• このエントリーをはてなブックマークに追加
【全文無料公開】MMAスポーツ心理学の最新動向■OMASUKI FIGHT
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

【全文無料公開】MMAスポーツ心理学の最新動向■OMASUKI FIGHT

2013-03-21 12:04
    男の腕がのど元に絡みつき、締め上げられる。くらくらした感覚は、頸動脈と頸静脈が押しつぶされている証拠だ。5分も経てば、脳細胞が死に始める。リアネイキッド・チョークだ。

    あなたはもがき、叫び声を上げる。もはや何も考えられない。それが「闘争・逃走反応」とよばれるものだ。こうしたパニックは人間にとってノーマルなことである。

    その点、格闘家はノーマルではない。彼らは、本能が告げていることを無視する術を知っている。本能も間違うことがあるということを知っている。格闘家は、薄れゆく視界の中でこう考える。まだ大丈夫だ、なんとか脱出できるはずだ、敵の腕も疲れ始める頃だ、そうなれば隙が生じる……

    サンホセ州立大学のテッド・バトリン教授(スポーツ心理学)によると、それこそがMMAがほかのスポーツとは違うところだという。「MMAで上達するということは、普通の人が持つ当たり前の反応に従わないことを学ぶことでもあるのです」。

    最終的には、どこまで我慢する値打ちがあるのかにかかってくる、と語るのは、パフォーマンスエクセレンスセンターのエディ・オコーナー教授(スポーツ心理学)である。目の前の一勝のために、長期にわたって健康を害する可能性に身をさらすのは、普通の人から見れば値打ちのあることには見えない。そこをあえて、どの程度、怪我のリスクに身をさらすかどうかということには、選手個々人の、勝つことに対する価値判断が投影される。単なる精神的なタフさということではなく、そこには別の種類の心理学的な動機がある。オコーナー教授は、格闘技に自分を強く重ね合わせている人ほど、勝つことが自分の存在意義にとって重要になってくるため、強い動機を持っているという。

    ニューヨークのヘンゾグレイシー・ファイトアカデミーのコーチ、アンソニー・ブラシは、それこそがファイターとマーシャルアーティストの違いだろうと述べている。カネと名声、満足に貪欲な者は戦い続ける。技術を磨き上げることに価値を置く者は屈する。「自分のエゴを折って、参りましたというたびに、あなたの一部が死んでいく。ただ、その一部というのは、恐怖におびえて生きている一部なのだ」

    前述のサンホセ州立大学のバトリン教授は現在、スポーツ心理学の研究目的で、MMAファイターへの聞き取り調査を重ねている。これまでの調査で浮上した発見事実には、ほかに次のようなことがあるという。

    ●MMAがほかのスポーツと違うもう一つの点として、「優れた指導者とは、選手の気持ちをかき立てるのではなく、落ち着かせることがうまい」ということがある。試合に向けたトレーニングで重要なのは、かき立てられることと、落ち着かせることのバランスを取ることなのだという。選手がMGMグランドアリーナで試合をする場合、優れたコーチは、選手の頭の中で膨らむアリーナのイメージを、高校の体育館くらいにまで縮めてやれる方法を知っているのだという。

    ●いったんゴングが鳴ったあと、MMAファイターが対戦相手に感じるある種の親しみも、他のスポーツではあり得ないことだという。選手は、対戦相手の身体を直接感じる。筋肉の力が弱くなったり、気持ちが緩んでくるのを感じ取る。対戦相手が自分のことを怖がっているのか、いらついているのか、心が折れているのか、明瞭に感じとれるのだという。

    ●MMA心理学で最も謎なこと、まだその仕組みが解明されていないことは、選手が時には、自動操縦で戦っていることがあるということだ。強い打撃を受けて気を失っても、そのまま試合を続け、時に勝ってしまう。「ラウンドインターバルでコーナーに戻るまで、自分がいま、どこにいるのかもわからないというのは、いったいどのような対処能力なのだろうか。安易に考えれば、マッスルメモリーの働きかな、とも思うが、実際のところ、まったくわからない。データがなさ過ぎる。心理学的に見て、攻撃にさらされている状態で、どうやって勝ったかをまるで覚えていないというのは、実に興味深い」

    ●2Rまでほぼ無傷だったような選手でも、最終ラウンドを迎えるに当たって、自分に入り込みすぎて、周囲が全く見えなくなることが多い。ここで重要なのがセコンドである。バトリン教授によると「セコンドには技術的なアドバイスができる人と信頼ができる人を置くべきです。選手は疲れ果ててしまい、技術的なアドバイスを聞くことができなくなった場合、信頼できる人や友達が、余計な情報を吸い取ってやることが重要であるようです」と語っている。

    バトリン教授は、「サッカーがうまくなるという論文なら200本もありますが、良いMMAファイターになるための論文は5本もないでしょうか」と語っており、今後MMA心理学の論文をまとめていく予定なのだそうだ。

    (文 高橋テツヤ Omasuki Fight) 

    (出所)
    Mike Bebernes, THE PSYCHOLOGY OF SUBMITTING, FIGHTLAND BLOG, Mar 8, 2013

    Peter Rugg, THE FIGHT OF THE MIND, FIGHTLAND BLOG, Jan 31, 2013
    チャンネル会員ならもっと楽しめる!
    • 会員限定の新着記事が読み放題!※1
    • 動画や生放送などの追加コンテンツが見放題!※2
      • ※1、入会月以降の記事が対象になります。
      • ※2、チャンネルによって、見放題になるコンテンツは異なります。
    ブログイメージ
    Dropkick
    更新頻度: ほぼ毎日
    最終更新日:
    チャンネル月額: ¥550 (税込)

    チャンネルに入会して購読

    コメントを書く
    コメントをするにはログインして下さい。