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  • 田中良紹:2018年はトランプの喧嘩ツイートから始まった

    2018-01-06 12:23
    新年早々の米国トランプ大統領はありとあらゆる敵対者に対しツイッターで喧嘩を仕掛けた。まさしく喧嘩ツイートの事始めである。

    まず大晦日にツイートした「新年メッセージ」は、「私と闘って敗れどうしていいか分からいでいる敵にも新年おめでとう、LOVE!」というものだった。嫌味満載な「新年おめでとう」でトランプの2018年は幕を明けた。

    そして元旦最初のツイートはパキスタンとの喧嘩である。「米国は過去15年、愚かにもパキスタンに330億ドル(3兆7千億円)以上の援助を行ってきたが、彼らは我が国の指導者を馬鹿にして嘘と偽りだけを返してきた。パキスタンは我々がアフガニスタンで追いかけたテロリストを匿ってきた。それももうおしまいだ!」と書いてパキスタンへの援助停止をちらつかせた。

    これに対しパキスタン政府は「理解不能」と全面的に反論し、テロとの戦いで6万2000人以上の人命と1230億ドル(13兆8千億円)の代償を支払ってきたと主張している。そして「何もかもを金銭的な価値の陰に押しやっている」とトランプ大統領のツイートを批判した。

    同じ元日の次なるツイートは、昨年末から反政府デモが拡大しているイランについて「オバマ政権が彼らと結んだぶざまな合意にもかかわらず、イランはあらゆるレベルで破たんしている。偉大なイランの民衆は長年にわたり抑圧されてきた。彼らは食料や自由を求めている。人権と共にイランの富は掠奪された。変革の時だ!」とイランの反政府運動を支持した。

     何でもかんでもオバマ政権の政策をひっくり返すのがトランプ政権の特徴と言われるが、イランとの核合意はオバマ政権が単独で行ったものではない。米中ロ英仏独の6か国がイランと合意したもので、イランが核開発計画を長期にわたり制限する見返りに2016年に欧米と国連はイランに対する経済制裁を解除した。

     それがひっくり返されれば、問題はイランにとどまらず北朝鮮核問題の解決にも影響する。国際社会や国連がいったん合意したものを米国が勝手に破棄することが明らかになれば、米国との交渉や対話は意味がなくなる。北朝鮮非核化への道筋が見えなくなる。

     しかも不気味なのは、冬季オリンピックが近づいている中で反政府運動の高まりを米国が支持するケースは、4年前のソチ・オリンピック直後のウクライナを思い出させることだ。あの時は親ロシア派政権に抗議する市民のデモが前年の11月から始まり、2月にロシアのソチで開かれた冬季オリンピックの最中にデモ隊と治安部隊が衝突した。

    親ロ派の大統領はロシアに逃れ反政府デモが勝利するが、ロシアのプーチン大統領は「欧米が扇動したクーデター」として軍隊を派遣、ロシアの軍港がある南部クリミア半島を占領した。以来、ウクライナの内戦は今も収拾の見通しなく、世界は「新冷戦」と呼ばれる時代に突入した。

     あの時、ソチ・オリンピックの開会式にはオバマ大統領をはじめ欧米の首脳は誰も出席せず、オリンピックのためにロシアが身動き取れない時期を見計らったように反政府デモが過激化した。そして米国のネオコンはデモに資金提供していることを公言していた。

     今回は朝鮮半島で2月に開催される平昌オリンピックを前にイランの反政府デモが起き、それをトランプ大統領が支持表明したのである。イラン政府にすればデモが米国の扇動に見える。従って朝鮮半島のオリンピックとイランの反政府デモが結び付けて考えられる。

     トランプ大統領がイラン反政府デモに支持表明をした元日に、北朝鮮の金正恩労働党委員長は年頭の辞で「米国本土全域が我々の核攻撃の射程圏内にある」とし「私の机の上には核のボタンがある」と米国を威嚇する発言を行った。おそらくトランプ大統領が「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」と発言したことを揶揄する狙いがあったのだろう。

     するとトランプ大統領は2日、すぐさまそれに反応し、「飢えた政権の誰か、私も核のボタンを持っていると彼に知らせてほしい。私のは彼のよりずっと大きくパワフルで、そして私のボタンはちゃんと機能する」とツイートした。「俺の方が大きいぞ」とやり返すところはまるで子供の喧嘩である。

     金正恩委員長の年頭の辞は米国を威嚇する一方で、韓国の平昌で開かれる冬季オリンピックに代表団を派遣することを前向きに検討すると表明した。韓国の文在寅政権はこれを歓迎し9日に南北高官協議を行うことを提案、それを受けて北朝鮮は3日午後、板門店にある南北ホットラインを再開した。

     北朝鮮との対話路線を模索する文在寅大統領は、平昌オリンピックを朝鮮半島の平和に向けた「画期的な機会」にしたいと考えているが、問題はトランプ大統領の米国である。トランプは2日朝に「北朝鮮は制裁や圧力で大きな影響が出始めている。ロケットマンは今、初めて韓国と話したがっている。良いニュースかもしれないし、違うかもしれない。見て見よう!」とツイートした。

     米政権内には平昌オリンピックに参加すべきでないという声もあり参加を公式には決定していない。表向きの理由は北朝鮮情勢によりオリンピックに参加した米国人の安全を守れないというものだが、北朝鮮が参加することになればその理由は成り立たなくなる。

     しかしソチ・オリンピックの時、米国は選手団を派遣したが、オリンピックが始まる前から「米国人をテロから守る」という名目でロシア海軍の基地がある黒海に軍艦2隻を派遣した。ロシアがテロは自分たちで制圧するから助力はいらないと断っていたにもかかわらずである。するとロシアは米国の喉元であるキューバに軍艦を派遣した。

     オリンピックは「平和の祭典」と言われるが、裏側では武力を背景にした力のバランスがとられているのである。それが国際社会の常識なのだろう。従って平昌オリンピックに米国が参加したとしても「米国人の安全」を理由に軍が何らかの行動を起こす可能性はある。それに北朝鮮が反応すればそれが衝突のきっかけになることもある。

     まさしく平和と戦争は紙一重である。我々は常に戦争を前提に物事を考えないと平和は守れない。昨年読んだ本の中で最も刺激的だったのはユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』(河出書房新社)だが、我々ホモ・サピエンスは7万年前に嘘を信じさせて集団を作ることを覚え、1万2千年前に農業を始めたことから人を殺し戦争するのが常態になったと書かれてある。

     つまり殺人や戦争はホモ・サピエンスの本能のようなものである。しかし本能のままにしておくと絶滅するので「殺人はいけない、平和が大事」という「タテマエ」を信仰させる必要があった。その「タテマエ」にがんじがらめにされるとホモ・サピエンスには「ホンネ」が噴き出る時がある。

     それが米国でオバマからトランプへの移行期にあったのではないかと私は考えている。オバマは理想を語る。しかしそれは「タテマエ」で現実とは違うと考える米国人が出てきた。トランプは理想を語らない。弱肉強食のビジネスがすべてだ。そこに「ホンネ」を感じて引き寄せられる米国人がいた。

     トランプの喧嘩ツイートは従って嘘があるとしても「ホンネ」である。そのトランプは年の初めにパキスタンとイランと北朝鮮に喧嘩を売った。そこから何が見えてくるか。それを読み解くのが2018年のスタートになりそうだ。

    ■《戊戌田中塾》のお知らせ(1月30日 19時〜)

    田中良紹塾長が主宰する《戊戌田中塾》が1月30日(火)に開催されることになりました。詳細は下記の通りとなりますので、ぜひご参加下さい!

    【日時】
    2018年1月30日(火) 19時〜 (開場18時30分)

    【会場】
    第1部:スター貸会議室 四谷第1(19時〜21時)
    東京都新宿区四谷1-8-6 ホリナカビル 302号室
    http://www.kaigishitsu.jp/room_yotsuya.shtml
    ※第1部終了後、田中良紹塾長も交えて近隣の居酒屋で懇親会を行います。

    【参加費】
    第1部:1500円
    ※セミナー形式。19時〜21時まで。

    懇親会:4000円程度
    ※近隣の居酒屋で田中塾長を交えて行います。

    【アクセス】
    JR中央線・総武線「四谷駅」四谷口 徒歩1分
    東京メトロ「四ツ谷駅」徒歩1分

    【申し込み方法】
    下記URLから必要事項にご記入の上、お申し込み下さい。
    http://bit.ly/129Kwbp
    (記入に不足がある場合、正しく受け付けることができない場合がありますので、ご注意下さい)


    【関連記事】
    ■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
    http://ch.nicovideo.jp/search/国会探検?type=article

    <田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
     1945 年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。

     TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。

  • 田中良紹:政治を「保守対リベラル」の図式で見るから劣化が起こる

    2017-12-01 14:241
    民進党の新代表に就任した大塚耕平参議院議員が29日に日本記者クラブで記者会見を行った。民進党は先の総選挙で衆議院議員が立憲民主党と希望の党に分かれ、参議院議員全員と無所属で出馬した衆議院議員が民進党籍を有する状態になっている。

     三分裂した勢力をどう立て直すかが会見のポイントだが、大塚代表が会見で語ったのは偶然にもその2日前に私が「田中塾」で話したことと同じだった。一つはメディアは与党圧勝ばかり強調するが選挙結果は民進党にとって悪くない。もう一つは政治を「保守対リベラル」の図式で見るから劣化が起こるということである。

     メディアは先の総選挙を「与党圧勝」、「立民躍進」、「希望惨敗」と報じた。これに対して私は「自民現状維持」、「公明惨敗」、「立民と希望の合計は昨年の参議院選挙から倍増」と主張してきた。

     大塚氏は昨年の参議院選挙の比例票で民進党は1175万票、自民党の2011万票の6割弱だったが、先月の総選挙で立憲民主党と希望の党を合計すれば2076万票になり、自民党の1855万票を221万票も上回ったことを強調した。政権を失ってから低迷を続けた旧民主党が分裂したことで回復の糸口をつかんだのである。

     メディアは立憲民主党と希望の党の誕生を「保守対リベラル」の分裂と見ているが、私も大塚氏もそのようには見ていない。従って大塚氏は立憲民主党と希望の党と民進党を再結集することが必ずしも良いとは考えない立場である。

     私は民進党があのままでいたら政権交代が起こる可能性はどんどん低くなると考えていた。旧自民党と旧社会党が同居する民進党において考えの違いや幅が党勢を拡げるプラスに働けば良いが、互いに足を引っ張り合ってマイナスに働くのなら同居する意味はない。

     長い年月権力を握り続けてきた自民党には党内の違いを同居させるノウハウがある。しかし万年野党を続けた社会党にはそれがなかった。「日本社会党」ならぬ「二本社会党」と呼ばれるほど左右の路線対立が激しかった。「自分たちの考えだけが正しい」と双方が正義を主張するからである。

     その体質は旧民主党にも受け継がれた。だから私はそのままでいることに反対だったが、大塚氏は「これまでは党内をまとめるため丸くすることばかりに力を入れてきた。しかし異なる考えをそれぞれ伸ばして政策に磨きをかけ、異なる政党が連立して政権交代を果たす道もある」と語った。

     党内を丸く収めることは国民の見えないところで政策を作ることになる。異なる考えを持つ政党同士が公党間の政策協定を結んで政権を作ればその過程が国民に見える。異なる考えを党内で丸めるよりその方が良いのではないかと言うわけだ。

     民進党の分裂を巡り希望の党が「排除」を宣言したことから、保守がリベラルを排除する動きだと多くの国民に看做され、本来は安倍政権による「権力の私物化」がテーマになるはずの総選挙が「保守対リベラル」、ひいては「改憲か護憲か」になったことに私は強い違和感を覚えた。そして「リベラル潰し」に反発する同情票が立憲民主党の躍進を可能にした。

     しかし米国政治を見てきた私には日本人の言う「保守」や「リベラル」が世界とは異なったものとしか思えない。「保守」の思想とは伝統を重んじ人間の理性に信頼を置かない。人間が頭で考えた理想など間違いを犯す可能性があると考える。長い年月を経た先人の知恵を尊重し急激な変化を好まない。「アベノミクス」とか「人づくり革命」とか頭で考えた改革を行う安倍総理は全く「保守」ではない。

     一方の「リベラル」は権力からの自由を意味する。従って国家の命令に従うのではなく小さな政府や自己責任を主張する。その点では安倍総理の政策に「リベラル」の要素もある。自由を追求していくと格差が広がり、格差に耐えられなくなると自由の基盤も危うくなる。すると「リベラル」は修正を迫られる。より公平に力を入れるようになる。これを「ソーシャル・リベラリズム」という。

     「保守」も伝統ばかりに縛られると「保守」の基盤が危うくなる。「保守」するためには「革新」も必要になる。ただ急激に変える「革命」はやらない。つまり「保守」も「リベラル」も修正が必要になる時があり、対立しているようで対立していない。自民党には「保守」と「リベラル」が同居し、旧民主党には同居させる知恵が働かなかっただけだと思う。

     そして日本が奇妙なのは護憲勢力を「リベラル」と呼ぶことだ。戦後71年間も憲法を変えさせないできた護憲勢力は伝統を重んじる「保守」と呼ばれてしかるべきなのに「リベラル」と呼ばれ、憲法を変えようとする勢力が「保守」と呼ばれるのは倒錯としか思えない。

     大塚代表は21日の代表質問でこの「保守とリベラル」の誤った使われ方について安倍総理に質問した。おそらく安倍総理に質問する形を取りながら議場にいる国会議員に向けて「保守対リベラル」の誤った図式を考え直すよう訴えたかったのではないか。私はその質問に触発され「田中塾」で「保守とリベラリズム」について私の考えを話した。

     次の国政選挙は再来年の参議院選挙である。そして4年以内には衆議院選挙がある。また参議院選挙の前には統一地方選挙があり、それまでに自公政権に対峙し、打ち負かす体制を作るのが新代表の役目である。大塚代表は手の内をさらけ出すわけにはいかないとしながらも、地域政党を作りそれをネットワークさせて国政と結びつける構想にも言及した。

     国会の予算委員会では「森友・加計疑惑」が連日追及され、政府側の答弁を聞いていると疑惑は深まるばかりだが、浮かび上がってくるのは政権が長期化したことで驕りや緩みが著しくなり、緊張感に欠ける政治が行われてきた実態である。前のブログで書いたが日本には権力の暴走を阻止する三権分立の仕組みが機能しないようになっている。

     権力の暴走を阻止できるのは選挙の投票数でしかないことを国民は肝に銘じるべきなのである。総選挙に惨敗した公明党は選挙結果を受けて憲法改正に厳しい姿勢を打ち出さざるを得なくなった。これが民主主義政治の民主主義政治たる由縁である。

    そして今回は突然の解散と民進党の分裂によって「1対1」の選挙構図に持ち込むことが出来なかった。その痛い思いは野党議員全員が共有したはずである。次からはいわゆる「オリーブの木」を実現しなければならない。そのための障害は何かと質問された大塚代表は「保守とリベラルは対立するという誤った考え方だ」と述べた。

     憲法9条をどうするかについて考え方の違いがあるとしても、国民の生命と安全を守るために政治はあるという考えで一致することは出来る。そこから知恵を絞って一致点を広げていくのが政治である。

     そのためには意味も理解していない「保守」と「リベラル」の対立を煽るような幼稚な考えからは卒業しなければならない。「保守対リベラルの図式でしか見ないところから政治の劣化は始まるのである。

    ■《戊戌田中塾》のお知らせ(1月30日 19時〜)

    田中良紹塾長が主宰する《戊戌田中塾》が1月30日(火)に開催されることになりました。詳細は下記の通りとなりますので、ぜひご参加下さい!

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    【会場】
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    東京都新宿区四谷1-8-6 ホリナカビル 302号室
    http://www.kaigishitsu.jp/room_yotsuya.shtml
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    【参加費】
    第1部:1500円
    ※セミナー形式。19時〜21時まで。

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    ※近隣の居酒屋で田中塾長を交えて行います。

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    <田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
     1945 年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。

     TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。

  • 篠塚恭一:心の奥底で「もう一度旅をしたい」──【介護旅行】安全で快適な旅のために(1)

    2017-10-25 20:54
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    「そんなに大変な思いをしてまで、出かけなくてもいいでしょう」

    介護が必要な人の思いを知らない人からは、そう言われることがある。言う方に悪気があるわけでなく、むしろ本人を気遣ってのことだ。しかし、そうした何気ない言葉が周囲の意識に壁をつくり、要介護者の外出を阻んでいるのも現実だ。

    トラベルヘルパーの育成をはじめて20年になる。

    当時を振り返れば、看病はあっても介護という言葉もなかった。しかし、旅行者の高齢化は社会のそれより早くはじまっていて、サービス現場はいわゆるバリアフリー旅行の必要性を感じていた。

    観光旅行に出かけるには時間とお金が必要で、それらを自由に手にできるのは子育てや仕事を終えたシニア層だ。そうした人が、先の東京五輪の年にはじまった海外渡航の自由化や高度経済成長を経て、リタイア後の熟年旅行を謳歌していた。

    ところが、そうしたライフスタイルも10年、20年と続けるうちに年齢は70を越え、足腰に痛みがでてきて日常生活もままならなくなる。それを苦にあきらめてしまえばそれまでだが、一旦豊かさを知った人は心の奥底には「もう一度旅をしたい」という願いを隠して言い出せないままでいた。健康に不安を感じ、介護が必要になれば行動範囲はさらに限られ、その思いはなおさら募った。

    トラベルヘルパーもはじめはそうした人の思いを理解し、重いスーツケースを持つ助けとなればいいと考えていた。しかし、障がいを持つ人の旅に知恵を借り、その経験を聞き、現場を訪ね、手探りでプログラムを作っていくうちにもっと大きな課題の存在を感じることになる。世の中はまだ、そうした人の旅を喜んで受け入れてくれるような雰囲気にはなっていなかった。そこから介護旅行へのチャレンジが始まった。



    平成27年2月号(平成27年1月15日発行)




    【篠塚恭一しのづか・きょういち プロフィール】
    1961年、千葉市生れ。91年株SPI設立代表取締役観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー外出支援専門員協会設立理事長。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。