• キューピッドとサラダボウル 第1章6節

    2017-10-20 03:43

    ar1351989←previous

     翌日、僕は山口さんマルコさんとビーチに来ていた。

     昼のビーチは燦々と陽光が降り注いでいる。
    しかし、僕の心の中は複雑な感情が渦巻いていた。

     昨日の相談に、僕は協力します、と答えその日は終了した。
    しかし、今にして思えば僕がわざわざ協力する必要はないんじゃないだろうか?
    むしろ、邪魔になったりはしないだろうか。
    などと色々考え込んでしまい、目の前の出来事にあまり集中できない。

    「大丈夫か?」と山口さんが尋ねてくる。
    「大丈夫です」と僕は答え
    「あんまり楽しそうじゃないな! ハハハ!」とマルコさんが言った。

     なんだか申し訳ない気持ちになってくる。目の前の出来事に集中しないとな。
    海岸沿いに歩いていき、カメハメハ大王像や日本とは違った形の交番などを見た。
    そういえば、ここの交番に昔行ったような気もする。

     一通り周り、salad bowl近くのビーチまで戻ってきた。
    日はまだ高く、まだまだ色々と周れそうだ。

    「さて、これからだが」

     山口さんが口火を切る。

    「リックの体調が悪そうだし、今日はもういいんじゃないかぁ?」
    「俺もそう思う」

     時間はまだまだあったが今日は解散ということになった。

    「何か悩みがあったら相談しろよ」

    と山口さんは言い残してどこかへ行った。

    「さて、ブラザー。俺はsalad bowlの屋上に行くよ。大体いつもはそこにいるから何か用があったら来てくれ」

    「もしかして、昨日僕がビーチに行くのを見ていたのも屋上からなんですか?」
    「ああ、そうだよ」

     ようやく合点がいった。たしかに屋上からなら、こちらが気づかず相手はこちらを見ている事もあるだろう。おかげで帰りが深夜にならずに済んだのだが。

    「それじゃ、俺もこれで」
    「ありがとうございました。今日はすみません」
    「いいよいいよ。気にすんな」

     そう言って、マルコさんもsalad bowlに帰っていった。
    僕は、一人になった。さて、どうしようか。フランさんの恋に協力、と言っても何をすればいいのだろうか。
    本人にどう協力すればいいのか聞く為に、部屋の前まで訪れる。

     ノックをすると、中から昨日ダイヤモンドヘッドで会ったディアナさんが出てきた。
    どうやらフランさんと同室らしい。

    「何?」
    「フランさんって今いますか?」
    「ええ、いるけど」
    「呼んでもらってもいいですかね」
    「知ってのとおり、足を痛めているから用件があるなら伝えておくわ」
    「本人とちょっと話す必要がある用件なので……」
    「わかったわ、それじゃあ私は席を外すから終わったらリビングまで呼びに来てくれる?」
    「分かりました」

    「部屋のものには触らないでね」と念を押しながらディアナさんはリビングに向かった。

    「用ってなにかしら?」

     フランさんはベッドに腰掛けていた。挫いた足には包帯が巻かれている。
    すすめられた椅子に腰掛け早速話を切り出す。

    「昨日の話なんですが、僕はどのように協力をすればいいでしょうか?」
    「そうね。それについて話す必要があるわね」
    「よろしくお願いします」
    「私のプランとしては、まず体の相性を調べる為に夜這いというものをしようと思うのだけど」
    「ええっ!?」

     思わず椅子から転げ落ちてしまった。今なんて言った? 聞き間違いではないだろうか。

    「大丈夫?」
    「いたた……大丈夫ですけど、今、なんて言いましたか?」
    「夜這いをしようと思うのだけど」
    「えええ……」

     僕は今、僕史上最大に困惑しているし、今の僕は自身がとても変な顔をしている自覚がある。
    夜這い? 夜這いってあの夜這い? 体の相性を調べるってなんだ? 日堂陸の知らない世界がそこにある?

    「ジャパンでも結構されているって聞いたんだけど、そうでもないの?」

     非常に答えづらい質問をまるで追い打ちかのように、投げかけてくる。
    重い口で僕はこう告げる。

    「その昔あったという話はたまに聞いたりしますが、現代では全く聞きませんね……」
    「そうなの……それじゃあ夜這いによるアプローチはどう思う?」
    「既成事実という言葉が日本にもありまして……」
    「いけるわね!!」

     いや、やめておいたほうが……とは中々言いづらい状況だ。
    うーん、どうしようか。僕はより一層頭を悩ませる事になる。

    「それじゃあこれ」

     フランさんが電話を出してこちらに向けてきた。

    「なんでしょうか」
    「連絡が取れないと不便でしょ、ディアナに毎回席を外してもらうのも申し訳ないし。何より夜這い決行日に“協力”してもらう為に連絡先を教えてくれないかしら」
    「わかりました」

     こうして、フランさんと僕による奇妙な作戦は始まったのだった。


  • 広告
  • キューピッドとサラダボウル 第1章5節

    2017-10-20 01:50

    ar1351973←previous

     波の音にしばらく耳を傾けていると、砂を踏む足の音が混ざってくるようになった。
    その音はだんだんとこちらに近づいてきて音の方向へ振り向くと

    「晩御飯よー」

     そこにはランタンを片手に携えたキャシーの姿があった。

    「どうしてここが?」
    「マルコがビーチに向かっていくのを見たって言ってたから」
    「一体どこから……」
    「さあね、でも実際にリックはビーチにいたから」
    「今度マルコさんに確認してみますかね」
    「分かったら私にも教えてね」

     そして僕とキャシーは他愛ない話をしながらsalad bowlに戻る。

    「待ちくたびれたよ」「遅かったな」「やっと来たのね」

     salad bowlに戻るとマルコさん、山口さん、フランさんが椅子に座って待ってくれていた。
    他の人たちは、ソファーに座ってテレビを見たり、食事を済ませて他のことをしているようだ。

    「すみませんね、待ってくれなくても良かったんですよ」
    「まあ、また後でってさっき言ったしな……」
    「あ……」

     黄昏ていて、すっかり忘れていた。そういえばそんなことも言っていたっけ。

    「申し訳ない……」

    「ところでなんでマルコも待ってるの?」

     僕が謝罪する後ろでキャシーが尋ねる。

    「明日の予定を立てるみたいだからさ、オレも乗っかろうと思って」
    「明日もどこか行くんですか?」
    「何も言ってないんだがな」
    「おいおいおい、冷てぇじゃねーかブラザー」
    「ジョークですよ」
    「明日もどっか行くかぁ」
    「今日はどこに行ったんだい?」
    「ああ、それは――」

     今日の出来事をマルコさんやキャシーに話す。

    「ショッピングモールとダイヤモンドヘッドか」
    「ビーチはみんなで行かなかったの?」
    「ビーチはよく一人で行くので」
    「ビーチに何かあるのかしら?」
    「探し物、ですかね」
    「何か落としたのか?」
    「昔にちょっと」
    「見つかるといいね」
    「はい」

    「それじゃあ明日は探し物を探しやすくなるようにビーチに行こうか」
    「はい、よろしくお願いします」

     その後は談笑を交えながら食事を終えた。

     山からの帰り道では、山口さんがフランさんを担いでいったので、今回は僕がフランさんを部屋まで送り届ける。おんぶではなく、肩を貸すことによって。

    「ねえ」
    「なんですか?」

     リビングから離れ、廊下を歩いている時にフランさんが声をかけてくる。

    「相談があるんだけど」
    「僕でよろしければ」

     出会ったばかりだが、僕に相談する事なんてあるのだろうか、と疑問はあったが信頼されているのだと思い、疑問を飲み込んで応じる。

     廊下で立ち止まり、相談は僕以外には聞こえないほど、小さな声で

    「ヤマグチの事が好きになっちゃったみたいなんだけど、協力してくれない?」

    とてつもない破壊力を誇っていた。

    next→ar1352017


  • キューピッドとサラダボウル 第1章4節

    2017-10-20 00:00

    ar1333589←previous

     景色を見終わり、行きとは違うゆるやかな道で帰っている途中。僕は二人にお礼を言う。

    「ありがとうございました」
    「どうだった?」
    「綺麗だったろう?」
    「はい、また来ようと思います」

     三人で話していると、僕たちの横を銀糸のような髪の女性とすれ違う。

    「あら? ディアナじゃない」
    「フラン? どうしたのその足」

     フランさんが声をかけたその人物は、ロシア出身のディアナさんだった。salad bowlの住人の一人である。
    白い髪という一際目立つ特徴を持っている為、僕が名前を覚えることができた数少ない人物だ。

    「ちょっとくじいちゃってね」
    「大変じゃない」
    「大丈夫よ、ヤマグチがsalad bowlまで送ってくれるから」
    「そう」
    「ええ」

     ディアナさんは僕と山口さんを一瞥すると。

    「フランは任せたわ。それじゃ……」

     僕たちが来た道を歩いていった。

    「冷たいって思った?」
    「いえ……」

     まさしくそう思っていたので、返事が裏返りそうになってしまった。

    「ヤマグチとヒドウだったら大丈夫だと思ったから行ったのよ。そうじゃなかったら彼女が私を運んでいたわ」
    「ディアナは、彼女なりに芯を持って生きているからな。仲良くなればいいやつだって分かるさ」
    「そうなんですね」

     僕はディアナさんが向かった道を振り返る。既に彼女の姿は見えなくなっていた。

    「さーて、それじゃあまた降りていくとするかぁ」
    「そうですね」

     僕たちはダイヤモンドヘッドを降り、再びバス停へと戻ってきた。バスに乗り、フランさんを座席に座らせるまで、山口さんはフランさんを背負ったままだった。

    「ごめんね、あまり案内してあげられなくて」

     salad bowlのフランさんの部屋まで送ると、申し訳なさそうにフランさんが言ってきた。

    「いえいえ、気にしないでください。今日はお二人ともありがとうございました」
    「ああ、またどこか観光とか行く時は言ってくれ。迷ったりしたら大変だからな」
    「分かりました」

    「それじゃあ、また後で」と言って解散した。

     夕食までまだ少し時間がある。僕は、沈みゆく夕陽を見るために、ビーチへと向かう。

     ビーチには、燃えるような太陽と海を見に沢山の人がやってきていた。
    木々、人々が影になり、海は太陽を映しながらも次第に影になっていく。この景色を前に騒ぐ人間はおらず、穏やかな波の音が寄せては引いていく。

     僕はこの景色をかつて一緒に見た人に、再び会えるのだろうか。
    夕陽が沈みきった後も、波の音は穏やかだった。

    next→ar1351989