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  • 田中良紹:北朝鮮危機を騒ぐこの国のどうしようもない馬鹿さ加減

    2017-05-02 17:27
    29日朝、北朝鮮がミサイルを発射したとの報道を受け、東京メトロ、東武線、北陸新幹線が安全確認のため一時運転を見合わせたという。本気でミサイルが落ちてくると思ったのか。それとも落ちてきた時に運転見合わせで何を守れると考えたのか。あまりの馬鹿馬鹿しさに笑いたくとも笑えない気持になった。

    北朝鮮と戦争状態にあるのは韓国である。その韓国では現在大統領選挙が行われている。危機が本物なら選挙などやっている場合ではないが、誰もそんなことを考えていない。だから普通に選挙を行っている。それが正常な感覚である。

    これほど騒いでいるのはおそらく世界中で日本だけ。なぜそんなことになるか、日本人は立ち止まってよく考えてみた方が良い。いかに自分たちが戦争の現実から目を背けてきたかに思いを致し、平和憲法を守っていれば平和でいられるという幻想から目を覚ますべきなのだ。

    北朝鮮危機を煽っているのは米国のトランプ政権だが、トランプ大統領はやることなすことうまくいかないので国民の目を外にそらせたい。そのためシリアを爆撃し、アフガニスタンに新型爆弾を落とし、北朝鮮危機を煽っている。目をそらせたいだけだからただのこけおどしで戦争する気があるわけではない。

    ロシアとの不適切な関係がこれからも追及されていくとトランプ政権は窮地に陥る。そのためロシアとの関係を一時的に悪化させ、代わりに中国と手を結ぶ必要があるとトランプ大統領は考えた。それがシリア爆撃と北朝鮮危機を煽る理由で、私に言わせれば窮余の策でしかない。

    ただしトランプ大統領のやり方は世界に衝撃を与えた。米中首脳会談の最中にシリア爆撃を行い、それを中国に見せつけてから北朝鮮の核ミサイル開発を抑止するよう要求した。何をやりだすか分からないと思わせるのがトランプ流である。一方これを見て世界は「馬鹿と鋏は使いよう」と考えたに違いない。

    馬鹿を批判しても馬鹿にはそれが理解できない。馬鹿の言う通りにしてやりしかしこちらの利益になるよう誘導する。中国の対応はまさにそれだ。北朝鮮に厳しく当たる姿勢を米国に約束して「為替操作国」指定を免れ、報復関税も引っ込めさせた。そして中国が目指すのは最後は話し合いにもっていくことである。

    これと対照的なのが日本の安倍政権である。安倍総理もトランプ大統領と同じく政権の先行きに不安がある。民進党がだらしないので支持率は下がらないが、森友問題は取り返しがつかないほど深刻で、さらに閣僚のスキャンダルも枚挙のいとまがない。

    自民党内には「ポスト安倍」を伺う動きが出始め、国会審議の先行きも不透明になってきた。7月の都議選次第では自公関係に影響が出ることもあり得、次の選挙がどうなるか予断を許さない。選挙の目玉であったアベノミクスの効力も薄れた。

    だから安倍政権は北朝鮮問題を煽って求心力を高めたい。内閣官房のホームページにミサイル攻撃からの「避難方法」を掲載し、御用評論家に連日テレビでありもしない米国の軍事行動の解説をさせる。しかし米国にできるのは「テロとの戦い」だけで、北朝鮮を軍事攻撃すれば必ず韓国への報復があり、世界11位の韓国経済がおかしくなれば米国経済の首も絞まる。

    そうした戦争の現実を考えずに日本人は「戦争はいやだ」だけを繰り返してきた。そして米国の軍事力に守られることを平和の道だと考えてきた。その結果が、北朝鮮と戦争状態にある韓国よりも危機を騒ぎ立て、北朝鮮が日本と逆の方向にミサイルを撃ったという報道で交通機関が止まってしまうのである。

    ここで戦後日本の何がおかしいのかを述べることにする。原因は朝鮮戦争から始まる。冷戦の始まりを告げる朝鮮戦争の勃発で、米国は二度と米国に歯向かえなくしようとした日本とドイツに再軍備を要求した。特に日本に対しては朝鮮戦争に参戦させようと考えた。アジアの戦争にはアジア人を充てようと考えたからである。

    ドイツは再軍備に応じたが日本の吉田茂は平和憲法を盾に再軍備を拒否し、代わりに武器弾薬を作って米軍の後方支援を行うことを申し出た。平和憲法を作ったのは米国であるから米国はやむなく朝鮮半島に在日米軍を出動させ、公職追放していた軍需産業の経営者を呼び戻して武器弾薬を作らせた。日本経済は朝鮮特需に沸き、それが日本を工業国にして後に米国を脅かす高度経済成長を生み出すのである。

    軍事で負けたが外交で米国に勝つと考えた吉田は、軍事負担を極力減らして経済を成長させるため、野党社会党に護憲運動を促し、憲法改正できないように3分の1の議席を常に与える仕組みを作る。中選挙区制では自民党候補の敵は別の自民党候補である。そのため社会党に3分の1の議席を与えることは可能であった。

    社会党は過半数を超える候補者を擁立せず、常に3分の1の議席を目指すことになり、自民党が万年与党で社会党は憲法改正させないことだけを目指す政党になる。そして自民党は米国の軍事的要求に対し、社会党の反対を理由に断り続けたのである。それが日本経済の成長に寄与する結果を生む。

    朝鮮戦争に勝つことのできなかった米国が次に行ったベトナム戦争でも韓国軍は出兵したが、日本の自衛隊は出兵せず、日本はベトナム特需でまた潤うことが出来た。自民党と社会党が表で敵対しながら水面下で手を握る政治を、米国は「絶妙の外交術」と呼んだが、冷戦の中では日本を東側に追いやることもできず、日本の言う通りになるしかなかった。

    冷戦末期にはついに日本が米国経済を追い抜く一歩手前まで迫る。米国にとって日本経済はソ連以上の脅威となり、日本は米国の最大の仮想敵国になった。日本は軍事負担を米国に負わせ、それによって蓄えた経済力で米国を侵食し、失業者を作り出し、米国の富を吸い上げたと米国には見える。

    それは冷戦構造によってもたらされた。しかしソ連崩壊によって「絶妙の外交術」の片棒を担いだ社会党は凋落し、また米国も中国やロシアと敵対関係でなくなったことから日本に軍事負担を強く要求することが出来るようになる。

    かつて平和憲法は出兵を拒否する日本の口実となり米国は改正を要求していたが、冷戦が終わってみると平和憲法がある限り日本は米国の軍事力に頼ることに気づき、しかも平和憲法は米国の経済的利益につながる。

    日本に自立の機会を与える憲法改正と異なり、平和憲法を守らせていれば日本の米軍基地を永久的に使え、それによって世界一の負担金を米国は受け取ることができる。また中国と北朝鮮の脅威を煽れば日本に米国製兵器をどんどん買わせることも出来る。北朝鮮の脅威は米国の利益であり、北朝鮮の脅威がなくなっては困るのである。

    そこで米国は平和憲法を守らせながらしかし日本が出兵できる方法を考える。それが集団的自衛権の行使容認である。そをれを安倍政権は成立させた。第一次朝鮮戦争では吉田茂が平和憲法を盾に参戦を拒否し、朝鮮特需で日本経済を潤わせたが、それとは逆のことが米国に可能となった。日本に米国製の武器を買わせ、さらに自衛隊を参戦させるのである。

    米国の原子力空母カールビンソンと日本の海上自衛隊の共同訓練はそのための第一歩だと私には見える。米国は朝鮮戦争以来の日本の成功物語を全面的に覆す方法を安倍政権によって得ることが出来た。

    吉田政権が作り出した平和憲法を盾に使う「絶妙の外交術」は冷戦構造の中でのみ機能した。冷戦が終わった時にそれに替わる政治構造を作らなければならないと考えたのが90年代に小沢一郎氏らが取り組んだ政治改革である。平和憲法を守るための万年与党と万年野党の構図を廃止し、政権交代することで日本が自立の道を探る道であった。

    しかしそれがまだ道半ばのまま日本は米国の思うままとなり、危機を煽られれば簡単に洗脳されて大騒ぎする国になった。「戦争はいや」という「厭戦意識」だけで戦争を止めることはできない。戦争の現実を直視し戦争を止めなければならない時には「厭戦」でなく「反戦」の意識を持たなければ、平和憲法を守っていても平和を維持することなどできない。


    ■《丁酉田中塾》のお知らせ(5月30日 19時〜)

    田中良紹塾長が主宰する《丁酉田中塾》が5月30日(火)に開催されることになりました。詳細は下記の通りとなりますので、ぜひご参加下さい!

    【日時】
    2017年5月30日(火) 19時〜 (開場18時30分)

    【会場】
    第1部:スター貸会議室 四谷第1(19時〜21時)
    東京都新宿区四谷1-8-6 ホリナカビル 302号室
    http://www.kaigishitsu.jp/room_yotsuya.shtml
    ※第1部終了後、田中良紹塾長も交えて近隣の居酒屋で懇親会を行います。

    【参加費】
    第1部:1500円
    ※セミナー形式。19時〜21時まで。

    懇親会:4000円程度
    ※近隣の居酒屋で田中塾長を交えて行います。

    【アクセス】
    JR中央線・総武線「四谷駅」四谷口 徒歩1分
    東京メトロ「四ツ谷駅」徒歩1分

    【申し込み方法】
    下記URLから必要事項にご記入の上、お申し込み下さい。
    http://bit.ly/129Kwbp
    (記入に不足がある場合、正しく受け付けることができない場合がありますので、ご注意下さい)


    【関連記事】
    ■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
    http://ch.nicovideo.jp/search/国会探検?type=article

    <田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
     1945 年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。

     TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。

  • 篠塚恭一:「”幸せな国”の資源としての外出支援」──街へ出よう(36)

    2017-04-25 12:12
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    先日、老夫妻を横浜港までお見送りにいった時のこと。
    「白木の箱に入って帰ってきてもいいの」
    そう言って婦人はご主人と長旅へでかけていきました。

    80歳を目前にして脳卒中で倒れたご主人は病気をきっかけに入院され、その後老健施設に入ることになったので、ケアハウスに住む婦人とは離ればなれの暮らしです。

    ずっと施設にいるご主人を気の毒に思い「たまには旅行へ連れ出したい」と、身体に負担の少ない船旅を選んだそうです。

    クルーズ旅行は、旅先で時間をもて余すことなのないように毎日様々な演出の催しがあるのですが、「そういうのはいいの。私たちは海を見ているだけでホッとするから」と、どのように船内で過ごしたいかを教えてくれました。

    「海からはイオンとか何かいいモノが出てるでしょ」そういって静かに微笑んでいます。

    旅へ出よう、と決めた時は、家族も、施設の方も普段をよく知る付き添いは無理と断られ、3ヵ月を越える長旅の道中何かあったらどうするのかと反対する方ばかりでした。

    ただ一人、施設を経営する病院長さんだけが、「家族が言うんだから、行ってらっしゃい」と後押ししてくれたと喜んでいました。

    先日、生活支援サービスの担い手となる人材を地域で養成している方の話を伺いました。

    その地域では農家の協力を得て、畑作業をすることで健康づくりや高齢者の就労支援の活動を行っています。日本人は勤勉ですから、リタイア後の高齢者には仕事を頼むのが一番元気になることがわかっているからというのです。こうした働き方は「生きがい就労」とよばれ、高齢化する農家を助けながら自分も健康になり、地産地消も進むという三方よしの取り組みです。

    ところが、そこに国の最低賃金制度が邪魔をしているというのです。

    国は労働者の就労環境を守るためにさまざまな制度をつくり規制をかけています。

    このケースでは、最低賃金を決められているから、同じ賃金を払うなら、高齢者より働きのいい若い人を雇いたいと農家側は考えてしまうというのです。

    だから、一方の高齢者がボランティアでは困るけれど、健康づくりをかねた生きがい労働だからフルタイムの賃金などいらない、半額でも十分といっているのに頼むことができないといいます。高齢者には、年金収入もある第二の人生ですから、時間に余裕をもって健康的に働こうというのに、国の制度があるから、そうもいかないと、今農家とリタイアした高齢な人が互いに苦慮しています。高齢化するコミュニティの維持を他の規制や制度が妨げる一例だと思いました。

    社会保障やさまざまな法制度は国民の生活を守る下支えとなってくれますが、制度に頼るだけでは幸せになれなません。どこかで得をする人がいたなら、自分はどうして貰えないのかと欲が出るのも人の性です。

    船の婦人は「戦争に負けたから旅行に出られる」と何度も繰り返しました。

    「もし勝っていたら、軍人が威張っていて私達にこういう暮らしはできなかった。」といいます。

    トラベルヘルパー(外出支援専門員)には、こういうのがあって良かったと同行するスタッフにに何度も繰り返してくれました。

    戦後、軍人はいなくなりましたが制度や規制をつくる仕組みは今も変わりません。

    通院通所サービスは命を繋ぐ大事な外出ですが、私達はこれからも楽しいお出かけを提供していきます。


    【篠塚恭一しのづか・きょういち プロフィール】
    1961年、千葉市生れ。91年株SPI設立代表取締役観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー外出支援専門員協会設立理事長。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。



  • 田中良紹:弥生の季節に馬脚を現した肝の小さな政治家たち

    2017-04-03 14:061
    弥生3月は草木が芽吹く季節であるから変化が起きやすい。乱のきっかけになることも多い。旧くは日本に戦乱の時代をもたらした応仁の乱が応仁元年3月に始まり、最近では6年前の3月に大震災が起きて日本人の意識を変え政治の混迷を深めさせている。そして今年の3月はよく似たタイプの政治家が揃って窮地に陥った。

    強がりでわがまま、相手の主張に耳を傾けようとせず力でねじ伏せようとするが、失敗すると他人のせいにする。その一方で、国民の支持を気にするポピュリズム型でもある。そのよく似たタイプの政治家としてドナルド・トランプ、石原慎太郎、安倍晋三の3人がいる。

    米国のトランプ大統領はこの3月に選挙公約で最優先課題とした「オバマケア見直し法案」を取り下げざるを得なくなった。24日に予定されていた議会の採決が否決の見通しになったからである。否決が現実となれば大統領は取り返しのつかないダメージを国民の目にさらすことになる。

    しかし国民の目をごまかしても、法案の取り下げは政治家として醜態以外の何物でもない。その醜態をトランプは「ライアン下院議長が共和党をまとめきれなかったためだ」と他人のせいにした。

    重要法案の採決となれば大統領は議員一人一人に電話をし直接説得するのが米国政治の常識である。それを下院議長のせいにするなど聞いたことがない。自らの無能をさらけるだけの対応に大統領と議会との溝は一層深まることになると思う。

    問題はそれだけでない。「移民の入国禁止」を巡る大統領令は二度も司法界から「ノー」を突きつけられた。またロシアとの不適切な関係を問題視され、フリン国家安全保障担当大統領補佐官を辞めさせるしかなくなり、側近中の側近である娘婿のクシュナー上級顧問も上院情報委員会に証人喚問されることになった。

    さらに3月中旬に行われた米独首脳会談では、大統領がメルケル首相に国防費の負担金として33兆円の請求書を渡したことから、マティス国防長官を激怒させたと言われる。外交的に非礼であるばかりでなく政治技術としてもあまりにも稚拙な振る舞いである。

    選挙で国民に約束したことをただ押し通そうとするポピュリズム型政治に「ついていけない」と感じる閣僚やスタッフが増えていくのではないかと思う。そうしたトランプ大統領の振る舞いに私は政治家としての器量のなさ肝の小ささを感じる。

    これまで様々な政治家を見てきたが、肝の小さな政治家ほど強がりを言い、力で相手をねじ伏せようとする。そしてうまくいかなくなるとすぐ他人のせいにし、自分のことは弁解ばかりする。世間から批判を浴びても不遇にあっても一切の弁解をしない人間にこそ私は政治家としての器量を感ずる。

    ロッキード事件で有罪判決を受けた田中角栄元総理は日本中から批判を浴びたが、身の潔白を主張する一方で、自分を逮捕した検察や自分を叩きまくるメディアを批判せず、泣き言も弁解も言わずに裁判闘争と政治闘争を続けた。

    その角栄氏を「でっち上げ事件の被害者」として、また政治の「天才」として称賛した石原慎太郎元東京都知事は、築地市場の豊洲移転問題で3月20日に都議会の百条委員会に喚問されたが、対応の仕方は角栄氏とはまるで真逆であった。

    百条委員会の冒頭で「脳梗塞を患ったため文字も忘れてしまった」と予防線を張り「記憶にない」を繰り返す。そして交渉をすべて他人に任せていたとリーダーとしての責任を回避し、豊洲の安全性を調べるため自身が高めたハードルを根拠に豊洲移転を遅らせる小池知事の責任を追及するという全く辻褄の合わない言動に終始した。肝の小さいことはなはだしい。

    衆議院議員時代の石原氏を評価する声は永田町にほとんどなかった。スタンドプレイをするだけで他人のために泥をかぶることもなく、右翼的な主張を勇ましく言うだけの政治家だったからである。しかし大衆にはそうした人物像を見抜く能力はない。大衆民主主義時代の客寄せとして自民党が利用しているだけの政治家であった。

    そう見られていることが衆議院議員を辞める理由だったと思うが、都知事に転身を図る時に一瞬だけ変身を見せた。かつては激しく批判した美濃部元知事の環境政策を褒めちぎり、霞が関を批判するなどリベラルにも迎合する幅の広さを見せたのである。

    しかし都知事就任後は再び元に戻る。そしてそれ以上に悪い政治の私物化が始まるのである。新銀行東京の設立もそうだが、何よりも国益を損ねたのは米国に言われるまま尖閣問題に火をつけ日中対立を激化させたことである。

    冷戦後の米国の基本戦略はロシア、中国を敵と見るだけでなく、日本とドイツを押さえるためにロシア、中国を利用する。それを理解しているドイツは米国の側に付きながらもロシアとも密接に協議して米国の言いなりにはならないようにする。

    しかし日本は尖閣問題で米国の思うままになり、中国との対立を激化させた。私には米中関係は昔の自民党と社会党と同じで対立しているように見せながら水面下では手を握っているように思うのだが、日本は中国と対立するため米国の言うことをすべて聞かざるを得ない状況に自らを追い込んだ。

    石原元都知事は息子を総理にしたいがために米国の思惑に乗せられ、米国のシンクタンクで尖閣諸島の購入計画を発表する。そのせいか2012年の自民党総裁選挙は当初は石原伸晃幹事長が最有力の候補となる。しかし不注意な発言の連発で石原氏は自ら墓穴を掘り、代わって総裁選に勝利したのは安倍晋三氏であった。

    派閥の反対を押し切って総裁選挙に出た安倍氏を支えたのは右派系団体「日本会議」と大阪に本拠を置くローカル政党「維新」である。松井大阪府知事と意気投合した安倍氏は自民党総裁選挙に敗れれば自民党を割って出て維新のトップに就任する約束をしていた。そこから現在問題になっている森友学園の小学校建設の話が絡まるのである。

    森友問題は安倍総理と維新の接点から生まれ、また総理就任後の2014年に米国の政治任用制度(ポリティカル・アポインティ)を真似た内閣人事局を作り、官僚の人事権を官邸が掌握したことから、官僚が官邸の意向を「忖度」する傾向が顕著となり、そこに「スピリチュアル」な信仰に目覚めた昭恵夫人の森友支援が重なる。安倍夫妻と政府と大阪がぐるみで戦前回帰の小学校を創ろうとすることになる。

    その仕組みの一端が暴露されると、安倍総理は尋常ではない口調で全面否定を貫く。その様はまさしく肝の小さな政治家が行うパターンを彷彿とさせ、証拠となる資料をすべて廃棄したことにするところにさらに問題の深刻さを感じさせた。

    肝の太い人間は危機に陥るほど泰然として問題を処理する。だが肝の小さな人間にはその真似ができない。安倍総理は全否定を貫くことで自らを追い詰めることになった。現在は「しっぽ」の籠池氏の反撃に対し、捜査機関に命令して籠池氏を「悪人」に仕立て上げることに全力を挙げる。

    しかし籠池氏を「悪人」に仕立てたとしても、昭恵夫人が口利きに関わり、しかもメールのやり取りから「カルトまがい」の信仰に取りつかれている事実を消すことはできない。安倍総理にとってこの3月は決定的である。トランプ、慎太郎の諸氏と並び致命的な醜態をさらした。さあ次はどうする。

    【関連記事】
    ■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
    http://ch.nicovideo.jp/search/国会探検?type=article

    <田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
     1945 年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。

     TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。