• 異世界転生禁止法案が可決されました。5

    2017-06-24 03:193時間前

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    ――――

     大川は調理法をスマートフォンで検索し、マンゴーを手に取ると、種を切らないように丁寧に包丁を入れ、三枚におろした。

     そして、賽の目上に包丁を入れ、皮の部分を裏から押すように反り返らせた。

     すると、テレビでよくみるようなマンゴーの姿が現れる。
    ほほう、と感心しつつも、その内の1つを涎を垂らしながらこちらを見ていた獣人の女性に差し出す。

    ――――

     アデルは驚いていた。
    この世界の人間が、細長い白い物体に手を入れたかと思えば、そこから取り出したのは、自分の世界でも食べていた太陽の実であることを。

     なぜこんなところに太陽の実があるのかと思っている中、この世界の人間は、鋭い銀色の爪のついた棒を使って太陽の実を3つに裂き、その内のひとつをアデルに差し出してきた。

     思わずかぶりつくアデル、ああ、なんて美味しくて、心を穏やかにさせる味なのだろうか、と彼女は思う。
    太陽の実を味わっている途中、頭に何かを被せられる彼女だが、特に気にはしない。
     それにしても、ああ、美味しいなぁ……。

     1つを食べ終えた頃、人間が太陽の実の一部をまたもう1つ差し出してくる。
    再びかぶりつくが、食べることは叶わなかった。
     人間は、薄くなった太陽の実を目の前でひらひらさせている。

     なんだか、無性に腹が立っていくのを、アデルは感じていた。

    ――――

     3等分したマンゴーの1つを食べさせ、咀嚼している間に帽子をかぶせた。
    そして、2つ目を食べさせると見せかけて、食べさせず。相手を煽る。
    相手は予想通り、わなわなと震えている。

     大川はマンゴーと車の鍵を手に、外へと繋がる扉を開き、外に出る。

     目論見通りに獣人の女性がついてきた。
    あとはこのまま自分の車まで誘導するだけだ……。

    ――数分後

    「苦しい……戦いだった」

     大川ほしのぶは肩で息をしながらシートベルトを装着する。
    獣人の女性は大川の持っていたマンゴーを全て食べて満足したのか、後部座席で丸くなっている。

     車のエンジンを入れる。あとは出発するだけだ。

    ――――

     勝利の悦に浸っていると、急に自分のいるところが振動し始めた。
    なんだこれは、そういえば、いつのまにか先ほどの部屋よりも狭い部屋にたどり着いている。
     あと、この世界には空気の毒性が比較的高いのだが、振動を開始してから毒性をさらに感じるようになった。

     振動と毒性のある空気の匂い……なんだか気持ちわるい……。

    「オエ……」

    軽く嗚咽すると、人間が、振り返ってこちらを見た。

    「大丈夫かい? 今、窓を開けるよ」

     人間が何かを言うと、透明な薄い壁が動いて少しだけマシな空気が流れ込んでくる。
    この揺れる感じと悪い空気はいつまで続くのだろうか……。

    ――――

     家から40分ほど車を走らせて、目的地のある山までやってきた。
    あとは山奥まで車で登るだけだが……異世界人の女性は大丈夫だろうか……。

    ――――

     これは大丈夫じゃない……。死ぬ……これ死ぬ。
    父上母上……先立つ不幸をお許し下さい……。
    ああ、なんだか、故郷の森の木々の匂いがしてきた……。

    ――――

     どこだかわからない遠くを見つめている……少しの間そっとしておこう……。

    そっとしておく間に、今回、異世界言語翻訳機を譲ってくれるという『マーノさん』に山まで来たことを連絡する。

    暫くSNSの書き込みを眺めたりしている内に、異世界人の女性の体調も良くなってきたようなので、再び山奥に向けて出発することにする。

    ――――

     ようやく現世に帰って来れたと思ったら、そこは、地獄だった。

    再び、揺れる感覚と悪い空気を感じる。
    しかし、森の中にいるのか、先ほどよりは多少はマシになった。

    ――――

     さらに10分ほど山道を車で進んでいくと、やがてひとつのログハウスが見えてきた。
    山野山荘。どうやら、あそこが目的地のようだ。

     しかしこのログハウス、結構な数の人間が泊まれそうなほどには大きい。
    この民宿の評判を今まで聞くことはなかったが、どのように生計を立てているのだろうか。

     人里離れた山奥とはいえ、目を離すわけにはいかないので異世界人の女性には申し訳ないが、手を引いてついて来てもらう。

     彼女も、一人になるわけにはいかないことを理解しているのか、素直について来た。

     そして、玄関前でひと呼吸置くと、インターホンに手を伸ばした。

    ――続く


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  • 異世界転生禁止法案が可決されました。4

    2017-06-23 03:22
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    ――――

     アデル・レオーニは元いた世界に於いて、一般の人間ではなかった。
    自らの身に降りかかる危険も少なくはない。
    悲劇というものは望む、望まないに関わらず、突如としてやってくる。

     ある日のこと、アデルは自分たちの住む土地の近辺の森に起きた異変の調査に訪れていた。
    その森に行った村人の何人かが帰ってこなかったという。
    アデルと護衛二人での調査である。

     空気の匂いがいつもと違うと、三人は感じていた。
    その匂いはうっすらと毒性があるが体への変調をきたすにはかなりの時間を要するものだ。
    しかし、それには怯まず細心の注意を払いながら森の奥地へと進んでいく。

     すると、開けた場所に、まるで大きな穴のように地面に空間の綻びがあった。
    少し毒性のある空気はそこから流れ込んできているようである。

     この世界において、空間の綻びが生じることはそう珍しいことではない。
    綻びから新たな食物の種などの恵みがもたらされる一方で、おかしな物質が漂着することもあり、空間の綻びはよくも悪くも変化をもたらすものとされている。

     なにが起こるかわからない為、綻びに触れようとする人間はあまりいない。いても科学者など、自分の好奇心を抑えられなかったものくらいだ。
    過去に空間の綻びに触れた人間は皆、消えたらしい。
     おそらく、村人が消えた原因はこの魔法陣なのだろう。

     村人たちが消えた原因がわかった為、あとは森への入口を封鎖し、一度国に戻って王にそれを報告するだけなのだが、アデルはそうはしなかった。

    ――いや、それを出来なかった。

     突如として空間の綻びは急激な速度で拡張をしたのである。
    空間の綻びのすぐ近くまで来ていたアデルは、それに吸い込まれるようにして落ちていく。

     そこでアデルは気づく。
    森の中でなぜあの空間だけ開けていたのかを。
    森の木々もこの空間の綻びに飲まれ、消えてしまっていたのだ。
    自分の迂闊さを呪う。
    後ろにいた二人の護衛は自分が先に綻びに飲まれたことでなんとか反応できたようだ。


    どうか、生きてこのことを伝えてくれ、と思ったところでアデルの意識は遠くなっていった。


    ――――

     そして、気づけばこの世界に転移していたアデルは転移先の世界の住人の部屋で物思いに耽るのであった。

     空間の綻びはあれからどうなっただろうか。“父上”はちゃんと対処してくれたのだろうか。
    今自分を探してくれていると嬉しいが、空間の綻びに消えた人々で見つかった人間の前例はまだ、無い。

     しかし……空間の綻びの向こうが異世界であるとは噂で言われていたが、本当にそうであるとは……。

    「おっ」

    この世界の住人が声を上げる。何かあったのだろうか。

    ――――

     大川ほしのぶは、書き込んだとはいえSNSにそこまで期待していなかった。
    しかし、思った以上の収穫があった。
    大川は居住区を細かくは記載していないのだが、特定されないだろうと県だけプロフィールに設定していた。
     ちなみに、彼のSNSでの名前はスターノッブだ。下手したら特定されかねないということに彼はまだ気づいていない。

     それはともかくとして。
    自分の住む県内の知り合いが有料ではあるが、ほぼ新品の異世界言語翻訳機を譲ってくれるとメッセージを送ってくれた。

     その相手は、県内の山奥で民宿を経営しているらしく、空けるわけにもいかないので直接受け取りに来て欲しいとのことだった。

     大川は、冷蔵庫から先ほど購入した果物たちを取り出し、出かける準備を始めた。

    ――続く

    5→ar1287716


  • 異世界転生禁止法案が可決されました。3

    2017-06-21 23:39
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    「ただいま」
     大川が帰ってくると、女性は出かける前とは違う体勢で眠っていた。
    近くにはおにぎりの残骸が中途半端に残っており、具材である梅干しの一部分しか食べられていなかったのを見ると、どうやら口に合わなかったらしい。

     あー、梅干しはだめなのかと思いつつ、これの処理はどうしようかと大川は思った。
    自分が残りを食べるとこの女性に対して失礼な気がするし、食べ物を粗末にするのもよくない。
    彼女が食べてくれれば良いのだが……。と思ったところで大川はいいことを思いつき、それを実施することにした。

    ――――

     何かが焼ける匂いでアデルは覚醒をしていく……焼ける匂い?
    「フナッ!?」
    アデルは布団から飛び上がると、周囲を確認した。
    すると、さきほどの人間が同じ部屋の中におり、その向こう側から何かが焼ける音と煙を確認した。

    「ああ、目が覚めたかい?」

     さきほどと同じような言葉を発する人間。煙が出ているというのに、なぜそんな平気そうな顔をするのかアデルにはわからなかった。

     ジッとこの世界の人間を見つめていると、焼ける音が段々小さくなっていく。
    人間は、食器を取り出すと、茶色くなった先ほどの木の実の中身を棒のついた黒い器から移し替え、台の上にそれを置くと座り込んで食べ始めた。
    その手には輝く灰色の物体を持ち、それで掬って茶色くなった木の実を食べている。
     自分のいた世界では見たことのない奇妙な光景だが、しかし……なんだか美味そうな香りだ……。

    ――――

     大川が梅風味のチャーハンを食べていると、獣人の女性がジッと見つめながらよだれを垂らしていた。

    「食べる?」

     スプーンでチャーハンを掬って相手に差し出してみる。
    今回は意味合いが通じたのか、スプーンにかぶりついた。

    「ンンーー!!」

     頬を押さえて咀嚼している。美味しいと思ってくれたのだろうか、それとも熱いからなのか。
    彼女は再びこちらに向くと、瞬きを何回もしながらチャーハンを見つめてる。
     彼女に尻尾は見えないが、なんだか尻尾を振っているような気がする……。大分お気に召したみたいだ。

     今度は「あーん」と言いながらチャーハンを乗せたスプーンを差し出してみた。
    ああ、こういうこともやってみたかったんだよなぁと思いながら。できることなら自分もやってもらいたいところだが。
     彼女は再びスプーンにかぶりつき、嬉しそうにしている。なんだか見ているこちらも幸せな気分になってくるというものだ。

     同じことを何度か繰り返しているうちに、チャーハンはなくなってしまった。

    ――――

     ああ、全て食べきってしまった。すまないこの世界の人間……とアデルは心の中で謝った。
    それにしても、この世界の食べ物も中々美味しいものだ。自分の世界に帰ったら食べられなくなるのが少し残念に思う。

    「しかしまあ……これからどうしたものかなぁ……」

     この世界の人間が、何かを呟きながら右手で光る板をいじっている。
    一体何をしているのだろうか。

     覗き込んでみるが、よくわからない。

    ――――

     大川はスマートフォンをいじりながら今画面を覗き込んでいる彼女との会話方法を考えていた。
    異世界言語翻訳サイトは……莫大なデータを全部試した上で、文字が無い世界だったらどうしようか。
    異世界言語翻訳機の生産と販売は既に終了しているし、在庫も各企業が既に処理しているだろう。

     となると、誰かが持っていることを祈るしかないか……。
    誰か譲ってくれないかと、SNSに書き込んで一息つく。

     さて、彼女だが……先ほどのやり取りで、身振り手振りである程度の意思の疎通は図れそうであることはわかった。
    ふと、彼女の方を見ると、彼女は暇そうに欠伸をしていた。
     そういえば、彼女は一体どうしてこの世界に来たんだろうか……。

    ――――

     ああ、暇だ。どうしてこんなことになったのだ、とアデルはこれまでにあったことを思い返す。

    ――続く