• 第一次偶像戦争 【349】 [水瀬伊織]

    2018-10-16 21:12

    開く扉。進む冬馬。
    しっかりとエスコートも出来ないのと怒ってやりたかったけど、とりあえず保留。
    もう戦いは始まってる。常にトリガーに指をかけておかないと。
    私も扉をくぐり、城の中に入る。
    白。
    暖色の光の中、淡く、浮かぶような白。
    外から見た律子の城は、曇った水晶の様な白い素材で作られている様に見えた。
    どうやらあれはタイルの様に表面に貼り付けているだけでは無いらしい。
    柱も含め、建物全てがまるで霜が降りた様な白さで構成されており
    そこかしこに備え付けられた明かりが
    建材の中を通り抜け、壁や柱自体がぼうっと光っている様だった。
    見上げると上は十メートルを優に超す吹き抜けになっており
    天井部分はドームを描き、そこから吊された大きなシャンデリアが爛々と灯っていた。
    律子の魔力が流れているから光による観測データじゃ確定は出来ないけれども
    建材は変色させたクリスタルかしら。
    また凄いもの使ったわね。建物全体が電池みたいなものじゃない。
    律子がこの地を掘削した痕跡は見つかってないから、全部自分で生成したのかしら?
    観測したログを見る限り、先に冬馬の浮遊城が完成しているし
    土地にゆっくりと自分の魔力を流しつつ、適合させていったみたいね。
    土地のマナも建材に流さないといけないし、そこから浸食される可能性を考えたら
    そこまで有用とは思えないけど、暇だったのかしら?
    ……今の私みたいに中に入り込んできたマヌケを捕らえるための罠って線も……。
    ……時間差で自分自身にかかったエンチャントに
    【Disenchant】を発動できる様にはしてる。面倒なのは【Abeyance】系のスペルね。
    とっさの【Blossoming Defense】じゃ押し潰されるかもしれない。
    逆に、一瞬でも耐えられたのなら外に……
    ……それも甘いわね。
    なら逆に【黒】の精神攻撃系スペルを利用して
    こちらから浸食してしまう方がいいかもしれないわ。
    各種【Mox】は身につけているから、体に魔法陣を刻み込んでおけば
    私の魔力は【緑】の状態でも【黒】系のスペルを発動できる。
    軽いスペルしか無理だけど、牽制ぐらいにはなる筈。
    外からでも分かる動きがあれば、ミヤコとゲンブが加勢してくれる。
    逃げるのは癪だけど、そういう選択を選ばないといけない時はある。
    必要の無いリスクを犯してやって来て、最後は逃げるってマヌケこの上無いけれども
    直に会って確かめないといけない事なんだから、仕方ないわよね。
     「ようこそお越し下さいました。
      主人がお待ちです。どうぞこちらへ。」
    いつもよりキッチリとしたメイドの服に身を包んだサキが城に入った私を出迎える。
     「ありがとう。
      あと、先に伝えておくと、今から24分以内に私が帰るか
      外に出られないと、この城含め一帯更地になるから覚悟しておいて。」
     「かしこまりました。
      主人へは私から伝えた方がよろしいでしょうか?」
    返事が軽い。まるで好みの飲み物を伝えたぐらいの重さね。
    ……流石にこれぐらいじゃ脅しにならないか。
    目の前にミサイル以上の脅威が居るから、そもそも脅しになってないわね。
     「律子には自分で言うわ。だからさっさと案内しなさい。」
     「それでは。」
    軽く頭を下げたサキが、金で細工がされた黒と赤の絨毯の上を歩き出す。
    その後をついてく私と、半歩ほど斜め後ろをついてくる気配。
     「アンタもついてくるの?」
     「当然だろ。」
     「迎撃にでも行けば?
      ミサイル撃たれる前に先に潰すっていう手もあるでしょ。」
    その時はゲンブに連絡が行くし、すぐさま地上からの攻撃が入る。
     「律子さんがそう言うのならな。」
    また律子?
     「アンタもしかして、この星に来てからそればっかりなんじゃない?」
     「そうある事を俺が望んでるからな。」
    律子律子律子律子。
     「バッカじゃないの?
      アンタまさか自分が律子の隣に立ててるとか思ってない?」
    自分の考えも無い奴を律子が好きなる訳ないでしょ。
     「俺が隣に立つ事で、この戦争に勝てるならそうしてる。
      さっきから更地にするだの言ってるが、お前こそ考え違いしてないか?」
    考え違い……。何と何を……。
    …………
    自分の中でふつふつと怒りが湧いてくるのが分かる。
    それに連動し、思わず表情を形成する部分が働いて眉間に皺を作ってしまいそうになる。
    ……腹立つ。本当に腹が立つ。
    あーっもう!なんで私が冬馬なんかにそんな事言われないといけないのよ!
    律子律子律子律子な癖に!
    言葉にすると自分でも負けを認めてしまいそうで
    私は怒りを堪え、黙ってサキの後についていった。
    冬馬もそれ以上は何も無く。黙々と私の後ろをついてくる。
    乳白色の壁に取り付けられたマホガニーの様な色味の大きな扉を
    いくつか過ぎた所で、不意にサキが立ち止まる。
     「こちらです。少々お待ちを。」
    扉の材質はさっきまで見たものと一緒。でも中央部の細工が少し違っていた。
    コンコンとノックの音が廊下に響く。
     「伊織様をお連れしました。」
    扉の向こうに向けて。
     「どうぞ。」
    声。律子の。
    また口元が動く。必要が無い筈の呼吸をしてしまう。
    でも、それをやったお陰で落ち着けた。
    サキの手がドアノブにかかる。
    さぁ、来てやったわよ。久しぶりの再開を喜びなさい。律子。

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  • 第一次偶像戦争 【348】 [水瀬伊織]

    2018-10-14 21:21

    知っていたけど、本当に氷原の上にポツンと城だけあるのね。
    冬馬の浮遊城は城を囲う庭園とかかなり凝ってるから
    城以外何も無いのは少し寂しく感じるわね。
    壊されるかもしれないし、どうせ三ヶ月って事で飾るのは最低限にしたのかしら?
    ……律子はそれでいいとして、冬馬は性格を考えると
    主人の趣味というより眷属側の何やかんやが反映されてるのかもしれないわね。
    サキ辺りは庭園や花壇好きそうだけど……。
    ……まぁ、周囲の景観を考えると調和は難しいか。
    浮遊城はあれで一つの世界だから、違和感無く出来たのかもしれないわね。
    ゆっくりと高度を下げていた戦艦の動きに変化が生まれる。
    サスペンションが潰れ、体が慣性で上下する。
    心地いいとも不快とも言えない、強いて言えば面白い感触は数秒もなく
    私を乗せた戦艦は完全に着氷する。
    ……いよいよね。
    呼吸は必要無いのに、深呼吸でもするように緩く口を開いて閉じる。
    戦闘に……なるでしょうね。その時はこの子には自爆して貰いましょうか。
    【色】は……単純に耐えるだけなら【青】
    【緑】の【Fog】系で誤魔化しながら外へ出るって手もあるけど
    ここは律子の領土だし誤魔化しきる事は難しいわね。
    ……ただ、打ち消し合いになった場合、冬馬の存在が面倒になる。
    そこら辺に強い【緑】はアリといえばアリ。
    躱しつつ、外へ出てしまえばこちらのもの。
    部屋の中だと冬馬のスピードも生かしにくいでしょうし……。
    律子、冬馬の側に立って考えると、やりにくいのは【緑】かしら。
    ……よし。基本は【緑】で後は律子の顔を見て考えましょ。
     「おい!どうした!?何か問題でも発生したか!?」
    外にいる冬馬の声が艦内に響く。
     「女の子は出かけるのに時間がかかるの。
      アンタそんな事も分かんないわけ?」
     「女の子が夜中に戦艦に乗って突撃してくる訳ないだろ!」
     「私は出来るから。他が出来ようが出来まいが関係無いわ。
      私は出来るの。それ以上いる?」
    冬馬はふてくされた様な顔をして、律子の城の方へ飛んで行った。
    その姿をカメラで追いつつ、私は体の可動部と魔力の流れを確認する。
    ……麗華にも負けたのに、律子と冬馬に勝てる?
    ……逃げればいいのは分かってる。
    外に出てしまえば、数秒でビームが降り注ぎ
    1分以内にここはミサイルで地形ごと全てが変わる。
    ……そういう選択を律子は取らないと思う……けれど……。
     「ゲンブ。ミヤコ。
      ……最悪の時は分かってるわよね。」
     「……わかってます。報復行動をしつつ、麗華さんに私達全ての権利を移譲ですね。」
    返事をしてくれたのはミヤコだけ。
     「ゲンブは?」
     「……委細承知。」
    命令の確認も出来なくなってるなんて、アンタホント人に近づいたわね。
     「大丈夫よ。何とかなるわ。
      ……いえ、何とかしてみせるね。」
    どんな時でも勝たないといけない。たとえ私の戦い方が出来ない時でも。
    それを忘れていない。
    ……なら、前に出ないと。
    律子がやってるのに、私が逃げるわけにはいかない。
    今一度、無い筈の呼吸を整え、私は艦橋から出る。
    開くタラップ一歩一歩確かめるように降り、私は氷の大地に足をつける。
    外は一面の氷に、輝く星とオーロラの世界だった。
    この星のオーロラも悪くは無いわね。あとはワインかウィスキーでもあれば……。
     「こっちだ!」
    気分良く空を見上げていた私に投げかけられる、何の配慮も思慮も無い声。
    ホント雰囲気ぶち壊しだわ。というか、律子相手には絶対そんな声出さないわよね。
    前々から思ってたけど冬馬はなんか私をナメてる所がある気がする。
    もう一度シメといた方がいいかしら?前みたいに私の名前の書き取りする?
     「分かってるわよ!」
    氷の大地から足が離れる。ドレスだから氷の上は歩きにくい。
    流石にドレスにスパイク付きの靴は無いし。
    そのままゆっくりと律子の城の前まで行くと
    まだ光る翼を展開させている冬馬が立っていた。
     「アンタまだそれ出してるの?交通整理は必要無いわよ。」
     「うるせぇ!分かりやすい様にしてやったのに!」
     「はいはい。それじゃあ案内しなさいよ。」
    私の言葉にぶつくさ文句でも言うかと思ったら
    冬馬は背中の翼を仕舞い、呼吸を表情を整えて律子の城の扉の前に立った。
     「お連れしました。」
    何よその態度の違い。大体、気を使う相手が違くない?
    ていうか、まだ城に入ってもないんだし、アンタ部屋の前でも同じ台詞言う気?
     「アンタ分かっててやってる?」
    この意味分かる?ていうか、通じる?アンタに。
     「お前に向けてならわざとに決まってんだろ。
      夕食も終わってこれから寝るって時に訪ねて来やがって。
      それもこんな日に……。」
    ……気に食わない。
    律子がいつもと違うのも、冬馬がらしくないのも。
     「セックスのお邪魔しちゃったかしら?」
    相手が誰とは言わない。
     「んな訳ねーだろ!」
    冬馬は顔を赤くしながら大声で否定してきて。
    そうよ。そっちがいつものアンタでしょ。
     「どうぞ。」
    扉の向こう。サキの声。
    ゆっくりと城の扉が開く。
    ……もう引き返せないわね。

  • 第一次偶像戦争 【347】 [秋月律子]

    2018-10-12 22:44

    夜を焼く光。突然の来訪者。
    緊張と危機感。
    ……あぁ、戦争やってる。私達殺し合いしてる。
    今日出来た事を今一度確かめてから横になるつもりだったけど
    まだ私の一日は終わらないみたい。
    ……いや、終わらないどころか、この来訪者は……。
    体が震える。血が疼く。
    昨日と今日で、私の中の何が変わったんだろう。
    変わっていないとすれば、何が表に出てきたんだろう。
    確かなのは、違う事。まだ戻っていない事。戻るかどうか分からない事。
    戻りたいかどうかすらも分からない事。
    強い光から、輝く翼が分離する。
     『連れてきました。』
    背中に輝く翼を生やした冬馬が隣に来て。
     『ありがとう冬馬。
      ……とは言っても、特に何かをする訳じゃ無いんだけど。』
    迫ってくる光の塊。
    改めて感じる魔力。
     『……戦える?』
    まぁ、戦うのは私だけど。
     『……出来ます。』
    腹括った?
    ……いや、ここまではいつも行けるのよね。問題はここから先。
     『分かった。それじゃあ先に行っておくわ。
      誘導お願いね。』
     『分かりました。
      すぐに合流できると思います。』
    冬馬と別れ、焼けそうな光から逃げるように私は下へと降りる。
    薄く照らされる氷原と、そこに浮かぶ私の城。
    これが無くなるのは少し困る。
    ……いや、本当はもっと困る。
    今後も戦い続ける、戦い続けたいのであれば、今この場所を失うのは厳しい。
    ……でも、相手が伊織なら……。
    ……そう、相手が伊織ならお釣りが来る。
    というか、今この場所を失うのが厳しいという理由の半分以上は伊織の存在。
    別に自分の領土内じゃないと魔力が回復しない訳じゃ無い。
    小鳥さんと北斗だって、領土を失っても平気で生きてる。
    ただ、領土が無いと常にこの星を監視してる伊織が本格的に動き始めた場合
    休まるタイミングが無くなる可能性が高いというだけ。
    私は練習がしたいから定期的に派手に動くし、伊織から隠れ続けられるとは思えない。
    強くなりたいのであれば、この場所を失う事は避けたい。
    今でも先は不透明なのに、更に安定を欠く様な自体には陥りたくない。
    ……というのは今の話。あくまで、これから長くて一ヶ月ぐらいの間だけなのよね。
    どうせそれから先は、私の領土があろうと無かろうと伊織は本格的に動き始めるし
    私は私で全員に順番にガチの喧嘩を売る事になるから
    そこに伊織が介入してこないとは限らない。というか、してくる。間違いなく。
    そうなった時、戦闘中や戦闘後の私にミサイルやビームのの雨を降らせ
    隠れる場所を潰し、休む暇を与えない様な戦い方をしてくる事は十分に考えられる。
    どちらかというと……迷う必要すら無いわね。圧倒的に後者の方が問題。
    全体的に様子見になっちゃってるのが良くないわね。
    もっと状況が動いてくれれば、伊織の拠点とかどんどん潰してくれれば……。
    ……皆考えては居るけれども、自分以外がやればと思ってるか。
    変にヘイトを取っちゃうと伊織が誰かと組んでた場合面倒だし。
    そして、そうやって膠着に持っていって、一番有利に事を進めてるのも伊織。
    伊織は常に情報を得て、更にどんどん物量を増やせるんだから
    私達とは別の戦いを常にしている様なもの。
    ……舞さんがもっと動いていてくれればとも思い。
    舞さんが動いてしまうのであれば私も下手なリスクは取れないから動けないなとも思う。
    まぁ、あの人の事だから明日にでも動き出す可能性はあるんだけど。
    今の私なら……舞さんと戦った場合、楽しめるとは思うけど、勝てないでしょうね。
    それじゃ意味は無い。
    今のこの狂ってる状態も、舞さんに勝つ為。
    手段と目的をはき違えてはいけない。
    じゃあ、ここで伊織を潰すと、今後の安定は取れる?
    ……伊織が麗華と組んでいた場合、麗華との練習が破談になる可能性は高いけど
    麗華がダメならまた別の所へ遠征すればいいから、代用は利く。
    ただ伊織が居なくなると全体にかかっている外圧が無くなるから、全員暴れ出すわよね。
    喧嘩をふっかけた後のリスクが、かなり減るんですもの。
    ……そっちはそっちで戦闘が増える事になるし、私としては問題無いか。
    ……やっぱり、ここで潰しておいた方がいいわね。
    よし。そっちの方向で動きましょう。
    伊織も警戒してるでしょうし、上手く行くかは分からないけれど……。
    夜に薄く浮かぶ、私の城。中に入ると、心配そうなサキ達が私を出迎えてくれた。
    …………
    ……そうだ。そうだった……。
     「りっちゃん……何か問題あった?」
    私の表情を見たせいか、サキの表情に心配だけじゃなく怪訝と不安が入り込んでる。
     「問題は無いわ。ただ、考え違いをしていただけ。」
    伊織を倒せばミサイルの雨は止まる?
    ……止まる訳無いじゃない。
    ゲンブとミヤコの二人が居るんだし、伊織が居なくても物量や基地の増設は可能。
    下手をすれば、眷属の二人すら必要無いぐらいに自動化されてるかもしれない。
    ……じゃあ、ここで帰すの?
    ……それも勿体ない……出来れば、本当に出来れば倒しておきたい。
    一番は伊織が最後まで様子見を貫いてくれる事だけど、それは……無いわよね。
    私に出来ること。
    ……記憶を偽る?あるいは精神に干渉して……。
    ……【青】だけじゃ精々記憶の改竄ぐらいしか出来ないわね。
    意思の操作は主に【黒】の領域。
    【青】は意思を読み取る以上は、本当に壊す事ぐらいしか……。
    それに【青】の記憶改変も脳に直接干渉してる訳じゃ無い。
    思い出そうとした時に、別のイメージに誘導するだけ。
    伊織は意思とは別に映像を記録しているでしょうし
    リアルタイムで外部にも送っているかもしれない。
    ……後者は何とかなる。ここは私の城で、領土だから。魔力でも電波でも。
    でも前者は……物理的な映像データは取り繕うことが出来ない。
    絶対に何かやったという証拠が残る。
    ……どうする?もう時間は無いわよ。