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記事 18件
  • [餅田もんじゃ] 新進気鋭の謎の女性ライター『下世話の品格』

    2014-07-09 23:00  
    220pt
    餅田もんじゃ 寄稿記事 『下世話の品格』
    どちらかと言えば、下世話な方だと思う。Yahooニュースで『あの芸能人が逮捕』的な見出しがあれば最初に開くし、社内恋愛の噂は結構好きだ。例の兵庫県議の動画も、一瞬で目が覚めることを言い訳に先週は毎朝見ていた。というか、夜も見ていた。
    私の周りにも下世話な人は多い。たとえば同僚の井口さんだ。彼女は兵庫県議の前はチャゲアスの動画を見るのにハマっており、その少し前はSTAP細胞にハマっていた。ハマって何をするのかと言えば、「STAP細胞はありまぁす」と言い続ける、ただそれだけだった。最初は披露するたびウケていたという。そこでやめておけば良かったのだ。だが、彼女はその後も事あるごとに言った。言い続けた。いつしかそれは物真似から口癖の領域に入った。そしてある日、遠く離れたところに住む妹との電話中にもその言葉は口をついて出た。
    「STAP細胞はありまぁす」
    恐らく、まったく脈絡はなかった。というか、この言葉が脈絡を持つのはSTAP細胞の有無を問われた時以外ありえない。当然ながら、STAP細胞の有無など尋ねていなかった妹は激怒した。そのあまりの怒りように、以来その真似を封印したのだと、ほがらかに彼女は話した。反省していないことは明らかだった。
    この下世話さが笑えるのは、後腐れがないからだ。これをSNSで不特定多数に発信したり、含意のある言い方をしていれば、きっと何かが引っかかって面白くなくなる。赤の他人のゴシップで楽しませていただく以上、なるべくシンプルに、スムーズに、さくっと終わらせる。それが最低限の礼儀、下世話の品格であると私は思う。
    その品格を心得ない人がいる。たとえば先輩の村岡さんがそうだ。彼の悪いところは、言葉を選ばないことだ。
    「ああいう輩は金がほしいんでしょ」
    会議中にそんなことを言って場を凍らせるのが村岡さんの得意技だ。石原議員の真似事にしては、恰幅から口調、そしてそのあとの下卑な笑いまで、すべてが堂に入っている。こういう人を見ていると、悪代官って本当にいたのだろうなとしみじみ思う。
    また私自身、彼にこんなことを言われたことがある。
    「餅田ちゃん、最近痩せたけど何かいいことあったの?」
    村岡さんはいつものようにニタッと笑っている。その笑いもだが、なにせ最後の「何かいいこと」の響きが余計だった。その時居合わせた人は皆いい人だったので、ハッと息を飲むのがわかった。 私はイラついた。なぜならば、私は痩せてはいない。むしろ太ったのだ。それを髪型で懸命にごまかそうとしているだけである。その勘の鈍さにもうんざりだ。 仕返しに、私も「村岡さんこそ、またお腹が大きくなりましたね」などと爪を立ててみたものの「俺のことはいいよ」と流すばかりだ。いい人たちは私の切り返しにまたハッと息を飲むし、こういう空気ができると最後、何もいいことがない。完全なもらい事故である。
    村岡さんとは去年まで部が同じだったこともあり、飲み会で一緒になることが度々あった。年度末の最後の部会の時である。その日はちょっとしたゲームイベントがあり、最下位になった人が「答えたくない質問に答える」という罰ゲームを受けることになった。その質問を募った時、一番に手を挙げたのが村岡さんだった。嫌な予感がした。
    「年収!年収!」
    その目の輝きから、彼が本当にそれを知りたがっていることは明らかだった。渦中にいる、最下位の男性社員は困っている。言いたくないだろうし、開示したところでその場が良い感じに収まるとは考えづらい。周りも村岡さんをいなそうとしているが、酒の勢いもあって、彼の「年収!」コールは終わらない。
    すると、個室の隅から「はい!」と声が上がった。井口さんだった。一体何を言いだすのかと注目が集まる中、彼女は声高に言い放った。
  • [餅田もんじゃ] 新進気鋭の謎の女性ライター『ポジティブな人』

    2014-06-09 01:00  
    餅田もんじゃ 寄稿記事 『ポジティブな人』
    「ポジティブな人」から目が離せない。ポジティブな人がいる、と認識したが最後、その人を追いかけずにはいられない。なぜなのか、説明すらままならないほどの吸引力がそこにはあるのだ。

    たとえば、蓮舫である。政治家としての側面を含め、彼女本人について強く思うことはあまりないのだが、蓮舫のTwitterはとにかくすごい。
    まず蓮舫は早起きだ。

    『おはようございます!』

    朝の6時前に彼女はつぶやく。当然私はその時間には起きていないので、9時台の通勤電車の中、半開きの目でその挨拶をなぞる。その時点で結構くるものがあるのだが、輪をかけてすごいのがフォロワーからの返信だ。

    『おはようございます♪』
    『おはよう!爽やかな朝ですね!』
    『おはようございます、今日も良い一日を!』
    『おはようございます!挨拶って大事ですよね^^』

    なんだろう、この正しさは。
    そもそも『おはようございます』という挨拶自体、生きとし生けるものは当然皆起きるもの、的な一種の強さを持った言葉だが、彼らはそれだけで終わらず、畳み掛けるように「爽やかな朝」や「良い一日」について語りかけてくる。自分がまだ寝汚くベッドにいる間に「挨拶の良さ」を確認していた人がいたという事実は、なんとも言えず内臓のあたりを痒くする。

    そういう事象は他にもある。たとえば天気の良い日、時折蓮舫は青空の写真をTwitterにアップする。なぜかポジティブな人は青空が好きで、それを広めるのも好きという傾向がある。そして一人のフォロワーがそれに対してこんなリプライを返す。

    『空が青く澄み渡っていますね!』

    ポジティブな人は青空が好きだが、また「澄み渡る」という言葉も同じくらいに好きだ。そこはひとまず置いておくとして、それに対しての蓮舫のコメントである。

    『僕らはもう1人じゃない!って気分になりますね(^_−)−☆』

    空関連のやり取りは、これ以外にも幾度となく蓮舫のTwitter上に展開されている。蓮舫のコメントは『海を目指して歩く♪』『同じ月を見ましょう!^_−☆』などという詩的パターンもあれば、『良い一日を!』と無難に締めるパターンもある。だが一見蓮舫自身は無難でも、フォロワーから『深い漆黒から、少しずつ明るく…そうまるで、“希望色”とも言えるような多色の織り成す彩』などという特筆すべきリプライがついている場合があるので、その点は注意が必要だ。

    そう、なぜだかわからないが、ポジティブな人はポジティブな人を引き寄せるのだ。その現象の結果、蓮舫のTwitterはもはやTwitterというくくりを離れ、「蓮舫のTwitter」というひとつのポジティブメディアを確立するに至っている。

    そのポジティブメディア現象は、身の回りでも日々勃発している。たとえば私の知人で人材育成系の仕事をしている人は、時折Facebookがこんな感じになる。

    『朝、出社時間を少し遅らせてカフェへ。これまでを棚卸しして、これからを見つめ直す。パフォーマンス最大化のために、大切な時間です^^』

    「少し遅らせて」と言いつつ、投稿時間は7時数分すぎであり、やはり私は約2時間後、通勤電車の中で死にそうになりながらその投稿を見ている。ちなみにカフェというのは言うまでもなくスターバックスのことである(必ず現在地としてチェックインされている)。

    彼は仕事柄、啓発系というか、より良いビジネスマンになるためには、的なノウハウ記事を投稿することが多い。そしてその記事に対するコメントは一様にポジティブである。基本的には『刺激になります!』『私も頑張らないと^^』といったテイストであり、ここにもやはりひとつのポジティブメディアが出来上がっていることを実感する。
    以前、日曜朝6時に『社会人としてのスキルアップ』といった類の投稿があったことがあった。その事実単体でも私にとっては衝撃だったが、それに対するコメントの1つがすごかった。

    『なんだか体が熱くなってくる感じがします!』

    そのコメントは投稿されてからわずか数分で付けられていた。
    繰り返すが、日曜朝6時である。私はその時間、ホノルルで厚切りハニートースト(すごく熱い)の早食い競争に参加する夢を見ていた。そんな時間に、スキルアップ云々、成功体験云々の記事を読んで体が熱くなっている人がいる、ということに驚く。そして、やっぱり内臓のあたりがちょっと痒い。

    恐らくこの「痒さ」なのだろうと思う。ポジティブな人を否定したいわけではない。批判するわけではない。強いて言うなら、できれば関わりたくない。だけど、そういう人がいるという事実は、自分の感覚をなんともいえないタッチで刺激する。それがこの、痒さだ。もどかしいけど、ちょっとだけ気持ちがいい。


    そんなわけで、私は今日もポジティブな人から目が離せない。一度あの感覚を知ってしまうと、もはや後には引けないのだ。
    (文:餅田もんじゃ)
  • 「田島さんは帰れない・ある男の半生・裏流行語大賞「サイコパス」PC遠隔操作事件」ニコ生タックルズマガジンvol.60

    2014-05-31 01:00  
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    《目次》
    01. [餅田もんじゃ] 新進気鋭の謎の女性ライター『田島さんは帰れない』 02.[匿名記者]ある男の半生 03.[本橋信宏]今週の裏流行語大賞⑥「サイコパス」PC遠隔操作事件を受けて
  • [餅田もんじゃ] 新進気鋭の謎の女性ライター『田島さんは帰れない』

    2014-05-15 01:00  
    220pt
    餅田もんじゃ 寄稿記事 『田島さんは帰れない』


     酒を覚えたての頃だ。サークルの飲み会でまんまと飲みすぎ、帰れなくなったことがある。友達の輪からはぐれ、一人になった私は二子玉川駅のホームで吐いた。途中で「このままうずくまっていると変な人だと思われる」と妙な強迫観念にとらわれ、極力普通の足取りでトイレに向かった。しかし吐き気はおさまらず、結果的にきびきび歩きながらマーライオンのように吐き続けることとなった。  目の焦点を合わさず、吐しゃ物を噴き出しながらもしっかり歩く女。へたなゾンビよりも恐い。前の人並みがささっと分かれて、モーゼのような気分になったのを覚えている。

     この一件で学んだのは、「帰れる」ことは酔っぱらいの世界において1つの最低条件だということだ。なぜならば、その日危うく帰れなかった私は友達、家族に多大な心配をかけ、後日こっぴどく怒られたのである。外で酒を飲むのは自由。酔っぱらうのも自由。だが家には無事帰り着かねばならない。それが最低限の仁義だと思った。

     しかしどうやらそうでもないらしいと知ったのは、社会人になってからのことだ。世の中にはあの時の私同様、帰れない人が結構いる。それは会社員とて同じことだった。
    中でも、役員の田島さんという人はすごかった。年の頃は50を回っていたが、圧倒的に帰れていなかった。

     田島さんの人となりを認識したのは、入社してすぐのパーティでのことだ。彼が酒好きだということは見てすぐにわかった。酒と名のつく液体を見る目が違う。眼鏡の端から覗く目尻にいっぱい皺を寄せて、グラスの際からいとおしそうに口をつける。ビールも、カクテルも、ワインも、日本酒も、本当に美味しそうに飲んだ。そして杯を重ねるたび、明らかにおかしくなっていった。まず肩が落ち、次にネクタイが背中にかかって、グラスを持つ手首の角度が面白くなる。同僚皆が揃ったパーティだというのに、酒を誰かに勧められることも、勧めることもなく、彼は一人淡々と酒へ溺れていった。

     最後の社長のスピーチの時だ。

    「面白いっ!面白い面白いっ!面白いよーっ!」

     突然かかった声に振り返ると、そこには田島さんが一人優雅に寝そべっていた。床にである。もちろん手にはしっかり白ワインのグラスが握られている。会社の沿革を話しながら無難に締めに入る社長の話は何ひとつ面白くなかったが、田島さんにそんなことは関係ないらしかった。田島さんは、今や床を叩きながらヒエーッヒッヒッヒ!とおとぎ話の魔女のように爆笑している。誰がどこから見ても、社長より田島さんのほうが面白かった。
     その日彼は部下3人の手足によってタクシーの中に押し込められ、なんとか家に帰った。

     そんな第一印象から入ったものだから一体どんな人かと怯えていたのだけれど、お酒のない時の彼は非常に温厚な良い上司だった。頭は切れるし物腰も柔らか。だがお酒が入ると面倒という評判は定着していて、酒の席では皆彼のそばからいなくなる。絡む酔い方をする人ではないのだが、とにかく帰れないので、後々の面倒が大変なのだという。道端で寝る、酒場に泊まることはザラで、夜どこかに置いてきた眼鏡を探しに午前休を取ったこともあるそうだ。(ちなみに眼鏡は皇居の植え込みに落ちていたらしい)

     そんなわけで、田島さんはそこそこに面倒を見てくれる人が現れる全社員参加の飲み会が大好きだ。特に新年会は格別に好きらしく、ある年、彼の発案で鏡開きが行われることになった。会場内に運び込まれる樽酒を、孫を見るようなあたたかい目で見守る田島さん。不穏な気配はすでにあった。蓋が開かれるや否や、田島さんは真っ先に升を手にしてぐいっと酒を流し込む。私もその日はしこたま飲んだので、彼の様子を覚えているのはそこまでだ。

     翌朝、寝坊してギリギリに出社すると、社内は田島さんの話題で持ちきりだった。なんでも田島さんはあの後一人で飲み続け、夜遅く家ではなく会社に戻った。そしてフロア中の電気をつけっぱなしにして机の上で安らかに眠っていた現場を、朝出社した経理の人におさえられたのだという。田島さんは帰れないどころか、出社してしまったのだ。

     結果として、彼はその時担当していた職務の一部から解かれることになった。その原因が例の一件であることは明白だったが、社内では誰もそのことを口にしない。しかし慣例から、そういった人事異動があるときは社員の前で挨拶をしなければならないのだった。彼が一体何をどう説明するのか、皆大いに注目した。そしてその朝礼の日。全社員の視線が集まる中、彼が口にした言葉を私は一生忘れないだろう。

    「お酒で失敗したので、責任を取ることになりました。すみません」

     田島さんは恥じらうように、はにかみながらそう告げた。そのあまりの率直さ、悲壮感のなさに私は感銘すら覚えた。社歴の長い社員は笑いをこらえて般若のような顔になっていたし、社長に至ってはこらえきれずに笑い出し、不気味になごやかな空気の中で朝礼は終わった。
  • 「変わりつつある関東の暴力団地図・ラーメンの日・「トップ屋」の時代と内情」ニコ生タックルズマガジンvol.58

    2014-04-12 01:00  
    407pt
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━                                                       2014/04/12      久田将義責任編集 ニコ生タックルズマガジン                                 vol.58   □日本で一番危険なWEBマガジン。ニッポンの闇をさらけ出せ!□ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 日本で一番危ないWEBマガジンが創刊!『実話ナックルズ』『ダークサイドJAPAN』元編集長、 現『東京ブレイキングニュース』(旧・日刊ナックルズ)( http://n-knuckles.com/ ) 編集長 の久田将義が、インターネットを通して新たな「アウトローメ ディア」を始めました。その名も「久田将義責任編集 ニコ生タックルズマガジン」。久田氏をはじめ、様々なアウトロー著者陣営がどの既存メディアでも露出できない記事をお届けします。
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    《目次》
    01. [匿名記者]風雲急をつげる? 裏社会の変貌「変わりつつある関東の暴力団地図」 02.[餅田もんじゃ] 新進気鋭の謎の女性ライター『ラーメンの日』 03.[藤木TDC]ジャーナリズムを作った「トップ屋」の時代と内情
  • [餅田もんじゃ] 新進気鋭の謎の女性ライター『ラーメンの日』

    2014-04-09 01:00  
    餅田もんじゃ 寄稿記事 『ラーメンの日』


    ラーメンがすごく好きというわけではないが、たまに今日はラーメンでなくてはいけない、という日が来る。月に1,2回ぐらいの頻度で来る。

     先日外回りで郊外の町に出かけた時が、ちょうどその時だった。次の予定まではまだ時間があり、駅から少し歩いた国道周りにはわりと名の知れたラーメン屋がいくつかある。腹は決まった。

    数ある店の中から私が選んだのは、ネットで調べてそこそこ評判の良かった、豚骨醤油縮れ麺のお店だった。実際前まで行ってみると、暖簾が赤くしっかりしていて雰囲気も良い感じである。中を覗くとほとんど満席で、大丈夫そうだなと扉を押した。

    違和感を覚えたのは、入ってすぐのことだ。客が静かである。昼のラーメン屋なんてわりと静かなものだが、テーブル席に座っている4人組のサラリーマンすら所在なさげに水を飲んでいる。というか、客のほとんどがラーメンを食べていない。カウンターの中の厨房には20歳くらいの汗まみれの坊主の若者(以下、「小僧」を愛称とする)がただ一人何やらせわしなくしており、扉のすぐ横から「いらっしゃいっ!」の声が飛んだ。声の方を見ると、店主らしき男性が、券売機を開いてガチャガチャやっている。どうやら壊れたらしい。

    券売機がそんな様子なのでとりあえず空いている席に座ってみるが、どうにも落ち着かない。券売機の中をあれこれやっている主人にも、カウンターの中で踊るようにセットの高菜ご飯を盛りつけている小僧にも、注文など通せる雰囲気ではなかった。

    一瞬帰ろうかとも思ったが、いや、今日の私はラーメンなのだと思いとどまった。そしてそのラーメンはもはや豚骨醤油縮れ麺でなくてはならない。絶対に出てやるものかと腹を括る。周りも大方そんな様子で、黙々とストイックに待たされている。

    「すいませんね!少々お待ちくださいね!」との掛け声と共に、店主が厨房に戻ってきた。券売機のランプは赤いままで、どうやら無理だと見切りをつけたらしい。やっと注文かなと顔を上げるとカウンターの中の小僧と目が合った。私が口を開こうとした瞬間、「おいっ!テメエはチャーシュー並べたのかっ!」と罵声が飛んだ。あまりの威勢の良さに反射的に謝りそうになったが、小僧の「サーセンッ!」の声で我に返った。怒られているのは小僧だった。そしてその後も、テンポよく怒号が続く。

    「大体なんで先にご飯やってんだよ!」

    「先にこっちをやった方が良いかと思いまして!」

    「言い訳はいいんだよ!状況見ろよ!」

    「サーセンッ!」

    「つーか、7番さんにご飯お出ししたのかよ!」

    「まだです!」

    「やれよっ!」

    「サーセンッ!…高菜ご飯お待たせしやしたーッ!」

     気まずい。すごく気まずい。
    店員間での怒号と、客への声掛けがまったく同じボリュームなのだ。「サーセンッ!」と同じテンションで高菜ご飯を出されても、ちょっと食べづらい。店内が異様な緊張感に包まれていた理由がわかった気がする。

     その後なんとか注文が終わり、ラーメンが出て来るまでも息つく暇はない。なにせ店主の「〇〇やったのかっ!」と小僧の「サーセンッ!」の押収がBGMだ。そして実際のBGMは長渕剛だったので、あの汗臭い声がそれに輪をかけて体感時間を狂わせる。待ちわびたラーメンもそそくさと食べ尽くした。

     さて、食べ終わった後にまだ難所が残っている。会計だ。食券を買っていないので直接払わなければいけないが、カウンター内に釣りはないだろう。それに加えて心配なのが小僧の様子だ。会計に向けて慌てるあまり、食べ始めたばかりの客に「お会計おねーしゃすっ!」と金を要求したりなど、怒号の中で徐々に理性を手放しつつある。

    「おいっ!券売機の中から小銭とってこい!」

    「はいっ!サーセンッ!」

     もはやサーセンを語尾化させた小僧が、券売機に駆け出して行く。私の他に同じタイミングで会計をする人が何組かいて、釣りが足りないらしかった。

     小僧は機械の中にあるタンクから小銭を掻き出し始めたが、その勢いがすごい。手に持っている大きなボウルへ取り憑かれたように金を移し替えている。長渕剛『ひまわり』の熱唱に合わせてジャーン!ジャーン!と小銭の音が響き渡り、いよいよ世も末というような雰囲気の中、客の視線が一心に小僧の背中に注がれている。

    「テメエ!全部掻き出さなくてもいいんだよ!必要な分だけでいいんだよっ!」

     店主の声が、初めて至極まっとうな響きで私たちに届いた。そうだ。必要な分だけで良いのだ。その通りだ。

    小僧は「サーセンッ!」と言いながら、小銭をあさり続けている。もはや彼の「サーセン」は同意・相槌の機能すら果たさなくなっていた。理性は、完全に彼の手元を離れていた。

     その奇妙な共同空間の中、私はわからなくなっていた。自分は一体何をするために、ここに来たのか。食べたかったはずのラーメンと、目の前のこの光景はあまりにも結びつかない。

     意味不明の熱心さで以って金をジャンジャン言わせる小僧。そして彼を包む店主の怒号と、客の視線。

     その空間にいた誰もが、わからなくなっていた。なにもかもわからない中で、小銭と小僧の背中だけが躍動していた。

    (文:餅田もんじゃ)
  • 「色男先輩の思い出・清原和博考・裏カジノで摘発に見る 映画『アウトレイジ』」ニコ生タックルズマガジンvol.55

    2014-03-22 01:00  
    398pt
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    《目次》
    01. [餅田もんじゃ] 新進気鋭の謎の女性ライター『色男先輩の思い出』 02.[久田将義]拡張!東京ブレイキングニュース 「清原和博考」 03.[久田将義]ガーナ大使邸が、裏カジノで摘発に見る 映画『アウトレイジ』『アウトレイジビヨンド』のリアリティ
  • [餅田もんじゃ] 新進気鋭の謎の女性ライター『色男先輩の思い出』

    2014-03-18 01:00  
    220pt
    餅田もんじゃ 寄稿記事 『色男先輩の思い出』

    以前勤めていた職場に、カッコいい先輩がいた。とはいっても外見が特別整っているわけではなく、少し身長が高いくらいなのだけれど、なんだか要所要所で絶妙にカッコいいのである。実際、周りの人からの「カッコいい」という評価は確立していて、本人もそのことを自覚している様子だった。

     私はその人のことを影で『色男先輩』と呼んでいた。なぜ影でかというと、言葉にするとどうしてもバカにした響きになってしまうのである。というか実際三割くらいはバカにしてつけたあだ名だったので、会社の人の前では決してその名前を口にしなかった。

     色男先輩の最大の特徴として、その物言いがある。たとえば最初に彼と一緒に仕事をした時、こんな言葉をかけられたのを覚えている。

    「やっぱり良い仕事をするためには、プライベートな時間を大事にしないとね」

     なにか非常に意義深いことを言われているような気がして、私はなるほど、と頷いた。おそらく落ち着いたペースでゆっくり、しかも目を合わせて喋るのが効いているのだと思う。よくわからないがすごそうだから覚えておこうと、新入社員の私はその言葉を胸に刻んだ。

     また、過去の恋愛の話になったときのことだ。私は以前の彼氏に関してあまり良い思い出がなく、その当時楽しく行っていた遊園地や水族館などいわゆる一般的なデートコースにまったく興味がなくなってしまった。そんなような話をすると、色男先輩は含んだ笑みを浮かべながら、

    「それはつまらない男と付き合ってたからだよ」

     今思えば、はい、としか言えない。だってその通りだからだ。だけど先輩が言うとどうしても意味ありげに聞こえるので、やはり私はその言葉もしっかりとした記憶しておいた。

     今思い返しても、色男先輩のことは結構尊敬していたと思う。仕事をきちんと教えてくれたし、訪問先でも話し方というか、聞かせ方がうまいのである。私は焦って話が意味不明になることが多いので、そこをしっかり見習って直そうと思った。多少、カッコよさが鼻につく感じには目をつぶろうと思った。

     そんなある日、先輩はいつものように大きな黒目で私をじっと見つめて言った。

    「餅田さん、文章を書くのが好きって言ってたよね」

    「はい」

    「じゃあさ、あれ読んでおいた方がいいよ。あれ。すごく勉強になるから」

     先輩は「あれ、あれ」と繰り返す。どうやら思い出せないようだった。だけど私も書名が知りたかったので、根気良く待った。何度目かの「あれ」を経て、先輩はざっと顔を上げ、私を指差してこう言った。

  • 「歌舞伎町アンダーワールド・日本最大の暴力団山口組の今・上司は話が長い」ニコ生タックルズマガジンvol.52

    2014-02-21 01:00  
    398pt
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━                                                       2014/02/21      久田将義責任編集 ニコ生タックルズマガジン                                 vol.52   □日本で一番危険なWEBマガジン。ニッポンの闇をさらけ出せ!□ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 日本で一番危ないWEBマガジンが創刊!『実話ナックルズ』『ダークサイドJAPAN』元編集長、 現『東京ブレイキングニュース』(旧・日刊ナックルズ)( http://n-knuckles.com/ ) 編集長 の久田将義が、インターネットを通して新たな「アウトローメ ディア」を始めました。その名も「久田将義責任編集 ニコ生タックルズマガジン」。久田氏をはじめ、様々なアウトロー著者陣営がどの既存メディアでも露出できない記事をお届けします。
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    01. [久田将義]歌舞伎町アンダーワールド 02.[匿名記者]拡張!東京ブレイキングニュース『日本最大の暴力団山口組の今』 03.[餅田もんじゃ] 新進気鋭の謎の女性ライター『私の上司は話が長い』
  • [餅田もんじゃ] 新進気鋭の謎の女性ライター『私の上司は話が長い』

    2014-02-19 01:10  
    220pt
    餅田もんじゃ 寄稿記事 『私の上司は話が長い』
     大学生の頃、なにがなんでも自分の話を続ける先輩がいた。その人はある日の飲み会で「日本の音楽業界がいかにダメか」という話題について語り始めて止まらなくなってしまった。そのうち、目の前に座る後輩が箸袋で手裏剣を作り始めたのを私は見ていたが、それにすら気がつかず話していた。すべては「つんく♂」が悪いのだと、その先輩は言っていた。

    そして社会人となった今、私は困っている。上司の話が長いのだ。長い。とにかく長い。会議時間が10分20分伸びるのは当たり前で、朝礼などでも立ったまま30分くらい話し続ける。一度勇気を振り絞って「腰が痛くなるので立ったまま長く話すのはやめませんか」と進言したことがあるが、次の日から座って30分話すようになってしまった。そういう問題ではないのである。

    何が悪いかと言われれば「気がつかない」ことだろうと思う。上司は若く、親切で、気配りが利き、専門分野に対する知識も見解も深いものがある。ただ「自分の話が長い」というその一点においてのみ、驚異的な無頓着ぶりを発揮する。とにかく楽しそうに、いろいろなことにまったく気がつかないまま話す。会話というよりは、発話そのものに没頭している感じだ。

    この間、象徴的な出来事があった。私は一般企業で営業の仕事をしているのだが、とある案件を進めるにあたって、彼に進捗報告をしていた時のことだ。彼は途中で私の話を遮って「それはまずいね」と言った。取引先のA社から出された要求を飲むには、社内で解決しなければいけない問題があったのだ。そして私は指摘されるまでその問題に気がつかなかった。さすが上司である。しかも彼はこれから一緒に関係部署へ確認に行こうと申し出てくれた。つくづく面倒見の良い人だ。

    早速該当の部署へ行ってはみたものの、担当のBさんは不在である。仕方がないので一旦帰ってから後で来ようとしたが、上司は「一応聞いてみよう」と言って、その場にいた女性社員Cさんをつかまえた。彼の目は輝いている。嫌な予感がした。

    「わかったらでいいから教えてほしいんだけど…」

    この前置きの後、上司は私がA社を訪問した経緯、A社の要求とその裏側の意図、A社担当者の性格、職歴、聞きたい質問、その質問に対してどのような答えが聞きたいか、そしてその回答の予測など、とにかく一切のすみずみを語った。時間にして5分ぐらいだろうが、本来であれば30秒で終わるべき質問を、5分間にわたって聞かされるというのは、かなり精神的にこたえるものがある。
    話の間、Cさんは口を半開きにして一点を見つめるという「ぽかーんとする人」の標本のような顔をしていた。きっと事情を何も知らないのだろうと、私は思った。だが上司はそれに気がつかず、目を大きく開け、ジェスチャーを交えながら雄弁に話している。楽しそうである。
    ようやく終わった話の後に、Cさんはやはりこう言った。

    「すみません、わかりません」

    そうだろう。そうに違いない。
    さあ帰ろうと上司の方を見ると、彼はその時ちょうど席に戻ってきた、彼の同期のDさんに意気揚々と近寄って行った。まさか、と思った。そして次の瞬間、そのまさかは確信に変わった。

    「Dくん、久しぶり。ねえ、ちょっとわかったらでいいから教えてほしいんだけど…」

    そして上司は、まったく同じ内容の話を繰り返した。私は横に立ち、当然同じように話を聞くしかない。本当に一言一句変わらないことを話している。レコードのように繰り返される言葉を聞きながら、この人は役者を目指すべきなのかもしれないと、ぼーっと思う。
    Dさんは最後までふんふん言いながら話を聞いて、こう言った。

    「あー、それは僕にはわからないなあ。Bさんじゃないと!」

    やはり知らなかった。全然知らなかった。
    ここは一旦引き上げるしかない。なんだかよくわからないがこれ以上ここにいるのは危険だと、本能が訴えている。私が「じゃあまた改めて」的なことを言いかけたところで、上司が大変なものを見つけてしまった。

    「あっ、Bさん帰ってきた!」

    なんてことだ。担当のBさんが帰ってきたのだ。
    いや、そもそも早く確認をしたかったわけだし、上司にわざわざ着いてきてもらったこともあるので喜ぶべきことなのだが、私には次に上司の口から出る言葉がわかっている。100%の確度でわかっている。わかっているだけに、罪のないBさんを恨んだ。Bよ、なぜ帰ってきた。あなたはもっと長くトイレにいても良かったのだ。
    そして、上司は言った。