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田中良紹:安倍政権打倒に賭けた小池百合子の勝負手
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田中良紹:安倍政権打倒に賭けた小池百合子の勝負手

2017-09-28 09:26
    安倍総理が臨時国会での冒頭解散を宣言した25日、ニュースの主役は安倍総理ではなく小池百合子東京都知事だった。

    安倍総理が消費税の使途と北朝鮮危機をこじつけて「国難突破」と銘打つ解散宣言を行ったのに対し、小池氏は「消費増税凍結」と「原発ゼロ」を掲げ、次の選挙を「政権選択選挙」と宣言した。

    「政権選択選挙」とは安倍政権を打倒する意味である。そのため安倍総理が消費増税を前提に教育費無償化を打ち出したのに対抗して消費増税凍結を打ち上げた。国民が安倍総理の公約を支持すれば国民は増税を認めたことになる。政府は大手を振って増税を行うことが出来る。小池氏はそれをさせないと公約したのである。

    次に安倍政権を支えるキーマン今井尚哉総理秘書官は原発再稼働推進の中心人物だから安倍政権が続く限り原発再稼働は止まらない。これに対して小池氏は原発ゼロを公約に掲げた。消費増税凍結と言い原発ゼロと言い、これほど明確な安倍政権との対立軸はない。

    さらに安倍総理を総理の座に押し上げた第一の理由である拉致問題で安倍総理と盟友関係の「日本のこころ」代表中山恭子氏を小池陣営に引き入れた。拉致被害者の家族会には安倍総理に対する不満がくすぶる。拉致問題で国民の人気を得ながら問題を解決できないからだ。中山氏を安倍総理から引きはがしたことは国民が考える以上に安倍総理を痛撃する。

    そしてこの日、小池氏は小泉純一郎元総理と面会する予定を入れ、それを堂々とではなくさりげなく取材させて小泉氏から選挙で応援を受ける可能性を匂わせた。小池氏の後ろには細川護熙元総理がいる。細川氏は小泉氏の支援を受け3年前に反原発の立場で都知事選を戦った。自民党の舛添要一氏に敗れはしたが、細川氏には小泉氏だけでなく小沢一郎氏の支援もあった。

    まだ裏舞台は審らかでないが、小池氏はおそらく都議選で圧勝し、安倍総理の支持率が急落した7月から安倍政権打倒のチャンス到来と見て準備を進め、細川氏や小泉氏、それに小沢氏などと連携して構想を練ってきたような気がする。

    詳細は言えないが中山恭子氏の引きはがしには小沢氏が関与したと思える節があり、また小池氏は安倍総理が臨時国会の冒頭で解散すると狙いを定めその時期を9月下旬と見て準備していた可能性がある。

    私は自分が主宰する政治塾で7月25日に安倍総理が早期解散に踏み切る可能性に言及した。その当時は内閣支持率が30%を割り込み、選挙をやれば不利だと思われたが、退陣するしかない状況に追い込まれれば権力者は乾坤一擲の勝負に出るものだ。

    7月の24日と25日に開かれた閉会中審査で安倍総理は「加計学園が今治市に獣医学部を作ることを今年の1月20日に初めて知った」と驚くべき発言を行った。2年前の4月に今治市の職員が総理官邸に呼ばれ、総理秘書官から加計学園の獣医学部を今治市に新設するよう要求されていたにもかかわらずである。

    総理の「嘘」は臨時国会最大の追及材料となる。「1月20日」をどう言い逃れるかで苦しい国会になるはずだった。しかも自民党議員3人の死亡によるトリプル補選が10月22日に行われ、一つでも取りこぼせば政治責任を問われる情勢だった。

    ところが麻生副総理の推す愛媛3区の候補者の苦戦が伝えられ、安倍総理と共に麻生副総理もまた政治的に追い込まれていた。そのため臨時国会冒頭解散はありうる選択肢だった。7月末に解散の可能性を念頭に置いてみていると、8月9日夜に麻生副総理が安倍総理の私邸を訪れ会談した。解散を巡る相談に違いなかった。

    8月23日には二階、井上両幹事長が会談し9月25日の週に臨時国会召集を決めると、翌24日に安倍総理は今井秘書官に臨時国会冒頭解散を準備するよう指示する。すると8月30日に日本記者クラブで記者会見を予定していた小池百合子氏が急きょ日程を9月28日に繰り下げたのである。そのあたりが解散時期と踏んだのだろう。奇しくもその通りになった。

    9月1日には民進党代表選挙があり前原誠司氏が代表に就任する。そして山尾志桜里氏を幹事長に内定すると「週刊文春」が不倫疑惑を報じ、山尾氏は離党を余儀なくされた。内定段階で報じられたことは民進党に対するダメージが少ない。

    前川喜平前文科次官と同様に官邸のゲッベルスと言われる官房副長官のリークなら幹事長に決まってからの方が打撃が大きく効果的だと思い、私は民進党内部からのリークを疑った。しかしその後「週刊文春」は前原代表と野田聖子総務大臣のスキャンダルを続けて報じたから、安倍総理のライバルを狙い撃ちする官邸のリークの可能性もあると考えを改めた。

    山尾スキャンダルとそれに続く民進党からの離党者続出が冒頭解散を決定的にする。9月10日の安倍総理と麻生副総理の会談で最後の詰めが行われ、翌日に安倍総理は二階幹事長と公明党の山口代表に冒頭解散の意向を伝えた。

    解散とは総理が衆議院議員全員をクビにすることである。それ相応の理由がなければクビになる方は納得できない。通常は政府の考えと国会の考えとが食い違い、対立が収まらないので国民に聞いてみようということになるが、今回は消費増税の使い道と北朝鮮危機が理由とされた。

    しかし消費増税の使い道には与党の中に総理と異なる考えを持つ議員もおり、その人たちはクビになることに納得できない。また北朝鮮危機になるとなおさらクビになる理由が分からない。

    そして本当の理由が安倍総理夫人が関与した森友学園問題と、安倍総理のお友達に関わる加計問題からの追及逃れだと考えればクビにした権力者への反感が生まれる。選挙が終わるまで恨みつらみは言えないが、選挙が終われば不満が噴き出す可能性はある。

    小池氏は「改革保守」として「しがらみ政治からの脱却」を主張する。この「しがらみ」は森友学園や加計学園と安倍夫妻の癒着を指すようだ。「経済特区」を「改革」のためと言いながら内実はしがらみと癒着に過ぎない。その主張が選挙で国民に浸透すれば選挙で過半数を制したとしても安倍政権には逆風が吹く。

    しかし小池氏にも弱みがある。国政と都政の「二足の草鞋」を履き続けられるのかという疑問と批判である。それをどうかわすのか、かわせるのかが小池氏にとって最大の勝負手になる。おそらく選挙が公示されるまでにその一手は見えてくる。

    第一次安倍政権を終わらせたのは当時国対委員長だった二階俊博氏と防衛大臣だった小池百合子氏だというのが年来の私の主張である。海上自衛隊のインド洋での給油活動ができなくなることが分かり安倍総理は政権を投げ出したが、その背景には参院選に惨敗したのに居座ろうとした安倍総理を辞めさせる自民党内の政治力学があり、その渦中に二階、小池の二人がいた。

    今回はその二人が敵味方となって雌雄を決する。私にとって久々の大政局が幕を開けた。それが消費税と原発を巡って戦われるところに日本の岐路を感じさせる。


    ■《丁酉田中塾》のお知らせ(10月31日 19時〜)

    田中良紹塾長が主宰する《丁酉田中塾》が10月31日(火)に開催されることになりました。詳細は下記の通りとなりますので、ぜひご参加下さい!

    【日時】
    2017年10月31日(火) 19時〜 (開場18時30分)

    【会場】
    第1部:スター貸会議室 四谷第1(19時〜21時)
    東京都新宿区四谷1-8-6 ホリナカビル 302号室
    http://www.kaigishitsu.jp/room_yotsuya.shtml
    ※第1部終了後、田中良紹塾長も交えて近隣の居酒屋で懇親会を行います。

    【参加費】
    第1部:1500円
    ※セミナー形式。19時〜21時まで。

    懇親会:4000円程度
    ※近隣の居酒屋で田中塾長を交えて行います。

    【アクセス】
    JR中央線・総武線「四谷駅」四谷口 徒歩1分
    東京メトロ「四ツ谷駅」徒歩1分

    【申し込み方法】
    下記URLから必要事項にご記入の上、お申し込み下さい。
    http://bit.ly/129Kwbp
    (記入に不足がある場合、正しく受け付けることができない場合がありますので、ご注意下さい)


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    ■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
    http://ch.nicovideo.jp/search/国会探検?type=article

    <田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
     1945 年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。

     TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。

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