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  • 長谷川幸洋 コラム第7回 「待機児童問題 旧態依然の認可保育所は60万人の潜在保育士は活かせない」

    2013-06-13 12:00  
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    前回と前々回のコラムで、私も加わっている規制改革会議の議論を紹介しながら待機児童問題について書いてきた。  会議は5日に安倍晋三首相に答申を手渡したので、ひとまず一段落である。  そこで、どういう結論になったか、書いておこう。  以下は、いずれも所管する厚生労働省も同意した内容だ。  株式会社形態による保育所事業への参入は、地方公共団体での裁量で実質的に阻まれている例が少なくない。  そこで規制改革会議は厚労省に対して以下のよう求めた。 (1)経営形態にかかわらず、公平・公正な認可制度の運用がなされるよう都道府県に通知する (2)あわせて通知の趣旨が市区町村に周知徹底されるよう、都道府県に通知する  なかなか株式会社が参入できない大きな理由の1つは、現場で仕事をしている市区町村が、独自の規制を設けて、それを認めなかったからだ。  そこで、まず国が許可権限を持っている都道府県に対して「公平・公正な運用をせよ」と指導し、そこから市区町村にも趣旨を徹底させる、という二段構えの作戦にした。  この要請を受けて、厚労省はすでに通知した。  結果がどうなるか、はこれからである。 待機児童の親は候補者にこの問題を問うべきだ  国の指導もさることながら、鍵を握るのは住民の声ではないか。切実な思いを抱いているのは、母親や父親だ。選挙の際に「待機児童問題にどう取り組むのか、株式会社の参入をどうするのか」と候補者に問うべきだ。  ついでに言えば、私は「なんでもかんでも国の指導に頼るのは良くない」とも思っている。地方分権に反するからだ。  コラムで紹介したように、厚労省の姿勢には大いに問題があるが、地元自治体がしっかり取り組むつもりなら、できることはある。横浜市がいい例だ。そこを見習いたい。  それから、社会福祉法人の財務公開について。  規制改革会議の要望を受けて、厚労省は「すべての社会福祉法人について2013年度以降の財務諸表を公表する」「公表が効果的に行われるための具体的方策について13年度中に結論を得て、14年度当初から実施する」という方針を決めた。    さらに「12年度の財務諸表も公表するよう社会福祉法人に周知指導し、その取り組み状況を調査し、規制改革会議に報告する」「(都道府県など)所轄庁のホームページにも公表するよう協力を要請し、所轄庁の取り組み状況について調査、会議に報告する」とした。  認可保育所の設置主体は社、会福祉法人である場合が多い。  その社福には、補助金の形で税金が投入されている一方、法人税などが免除されている。税金面で優遇されているのは、社福が利益を社会に還元する建前になっているからだ。  ところが、肝心の財務諸表はといえば、自主公開に任されている。  これでは本当に利益が社会還元されているのかどうか、国民はチェックのしようがない。  だから、財務諸表の公開が重要になる。 同族や家族経営の多い社会福祉法人こそ財務諸表を公開せよ  社会福祉法人は実態として同族や家族経営が多く、事業の裏側には営利目的の企業があったりする。「ばく大な内部留保を溜め込んでいる」という指摘もある。  そうなると、社会還元どころか「実は個人的な利益追求が優先されているのではないか」という疑惑が生じる。  「そうではない」というなら、まず社会福祉法人自ら率先して財務諸表を公開すべきだ。  彼らが「利益優先」と主張する株式会社は、上場企業であれば財務諸表を公開し、公認会計士による監査も受けている。  税金優遇を受けているのだから、企業並みどころか、それ以上にもっと透明にすべきではないか。  財務諸表の公開問題は、奥の深い所で「保育士不足問題」にも絡んでいる。  それは、こういう事情だ。  まず「保育所だけを増やしても、保育士が足りないから問題解決にならない」と指摘がある。だから、規制改革会議は保育士が増えるように、保育士資格試験で合格した科目の再試験免除期間を、3年から5年に延長するなど緩和策を提言した。  それはもちろん大事だ。  だが、実は保育士の免許を持っているのに、実際には保育所で働いていない「潜在保育士」が60万人以上もいるという推計がある。 (厚労省資料はこちら。PDFファイルです)    彼ら彼女たちは、なぜ資格があるのに働いていないのか。 保育士の給与が低いのはオーナーの取り分が多いから  理由の1つが、給料の低さである。それは4月1日の会議で議論になった。  参考人「社会福祉法人の場合は人件費率が高いと言いながら、そこに占めるオーナーの取り分が高い。一般職員の人件費は株式会社でも社会福祉法人でも変わらない」  委員「私はある会社の社外役員をやっていたが、そのときの経験で保育士は大変な仕事の割に待遇は低いと知った。すると運営費に占める(会社と社福の)人件費の差は保育士の給与の差ではなく、それ以外の方の人件費と理解していいか」  参考人「それだけではないと思うが、大半はそういう要素が強い」  別の参考人(大学教授)「私立の保育所で重要なのは肩たたき。『そろそろいいお婿さんがいるよ』と言って、早く辞めてもらう。それが人事管理の要諦。非常にいびつで人件費を歪めている構造がある。差額はどこにあるのかといえば、他のところでとっているのはあきらかと思う」 (議事録はこちら。PDFファイルです)    つまり、せっかく政府が保育士対策で予算を増やしても、カネはオーナー周辺に流れて、肝心の保育士に回っていないという指摘である。
  • 長谷川幸洋 コラム第6回 『待機児童問題は深刻なのに10年経っても「保育所事業」へ株式会社の参入が進まない理由』

    2013-06-06 12:00  
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     前回のコラムで待機児童問題について書いたら、思いがけず多くの読者から反響をいただいた。そこで今回も、私が委員を務める規制改革会議での議論を紹介しながら、待機児童問題について続編を書く。
     横浜市が保育所事業への株式会社参入を突破口に待機児童ゼロを達成した例を前回、紹介した。では、なぜ他の都市で株式会社の参入が進まないのか。
     もともと保育所の設置主体は原則として社会福祉法人ないし市町村に限られていた。法律でそう決まっていたわけではない。旧厚生省の「通知」という行政指導によって、そう運営されていただけだ。その設置制限が2000年の規制改革で取り払われて、形の上では株式会社やNPO(非政府組織)法人などが参入できるようになった。
    保育園をつくらせないカルテル
     ところが、それから10年以上が過ぎても、いっこうに参入は進まない。なぜか。その実態把握が規制改革会議で焦点になった。3月21日の会議では、株式会社として保育所を経営する最大手であるJPホールディングスの山口洋社長を呼んで意見を聞いた。
    山口:  「東京都町田市で当社が初めて株式会社立の保育園を始める。そのとき社会福祉法人の団体から『株式会社は質が低いからだめだ』という嘆願書が出た。実は町田市が募集した地域で応募したのは株式会社の2社だけで、社会福祉法人は一切、応募しなかった」
    「なぜかというと、彼らはカルテルを組んでいて、1法人2施設までしか作らせない。将来、子どもたちの取り合い競争を避けるために、保育園を作らせたくないのだ。自治体の後ろにいる社会福祉法人が株式会社に反対して、なかなか参入を認めるに至らないのが全国の実情」(一部略。議事録はhttp://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130321/gijiroku0321.pdf)。
     このとき、山口は独自に調べた全国自治体の保育所実態一覧表(http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130321/item5.pdf)を示した。こういう資料は厚生労働省にもない。その資料で、たとえば東京都では世田谷区が最多の待機児童を抱えながら、区の要綱で「保育所は社福に限る」と定められている実態が明らかになった。
    委員:  「(世田谷区で株式会社が)申請しても認められない根拠はどこにあるのか。法律で認められていないわけではない」
    山口:  「区でなく東京都が許認可権を持っている。区が都に推薦を上げないと東京都も審議ができない。区のレベルで推薦しない、という措置をされているということだ。その法的根拠となると、私もよく分からない。もしかしたら(裁判所に)訴えれば、効果があるのかなとも思う」
     私は「自治体が独自の募集要項とか内部規則を作って株式会社の参入を阻んでいる場合、国が自治体の決めている要綱なり規則に上書きするルールを作って変えることはできるのか」と質問した。厚生労働省の答えは地方分権の趣旨から言って「できない」というものだった。
     すると、問題は自治体(区)の取り扱いという話になる。だが、肝心の実態について山口の資料だけが頼りというのでは話にならない。国が調査すべきである。私は実態について緊急調査を求めた。次の会議で保育チームを率いる大田弘子議長代理が要求資料をまとめて厚労省に突き付けた。
    待機児童ワーストなのに株式会社の参入を認めない世田谷
     結果が出たのは4月17日の会議である。ここで厚労省は待機児童が多い東京都や埼玉県の一部、横浜市、川崎市などについて調べた一覧表を出してきた(http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130417/item1-3.pdf)。
     これは待機児童が50人以上存在する関東圏の自治体に限った部分的なものである。それでも国による調査で実態の一部が見えたのは大きな成果だった。これをみると、12年4月1日時点で東京都の待機児童ワースト5は世田谷区(786人)、練馬区(523人)、足立区(397人)、大田区(392人)、板橋区(342人)となっている。
     先の山口の資料によれば、世田谷区は株式会社の参入が認められていない。実際、厚労省調査でも株式会社立の認可保育所は全部で109のうちゼロだった。練馬区では96中の14、足立区は88中の3、大田区は88中の5、板橋区は94中の4しかない。
     このうち世田谷区と足立区は保育所募集で最初から問答無用で株式会社を排除し、板橋区は市有地を使った保育所募集で株式会社を排除している。
     そこで、先の委員と山口社長のやりとりに戻る。そもそも国の行政指導では株式会社を排除していないのに、どうして区が排除できるのか。なにか法的根拠はあるのだろうか。ここが会議で焦点の一つになる。東京都に質問が飛んだ。
    委員:  「(世田谷区などが)株式会社を排除している。これは区が最終権限を持っていて仕方がないということなのか」
    東京都:  「区が現場を預かる立場で自らの責任で行なっている。区市がエリアの保育ニーズなど全部情報を持っており、都としては区市から内申があったものについて認可する仕組みだ」
    別の委員:  「保育所の設置申請に対する許可権者はどなたか」
    東京都:  「東京都」
    委員:  「そうすると、なぜ区の言ったことを丸飲みするのか。法律が東京都知事の権限だと決めていて、区市町村の権限は何も決めていない。区市町村が内申してきたもの以外は認めない、という権限の行使の仕方が法律上、許されるのか」
    厚労省:  「私どもの児童福祉法の理解では、都に裁量権があると理解している」
    別の委員:  「『社福に限る』という区の裁量を東京都は是としているのか」
    東京都:  「都としては、サービス内容とか経営の安定性とか株式会社と社会福祉法人の間に差はないと考えているので、差別的取り扱いを是としているものではない」(議事概要はhttp://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130417/summary0417.pdf)
     ようするに、東京都は「区が上げてきた方向で認可してますよ。でも、都としては差別していいとは思ってませんよ」というのだ。法律が都知事の権限と決めているのに、実態は区の判断任せで結局、株式会社の参入が進まないという話である。

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  • 長谷川幸洋 コラム第5回 「規制改革会議で見えた国民より社会福祉法人が大事な厚労官僚のホンネ」

    2013-05-30 12:00  
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     横浜市が5月20日、待機児童ゼロ(4月1日現在)を達成した、と発表した。これを受けた形で、21日には安倍晋三首相が横浜市内の保育所を視察し「横浜方式を全国に広げて5年間で待機児童ゼロを達成したい」と語っている。

     待機児童問題は子どもを持ちながら働く母親だけでなく、父親にも切実な話である。子どもがいても夫婦で働く環境が整えば、少子化問題の解決につながる。働き手が増えるのだから、日本経済の活性化にも役立つ。

    「横浜は保育所が整っているらしい」という話が広まって、通勤時間が長くなっても、わざわざ東京都内から横浜に引っ越す例もあるそうだ。「自分の税金はそういう街に払いたい」と人々が住む街を選択する。まさに「足による投票」である。