”粗悪学術誌””ハゲタカジャーナル”の何が悪いの?
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”粗悪学術誌””ハゲタカジャーナル”の何が悪いの?

2018-09-03 22:58
    

    
    <粗悪学術誌>論文投稿、日本5000本超 業績水増しか

     インターネット専用の学術誌の中で、質が十分に保証されていない粗悪な「ハゲタカジャーナル」が増えている問題で、こうした学術誌を多数発行する海外の出版社を調べたところ、日本から5000本超の論文が投稿されていた。九州大と東京大、大阪大、新潟大からは各100本以上を確認した。専門家は「研究者が業績の水増しに使っている恐れがある」と懸念する。

     

    この出版社は、本社所在地を中国と自社サイトに表記。医学や化学、物理学、経済学など幅広い分野でオープンアクセス型の320誌以上を発行し、米国の研究者が粗悪な学術誌を発行する世界の「ハゲタカ出版社」をまとめたリストに名を連ねる。2010年には、研究者に無断で過去の論文を掲載したり、無許可で複数の研究者を編集委員にしたりしていたことを英科学誌ネイチャーが紹介した。この出版社は取材に「リストは認められない。我々は有力な出版社の一つだ」と主張した。

     同社の学術誌の論文掲載数は03〜18年5月末で計約8万4000本。毎日新聞がハゲタカジャーナルに詳しい和田俊和・和歌山大教授(視覚情報処理)の協力を得て全論文を分析した結果、日本と関係する論文は5076本あり、筆頭著者が大学・研究機関に所属する論文は3972本あった。九大からが147本と最多で、東大132本▽阪大107本▽新潟大102本▽名古屋大99本▽日本大87本▽北海道大74本▽広島大73本▽京都大66本−−と続いた。

     九大はハゲタカジャーナルに論文を投稿しないよう所属研究者の指導に着手。東大は「現時点で対策は考えていないが、今後の動向を見たい」、阪大は「状況を十分に承知していないため、回答は控えたい」とコメントした。

     分析では、特定の研究者が繰り返し投稿するケースが目立った。30回以上投稿した研究者もおり、意図的に選んだ可能性が高い。20回以上投稿していた九大の男性教授は取材に「中国人留学生が投稿を希望した。中国での就職時に業績として使えるという理由に尽きる」と説明した。

     この問題に詳しい栗山正光・首都大東京教授(図書館情報学)は「有名大からの投稿が多いのは驚きだ。国際誌で成果を発表したという業績を積むため、意図的にハゲタカジャーナルを使う研究者が存在すると考えざるを得ない。氷山の一角かもしれない」と指摘する。【鳥井真平】

     こんなニュースを毎日新聞が報じました。同記事には分かりやすい図も付いています。
     事情を要約すると「勝手にネット学術誌を作っている出版社がある。査読も甘いかもしれないし、そこに論文をよせて実績にする研究者がいると、企業が採用するときややこしい」ということです。
     で、そうした学術誌は「粗悪学術誌」「ハゲタカジャーナル」と呼ばれ、その出版社や寄稿する研究者が悪役になっています。

    1.何かいけませんか。

     これ、そんなに悪い事でしょうか?
     論文を発表するのも学術誌を作るのも、少々大仰に言えば、言論の自由・学問の自由のはずです。学術誌の査読というのは、本来「その誌面に乗せるかどうか」を判断するもので、載ったから正しいというものではありません。
     もっとも有力な学術誌はそのハードルが高いので、載っただけでかなりきちんとした論文だろうという可能性は高いです。
     だからといって他の学者たちが「あの雑誌に載った論文に書いてあったんだから正しいだろ」などと言って検証を放棄したりはしませんし、してはいけません。載った論文を読んだ他の学者たちが「これおかしくね?」「いや、この場合しか調べてないし、こうだったら違ってくるんじゃない?」などと批判しあって学問は成立するわけです。本来的にも実際にも。

     つまりその論文が正しいかどうかの選別が、学術誌に載せる前の段階で行われるか、載せた後だけ行われるかは学問そのものにとって大した違いではありません。載せた後の批判や検証は1回きりではなく、無限に行われるからです。
     載せた後、論文への批判が1回しか行われないのであれば、載せる前の査読はチェックが「1回きりかダブルチェックか」ということになり、大きめの問題です。ですが実際には、数限りなく行われ続ける批判や検証の繰り返しの、最初の1回目が、査読になるか載せた後での批判になるか、というだけの話です。

     じゃあこの記事は何を問題視しているのか、というと、最後の中国人留学生の話を見る限り「就職で有利になるための実績目当てにハゲタカジャーナルに寄稿する奴がいる」ということのようです。

     でもそれの何が悪いんですかね?
     就職に有利だから資格取るようなもんでしょ?
     
     それっぽい学術誌名なんか出されて「ボクの論文これに載りました!」なんて言われたら、人事の採用担当者は分からないじゃないかと。本当にハードルの高い学術誌に載るような凄い論文書いたんだと思っちゃうじゃないかと。そういうことを言ってるようなんですね。

     いやいやいやいや。
     研究者以外の一般の就職活動を考えれば、この採用担当者は何寝ぼけたこと言ってるんだ、ということになるはずです。
     就職活動しに来た学生が、自分の知らない資格を履歴書に書いてきた。なんか凄そうな名前だけど何をするものかよく分からない。何級がどれくらい難しいのかもさっぱり分からない。
     で、人事の人がこう言ったとしたら?
    「就職目当てに俺らのよく知らない資格を取って履歴書に書いてくるなんて! そんな学生はけしからん! ていうかそんな資格がこの世に存在するのが悪い!
     なんだコイツ、と思いませんか。
     そりゃ世の中にはマイナーな資格もマイナーな学術誌もありますよ。それがどういう実績なのか知らないなら、本人に聞くなり、調べるなりすりゃいいだけです。むしろそれが採用の仕事でしょうに。

     そんなことを理由に、「こんな本出すな!」「こんな本に書くな!」なんて話になったら、言論の自由も学問の自由もあったもんじゃないですよ。


    2.ハゲタカ「俺ら関係ある?」

    「ハゲタカジャーナル」という言葉は、英語のpredetory journalの訳語のようです。
     predetoryというのはプレデターpredetorの形容詞形ですね。SF映画の題名になってますが、元は肉食動物を食性で分類した言葉で、要するに生きた獲物を狩って食べる動物のことなんですね。これに対して、自分で狩るのではなく死体(特に腐肉)を漁る動物のことをスカベンジャーscavenger(腐肉喰い)と言うのです。

     ……なんでスカベンジャーの象徴であるハゲタカ(注)が、”predetory” journalの訳語になってるんでしょう? ていうか対義語じゃないですか。

     経済の世界では「ハゲタカ・ファンド」という言葉があります。
     あれは既に死に体の企業を見つけて、その資産を買い叩いて高額で売りさばくという商法を、死体を漁る行為にたとえて言っているわけです。ネガキャンに過ぎるという意見もあっていいですが、少なくとも死体=企業、資産とその売却益=腐肉と、譬えに対応関係があるわけですよ。

    「ハゲタカジャーナル」は何がどうハゲタカなんでしょうか。
     ハゲタカジャーナルと言うくらいだからハゲタカに譬えられているのはジャーナルなんでしょうが、死体に譬えられているのは何なのか。
     比喩の対応関係が見当たらないんですよ。この記事を読む限り、出版社が学術誌を出して、研究者が寄稿して、就職の役に立って、win-winじゃないですか。
     じゃあ死体にあたる相手は誰なのかという疑問が生じるわけです。

    「それっぽい誌名を実績に書くな! 紛らわしい!」とか言ってるアホな人事が、まさかハゲタカに喰われている悲惨な犠牲者ってわけでもありますまいに。


    3.あなたの近所の薬局にも。
     
     なおかつ、この「粗悪学術誌」を叩く上で問題なことがあります。
     よく似た、なおかつ超劣化コピーの制度が、日本政府公認のものとして存在するという事実です。この名前は知ってますよね?――「機能性表示食品」

     どんな条件を満たしたら機能性表示食品を名乗れるか、みなさん御存知ですか?
     科学的根拠と称する何かしらの研究資料を、消費者庁に届け出ればいいのです。国自体が実際にそれらの食品の効能を検査することはありません。
     届けられた資料は公開されますが、載せている消費者庁は判断を下さない。「事業者の責任において」の建前のもとに、企業は「機能性表示食品」という国のお墨付きを得たかのような単語をゲットして健康食品を売れるというシステムです。
     もちろんそんな状況で、健康食品業界が本当に科学的に正しく、値段に見合った効能のある商品ばかり出すわけがありません。
     でも責任は売ってる事業者のもの、判断は一般国民に投げます、資料を載せている仲介者である国は関係ありませんと、こういう考え方です。国がこのシステムを推しているわけです。「ハゲタカジャーナルに論文を投稿しないよう所属研究者の指導に着手」したという九州大は国立だっていうのに。 
     
     要するにこの制度、「研究を審査せず載せておいて後は知らん顔」という、「粗悪学術誌」と全く同じ正当化を公認しちゃってるんですね。
     いや、本来それでいいと思います。私は九大のほうに合わせて、ハゲタカジャーナルも機能性表示食品も無くせなんて思ってはいません。完全にだましていたら詐欺罪はあるし、各種消費者法もあります。しょせん健康食品程度の「誤解を招く表現」なんて騙される方が悪いんです。

    「審査のない」消費者庁HPに論文を掲示して、国のお墨付きがあるかのように無知な一般国民に売りつけるのも、同じく「審査のない」学術誌に論文を寄稿して就職向けの実績にするのも、どっちも自由でいいんじゃないかと思うんですけどね。




    注:ハゲタカという名称の単一の種はいない。ハゲワシ類またはコンドル類を総じて俗にハゲタカという。

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