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記事 2件
  • 「謎の女性ライター再登場・在特会会長逮捕の裏側・年金手帳売買」ニコ生ナックルズマガジンvol.21

    2013-06-21 01:00  
    398pt
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━                                                       2013/06/21      久田将義責任編集 ニコ生ナックルズマガジン                                 vol.21   □日本で一番危険なWEBマガジン。ニッポンの闇をさらけ出せ!□ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 日本で一番危ないWEBマガジンが創刊!『実話ナックルズ』『ダークサイドJAPAN』元編集長の久田将義が、インターネットを通して新たな「アウトローメ ディア」を始めました。その名も「久田将義責任編集 ニコ生ナックルズマガジン」。久田氏をはじめ、様々なアウトロー著者陣営がどの既存メディアでも露出できない記事をお届けします。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
    《目次》
    01. [餅田もんじゃ] 新進気鋭の謎の女性ライター再登場『出会え、焦点外@ロンドン』 02.在特会桜井会長、逮捕の裏側 03.[窪田順生]「偽装質屋」、「消えた老人」は氷山の一角? 地下マーケットで「年金手帳」が売買される 04.編集イシムラの独り言
  • [餅田もんじゃ] 新進気鋭の謎の女性ライター再登場『出会え、焦点外@ロンドン』

    2013-06-17 01:00  
    餅田もんじゃ 寄稿記事 出会え、焦点外@ロンドン
     
    舞台が好きなこともあり、暇を見つけてロンドンに行っている。実は去年の今頃も転職の隙間を縫って1ヵ月間行っていた。
    そしてもうこれは土地柄だとしか思えないのだけれど、イギリスに行くと日本と比較しても結構な頻度で妙な人に出会う。私はもともと出不精なこともあり、旅行先でもさしてアクティブに出歩かないのだが、それでもことごとく会う。そしてそれは、たとえばインドやタイなどの「こりゃあ見るからにヤバい」という環境で出会う変人よりも、『大英帝国』という秩序の隙間から突然ニュッと出てくる分、余計に不気味というか、独特の趣があるように思う。
    そういった人々の特徴として、目の焦点が合っていないということがある。マンチェスターで出会った鳩に向かって懸命に怒鳴るオヤジも、大晦日の満員電車にベビーカーを押しこみ他の乗客と喧嘩になった挙句、Fから始まるとんでもない捨て台詞を残して去っていた妊婦も、またケンタッキーの店内で少林寺拳法の経典を片手にカップラーメンを啜っていた男性も、みんな焦点が合っていなかった。そしてそうした人達の成すことは、やはりその視線と同じように焦点が合っていない。
    去年のある日、私はソーホーと呼ばれるロンドンの中心部にミュージカルを観に来ていた。少し早めに当日券を手に入れると、開演までまだ時間があったのでカフェで紅茶を買って、近くの公園のベンチでぼーっと飲んでいた。多分本当にすごくぼーっとしていたのだと思う。だから隣に人が座っていたことも、声をかけられて初めて気がついた。
    「アー・ユー・チャイニーズ?」

    低くドスの効いた声の方を見ると、大柄な黒人がそこにいた。だが彼は黒人特有のあの赤銅色にツヤッとした肌を持たず、全体的にうっすら汚れていた。肌だけでなく、丸眼鏡も、服も、なんとなく一度さっと埃にくぐらせた感があり、歯は黄ばんでかけていた。そして何より、やはり目の焦点は合っていない。私はやや警戒し、姿勢を前に向けたまま答えた。
    「いえ、ジャパニーズですよ」

    「オーケイ。じゃあこれから俺のダチがやってる中国漢方薬の店に行こう」

    いや、「オーケイ」の意味がわからない。黒人の彼から中国漢方薬の話が出る脈絡もわからない。何もかもわからない。
    あまりのわからなさに呆然としている私をよそに、さあお前も、と言わんばかりに彼はベンチから立ち上がった。私は慌てた。

    「いや、無理だよ。これからミュージカル観るから」

    「そうか。今日は無理か。じゃあ明日は?良い店なんだ。すごく健康にいいものばかり置いてあるんだぜ」

    彼のこの食い下がりっぷり、そして何より健康にいいものを勧める彼が人並み外れて不健康そうであることに私はいよいよ危機感を覚えた。そして「明日朝の飛行機で日本に発つから無理」と言った。正直このエリアには明日も明後日も来る予定があったのでバレたらどうしようかとは思ったが、その際は、人違いよ、日本人って画一主義だからみんな同じような顔に見えるのよ、みたいなグローバルジョークで切り抜けようと、そんなことまで咄嗟に考えた。
    私が店に行けないとわかってからも、彼はアジアの山奥で採れる腰痛に効くハーブの話や、チベット地方の豚の何かから取れる液体の話、そしてそれらが彼のダチの店でいかに安く買えるか、という話などをした。私は変わらず姿勢を完全に彼の方には向けないまま、「ライト」「オーケイ」の組み合わせでその場を凌いだ。そして頃合いを見て「そろそろ開演時間だから…」と切り出した。彼は残念そうに、「オーケイ。じゃあ、最後にひとつ聞かせてくれ」と言った。
    「いいけど、なんでしょう?」

    「君、レタスは食べるか?」

    「サラダとかで食べますけど…」

    「そうか。気をつけたほうがいい。乳がんになるぜ。じゃあな」

    彼はその言葉を残すと、まだらに茶色いトレンチコートをひるがえし、その場を後にした。先を越された。私の方が彼よりはるかに長い間、その場を後にしたかったはずなのに、先を越されたのだ。
    公園のベンチには、妙な敗北感に打ちひしがれる自分、そして手の中のすっかり冷えた紅茶だけが残された。私は釈然としないままベンチに佇みながら、とりあえず乳がんには気をつけようと思った。 (餅田もんじゃ)