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「サブカルの逆襲」と「萌えの死」(前編)
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「サブカルの逆襲」と「萌えの死」(前編)

2021-04-16 19:45
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     みな様、『Daily WiLL Online』の記事はご覧いただけたでしょうか。
    『映画秘宝』の例の問題ということで、それなりに話題性はあると思うのですが、話が少々マニアックで難しいかもとも思え、反応が気になっています。
     ランキングは目下のところ、五位。
     より以上の応援をよろしくお願いいたします。
     さて、この記事を書くに当たり、久し振りに『嫌オタク流』を読み返す機会に恵まれたので(恵まれたというか、魂への拷問を受けたのですが)、今回はもうちょっとその辺り、つまり、サブカルというものの本質について、書いておこうと思い立ちました。

    ・『映画秘宝』の逆襲

     さて、『Daily WiLL Online』の記事において、『映画秘宝』のライターたちの異常性をご紹介しました。素行は女性に対して横暴なものであるのにもかかわらず、彼ら自身はフェミニズムの信奉者であり、恥ずかしげもなくフェミニズムという棍棒でオタクへと殴りかかってくる。全くもって理解に苦しみます。
     同記事を書くに当たり、ぼくははてなの「『映画秘宝』の記憶」一連の記事を参考にしました(『映画秘宝』の記憶(5) など)。ここでは『映画秘宝』の「ホモソーシャリティ」が執拗に語られます。何でも高橋ヨシキが本誌の前面に出るようになってから、「女子供から映画を取り戻せ!」というスローガンも誌面に踊るようになった、とのことで(もっとも、ウィキペディアによれば町山師匠自身も創刊の動機としてほぼ同義の理由を語っているのですが)、まあ、そんなのが「オタクは女性差別主義者だ」などと泣きわめいていたのだから、開いた口が塞がりません。
     が、いつも言うようにぼくは「ホモソーシャリティ」そのものが悪いとは思いません。同じくウィキによると同誌の売りは「「中学生男子」感覚を爆発させた編集方針」だそうで、これもまたぼくとしては否定すべきではない、愛おしむべきものだと考えます。
     上のはてなの一連の記事は大変興味深く読んだのですが、とにもかくにも町山師匠たちの言動に対して「女性差別!」「ホモ差別!」「ホモソーシャル!」と声を荒げるという感じで、その点についてはいささか辟易ともします。問題の(岩田元編集長に被害を受けたとされる)女性のツイートからして、『映画秘宝』のホモソーシャリティを批判するものだそうで、こうなるとそもそも編集方針がそうなんだから、読むなとも言いたくなります。
     おわかりかと思いますが、ぼくの本意はそうした彼ら――これは大島薫師匠の出演した妙なAV含め――の言動を批判することにはありません。記事でも少々同情的なことを書いたのはそれで、編集長のメールの件、謝罪文を女性ライターにアップさせた件、いずれも仮に不当なことをしたのだとしても、それを「女性差別」と直結させるのはまさに森元会長や呉座氏などが受けたのと同じ、「女性という棍棒を使った冤罪」でしょう。ぼくは、しかしそんな「女性という棍棒」を、彼らもまた敵に対して振るっていたことをこそ、批判しているわけです。
     彼らの本質は極めてDQN的です。それはまさに高橋の「切り株映画」に対する心酔ぶりが顕しているでしょう。岡田斗司夫は『映画秘宝』を「童貞の強がり」と評しましたが、彼らはDQNに憧れ、DQNを装って「オタク君、女を抱けよ」とイキっている童貞であり、そこにこそ、彼らのようなサブカルとどこかおぼっちゃん、のび太的で自己韜晦的なオタクとの差異があると言えます。

    ・エログロの逆襲

     しかし、ならば、では、彼らのその粗暴さは何に端を発するのでしょうか?
    『WiLL』でも述べたように、70年代のカウンターカルチャーは「性の解放」と称し、レイプ描写を(まさに「切り株映画」のように)何だか「人間の真実」を描くものだと勘違いして、得意げに振り回していました。
     当時のそうしたムードを象徴する作品に、『ヤスジのポルノラマ やっちまえ!!』があります。これは71年に映画公開された「ポルノアニメ」。ヤスジとは谷岡ヤスジのことで、言うまでもなく「萌え」とは一兆億光年くらいは遠く隔たった絵(ご存じない方は検索してみてください)。そのストーリーはというと、非モテが女をレイプしたり惨殺したり、幼女姦したり獣姦したりするといったもので、最後は日本刀で割腹自殺するという三島事件を想起させる内容。パンフレットには製作者の「声明文」が掲載されていたのですが、それが以下のようなもの(安藤健二『封印作品の憂鬱』より一部抜粋)。

    「われわれの製作意図は既成の歪んだエロティシズム、つまり、支配者が目論んだ性の管理統制だ」
    (中略)
    「東京テレビ映画は、常に未来にむかって前進しています。エロス革命の戦士として活躍するヤングウーマンを控えて、未来にむかってとどまることをしらない会社―は、きっと若者の真の解放を達成することでしょう」
    (73p)


     何が何やらわかりませんが、当時は「解放」とか言いながらエログロをやれば格好がよかったのだなあ、ということは伝わってきます。レイプと体制への反抗が、ここではパラレルに語られているのですね。
     後、細かいことですが「われわれの製作意図は~性の管理統制だ」というのは「性の管理統制の破壊だ」とかの間違いではないでしょうか。まあ、プロットを見る限り、まさにこの映画こそが「歪んだエロティシズム」を描いているように思えるので、これで正しいのかもしれませんが。
    「エロス革命の戦士として活躍するヤングウーマンを控えて」というのも意味不明ですが、アニメーターの若い女性たちは女性器マークの頻繁に出てくる本作にかかわり、恥ずかしかったそうです。製作者はその時、自分の奥さんを上司に差し出してご満悦の高橋ヨシキみたいな笑顔を浮かべていたのだろうなあと思うと、ムカムカ来ますねw
     事実、この当時、学生運動の盛んであった60年代から70年代にかけては、驚くほどにレイプや殺人の多い時代でもありました。そうした「時代精神」をありがたがっている人々が呆気に取られるほど温厚で事件を起こさない現代の、しかも一番おとなしい存在であろうオタクを狂ったように罵っている姿は、大変に滑稽であるというしかありませんね。
     何せ本作、近年DVDになったのですが、Amazonでコメントを寄せている連中が見事に『映画秘宝』関連で、お察しという感じでした。

     ――待て兵頭、それを言うならオタクだって厨二ではないのか。

     はい、ぼくもそれを否定するものではありませんが、むしろオタクはさらに幼い小三病とでもいった部分がある。実はこれについてはやはり岡田氏が「上のヤツらの若者文化がどうにもウザいので、敢えて幼児文化に留まった」と表現していました。
     同書においてオタクは(まさに当時全盛期を迎えていたkeyのゲームを根拠に)幼さ、ピュアさを持つ存在であると認識されています。著者の一人、中原昌也は「ゴリラに萌えキャラのスーツを着せて街に放ったら面白い(大意)」など、世にも下らないことを実に嬉しげに繰り返し続けており、どうもこれは、萌えキャラを貶めてオタクを悔しがらせたいとの情念に根拠づけられているようです。
     が、例えばですが『ときメモ』の美少女キャラを『北斗の拳』風のキャラにする同人誌など、オタク界ではもう何十年も前から存在しているわけで、それに比べ中原の発想はもう、残念ながら見ていて気の毒になるくらいセンスが悪く、周回遅れです。
     藤子・F・不二雄の作品は夢溢れるものながら、同時にその夢の裏面をも見据える理性を持ったものであり、とあるマニアはF氏を「冷めた夢想家」と評しましたが、オタクもまた幼さと、その幼さに自覚的な老成ぶりを共有している面があり、同様の評価ができるように思えます。上に「自己韜晦」と書いたのは、まさにオタクのこうした部分を指したものです。
     しかしサブカル側は(まさに自分たちが認めるように)中学生レベルに留まり、驚くほど生硬に頑迷に古臭い正義を振り回すと共に、それとは180度真逆の不良キャラで暴力を称揚し、そのダブスタに気づかずにい続ける。同書はそんな彼らの幼さを実証するものになっているように思えます。
     これは同時に、「政治の時代」が「オワコン化」した80年代にオタク文化が黎明期を迎えたことと密接に関連しており、サブカルのオタクへの飽くなき憎悪は、弟分になってくれなかった者への、ストーカー的感情だったわけです*1

    *1 これについては「「サブカルvsオタク」の争いは岡田斗司夫が悪いことにしないと、すごく怒られる件」も参照のこと。

    ・『嫌オタク流』の逆襲

     上にも書いたように、『嫌オタク流』は本当に品のない罵詈雑言集という他はありません。サブカルというのが力もセンスもなく、クラスのボス格のパシリをしながらオタクを見下している連中であることが、よくわかりますね。
    『WiLL』様の記事でも述べた通り、高橋は同書で美少女ゲーム『ONE』を「知恵遅れを搾取するゲーム」などと罵りました。他にも同作のみさき先輩(盲人の美少女キャラ)にいたくご立腹で、以下のようなうわ言をほざいておいでです。

    高橋 でも、そのゲームの売り上げが盲学校に寄付されるわけじゃないんでしょ?
    海猫沢 あ! ……それはオレも今初めて気付いた。
    高橋 本当に目が見えなくて困っている人のことはどうでもいいんだ。さっきから可哀想な話だって言ってるけど、要は盲人をダシにして儲けてるやつがいて、それにオタクたちが無自覚に乗ってるということだよ。それは最低だ!
    中原 それこそ盲人たちが怒るべきですよ。杖を武器に大挙して押し掛けるべきだ!
    海猫沢 そこはもう、「オレたちオタクはそういうもので楽しんでいる人でなしなんだよ!」って開き直れる強さを持つしかないですね。
    (84p)


     もう、何が何だかさっぱりわからない、真面目に反論するのも馬鹿らしい言いがかりですね。
     悪意でオタク文化を貶めるため確信犯で詭弁を弄しているのであれば、まだわからなくもないのですが、海猫沢が(こんな信じられないほどに頭の悪い指摘を)「あ、気づかなかった」とさも大発見でもしたかのように素で感嘆している辺り、この人たちは徹頭徹尾天然なのでは……との疑念が頭をかすめます。
     このリクツであれば彼らは『ハイジ』のスタッフである高畑勲、宮崎駿、富野由悠季は悪魔だ、と糾弾すべきなのですが、それはしない(……などと書いても、若い方はわからないかもしれません。『ハイジ』の後半は車椅子の少女、クララが立ち上がれるようになるまでを感動的に描いているのです)。
     何故か。
     それはもちろん、彼らの矛先は絶対に弱者にしか、向けられないからなのでしょう。同書中で一同は「オタクは体制に従順だ、従順だ」と(根拠なく)繰り返しておいでなのですが。
     もう一つ、同書の著者に名を連ねていないのが不思議なくらいオタクへのヘイトスピーチを繰り返している人物に、宇野常寛がいます*2。宇野もまた、自著(『ゼロ年代の想像力』)において、

     批評の世界における東浩紀の出現とその劣化コピーの大量発生は、弱めの肉食恐竜たちが(実際には肉食以外に興味がないにもかかわらず)矮小なパフォーマンスで「僕らは草食恐竜です」と宣伝しながら、自分よりさらに弱い少女たち(白痴、病弱、強化人間など)の死肉を貪っているような奇妙な言論空間をサブ・カルチャー批評の世界に醸成した。
    (211p)


     などと泣きわめいています。この「白痴」は『AIR』に登場する少女、神尾観鈴を指しており、同ゲームは『ONE』と同様に麻枝准氏によって製作されたもの。もちろんこの「白痴」は「天然キャラ」をそう強弁しているだけなのですが、ともあれ、この主張は高橋や更科とそっくりで、その統制ぶりは共産圏のダンスのようです。彼らのコネクションについては知りませんし、知ったことでもありませんが、彼らは恐らくお友だち同士で「願望」を語りあううちに、それを「共有」して「現実」と混同するという悪癖を持っているのではないでしょうか(考えるとフェミニストと全く同じ特徴ですね)。
     いえ、それよりも不思議なのは、あれほどまでにレイプをこよなく愛するサブカルが何故、上のようなことを言うのか、ということです。
     高橋の「知恵遅れを搾取するひどいエロゲー」との評も、むしろそのようなゲームであればこそ称揚する方が彼の普段の言動に適っているし、むしろ心情としてはそれに近かったのでしょう。つまり、「女をレイプもせずに交流するゲームなど無価値だ」という本音を押し隠し、オタクを「女性差別者」に仕立て上げて罵倒したいがために(他のページもそうですが、ここではいよいよ)支離滅裂な主張になってしまった――と、そんなところではないでしょうか。
     呆れたことに同書後半で、高橋は以下のように絶叫します。

    高橋 結局、オタクの立脚しているメンタリティって一般人のメンタリティとまったく同じで、僕はそこに憤りを感じるんですよ。
    (191p)

     はい、「一般人を敵に回すのは恐いので、叩いてもいいオタクを叩きます」宣言いただきました。
     これは左派全般に言えることですが、彼らは内心では幼稚なエリーティズムで結ばれた仲間以外は見下し、呪っている。同時に俗物性の象徴とも言える市井の女たちのことも、実際には憎悪しているのでしょう。しかしフェミニストだけは、彼らの歪んだ理念を共有してくれる存在であるから(という、どう考えてもあり得ないような勘違いをして)崇拝している。
     サブカルもフェミニズムもイデオロギー的には左派の一派です。
     だから両者は歩調をあわせていた時期もあったけれども、末端では本件のような醜い「内ゲバ」が起こっている。
     そういう図式なのではないかと思います。
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