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  • <菊地成孔の日記 X年X月X日X時記す>

    2024-04-22 10:3012
    220pt

     なんか疲れ日記みたいになっているけれども笑、結局、演奏(DJもあれは演奏行為である。少なくとも僕には)とレコーディングが一番疲れるので、先週まではインパールの死の行軍みたいな感じだったけれども、今週からちょいと凪がくるし、睡眠も少しずつ増えたので、やや体力も戻ってきた。とは言っても、5月の頭からはいよいよぺぺの20周年が本格的に始まるので、体力はつけておかないといけない。

     今、一番楽しいことは、マイメン(谷王)との対談集「楽しい知識(ドミューンやラジオデイズで言ったように、最初は「菊地大谷の雑な教養」という素晴らしいタイトルだったのだが、出版社から却下されたらしく、なんと「楽しい知識」という、さらに素晴らしい物になってしまった笑。老人の特権として書かせて貰うが、世も末だ笑。何せ僕ら2人とも「それで良い笑」と投げてしまっているのだから)」のゲラを読む事である。

     既に膨大なテープ起こしから1ゲラまでマイメンが全部やってくれた。還暦をすぎて(もうそろそろ61だ。すげえ)一番変わったことは、マイメンが僕を老人として、ものすごく労わってくれることで、特に谷王とQNは「世話になってる」ぐらい労わってくれる。

     んで、それを読むわけだが、対談ではあるのだけれども、マイメンの発言と僕の発言の量が、100対1ぐらいになっていて笑、というか、僕はほとんどこの本で相槌しか打っていない笑。

     
  • <2期スパンクハッピー·レトロスペクティヴから最後のお知らせ>

    2024-04-20 10:00

    *菊地にも代役が立ちます&DJタイムをパーティーコンテンツに加えます*
     

    第一回にお越しいただいた皆様。皆様と共に過ごしたあの時間は一生忘れません(岩澤さんも必ずきっと)。

    もうあと一度きりのパーティーで終わってしまう2期スパンクハッピーのレトロスペクティヴですが、内容に変更が生じましたので、ここにご報告させて頂きます。

    それは、

    nd SPANKHAPPY 1night reborn(菊地成孔& X mannequin)

    パフォーマーが(菊地成孔& X mannequin)ではなくなりました。というお知らせです。これが、私からの最後のお知らせとなります。あとは会場にてお待ちするばかりとなりました。

     

    *    *    *    *    *

     

    私は「岩澤さんのマネキン」の公募を取り下げさせて頂いてから、水面下で、たくさんの、才能ある女性(その多くがプロフェッショナルの方です。その中には、誰もが口をあんぐり開いてしまうような方も含まれます)に打診し、お会いさせて頂き、スタジオのミラーの前にマイクスタンドを2本たて、並んで立ちました。

    彼女たちには皆それぞれの、優れた魅力も技術もあり、最初私は、ワクワクすると同時に、過度なまでに真剣になっていきました。

    何せ、「たった1度きりの、1時間に満たないステージのためだけにお相手頂く」わけなので(こういう時世なので、どれほど書いても誤解され、「新パートナーと活動再開」と思っている方がたくさんいることもわかっていましたが、最初から申し上げておりました通り、それは違います)。

    そして、しかし、そうした事を繰り返すうちに、どうしても思い知らされる事がありました。それは、予めわかっていた事で、知りたくないことで、知ったら終わりのことなのですが、耳を閉じても、目を閉じても、それはじわじわと大きくなって、やがて確信に至るしかありませんでした。
     

    「岩澤さんの代役」という方は、やはり。存在しませんでした。
     

    岩澤さんの極端なまでの属性は、4月のパーティーでも申し上げた通りです。急速に現代を席巻し始めている、あらゆるヴォーカル·トラック·テクノロジーの先駆であり(何せ、岩澤さんは人間なのですから)、生涯に僅か27曲、2期スパンクハッピーにだけしか、歌声を残していません。

    それにそもそも、そうした岩澤さんの特殊な属性を埒外に置いたとしても、一度のステージのためにだけパートナーをお願いする、しかも「代役」というのは、よしんばその方がどんなに高いアティテュードを示してくださってたとしても、その方にも、岩澤さんにも非礼である。という思いが、日増しに強くなってきました。

    鏡に映る、パーティー当日に61にならんとする私の見窄らしい老体と「代役」候補の、若き女性たちとのルックは、端的に祖父と孫娘、父と娘の如くであり、必要以上に微笑ましいか、もしくはグロテスクなものでした。

    「グロテスクと倒錯が2期の本懐ではないか」という声なきお声は、勿論、もう私の耳には届いております。

    私は、岩澤さんが引退された後、亡霊に取り憑かれたピグマリオンの如くとなり、上海京劇のオーナーの愛娘であるドミニク·ツァイさんにお会いするために(それはまだ、アイドル業界ですら、アジア圏の国際化が、始まる気配すらない頃でした)、単身、上海まで赴き、今でも「あれ以上の北京ダックは食べたことがない」という水準の、満漢全席のもてなしを受けながら、「娘の日本デビューをしくじったら、お前の芸能人生命を断つからな笑」という御父君からの、半ば暴力的なほどの、中国式激励を受け、乱暴に注がれたボルドーのグランクリュを平伏しながら拝飲するも、結局そのプロジェクトも音源を残さぬまま頓挫してしまいました。

    その後、幾体かのマネキンの方々とステージをこなし、最終的に、京都で野宮真貴さんに一度だけのパートナーを務めて頂くことで(それは、敬愛するスパークス日本公演のフロントアクトで、遥か2007年のことです)、2期の活動を終了した、遠い若き日々の記憶が走馬灯のように巡り出してしまい、頭を抱える程度の煩悶にはまりこんでしまい、結果として、「岩澤さんの代役と共にステージに立つ」ことを、断念するに至りました。


    古(いにしえ)からのファンの方々ならご存知の通り、私は逆境を養分として活動して参りました。私は上げ膳据え膳の順境に乗れる人格ではなく、逆境の際して、新しい音楽の姿を得ることで、今日に至っております。


    そこで突如閃いたのは、2期の1 night rebornのステージをやめてしまうことではなく、「私の方も代役を立てる」。つまり、ボディ·ダブル(これは映画界の用語で「代役」のことです)のダブリング。というアイデアであり、神の声でした。


    また、一方、先のDJパーティーが即日完売したことで、パーティーに参加できなかった方々から、「DJプレイを6月にも聴きたい」という有難いお声を頂戴したことも手伝い、「最後のパーティーは、<2人とも代役の2期スパンクハッピー>にパフォーマンスは任せ、私はDJプレイに徹する」と決定しました。


    逆境に育まれた者の特権でしょうか、もうすでに、<2人の代役>は決定しております。それが如何なる2人であるかは、当日のサプライズとさせてください。


    彼らのパフォーマンスに流すトラックは、全て、「新音楽制作工房」の精鋭による、24年式の最新セルフカヴァーで、ヴォーカルトラックは全てAIによる「この世にない声」で制作されます。こちらもお楽しみに。

     

    *    *    *    *    *

     

    こうして、2夜に渡るレトロスペクティヴは、アーバンギャルドさん、電影と少年CQさんの、有り難くもリスペクトに満ちたライブパフォーマンスに続き、WボディWによる2期スパンクハッピーのパフォーマンス、に続いて、先のパーティーと同じ、DJプレイ用にリミックス / リマスタリングされた原盤たちのプレイによって幕を閉じる。という形にさせて頂きます事を、ここに最後のご報告としてアナウンスさせて頂きます。

    音楽家として、2期スパンクハッピーを生み出した者として、愛好家の皆さんのご期待を裏切るような事は絶対に致しません。歌とは何か?愛とは何か?「2期スパンクハッピー」という活動体とはなんだったのか?という根源的とすら言える問いに対する私なりの回答をご用意して当日をお待ちしております。


    2期スパンクハッピーの、最後のレトロスペクティヴを共にお楽しみ頂くべく、新宿にてお待ち致します。歌、恋、性、機械と人間、歴史と文化、喜び、踊り、音楽。そうした、本来、限りなく自由であるそれらが、何らかの小さな形式に閉じ込められずに、世界が少しでも美しく、続いていきますように。

     

     菊地成孔

  • <菊地成孔の日記 X年X月X日X時記す>

    2024-04-16 10:0016
    220pt

     デルタブルースの昔から今日に至るまで、歌詞の世界で、「非常に疲れた」と言う表現は、さまざまなレトリックが発達してきた。曰く「ボロ雑巾になった気分」「今がいつでどこだかも分からないぐらい」「死んだ3匹の蝿ぐらいになった」「自分がブロンズ像にでもなった気分だ」「目をつぶれば寝てしまう」「寿司一個が重くて持てない」「眠りは死の友人だ。だからオレは寝ない」等々。

     現在のボディ·コンディション(これは歯の具合も関わっている)のまま、ダブセクステットと2期のDJイベントと、山下ー堀越ー菊地の「山下洋輔DUO +1」(この名称になった経緯も面白い話なのだが、今、キーパンチするのもしんどいのでいつかまた)を、飛石式に1日おきに3連続したら(その間もぺぺのレコーディングもあり)、ボロ雑巾になって今がいつかでどこなのか分からず、目をつぶればもう寝てしまう以上のブロンズ像にでもなった状態のままだ。

     とはいえ、どんな状態であろうと、ステージには上がる限りは、クオリティは絶対に維持しないといけない。「疲れてるんで大目に見て下さい」は、最後の最後のセリフだ。

     ダブセクステットはチームプレイなので、それこそマイルスよろしく、自分の吹くパートは普段の80%に落として、類家君や坪口に任せることができ(ジャズメンは、一回セッションすれば、具体的な=口頭でいくら怪我や病気の話をしても、伝わらない=コンディションは丸見えになるので、「オレ80%に落とすからさ」とさえ言わないでも伝わる)、バンドサウンドも自分のソロも、クオリティ落とさずに何とか凌いだ。