【不定期連載】鴉の囀り(第一羽)
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【不定期連載】鴉の囀り(第一羽)

2013-06-24 19:14
  • 2
【今回、Twitterにてどれすとさん(https://twitter.com/doresuto)さん原案の物語から、
許可を得て私が小説を書くこととなりました。
鴉の囀り(からすのさえずり)、どうぞお楽しみください。】
前作→http://ch.nicovideo.jp/hiepitap/blomaga/ar66718


1.

Twitterとは、国家である。もし人の共通した認識の集合体をあえて称するなら、であるが。
鉄道が好きなもの、アニメが好きなもの、音楽が好きなもの、アイドルが好きなもの。
政治経済を語りたいもの、ひたすら鬱陶しい単語を並べるもの。
そんな人達がそれぞれの趣味・主義・志向の元にクラスタと呼ばれる村を作る。
それぞれは大別されて、大きなジャンルとして見えない境界線が引かれる。
日本という国の中に、もう一つ見えない国家が出来上がる。自らの、くだらない日常や興味のあること。
そういったことを呟くと言う共通意識で繋がった国家だ。
この場所には、総理大臣や大統領、国家主席のように管理するものはいない。
ただ、量産された「王」や「神」なら腐るほど存在する。
見えない国家の中で国民たちに持ち上げられた王や神の地位は、フォロワー(当該アカウントを見られるユーザー)数やFav(お気に入り)数、RT(ツイートを拡散されること)数で決定される。
中でも数千を超えるフォロワー数、膨大なRT数、数えきれないFav数を誇るTwitterユーザーが、いた。
Twitterアカウント:@Jackdaw_hamlet。HN(ハンドルネーム)、若堂(じゃくどう)。
彼は確かに、Twitterと言う国家に存在する王の中でも、最もその名に相応しいTwitterユーザーであった。
若堂は、フォロワーの誰がいつタイムライン(Twitterのユーザーがフォローしているアカウントの呟きが一覧で見られる)に上がっても、そこにいた。
若堂がタイムラインにいないということは、ひとつのセンセーショナルな話題になるくらいだった。
彼は、スターであり、話題の中心であり、またネット上での祭の興奮を生み出す天才だった。
彼の主張が論争を生み、たまに炎上しかけることもあったが、それを収めるのもまた彼だった。
彼は有名人だった。歌手や俳優、アイドルではない。見えない国家の中で限って、スターであり、大体のユーザーが知っている有名人だ。
彼と言葉を交わすことが一種のステータスであり、また目標とするユーザーも現れる。
彼はそれを楽しんでいるのか、面白がっているのか、それは分からない。
ただ、彼はいた。
言葉遊び、話題、コミュニケーション能力、どれを取っても彼に敵うユーザーはいなかった。
軽妙な語り口は、若いユーザーに憧れられ、また年嵩のユーザーには少し鼻につくようだった。
ユーザーはいつでもタイムラインにいる若堂に議論を吹っかけたり、あるいは彼の職業や生活を詮索したり、概ね彼の存在はマンネリに弱いインターネット世界において役立っていた。
この日も、いつも通りそのようにタイムラインは彩られるはずだった。

△△△『○○さんの新作最高!すっごい感動したんだけど!』
××× 『@△△△ 新作じゃねえよ ただのカバーだろうが 原曲は##で、○○はそれ歌ってるだけの曲泥棒だろうがよ』
△△△『何か変な人に絡まれた(汗 しばらく鍵かけまーす』

■■■『このままでの日本では駄目だ!皆で立ち上がろう!』

◎◎◎『今日変な奴電車で見たwww http://XXXXXX~』

★★★『明日大学行きたくない・・・しにたい・・・』
◇◇◇『@★★★ 大丈夫?何かあったの?話聞くよ?』

Jackdaw_hamlet『ただいま~』

若堂が現れたのは、午後8時過ぎだった。この『ただいま』はTwitterに帰ってきた、と言う意味だろう。
フォロワーたちがざわめく。
次々に、@Jackdaw_hamlet宛の『おかえり』リプライ(@をつけた個人宛のツイート)が飛ばされる。
若堂は、リプライをくれたフォロワーに、まとめてだが律儀に『おかあり~』(おかえりありがとうの意味)と返している。
珍しいですね、とか若堂さん待ってたよー、と声を掛けられているのに引用RTで返事をしていた。

Jackdaw_hamlet『何となく、こちらに浮上する気になれなくて』
Jackdaw_hamlet『離脱していました』
Jackdaw_hamlet『皆いるみたいだね』

いるよー、とリプライを返すフォロワーたち、ひたすらタイムライン更新し続けるフォロワーたちが、タイムラインに溢れる。

Jackdaw_hamlet『じゃあ今僕のツイート見ている人、リプして』

若堂の言う通り、フォロワーたちは熱狂を以ってファンレターめいたリプライを送る。
若堂のリプライ欄は、数多のリプライであっという間に埋まってしまったはずだ。
しかし、それに満足そうな雰囲気を出しながら、

Jackdaw_hamlet『うん、たくさんいるね』
Jackdaw_hamlet『これだけいれば、楽しくなりそうだ』

何かやるんですか、とリプライがあったのだろう。
個人的なリプライではなく、『楽しいこと、やるよ』とツイートがされた。
その後しばらく若堂からのツイートは無く、フォロワーたちは期待感を持ったまま自分たちの既知のユーザーと会話を始めた。
そんな風にしていると、唐突に若堂のツイートが始まった。

Jackdaw_hamlet『今日は、ちょっと変わったイベントをやりたいと思います』

その発言が、瞬く間にフォロワーからRTされる。
そして、次のツイートがタイムラインに流れた。

Jackdaw_hamlet『今から、僕のタイムラインにいるフォロワーの皆さんを殺します』
Jackdaw_hamlet『だから、この時間を精一杯楽しんでね』

タイムラインが、静まり返った。
だが、次の瞬間怒涛のツイートが@Jackdaw_hamletに殺到した。

nolove_nolive 『@Jackdaw_hamlet じゃくどーさん、冗談キツスギデスヨーwww』
123tree    『@Jackdaw_hamlet 通報しますた』
yukayukapan 『@Jackdaw_hamlet こわーいwww今日の若堂、何か違うなwww』
nk38nk38 『@Jackdaw_hamlet 警察来ちゃいますから、早くツイート消した方がいいですよ』
nekodaisuki 『@Jackdaw_hamlet マジで?俺殺されちゃう?やれるもんならやってみろよー!』

Jackdaw_hamlet『@nekodaisuki 分かりました。じゃあ、君から』

名指しされたnekodaisukiは、あからさまに慌てて『え?え?どういうこと?』と言うツイートをした。
その様子を見ていたフォロワーたちは、『あーあやっちゃった』と生温い目でやり取りを見ていた。
ところが。
nekodaisukiのツイートが、徐々に不穏なものになってきたのだ。
冗談や釣りにしては、むちゃくちゃな内容だった。

nekodaisuki 『ちょ、何これ』
nekodaisuki 『おかしい やばいってこれ』
nekodaisuki 『音が』
nekodaisuki 『へんなおとする』
nekodaisuki 『パソコン おかしい』
nekodaisuki 『まって たすけて』
nekodaisuki 『むり』

そして、nekodaisukiのツイートが止まった。
『手の込んだ釣りだなwww』などとリプライを送るものもいたが、nekodaisukiは無反応だった。
若堂のツイートも無い。フォロワーたちの中にうっすらとした不安感が充満した頃、nekodaisuki本人のアカウントからのツイートがタイムラインに上がった。
Jackdaw_hamletからRTされて、フォロワー全員に拡散されたそれには、画像が添付されていた。
白目を向き、床に倒れた小太りの男性。恐怖に彩られた表情は、何を見てしまったのか苦悶にゆがんでいる。
頭上から撮られた構図。アニメの美少女をあしらったおよそモードとは言いがたい、だが愛情は感じるよれたTシャツ。
猫グッズが周囲に散乱し、猫グッズで出来た棺のようだった。

『これって、nekodaisukiさん・・・?』『そうだよ、あの猫グッズ見たことあるもん!』
『ここまでするかー?おーい』『ねえこれ、本当に釣り?』『やりすぎだよ。不快』

『おかしくない?これ、死んでない?』

ある一人のフォロワーの発言が、戸惑い気味だった空気を一変させた。
タイムラインに声なき声が溢れ、パニックを巻き起こした。

『マジで通報!』『やばいって。やだよこんなの』『釣りって言ってよ!』
『俺、変態ツイートしかしてないから今死ねないよ!』
『お願い、積荷を、積荷を燃やして!死ねない!』『逃げる、逃げたい』
『若堂をリムればいいんじゃね?』『嫌だ、リムる!』

何人かが、Jackdaw_hamletをリムーブ(フォローをやめること)したようだった。

Jackdaw_hamlet『逃げるのは、ルール違反だよ』

若堂のツイートが追い討ちを掛ける。
そして、雪崩のように6人のアカウントからのツイートがJackdaw_hamletによってRTされた。
もれなく、ユーザーの死に顔画像付きだ。
フォロワーたちは、ツイートに出ないタイムラインに響く悲鳴を確かに聞いた。

Jackdaw_hamlet『リムーブするような人は優先的に殺していくよー』
Jackdaw_hamlet『せっかくだから、一緒に楽しもうよ』
Jackdaw_hamlet『さあ次は誰がいい?』

彼のツイートに、あえてリプライを返すものはいなかった。
タイムラインは沈黙した。

【続く】




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