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記事 10件
  • 長谷川幸洋 コラム第19回 消費増税+経済対策という財政政策の矛盾を「声なき国民」はどう評価するか

    2013-09-26 20:00  
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    消費税引き上げ問題の決着が迫ってきた。来年4月に予定通り8%に引き上げて、同時に景気の落ち込みを防ぐために5兆円規模の経済対策を講じる方向だ。そんな増税と景気政策ミックスをどう評価するか。
    消費税を増税するなら、別項目で減税すべき
    私はいまでも「増税を先送りすべきだ」という意見に変わりはない。9月6日公開のコラムで書いたように、増税の必要があるなら、景気が過熱したときに実行するほうが望ましい。今回のように、右手で増税しながら、左手で景気が心配だから経済対策というのは、そもそも財政政策の方向として矛盾している。
    景気が心配なら、単純に増税を先送りして、増税しても絶対に大丈夫というまで景気が改善するのを待てばいいだけだ。「経済対策が必要だ」というのは一見、もっともらしいが、実は「景気が完全に回復していない」ことを認めている証拠である。
    そういう基本の話を前提に考えると、経済対策のあるべき姿も
  • 堀潤 シリーズ「テレビがテレビではなくなる日」 【第2回】 パナソニックCM拒否問題

    2013-09-25 20:00  
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    パナソニック「スマートビエラ」のHPより
    業界ルールを逸脱しているという指摘
    パナソニック製スマートテレビのCM放送拒否問題は、メーカー側がテレビ局に配慮する形で幕を閉じた。
    今年7月上旬、電源を入れると放送番組とインターネットサイトなどが同時に画面に表示されるのは関係業界で定めたルールに違反しているとして、民放各局がパナソニックが開発した新型スマートテレビのCM放送を拒否しているということが明らかになった。
    テレビ局が大口の広告主のCM放送を拒否するのは異例だが、局側は、テレビ放送とインターネットが同時に表示されることで視聴者に混乱を与えるという理由から強い姿勢を打ち出していた。
    スマートテレビとは、いわゆるインターネットと連動した機能を充実させた次世代型のテレビで、放送番組を見ながらYouTubeを同じ画面で起動させたり、スマートフォンの様にアプリを起動させてテレビで動画コンテンツなど
  • 田原総一朗 「やられたら、やり返す!」 自衛隊には、どこまで可能なのか?

    2013-09-24 20:00  
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    〔PHOTO〕gettyimages
    アメリカによるシリアへの軍事介入は、回避された。アメリカのケリー国務長官とロシアのラブロフ外相が会談し、現在シリアが保有している化学兵器をすべて廃棄することで合意。それをシリアのアサド政権が受け入れたのである。
    ひとまずよかったというべきだが、実は何も解決してはいないのだ。いくら化学兵器を廃棄したとしても、内戦は続く。そして、その内戦による被害者は、月に5千人とも言われている。彼らには何の罪もない。政治と宗教対立に巻き込まれて、多くの人びとが命を失っていく。なんともむごいことだと思う。
    今回の騒動は、はからずも、アメリカの弱体化をさらけだした。かつての「世界の警察」アメリカならば、「化学兵器を廃棄」などという甘い結論で、軍事行動をとりやめることはなかっただろう。
    今回、アメリカの軍事行動はなかった。しかし、こういうことが起きると考えざるをえない問題がある。日本の安全保障についてだ。
    先週14日の「激論!クロスファイア」には、前防衛大臣の森本敏さん、元陸上幕僚長の火箱芳文さん、元海上幕僚長の古庄幸一さんにご出演いただいた。防衛相の前トップ、陸海の自衛隊の2トップに議論していただいた。
    彼らが口を揃えて言っていたのは、「自衛隊は縛られた組織だ」ということである。たとえば、海上保安庁の船が目の前で攻撃されたとする。ところが自衛隊は反撃できない。海上保安庁は国土交通省所属であり、自衛隊とは別組織だ。だから自衛隊が攻撃されたことにならないのである。相手に反撃するにはどうするか。海上保安庁の船の前に自衛隊の船が出て、相手から攻撃を受けるのを待つのだ。攻撃を受けて初めて反撃できるのである。まさにがんじがらめだ。
    当然、現場にはジレンマがある。したがって問題なのは、いざとなったら彼らが「超法規的」に軍事行動を起こす、という可能性が高いことだろう。処罰覚悟で反撃する、ということだ。自国の国民を守れずに、何が「自衛隊」かというわけだ。 
  • 田原総一朗 50年前の東京オリンピック、僕はできたばかりのテレビ局のディレクターだった

    2013-09-20 20:00  
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    〔PHOTO〕gettyimages
    9月8日、2020年のオリンピック・パラリンピックの開催地が、東京に決まった。猪瀬直樹都知事も言っているように、「チームプレイ」が東京に招致成功をもたらしたのだろう。
    石原慎太郎都知事のときにも、東京は開催地に名乗りをあげていた。だが、当時の鳩山政権は非協力的、というよりは招致反対であった。今回は、東京都と国が強力なタッグを組んだのだ。
    日本のプレゼンテーションもたいへんすばらしかった。なかでも、佐藤真海さんのスピーチは多くの人の胸に響いたのではなかろうか。佐藤さんは宮城県気仙沼市の出身だ。彼女は、大学在学中に病に冒され、右足のひざから下を切断している。いま、彼女はスポーツ義足をつけ、走り幅跳びの選手として、パラリンピックに3大会連続で出場している。「私がここにいるのは、スポーツによって救われたからです」。佐藤さんの言葉に僕は心を打たれた。
    五輪招致のプレゼンテーションで安倍晋三首相は、福島第一原発の汚染水問題を「コントロールされている」「完全にブロックされている」と説明した。汚染水の問題は、まだ楽観視はできないと僕は思っている。だが安倍内閣は、国として汚染水の問題に取り組むという方針を示していたことは評価する。
    東京で初めてオリンピックが開かれたのは、1964年のことである。当時僕は、オリンピック開催に合わせて開局した東京12チャンネル(現、テレビ東京)のディレクターだった。ところが、生まれたばかりのわが局には、オリンピックを取材する能力がなかった。ノウハウがないというレベルではない。「能力」がないのだ。機材、人材……。何もなかった。結局、NHKが撮影した映像を買って放送したのだ。テレビマンだった僕にとって、「悔しいオリンピック」だった。 
  • 長谷川幸洋 コラム第19回 太陽・東京五輪と北風・TPPでどうなる規制改革と消費税

    2013-09-19 12:00  
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    〔PHOTO〕gettyimages
    イソップ童話に「北風と太陽」という話がある。
    いまさら解説もいらないと思うが、北風と太陽が旅人に上着を脱がせるのを競った。北風は旅人が懸命に抵抗したので、上着を脱がせるのに失敗したが、太陽には暑くてすぐ脱いだという話だ。
    東京五輪の誘致に成功したニュースを聞いて、この童話を思い出した。
    どういうことかと言えば、日本経済の改革をどうやったら実現できるか、という話である。それから、いま焦点になっている消費税引き上げにも少し絡んでいる。
    私はかねて環太平洋連携協定(TPP)が日本の改革を促すテコになる、と主張してきた。TPPに参加するかどうかは、日本自身の選択であるが、同時に外圧でもある。なにも外国と交渉しなくても、日本が自分自身で貿易の門戸を一段と開いていくことができれば、それに越したことはない。
    外圧を大義名分に国内の改革を進める
    だが、国内のさまざまな事情によって、それが難しければ「外国にも譲歩を求めるのだから、日本も外国の要求を一部認めて、譲歩するのはやむを得ない」という論法で国内を説得する。
    そういう意味で、外国との交渉を大義名分に、国内の改革を進める。つまり外圧を利用するのだ。
    この話は4月26日付コラムをはじめ、2年前からあちこちで何度も書いてきたから、詳しく繰り返さないが、外圧は日本にとって安楽な話ではない。
    だから、北風と考えてもいい。農業にしろ医療にしろ現状維持を望む勢力がいて、それを改めようとすれば、関係業界にとっては生身を切り刻むような話になる。
    では、東京五輪はどうか。こちらは太陽なのではないか。
    なぜかといえば、多くの人が東京五輪の誘致成功を喜んでいる。
    経済界の大人たちはもちろん、子供たちも「もしかしたら自分も五輪に出られるかもしれない」と夢を膨らませている。五輪が一挙に身近なものになって「よし、これから世界と競争できるようにがんばろう」と意気が上がっているのだ。
    2020年の東京五輪という大目標に向かって、大人も子供も新たな挑戦意欲を沸き立たせている。「20年には世界の人々が東京に来る。日本は再び世界の檜舞台に立つ。だからなんとしても、日本を立派な国に復活させなければならない」という気分が広がっている。
    アベノミクス第3の矢の柱と位置づけられている規制改革も、そんな挑戦意欲が高まる中で議論が進んでいく可能性が出てきた。
    こちらは、つらく苦しい北風ではなく、基本的には「みんなが望む大目標を達成しよう」という前向きな話である。わくわく感があるのだ。
    ふたつのグローバル・ファクターを改革に活かせ
    改革は既得権益勢力とのバトルだ。戦いである。だから、生臭い血が飛び散るような側面ばかりが強調されてきた。今回決まった東京五輪は、そんな「戦う改革」から「未来を描く改革」というように、改革の色合い、ニュアンスを変えていく契機になるかもしれない。いや、そうすべきである。
    日本の改革を「北風のTPP」が後押しして「太陽の東京オリンピック」がけん引していく。そんなイメージである。
    デフレに苦しんでいる間に日本はすっかり内向きになった。そこへ、TPPと東京五輪というグローバル・ファクターが同時に前面に出てきた。このチャンスをつかまなければならない。 
  • 長谷川幸洋 コラム第18回  政治家・エコノミスト・記者が消費増税に賛成する理由

    2013-09-12 12:00  
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    [Photo] Bloomberg via Getty Images
    日銀が景気判断を上方修正した。
    5日に発表した「当面の金融政策運営について」(PDFです)という文書で、景気は「緩やかに回復している」とはっきり書いた。前月は「景気は緩やかに回復しつつある」だった。
    どこがどう違うのかといえば、ニュアンスの差みたいなものだが、回復軌道に「もう乗った」というのと「いま乗りつつある」とでは、前者のほうが強い。
    8月に判断を据え置いただけで、これで1月以来、ほぼ連続して上方修正を続けている。
    景気が良くなっているから増税、は正しいのか
    となると、直ちに思い浮かぶのは、では消費税引き上げがどうなるか、だ。
    「景気が良くなっているのはたしかだから、予定通り上げるべきだ」という増税派の声が一段と勢いを増すのは、容易に予想できる。
    それは正しいのか。
    ここは根本に立ち戻って考えなければならない。私は「景気が回復している→だから消費税を上げるべきだ」ではなく「景気が回復している→だから増税せず、過熱するくらいまで待つべきだ」と考える。
    まず、日銀の公表文をどう読むか。
    日銀の文書を読むと「輸出は持ち直し傾向」「設備投資は企業収益が改善する中で持ち直しつつある」「公共投資は増加を続け」「住宅投資も持ち直しが明確」「個人消費は雇用・所得環境に改善の動きがみられるなかで、引き続き底堅く推移している」とある。
    日銀は全体の基調判断で「緩やかに回復している」と言っているが、実は個別の需要項目を見ると、輸出も設備投資も住宅投資も「持ち直し」と表現している。個人消費については「底堅く推移」と一段と慎重である。
    回復といっても、内実は「悪かった状態から少し改善した、ないし堅調になってきた」という程度なのだ。
    新聞には「景気回復」という文字が踊っているが、実は「景気が良い」状態にはほど遠い。これが現状認識である。
    そこで消費税だ。
    政権内の増税派からは「消費税を上げても、景気を冷やさないように予算で大盤振る舞いする」という話が盛んに出ている。これは一見、もっともらしい。だが、ちょっと考えてみれば、財政政策として完全に倒錯している。 
  • 田原総一朗 それでも、シリア攻撃に突き進む「変節」オバマ大統領のなぜ?

    2013-09-11 18:00  
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    〔PHOTO〕gettyimages
    アメリカのオバマ大統領が、シリア攻撃へと動き出した。内戦状態にあるシリアのアサド政権が、化学兵器を使ったというのがその理由だ。ところが、国連安全保障理事会の常任理事国の足並みは揃っていない。
    常任理事国とは、ロシア、中国、イギリス、フランス、そしてアメリカである。そのうちロシアは、シリアの後ろ盾だ。だから、シリア政府が化学兵器を使用したという疑惑自体を否定している。中国もシリア攻撃には反対だ。
    一方、オバマ大統領があてにしていたのはイギリスである。ところが、イギリス議会はシリアへの軍事介入を承認しなかった。フランスがアメリカと連携するかどうかも微妙な状況である。他の欧州諸国はどうか。ドイツやポーランドは軍事攻撃への不参加を表明。オランダも国連安保理決議がないことから、慎重姿勢をとっている。
    アメリカは、このままでは国連安保理の決議なしに、単独で攻撃することになるかもしれない。非常に厳しい状況に立たされている。
    そもそも、なぜオバマ大統領は、シリア攻撃を表明したのか。かつて共和党政権だったときのアメリカは、「世界の警察」として、アフガニスタンやイラクなどに積極的に軍事介入した。しかし、それらはことごとく失敗し、泥沼状態となったのだ。この結果、アメリカ国内で厭戦気分が高まった。なによりアメリカ経済が受けたダメージが大きかった。こうして、アメリカ国民は、「戦争をしない」民主党のオバマ大統領を支持したのだ。 
  • 堀潤 シリーズ「テレビがテレビではなくなる日 第1回」「ハイブリッドキャスト」がバカにできない理由

    2013-09-10 12:00  
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    NHK HybridcastのHPより
    「投資をするなら次はテレビだ」
    メディア関連の取材現場で、去年あたりから投資家たちのこうした声を聞く機会が増えた。テレビを巡る最近の動きを見ていると、カネの匂いがするというのだ。
    近年著しく進行している若者のテレビ離れに代表されるように、テレビは落日のメディアとして取り上げられることが多かった。
    それなのに、一体なぜ?
    本コラム「次世代メディアへの創造力」では、今回からシリーズでテレビを巡る変革の動きをリポートする。第一回は、世界各国で新規参入が相次ぐセカンドスクリーン市場の可能性について。
    NHKが開発 商業ツールとしてのテレビとは
    9月2日午前11時、NHKは次世代型放送サービス「NHK Hybridcast(ハイブリッドキャスト)」の提供を始めた。番組コンテンツを電波で、文字や画像情報はインターネットを使ってテレビ画面に表示する仕組みで、天気予報、ニュース、株価、スポーツの結果などの情報を簡単な操作で呼び出す事が出来る。
    NHKの専用ホームページに掲載されたイメージ図をご覧頂くと分かるように、画面の下部に情報が半透明の図や文字で元の画面に被さるように表示される。
    「オーバーレイ」と呼ばれる表示の仕方で番組画面そのものに情報を加える事が可能になった。さらに、今年秋からは、2(セカンド)スクリーンと呼ばれるスマートフォンやタブレット端末とリアルタイムで連動させる番組やサービスの開始が予定されており、今後の進展に注目する業界関係者も多い。
    「オーバーレイ」のイメージ
    思い起こせば、今からちょうど10年前の2003年12月。国内初の地上デジタル放送がスタートした。視聴者とテレビ局が双方向で結ばれ、「テレビは新時代に突入した」と期待を集めた。
    目玉の新技術はデータ放送。テレビ放送と平行して電波を使った文字情報などの送受信が可能になり、青、赤、緑、黄のボタンがテレビのリモコンに加わった。ボタン操作によって視聴者は家庭にいながら放送局側とリアルタイムでコミュニケーションがとれるようになると言われたが、実際には、討論番組のアンケートやクイズの4択問題への回答に使われるなどに留まり、サービス開始からの10年間、目覚ましい進化もなく停滞していた。
    twitterなど、ソーシャルネットワーキングサービスの登場でようやくデータ放送と連動させた番組が民放を中心に開発されるなど、ここ数年で「双方向コミュニケーション」にテレビ生き残りの可能性を見いだす動きが活発になってきた。
    放送と通信の融合を本格的にシステム化したハイブリッドキャストの登場を喜ぶ業界関係者は多い。この分野で先行するアメリカをはじめ、イギリスやロシアなどでもNHKのハイブリッドキャストと同様のサービスを手がけるメディア企業が増えており「次の成長分野はテレビだ!」と公言する投資家も出てきている。ビジネスになると見込んだベンチャー企業の参入も目立ってきた。
    金儲けの種はどこに潜んでいるのか---。
    ハイブリッドキャストが今後どのように活用されていくのか、その青写真が説明されているNHKのホームページには、ビジネスとの結びつきがはっきりと書かれていてとても興味深い。
    こちらのリンクを見てみて欲しい。→ http://www.nhk.or.jp/hybridcast/online/
    「Hybridcastの将来」とタイトル付けされたコーナをみると動画が4つ並んでいる。 そのうち、Cookig(料理)での使い方では、料理番組で紹介された食材をそのままショッピングできると書いてある。さらに、Communicationとしての使い方の説明には、気になる番組やコマーシャルの商品情報を、家族や友人と手軽に「シェア」することができる、と書かれている。両方ともテレビと連動した手元のタブレット端末で操作するイメージだ。
    つまり、ハイブリッドキャストを使うと、インターネットショッピングや広告媒体としてビジネスになりますよ! と提案しているのだ。 
  • 長谷川幸洋 コラム第17回「歴代政権がボロ儲けを看過したせいでニッポン農業は改革できずにきた」

    2013-09-05 12:00  
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    [Photo] Bloomberg via Getty Images
    規制改革会議で農業改革の議論が始まった。
    農業改革はアベノミクス第3の矢である「成長戦略」でも、改革の象徴とみられてきた分野だ。改革の必要性は長年、叫ばれながら、既得権益勢力の抵抗に遭って先送りされてきた。環太平洋連携協定(TPP)への参加を視野に入れれば、もはや改革は避けて通れない。
    それでなくても農家の高齢化が進んでいるのに、TPPに加わる一方、農業改革に手を付けなければ、衰退は必至である。
    そこで、どうするか。農林水産省が8月22日の規制改革会議に提出した資料をたたき台に、問題点を探ってみたい。
    農水省はいま「農地中間管理機構(仮称)」という組織を新設して、それをテコに農地の集積、ひいては生産性の向上をめざしている。
    耕作放棄地の面積は滋賀県のそれに匹敵する
    この農地中間管理機構は何をするのか。
    簡単にいえば、高齢化などの理由で耕作していないような土地を農家から機構が借りて、大区画化の整備をしたうえ、新たな担い手に貸し出す。農水省は「農地の中間的受け皿」とか「農地集積バンク」と呼んでいる。
    農家はもちろんタダで機構には貸さないから、国は機構に公費を投入し、リース代を払って借り受ける。首尾よく新たな借り手=農業の担い手が見つかれば、そこから地代(リース代)が機構に入ってくるから、事業がうまく回れば、やがて公費負担は抑えられる、という仕組みだ。
    なぜ、こんな機構が必要かといえば、いま農村には膨大な耕作放棄地が広がっているからだ。全部で40万ヘクタールもあるといわれ、ほぼ滋賀県に匹敵する規模だ。
    一方、地域の中心になって農業を営む担い手(認定農業者や農業法人など)が利用している農地は全体の半分にすぎない。
    耕作放棄地が拡大したのは、農家の高齢化が進んで跡継ぎがいない、耕作しても儲からないなど理由がある。ともあれ、各地の農村は細切れになった農地と放棄地、大規模農地がばらばらと併存して、結果的に農地集約は進まない、企業の参入も進まない、という事態に陥っている。
    そこで、政府が農家と新規参入をめざす担い手の間に入る。機構(=農地集積バンク)がいったん借り受けて整備した後、新たに貸し出せば、相手が公的機関だから貸す方も安心、借りる方も安心で集積が進むはず、というのが農水省の目論見である。
    はたして、この絵は狙い通り成功するのか。それとも単なる「獲らぬ狸の皮算用」にとどまるのか。
    規制改革会議では、すでに多くの疑問や問題点が指摘された。最大の論点が何かといえば、公費の無駄遣いを防ぎつつ、新たな担い手とりわけの企業の新規参入が進むかどうか、である。
    次の世代でヤル気が出たらどうなるか
    まず農家の側からみると、自分にヤル気があって優良な農地なら、別に機構に貸す理由はない。自分はヤル気がなくて、荒れた農地なら貸してもいいだろう。
    では、機構が公費で農地を整備して、それを借りた企業が農業を始めて、儲かるようになったところで「やっぱり返せ。自分がやる、あるいは息子がやる」という話になったら、どうなるか。
    整備された農地は当然、価値が高まる。普通の企業でいえば、設備投資を公費で負担してもらったようなものだ。
    後で「返せ」というなら、国の負担で整備してもらった分は当然、もとの農家が負担しても良さそうなものだが、農水省は「負担を求めない」という考えだ。
    それでは、自力で整備した農家と比べて、モラルハザードにならないか。民法には、こうした事態を想定して「有益費償還請求権」という考え方もある。
    借家人が借家の利便向上に費やした費用は契約終了時に貸し手に請求できるという話だ。それと同じである。どうも既存の農家に甘い話なのだ。 
  • 田原総一朗「汚染水問題を東電任せにしてきた政府は、遅ればせながら原発と向き合う態勢ができた」

    2013-09-03 12:00  
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    東京電力福島第一原子力発電所の汚染水漏洩問題が、深刻化している。300トンを超える汚染水が漏れていたのだ。東京電力は「パトロールをしていた」というが、全くもってどこを見ていたのか、と言いたくなる。とはいえ、そもそも汚染水の処理を東電任せにしていたことこそ大問題だ。そもそも、増えるばかりの汚染水をどう処理するのか、根本的な解決策が何も出てこない。
    いったいなぜ、この国家の一大事を政府は一企業に委ね、放っておいたのか。なぜ、政府自ら乗り出さなかったのか。
    民主党政権は、東電を悪者にすることで自分たちの身を守っていた。昨年12月、政権が自民党に移った。しかし自民党も事態の収拾を東電に預けっぱなしにした。政府が関与するということは、税金を使うということだ。反対していたのは財務省である。8月28日になってようやく、「政府が責任を持って対応する」と安倍首相が明言した。原発事故発生から実に2年5カ月も経ってのことだ。
    では、政府はどのように対処するのか。僕は専門家に聞いた。汚染水が増え続ける理由は、放射性物質で汚染された原発内部に地下水がどんどん流れ込んでくるからだという。これには、地下水をせき止める壁を作って、汚染される前の地下水を海に流すルートを作らなければならない。
    もうひとつ、タンクに保管されている膨大な量の汚染水がある。これをどう処理するか。実は、汚染水を浄化する方法は、すでに確立されている。浄化の過程でトリチウムという物質が出るが、海に流しても問題ないレベルの量だそうだ。フランスやアメリカでも、この方法は使われている。問題は、漁業組合の反対だろう。この点についても、国がしっかり責任を持ってやり抜くしかない。