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「もしドラ」の続編、「もしイノ」を書いたことに寄せて(2,084字)
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「もしドラ」の続編、「もしイノ」を書いたことに寄せて(2,084字)

2015-10-30 06:00
  • 44
今度、「もしドラ」の続編、「もしイノ」(「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』)が発売される。ぼくは当初、これを「書かない」といってきた。書くと大変だ、というのが分かっていたからだ。大変というのは、この続編を快く思わない人がいるのである。

先日、続編が発売されることを発表した。すると、それを伝えた記事には、こんなコメントが並んだ。

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いずれも、ぼくが失敗することを望んでいる。

こういう声は、けっして大多数というわけではないが、少なくもないだろう。ぼくを含め、人は、他人に対しては残酷な気持ちを宿している。他人の失敗を望み、これを喜ぶというのは、誰でも持ち合わせている自然な感情だ。
だから、こういう人たちを咎め立てすることはできない。ぼくにできることは、二つだけ。こういう声を避け、続編を書かないか、こういう声に立ち向かって、続編を書くかだ。

そうしてぼくは、これまで続編を書かなかった。それは、人々の悪意に触れるのが嫌だったからだ。人々の、ぼくの失敗を望む気持ちに触れるのが嫌だった。挑戦しなければ、それに触れることもない。だからぼくは、挑戦を避け続けていた。


しかしながら、やがて気づいたのは、そういう挑戦を避ける気持ちこそが、人を緩やかな失敗に導くということである。それは「緩慢な失敗」である。失敗をしないということは、それはそれで、大局的に見れば一つの大きな失敗だったのだ。

人は、失敗を避けられない。それは、人が死を避けられないのと似ている。
ぼくは、やがて死ぬ。それと同じように、ぼくのクリエイター生命も、やがて終わりを迎えるだろう。
そこで、失敗を避け行動を起こさなかったのでは、表面的には死んでいないように見えても、それは結局死んでいることと同じだった。
だからぼくは、覚悟を決めた。死ぬ覚悟を決めたのだ。続編を書いて、もしこれが失敗したら、クリエイターとしての死を迎えるかもしれないということを、覚悟したのである。

よく「背水の陣」というが、誰でも背水の陣など取りたくはないだろう。それが失敗に終われば死――というのは、けっして気持ちのいいものではない。
しかしながら、「背水の陣」にはおそらく、それによってしか得られない、大きな効果もあるのだと思う。それは、いわゆる「火事場の馬鹿力」とか、「窮鼠猫を噛む」といった諺に示されているように、人間、追い詰められて開き直ると、これまでにはなかったパワーを発揮できるようになるからだ。

あるいは、「捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」という諺もある。人間は、生きたい生きたいともがいていると、かえって死を早めてしまう。それよりも、いっそ運を天に任せると、かえって助かったりする。
さらには、「武士道というは死ぬことと見つけたり」という言葉もある。これは、死を覚悟しながら生きていくと、余計なことを考えなくなるので、正しく行動できるということだ。


それでぼくは、ようやく続編を書くことを決めたのだった。
そこでぼくは、自分にこう言い聞かせた。
「これが失敗すれば、ぼくのクリエイターとしての可能性は狭められるだろう。仕事もお金も人間関係も、いろいろと上手く回らなくなる。そういうリスクが、この続編を書くという作業にはつきまとっている」
「しかし、よし、それならそれを、引き受けようではないか。ぼくはやがて死ぬ。それが早いか遅いかの違いだけだ。それよりも、今この瞬間、続編を書くことのひとときの幸せに身を投じよう。そもそも、ぼくが続編を書けるのは、前作がヒットしたからだ。前作がヒットしなければ、この続編もなかった。つまり、ぼくはそこで死んでいた可能性もある。その意味では、もらった命だ」
「もらった命が、まだ生きながらえる可能性があるのなら、それをまだ燃焼させられるうちに、燃焼させよう。書いたら失敗するかもしれないが、書かないこともまた失敗なのだ。そして成功する可能性は、書く中にしかない」

そうしてぼくは、書いた。書くのに一年半かかったが、重圧の大きさを考えれば、むしろ早く書けた方なのかもしれない。
書き終えた今、悔いはない。これがヒットするかしないか、分からない。失敗作との烙印を押され、さんざんな酷評を受けるかもしれない。

それでもいい。もらった命なのだ。散るときは散る。どうせ散るなら、パッと散ろう。
ぼくにとってだいじなのは、悔いのないことだ。ぼくはこれまで、自分の人生や作品というものに悔いがない。よく、満足したら終わりだという。しかしぼくは、満足している。満足したら終わりではなく、満足する気持ちがないと、次に行くことができないからだ。
ぼくは、満足することを糧に、生きている。満足がなければ、続けられなかった。
満足は、ぼくにとっては始まりなのである。そうしてぼくは、この続編に満足している。だから、たとえこれが失敗し、クリエイターとしての命が終わったとしても、また何か別の道で、生きていけると思うのである。


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他34件のコメントを表示

ごめん。イーノックかと思った・・・。そんな装備で大丈夫か?大丈夫じゃない大問題だ

No.36 102ヶ月前

例えば、スギちゃんが「ワイルドだろぉ?」で流行った数年後に「俺、次はエレガントだろぉ? で流行るつもりっす!」とか言ってるのをテレビで聞いたとしても、数分後には記憶の彼方にいっちゃうと思うんすよ
世間の大部分は、今回の件にもそんな感じで別に嫌悪感とか一切感じないっつーか何の感情も沸かないと思うんで大丈夫っすよ!
炎上なんて恐れずたくさんメディア連携をして話題性で売ること目指してファイトっす!

No.37 102ヶ月前

もしも流行りに敏感のJKがイノシシの血抜き体験したら、かと思った

No.39 102ヶ月前

もしも真・女神転生発売後に実際に井の頭公園でバラバラ事件が起こったら
の略じゃねぇの?

No.40 102ヶ月前

もしもし?ロストイノセントですか!?

No.41 102ヶ月前

もしドラは入社前に人事担当に絶対読めと言われて自腹で買って読みました
まさか本を引き裂くという行為を自分がするとは思いませんでしたよ、貴重な体験になりました
続編、絶対買わないし売れないだろうし内容も期待してないけれど、頑張って下さい

No.42 102ヶ月前

10人中10人にうける作品なんてないし、どれだけいい作品を出したとしても評価する人としない人がいるのは当然じゃないかな。
それ以前に、創作する側の人間が叩かれるの嫌だから作品つくりたくないって言いだすのがどうかと思う。
叩かれれば気分悪いだろうけど、それが創作側の日常なんじゃないかなって

No.43 102ヶ月前

川島みなみ「私がイノベーションされるのか!?なんてメニアーークな展開なんだ!?私の胸はイノベーションされるのか!?」
二階正義「そんな設定じゃありません!!」


柏木次郎「体が勝手に動くのは、知らない間にイノベーションされていたのか!?」


玉川茉莉「カイエン様とシュレード様をイノベーションする展開・・・」
宮田夕紀「や・め・て!」


冗談はさておき、
『もしサッカー部の女子マネージャーがテーラー(経営工学の神様)のマネジメント(科学的管理法)を読んだら』を期待していたのに(笑)

もしイノがNHK教育で放送されるのを楽しみに待って、NHKに払い続けるので、アニメ化大急ぎでお願いします。
アニメだとマルチメディア化されていて、情報量が小説より少ない時間で容易に入って来るので、見やすいです。

それと、スクウェア・エニックスで休刊年数最多記録を持つ椿あすさん(現在も更新中)と、ストーリーを引き延ばし続けるジャンプで漫画化するのだけはやめてください。
冗長なストーリーだと、いらない情報が入ってしまい、わかりにくくなってしまいます。

No.44 102ヶ月前

「背水の陣」は取るものではなく敷くものだと思っていたのですが違ったんですね。

No.45 102ヶ月前

>いずれも、ぼくが失敗することを望んでいる。

半分程度やん

「いずれも」じゃねーじゃん

No.46 102ヶ月前
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