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  • Vol.342 結城浩/数学ガールの図版をどう作っているか/パソコン買いたい/暗号を学ぶ/再発見の発想法/ゆさぶられない人生/

    2018-10-16 07:00
    216pt
    Vol.342 結城浩/数学ガールの図版をどう作っているか/パソコン買いたい/暗号を学ぶ/再発見の発想法/ゆさぶられない人生/

    結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年10月16日 Vol.342


    はじめに

    結城浩です。

    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

    今週はいよいよ『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』が刊行!

    《サイン本》と《メッセージカード》を取り扱う書店のリストを以下に公開しました。お近くの書店をぜひご確認ください!

    ◆『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』《サイン本》《メッセージカード》取り扱い店舗情報
    https://mm.hyuki.net/n/n4d951aecebb6

    刊行に先立って、『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』の第1章がまるまるWebでいますぐ読める《Web立ち読み版》を公開しました。登録する必要もありませんし、もちろん無料です。Webブラウザで直接読むことができます。

    ◆《Web立ち読み版》『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』
    http://ul.sbcr.jp/MATH-PAwkh

    ぜひ、応援よろしくお願いいたします。

    ◆『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』
    https://bit.ly/hyuki-matrix

    * * *

    日常の中の推理クイズ(問題編)

    朝、洗面所に入ったら、いつもちょうど見える位置に置いてある小さな置き時計がくるりと壁の方を向けて置いてありました。当然、時刻が見えなくなっています。家人がその向きに置いたようですけれど、さてその理由はなんでしょうか。

    解決編は少し後に書きます。

    * * *

    対数の話。

    「対数なんか役に立たない」という意見をネットで見かけました。

    役に立たないという方は「対数」が何かをよく理解していないで言っているのだろうと思います。

    たとえば「その数には、桁を表すゼロが何個つくのか」や「大きな数を書き表したときに何桁になるか」というのは、対数の考え方を利用していることに他なりません。大きな数を書き表したときに何桁になるかというのは、大事な感覚ですよね。

    対数には「掛け算を足し算に変換する」というすばらしい性質があります。たとえば、100×1000は100000になりますが、ゼロの個数に着目すると、2個+3個=5個という関係が成り立っていますよね。対数を使うと、100のようにキリのいい数以外であっても似たような計算ができるのです。

    大きな数を扱うときには対数の考え方が必ず出てきます。対数はもともと大きな数を扱うために生まれたものですから。対数を考えないというのは、極論をいえば大きな数を扱うのをあきらめるということになります。

    統計のグラフを見るときに目盛りがどうなっているかを調べるのは基本的な統計リテラシーですが、対数目盛りになっているかどうかの知識は極めて重要です。さもないと、ある量が倍増しているのか否かの判断をミスすることになるからです。

    ということで、対数が何かを知っている人は決して「対数なんか役に立たない」とは言いません。

    対数については『プログラマの数学 第2版』で楽しく解説しています。

    ◆『プログラマの数学 第2版』
    http://www.hyuki.com/math/

    * * *

    ものを食べる女の子の話。

    結城はなぜか、駅のホームでものを食べている女の子をよく見かけます。

    クレープやアイスを美味しそうに食べているのを見かけて微笑ましい気持ちになることが多いのですが、先日は驚きました。

    女性がケーキを美味しそうに食べているのを見かけたからです。駅のホームで立ったままケーキを食べるというのもすごいですが、その女性は美しい金髪で、上品にフォークを使って食べていました。そのようすが印象的で、思わず二度見してしまいましたね。

    「ガールズ&パンツァー」という作品に登場するダージリンという女の子を思い出しました。彼女は戦車の中で紅茶をたしなむのです。

    * * *

    共和国の話。

    ふと、Webサイトの「矛盾した紹介文」というものを思いつきました。

     このWebサイトは〇〇好きな人が集う〇〇共和国。
     そして管理人の私はこの国の王様ということになります。

    この紹介文がどうして矛盾しているかというと「共和国」には「王様」がいないのが通常だからです。

    はい、どうでもいい話ですね。

    こういう、どうでもいい話というのはどこからやってくるのでしょう……

    * * *

    憲法と人権の話。

    ある人が職業を選ぼうとしているときに、その選択を妨害するようなことがあったらその行為は人権を侵害しています(職業選択の自由の侵害)。

    ある人が何かを学ぼうとしているときに、それを妨害するようなことがあったらその行為は人権を侵害しています(学問の自由の侵害)。

    ある種の罵倒の言葉は、しばしば人権を侵害する主張になります(生命、自由及び幸福追求権の侵害)。

    日本国憲法を読むと、人権の基本的な理解が得られます。生命、自由及び幸福追求権は第13条。生存権は第25条。職業選択の自由は第22条。学問の自由は第23条。

    憲法と人権を大事にしたい人は、自分の発する言葉に注意しましょう。その言葉は、誰かの人権を侵害する主張ではないでしょうか。その言葉は、憲法をないがしろにする主張ではないでしょうか。

    マイノリティと差別の議論を見ていて、そんなことを思いました。

    * * *

    あおるセリフとマウンティングの話。

    「あんたのやっている仕事なんか、誰でもできるよ」や「あんた、こんなことも知らないのか」などと人を馬鹿にしたり、あおったりするセリフがあります。それに対する返答を考えていました。

    ケンカごしに返答すると、相手のあおる土俵に乗ることになるのでおもしろくないですね。実は「素直に返事する」のがいいのではないかと考えました。

    たとえば、こんなふうになります。

     「あんたのやっている仕事なんか、誰でもできるよ」
     「はい!」
     (会話終了)

    もしも自分のやっている仕事が、誰でもできるものならば「はい」と答え、そうではないなら「いいえ」と答える。それで会話は終了です。

    素直に答えるというのは、汎用性高い返答であることに気付きました。

     「あんた、こんなことも知らないのか」
     「はい!」
     (会話終了)

     「あんたのやってる研究なんか自分にもできるよ」
     「はい!」
     (会話終了)

     「あんたが書いてる本なんて、誰だって書けるさ」
     「はい!」
     (会話終了)

    もともと「あおるセリフ」というのは「あおる」ことが目的なので、あおられる側がそれに反発しなければマウンティングとして成立しにくいんですね。「売り言葉に買い言葉」とはよくいったもので、相手が売りつけてくる「あおるセリフ」は買わなければ何も起きないのです。

    結城の発想は、ここから別の方向に進みました。

     「あんた、こんなこともできないのか」
     「ふふふ、教えてあーげない(はーと)」
     (恋の開始)

     「ふん!千尋っていうのかい?」
     「はい!」
     (湯婆婆との契約開始)

    こういう、どうでもいい話というのはどこからやってくるのでしょう……

    * * *

    問い。

    人生の喜びとは何か。

    答え。

    仕事の帰り道でふと立ち寄った百均の店で二十四色の色鉛筆を買って帰ったときに「この緑色、すごくきれいだね! これで何描くの?」と言われること。

    * * *

    日常の中の推理クイズ(解決編)

    置き時計を壁に向けて置いてあった理由は「電池が切れて時計が止まってしまったので、電池交換するまで誤認を防ぐため」でした。奥さん賢いなあ、と思いました。

    * * *

    それでは、今回の結城メルマガを始めましょう。

    どうぞごゆっくりお読みください。


    目次

    • 文系大学生、暗号を学ぶのにどうすればいいか
    • 数学科、パソコンを買ってプログラミングをしたい
    • 才能か、努力か、経験か - 学ぶときの心がけ
    • 『数学ガール/ポアンカレ予想』に出てきた図形の描き方 - 本を書く心がけ
    • 人を好きになるとはどういう感覚か
    • ファーストフィット - 再発見の発想法
    • 他人にゆさぶられない人生を歩むために■

    文系大学生、暗号を学ぶのにどうすればいいか

    質問

    大学受験以来、数学の勉強をしていない文系大学生です。

    あるきっかけで暗号学にとても興味が湧き、勉強しようと思い立ったのですが、何から手をつけていいかわからず迷っています。暗号学の勉強をする前にやるべき数学の分野を教えてください!

    回答

    ご質問ありがとうございます。

    新しいことに興味が湧き、勉強しようと思うのはとってもいいですね!

    数学に取り組む前に、暗号の概要を知るために拙著『暗号技術入門』はぜひお読みください。

    ◆結城浩『第3版 暗号技術入門 秘密の国のアリス』
    http://www.hyuki.com/cr/

    結城の本を読んだ後に読むのには、内容的にも難易度的にもサイボウズ・ラボの光成滋生さんの『クラウドを支えるこれからの暗号技術』がおすすめです。

    ◆ 光成滋生『クラウドを支えるこれからの暗号技術』
    https://herumi.github.io/ango/

    結城の本には数学がほとんど出てきませんが、光成さんの本には数学が少し出てきますので、感触をつかむのにいいと思います。そこまで読んで来てめげないようなら、結城の本や光成さんの本の参考文献をチェックしてもいいかもしれません。

    数学専門書なども置いてある大きな書店に行きますと、暗号に関する書物はセキュリティの棚や数学の棚にたくさんありますから、いくつか眺めてみるのを強くおすすめします。「大学受験以来数学の勉強をしていない」だけだと、あなたがどの程度難しい本を読めるのか、誰にもわからないからです。

    暗号に関わる数学ということですと、整数論、情報理論(符号理論)や群論といった分野名がすぐに思いつきます。でも、それらをすべてマスターしてから暗号を学ぶというのは、あまり現実的ではありません(それぞれが非常に深い分野ですから、そもそも「マスター」できるかどうか……)。

    ですから、結城の本や光成さんの本で「自分が詳しく学びたいもの」の目星を付け、暗号に関する数学書でそれに関係しそうなものを見つけ、それを読むのに必要な数学は何だろうか、と逆に考えるのが無難だと思います。

    暗号に限りません。何か新しい分野を自分が学ぼうと思ったら、大きな書店に行くのはおすすめです。そして、難しい本、易しい本をあちこち開いてみて、自分の興味や現在の知識に合いそうな本を探すのです。本には相性がありますので、他の人に紹介してもらっても自分にしっくりくるとは限りません。必ず、自分の目で見て判断することが大事です。

    暗号について、あなたが求めているものとは違うかもしれませんが、日本には、「情報処理安全確保支援士試験」というものがあります。情報として一応お伝えしておきます。


    数学科、パソコンを買ってプログラミングをしたい

    質問

    自分は数学科の者です。

    プログラミングというものをやってみたいのですが、数学書しか触れてこなかったので、どうすればいいのか分かりません。なので、結城先生に本などどう読めばいいのか教えていただきたいです。

    また、パソコンを買いたいのですが、数値計算とプログラミングをやる上で具体的にどういうパソコンがオススメなのか教えていただきたいです。

    長々と申し訳ございません。よろしくお願いします。

    回答

    ご質問ありがとうございます。

    パソコンをこれから買うということですと、プログラミングを行う以前にいろいろとハードルがありそうなので、そちらを中心にお答えします。

    コンピュータはポンと買っておしまいではなく、日々のメンテ作業や、新しいソフトのインストールや、トラブルシュートが必要になります。ですから、細かいトラブルが起きたときに相談できる人がいるかどうかが重要になりそうです。大学ではコンピュータの授業やガイダンスはないのでしょうか。

    OSをどうするか、ソフトは何を入れるか、そもそもあなたが何をしたいのか、そもそもパソコンでどういうことができると思っているのか……そのようなことをていねいにあなたにインタビューしないと、ほんとうに的確なアドバイスは難しいと思います。

    数学科ということですけれど、コンピュータに詳しくて親身に相談に乗ってくれる知人や友人はいないのでしょうか。相談に乗ってくれる方にアルバイト的にお願いしてマンツーマンでお話をするという方法は取れないでしょうか。

    生協書籍部などでコンピュータやプログラミングの本を探してみてください。いろんなレベルの入門書もたくさんあります。どれが正解ということはないので、情報収集してください。

    あなたが求めているのは一般的なコンピュータの使い方(WebとSNSとメール)以上のものですから、あなたの立場に似た人(つまりあなたのまわりにいる人)で詳しい人に尋ねるのは大切だと思います。

    不安になる要素をたくさん書きましたが、現代で数理的な活動をしていて、自分のコンピュータを持っていないという選択肢は考えられません。結局コンピュータは投資のようなものですから、どこかの段階では「えいや」と進むしかありません。がんばってください。

    以上です。

    あまり役に立たない回答でごめんなさい。

     
  • Vol.341 結城浩/数学は何から学ぶ?/アプリを作りたい/受験生、気付く力/「とりあえずやれ」が苦手/亡き母/

    2018-10-09 07:00
    216pt
    Vol.341 結城浩/数学は何から学ぶ?/アプリを作りたい/受験生、気付く力/「とりあえずやれ」が苦手/亡き母/

    結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年10月9日 Vol.341


    はじめに

    結城浩です。

    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

    いよいよ今週末には『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』が刷り上がり、結城は全国の書店に送られる《サイン本》を作る作業を行います。今週末から来週にかけて書店に並び始めることになります。

    先週もお話ししましたが、正確に「何日にどこの書店に並びます」ということは結城にはわかりません。申し訳ありません!でも、公開できる情報はTwitterを中心にアナウンスしていきたいと思います。どうぞご理解ください。

    《サイン本》や《メッセージカード同梱本》などの情報もアナウンスします。配本される書店さんのリストは、結城が入手できしだいTwitterやnoteなどでアナウンスする予定です。

    ◆『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』
    https://bit.ly/hyuki-matrix

    いよいよです。ぜひ、応援よろしくお願いいたします。

    * * *

    おもしろい本の話。

    ふと思ったこと。

    「こういう本を書こう」としっかり考えて書くと、いい本ができる。

    でも「どんな本になるかわからないけど、おもしろいからこれ書く!」みたいに突き動かされて書くと、ものすごくおもしろい本ができるのではないだろうか。

    とはいえ、突き動かされて書いたものは独り善がりになることも多い。

    また、ひととき燃え上がった情熱がすぐに冷めてしまって最後まで行き着かないことも多い。

    それに、なにより「突き動かされる」という表現から自明なことだが、そんな状況はそもそも自分で制御できない。「よし、次の本は突き動かされて書こう!」なんて言えないよね。

    せいぜい言えるのは「突き動かされて書きたい気分」になったときにそれを大事にすることくらいだろうか。

    まるで、恋だな。

    ◆文章を書くのは、恋に似ている。
    http://www.hyuki.com/dig/bunkoi.html

    * * *

    カメラで写真を撮ることとグラレコの話。

    先日、朝の食卓で彼女(妻)が「カメラで写真を撮るというのはどういうことか」を結城に話してくれました。興味深く聞いていたのですが、聞いているうちに「グラレコ」(グラフィックレコーディング)したくなったので、手元にあった紙に描いてみました。これです。

    ◆カメラで写真を撮るということ

    twitter-1038216336818618368-1.jpg

    自分が撮りたいイメージをパラメータに変換し、カメラを操作し、カメラが写真にする流れを描きました(写真の構図などは無視しています)。

    左側には自分が思い描くイメージがある。撮影者はそれをイメージしながら写真撮影のためのパラメータを調整する。そのパラメータをカメラで設定する。そして撮影すると写真ができる。そのような流れです。

    どうして結城がこういう図を描きたくなったかを自己分析してみました。どうも、たくさんの用語(露出、ISO感度、シャッタースピード……)が出てくると同時に、たくさんの存在(自分、カメラ、写真、イメージ)が出てきたからのようです。

    たくさんの用語や存在が出てくると話がごちゃついてきますよね。何と何が同じレベルの用語なのか、何から何へどんな情報が伝わっていくのか、それらを整理しないことには頭にうまく入ってきません。それが気になったので図を描きたくなったというわけです。

    図に描いていると、ものごとが整理されていくようすがよくわかります。カメラを学ぶことについて、こんなふうに思いました。

    「カメラを学ぶというのは《自分の作りたいイメージをどのようなパラメータで表すか》を学ぶ側面と、《自分のカメラのどこを操作すればそれぞれのパラメータを設定できるか》を学ぶ側面があるわけなんですね」

    図を描くことで整理する。それはとてもおもしろい感覚です。

    * * *

    学校で習ったかどうかの話。

    「数学ガール」シリーズや、「数学ガールの秘密ノート」シリーズの読者さんからときどき「内容が中学や高校の範囲を越えている」という感想をいただくことがあります。「だから難しい」というニュアンスの場合もあるし、「だからおもしろい」というニュアンスの場合もあります。感想をいただけるのはありがたいことです。

    作者として(あるいは一読者として)結城が思うことは、両シリーズに登場する彼女たちはおそらく「『中学や高校の範囲を越えている』という概念を越えている」のだと思います。彼女たちは、自分が知りたいと思うことを知ろうとし、考えたいと思うことを考えている。そして気になることや疑問に思うことを質問しあっている。「学校で習った範囲かどうか」ということをそれほどは意識していないように思います。

    たとえば文章を読んでいて、知らない言い回しが出てきたとき「これは学校で習った言い回しか」ということはあまり意識しないと思います。それよりも「これってどういう意味だろう」と考えますよね。人に聞いたり調べたり。それと同じことなんじゃないでしょうか。

    「学校で習ったかどうか」はどうでもいいと言いたいのではありません。そうではなくて、「学校で習ったかどうか」はさておき、知りたいと思うことを知り、学びたいと思うことを学ぶことは楽しいですよと言いたいのです。「学校でまだ習っていないから知らなくても不思議ではない」というのは理解できます(これから学べばいいんだよということです)。でも「学校でまだ習っていないから知る必要はない」というのは理解しにくい態度ですね。

    * * *

    おもしろい本を読む話。

    ある小説を読んで考えさせられた。時代考証いい加減で、論理的にも破綻していて、登場人物の行動は一貫性に欠けている。のに、めちゃめちゃおもしろい。設定がいいのかもしれないし、キャラが立っているからかもしれない。落ち着いて考えると話が大半破綻しているのだけど、おもしろくて最後まで一気読みしてしまった。

    破綻していると思ったけど、表現には勢いがあるし、登場人物の書き分けもなされている。それがあるので完全崩壊は免れている。最もすぐれていたのはテンポだ。新しい事件がどんどん起こるので、登場人物はそれに必死に対処せざるをえない。スピーディ。登場人物がほっとする間もなく次の事件が起こる。読者は飽きる暇がない。

    二回読みたいか、というと「うーん」とうなってしまうけれど。

    * * *

    ことわざの理屈っぽい解釈の話。

    「帯に短し襷に長し」ということわざがあるということは「帯と襷の適切な長さ」を比較すると「帯>襷」だなあ、と思いました。

    どうして「帯>襷」といえるかを理屈っぽく説明します。

    「帯に短し襷に長し」というのは、ひも状の何か(たとえばそれをXとしよう)を見たときに「帯にするにはXは短すぎるし、かといって襷にするにはXは長すぎる」という感覚を利用して「中途半端」を表現したことわざですね。つまり、帯>X>襷ということ。ですから「帯>襷」となります。

    ちなみに「帯に短し襷に長し」の英語訳をさくっと検索してみると「帯>X>襷」的なニュアンスの表現はほとんどありませんでした。そういう不等式ではなくて「Xは帯にできないし、Xは襷にもできない」という否定された等式のような表現が多かったですね。たとえば「X is good for neither 帯 nor 襷」といった表現です。適切なものの集合をSとして「∀C∈S(C≠X)」みたいな表現もありました。

    だから何? という主張は特にありません。単にことわざを理屈っぽく解釈したかっただけでして……

    * * *

    「トリカラ」は鳥の唐揚げ。では「ヒトカラ」は何だろう。

    「ヒトカラ」は一人カラオケ。では「トリカラ」は何だろう。

    * * *

    ライブコーディングの話。

    Rui Ueyamaさん(Googleのソフトウェアエンジニア&スタンフォードの学生)が、簡単なプログラミング言語を作るコーディング動画を公開しています。プログラムを少しずつ大きくしていくようすを解説つきで紹介しています。C言語を使ってプログラミング言語処理系のプログラムを作っているようすを「ライブで」見ることができます。

    プログラミングに関心があるなら、たいへん楽しめると思います。途中でマニュアルを調べ出すようすも動画に登場しますよ。

    ◆簡単なプログラミング言語を作るライブコーディング
    https://twitter.com/rui314/status/1040247100238262272

    結城も若い頃、こういう感じで「小さなプログラム」をどんどんふくらませていくプログラミングをよく行いました。とても楽しいんですよ!

    * * *

    それでは、今回の結城メルマガを始めましょう。

    どうぞごゆっくりお読みください。


    目次

    • 大学レベルの数学を学びたいとき、まず何から? - 学ぶときの心がけ
    • プログラミングを始めて2ヶ月、iOSアプリを作りたいが進展がない
    • 受験生、気付く力を養うには - 学ぶときの心がけ
    • ひらがなは読みやすいか - 文章を書く心がけ
    • 「とりあえずやれ」が苦手です - 仕事の心がけ
    • いまは亡き母に会いたい

    大学レベルの数学を学びたいとき、まず何から? - 学ぶときの心がけ

    質問

    大学レベルの数学の勉強を始めたいです!

    まずは微分積分から手を付けた方がいいでしょうか。

    回答

    ご質問ありがとうございます。

    あなたが興味があるところ、自分の力に合うところから始めて構わないと思います。

    特にこれというのがなければ「論理と集合」という分野から学ぶのもお勧めできます。

    なぜ「論理と集合」をお勧めするかというと、これからどのような数学の本を読むにせよ、論理と集合が必ず出てくることになるからです。

    こちらのページで紹介している『論理と集合から始める数学の基礎』という本を推薦します。

    ◆嘉田勝『論理と集合から始める数学の基礎』
    https://math.hyuki.net/20180513225240/

    この本は数学で出てくる数式や言い回しなどについての説明もありますので、今後あなたが数学の本を読んでいく上での基礎力をつけるのに大いに役立つと思います。

    ただし、小説を読むみたいにさささっと読む本ではありません。頭をフルに使ってしっかりと考えながら読む本ですので、その点はご理解ください。

    ご質問ありがとうございました。

     
  • Vol.340 結城浩/的外れな指摘/難しいことを書きたくなる衝動/「愛」の概念が食い違っている人同士の恋愛/やってみたい!という気持ちを殺さない/

    2018-10-02 07:00
    216pt
    Vol.340 結城浩/的外れな指摘/難しいことを書きたくなる衝動/「愛」の概念が食い違っている人同士の恋愛/やってみたい!という気持ちを殺さない/

    結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年10月2日 Vol.340


    はじめに

    結城浩です。

    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

    十月ですね!

    今年はとても災害が多い年じゃないでしょうか……九月の最後も台風24号が荒れ狂いました。

    被災した方々にお見舞いを申し上げます。

    * * *

    さて、『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』は編集部から組版+印刷の方に作業が進んでいるようです。来週の2018年10月12日よりも後で、次第に書店に並び始めることになると思います。

    いつものことですが「何日に店頭に並びます」というはっきりしたことはいえません。せいぜいいえるのは「この日よりも前には店頭にはありません」ということくらいです。Twitterなどで「そろそろ本屋さんにあるかな」というツイートを見るたびに、はっきりした情報がいえなくて心苦しく思っています。

    先日は結城が個人的に《サイン本プレゼント》の企画を行いましたが、それとは別に今回も《サイン本》の販売が予定されています。これは《通常本》とほぼ同日か少し先行しての販売になると思います。《サイン本》が配本される書店さんのリストは、結城が入手できしだいTwitterやWebなどでアナウンスする予定です。

    できるだけ全国の書店さんに配本されるように出版社にはお願いをしていますが、冊数に限りがあるのでご了承ください。

    ◆『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』
    https://bit.ly/hyuki-matrix

    もしも私の数え方が間違っていなければ、今回の『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』は結城の50冊目の本となります(!)。

    新版や増補改訂版などいろんな改版を合計しての話ですけれど、50冊というのはなかなかの冊数だと思います。ひとえに読者さんがいらっしゃるからですよね。本当に感謝します!

    ◆結城浩の著書一覧(PDF)
    http://www.hyuki.com/pub/pubs.pdf

    * * *

    ブラックアウトステッカーの話。

    「数学ガール」シリーズにはリサちゃんという寡黙なコンピュータ少女が登場します。彼女はプログラミングが得意で真っ赤なキーボードを使うのですが、彼女の使うキーボードの上には文字が書かれていません。キートップの文字を見ることはないので、そもそも文字が不要だからです。無刻印キーボードを駆使するリサちゃんはカッコいいです!

    ところで先日「キーボードを無刻印化するシール」というリアルな製品の存在を知りました。さすがに真っ赤なキーではなく、真っ黒なキーで「ブラックアウトステッカー」というそうです。

    ◆ブラックアウトステッカー(アマゾン)
    https://amzn.to/2DFQxLy

    MacBook Proのキーボードにこのシールを貼ると、文字がすべて見えなくなり無刻印キーボードに変身です。カッコいい! というか、カッコよさだけが目的ではなくてキートップの保護になりそうです。キーボードを酷使していると、キートップが削れてしまうのです。

    * * *

    教師と生徒の仮想的な《対話》、その1。

    教師「この方法はまだ教えてないだろう。教わってない方法を使っちゃだめだ」

    生徒「もう教わりました!」

    教師「誰から?」

    生徒「いま読んでいる本から教わりました」

    * * *

    教師と生徒の仮想的な《対話》、その2。

    教師「この方法はまだ教えてないだろう。教師から教わってない方法を使っちゃだめだ」

    生徒「もう教わりました!」

    教師「どの教師から?」

    生徒「私は、私という教師から教わりました」

    * * *

    正しい目的のためだとしても嘘をいうのはよくないという話。

    ネットを見ているとよくわかるのですが「『世の中を良くする』という目的を達成するためには、嘘を言っても構わないし、デマを飛ばしても構わない」と考える人は存在します。でも結城は、それはまちがっていると思いますし、自分はそのような行動をとらないようにしたいと思っています。

    「良い目的のためには嘘を言っても構わない」と考える人は、簡単にいうなら話し相手を「だまそう」としています。目的の良し悪しは関係なく「嘘を言う」のは相手をだまそうとしていること。その時点で、相手を自分の目的のための道具扱いしていると言えます。そんなことをしてはいけません。

    人間だから誰しもまちがいます。意図せずして嘘を相手に伝えてミスリードしてしまうこともあります。それはしかたがありません。でも、明らかな嘘だと自分がわかっているのに、良い目的のためだからといって相手に「嘘をつく」のは悪いことです。そう思わないとしたら、何かがおかしくなっています。

    嘘をつくのは、基本的に相手をだますこと。つまりそれは、相手との信頼の絆を切っても構わないと言ってることになります。たった一回の取引相手のように相手を扱い、だませたらもうけものだという状態に近いのです。

    と、ここまで書いてくると、極限状況にある例外も思いつくのですが、またそれは別の話となるでしょう。

    * * *

    VRoid Studioの話。

    VRoid Studioというのは3Dのアバターを作るためのツールです。WindowsおよびMacで動作する無料アプリケーションで、3Dのモデルを作ることができます。

    ◆VRoid Studio
    https://vroid.pixiv.net

    興味があったので、ダウンロードしてちょっとだけ使ってみました。ダウンロードしてからほんの数分で以下のようなキャラクタが作れます(スクリーンショットは少し昔のバージョンです)。といっても顔を調整して髪の毛をささっと描いただけですけれど。

    ◆VRoid Studioダウンロード後、数分でこのくらいまで来ます(スクリーンショット)

    20181001114442.png

    とても楽しいので、キャラクターの表情を変化させる様子を動画で撮ってみました。

    ◆キャラクターの表情変化
    https://youtu.be/d9pEQfJfIAc

    VRoid Studioでキャラの表情を変えていて思ったんですが、表情を変えると、見ているこちらもつられて同じ表情になりますね。それから表情の変化で感情の変化が引き起こされるのがよくわかります。なごやかな表情に変わるとこちらもほっとしたりして。

    人間の心は、人間の顔に敏感に反応するのかもしれません。

    * * *

    それでは、今回の結城メルマガを始めましょう。

    どうぞごゆっくりお読みください。


    目次

    • 的外れな指摘をしてくる人への対処 - 文章を書く心がけ
    • 数学書の書き手として、難しいことを書きたくなる衝動をどう抑えるか - 本を書く心がけ
    • 「知る」と「理解する」との違いは何か - 学ぶときの心がけ
    • 「愛」の概念が食い違っている人同士の恋愛
    • 自分の「やってみたい!」という気持ちを殺さないために - 学ぶときの心がけ

    的外れな指摘をしてくる人への対処 - 文章を書く心がけ

    質問

    自分が作ったものや、自分の活動に対して、誰かから指摘を受けたとします。

    「確かにその通りだ」と思う場合は、その指摘に感謝したくなりますが、「いやいや、それは的外れな指摘だぞ」と思う場合は、どう反応するのがいいのでしょうか。

    結城さんのところにも、著書に対して「的外れな指摘」をしてくる人もいると思いますが、どのように答えていらっしゃいますか。

    回答

    ご質問ありがとうございます。

    まず「指摘に感謝」という表現には、二つの意味が混じっていることに注意します。

    (A)「指摘してくれた行為に感謝」と(B)「指摘の内容に感謝」という二つの意味です。

    (A)のように「指摘してくれた行為に感謝」する場合は、指摘の内容に依存しません。

    (B)のように「指摘の内容に感謝」する場合も、何通りものパターンがありそうです。書籍に関していうと、誤字脱字の指摘などは内容的に特に問題になりません(誤字は誤字だし、脱字は脱字ですから)。でも「この表現だと、このような意味になってしまいます」のように、表現をどう解釈するかになると、話は単純ではないですね。

    読者さんからの指摘に関して「それは的外れの指摘だ」と思うことは確かにあります。でもそこで単純に「それは的外れの指摘だから、無視していい」と考えるのは表現者としてはもったいないと思っています。

    結城はたとえ「的外れの指摘」のように思えても「メタな発想」に進もうとすることが多いです。どういうことかというと「どうしてこの読者はそのような理解をし、このような的外れな指摘をしたのだろうか」と考えるのです。読者さんが誤読したのなら、誤読をした理由がどこかにある可能性が高いからです。それを考えることは表現者にとって有益なことです。

    文章を書くときには《読者のことを考える》という原則が大事です。読者さんからの指摘は「的外れな指摘」であったとしても、読者さんの情報であることにはまちがいありません。「なるほど、この読者さんは、結城が書いたXの部分をYだと思ったから、このような誤解をしてしまったんだな」のように分析するということです。

    何を作るにしても、どんな活動をするにしても、指摘は重要な意味を持ちます。「的外れな指摘」であったとしても、「こういう指摘をしてくる人がいるんだ」というのが有益な情報になる場合が多いからです。

    ここまでは「的外れな指摘」をどのように受け止めるかという話です。

    では、「的外れな指摘」をしてきた人にどのように対処するのがいいのでしょうか。

    もちろんどのような対処をするのがいいかは場合によるでしょうね。でも、どんな場合でも、感謝して損になることは少ないですし、感謝することは可能です。手間がかかる場合には、相手にその感謝を実際に伝えるのは難しいかもしれませんけれど、感謝するのは大事です。

    個人的には「うっかり返信するとめんどくさいことになりそうになる的外れな指摘が書かれたメール」が届く経験はしばしばあります。やや差し障りがあるので「めんどくさいこと」を具体的には書きませんが、想像はできると思います。そういうときには、感謝しつつもスルーすることが多いです。つまり、返信しません。めんどくさいメールへの対処は、信じられないくらい時間と心的なパワーを消費することがあるからです。でも、指摘してくれた行為(A)には深く感謝しています。

    ということで「的外れな指摘」に関しては、以下の通りです。

    • (1)指摘してくれた行為はすべて感謝
    • (2)その指摘が来た理由を考えるのは役に立つ
    • (3)返信するかどうかは状況次第

    ご質問ありがとうございました。