• 第一次偶像戦争 【318】 [天ヶ瀬冬馬]

    2018-08-14 22:5511時間前


    ずっと向こう。草原の上に置かれるテーブルと椅子。
    その上にはきちんと等間隔に並べられた皿とナプキン、カトラリー達。
    更にそれを囲う様に立つ、キッチリとした身なりの使用人とメイドの姿。
    隣ではしゃいでいたキラリも、今までに無い空気に圧倒されたのか
    しんと黙り込んでしまった。
     「やっちゃったかも。」
    俺の後ろでぽつりと沸いた呟きに、全員の意識が動く。
    俺も例に漏れず、振り返って「やっちゃったかも。」と呟いたサキを見て。
     「こういう席なら今のあたしはちょっとズレてるんだよね。
      着替えてこようかな。」
    確かにサキの服はメイド……というか、いつものウェイトレスの姿だった。
     「そんなに気にする必要は無いと思うけど
      サキが気になるなら着替えてくればいいんじゃねーかな。」
    ドレスコードがある様な感じはしないが
    あれだけキッチリやられると、こちらもそれ相応の対応をしないと
    釣り合いが取れないというか、変に萎縮してしまって楽しめない様な気もする。
    ……正直、俺はあんまり好きじゃないんだよな。こういう雰囲気。
    持て成す側ならまだしも、持て成される側は慣れてないというか
    虚勢を張り続けなければならないから疲れるし、そもそも性にあってない。
    それは持て成す側でも同じだろうが、まだそちらの方は仕事だからとか
    そういう役割だからと、何とか飲み込める要素がある。
    持て成される側は望んできてる訳で、望んでそういう事をしないといけなくて……。
    ……サキに気にする必要は無いとかよく言えたな。無茶苦茶気にしてるじゃねーか。
     「……うん。そうする。あたし着替えてくる。
      みんなは気にしないで先行ってて
      ホントはそれもちょっとよろしくないのかもしれないけど。」
     「それなら私も着替えてきたいんですが、構いませんか?」
    俺に許可を求めるキヨミは割としっかりとしたドレスを既に着ている様に見えるが
    何か気になる事があるんだろうか?
     「分かった。じゃあ、全員一度城に戻ろう。
      結構な人数が戻ることになりそうだし、一度出直してリセットした方がいいだろ。
      律子さんには俺から伝えておくから。」
    俺の提案に頷いた面々は、次の瞬間には消えていて。
    残ったのはヘレンとアンズ。
     「皆甘いわね。
      どんなシチュエーションだろうと対応出来る様じゃ無いと。」
     「確かにヘレンは何処行っても問題無さそうだな……。」
    服装も中身も。
     「で、アンズは?」
     「Teleportで戻るのめんどいからゲート開いて。
      アンズは着替えないし、ここに戻ってくるまで抱えてていいから。」
     「何で抱える事が報酬みたいになってんだ。」
    こっちは服装も中身も問題があるが
    本人が気にしていないのなら、それはそれでアリの様にも思える。
     『とーまちゃんとーまちゃん。……もしかしてアンズちゃんそっち?』
    キラリからのテレパスは、何故か申し訳なさそうで。
     『こっちに残ってる。一応そっちに連れてくけど
      本人が服装を気にしてないのなら別にいいと思うぞ。』
     『にぃ……。でもでもッ!折角お呼ばれしてるんだし……。』
     『とりあえずアンズ連れてくから、話し合ってみてくれ
      ……正直俺もどうしようか迷ってる。』
    スーツとか一応あるっちゃあるが……。
     『……キラリ的には、出来ればとーまちゃんもジャケットとか着て欲しいかな……。』
    キラリもこういうのをあんまり好きではない様に思ってたが、意外にノってきてるな。
     『……分かった。それじゃあそうする。』
     『ホント!?うきゃー!
      それじゃそれじゃ!キラリもちゃんとしたドレスでいくね☆』
    微妙だったキラリのテンションが一気にマックスまで上がったのがわかる。
     『それじゃあ、そっちに戻るからアンズのこと頼む。
      自分の着付けだけでも大変なのに、悪い。』
     『いいのいいの!なーんにも問題無いにぃ☆』
    とりあえず、キラリが元気になってよかった。
    ……あとは……。
     『すみません。連絡が遅れました。』
    少しの緊張。今も、多分、これから先もずっと。
     『いいのよ。何か問題発生?』
     『皆、雰囲気に合うような服で改めて来たい……との事です。』
     『なるほどね。分かった。それじゃあ麗華に伝えとくわ。
      これも良い経験ね。』
     『すんません……。待たせちゃってますし……。』
     『気にしなくて良いわ。
      ケーキだけじゃなく、お酒と軽食も用意できてるみたいだから
      楽しんできなさい。』
    楽しんできなさい。
    それは、律子さんは同じテーブルには着かないということ?
     『……律子さんも気を付けて。』
    言いたかった言葉と、言った言葉は別物で。
     『確かめるだけだからそこまでやらないわよ。きっと。』
    きっと。
    きっと……。
    ……そこに期待が混ざっていた。
    そこまでやることを願っている色が、律子さんの声にあった。
     『……それじゃあ、後で……。』
     『うん。後でね。』
    出そうになるため息を舌と唇で止める。
    少しだけ魔力を動かし、俺は浮遊城までのゲートを開いて。
     「ほら、後は自分で行け。」
     「え~、めんどくさいな~。」
    文句を言いつつもふよふよとゲートをくぐるアンズ。
     「……引きずるってるのは負けた事かしら?
      それとも……。」
    問うてきたヘレンを見て。
    ヘレンは俺をジッと見ると、そのまま何も言わずゲートに入っていった。
    …………
    ……多分、両方だな。
    俺もゲートをくぐる。
    ゲートを抜けると、切りそろえられた緑と真っ直ぐで真っ白な道が
    奥にある城まで続いていた。


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  • 第一次偶像戦争 【317】 [秋月律子]

    2018-08-12 21:21


    麗華の城から離れるにつれ、木々は疎らになり
    代わりに草が生い茂る平原が大地の全てを覆い隠さんばかりに広がり
    海岸ギリギリまでその緑の手を伸ばしていた。
    先行した私と麗華の二人は、そんな平原の中でも草葉の薄い場所へ降り立つ。
     「かなり離れちゃってる様だけど大丈夫?」
    周囲を見渡しても、見えるのは地平線で分かたれた大地の緑と空の青。
    でも、もう麗華の城よりも海の方が近い。
     「何かあれば分かるし問題無いわ。
      相手をしている前後に誰かが来たら、一緒に処理してくれるんでしょ?」
    念押しでも懐疑でも無い、軽口の様な麗華の声色。
     「信用して貰っていいわ。
      麗華にここで倒れて貰っちゃ私も困るのよ。」
    万が一舞さんが来たら……。
    ……その時も戦うわね。負けたくは無いけれども、逃げるという選択肢は無い。
    どうせ舞さんはトドメを刺さないでしょうし、私は私で負けた悔しさで荒れるだけ。
    何て分かりやすい未来なんでしょう。リアルに想像できて嫌になるわ。
    まぁ、問題なのは私が荒れる荒れないじゃなくて
    舞さんの事が能力の事を喋っちゃう方……
    …………
    ……忘れてた訳じゃ無いけど、もうこれ以降伝えるタイミングは無さそうね。
    伊織と組んでるのならもう私の二つ目の能力は知ってるかしら?
    組んでいないのであれば、伝える事で勘づかれる。
    組んでいるけれども知らなかったのであれば、伊織との関係に……。
    …………
    ……どっちにしろ伝えないという選択肢は無いわね。
    私に勝った人の命令なんだもの。伝えないことで後で恨まれるのも嫌だし。
     「そうそう、自分の能力に名前つけろって。舞さんから。」
    本来、これはただの言付けで、命令でもなんでもないんだけど
    舞さんのこういった発言は私達の間では強制力が働く。
    今の状況だってそう。この戦争は舞さんの一言から始まった。
     「小っ恥ずかしかったのか誰も名前をつけてなかったし
      全員が揃って長期間の戦闘に巻き込まれるなんて事も今まで無かったから
      丁度良いんじゃない?」
    そう言う麗華の視線に引っかかりを感じる。
    これの引っかかりが二つ目の能力に勘づいたという事なのか
    既に知っているからなのかは分からなかった。
     「次に会った時までに決めてなかったら
      舞さんが勝手に決めるらしいから気を付けておいて。
      まぁ、直接そういったやり取りをした私と冬馬はともかく
      麗華達はこの戦争の終盤ぐらいまでは猶予があると思うわ。」
     「周りに言ってないだけで、自分の中ではもう決めちゃってる子も居そうね。」
     「麗華は?」
     「まだ。律子と冬馬はもう?」
     「一応は。」
     「流石に早いわね。」
    麗華はぐいと両手を上げて体を伸ばして。
     「普通聞いてこない?どういう名前かって。自分で言うのも何だけど。」
     「練習中に使わせる事が出来たのなら、その時にでも聞くわ。
      そっちの方が面白いでしょ。」
    なるほど。
     「麗華は能力を使わないの?」
     「とりあえず今日は使う気は無いかな。
      どんなもんか自分の肌で感じてみないと分からないでしょ。」
    視線が交わる。私も麗華も、ニィと笑って。
     「そうね。」
     「お手柔らかに頼むわ。」
     「こちらこそ。」
    恐らく無理だろうけど。
     「そういや能力の名前の件だけど
      期限が決まってるのなら私も他の誰かに伝えた方がいいの?」
    不意に飛んでくる問い。その意味を理解して、思考は再びフル回転をし始める。
     「強制じゃ無いわ。ただ、伝えてくれたら有り難いわね。
      後々面倒な事になるかもしれないし。」
     「伝えるとなると律子と冬馬が来た事まで話さないといけないけどそれでも?」
     「構わないわ。ただ、麗華が隠したいのであれば伝えなくてもいいと思う。」
     「……そこは構わないんだけど、相手がね……。」
    そう、相手。
    確実に麗華が会うであろう相手は……。
     「私が行って伝えてもいいけど、先に麗華の所へ行ったって言うと拗ねそうね。」
    わざわざそういった話題を出してきたって事は、麗華は私と響を会わせたい?
    それとも逆に、私が勝手に行く可能性を考慮しての牽制?
    ……響がそんなに重要な情報を持ってる?
    ……無い……気がするわね。少なくとも想像を超えるようなものは。
    負けを認めないから生かしてるだけで
    やろうと思えば麗華はいつでも響を退場させる事が可能でしょうし。
     「……どうせ会うんだから、面倒なのは今更ね。……来たら伝えておくわ。」
    麗華は心底面倒くさそうで。
     「分かった。それじゃあ響には麗華からお願い。」
     「あのバカに限らず、来た人には伝えておくわ。できる限りは。」
    ……何かあるのか、何も無いのか、結局確証を得ることは出来なかったけど
    重要なのは私が強くなること。それ以外は全部些末な問題。
    罠にハメてくるのも、徒党を組んで襲ってくるのも好きにすればいい。
    そう思っていた筈。今も思っている筈。
    ……どうも、戦いから離れると賢しい面が出てきちゃうわね。
    …………
    ストレッチをする麗華の横で、私は空へと視線を流す。
    空の青の中にポツンと浮かぶ黒。冬馬を乗せた浮遊城。
    ……あとどれぐらいで始められるのかしら。


  • 第一次偶像戦争 【316】 [東豪寺麗華]

    2018-08-10 21:12


    空になるボトル。
    アイスペールを覗き込めば、まだ削り取られた面を綺麗に残している氷達。
    良いお酒だから無くなるのも早かったわね。
    勿体なかった様にも思うけれど、無駄に長く話したら他の所……
    ……具体的には伊織の話題に触れないといけなくなりそうだから
    早めに切り上げられそうなのは助かった。
    ……外に出ていないと言ったけれども
    私は自ら攻めずに、こちらを攻めてきた相手を叩き潰すだけだとも伝えているし
    他所の話を聞かないことが不自然かは微妙なラインね。
    嘘を掴まされる可能性だってあるんだから。
    ……ただ、私と伊織の交友まで考えると
    聞かないことはどちらかというと不自然寄りかな?
    ……まぁ、単純な親友っていう間柄でも無いし、頭からおかしいとは思われないでしょ。
    ていうか、準備期間中の訪問含め
    律子の方から聞いてこないのはやっぱり疑ってるって事かしら?
    真偽を確かめる手段もないのに情報を仕入れても仕方ないし
    下手に探りを入れて関係を悪くするのもよくないから、避けてる可能性もあるか……。
    ……逆にそういう面では伊織からの情報がある分
    真偽を確かめやすい私の方が有利なのよね。
    まぁ、伊織が正しい情報をくれるかは分からないから
    比較できるチャンスがある分マシ程度。得た情報を鵜呑みにしないよう気をつけましょ。
     「あらかたルールの確認も出来たし
      あとは日程だけかしら?」
     「詳しい所は詰めなくても大丈夫?」
     「ルールに適応されないからって好き勝手やるのなら
      それ相応の対処をするでいいでしょ。双方とも。
      突き詰めていくともう禁止行為を纏めたブラックリストじゃなくて
      許される方を定義したホワイトリストの方での対処になっちゃうんだけど。」
    ホワイトリストの方でも、あやふやな部分は残るから
    結局、細かく定義したり個別にピックアップするしかないんだけど。
     「分かったわ。麗華がいいのならこちらからは何も無し。」
     「ちなみに、律君とサイネリアの所はどうだったの?」
     「ほぼ一緒ね。
      あっちは海の上だったから波の影響とか考慮して
      範囲スペルの制限が少しキツかったぐらいかしら。」
     「数一緒だし、2対2でやったの?」
    伊織経由で知ってるから、確認と引っかけ。
    空のカップとお皿を前に、冬馬が少し目線を下げたのが分かった。
     「いえ、1対1を2回ね。」
    伊織の情報と一緒。
     「結果聞いてもいい?」
    少しの笑み。結果に関しては、律子の方は確定じゃ無いって言ってたのよね。
    まぁ練習なんだし、勝ち負けに大した意味は無いでしょうけど。
     「私も冬馬も、両方負けに近いわね。」
    冬馬の目線が更に下がる。……やっぱり冬馬は負けてたか。
     「組んだ時の強さがフォーカスされがちだけど
      ソロでも十分強いって事ね。」
     「こことは距離的に近いから、脅威に感じるかしら?」
     「来たら倒すだけよ。それ以上でもそれ以下でも無いわ。」
    ヤバイのは分かってる。でも、倒さなければならないのなら、倒すだけ。
     「……そういや、練習相手の情報を
      他に喋ってはいけないっていうルールは取り決めてなかったわね。」
     「……自分たちも公開するから、他所の情報をよこせって事かしら?」
    勿論、当の本人達は見られても問題無い程度の力しか使わない。
     「……そういった側面もありそうね。
      で、麗華はどうするの?」
     「話してもいいわよ。
      どっちにしろ練習で全部の手の内を見せる様な事はしないでしょ。」
    律子から冬馬へ、薙ぐような視線の移動。
    律子が二つ目の能力を隠しているのは知っているけれど
    冬馬にもそれを持っている可能性がある。
     「わかった。
      まぁ、積極的に話すつもりも、交渉カードにする気も無いわ。
      あくまで聞かれたら答える程度。詳しい事は喋らないから安心して。」
     「配慮に感謝するわ。」
     「それじゃあ……後は日程になるかしら?」
    律子はもう湯気が立ちのぼっていないコーヒーに口を付けて。
     「私としては、今日一回やっておきたいんだけど
      都合が悪ければ後日でも良いわ。
      今日これからだと律子と冬馬は連戦になるしね。」
    カップを傾ける律子の瞳が私の方へ動く。
    そのままゆっくりとカップはソーサーの上に戻される。
    ソーサーの上に置いてあったコーヒースプーンが僅かに音を立てた。
     「断る理由は無いわ。願ったり叶ったりだから。
      相手の指定はあるかしら?」
     「特にないわね。お好きにどうぞ。二人がかりでもいいわよ。」
    軽い挑発に手応えは無い。背筋を凍らせるヤバい律子は鳴りを潜めたまま。
     「じゃあ、私が相手をするわ。
      冬馬は浮遊城まで引かせた方がいいかしら?」
     「別にいいわよ。他の子達を連れてきても問題無いわ。」
     「それじゃあ、お言葉に甘えて皆呼びましょうか。
      お留守番してるだけじゃ、つまんないでしょうし。」
     「うちの子達もつれていくわね。
      コズエは寝てるし、ノノは出たがらないだろうから希望者だけになりそうね。
      何なら、ケーキでも食べられるスペース作るけど?」
     「人数が人数だから、今から準備するんじゃ大変じゃない?」
     「熟成させてるフルーツケーキの味見をお願いする感じかしら。
      お土産として渡すつもりだったけれど、帰り際に渡して反応を想像するよりも
      目の前で一度食べて貰った方が色々と安心出来ると思うのよ。
      ラムを使って熟成させてるから、少し癖があるのよね。」
    あっ、これミスったかもしれない。
    前に誰かにお土産として渡したっていう線を自分で持ち上げちゃった。
     「それなら……。」
    律子はちらりと隣を見て。
    いつの間にか冬馬の視線が上がっていた。目に光もある。少しだけど。
     「なら、スペースを作る方向で行くわね。」
    私はまたパンパンと手を叩く。入り口の扉が動いた。
    ……フルーツケーキの件どうしようかしら?
    ……今後バカと鉢合わせした時に伊織の存在がバレる可能性が高いし
    初日の報酬がわりに伊織に持たせたで行くのが一番問題無さそうかしら。
    ……よし、それで行きましょう。