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  • 堀潤 連載第9回 ワンコインマーケット「ココナラ」代表・南章行氏インタビュー(後編)

    2013-08-27 12:00  
    330pt
    NPO法人「二枚目の名刺」ウェブサイトより
    この連載を読んで下さっている皆さんは、名刺をお持ちだろうか?
    会社員、自営業、フリーランス。働いている方であれば大抵は社名や肩書きの入った名刺を持ち歩き、まさに自分が何者であるのかを相手に説明するための大切なツールとして活用されていると思う。
    名刺はまさにアイデンティティ。自己同一性という訳にふさわしく、生業としての職業は、その人の人生そのものを映し出す鏡のような存在かもしれない。
    ただ、どうだろう。もっと自分の可能性を広げてみたい、新しい自分を発見したい、普段の職場では実現できない自分の思いをどこかで遂げてみたい---皆さんの中にもそんな欲求にかられた経験をお持ちの方は少なくないのではないだろうか。
    今、新しい働き方の一つとして「二枚目の名刺を持つ」という動きがムーブメントになろうとしている。2009年から活動がはじまり、2011年に法人化されたNPO「二枚目の名刺」。
    現在の職場に留まりながら、自分に新たなキャリアデザインを施す人材を育てようと立ち上がった団体だ。
    「ココナラ」代表の南章行氏。 慶応義塾大学を卒業後、1999年4月、住友銀行に入行。運輸・外食業界のアナリスト業務などを経験したのち、2004年1月に企業買収ファンドに入社。 2009年に英国オックスフォード大学経営大学院(MBA)を修了。東日本大震災をきっかけに2011年6月に投資ファンドを退社し、株式会社ウェルセルフを設立。知識・スキルの個人間マーケット「ココナラ」を2012年7月にオープン。
    社会人が本業で培った技術や経験を、他の社会貢献活動に活かす事が出来るようになればより豊かな社会を実現できる。また、本人が本業では関わらないより幅広い人脈に触れ、様々な事象に関わる事で、やがて本業そのももに役立つスキルも向上させられるという理念を掲げている。
    このNPOを立ち上げたメンバーの1人が、会員数およそ6万人を有するWEBサービス『ココナラ』の代表である南章行さんだ。NPO「二枚目の名刺」とは別に、去年新たに立ち上げた事業だ。今、市場からの注目を集める新興IT企業。
    ココナラは、自身の"得意なこと"をオンライン上で売買できるというオンラインフリーマケット。売買するのは自分のスキル。現在"1回500円"という一律の価格設定で運営されているが、出品されているサービスの質はかなり高く、バラエティに富んでいる。一般ユーザーはもちろん、「プログラミングや開発の相談に乗ってほしい」というエンジニアからの支持も集め、盛り上がりを見せている。
    今回、ココナラを運営する南章行さんにインタビュー。金融業界での経験、海外でのMBA取得、2つのNPOの立ち上げと、多様な経歴を持つ南さん。『一人ひとりが「自分のストーリー」を生きていく世の中をつくる』という南さんの考え方は、これからの時代に即した、新しい働き方への大きなヒントとなるのか。インタビューシリーズでお伝えする。
    前回に続き、今回は後編。社会人のためのキャリアデザインとは何か、じっくり聞いた。
    【前編はこちら】
    「イノベーションのジレンマ」から生まれた新サービス
    南: 一昨年、2011年の8月頃に、うちのIT部門担当者が「サービス版のイノベーションのジレンマをやりたい」と言ったんです。
    堀: ほぉ、それはどういうことですか?
    南: イノベーションのジレンマって、いろんな要素があるんですけれども、安かろう悪かろうみたいな領域って、(従来の)カメラに対してデジカメが出てきた時、こんなクオリティの低いものを誰も使わないだろう、市場も小さいしみたいな、既存のプレイヤーもガン無視だったわけじゃないですか。
    でも、だんだん大きくなってきて、気がついたら性能も上がってプレミアム市場をとっちゃって、後から入ろうとしても手遅れみたいな。これがイノベーションのジレンマの一つの事例としてあります。だから、サービスで、普通に5000~1万円で提供されてるものが300円、500円とか、すごい安いもので、もし仮に提供できるんであれば、量的にはマジョリティーってそっちなんじゃないかと考えたんです。そういうサービス版で、イノベーションのジレンマみたいなことをやりたくて。すごく安い、個人が気軽にスキルを売れる。それでむちゃくちゃ安いみたいなことをやりたいって言い出してですね。
    僕は最初、却下したんですよね。全然そんなのマーケット小さいし、何人集まって、いくら取引が発生したらどれくらい給料になるんだよという話をしたら、ああ無理っぽいね、と。でも、アイデアとしてはやりたいなって、他のメンバー2人が言っていました。
    そんなことがちょろちょろあった時に、ヘルスケア事業のために管理栄養士さんにインタビューをしていて、彼女が当時言ってたのは、病院でいつも患者さんに栄養のアドバイスやってますと。でも、自分のスキルとか知識を生かせば、病院の外でもアドバイスできるから、子育てしてるお母さんに、子供が野菜を食べるような何とかとか、いろいろ栄養にからんで何でも言えるんだけれども、そういう場がないと言っていたんです。本当はもっといろいろ提供したいと言っていて、すごく真摯でまじめな人が多かったんですよね。
    ああ、人ってこういうの求めてるんだなあって思った時に、あれ待てよと。自分自身も働きながらNPOをやってきて、それで人の役に立ったらうれしいというレベルを超えて、意味わかんないぐらいにがんばる人がいるじゃないですか。そういう人を多く見てきた中で、本質って、自分が機能してる感覚とかを人は求めてるのかもしれないなと思いました。そこで得られる成長とか、そこで成長すると、またいろんなものがポジティブなサイクルに入っていくみたいな。
    得意な部分が伸びると人って、オーラが出てくるじゃないですか。そうするといい人が寄ってきて、また次におもしろいチャレンジが回ってきて、というサイクルがある。それを自分がNPOで経験してたんで、人のこういうところを、お小遣い稼ぎサイトじゃなくて、人の役に立ったらうれしいじゃない、成長するじゃない、人生豊かになるじゃないという軸で、さっきのマイクロサービスプラットフォームをとらえ直すと、実はすごい豊穣な世界が待っていそうだなと。過去の経験がつながったんですね。
    その時に初めて、僕たちだったらこれをうまくやれるね。でも大企業とかだったら無理だろうと思いました。こういう領域で新しい市場を作っていこうと思ったら、共感マーケティングみたいなものが必要で、それってベンチャーの方が絶対強いわけですよ。一方、僕らにはストーリーがある。自分たちが働きながら、NPOをやってきていて。個人をエンパワーメントするようなNPOだったんですよね。
    堀: 具体的にはどういうNPOですか?
    「二枚目の名刺」のススメ
    南: 僕は2つのNPOをやってて、「ブラストビート」と「二枚目の名刺」っていうNPOなんですけど、ブラストビートというのは高校生、大学生向けの社会教育プログラムをやっています。10人ぐらいでチームを作って、一時的に会社を作って、3カ月後に音楽のライブイベントやってくださいってオーダーを与えるんですね。
    会社名を決めて、名刺を作って、社長を決めて、マーケティングマネジャーにPRマネジャーなど全部決めて、会社の形態をとって企画して、ライブハウスに交渉しに行って、アーティストも自分たちで引っ張ってきて運営も全部やる、みたいな。一連のプログラムを回すというものなんですけど、高校生は親と学校に言われたこと以外はやったことないじゃないですか、それを初めて自分たちで何かをアクションする。
    これが結構大変なわけですよ、知らないアーティストが来るライブイベントなんて誰もチケット買わないわけですよね。友達であっても。売るのも必死だし、そこで何か自分が行けるようなイベントじゃないと、自信もって売れるイベントじゃないと人は来ないっていうのがわかって、リアルにペルソナ分析からして、思いを込めて売っていくと何となく最後イベントは成功していく。そして最後には、得た利益を自分たちで選んだチャリティーに寄付するっていうことなんですね。
    堀: へえ。
    南: それで全体を通してチームワーク、リーダーシップみたいなものをリアルに学びます。それからビジネス、人の役に立つ、人が喜ぶとお金が入ってくるとか、ビジネスってそういうことなんだと。自分で稼いだお金で世の中の社会問題を解決できるんだとか、そういうむちゃくちゃ濃い経験、生きるとは、働くとはみたいなものを3ヵ月でやるプログラムで、もうこれをやったことでむちゃくちゃ変わるんですよ。とんでもなく変わるんですよ。本当に人生が変わるプログラムです。 
  • 堀潤 連載第8回『ワンコインマーケット「ココナラ」代表・南章行氏インタビュー(前編)』

    2013-07-30 12:00  
    330pt
    米最大手クラウドファンディングサイト「Kickstarter」で、最高額の資金調達に成功したプロジェクト
    われわれは「効率性の経済」から「創造性の経済」へと移動する必要がある---。
    これは、ダナ・キャランやマーク・ジェイコブスなど著名なデザイナーを輩出してきたことで知られる、米国ニューヨーク市のパーソンズ美術大学教授ブルース・ナバーム氏の言葉だ。
    彼は、近著『Creative Intelligence』の中で、巨大な資本によって管理され、効率性を追求することで成り立ってきたこれまでの経済システムの中では、イノベーションは起こりにくいと指摘。そうした中、世界各地で潮流となりつつあるのが、「Indie Capitalism(独立系資本主義)」だと語る。
    独立系資本主義とはつまり、これまで資本や市場の存在を前提に行われていた経済活動から独立し、個人が単独で資金を集め、作品や製品、サービスなどを資金提供者に直接供給する資本主義の姿を指している。ナバーム氏は、インターネットを使った少額出資サービス、「クラウドファンディング」の成長が独立系資本主義の拡大を後押ししていると語る。
    クラウドファンディングとは、インターネットを使った寄付や投資のサービスのことで、アメリカを中心に数年前から世界各地で急速に広がっている。
    例えば、ある個人が「新しいスマートフォンを開発したいので、制作費用として500万円を集めたい」と完成品のデザインや事業計画をインターネット上で公開すれば、それを見た賛同者が「ぜひ実現させて欲しい」と1万円や10万円といった額をクレジットカードや電子マネーで直接本人に向けて支払うというものだ。
    実際に、米国では会社を立ち上げて間もない20代の経営者が、スマートフォンと連携する腕時計(スマートウォッチ)のアイデアを発表。そのプロジェクトが、最初の28時間で100万ドル以上の資金を集めたことが話題を呼んだ。製品は今、世界市場で販売されている。

    「ココナラ」のトップページより
    米国の調査会社massolutionの調べによると、世界のクラウドファンディング市場が、2012年は27億ドル、日本円でおよそ2,700億円だったのに対し、2013年は51億ドル、5,100億円まで成長すると見込まれている。
    アジアなどの新興国でも、個人やベンチャー企業がクラウドファンディングで資金を調達するケースが増えており、新たなイノベーションが生まれている。このような独立系資本主義の成長は、世界の産業構造に小さな変革を起こしているのだ。
    一方、個人と個人を結びつけ、相対的な関係の中で需要と供給のバランスを満たす動きは、クラウドファンディングの他にも広がっている。ワンコインと呼ばれる小額貨幣を介在させて、合理的にサービスを融通し合う仕組みだ。
    ものづくりから子育てまで。今、独立系資本主義の思想や仕組みが、社会にあらたな価値を生み出そうとしている。そこで、最前線の取り組みをシリーズでリポートする。
    ワンコインが解決するマーケットへのアプローチ
    会社にいながらも自分のやりたいことを実現させてあげたい---。
    去年のサービス開始以来、1年間で会員数が6万人に迫るWEBサービス『ココナラ』をみなさんはご存知だろうか。今、市場からの注目を集めるITスタートップ企業だ。
    ココナラは、「自身の"得意なこと"をオンライン上で売買できるオンラインフリーマケット」だ。売買するのは自分のスキル。現在"1回500円"という一律の価格設定で運営されているが、出品されているサービスの質はかなり高く、バラエティに富んでいる。
    例えば、駆け出しの翻訳家の女性が「英語と日本語の翻訳を500円で行います」というサービスを出品し、価格の安さと仕事の速さが評価を得たり、現役の歯科医師が同じく500円で、ホワイトニングやインブラントに関する質問に個別に答えたりと興味深い。
    「バナーをつくります」「ホームページのデザインを行います」といった、IT関連の出品も目立つ。一般ユーザーはもちろん、「プログラミングや開発の相談に乗ってほしい」というエンジニアからの支持も集め、盛り上がりを見せている。
    今回、ココナラを運営する、南章行さんにインタビューを行った。金融業界、海外でのMBA取得、2つのNPOの立ち上げなど、様々な経歴を持つ南さん。『一人ひとりが「自分のストーリー」を生きていく世の中をつくる』という南さんの考え方は、これからの時代に即した新しい働き方への大きなヒントとなるのか。インタビューシリーズでお伝えする。


    「ココナラ」代表の南章行氏
    慶応義塾大学を卒業後、1999年4月、住友銀行に入行。運輸・外食業界のアナリスト業務などを経験したのち、2004年1月に企業買収ファンドに入社。 2009年に英国オックスフォード大学経営大学院(MBA)を修了。東日本大震災をきっかけに2011年6月に投資ファンドを退社し、株式会社ウェルセル フを設立。知識・スキルの個人間マーケット「ココナラ」を2012年7月にオープン。

    「一人一人が自分のストーリーを生きる世の中をつくるサービス」とは
    堀: ココナラは、一般の人たちがこれまでタッチできなかったようなマーケットや資本への入り口になっていると思うんですよね。個人が自分の力を大きなものにしていくことに関して、どんな未来を思い描きながら、サービスを構築されてきたのですか?
    南: ベースの発想として、現代って手触り感を持つのが難しい時代だと思うんです。働く意味が見いだしにくいというか。大きな話で言えば、昭和だったら働く理由を考える必要がなかったと思うんですよね。
    例えば、日産自動車に入りますというと、そこで働いて会社が潤えば、国が潤って、国民が潤うし、車が売れればみんなが嬉しい。そんな環境において「なぜ働くか」なんて考える必要があんまりなくて、純粋に「よりいいものをより多く売る」ということだけ考えていれば、みんな幸せだったんですよね。
    しかし、今は必ずしもそうじゃない。いい悪いではないですが、現状で日産入ったらどうなるかというと、車は飽和している現状で、勝てるの勝てないのという議論になる。電気自動車が出てきたけれど、環境的に車はどうなのかとか、車に乗らない若者が出てくる中で、何で日産で働いてるのかといった時に、答えを持っていないとちょっとつらくなるんですよね。なぜつらくなるかというと、会社も成長しているわけではないし、給料も上がらず、昇進もしないという中で、働くことの意味合いも見い出しにくい。
    世の中で、こういうことが全般的にすごい増えてると思うんです。そうなると、何で働いてんのかな、何で生きてんのかなあ、ということが分かりにくい時代になってしまって、すごく手触り感がないというか。
    このような中で、人ってそもそもどういう時に幸せを感じるんだろうと考えたんです。僕自身は、ある特定の環境下、あるいは組織、関係性において、自分が機能している感覚を持った瞬間に、人は生きることができると思っています。
    あなたが生きてきた人生をベースに、誰かに、何かを提供する。「ありがとう、よくできた、うまくいった」ということでもいい。夫婦間とかでもいいですが、何らかの関係性で機能してるな、誰かの役に立ってるな、という感覚を持てることが人を生かすと思うんです。
    ココナラのベースの思想は、わりとその辺にあって、知識やスキルを販売できる、売ってお金が得られる場となっています。そして、ビジョンでは、「一人ひとりが自分のストーリーを生きる世の中を作る」という言い方をしています。何かが得意とか詳しいとかって、その人の人生そのものじゃないですか。
    ココナラでは、その人の人生そのものから抽出された何かをしますよ、話聞きますよ、ということが提示される。そして、そこに頼る人がいて、何か問題を解決する。それだけの稼ぎで食えるかというと別ですけど、生きられるベースになると思ってるんです。誰かに肯定されて、がんばったら何か報われたみたいなことって、すごくうれしい瞬間だと思っています。
    一方で、購入する側、お願いする側の人も、もともと念頭に置いていたのは女性だったりするんです。やっぱり、気軽に人に聞けないところがあるし、つらいことがあっても言う場がないというのがあるかなあと思っていて。
    システムそのものがすごく大きくなっていて、みんなその中の小さな役割があらかじめそこにあったかのように求められている今の世の中。誰も困った時に聞けないとか、意外とそういう孤立化って進んでいるのかなあと思います。あるいは主婦になって、社会との接点がすごく持ちにくいことも、ネットが拍車をかけているところがあると思うんです。
    ほんの数年前までは、ママさん友達の愚痴なんてmixiに書いてればよかったんですよね。でも今、Facebookが主流になってくると、オンとオフの切り替えなんてないです。ママさん友達はみんなFacebookにいて、かわいい服でも子供に着せようもんなら、こんな服を着せている誰々ママは素敵とか、「いいね!」を押さなければならないじゃないですか。これって、めんどくさいし、逃げ場がないですよね。
    すべてがオープンになってきている中で、そういう人が困った時に相談できる場だったり、しがらみなく聞けることの価値がすごく出てきています。匿名でクローズドの場で誰かに聞ける、親身になって聞いてくれる人がそこにいる関係が、すごく大事で、その人がその人らしく生きるために必要なピースになっていると思います。
    そういう何かを教える、あるいはアドバイスする時と、困った時に頼るペルソナは、そんなに離れたものではなくて、ある部分ではこっちだけど、ある部分ではこっちということがあるじゃないですか。
    すごく俗っぽいけど「あなたらしく生きる」。それをサポートするのがココナラです。それが、「一人ひとりが自分のストーリーを生きる世の中をつくるサービス」ということですね。ベースとしてそういう思想があり、自分が得意なことで誰かの役に立てるというのがいいねということ。そのような空気感を持ちつつも、スキルを売って食っていくのも大事だし、やっぱり仕事って、自分が興味・関心が持てる領域でやるのが一番幸せだと思うんですよね。
    ただそれをすべての人がやれるかというとなかなか難しいところがあります。働きながらやっているうちに、ひょっとしたら自分の興味こっちかもあっちかもとなることもある。自分の夢を殺して働いている人もいるだろうし、別に一つじゃなくて、これは仕事としてやってるけど、二つ三つ興味・関心がある人もいると思うんです。今までそういう人に対しての場が、すごくなかったと思うんですよね。
    だから、自分の中に存在する二つ三つの興味を実現したり、食うための仕事はこっちでやってるけれど、もう少し喜んでもらうための仕事があってもいいと思います。少しでも興味・関心のあることに対して、アクションを起こすことができて、それに対して正のフィードバックがあって、楽しく生きられる感覚を味わえる場がすごく欠けてると思ったんです。僕らとしては、そこを用意したいと考えました。
    人って変わっていくもので、例えば一個得意なことがあって、「ココナラでキャッチコピーを作りました、似顔絵作りました」となると、何人かに一人は、これでいけるんじゃないかな、食えるんじゃないかなって気持ちになっていく人がいるんです。何百人に一人かもしれないけど、実際に転職しちゃった人もいるんですよね。 
  • 堀潤 連載第7回 『キーワードは自前主義からの脱却と協業。ホンダとエバーノートの現場主導の成長戦略』

    2013-07-09 12:00  
    330pt
    アベノミクス3本目の矢はすでに折れているという指摘
     安倍政権が成長戦略の柱の一つに掲げるクールジャパン政策。先月、国会では官民ファンド「クール・ジャパン推進機構」を設立するための法案が可決成立し、500億円が投入されることが決まった。今後、アニメやゲームなどのコンテンツ、ファッションに加え、日本食、伝統工芸、伝統文化、自動車などを投資対象として、政府が音頭をとって支援していくことになる。
     このコラムではシリーズで、クールジャパン政策の可能性と課題について探ってきた。ソーシャルゲームの世界展開で急成長を遂げるgumi代表の國光宏尚氏は、政府主導の現政策の方向性について、真正面から次のように指摘した。
     「クールジャパンの今の方向性は間違っています。問題は、国が支援をしすぎで過保護であること。現地と一人も繋がれない雑魚企業を支援する必要はありません。企業に関していえば、いいものを作れば売れると未だに思っていますが、これは大きな間違いです。売れるモデルの構築が大切です」
     さらには、選択と集中を促し、個別単位での投資をやめプラットフォームの構築に向けた大規模な投資こそ国家が担うべきだと語った。
     一方、経済産業省でクールジャパン政策を牽引する官僚の1人、小田切未来氏は「現在のクールジャパン戦略に対して寄せられる批判点、それは、点が面になっていないこと。単なるイベントにおわってしまうといった指摘です」と率直に語り、海外現地コミュニティとの連携を強化し華僑のようなネットワークを構築する必要があると持論を述べた。
     先月英国・北アイルランドでおこなわれたG8(主要国首脳会議)では、ドイツのメルケル首相が安倍総理大臣と1時間以上に亘って会談。巨額の借金を抱える中でどのように成長戦略を打ち出し実行していくのかについて具体的な質問が続いたと報じられた。"噂で買って実で売る"という投資家たちの視線は、日本が打ち出す成長戦略の実効性の行方を厳しく見つめている。
     今、日本に求められる実行力とは具体的にどのようなものなのか。筆者が掲げるキーワードは"自前主義からの脱却と協業"だ。今、米国カリフォルニア・シリコンバレーでは、伝統的既存産業である日本の自動車メーカーと新興IT企業の協業により、新産業の開発に向けた模索が始まっている。
     シリーズ最終回は、自動車メーカー「ホンダ」とクラウド型の情報記録サービスで成長を遂げた「エバーノート」の協業による取り組みから、官ではない、現場主導の成長戦略を報告する。
    シリコンバレー発「IT×自動車」 ~仕掛人は異色の経歴
     サンフランシスコ空港から車で南におよそ30分。シリコンバレー北部に位置するレッドウッドシティを訪ねた。カリフォルニアらしいギラリとした強い日差しを反射するガラス張りのビルに、緑地にゾウのマークが描かれたおなじみの看板が掲げられていた。
     エバーノート社。スマートフォンを利用している人なら一度はそのアプリを見かけたことがあるのではないだろうか。インターネットを利用したクラウド上に文書や画像を保管し記録するアプリだ。欧米やアジアを中心に5000万人の会員数を誇り、日本国内でもすでに500万人が利用している。
     エバーノート社がシリコンバレーで立ち上がったのは今から5年前。日本でのサービス開始は3年前。クラウドやスマートフォン市場拡大の波に乗って急成長を遂げ、1億人の利用者獲得に向け、今、勢いに乗る新興IT企業の一つだ。
     吹き抜けのエントランスを通り抜けドアを開くと見通しのよい広いオフィスが広がっていた。6人掛けの四角いテーブルが20個程並び、Tシャツやパーカー姿の若者たちがノートPCを開いて作業に没頭している。天井からは、エバーノートの横断幕に加えて、赤い文字で「HONDA」とプリントされた横長の旗が吊り下げられ、空調の風に揺られていた。

     この日、このオフィスで開かれていたのはエバーノートと自動車メーカーホンダによる「ハッカソン」。一般からの応募で集まったシリコンバレーのIT技術者たちが3日間の日程で、ホンダやエバーノートが公開した自前のプログラムを使って、新たなサービスを考えだすという催しだ。
     ハッカソンとは、高い技術でプログラムを開発する「ハック」と「マラソン」を合わせた造語で、シリコンバレーでは企業や自治体の主催で盛んに行われている。一般のプログラマーがチームを組んで技術を競い合いながら新たなサービスを開発する。賞金が出たり、主催企業に採用されたりするハッカソンもある。この日は、20代~30代の若手IT技術者を中心に100人が参加し、13のチームに分かれてそれぞれが独自サービスの開発に熱中した。

     ホンダは、シリコンバレーに研究所を構えて10年。これまでは基礎研究の拠点として役割を果たしてきたが、数年前から車に搭載するITサービスの開発を行うようになったという。会場の一角では、ホンダの研究チームが参加者向けに、公開しているプログラムの説明を行っていた。プロジェクターに映し出される資料には、複雑なコンピューター言語が並ぶ。
     「彼らのプレゼンを見たら分かると思いますが、車はもはや、スマートフォンと同じようなデバイスです。生活環境の情報のハブになるような機器という概念に変化しています」
     眼鏡をかけ髭を生やした日本人男性に声をかけられた。 ホンダシリコンバレーラボで研究員を率いる杉本直樹所長だ。日本の大手製造業が米国内でハッカソンを開くのはおそらく初めてということだった。
     杉本さんは、ホンダ生え抜きの技術者ではない。7年前にリクルートからホンダに移ったという異色の経歴を持つ。
     「良いモノづくりをしていたら売れるという時代ではないんです。メーカーはテクノロジーの変化とともに進化していかなければダメです」
     ホンダシリコンバレーラボが関わる企業は殆どが地元IT企業。日本のサプライチェーンとの関わりは薄いと話す。
     ホンダのチームと話をしていると、もう1人会場に日本人が現れた。白縁の眼鏡をかけた柔和な物腰の男性。今回のハッカソンの主催者、エバーノート日本法人会長の外村仁氏だ。
     「ホンダさんとのコラボは楽しいですよ。新しい可能性や提案がどんどんでてくればいい。うちのハッカソンはとてもオープン。特にヘッドハンティングの場というわけではなく、とにかく彼らの自由な発想にぼくらも触れてみたい」
     ホンダとエバーノートはベンチャーの育成を目指し、今年4月に共同育成プログラムの実施を発表するなど、あらたな協業体制の構築に力をいれている。
  • 堀潤 連載第5回 オバマ大統領に銃規制強化を決意させた民意陳情サイト 「We The People」

    2013-06-04 12:00  
    330pt
     今月5日。アメリカ中西部オハイオ州コロンバスの州立大学の卒業式で、オバマ大統領は米国議会に対して不満を口にした。多くの有権者が望む政策が、力を持つ特定の団体のロビイストたちの手によって葬り去られているのが現状だと唇を噛んだ。
     この発言の念頭にあるのは、米国議会上院で否決された銃規制強化法案だ。
     昨年12月、コネチカット州の小学校で起きた銃乱射事件では26人の小学生が亡くなった。直後から銃の規制を求める声が高まった。オバマ大統領は、一期目の選挙でも公約に掲げていた銃規制に本腰を入れて取り組むため、より厳格な規制を設けた法案を策定。議会に諮った。
     しかし、共和党のみならず、民主党内の保守系議員からも激しい抵抗に合い、先月、規制法案は上院で否決された。背後には政治力の強い、NRA(全米ライフル協会)の存在がある。
     オバマ大統領は今も、銃規制は諦めないと主張を続けている。銃の所持が合衆国憲法で認められているアメリカでは長年賛否が分かれてきた難しい課題だ。それでも、大統領は「多くの有権者が望む政策」だと断言する。
     オバマ大統領が打ち出す強い姿勢の裏付けには、ホワイトハウスに設けられた陳情サイトの存在もある。
     「インターネットは政治をどう変えるか?」3回シリーズの締めくくりは、この陳情サイトについて報告する。 極めて民主的な請願システム「We The People」
     去年、"オバマ大統領が宇宙要塞・デススターの建造を否定"という見出しのニュースがこちらのメディアで話題になったことがあった。
     当時、何事かと思って確認してみると、アメリカ大統領府・ホワイトハウスのホームページに設けられた陳情サイトに寄せられた市民からの請願に対し政府が回答した中身についてのニュースだった。
     市民からの請願は「政府は雇用対策の一環として2016年までに映画スターウォーズに登場する帝国軍の宇宙要塞・デススターの建造に着手するべきだ」というもの。
     これに対し、政府の科学技術担当の役人が、
    ▼建造に85京ドルもの莫大な費用がかかる計算で、財政赤字の削減に取り組むオバマ政権としては応じられない ▼戦闘機1機の攻撃で破壊されるリスクを持つ要塞に予算をつぎ込めないなどと回答。
     さらに、
    ▼NASAをはじめとした国際チームが既に宇宙ステーションでの様々な実験に着手しており我々は未来空間に生きていると説明し、最後に「科学に従事する研究者達よ、フォースと共にあれ」とおなじみの台詞で締めくくった。(※リンクは該当サイト: https://petitions.whitehouse.gov/response/isnt-petition-response-youre-looking)
     「We The People」と名付けられたこの陳情サイトは、2011年9月にオバマ政権によって運営が開始された。
     アカウントをつくれば、誰でも政府に対し請願ができ、その内容が直ちにサイトで公開される。一般のSNSの投稿サイトのようなデザインで、公開された請願内容に賛同した人がFacebookの「いいね!」を押す感覚で「署名」できる専用のアイコンが設置されている。賛同者が2万5000人に達すると、政府は請願内容を検討し市民に回答する義務を負うという仕組みだ。
     このサイトそのものが、Facebookやtwitterと連動しており、投稿者や賛同者が自らその請願内容をSNS上で広めることもでき、それぞれがSNSを使ってメッセージの拡散を行い、2万5千署名の達成を目指す。
     皆で力を併せて目標数を達成することができれば政府が実際に検討するという、ゲーミフィケーション的な要素も盛り込まれているあたりは、SNSを使った選挙戦略で大統領の座を勝ち取ったオバマ氏らしい取り組みだ。
  • 堀潤 連載第4回 「アメリカ大統領選挙から想像する次世代メディアの姿」

    2013-05-28 12:00  
    330pt
     前回は、インターネットによる選挙活動が解禁されることで、市民による政治参加の間口が広がる可能性がある一方で、専門のITチームを駆使できるような、資金力のある候補や政党に優位に働く制度になるのではないかという課題を提示した。

     今回は、インターネットの活用で、選挙報道はどう変わるのかという点に焦点をあてたい。

     昨年、アメリカで行われた大統領選挙では、CNNをはじめ、放送局がIT企業と協業してあらたな選挙報道のスタイルを模索している様子が大変興味深かった。ネット選挙先進国である米国の事例から、次世代メディアの姿を想像したい。

    どこよりも早く「勝者はロムニー氏」と速報したCNN
     大企業優遇か、中間層の底上げか。接戦の末、現職のオバマ氏が再選を果たしたアメリカ大統領選挙。4年前の初当選時には、改革の旗手、米国再生の救世主として圧倒的人気を誇ったオバマ氏だったが、今回の選挙では、対立候補に得票数で僅差まで追いつめられ苦戦した。

     広がる格差、改善しない雇用、停滞する経済---これまでオバマ氏を支持してきた中間層、低所得者層からの失望や苛立ちの声が、選挙戦をより混迷へと誘った。経済回復の遅れは、強いアメリカの復活を求める保守勢力の動きを活発にさせ、オバマ氏の社会保障政策に憤る白人宗教右派の台頭を招いた。

     こうした選挙戦に対し米国テレビメディアはITメディアとの協業で「次世代型世論調査報道」を競い合った。SNS時代の選挙報道の姿を探りに現場を訪ねた。

     去年10月、アメリカ中西部コロラド州デンバーで大統領選挙に向けた初めての候補者ディベートが開かれた。民主党オバマ氏か共和党ロムニー氏か。当時、両候補への支持率は50%台前後で拮抗しつつも、オバマ氏がやや優勢だと伝えられており、ロムニー氏がディベートで巻き返しを図れるかに注目が集まっていた。
  • 堀潤 連載第3回 小額寄付で低所得者層の政治参加を後押し、オバマ政権誕生を支えたアメリカのネット選挙

    2013-05-21 12:00  
    330pt
     次期参議院選挙から、インターネットを使った選挙運動が解禁となる見通しが強まった。今月中に国会で法案が可決される見込みだ。
     Facebookやtwitterなど、いわゆるSNS・ソーシャルネットワークを使った候補者本人や政党による情報発信が、選挙期間中も可能になる一方で、メールを使った発信は、受け取った個人による転送を禁じるなど制限も加わっている。
     一度インターネット上に出回った情報を制度によってコントロールするのは難しい。それぞれの個別事例が選挙違反になるのかならないのかといった判断も必要になり、運用に関してはグレーゾーンも多い。
    しかし、それでも、有権者と政治の現場を結びつけるうえでは大きな一歩だ。
     インターネット先進国でもある、アメリカではすでに1992年からメールを使った選挙運動が行われるなど、この20年で独自の発展を遂げている。
    「堀潤の次世代メディアへの創造力」では、インターネットの活用で、政治とメディアがどう変わるのか、これから3回シリーズでお伝えしたい。
    ビヨンセからの手紙
    先日、アメリカ人歌手のビヨンセからメールをもらった。
    近々ニューヨークで食事をするので一緒にこないか、という誘いのメールだ。
    しかもその食事会には、オバマ大統領とファーストレディのミシェル夫人も参加するので絶対に来た方がいいと書いてある。
    ホテル代金は気にしなくていいし、友達を連れて来ても構わない、だから来て!と、興奮気味に続き、さらにこう書いてあった。
    「もしこれそうだったら、今夜深夜までに、25ドルかあなたが払いたいと思う金額をここに送って欲しいの」
     示されたリンクをクリックしてみると、オバマ氏の選挙や政治活動を支援する公式サイトに繋がった。
      http://www.p2012.org/candidates/obamaorg.html
    ネット選挙運動を制し大統領の座を勝ち取った、いかにもオバマ陣営らしいやり方だ。
    後日、確認できたが、ビヨンセやオバマ大統領との食事会は実際にニューヨークで開かれ、サイトを通じて寄付した何人かがその場に招待されたという。
  • 堀潤 連載第2回 「オープンジャーナリズムが戦争報道を変える」

    2013-05-14 12:00  
    330pt
    先日、ある民放局のラジオ番組に出演し、市民が電波を使って発信できる権利"パブリックアクセス"やインターネットを使って市民とマスメディアが協業でニュース制作を行う"オープンジャーナリズム"の可能性について話をした。

     番組はおよそ60分。解説者は大手新聞で論説委員などを務めてきたベテラン記者。時間をかけて"インターネット後"の社会における新たなジャーナリズムのあり方について意見を交換したが、市民発信とマスメディアの協業とは、具体的にどのような形で成り立つのかがわかりにくい、という声も聞かれたので、今回は、ここで具体例を紹介したい。
    ◆インターネットやSNSの活用で、戦争報道が変わる
     前回、連載第1回目では、オープンジャーナリズムの導入を試みる英国の名門紙『ガーディアン』の取り組みを紹介したが、一方で各国のテレビメディアも、市民参画型のニュース発信に力を入れている。

     今回は、アメリカのニュース専門チャンネルCNNと中東衛星テレビ局アルジャジーラの試みを取り上げたい。

     昨年秋の停戦合意後も緊張関係が続く、イスラエルとパレスチナ。去年11月、イスラエルによる空爆でパレスチナ側に女性や子どもなど多数の民間人の死傷者が出た際には、アメリカ国内でも報道が過熱した。 実はこの紛争では、イスラエル・パレスチナ双方の軍や関係者が、攻撃や被害の状況を自らtwitterやfacebook等を使ってリアルタイムで発信していた。

     次のリンクはIDF・イスラエル国防軍のtwitterアカウントだ。

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  • 【新連載】ジャーナリスト堀潤の新しい活動はここから始まる! 「目指せオープンジャーナリズム」

    2013-05-07 13:45  
    330pt
    筆者がNHKに退職届を提出した事が公になった3月19日、現代ビジネスの瀬尾傑編集長が「わたしたちもメディアの世界を変えたいという思いでやっています。ご一緒できるとすごく嬉しいです」とFacebookでメッセージをくれた。面識はなかったものの「ぜひ」と返事を返すと「今夜会いましょう」とまたすぐに連絡がきた。
    午後11時、新橋の居酒屋で落ち合い、終電の時間もすっかり忘れ午前2時頃まで二人で話し込んだ。
    組織の建前とジャーナリズムの実践が混在するマスメディアのジレンマ。ソーシャルネットワークの発達で加速する市民発信と既存メディアとの融合の未来像。一次情報保持者が直接発信する時代におけるジャーナリストの役割とは何か---話題は尽きなかった。なかでも、市民発信の可能性についての意見交換は盛り上がった

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