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【俺を好きなのはお前だけかよ】俺とお前の作戦会議
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【俺を好きなのはお前だけかよ】俺とお前の作戦会議

2016-02-18 00:00
  • 28
  • 14
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あらすじ:
 ここで質問。もし、気になる子からデートに誘われたらどうする? しかもお相手は一人じゃない。クール系美人・コスモス先輩と可愛い系幼馴染み・ひまわりという二大美少女!! 意気揚々と待ち合わせ場所に向かうよね。そして告げられた『想い』とは! ……親友との『恋愛相談』かぁハハハ。
 ……やめだ! やめやめ! 『鈍感系無害キャラ』という偽りの姿から、つい本来の俺に戻ったね。でもここで俺は腐ったりなんかしない。なぜなら、恋愛相談に真摯に向き合い二人の信頼を勝ち取れば、俺のことを好きになってくれるかもしれないからな! ん? 誰が小物感ハンパないって?
 そんな俺の哀しい孤軍奮闘っぷりを、傍で見つめる少女がいた。パンジーこと三色院菫子。三つ編みメガネな陰気なヤツ。まぁなんというか、俺はコイツが嫌いです。だって俺にだけ超毒舌で、いつも俺を困らせて楽しんでいるからね。だから、コイツとは関わりたくないってわけ。
 なのに……俺を好きなのはお前だけかよ。

今回は発売以降、多くの反響を呼んでいる第22回電撃小説大賞<金賞>受賞作『俺を好きなのはお前だけかよ』の書き下ろし短編を特別公開! 
これは、主人公のジョーロが聞きたくもない親友との恋愛相談を、幼馴染みのひまわりと美人生徒会長のコスモス先輩からされちゃうお話です。
自分勝手な言い分ばかりの恋愛相談に、いい加減うんざりしていると、なぜか自分に惚れている本作ヒロイン(?)・超地味眼鏡なパンジーから電話がかかってきて!?
結局、俺を好きなのはお前だけなのか……。

著:駱駝
イラスト:ブリキ

■俺を好きなのはお前だけかよ特別短編 俺とお前の作戦会議
――水曜日。
 学校から家へ帰宅し、鞄をポスンとベットの上に放り投げると、俺……ジョーロこと如月雨露(きさらぎあまつゆ)のスマホが、軽快な着信音を鳴らす。
 ったく、誰だよ? 俺はこの後、風呂に入って飯を食おうとしてたってのに……。
 だが、鳴ってしまったものは仕方がない。何か重要な用件だったら困るからな。
若干うんざりしながら、通話ボタンを押すと……、
『どうじよぉぉぉ!? ジョォォォロォォォ!』
 どうしようもないので、電話を切らせていただきますね。
 はい。ポチっとな。……とか出来たら、どれだけ楽だろう……。
「え、えっと……ひまわり?」
『う、うん……。そう……。わたし、ひまわりぃ……。本名は日向葵(ひなたあおい)で、名前を並び替えると向日葵(ひまわり)になるから、皆からひまわりって呼ばれてるジョーロの幼馴染ぃ……』
 ご丁寧に自己紹介ご苦労様です。
 でも、そんな配慮はしなくていいから、まずは俺に『今、時間ある?』って聞いてもらえません? そしたら、今から風呂&飯だから後にしてちょんまげって言えるんですよ。
『ねぇ……。サンちゃん……、怒ったよねぇ?』
 あ、その配慮はしない感じですね。続ける気満々ですね。
 心の底から鬱陶しいと思っていますが、俺には電話を切る権利がないってやつですね。
 はぁ……。やっぱり、サンちゃんの話か。
 まぁ、てめぇはサンちゃんが大好きで、親友である俺にわざわざ協力を要請してきたからな。
 まさか、日曜日に二人で出かけようって、幼馴染から誘われて恋愛相談をされるとは思わなかったよ。幼馴染=チョロインという形式美を見事に破壊してくれてありがとよ。
「そうだね……。あれは結構、怒ってたかな」
 ちなみに、俺の口調が心の声と違う理由はシンプルで、以前まで俺が、鈍感純情BOYを演じて、皆の人気者兼モテモテ状態を目指していたからだ。
その計画は見事に頓挫し、諦めている状態ではあるが、今更本性を出して皆から嫌われることを恐れた俺は、未だに鈍感純情BOYを演じて、その口調を維持しているわけだ。
『ジョーロのバカァァァァァ! うぇぇぇぇん!』
 事実を言っただけで、バカ呼ばわりされた。完全な八つ当たりである。
「ご、ごめん……」
 くそう……。本性さえ出せれば、今すぐにでもブチギレて電話を切れるというのに……。
『うぅ……。わたしの方こそごめん。サンちゃんを怒らせたのはわたしだし、ジョーロに怒るのは、ちょっと間違ってるよね……』
 ちょっとじゃない。全部。
 反省を口にしたのは褒めてやるが、言い方をもう少し考えろ。
『……ぐす』
 電話の向こうから聞こえるひまわりのすすり泣く声。
 なぜこいつが泣いてるかというと、それは今朝に起きた一つの事件に起因する。
 サンちゃんという男は、熱血漢で真っ直ぐな男であり、誰かの悪口などを極端に嫌う男気溢れた性格をしている。
 にも関わらず、ひまわりはうっかり、とある人物の悪口を言ってしまったのだ。
 その人物が先輩であるにも関らず、『あの女』呼ばわり。当然、サンちゃんは怒った。
 そして今日はそれ以降、一切ひまわりと口を聞かなかった。それでこいつは泣いているのだ。
「えっとさ……、まずは明日、サンちゃんにちゃんと謝ろうよ」
『でも、それでサンちゃん許してくれる? すっごい怒ってたよ?』
 てめぇはまず、その考えを変えろ。
 謝罪ってのは、許してもらうためにするんじゃねぇ。自分が反省していると相手に伝えるためか、めんどくさくてその場を乗り切りたい時に使うんだ。よく覚えとけ。
「それは分からないけどさ、サンちゃんはちゃんと言えば分かってくれるから、意味がないってことはないと思うよ」
『やだ! サンちゃんに許してほしいんだもん! だから、許してもらえる方法を考えて!』
 こいつの頭部を、今すぐハリセンでスパーンとはたいてやりたい。
 えーっと、俺の部屋に画用紙はっと……。
『ジョーロ! わたしのお話、ちゃんと聞いてる!?』
 聞いた上で返事をしてねぇんだよバカ女! ちょっと学内で一、二を争う美少女だからって調子に乗るんじゃねぇ! 俺はもうてめぇとなんざ話さねぇからな! じゃあな!
 って、電話が切れる立場じゃない自分が怨めしい……。
「ちゃんと聞いてるよ。ただ、許してもらえる方法を考えてて、返事が遅れちゃったんだ」
『そっかぁ! なら、許してあげる!』
 おいこら。何で俺が悪いみたいな感じになってんだよ? 全部、てめぇが悪いんだからな。
 そこんとこ、しっかり理解しとけ。
『それで、どんな方法?』
 まだ考えてねぇっつうの。いきなり明るい声になったと思ったが、俺がサンちゃんに許してもらえる方法を考えたからだと判断したからかよ。
「えっとね……、そうだ。サンちゃんに謝りつつ、何かお詫びの物を用意するってどうかな?」
『お詫びの品?』
「うん。例えばだけどさ、サンちゃんは野球部だし、野球が大好きだから、野球場で売ってる好きな選手のサインボールを買ってきてあげるとかどうかな? 結構、喜ぶと思うよ」
『えー! けど、もう十九時だし、今からジョーロはそれを買って、帰ってこれるのぉ?』
 うん。俺が買いに行く前提で話を進めるのをやめようか。
 君が怒らせたんだよ? 俺は怒らせてないんだよ?
「うーん。今日は無理だけど、明日なら……」
『それじゃダメ! わたしは明日、許してもらいたいの! ジョーロのバカ!』
 鏡、見てこい。俺以上のバカがそこに映っているから、今すぐ見てこい。
「でも、そうなるとやっぱり、謝るしかないと思うよ?」
『むー!』
 電話の向こうから聞こえてくる、ひまわりの不機嫌な声。
 恐らくハムスターのように、頬をふくらませているのだろう。
『もういいもん! じゃあ、わたしが考えるもん!』
「あ……、うん」
 初めから、そうしろバカ。
『バイバイ、ジョーロ! お話聞いてくれてありがとう! 嬉しかったよ! ふーんだ!』
 お礼を言いたいのか、怒ってるのかどっちやねん。
 てめぇはいつから、ツンデレ要素を取り入れたんだ?
 まぁ……、感情的にはなっているが、多分反省をしているのだろう。
 サンちゃんに対してやったことも、俺に対しての狼藉も両方。
 だったら一応、俺もサンちゃんに許してもらえる方法を考えておくか。
 めんどくさいけど、協力する約束はしてるしな。
 はぁ……、本当は俺も、他人の恋の協力じゃなくて、自分の青春を楽しみたいんだけどなぁ。
 残念な役回りだよ。まじで……

    ※

 ひまわりとの電話を終えた俺は、入浴を済ませ自室へと戻っていた。
 あー! サッパリした! やっぱ、風呂はいいよな!
 ワシャワシャと自分の体を洗っていると、心の汚れまで落ちていくような錯覚すらある。
 じゃあ、次は……、スマホが鳴りましたね。
 ったく、ひまわりの奴、まだ何か――
『ど、ど、ど、どうしよう!? ジョーロ君!』
 ど、ど、ど、どうしようもないので、切らせていただきます!
 って、出来る立場じゃないのが忌々しい……。
「えーっと……、コスモス会長?」
『そ、そうだ! コスモスだ! 本名は秋野桜(あきのさくら)で、そこから秋と桜をとって秋桜(コスモス)となることから、皆からコスモスと呼ばれている生徒会長の私だ!』
 はい。こっちも自己紹介バッチリですね。
 読者の皆様への配慮は伝わったんだけど、君も俺に配慮しないやつですよね?
 俺、これから飯なんだよ? 『今、大丈夫かい?』とか確認できないのかな?
『その……。サンちゃんは怒ってしまっているよね?』
 確認なしでドストレートにきちゃうやつですね。
 どうして君達は、俺の都合を微塵も考えてないのかな? アホだからだね。ごめんなさい。
「そうですね。あれはかなり怒っていたと思います」
 もうめんどくさいから、こっちもドストレートに言ってしまおう。
 サンちゃんは君に怒ってるの。だから明日は大人しくしているか、反省していなさい。
『そんな思いっきり言わなくてもいいじゃないか! 少しは私の気持ちを考えてくれよ!』
 てめぇが考えてねぇから、こっちも考えてねぇんだよ。アホ。
「すみません……」
『いや……、私の方こそすまない……。元はと言えば私が悪いのだし、ジョーロ君に怒るのは、統計的に見ると、筋違いだよね』
 統計的に見なくても筋違いだよ。
 こいつら、さっきから何なの? 俺から先に謝らせないと、気がすまないの?
 あー。まじでムカついてくるなぁ。テンパってるのは分かるけど、多少は心にゆとりを持て。
 おっと、ここで一つ、皆への配慮も俺をしておかなくてはならないな。
 現時点で既に理解できていると思うが、ひまわりと同様、コスモスもサンちゃんが好きだ。
 才色兼備な生徒会長と天真爛漫な幼馴染。
 そんなヒロイン要素盛沢山の二人が、サンちゃんを巡って骨肉の争いをしているのだ。
 そして、その両方の恋の手伝いを俺はしている。
 と言っても、こっそりやっているわけではない。
 むしろ堂々と、二人に対して平等に協力することはちゃんと伝えてある。
 まぁ、そこに至った経緯は長くなるから省略させてもらう。
 俺にも色々あったんだなと思ってくれ。
 閑話休題。
『はぁ~……』
 電話の向こうから聞こえるコスモスの落ち込んだ溜息。
 ちなみにこいつこそが、ひまわりに『あの女』呼ばわりされた女だ。
 まぁ、一応恋のライバルだからな。つい、喧嘩腰になってしまう気持ちは分かる。
 だがこの二人、性格はまるで違うくせに、面白いぐらいに行動パターンが似てるのだ。
 で、揃いも揃ってやらかしたわけだ。
 ま、説明はこんなもんでいいだろう。二回も同じ内容を話すのは、めんどくさいし。
『サンちゃんの前でひまわりさんを「小娘」呼ばわりなんて、ご法度だよね……。いくら同じ相手が好きな者同士だからといって、あんな風に嫌悪感を見せてしまっては、怒って当然だ……。彼は一本気で誰かの悪口を極端に嫌う性格だと、分かっていたのに……』
 ねぇ、それ俺に話してるの? 読者に話してるの? もう十分悟ってもらえてるから、そこまで配慮しなくてもいいんだよ? ねぇ、分かってるそこんとこ?
 ……しかしアレだな。コスモスはひまわりと違い、比較的冷静な気もする。
 今の発言でも、ひまわりのことを『小娘』ではなく、『ひまわりさん』と呼んでるしな。
 なら案外、話は簡単に進むかもしれない。
「まずは明日、サンちゃんにちゃんと謝りませんか?」
『そうだね。私もそう思うよ。伝わる伝わらないの問題ではなく、まずはしっかり謝罪の意志を示す。これが大切だ』
 お! コスモス、やるぅ~。
 そういう態度なら、俺の協力体制を少しだけ君に傾けちゃうぞ。
 バカでワガママな幼馴染より、アホだけど他人のことを思いやれる生徒会長の方が、サンちゃんも付き合ってて、楽しいだろう。
「そうですね。サンちゃんならその気持ちを、きっと分かってくれますよ」
『よかったぁ! なら、私がちゃんと謝れば、サンちゃんと一緒にお昼ご飯が食べられるということだね!』
 あ、前言撤回しまーす。謝ったらそれでおしまいとか思ってる時点でアウトでーす!
 気持ちを分かってもらえたからって、すぐに許してもらえるとは限らないでしょ?
「い、いや、それは分かりませんよ……。とても怒っていて、しばらく口を聞いてくれない……ということもないとは言い切れません」
『ひぃぃぃぃぃぃぃ!』
 そんな悲鳴を、電話の向こうから聞いた俺の方が『ひぃぃぃぃぃぃぃ!』だ。
 どんだけビビッてんだよてめぇは。いや、まぁビビるか。
 好きな相手に、しばらく無視されるとかきついよな。今のは俺の言い方も悪かった。
すまん。直接は謝らんけど。
『そ、そんなの嫌だ! ジョーロ君、どうにかしてサンちゃんと私が、小粋なトークが出来る関係にまで修復してくれ!』
 そもそもてめぇは、サンちゃんといると乙女チックに緊張しまくって、小粋なトークすらできてねぇだろうが。
 なにちゃっかり、修復どころか向上を目指してやがる。上昇志向も程々にしろ。
「それをするには、まずコスモス会長が緊張するのをどうにかしないと……」
『大丈夫だ! 明日から頑張る予定だから!』
 それ、全国で胡散臭い言葉ランキング上位のやつだからな。
「なら、まずはサンちゃんにメールをしましょう。早めに行動した方がいいでしょうし、明日の朝、話したいことがあるから、少し時間を作ってもらえないかって」
『だが君は、サンちゃんに放課後、時間を作ってもらうようにメールでお願いしているだろう? そこに加えて朝まで、君にメールをしてもらうのは申し訳ない気がするよ……』
 まずは何でもかんでも俺にやらせようって考えを、申し訳ないと思おうか。
 違うよね? 俺からしても意味ないよね? そんぐらい分かるよね?
「いえ、するのはコスモス会長です」
『わ、私ぃ!? そんなの無理に決まっているだろう!』
「頑張って下さい」
『私が頑張るのは明日からだ!』
 そういえばそうだった! ……って、そんなしょうもないフラグ回収はせんでええわ!
「でも、僕からしても意味はないですよ?」
『はぁ……。まったく……、君は私を困らせるのが上手いな』
 いえいえ、貴方には負けますよ。
『もういいよ。君に頼りすぎた私がいけないのだろうね。少し、自分で考えてみるさ』
「あ……、分かりました」
 初めから、そうしろアホ。
『それじゃあね、ジョーロ君。あ、それと……』
 まだ何かあんのか? 俺はさっさと飯を食いに行きたいんだから、手短に済ませろよ。
『話を聞いてくれてありがとう。色々と感情的で自己中心的な発言をしてしまってすまなかった。以後、気をつけるよ』
 ……っち。俺を罵倒するだけ罵倒して電話を切ってくれりゃ、こっちも適当に合わせてりゃいいってのに、変なところで善人だから、コスモスもひまわりも厄介だ。
 まぁ、そうじゃなきゃ、そもそも協力してないけどな。
 こいつらなら、どっちが付き合うことになっても、サンちゃんが幸せになれるって俺が思ったから、協力してるってのが本音だしな。
 けど、もしサンちゃんに対して何か迷惑をかけたら、まじで許さねぇからな。
 それだけはしっかりと肝に銘じておけよ……。コスモス、ひまわり。
 さてと、それじゃ飯を食いに行くか。さっきから母ちゃんが結構でかい声で俺を呼んでるし。

    ※

 コスモスとの電話を終えた俺は、飯を済ませ自室へと戻っていった。
 あー! 美味かったぁ! やっぱ、飯はいいよな!
 モシャモシャと飯を食っていると、心まで満たされているような錯覚すらある。
 あー! 美味かった! じゃあ、次は……、おっとここでスマホは鳴らないぜ?
 何でかって? そんなものは決まっている! 俺がスマホの電源を落としたからだ!
 もう、ひまわりともコスモスとも十分に語り尽くした!
 だというのに、これ以上余計な話をして、ストレスを溜めたくないってわけ。
 だからプチッと電源をOFFにしておいたわけですよ。俺って賢い!
 と、いうことで飯も風呂も終わったし、まったりとベッドでマンガでも――
「雨露―! おうちの電話に、あんたに学校の子から電話がかかってきたわよぉ!」
 そこまでするぅ!? もういいじゃん! さっき、十分話したじゃん!
 大体な、一人と話すと何故か知らんが、もう一人が似たような行動をするんだぞ君達は!
 そこんとこちゃんと考えて……くそ!
「雨露、早くー! CMが明けちゃうのー!」
 一階から急かす母ちゃんの声。俺には悩む時間すら与えられないらしい。
 とりあえず仕方がないので、俺は大人しくスマホの電源をONにした。
「分かった! スマホを充電し終わって電源入れたから、そっちにかけてくれって言ってもらってもいいか?」
「はーい!」
 さて、ひまわりとコスモス。どっちが俺に電話をかけてきた?
 どっちにしろ俺は鈍感純情BOYを演じて、オドオドと電話に出るわけしかないが……って、誰だこの番号? 登録されてない番号だぞ? って、まさか……。
『こんばんは。貴方の待ち焦がれていた私――』
 待ち焦がれてなかったんで、電話を切っちゃいますねー☆
 はい。ポチっとな。
 ……あ、今回は切りましたよ。問答無用で切りましたよ。
 さーて、まったりとベットでマンガでも――
「雨露ぅぅぅ! スマホの電源入れてないでしょ! また学校の子から電話かかってきてるわよ! ビストロが始まっちゃったんだから、早くしなさい!」
 ウィー! ムーッシュ! 本日のご注文は『電話に出る』でございまーす!
「もう一回かけてもらうように言ってくれ! ちゃんと電源を入れたから!」
「本当ね!? あんた、嘘ついたらPちゃんの刑に処すからね!」
 それは変な着ぐるみを着せられるのか、母ちゃんと良く分からないラブシーンを演じるのか、どちらになるのだろう? ……どっちにしても地獄だな。
 そんなどうでもいいことを考えていると、再び軽快な着信音を奏でるスマホ。
 画面を見ると、先程と同様、登録されていない電話番号。つまり、アイツだ。
 いつもいつも、俺に対して様々な嫌がらせをしてくる大嫌いなアイツだ。
 学内で唯一、俺の本性を知っている、厄介極まりない魔王の権化であるアイツだ。
 本当は出たくないが、これ以上母ちゃんに迷惑をかけるわけにもいかねぇし……出るか。
「はぁぁぁぁぁぁ~」
 全力で溜息を出しながら、俺は通話ボタンを押した。
『こんばんは。貴方の待ち焦がれていた私からの電話よ』
 先程とまったく同じ無感情な淡々とした声。
俺が電話を即座に切った件について、触れるつもりはないらしい。
「微塵も待ち焦がれていなかったので、電話を切ろうと思う」
『それは困るわ』
「そうか。俺も電話番号を教えてもいない相手から電話がかかってきて、心底困っている」
『あら、さっきメールをしたのだから、電話もできて当たり前でしょう?』
 その前に、メアドと電話番号をどうやって入手したのかを説明して欲しい。
 どちらも教えていないというのに、何と恐ろしいエスパー能力の持ち主だろうか。
「わかった。その通りだな。じゃあ、用件は済んだと思うので、電話は――」
『なら、大賀(おおが)君に電話でもしてみようかしら。どこかの誰かさんが、性格を偽りつつ、二人の女性の恋の手伝いをしているお話をしたら、きっと盛り上がれるわ』
「いやー! 俺、君からの電話を待ち焦がれてたんだよね♪」
『初めからそう言えばいいのに。もう……、恥ずかしがり屋さんなんだから』
 この、クソ女がぁぁぁ!
 こいつに俺の本性と現在の問題全てを把握されてしまったのは、俺の人生史上最大の失敗と言えるだろう。つっても、勝手にストーキングされてバレたから防ぎようはなかったが……。
『なら、私の用件を伝えてもいいかしら?』
「出来る限り手短に頼む。俺は忙しい」
『分かったわ。ところでさっきから、どうして私のあだ名を呼んでくれないの?』
「呼ぶ必要がないからだな。用件は済んだか?」
『ひどいわ。日向さんと秋野先輩からの電話の時は、ちゃんとあだ名を呼んでたのに……』
 あのさぁ、がっかりした声を出してるとこ悪いんだけど、何で知ってるの?
 前々からエスパー能力豊富なのは知ってるけど、やりすぎだよね? 人外だよね?
『ねぇ、私のあだ名、呼んでちょうだい』
「なんだよ……。パンジー?」
『ふふふ。こうして電話で貴方に呼ばれるのって、ドキドキするわね』
 きっも! まじ、きっも! 危うく晩御飯を全部リバースするところだったわ!
『そう。私はパンジー。本名の三色院菫子(さんしょくいんすみれこ)を略して、三色菫(パンジー)になるのが由来よ。ちなみに図書委員で、学校で一番、ジョーロ君が好きな女の子』
「そこに加えて三つ編み眼鏡で、ありえないほどに地味でブスで、胸もペッタンコだから夢も希望もないという情報を付け加えた方がいいな」
『アドバイスありがとう。次から気をつけるわ』
 しまった。次を作ってしまったぞ……。
『でね、ジョーロ君。私、とても困っているの』
「そうか。大変だな。頑張れ」
『分かってるいわ。だから今、頑張ってるんじゃない』
「は? どういう意味だよ?」
 電話の向こうでなにをどう頑張って、一体なぜ俺に電話をかけてきた?
『あのね、私、貴方のことを考えていたら胸がとても苦しくなってしまったの。だから、こうして恥ずかしいけど頑張って、大好きな貴方に電話をしてみたわ』
「ほ、ほほぅ……。つまり、俺に対してこれといった用はないと?」
『違うわ。こうして、お話をするのが用よ』
 コメカミがすさまじい勢いでビキビキしてきたので、人差し指で圧迫。
 我慢だ……。我慢しろ俺。……あ、そうだ。ちょっと思いついたぞ。
 どうせこいつは満足するまで、電話を切ろうとしない。こっちから切ってもまたかけてくる。
 なら、この状況を利用してやろう。
「なぁ、パンジー。俺から一つ、てめぇに相談がある」
『まぁ。ジョーロ君から私に相談なんて……。……分かったわ。初めてのデートは、渋谷にしましょう。宮益坂に美味しいカフェがあるの。楽しみにしてちょうだいね』
「地味なくせに、若者の街に案外詳しいなおい!」
『他にも、折りたたみ式柔道場がある学校の見学がオススメよ』
「それはちょっと見に行きたい! どうなってんだそれ!? ……って、そうじゃねぇよ!」
 なぜ、相談をしようとしたら、行きもしない渋谷デートトークが始まっているのか?
『あら。違ったのね。残念だわ』
 俺はてめぇのぶっとんだ思考が残念でならない。
 まぁいいや。トロトロしてると、また話をそらされそうだし、早く聞いちまおう。
「あのよ、誰かを怒らせた時に、すぐに許してもらえて、前よりもいい関係が築ける方法って何かあるか?」
『難しい相談ね。日向さんと秋野先輩が大賀君を怒らせてしまって、どうにかしてとでも言われたのかしら?』
 ……するどひ。
「まぁ……、そんなところだ」
『そうね。最初は謝ることが大切だと思うけど、いくら愚鈍が服を着て歩いているジョーロ君でも、それは言ってるだろうし、他の方法を知りたいのよね?』
 余計なオプションはつけないでもらっていいかな?
 愚鈍が服を着て歩いているとか、初めて言われたからね。
「ああ。そうだよ。他にもお詫びに物を送るってのと、メールで予め朝に約束を取り付ければってのが、却下された」
『知っているから、言わなくても平気よ。安心してちょうだい』
 知っているという事実が、尋常ではない不安を俺に募らせた。
『そうね……。少し考えるわ……。思いついたわ』
「はやっ! てめぇ、すげぇな!」
『そ、そんなに褒められると……恥ずかしいわ』
 あ、ちょっと照れてる。案外、ドストレートにほめると効果はあるのか。
 それなら今後も……って、こいつの好感度を稼いでどうすんだよ!
『日向さんも秋野先輩も、大賀君を怒らせていることは反省していると思うの。けど、自分で動く勇気がない。だからジョーロ君に何かをしてもらいたい。ここまでは分かるわよね?』
「ああ。まさにそんな感じだ」
『なら、簡単じゃない。貴方が動けばいいのよ』
「俺が動いたって意味ねぇだろ。あいつらがサンちゃんを怒らせたんだぞ?」
『動き方次第よ。貴方は二人が許してもらうように行動しなくていいの。貴方がするのは確認』
 確認? なんのこっちゃねん?
『明日、朝一番で大賀君に聞くの。「二人をまだ怒ってる?」って。それで怒っていないと答えたら、それを二人に伝えればいいし、怒っていると答えたら次に「どうしたら許してあげられる?」って聞けばいい。大賀君は素直な人だし、親友の貴方になら、きっと教えてくれるわ』
 想像以上にまともな答えすぎてビビッた。賞賛したくなった。
 でも我慢した。だって、褒めて好感度を上げたくないし。
『どう? 参考になった?』
「……非常に遺憾だが、参考になった」
『自分から聞いておいて、酷い言い草ね』
「だろ? こんなクソ野郎のことを好きになるなんて、やめておいた方がいい。てめぇにお似合いの男はきっと他にいるさ」
『何を言ってるの? 私は自分と似合う人じゃなくて、貴方を好きになったのよ』
「…………」
 なぜこいつは、ここまで堂々と『好き』といえるのだろう?
 しかも、その恋が芽生える可能性は極端に低いっていうかない。
 なぜなら、その恋する相手である俺が、こいつのことが大嫌いだからだ。
『もう、相談はおしまい?』
「ああ。これ以上、てめぇに聞くことは何もねぇ」
『…………そう。少し悩ましいわね』
 やけに長いタメの後、パンジーはそう言った。
「何がだよ?」
『私は貴方とお話していると、とても幸せなの。けど、こうして電話で話していると、貴方に直接会いたくなってしまうわ。だからもう、電話はおしまいにして、明日貴方に会って、沢山お話をすべきか、今から貴方に会いに行くかで悩んでいるわ』
「電話を切って、大人しく寝ろ。てめぇと今から会うなんざ考えられん」
『仕方ないわね。じゃあ、残りの楽しみは明日にとっておくわ』
 どうやらパンジーは満足してくれたらしい。
 やっと、俺の時間が帰ってくると思うと、幸福感がやばかった。
「じゃあな。パンジー」
『ええ。また明日。沢山電話でお話をしてくれてありがとう。すごく嬉しかったわ。それと貴方から電話を切ってもらっていいかしら? 私からは、とてもじゃないけど切れそ――』
 はい。ポチッとなー。切っていいならそりゃ切るさー。
 声で可愛いこと言ったって無駄だよ~? だって、君、実物が可愛くないもん。
 その辺はちゃんと鏡と相談してねぇ~。
 ……まぁ、しかしだ。なんやかんやでパンジーからは、いいアドバイスがもらえたな。
 俺に対してストーキング行為や嫌がらせばっかしてくる女だと思っていたが、案外、頼れるところもあるもんだ。
 気が向いたら、礼を言ってやろう。感謝するがいい。
 さーてと、んじゃ俺もそろそろ寝て、明日に備えるかぁ。
 また明日から、ひまわりとコスモスの恋の協力を……うっ! 何だか胃がキリキリしてきた。
 何で俺、こんなことになってんだろうな……。


〈完〉



【書籍紹介】
『俺を好きなのはお前だけかよ』
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著者/駱駝 イラスト/ブリキ
KADOKAWA 電撃文庫刊
好評発売中!!

第22回電撃小説大賞<金賞>受賞作!
俺はパンジーこと三色院菫子が大っ嫌いだ。
なのに……俺を好きなのはお前だけかよ。 
 ここで質問。もし、気になる子からデートに誘われたらどうする? 
しかもお相手は一人じゃない。クール系美人・コスモス先輩可愛い系幼馴染み・ひまわりという二大美少女!! 意気揚々と待ち合わせ場所に向かうよね。そして告げられた『想い』とは! ……親友との『恋愛相談』かぁハハハ。
 ……やめだ! やめやめ! 『鈍感系無害キャラ』という偽りの姿から、つい本来の俺に戻ったね。でもここで俺は腐ったりなんかしない。なぜなら、恋愛相談に真摯に向き合い二人の信頼を勝ち取れば、俺のことを好きになってくれるかもしれないからな! ん? 誰が小物感ハンパないって?
 そんな俺の哀しい孤軍奮闘っぷりを、傍で見つめる少女がいた。パンジーこと三色院菫子。三つ編みメガネな陰気なヤツ。まぁなんというか、俺はコイツが嫌いです。だって俺にだけ超毒舌で、いつも俺を困らせて楽しんでいるからね。だから、コイツとは関わりたくないってわけ。
 なのに……俺を好きなのはお前だけかよ。

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電撃文庫公式サイト
第22回電撃小説大賞特集サイト

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(C) 駱駝/KADOKAWA CORPORATION
他18件のコメントを表示
×
これが……大賞? 電撃どうしたのです。
5ヶ月前
×
昨今のライトノベルにおいて、
ヒロインの好意が別の男性キャラに向いているというのは舵取り難しそうだね。
実は主人公が好きで何某に相談していたという展開になりそうではあるが。
5ヶ月前
×
やっぱり電撃文庫は2003年までが全盛期だな…

それ以降なんかレベル一気に下がった。
自分が電撃読むのやめてホラー小説やミステリー小説に走ったのも電撃のレベルが急激に下がったから…

ラノベ嫌いじゃないけど、もうあの頃のような心躍る作品には出会えないんだな…
5ヶ月前
×
電撃のシリーズものではない新作ラノベを買わなくなってから数年たつけど、いつの間にかプロの作家さんでもベッドをベットと書いちゃうようになっちゃったんだなー。
これも時代の流れってやつかな。
おっと、別に否定する気はないのでドイツ語ではベットでも正解なんてくだらない意見はいらないからな?
5ヶ月前
×
ブリキのイラスト集のほうが気になる
5ヶ月前
×
読んだけど普通に面白かったわ。叩いてる奴読んでないだろ。
地の文が面白いから読みやすかった。
5ヶ月前
×
面白くないとは言ってないんだがネ、ただ市販の文庫にしてはちょっとレベルが低いなぁと思っただけで。
電撃文庫はあまり読んだことがないけどこれが普通ならありなんじゃないの?
5ヶ月前
×
※27
ただただレベルが低いだけですよ。
ネットの「小説家になろう」というサイトでももう少しマシなのが出てきます…

上にも書きましたが、電撃文庫は2003年までの金賞、大賞の作品が突出してる感じです。
ラノベとしてレベルが高い。
それ以降は見るに耐えない…
5ヶ月前
×
個人的にはなかなか好きな作品です。
ただ、主人公の性格に共感出来ない人にとってはつまらなく感じられてしまうかもしれません。
レベルとか文章力とか堅苦しいことは考えず、読んでみて面白いと感じたならそれでいいと思います。
所詮ラノベなんて文字の多い漫画みたいなものですし。
4ヶ月前
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読者に好かれるキャラをつくるってのも作家の能力でもあるんですがね
3ヶ月前
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