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【第342号】聖なる不謹慎 3
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【第342号】聖なる不謹慎 3

2021-05-17 07:00
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    山田玲司のヤングサンデー 第342号 2021/5/17

    聖なる不謹慎 3

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    【絶望の正体】


    ほとんどの「絶望」は「選択肢がないこと」から生まれる。


    僕が10年ほど「絶望に効くクスリ」を探して見えてきた結論の1つがこれだ。


    思い出すのは高校の進路指導室。

    先生はファイルからいくつかの会社を出して「この中から選べ」みたいな事を言っていた。

    僕の通っていた高校は当時「最低レベル」と言われていて、進学する人はほとんどいなかった。


    暴れる不良生徒もいたけれど、ほとんどのクラスメイトは「学校」と「家庭」と「テレビの世界」くらいしか知らない普通の高校生だった。

    好きな科目も選べず、拷問みたいな「体育の授業」にも耐えていた。

    テストの正解は1つだけ。自分の意見を求められることはない。

    そんな3年間が終わると「この中のどこかに就職しろ」と言われる。


    『人生にはメニューが決まっていて、その中から選ぶしかない』

    『その中に自分にピッタリのものがあれば幸運だろうけど、なかったら「我慢」するしかない』


    そんなバカみたいな「常識」を刷り込まれる3年間だった。


    この構造は今も相変わらずで、学校が最悪、家庭も最悪、だともう選択肢がない。

    繊細な子供ほど自分を追い詰めて苦しんでしまう。


    だけど選択肢は本当に「メニューにあるもの」だけなのだろうか?



    【10メートルのサメ】


    今回のヤンサンでは久しぶりにあの「伝説の飼育員・下村さん」が登場してくれた。

    同時に魚関係の専門家とイルカの専門家の人達も出てくれて、実に贅沢な放送だった。


    「観てくれている人達を置いていかない」と決めているのに、自分が大好きな「生き物の話」になるとついつい暴走してしまう。


    「サラマンダーはいかなかったんですか?」

    「サラマンダーいきましたねえ〜」(笑)


    なんて気がついたら言ってる。(サラマンダーは人気の両生類)


    ここで盛り上がっているのは「学校」でも「家庭」でも「テレビ」でもほとんど語られない話で、しかも「最高に面白い話」なのだ。


    大きな水族館のトップを務める下村さんも学生時代は「不良」と呼ばれていた。

    他人に「普通じゃない」と言われても自分の好きな事をする人達には新たな「選択肢」は生まれる。


    人生に「自分好みのメニュー」が現れたら絶望なんかしなくていい。



    「この中のもので全部です」というのは嘘なのだ。



    水族館や動物園の存在理由は沢山あると思うのだけど、1番大きいのが「本物」の説得力だろう。


    下村さんが飼育していたサメは最長10メートルになるサメだ。

    そんなものを「水槽」で飼っている。


    少し前の常識では考えられない。

    殆どの人達が目にするサメは、せいぜい1メートルくらいのものだったからだ。


    巨大ザメは映画の中でしか観られない。

    でもある日から大阪の海辺の水族館に「本物の巨大ザメ」が観られるようになった。


    巨大ザメは本当にいる。現実は「知らないことだらけ」で「選択肢」は無限にある。


    世界には3メートルのカニがいるし、ウミウシのデザインはパリコレ級だし、クラゲはネオンのように光るし、カブトガニの血は青い。


    選択肢がないのは「まだ知らない」だけなのだ。




    そんなわけで、観ていない人はぜひヤンサン本編を楽しんで下さい。


    一方、ディスカバリーレイジチャンネルではインド哲学の大きな流れを解説してます。

    「大学の専門講義レベルの内容」をエミリ先生がわかりやすく話してくれているので、こちらもおすすめです。常識を超える「インド神話」も最高ですよ。

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    「知らない」を堪能して「選択肢」を増やしてもらえたら、と思っております。



    それでは連載中の「聖なる不謹慎」の3回目の始まりです。









    聖なる不謹慎



    第3章 オオカミの半生



    【女が抱きたい】


    「オオカミさんはどうしてそんな事知ってるんすか?」


    僕はこのオオカミの話をもっと聞いてみたくなった。

    宗教だのスピリチュアルだのの話はなんか怪しいけど、さっきの天国の話はちょっと腑に落ちたからだ。


    「教え」が理解できない人でも「幸せ」になれるという話は悪くない。



    「迷ってたからな・・・」


    オオカミはウサギのくれた本をパラパラとめくりながら言った。


    「俺は自分に自信もないくせにプライドだけは高くてな。自分以外の連中がバカに見えてるのに、自分には何もないって落ち込んでるようなヤツでね・・」


    何だよそれ、まるで僕の事を言ってるみたいだ。


    「仏にすがって、山で修行もしたけど、ろくな効果はなくてね」


    「修行?本当に出家したんですか?」

    「まあな」


    「何か辛い事でもあったんですか?」

    「ふっ・・まあね・・食い物はねえし、飢え死にするヤツがあふれてて、どいつもこいつも殺し合いばかりしてたし」


    「・・・それ、いつの時代ですか?」

    「鎌倉」

    「はあ・・」


    この「オオカミ」は、自分が鎌倉時代のお坊さんだと思いこんでるのか?僕をからかっているのか?

    いや、そんな事はどうでもいい。



    「いつの時代も『地獄』ってのはあんのよ。この世に。俺は親とは暮らせなかったし、9歳で坊さんになる事になってな・・」

    「本当に9歳からなんですか?早すぎませんか?」

    「それでも遅いと思ってたみたいでさ、当時の俺は」

    「はあ・・」

    「桜は見たいけど明日になる前に夜の嵐で散ってしまうんじゃないか・・・みたいな事言ってたらしくてね・・」


    「それからずっと山で修行してたんですか?」

    「ああ・・坊さんの総合大学みたいな山に入ってね。20年修行したのさ。大真面目に」


    「20年も?・・」

    「これがダメでね」

    「何がダメなんですか?」

    「女が抱きたいんだよ」

    「・・・・・はあ・・・」

    「いつまでたっても消えねえんだよ。煩悩が(笑)」



    【消えない煩悩】


    平然と「女が抱きたい」と言うオオカミに、僕は不思議な「正直さ」を感じた。

    とはいえ腑に落ちないのは、「女を抱きたい」なんて当たり前の事だし、そんな事で一々山で修行しなければならないなんてのにはついて行けない。


    「あの・・そもそも『煩悩がある』って、何が問題なんですか?」


    「苦しいだろ?」

    「え?」


    「『モテたい』『認められたい』『金が欲しい』『寝ていたい』『羨ましい』『死ぬのが怖い』・・・人間が苦しむのは『煩悩』があるからさ・・・」


    「ですね・・・」


    「何もかもを自分の思い通りにしたいけど、現実はそうはいかない」

    「まあ、確かに・・・」


    「めんどくせえよな」


    「だけど人間には『煩悩』っていう『欲』があるから発展してきたんじゃないですか?」

    「・・・・・・・・・・」


    「それがないと面白くないと思うんですけど」


    「俺もそう思う」

    「思うんすか・・」


    「まあ、そうは言っても『欲しいもの』ってのは中々手に入らないし、入っても消えちゃうだろ?『カリスマ』だって忘れられるし、若くていい男もハゲオヤジになる、金は使えばなくなる、雪は溶ける、桜は散る」

    「ですね・・」


    「尽きない『欲』が人を不幸にするんで、それを減らして『目を覚まそう』ってのが仏教なんだ。欲に目がくらんで世界が見えなくなるのが人間だからな。煩悩は減らす」


    「・・・消すんじゃなくて、『減らす』んですか・・」

    「消せないからねえ。滅多なことでは(笑)」


    オオカミはタバコを咥えながら言った。


    「俺は全然ダメだったね・・・・頑張っても頑張っても、他人は羨ましいし、『女』だって抱きたくてたまらねえのよ・・」


    「わかります・・・・」


    「そんな時、会ったんだよ」

    「はあ、誰にです?」


    「ほとけ」



    【女を抱いてもいい】

     
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