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篠塚恭一:東京五輪2020 残された3年ですべきこと
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篠塚恭一:東京五輪2020 残された3年ですべきこと

2017-08-08 10:19
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    東京オリンピック・パラリンピックの開催まで、あと三年となった。インバウンド観光は相変わらず好調で、海外から車いすやシニアカーを持ってくる客も増えている。さらにこれから五輪が近づくにつれて、こうした状況に拍車がかかっていくのだろうと思う。

    開催期間中の来場者予測は1000万人とも1500万人ともいわれ、1日100万人近い人が普段にも増して移動することになる。その間、東京の人口も1割増しになるので、今以上に過密都市になることは必至だ。

    そうした中で、生真面目な日本人の特性が顕著に現れた騒動が起きた。

    先日、奄美空港で車いすを利用している客にタラップを這い上がらせたことから、バニラ・エアが謝罪、ネットは炎上した。イラストだったが、その人が両腕でタラップを昇っていく映像を見せられたときには、驚きをこえて腹立たしささえ覚えたし、その場に居合わせた人は、より長く時間を感じたに違いない。規定どおりにしか動くことができなかった空港職員には同情する。

    ところが、その客がバリアフリー研究の専門家と知らされ、何やら後味の悪いものでも食べさせられたような思いになった。そういうイメージを流し、一定の感情へ仕向けるような報道のあり方には違和感を覚える。

    私はいま日本旅行業協会の障害者差別解消法特別委員会に参加しているので、こうした観光サービスの中で互いに嫌な思いだけを残すような事故をどうしたら未然に防げるのかを考えるようになった。自身も2020年には、全国から車いすを必要とする人が上京して、生で応援できる環境をつくろうという目標を持ち、その経験を次代に残したいと願う気持ちもある。だから、この騒動も他に回避する道はなかったのか、一部のメディアは目に見えない社会的対立を煽っているだけのように思えてならない。

    近い将来、予約から搭乗まで一連の手続きは人に代わってAIやロボットがやってくれるようになるだろう。そうなれば、今回のような騒ぎはなかったのかも知れない。ロボットはそれこそ忖度などなく、決められた通りのプログラム以外は交渉の余地もない。想定外の人は乗れないという結論だけで処理されてしまう。合理的で道から外れることもないが、居合わせた人のバツの悪さや嫌な空気を読んで対応を変えてくれるようなことも起きないだろう。なんとも寂しい関係になると思う。

    先の車いす客が外国人だったら、どうだったのだろう。米国など法律の中で障害者差別に対する厳しい罰則のある国から来た人には、日本の法律は甘く非常識に写るのかも知れない。その時に「訴えてやる」というのか、それともそれが日本のルールなら仕方ないと這って昇ろうというのか、いずれにしても、いい思い出にはならない。そんな様子をSNSにでも投稿されたら、今度は世界中から批判を浴びることになる。

    この話は、その後すぐに環境を整えると表明した航空会社だけが悪いとは思えない。一方で、障がいを持つ人の声に対して真剣に耳を傾け、理解を深めてほしいという本人の言い分もわからなくはない。

    これまでは、私たちはこうしたどちらも正しい、あるいは間違いとは言えないことをなんとなく曖昧にしてやり過ごすことをよしとしてきた。それは正しいか否かより、そうした人たちとの関係性をより大事にしてきたからで、それが許容できる社会を受け継いできた。ところが最近、グローバル化の影響もあってか、どちらか白黒をはっきりとさせなければならないような雰囲気に社会全体が変わってきたように思う。

    それが戦後の高度成長をささえた合理主義や社会システムの限界というのはわかる。ただ働き方改革や一億総活躍社会のスローガンにも素直に頷けないのは、働く時間が短くなることが嬉しいのではなく、徹夜をしてもやりたいと思うような仕事がなくなってしまったことに問題があると思う。今や働く人の40%を占める非正規社員を長時間労働に追いやるならそれは拷問だろうが、旅行業界の中にも、実はもっと仕事をさせてほしいと感じている人もいる。そうしたやる気のある人を後押しできる道を五輪景気に湧くこの機会に思う存分経験を積ませてみるというのはありだと思う。

    2020年の次の東京オリンピック・パラリンピックを経験できる人は、私はもとより読者の中にもいないだろう。とするなら、次の東京大会は、旅行業界で働く者としては最初で最後のチャンスになる。だから社命であれボランタリーであれ、この大会に何かの関わりもとう、希望を持ってオリパラを引き寄せてみるのはどうだろうか。

    もちろん商品やサービス企画を練って、それを販売できればそれに越したことはないが、例え個人的なボランティアでもいいから、この大会を遠巻きにせず我がことにして、近づいてみるのはどうだろう。何かで役立ちたいと声をかけてみることが、うまくいくかいかないかより前に意味を持つことだと思う。生涯一度のこの機会に旅行業界で働くひとりとして、東京五輪に関わったという事実は自慢だけでなく、その人の将来の自信になるはずで、必ず人生の価値を高めてくれると思う。

    50年前の大会では、世界に追いつけをスローガンに新幹線や高速道路など鉄やコンクリートでつくられたインフラや技術を残し、その後の高度成長を支えてくれた。アジア初の東京オリンピックの成功は多くの日本人の自信となり、誇りになった。しかし、今ではその多くは老朽化が指摘され、競技場などすでに跡形もなくなったものも多い。コンクリートには限界があるということだ。

    2020年の東京五輪が次代に残すレガシーとは何か、サスティナブルなものとは何かを考えてみる。もし日本人来場者を1000万人とみるなら、それを人口動態に置き換えると300万人は高齢者で、介護や障がいを持つ人だけでも100万人が来場できなければおかしいことになる。仮にその1%の人の来場を旅行業界でアシストできるなら、1万通りの不都合と1万通りの不具合と1万通りの移動の軌跡を残すことができるだろう。

    高齢者施設に行くと、うつろな目をした老人がたくさんいる。安心、安全はあっても希望や生きる喜びがない。一方で同じ世代の三浦雄一郎さんはエベレストの再登頂を目指して、今日も目を輝かしている。旅行業界にあって、今どれだけの人が目を輝かせるような仕事をしているのだろうか。希望や目標を持ち、それをいつか手にしようと挑んだ経験を持つ人は年をとってからも強いと思う。

    研ぎ澄まされ完成された者の技は無駄なく美しい。オリンピックは、そうした世界最高の選手が集まる。しかし、リオ五輪ではオリンピックよりパラリンピックに感動したという人が増えた。技の完璧さより、失敗してもその人の懸命な姿に共感する人が増えているのが今の社会だと思った。

    パラリンピックの感動は、人は誰もが不完全で間違ったり失敗したりするけれど、ハラハラしながらも一所懸命なアスリートを応援したいという同じ人としての心情が原点にある。例え理由はよくわからなくても、この大会は他者への思いを幸せと感じる人がさらに増える機会なればいいと思う。

    (寄稿トラベルジャーナル)


    【篠塚恭一しのづか・きょういち プロフィール】
    1961年、千葉市生れ。91年株SPI設立代表取締役観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー外出支援専門員協会設立理事長。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。



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