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トンデモ女性学の後始末
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トンデモ女性学の後始末

2017-11-17 23:24
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 ――さて、続きです。初めての方は前回記事からご覧頂くことを強く推奨します。
 前回記事で充分に明らかになったことと思いますが、「フェミニズム」とは地上最大の「妄想社会学」であり、基本的な部分で「疑似科学」と全く同じ性質を持っていると言えます。
 前回五つ目までご紹介した、「フェミニズムをめぐる10のファクト」の残りをご紹介することにしましょう。

ファクト6
知的な職業に就く人も多い

「フェミニスト」に「知的な職業に就く人も多い」のは、もう説明するまでもないでしょう。
 しかし、オウム真理教の幹部に高学歴な者が多かったことが象徴するように、トンデモさんについてもこれが当てはまるのです。例えば、前回(『トンデモ本の世界F』。以降、『F』と略記)
に採り挙げた紫藤甲子男氏は東海林さだお氏などと同期の大ベテランの作家、漫画家ですし、後述する谷口祐司氏も世界発明エキスポ銀賞、大阪府知事賞、厚生大臣賞などを受賞しています。他にもプロの科学者、弁護士、牧師など社会的に立派な人物がトンデモ本の作者である例は枚挙に暇がありません。
 何故か……となるとまあ、一口に説明することは難しいですが、一つに「それが流行りだった時期があったから」ということは言えようかと思います。例えば1950年代、UFOは今からは想像できないほどに人々にとっての大きな話題であり(この頃は「UFO」ではなく「空飛ぶ円盤」と呼ばれていましたが)、ホンキで信じていた人も大勢いました。それは一つには宇宙開発など科学力による人類の発展が強く信じられていたからであり、UFO研究団体「日本空飛ぶ円盤研究会」には、三島由紀夫、石原慎太郎、徳川夢声、星新一、黛敏郎、黒沼健とそうそうたるメンバーが集っていました。
 この頃、「空飛ぶ円盤」は何だか知的でナウい装いをまとっていたのです。
 そう、それは丁度、「ジェンダー」という言葉が知的でナウいモノとして登場してきた時の、かのイデオロギーと同様に。
 もちろん、今となっては「なんであんなものを信じていたんだ?」という感じのUFO(でありフェミニズム)ですが、年寄りにしてみれば捨てがたい。何のかんの言って上の世代には潜在的な信者が、何かきっかけがあれば反原発デモのように集まって騒ぎたい、と思っている人々が多い、ということなのでしょう。
 つまり、そこから必然的に――。

ファクト7
メジャーな勢力にも影響を与えている

 ――ということになるのです。
 原田実師匠が目の仇にしている「江戸しぐさ」、これは文科省の道徳教材にも採り挙げられましたし、『水からの伝言』もまた、小学校の道徳教材に使われたといいます。
 しかし更にコワい例としては、宇宙人や地底人とコンタクトしていると自称し、北朝鮮を全面肯定している中丸薫氏という人物に(拉致問題も、日本がごね続けているのが悪いのだと断言している!)、菅沼弘光氏という元公安調査庁調査第二部長である人物が心酔しており、対談本などを積極的に出しているという事実があります。
 大変にオソロしい話ですが、これらからぼくたちが得るべき教訓は何でしょうか?
 そう、それはフェミニズムが学問上の立場を確立しているからといって、信ずるに足るものであると考える理由にはならない、ということですね。
 仮に疑似科学本に対しては極めて論理的にツッコミを入れ、見事な批判をする人物でも、その人物のフェミ評が論理的かどうかは……。

ファクト8
愛を謳うが、実際には憎悪に満ちている

 これも前回(『F』)で述べました。もっとも、その時にご紹介したのはどちらかといえば社会に対する「憎悪に満ち」、それ故に終末を待望するネガティブなイメージの本でした。今回は補足の意味で、ポジティブに「愛を謳う」傾向が強いものをご紹介しましょう。
 先にちょっと述べた育児研究家の谷口祐司氏は、『トンデモ本の世界Q』及び『R』に続けて紹介されています。彼は妊婦に「胎教瞑想」というものを指導し、それによって胎児とテレパシーで会話できるようになると説いているのです。

 この本を手にされたお母さん達は、選ばれた地球改革の主人公を生み育てるマリア様なのです。(8ページ)

 というのが谷口氏の主張です(上はあくまで『Q』の83pからの、氏の著作の孫引きです)。
選ばれた地球改革の主人公を生み育てるマリア様」!
この世界がすべての人にとって優しい世界になることを目指すための運動」という言葉と、何と似通っていることでしょう(この話題については『F』参照)。いずれも、正常な人間が口にしたら、口が腐るであろう甘言です。
 同時に彼は二十一世紀には宇宙人との交流が深まり、受講者の妊婦さんの子供たちはその先人となる、十歳から十五歳くらいで宇宙学の先生になる、とも言います。ちなみにそう書かれた本は97年の出版。たった数年後にものすごい変化が起こるのだと説いていたわけですね。テレパシーといっても当然、第三者に確認できるものではなく、全ては「聞こえた」と称する人の主観に委ねられる性質のものなのですが。受講者は同様に、自分の幼い子供の「昨晩、UFOに乗った」といった、普通に考えれば夢を見たのだとしか思えない話を全部信じているといいます。
 以上について、山本弘師匠は極めて冷静に分析しています。

しかし、谷口氏のセミナーが人気を集める理由がわかる気もする。自分が「選ばれた地球改革の主人公を生み育てるマリア様」だとおだてられ、虚栄心をくすぐられるのだろう。
(87p)

 ここまでなら谷口氏の思想は「母親たちの甚だしく幼稚なナルシシズムの受け皿」で済ませられるのですが、当然更なる邪悪な側面を持っています。『R』で紹介された彼の教えによれば、2000年には天変地異が起こり、地球人の90%は死ぬといいます。しかし当然、心の清い人だけはUFOに救われる。そして心の清い人になるためにはもちろん、彼の教えを守ればいいわけですね(ちなみにその教えは心を軽くするため、「イェイェイェ!」とツイストを踊るというものだそうです……)。また、著作では「強姦されても子供は生まれない、妊娠した場合はその被害者女性がカルマを背負っているのだ」「子供のアトピーは母親の魂が汚れていることが原因だ」などといった非常識な主張がなされています。言わば彼のセミナーは、幸福なお母さんたちの母性エリーティズムの苗床となっているわけです。ちなみにこうした「トンデモ母性エリーティズム」というモノには一定の需要があるようで、『トンデモ本の逆襲』において七田眞氏の、上とかなり近しい内容の著作が紹介されてもいます。
 そして、フェミニズムはこれらと、どこまでもよく似ています。いずれも甚だしく勘違いした、幼稚なナルシシズムを根底に置いたエリーティズムなのですから。谷口氏の思想には極めて濃厚にニューエイジの影響が見て取れますが、フェミニズムそのもの、或いはフェミニズムに対するリベラル男性の妄信もまた、ニューエイジ的な女性性に対する信仰心に基づいているとしか思えない。80年代のSF、またそこに登場するヒロインにはニューエイジ的価値観が濃厚であることは『ズッコケ三人組』のレビュー*1をしていた時期、繰り返し述べましたが、山本師匠など一番この辺に影響されている世代でしょう。
 違うのは谷口氏の受講者が「幸福なお母さん」であるのに対し、フェミニズムが女性ジェンダーから逸脱した人たちによるものである点。その意味で谷口氏のセミナーとフェミニズムは完全に線対称な存在、と断じていいように思います。ただ、谷口氏は受講者に自宅出産を推奨し、死亡事故を何件か起こしているのみなのに対し、フェミニズムはそれを遙かに上回る災厄を世にもたらしている点は、大いに異なりますが……。
 山本師匠の「この世界がすべての人にとって優しい世界になることを目指すための運動」というフェミニズム定義には度肝を抜かれました。憎悪と怨念の権化としか表現のしようのない存在に対して、一体どれだけの勘違いを積み重ねたら、そのような評価ができるのか。しかしそれも、谷口氏のセミナーを見れば了解可能であるように思えます。師匠はフェミニストたちの口から語られるおぞましい選民思想を「マイノリティへの愛」と読み替え、今日も「魂を軽くしてイェイェイェ!」と踊り続けているのです。
 むろん、それは師匠に限ったことではありません。「フェミニズムは全てのマイノリティのための運動」的なお為ごかしは、みなさん大好きでいらっしゃいます。ろくでなし子師匠が同様のことを言い、しかし反論されるやバイセクシャルに対して「動物愛護団体に行け」と口汚く罵ったこと*2はみなさんご存じのことでしょう。そもそも彼女は著作でも(幼稚なナルシシズムは言うに及ばず)オタクを馬鹿にしきっているのですが*3、オタク界のトップって普段はオタク差別に反対しているフリをしているのに、どうしてあんなにろくでなし師匠が大好きなんでしょうね(いや、理由はわかりきっているんですが)。

*1 「ズッコケ三人組シリーズ補遺」の『ズッコケ時間漂流記』の項など。
*2(https://twitter.com/6d745/status/764471138181263360
*3(https://twitter.com/6d745?visibility_check=true

ファクト9
その憎悪には、根拠がない

 大変残念な話ですが、彼ら彼女らの「愛」には一切、根拠がありませんでした。
 しかし更に哀しいことに、彼ら彼女らの「憎悪」にもまた、一切の根拠はないのです。
 秋山眞人という「超能力者」がいます。近年、テレビ番組で超能力者を「いじる」ことが定番になりましたが、その種の番組に出てはやたらと怒ってばかりいるというキャラのついた人です。超能力を馬鹿にする否定派(この人たちにもぼくはあまり好感が持てないのですが)に対して、「我々エスパーはずっとそうした偏見に晒されてきたんですよ!」と憤り、退席してしまう姿が印象的です。
 彼のそんな時の情念が、ぼくには非常にリアルに迫ってくるのです。
 いえ……それでは表現が不正確かも知れません。「その情念は非常にリアルだが、その根拠は非常にアンリアルだ。が、だからこそ余計にその情念にリアリティを感じてしまう」とでも言うべきでしょうか。
 フェミニストにもオカルト関係者にも、その深層心理には現世への深いルサンチマンが隠れていることでしょう。
 しかしそのルサンチマンは、例えば「愚かな世間の連中は、俺の才能を認めようとはしない!!」と憤るが別に「才能」など持っていないといった感じの、凡人の根拠のないものであるように、ぼくには見えます。
 例えばですが、クラスの中で自分の居場所が見つけられない中学生が、超能力者を自称して、注目を浴びるようになった、といったエピソードはかなり普遍的なモノなのではないでしょうか。近いことは伊集院光のラジオ番組、『深夜の馬鹿力』などでも時々話題に出ますし、秋山氏自身がユリ・ゲラー来日の際にスプーン曲げの能力に「開眼」したことに出自を持っています。
 そう、そんな超能力少年も当初は「クラスのみんなが冷たい」といったささやかな、しかしリアルなルサンチマンを根拠に超能力を「開眼」させたのかも知れません。ですが「超能力者」キャラを作ってしまうと自我が際限なく肥大化し、「異端者であるが故に言われない偏見と差別と迫害を受けてきた無辜の被害者であるエスパー」といった物語を紡ぎ出すようになる。だんだんと、膨れ上がったナルシシズムと憎悪とがわけのわからない方向へと、根拠のない噴出を始めてしまう。
「憎悪に満ちている」ことそれ自体を取り出してみるならば、ぼくはあまり、彼ら彼女らを嫌う気にはなれません。しかしながら実際には彼ら彼女らは自らの抱えている憎悪について驚くほど無自覚であり、自ら(の教祖)を女神のごとく慈悲深い人物だと露ほども疑わず、「愛を謳」い続ける。ぼくにとってはそこが何よりも不快であり、また危険であると思われるのです。

ファクト10
彼ら彼女らの情緒的整合性には、極めて適った思想である

 いろいろと事例を挙げてきました。
 いずれも頭のクラクラするような「トンデモ」ぶりですが、それらは同時に哀しくもあります。ちょっと頭のいい人ならば彼ら彼女らの奇妙な主張の動機は、「ファクト9」で述べたようなものであると、窺い知れてしまうことでしょうから。
 彼ら彼女らは「ファクト1」で述べたように、論理と事実から完全に乖離している、いやむしろ乖離することそのものを目的として、「ファクト2」にあるような振る舞いに及んでいる。
「ファクト3」と「ファクト4」の相矛盾する特性も、「ファクト5」のような傾向も、彼らが論理や事実を否定し、自分がチートできる「異世界」に「転生」しているが故のことでした。
 3、4を見てわかるのは彼ら彼女らが「偉大なる者と、それに選ばれたワタシ」という物語を希求しているということです。ノストラダムスもフェミニストも「異世界」の中の偉大なる者であり、虚構の世界の住民票を手に入れるためには、そうした人たちの覚えをめでたくする必要があるわけですね。
 そして……それらの根底にあるのは「ファクト8」「ファクト9」で述べた心理状態です。
『トンデモ本の世界』で忘れられない図があります。広瀬謙次郎氏の『ヘンリー大王とヤマト救世主(メシヤ)』という本に出て来る、近未来の日本列島の地図。それは天変地異の挙げ句、伝説のムー大陸が浮かび上がり、日本とつながるとの予言に基づいたものでした。朝鮮、台湾、樺太、千島列島などもまた日本列島とつながり、みな日本の領土となる、という図です(樺太などは南北で両断され、癇性にも南だけが日本とつながります)。ちなみに欧米や中国大陸は海に沈むのだそうです(笑)。
 そして日本は宇宙人たちとの交流の中心地となり、「宇宙大陸ヤマト」と呼ばれるようになるのであった!!
 な、なんだってーーーーー!?
 レビュアーの藤倉珊氏が「著者がどういう願望を秘めているか、ひと目でわかる世界地図である。」と鋭く突っ込んでいたのが印象的です。
 そう、「トンデモ」は人間の心のうちに秘めた欲望の、忠実な反映でした。
 フェミニズムの主張もまた、ということは言うまでもないでしょう。彼ら彼女らの主張に事実や論理の反映があることは極めてまれですが、彼ら彼女らの「心的現実(要するに願望)」は常に非常に忠実に反映されている。多摩湖師匠の読んでいて赤面してしまうアジテーションはその好例であり、彼女らに対するリベラル君たちの、どう考えても正気を保っているとは思えない帰依もまた、そうです。
 多摩湖師匠は、「敢然とエスパー差別に立ち向かうエスパー」でした。もちろん、彼女の超能力が実在のものかについては、お察しなのですが。
 フェミニズムの描く、「男尊女卑社会」もまた、「エスパー差別が行われるディストピア」でした。言うまでもなく、エスパーが実在するかについては、お察しなのですが。
 彼ら彼女らの「心の目」には日本が先の地図のように朝鮮や台湾とつながって見えているのです。
 フェミニストたちは「ボクの望む未来」を予言してくれる女ノストラダムスであり、「愛を謳う」善なる宇宙人なのだ、といえます。
 一歩引いて見れば彼ら彼女らの描く未来図は現世を否定し、全てを破壊する種類のものなのですが、それに対する自覚は当然、ありません。
 彼ら彼女らはこれからも自らのエゴにも憎悪にも気づくことなく、自らこそがカタストロフを望み、引き起こそうとしている存在であることにも気づくことなく、自らをカタストロフ後の世界の救世主、「全ての人に優しい世界を作る運動」の主体であると信じ続けるのです。
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”男性作家が描く女性像を考察したところ、女性のイメージは3パターンしかありませんでした。性的な欲望を満たす「娼婦」、崇めたてるべき「聖女」、甘えの対象である「太母」です”
”すなわち男性は、対等な人格をもった存在としての女性像をうまく組み立てられていないのです”

お久しぶりです兵頭さん、秋はアッという間に過ぎ去りクッソ寒くなって参りましたね。
で、上の代物ですが一連の山本カイチョーのトンデモ本と関連性があるかどうかは兎も角、取り急ぎご報告おば。
一言で要約すれば「男性に創作物で女性を描くことを規制せよ」と仰っているとしか思えませんね。
これでもまだ「サブカル&リベフェミはオタクの味方!」と言えるか!?(まぁ、私も少し前まで峻別できる別物だと甘っちょろい価値観だったけど)

No.1 78ヶ月前
userPhoto 兵頭新児(著者)

お久し振りです(^^
これはかなり昔から「男は女を聖母/娼婦に二分する」と言われているのの焼き直しですね。
女の男への要求よりは遙かに幅があるかと思いますが。

近年、「表現の自由クラスタ」がエロを否定しているピル神を「聖女」として担ぎ上げる醜態が目立ちますが、同時に「同じ組織の怪人仲間」であるはずの柏崎玲於奈師匠、金田淳子師匠が萌え文化を否定したとして苛烈にバッシングしているのを見るにつけ、何というか、そうした女怪人たちの方が気の毒になってきます。
全体を見れば「フェミニストへの不信感が広まっている」という歓迎すべき状況なのでしょうが、どうもリベラルさんたちの身勝手さばかりが鼻についてしまうんですね。

No.2 78ヶ月前
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