【不定期連載小説】うちの子を、よろしく。(1)
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【不定期連載小説】うちの子を、よろしく。(1)

2013-01-30 21:44
    せっかくのブロマガを利用して、小説を連載してみようと思います。
    ぜひ読んでいただけたら幸いです。



    『うちの子を、よろしく。』




    「僕、それやりたくないわ」
    僕の一言に、携帯電話の向こう側の相手がずっこけた気配を感じた。
    「お、お前が何か最近一人で不安だなー、とか呟いてたから俺がせっかく…!」
    そういえばそんなことも言った気がする。しかし、気がする程度で本気で思っていたわけじゃない、はずだ。
    それを真に受けた友人が、訳の分からない仕事を持ちかけてきたのだった。
    「別に難しい仕事じゃないぞ、きちんと保証や援助があるんだからむしろお得だぞ?」
    「でも僕、ブリーダーみたいな仕事がしたいわけじゃないし」
    そう、彼はこの僕にブリーダーのような仕事を依頼しようとしている。
    僕の条件は、その仕事にうってつけらしい。訳あって、古いがしっかりした一軒家に一人住まいであり、在宅が多い。
    友人は、僕の言葉を自分の都合の良いように変換したようだ。
    「それにね、本業の締切が迫ってるんだよね。誰かの面倒見る余裕なんかないよ」
    「いや、それは大丈夫だ。大抵のことは自分でできるよう教育してある」
    やけに食い下がるな。脳みその端っこの方がチリチリ苛立ってきたが、基本僕の負の感情は他人には分かりにくい。
    それを知ってか知らずか…いや、こいつは分かっててやっているに違いないが、更に畳み掛けてきた。
    「いいか、お前の負担は場所と軽いコミュニケーションだけだ!特に食事とか費用とか教育とかしつけとかは気にしなくていい。困ったことがあれば俺や会社の人間がサポートする。だから、やってみてくれないか」
    「負担がないなら、何で僕なんだよ。もっと適任者がいるだろう」
    僕がそう言うと、友人の勢いが急激に減速した。
    「・・・・・・いや、これも結構難しいんだよ。前にも話しただろう?俺の仕事は、『商品』の教育とその場所のあっせんだって。盲導犬とかなら適性もあるんだろうが・・・うちの『商品』の場合、適度に構いすぎないことも重要なんだよ」
    「それで?」
    「ああ、これは俺が実際に見たわけじゃないけれど『商品』に感情移入し過ぎて手放そうとしなかったり、あるいは過干渉で『商品』の性能が偏ってしまったり・・・色々あるんだよ」
    「僕は、構いすぎないからいいってこと?」
    「それもあるし、お前なら悪影響を与えるほど接触しないだろうしな。最低限の世話をしてくれればいい」
    それこそ、僕でなくてもいいだろう、とぼやくと、友人は物分りの悪い子供に言うように諭した。
    「だから、普通の人間だと『商品』に愛着を持ちすぎちゃうのさ。愛想なしくらいのがちょうどいいんだ」
    「・・・愛想なしで悪かったな」
    本当のことだから否定はしないが、そう真っ向から言われると気を害さないはずがない。学生時代から、直截的な物言いが出来ることは友人の美点と思ってきたが、これはない。
    僕が本当に気分を害したのが分かったのか、苦笑いの気配となだめすかすような声色で彼は言った。
    「頼むよ。実際、やりたい人が多いのに適任者は少ないんだ。俺と、科学の発展を助けると思って」
    こうなると、友人はyesの返事が出るまでしつこい。僕はあえなく陥落した。


    結局断りきれなかった僕は、翌日友人が連れてくる『商品』を自宅で受け渡しされることになってしまった。
    友人・・・イグサは大学時代の友人で、現在はロボット製造・販売の会社に勤めている。しかし工学的な知識は殆どなく、いわば『営業』の立場だ。何回か飲みに行って話しを聞いたことがあるが、主に企業への商品販売を行っているらしい。
    イグサは愚痴もよくこぼすが、営業向きの男だと思う。明るく人懐こい性格で、初対面の人間でもなんとなく仲良くなってしまう。このお陰で『愛想なし』の僕は何度となく助けられてきた。ただ自分の思ったことを押し通す癖があり、特に自分を主張することの少ない僕は押し切られてしまうことが多々ある。こいつは僕のその性格を分かりきった上で電話してきたのだ。まったく。
    彼の会社は、対人用・・・介護や補助など、そういった仕事をするロボットを提供している。テレビや新聞で広告が出ているし、名前を出せばまず知らない人はいないだろう。人口が減少していく現在、そういったしんどい仕事をしてくれる代替物が必要とされている。儲かっているんだろう、と思う。しかし、一般家庭を、あいにくと僕は単身者だが、使ってロボットの『教育』をするとはまったく変な話だ。
    犬や猫のブリーダーなら分かるが、ロボットのブリーダーなんて聞いたこともない。イグサによると、一般家庭の生活習慣、気づきなどをデータベースとして蓄積することによって、プロトタイプのロボットから様々なロボットを作り出すそうだ。
    「動物のブリーダーなら、健康な可愛い仔を生ませて育てて飼い主に引き渡せばいい。ただ俺たちは企業の顧客である一般人にロボットを提供しなけりゃならない。するとある程度の『人間味』がロボットにも必要なんだよ」
    とは、イグサの弁だ。
    ロボットに人間味、とは。第一、イグサの会社を含め現場で活躍しているロボットというものは僕が知る限り、四足だったりキャタピラだったり鋼鉄の指が何本もついていたりおよそ人間の形はしていない。どちらかというと戦車のような印象だ。戦車に人間味も何もないだろう。
    そういうとイグサは、
    「そうなんだよ、実際クライアントの病院とか施設じゃあ、お年寄りとかが怖い、人間の看護士さんがいいって怯えるらしいぜ」
    とため息をついた。だからこそなんだよ、と更に続けた。
    「人間味のないものに人間味を。ほら、昔ランドセル背負った小学生みたいなよたよた歩くロボットいたろ。俺は別になんとも思わなかったけど、元カノなんかアレ見て可愛いー、とか言ってたぞ。小さい子供みたいで可愛いんだってよ」
    ああ、そういえばそんなのもいたな。一時期CMにも使われていた。ただそうなると、一つ疑問が出る。
    「イグサはさっき僕が愛想なしだって言ったじゃないか。それなのに、いいのか」
    「お前、日がな一日なーんにもしないでボーっとしてるわけじゃないだろ。飯は作るし買い物にくらい行くだろ。食ったり飲んだり、いろんなことして生活するだろ」
    「仕事もしてるぞ」
    「そりゃ当然だ。俺んとこの『商品』にはな、そういう人間の生活ってものを覚えさせたいんだよ。一人暮らしのおばあちゃんとかおじいちゃんの介護とか、人間の命令なしでロボットが自律的に思考して対応できるようにさせたいの。別に愛想とか関係ないんだよ、要は」
    イグサの声は真剣だった。心の端っこあたりにピリピリと何かが走って、僕は何も言えなくなった。僕は、イグサに弱い。
    「・・・おい、聞いてるか?」
    「聞いてる。それで、期間は?」
    「ああ、ひとまずは半年かな。状況によって短期にも長期にもなるだろうし、きちんと謝礼は出すしサポートするから心得ておいてくれ」
    「分かった」
    「他に質問はないよな?とりあえず、明日午後いちで『商品』連れて行くから」
    「ああ」
    と、電話を切ったあくる日が今日。
    締め切り間近の本業に精を出しつつ、イグサが来るのを待っていた。久しぶりの来客だからか、あまり気の進まない用事のはずなのに心が浮き立っているのを感じた。ランチなども用意してみている。イグサなら喜んで食べてくれるだろう。
    音楽を聴きながら作業をしていると、元気よく玄関チャイムの小気味いい音が響いた。
    「よう!」
    玄関に招き入れたイグサは、変わらずの背の高さと男らしい体つきに、暗い茶色に染めた髪の毛を清潔に整え、爽やかな笑顔だった。背もさほど高くなく、細身でおとなしい僕からすれば対極の存在だ。
    「悪いな、一応仕事だからスーツなんだ」
    そう言うと黒い冬物コートを脱いで、左腕に引っ掛けた。様になる。ぼーっと見ていたら、何見とれてるんだよ、と頭を小突かれた。痛い。
    「しっかし、相変わらずお前は凄い格好だな」
    イグサは呆れたように、僕のTシャツとチノパンを指さした。元は白かったTシャツはところどころにカラフルな色が付き、ベージュのチノパンはシワだらけ、だと言いたいのだろう。
    「あいにく仕事中なんだ。締切前だって言ったろう」
    「アナログ絵描きは大変だな」
    さほど大変そうとは思っていない口調で、イグサは肩をすくめた。
    僕の本業は、イラストレーターだ。どちらかと言うと、絵本の仕事が多いため、クレヨンや色鉛筆を多用している。パソコンでも絵は描けるが、依頼はアナログの方が多い。売れっ子というわけではないが、それで生活が出来る程度にはお仕事を頂いている。
    「ところで、寒いから早く入ってよ。…『商品』は?」
    冬の風は薄着には堪える。開けっ放しの玄関は既に冷え切っていた。しかし、イグサは手ぶらに近い格好だ。
    「ああ、ちょっと待ってくれ。『V1-2014』入れ」
    コマンド入力ではなく、純然たる音声入力なのか。改めてイグサの会社は凄い。
    そして、イグサの背後から我が家に『商品』が入ってきて…僕は口を開けたまま、固まった。
    「初めまして、マスター。私は『V1-2014』です。本日よりよろしくお願いします」
    涼やかな声音で、僕と同じ目線で無表情な顔のまま、『男の姿をしたロボット』はお辞儀をした。
    これが、ロボット『V1-2014』と僕の新たな生活の始まりだった。

    【続く】

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