• 第一次偶像戦争 【291】 [三浦梓]

    2018-06-20 20:20

    朝の森はまだ暗く、静かで、少し肌寒いぐらいだった。
    大きな木の枝に足をかけ、湖を挟んだ向かいを見る。
    空を焼く朝の光が、僅かに舞さんの城の尖塔を浮かび上がらせていた。
    その向こう。
    城の後ろ側にある、ぐるっと周囲を囲うカルデラの頂、そのすぐ内側。
    そこに黒く焦げた様な跡があり、綺麗だった山肌を汚していた。
    舞さんの城は見た感じ変わっていないのに、そこは明らかに準備期間の時と違っていた。
    日が昇ってくればもっとハッキリするだろうが
    そんな黒く色が変わった場所が城の周囲にポツポツとあるように見えた。
     「何かあったんやろか?」
    シュウコの声の端が曲がる。問うているからというだけじゃない。
     「まぁ、何かあったんじゃない?」
    シュウコが楽しそうなのは、何かあったのと
    何かあったのにその現場を押さえられなかった俺を見てだろうな。
     「舞さんの拠点を誰か襲ったって事です?」
    俺に問いながらミッちゃんはミニクロワッサンを袋から取り出し口に放り込んだ。
     「客人とやる事にしては乱暴すぎる気がするし
      初日に舞さんも動いた様だからそれ繋がりかな?」
    舞さんを追いかけるように浮遊城はついていっていた。
    少し距離はあったけれども、隠れていた訳ではないし
    舞さんも浮遊城の存在を知っていた筈……。
    …………
    ……あれだけじゃ、浮遊城が客人か何か訳ありの敵なのかは判断が出来ないな。
    判断は出来ないけれども
    浮遊城の中に居るであろう律子さんが舞さんと組むのは無い気がする。
    …………
     「……とりあえず様子を見ようか。」
    動こうと思えば全員動けるけれども
    舞さん相手に動いた時のリスクも全員理解している。
    そこから絞っていくのは難しいな。
    じゃあ、残ってるあの黒い痕跡からだけど
    恐らく襲撃者の魔力はもう無いだろうし……。
    ……魔力が無くてもあの黒が何なのか、どうやって出来たのかさえ分かれば特定は可能か。
    今の所、ミサイルが大量にという感じては無さそうだな。
    というか、戦闘で出来たものという感じも

    動き
    空に昇る
    一瞬で緊張が心から溢れるほどに
    ここは舞さんの魔力が来ていない筈
    触れた感触も無かったから、土地を介した感知には引っかかってない……筈
    ただ、舞さんの土地の取り方が気になる
    舞さんの魔力が通うのは本当に最低限のエリア、このカルデラ全体にも及んでない。
    確かに衛星写真で見た方が分かりやすいぐらいの巨大なカルデラだけれども
    その気になればもっと取れただろうに、あえてそうしないのは……
    ……ブランクエリアを残してそこにおびき出す為か
    俺達が動きやすいようにあえて隙を残しているか
    カルデラの縁の森は相当な範囲ブランクエリアだし
    舞さんの正確からして、後者だろう
    木々の葉の黒い影が少し揺れる
    舞さんの城からは、朝焼けの空に昇る魔力を持つ何かは4つで打ち止めだった
    4つか……。
    ……舞さんは誰かが襲ってくることを願っている。
    ……でも、何か起こった。
    何かが起こった訳だから、眷属達が周囲を監視していてもおかしくない。
    恐らく城から飛び出したものは舞さんの眷属達。
    近づいてきたのなら、感知は……。
    …………
    ……どうして感知出来る状態で飛び出したんだろう?
    魔力でも、視覚でもその姿を追えたというのは、改めて考えると不自然だ。
    ……不自然だからこそ、ここで俺が足を止めると見た?
    ……いや、それは中々にリスキーなんじゃないか?実際動いてないけど。
    …………
    ……視覚でも魔力感知でも、もう追うことは出来ない。
    ここから一気に襲ってくる?
    そして舞さんが出てきたり?
    舞さんの事だから、寝起きでテンションが上がらないし
    先に行っててぐらい言いそうな気がする。
    ……単純な監視なら、もっと別のやり方がある。
    隠れて移動しぐるっとカルデラの外側を廻ってきて俺の裏を取るという手も。
    これ見よがしに4人が外へ出たのは……。
    ……いや、あれもフェイクの可能性があるか。
    他にも、眷属を引かせたんだから襲ってきなさいよという挑発の線も。
    …………
    ……待ちだな。圧倒的に待ち。
    下手に動かない方がいい。場所は移動するけれども。
    流石に舞さんの眷属達に今の段階で手を出すのは怖いしね。
    ……うん。待とう。
    そう心に決め、隣を見ると
    ミッちゃんが大きな口を開けてメロンパンにかじり付いていた。

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  • 第一次偶像戦争 【290】 [伊集院北斗]

    2018-06-18 22:59


    羅紗の上を走るビリヤードの球は、固い音を連鎖させながら動き回り
    ポケットに落ちていくつか消えた。
     (……私、少し待ちますね。)
    内に響く声。
    キューを持った小鳥さんは俺にそう言うと、視線を扉の方へと移す。
     (流石ですね。)
    まだ少し離れてる上に、魔力を隠しているから感知も出来ない筈なのに。
     (先に気がついたのは北斗さんじゃないですか。)
    小鳥さんはチラリと俺の方を見て微笑んで。
     (運が良かっただけですよ。)
    それは本当に言えること。
    もっと密に、そして強く周囲の空間に干渉する様に
    土地に流れるマナに魔力を流されていたら
    俺は靴音を聞くまで、いや、扉が開けられるまで気がつかなかった可能性すらあり得る。
    眷属と一緒に居る以上、土地に強く魔力を流す事がやりにくいのは分かるけれども
    舞さんの城を襲った時といい、本当に運に恵まれてる。
    ……いや、運に恵まれているのではなく、幸運の女神が側にいてくれているおかげかな。
    彩音ちゃんと律君の領土の中間地点付近に
    双方の魔力が入っていないセーフゾーンを見つけたのは小鳥さんだし
    俺にとっての幸運の女神は彼女だろう。
    動きを止めて、意識を扉の向こうへ向ける中
    グラスの氷が動き、カランと音を立てる。
    気配。
    扉の向こうに。
    音。
    ドアノブの。
    そして、ゆっくりと内に扉が開く。
     「お帰りなさい。」
    扉を開けて入ってきた者に小鳥さんと俺がかける声。
    その言葉の反応に困るのか、ただ単純に呆れたのか
    入ってきた者は何とも言えない面倒くさそうな表情を浮かべこちらを見て。
     「小鳥ちゃんも北斗クンも久しぶり~。」
    入ってきた者の後ろから、ひょっこりと現れる銀髪の少女。
     「シューコちゃん、お久しぶり。」
    シューコちゃんはニィと笑うと、空いた扉から一歩ほど距離を開けた。
    シューコちゃんが扉の向こうに目配せをすると
    出来た隙間にまた一人、少女が入ってくる。
     「お久しぶりです。」
     「ミチルちゃんもお久しぶり。」
    くりくりとした大きな瞳が俺達を捕らえ、そして左隣へと動く。
    ため息。聞こえるほど大きな。
     「俺にも久しぶりって言ってくれればまだ返しやすかったのに。」
    そう言って、ため息の時に下げていた視線をこちらに戻す。
     「じゃあ、言い直そうか?」
    そっちの方がいいなら。
     「今更互いにお久しぶりって言い合った後
      どんな表情をすればいいか分からないから無しの方向で。」
    横から見ていたシューコちゃんの笑みがより深くなる。
    ひと月ずっと一緒というのも初めてだと思うが
    二人の関係性はあまり変わっていないみたいだな。
    現実だと同棲して一ヶ月とか、溜まっていた不満が徐々に表に出てくる頃だから
    色々と問題が起きていても不思議じゃ無い。
    まぁ、俺の方もあんまり問題らしい問題は無かったし
    プレインズウォーカーとその眷属という関係が特殊なのかもしれない。
    少なくとも元の世界じゃ中々見かけない関係だと思う。
     「それで、二人はどんな用件でここへ?
      一応、ここは俺の家なんだけど。」
    梓君はそう言いながら、内開きの扉を離した。
    ゆっくりと戻っていく扉。
    その向こう、僅かに星空が見えた。
     「用件というか、放浪の旅の途中
      誰も居ない家を見つけたからお邪魔した感じかな?」
    俺と小鳥さんは目を合わせ、笑って。
     「元の世界だと放浪の旅の終わりは警察っていう
      シビアな現実が待ち受けてるだろうな。」
    それはそれで面白い気もするのは
    もうあの世界のルールで終わる人生じゃ無いし
    何より隣に小鳥さんが居るからかな。
    家族は泣くだろうけれども。
     「残念ながらこの星に警察は居ないっていうのは置いておくとして
      用件も無いわけじゃ無いから安心してくれていいよ。」
     「そりゃどーも。」
    梓君はそう言うと、バーカウンターの中に入っていった。
     「マティーニお願い。」
    シューコちゃんは間髪入れずにそう言うと
    バーカウンターの椅子に座って。
     「私はジントニックで。」
    シューコちゃんに遅れ、ミチルちゃんもカウンターの椅子に座る。
     「はいはい。」
    トットットとリズム良く並べられるグラス。
    そういや、梓君がカクテルを作るというのも余り見たことが無いな。
     「用件は飲み物が出来た後が良いかな?」
     「出来れば風呂入った後にして欲しいぐらいだわ。」
    梓君はタンカレーとゴードンのボトルを置きながら俺を見てそう言った。
     「俺は別にそれでも。
      ただ、待ってる間、ビリヤード台は貸して欲しいかな。」
    既に使っているが。
     「本心は先に風呂に入りたいけど
      お客さんを風呂待ちさせる訳にもいかんから、用件はこれ作り終わった後で。」
    シェーカーに氷が入れられ、タンカレーがそこに注がれていく。
    お土産もお酒なんだけど、まぁいいか。


  • 第一次偶像戦争 【289】 [秋月律子]

    2018-06-16 22:55


    ゆっくりと確実に太陽が上がっていく。
    初日と似た様な感じだけれども
    今回ダメージを受けてるのは私じゃなくて冬馬ね。
    ……あの時の冬馬は私を慰めてくれたけれど……。
    ………
    ……次はある。だって練習だもの。
    課題だってハッキリしてる。
    ……なら私が言うことは……。
    ……っていうのもあんまり良くないわね。
    双方が分かっていても、言葉にすることでもっと別の大きな意味を持つ事も多いんだし。
    …………
    ……それでも、素直に声をかけられないのは……。
    …………
    ……そうなのよね。恋愛感情が全く無いのなら、楽なのに……。
     「お疲れ様。」
    後ろからかけられる声は、少し意外で。
     「ありがと。」
    振り返って、目が合う。
    マキノは私をじっと見たまま、動かず、声も出さず。
     「自分の中で処理は出来た?」
    頭では分かってたと思う。最初から。残った心や感情の方が厄介で。
     「もう問題無いわ。」
    言葉に抵抗は無い。重さも。……本当に平気なようね。
     「そう。ならよかったわ。相手が必要なら声かけてくれれば手伝うわよ。」
     「ありがとう。」
    返事は……それだけ。
     「……何か言いたいことがあるんじゃないの?」
    冬馬が居ないせいか、私から突いちゃったわね。
     「確かめたかっただけよ。
      貴女が本当に秋月律子なのか。」
    へぇ。
     「で、どう?マキノから見て、私は秋月律子なのかしら?」
     「間違いは無さそうね。」
     「それはどうも。内部不和が今起こると面倒だから助かったわ。」
    今はそんなのに構ってられない。
    だから、相手が必要ならというのも半分以上お世辞の様な物なんだけど。
     「その時は最悪自分の眷属も消すのかしら?」
    流石マキノ。容赦ないわね。
     「必要とあらばね。
      ただ、他の所へ行くのを止めはしないから
      あくまで移動や自主的な退場すら嫌った場合の最終手段よ。」
    私に協力する気は無いけれども、他を助力する気も
    この場から去るつもりもないとなると
    ただ観察がしたいだけという事になるのかしら?
    まぁ、私から逃げ切る事が出来たのなら
    それぐらいの不安要素は甘受してあげましょう。
     「冷徹ね。」
     「目標と状況を考えた場合、そうせざるを得ないから
      不満があるのなら、今のうちにどうするか決めておいた方がいいわよ。」
    冷徹だと言われた事を否定する気は無い。
     「……強くなるって、そこまでしないといけないもの?」
    一瞬唇が動いて、止まって、そして出てきた言葉。
     「私の場合は期間が決まってるからよ。
      マキノもこの戦争中に越えたいと考えるのなら
      似た様なものになるんじゃない?」
    マキノが私から視線を外す。
    自分でも十分理解しているでしょうに、私に問うてきたって事は
    そんなに私の戦い方って酷かったのかしら?自分の眷属にドン引きされたとか?
     「……そうかもしれないわね。」
    マキノには珍しくフワッとした言葉が返ってくる。
    具体的な内容が無いのは隠したいのか、それとも相手の強さを掴み切れてないのか。
    私の戦い方にドン引きしてるとしたら、自分も同じ様に戦うかもしれないっていう点に
    引っかかりがあるのかもしれないわね。
    あれは私の地がでただけだか
    魔力
    冬馬の
    城の中から
    マキノも思わず振り返ってそちらを見て。
    ……来ないと思ってたら、そういう事ね。
    私の隣には恥ずかしくて来られないとか考えてるのかしら?
    律儀というか、何というか……
    ……冬馬はやっぱり年上にモテるタイプよね。行動に可愛げがあるわ。
    本人に言ったら微妙な反応をするでしょうけれど。
     「分かってると思うけど、強くなりたいと勝ちたいはまた別物だし
      強くなる為のやり方、勝つ為の方法は一つじゃ無いわ。
      そこから何を選ぶかは好みだし
      何を選べるかは時間そのた条件で制限されるけどね。」
    これは悪い例。双方分かっているんだから口に出さなくてもいいというパターン。
    でも、視線を私に戻したマキノにそういう色は無かった。
     「そして、選択肢が無い場合でも
      それをクリアするのを楽しむぐらいは選べるものよ。」
     「……律子は楽しんでたの?」
     「そうね。多分、今日マキノが見た私の方が本当の私よ。」
    今の私からすれば、認めたくは無いけれど。
     「ホント、ただそれだけ。
      別に戦い方まで狂ってないと強くなれないとかそんなんじゃないから
      心配しなくていいわよ。」
    冬馬の魔力が動く。
    【白】へ【黒】へ変容し、また魔力に戻る。
     「律子は大丈夫って事でいいのね?」
    奥から手前へ。重なったマキノの視線は重かった。
     「それは保証しかねるわ。」
    マキノの眉間に皺が寄る。
     「だから、目に余るようなら見捨ててくれていいわよ。」
    きっと、私が行こうとしている道は、私が行きたい道は
    誰かを連れて行けるようなものじゃない。
    必死についてきてくれている子はいるけれども、その子もこれから先どうなるか……。
     「むしろ見捨てて欲しいという様な言い方ね。」
    図星?
    というか、眷属の子達は皆分かってるわね。
     「そっちの方が確実に気が楽だからでしょうね。」
    色々あるけれども、気が楽というのは結構大きな理由よね。
     「律子は日高舞に勝つ事だけを考えてればいいわ。」
    マキノはそう言うと私に背中を向ける。
     「それはどうも。」
     「全員使い捨てにされるのぐらい覚悟できてるから。
      それじゃ。」
    そう言い残し、マキノは庭園の中へと帰って行った。
    ……優しいわね。うちの子達は。
    …………
    ……自由を謳歌してる連中は、今何をしてるのかしら?