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【電撃小説大賞特集】『ちょっと今から仕事やめてくる』特別短編『ちょっと今から買い物いってくる』【第21回電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》受賞作】
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【電撃小説大賞特集】『ちょっと今から仕事やめてくる』特別短編『ちょっと今から買い物いってくる』【第21回電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》受賞作】

2015-03-06 00:00
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電撃文庫チャンネルは、3月も「第21回電撃小説大賞受賞作」を大特集! 今回は《メディアワークス文庫賞》を受賞し、メディアワークス文庫より現在発売中の『ちょっと今から仕事やめてくる』から、スピンオフ特別短編をニコニコ連載小説で独占配信! 本編では描かれなかった隆とヤマモトの休日風景はここでしか読めない!

「しゅんかしゅうとう~」
 ヤマモトが急に変な歌を歌いだした。
「ど~れが好きっ?」
「はい?」
「春夏秋冬~や! どれ?」
「ああ、好きな季節か。うーん、秋かなあ」
「ええやん! 天高く馬肥ゆる秋ってね! 俺も好きやで! ってちょうど今やーん!」
「…………どうした」
「えっ? 実は買い物に出かけるん久しぶりやねんなあ~。ちょっとテンション上がってんねん」
 ちょっとどころじゃないなあと俺は心の中で毒づいた。
「そら~をみあーげてぇ~ 天たーかく~」
「さっきから何歌ってんの?」
「えっ、この曲知らん?」
「いや……流行ってんの?」
 ヤマモトは俺の質問に答えず、嬉しそうな笑顔で目の前の店を指差した。
「ここや! 久しぶりやなあ~。ネクタイもあるし、仕事でもプライベートでも使えそうな服がいっぱいあるで。来たことある?」
 ううん、と俺は頭を振った。
「ほな、入るで!」
 ヤマモトは意気揚々と店内へ消えていった。

    *

「これ! どう? キレイな秋色や」
 ヤマモトが手に取ってきたのは、爽やかに澄んだブルーのネクタイだった。
「これが秋色? 今年の流行りなの?」
「流行りかどうかは知らんけど、秋色や」
「いやいや、秋色ってのは普通、暖色系を指すんだよ。赤とか何ていうの? こういう、黄土色? からし色か。……とか」
 俺は手近にあったからし色のセーターを手に取ってヤマモトに見せた。
「そちらは今週入荷したばかりの新色なんです。秋らしいマスタードイエローですよね」
 話を聞いていた店員が、何がそんなに楽しいのかと思うほどの笑顔で話しかけてきた。少しメイクが濃いが、可愛いらしい顔をしている。
「薄手のニットなのでスーツの下にも着れますよ。Vネックの他にクルーネックもあります。でもスーツの中ならやっぱりVですよね」
 凄い早口で説明してくる彼女に、俺は少し圧倒された。
「すみません。まだちょっと見てるだけで……」
「はい、全然大丈夫ですよー」
 彼女は笑顔を崩さなかった。
 そういやお洒落な五十嵐先輩はたまにスーツの中に薄手のセーターのようなものを重ね着していたな。でも俺が真似したら速攻で部長に怒鳴られそうだ。
「お仕事用でお探しですか? 秋色でしたら、赤でも鮮やかな赤よりもっと落ち着いた……」
 俺の様子を後ろから見ていた店員は、キョロキョロと辺りを見渡した。
「あずき色……じゃなくてワインレッドとか?」
「その通りです! 毎年バーガンディーは人気ですし、あと今年だとモスグリーンも流行りですよ」
 そう言いながら、どう見てもあずき色、もしくはワインレッドのカーディガンを手に取った。
「ああ、ばーがんでぃ…………ねぇ」
 ヤバい。もう何がなんだかわからない。からしがマスタードなのはまだわかるが、あずきはもうワインですらないなんて。ちょっと街に出なかった間に、こんな暗号みたいな言葉が使われるようになるとは。時代の流れとは恐ろしい。
 俺は引きつった笑顔で、その店員から逃れるように、ブルーのネクタイを持ったままのヤマモトに向き直った。
「なあ、ヤマモト。やっぱり今から使うならもうちょっと秋っぽい色のほうが良いんじゃないか?」
「だから秋色やないか」
「いや、だから、秋色ってのはもっとこう落ち着いた……」
「青山! 常識にとらわれるな! お前の目線から見えるものだけが世界の全てとちゃうぞ! 見ろ! この澄んだ青を! 空を~みあげ~てぇ~」
「ちょ、店内で歌うな!」
 店員はクスクス笑いながら「面白い方ですねー」と言ったが、この笑顔の下の本音ではどう思われているのかと考えるだけで、背中を冷や汗がつたった。

「ほら、これとかどう?」
 慌てて店員から遠ざかった俺は、流行の〝バーガンディー〟と思わしき、あずき色のネクタイをヤマモトに示した。
「あかん! そんな暗い色! いま以上に顔が暗なるぞ」
〝いま以上に〟は余計だ。
「でも流行ってるってよ?」
「お前はほんま……。時代を追いかけるな! 時代に追いかけられる男になれ!」
 まーた、わけのわからんことを。
「お前がどうしてもその色がええんやったら、俺と勝負しろ」
 ヤマモトはグイッと拳を突き出した。
「はあ?」
「お前が勝ったらその暗いネクタイ、俺が勝ったらこのブルーのネクタイを買うんや」
「えーめんどくせえなあ」
「男と男の一発勝負やぞ」
 ヤマモトは拳を縦にして上下に振った。
「じゃんけんかよ」
「あと、俺が勝ったら禁煙しろよ。さーいしょーはぐー!」
「ちょちょちょ、何!? 今なにか余計なこと言ったよな!」
「出さぬが負けよ! じゃーんけーん!」
「ちょちょちょちょちょ!!! 待てって!」 
「ぽんっ!!」
 えーーーーーーーーー!
 気持ちとは裏腹に、俺は反射的に右手を突き出していた。
「フッ」
 ヤマモトが不敵に笑う。
「我が生涯に敵なし」
 ――――――最悪だ。
 俺は差し出した自分の握り拳を恨めしく眺めた。

      *

「なんでこれだったの?」
 手に買い物したばかりの紙袋をぶら下げ、俺はヤマモトに不満をぶつけた。紙袋の中にはもちろん、澄んだブルーのネクタイが入っている。
「色にはそれぞれイメージがあってやな。赤は情熱、黄色は元気、緑はやすらぎ、そして青は……」
 ヤマモトはぴたりと歩みを止めた。
「信頼や」
 そしていつになく優しい瞳で俺をじっと見つめた。
「お前の仕事はなんや、青山隆」
「営業……」
「信頼や」
 ヤマモトはそう繰り返すと、ニカッと笑った。
 思わず息を飲んだ俺を見て、ヤマモトは再び鼻歌まじりに歩き出した。
「にしてもさあ」俺はしつこく食い下がった。
「あんなのずるいぞ。なんだよ禁煙って」
「ええやん、別に体に悪いこと勧めてるんちゃうねんから」
「そりゃあ、そうだけどよ……」
「健康になって、お金も浮いて、女の子にモテる! 一石三鳥やで」
「そん…………モテるってことはないだろ」
「嘘やと思うんやったら訊いてみ? タバコ吸ってる男と吸ってない男。彼氏にするならどっちがいいか。八割は吸ってない男って言うぞ」
「……………………そうなの?」
 ヤマモトは俺の心を見透かしたようにニヤッと笑うと、話は終わったとばかりに今度は声に出して歌い始めた。
「そ~らを見上げて~」
「だから何の曲だよ」
 俺は力なく最後の文句を口にした。

     *
 
 ヤマモトと別れ、地元の駅に着くと俺はブツクサ言いながら歩いた。
 なんでちょっと買い物にきたつもりが、禁煙する羽目になってるんだよ、まったく。しかもいつのまにか、毎度アイツのペースにハマってるし。結局何の曲かも教えてくれなかったし。なんか悔しい。
 ヤマモトは帰り道のさなかずっと鼻歌を歌っていた。そんなに買い物が楽しかったのか。…………それならそれで、まあ良かったけど。
「今日はあったかいな」
 日差しが強く、眩しいくらいだ。
 俺は立ち止まって空を見上げた。「そら~をみあーげてー……」いつのまにかヤマモトが歌っていた変な歌を覚えてしまった。頭上には清々しいほどに晴れ渡った、抜けるような青空が広がっていた。
「天高―く…………秋晴れか。澄んだ青だな」
 ふと、手元で揺れている紙袋に目をやった。中には…………。
 思わず笑みがこぼれた。
「確かに…………。秋空色(あきいろ)だな」
 どこからかヤマモトの鼻歌が聞こえてくるような気がした。


END



第21回電撃小説大賞〈メディアワークス文庫賞〉受賞作
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電撃文庫『ちょっと今から仕事やめてくる』(著/北川恵海 イラスト/やまざきももこ)
発売中!

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◇  第21回電撃小説大賞受賞作特別短編続々登場!
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公開中 金賞「運命に愛されてごめんなさい。」
公開中 大賞「ひとつ海のパラスアテナ」(第1回)
公開中 大賞「ひとつ海のパラスアテナ」(第2回)
公開中 大賞「ひとつ海のパラスアテナ」(第3回)
公開中 大賞「ひとつ海のパラスアテナ」(第4回)
公開中 大賞「φの方石 ―白幽堂魔石奇譚―」
公開中 銀賞「レトリカ・クロニクル 嘘つき話術士と狐の師匠」
公開中 メディアワークス文庫賞「ちょっと今から仕事やめてくる」
3/13(金)更新 銀賞「マンガの神様」
3/14(土)更新 銀賞「いでおろーぐ!」

◆◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
◇  第21回電撃小説大賞受賞作特設サイト公開中!
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2月10日/3月10日に電撃文庫から、2月25日にメディアワークス文庫からそれぞれ発売される、第21回電撃小説大賞受賞作。その魅力を大紹介する特設サイトが公開中!
◆第21回電撃小説大賞受賞作特設サイト◆
http://dengekitaisho.jp/special/

◆電撃大賞公式Twitterアカウント◆
@dengeki_taisho

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17ヶ月前
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関西弁で離すノリが個人的にイマイチなんでこれでなんとか賞と言われても正直よくわからん
16ヶ月前
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16ヶ月前
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