるので、高域も輝きと明瞭さを失い、まさに全体域が崩壊してしまうのです。さすがにティッシュ箱で側圧を弱めるのはここまでの悪影響はありませんが、ドライバを耳に押し付けることで最高の周波数特性になるように設計されているので、あまり側圧を緩めすぎないようにしましょう。

    わざわざ1万円ほど出して実際にYAXIのイヤパッド(ベロアとプロテインレザー)に変えた経験があるのですが、どちらも実に酷い音でした。理論的に考えればわかるはずだったのですが、1万円を完全にドブに捨ててしまって落ち込みました。リケーブル商法よりも酷い商売です。明らかにデザインに全振りで、これをプッシュする意味がわからないし、これをつけて喜んでいる層もよくわからない。こんなものは置かないで、純正の部品を置く様にしてほしいですね。何故純正の部品を置かなくなってしまったのでしょうか。

    HD25シリーズを愛するなら、なるべく純正のベロアパッドを使ってあげましょう。個人的にはビニルパッドやレザーパッドは低域が強すぎるので、ある程度逃がしてあげられるベロア一択ですね。ただ、演奏時やライブハウスでのモニター時や、電車や街中での使用となると、低域の聞こえ方も変わりますし、遮音性も重要な要素となってきますので、これについては用途によりますかね。


    なお、YAXIのフィルターはなかなか良かったです。イヤパッドとドライバの間にある黒いスポンジで、使っていると一番最初にモロモロになって崩れるアレです。純正品よりメッシュのキメが細かいのが原因なのか、はたまたキラキラ輝いている不純物が原因なのかはわからないですが、すこーしだけ音の圧迫感が無くなってスッキリしたように感じました。たとえプラシーボ効果だとしても、少なくともそこまで深刻な悪影響は無さそうです。値段も安いので、オススメです。


    電気系統についてはあまり詳しくないので、もし間違っているという所があったら、是非コメントで教えてください!
  • AKGのK700シリーズの音の違いについて

    2017-03-26 12:42



    AKG(アーカーゲー)は1947年に"音楽の都"オーストリアのウィーンで設立され、プロ用のヘッドホンやマイクロホンの分野で一流の会社に成長しました。2005年には名機"K701"が発売され、"クリスタルサウンド"と称される高域の美しさで世界中を魅了しました。その後K700シリーズはK701, K702, Q701, K702 65th Anniversary Editionとマイナーチャンジを続け、2013年にはK712が発表されました。K7XXやK7XX LIMITED RED EDITIONというモデルもあります。K700シリーズは、見た目はほとんど同じですが、その音に違いはあるのでしょうか?違いがあるとしたら原因は何なのでしょうか?



    7種類のK700シリーズの音の違いについて語る前に、そもそも何が違うかを確認しましょう。パッと見るとカラーリングの違いやコブのありなしが目に付きますが、音には全く影響が無いのは明らかですね。K702AEやK7XX、K7XXLEはなかなかお目にかかれないので、今回は除外して残りの四機に注目すると重要なのは以下の三点です。
    ①K701はケーブルが四芯で着脱が不可能。その他はケーブルが三芯で着脱可能。
    ②Q701はQマークのあるハウジングカバーの下にスポンジがあり、その他は無い。
    ③K712はイヤーパッドが低反発のベロア生地で、その他は普通のベロア生地。
    ④K712はドライバが新設計のもので、その他は(おそらく)同じドライバを搭載。
    この違いが四機の周波数特性にどう影響しているか見てみましょう。


    HeadRoomというサイトで公開されている周波数特性を見てみると、四機の音の出方は結構違うようですね。K701から徐々に低音が増えているように見えます。ある程度の誤差があるとはいえ、これら全てが"全く同じ音"というのは無理があります。ちなみに、サイトの仕様のため、以下掲載するグラフの色は機種毎に統一できませんでした。御了承ください。


    K701とK02の主な違いは、ケーブルのみです。K702ではケーブルが着脱できるように3ピンのminiXLR端子を採用しています。ここで重要なのは以下の三点です。
    ①K701とK702はケーブル以外に違いが"ほとんど"無い
    ②K701はドライバからケーブルが繋がっているが、K702は間に接続端子を介する。
    ③K701のケ-ブルは四芯(左右チャンネルの+と-)だがK702のケーブルは三芯(-が共通)
    ケーブル以外は"ほとんど"同じと見られるため、音に違いがあるとすれば原因はケーブル以外に考えられません。そして、K702はminiXLR端子によって抵抗が変化し、両チャンネルの-を共通にすることでクロストークなどが発生します。この端子の抵抗も、チャンネルクロストークも、聴き分けるのは困難!オカルトだ!と言われることも多いのですが、私も静かな所で試聴できていないため、判断がつきません。ただ、上の周波数特性を見てみると、誤差とも言える範囲ですが、地味に違いがあるような気もします。ほとんどプラシーボ効果のレベルと言ってもおかしくないような...そうでもないような微妙なラインでしょうか?



    K701とQ702の主な違いは、Qマークのあるハウジングカバーと、ハウジング内部のスポンジのみです。両者ともケーブルが着脱できるように3ピンのminiXLR端子を採用しています。ハウジングカバーの形状とスポンジによって周波数特性は大きく変わっているようですが、9kHz以上では似た傾向を示しています。70Hz以下に関しては判別がつきませんが、9kHz以上はminiXLR端子による抵抗の変化の影響が見られると言っていいかもしれません(曖昧)。


    先程はK702とQ701の共通点に着目しましたが、今度は相違点について見てみましょう。Qマークのあるハウジングカバーと、ハウジング内部のスポンジはどのような影響を及ぼしているのでしょうか。Q701はQマークのぶんハウジングカバーの穴が少なく、さらにスポンジによって残りの穴も閉じられています。つまり、K702はいわゆる典型的な開放型でしたが、Q701は半開放型に少しだけ近付いているといえます。



    実は、ヘッドホンのような小さなドライバで低域を出力するのは非常に難しく、そのためハウジング内で反射させて低域を再利用します(高域は減衰します)。密閉型のヘッドホンでは、この反射された低域が再反射によって増幅されモコモコするため、スポンジや綿で中高域をさらに減衰させて低音を回収している機種も多いです。Q701はK701よりも密閉型の方に近づいており、反射した中低域によって柔らかな音になっていると考えられます。たかがスポンジだけだろうと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、この"たかが厚さ数mmのスポンジ"は周波数特性調整用の重要な部品のひとつです。綿やスポンジで調節するなんてよくあることです。

    実際にQ701のハウジング内のスポンンジを"あり"と"なし"で比較してみましたが、シンバルの響き方が少し違うと気づきました。スポンジありの状態だとシンバルは「シャンシャン」と地味な音で鳴っていましたが、スポンジを取った途端「シャリンシャリン」と美しい"クリスタルサウンド"に様変わりです。まさにクラッシュシンバルがクラッシュし、スプラッシュシンバルがスプラッシュするのが目に見えるようになります。中低域は、ギターの低域あたりのモコモコした感じが少し解消され、メリハリがつきます。DTMでは楽器の歯切れを良くするために3kHz付近をブーストすることがありますが、Q701のハウジングカバーの工夫は、まさにその逆の効果があり、逆に考えると刺さらなくなるともいえます。サックスのつんざくような高域が特徴的なジャズでは、K702の高域がやりすぎだと感じることもありますが、Q701はまろやかにしっとりと表現できるため、色気を纏った夜を演出することが出来ます。実際、オーケストラはK702で聴いた方が好みですが、しっとりとした曲調のピアノ曲やジャズだとQ701で聴いた方が好みです。「新世界より」の第四楽章くらいトランペットが元気だと、正直どっちでも良い気がしますが...

    私は据置機のヘッドホンアンプとしてHP-A7を使用していますが、これはかなり高域が強いので、K702よりかはQ701の方に合っていると思います。高域の強さで悪名高いアンプと、K701の兄弟機で高域の強いヘッドホンを合わせるのは良くないとは思いますが。ついでに言っておくとDT250等のヘッドホンには合うと思います。癖が強いので積極的にオススメできる機種ではありませんが、中古が大量に投げ売りされているので安く買えてイイゾ~コレ。


    なんだこれは・・・たまげたなぁ。K712は試聴した際に全く買う気になれなかったので詳しくは知らないのですが、イヤーパッドが低反発素材になっただけではなく、ドライバもだいぶ変わってるんですね。そりゃドライバが変われば音も大きく変わりますよね。低域がだいぶ増えて刺さりの原因である3kHzが引っ込んでるので、Q701で試した調整をより積極的にしたというところでしょうか。それにしても、この周波数特性...どこかで見たような...?


    K812もか。やはりAKGは意図的に低域を増やし、刺さる帯域を引っ込めていますね。AKGはヘッドホンもマイクロホンも高域が煌びやかで美しかったのですが、その"クリスタルサウンド"は、逆に言えば"色付けされた人工的な美"ともいえ、ピアノで例えるなら最新技術の粋のスタインウェイというところでしょうか(意味不明)。人工的な美を捨て、新しい"フラット"を定義しようとしているのかもしれませんね。

    長々と話して来ましたが、K700シリーズはそれぞれ微妙にキャラクターが異なっており、なかでもK712は良くも悪くも音が全然違うというのが結論です。K701から始まり、徐々に低音が盛られて豊かな音になり、徐々に3kHzあたりの中高域が削られて冷静な音になってきています。K701やK702の"クリスタルサウンド"が気に入ったならQ701やK712は気に入らないかもしれませんし、K702とK712の中間あたりが良いと思えばQ701が合うかもしれません。ただ一つだけ言えることは、購入するまえに"静かな環境で"じっくり試聴することをオススメします。私の様に「それぞれ意外とキャラが違う」と思う人もいるでしょうし、そこまで大差ないと感じる人もいるでしょう。重要なのは「差があるかどうか」ではなく、そのヘッドホンの音が好きかどうかなので、取り敢えず実際に試聴してみて気に入ったものを買いましょう。



    おまけ

    イヤパッドとドライバの間に挟まっているドーナツ型のスポンジも、かなり重要な調整剤だとわかりました。この「たかが厚さ数mmのスポンジ」は中央に穴が開いているため、ハウジングカバーを塞いでいた小さなスポンジよりも効果が薄いようにも見えます。ゴミの侵入を防ぐためだけのものだろうと思う人もいるかもしれませんね。しかし、これはプラシーボなんかでは無いと確信しています。この記事の中で最も明確な差を実感したのですが、このスポンジがあるだけでかなり低域が増えます。このスポンジを外してみたところ、爽やかになって透明感は増したのですが、シャリシャリのスカスカになったともいえます。



    何故「たかが厚さ数mmのスポンジ」でここまで大きな差があるのかを考えてみました。そして気づいたのですが、おそらくK700シリーズはパッシブラジエータ型(ドローンコーン型)に似た構造を取っている可能性が高いです。ヘッドホンでは意外と一般的な構造で、ドライバとパッシブドライバの間に仕切りを設けたディアルチャンバーシステムというのもよく見られます。K700シリーズは、スピーカーにように回路の繋がっていないドライバをもう一つ載せているというわけではなく、単に白い紙かテープのようなものが張られているだけなのですが、これが鍵を握っているようです。

    真ん中の銀色の部分がドライバで、電気によって振動し音を出します。その周りの白いテープは飾りではなく、パッシブラジエータのように共振で低域を出力する振動膜なのではないでしょうか。上の図では音響レジスターとなっていましたが、正式な名称は私も知りません。重要なのは、ドーナツ型のスポンジは、真ん中のドライバから直接出て来ている音には影響せず、パッシブラジエータから出てきた音だけに影響を与えていると推測できるということです。壁を通して聞こえる音や、耳を手で塞いだ時に聞こえる音は、くぐもって聞えますが、これは「高域は減衰しやすい」という性質によるものです。つまり、スポンジを通すことで、パッシブラジエータから出てきた中低域は中域が減衰されるため、低域が出力されるという仕組みです。つまり、この白い膜を全て破ってしまえば、音はスカスカのシャカシャカになるでしょうし、スポンジを取ってしまえば、中高域が増えて相対的に低域が不足する、ということになります。

    なお、ハウジングのスポンジのありなし、イヤパッドのスポンジのありなしで四通りの組み合わせを試しましたが、結局K701, K702のデフォルトの組み合わせ(イヤパッドのスポンジのみあり)が最も良いバランスと感じました。愛用のQ701はbass modの改造をして低域がかなり出ているいるため、別の素材か薄いものを探して、少しだけ低域を削る実験を画策中です。

    このように、「たかが厚さ数mmのスポンジ」は構造上非常に重要な部品であり、Q701のハウジング内の小さなスポンジも重要な役割があります。実は、あのHD800とHD800Sも、フェルト材くらいしか大した差は無いのですが、その「たかがフェルト材」で音は変わるということは知っていて欲しいです。これは実際に効果のある調整であって、決してオカルトではないのです。WAVファイルとハイレゾの違いが判別できなくても、ケーブルの材の違いが判別できなくても、スポンジによる微調整の違いは判別できるという方は多いはずです。K700シリーズを購入する際は、K701, K702, Q701, K702AE, K7XXは全部同じ音だと決めてかからずに、せめて一度試聴してから考えてみて欲しいです。取り敢えずQ701を買って、スポンジを抜いて比較すれば二度おいしいので、試聴できないという方は初手Q701というのもオススメです。もちろんある程度のDACとアンプが必須ですが。


    電気系統についてはあまり詳しくないので、もし間違っているという所があったら、是非コメントで教えてください!