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  • Vol.278 結城浩/反実仮想と恋の歌/片思いを忘れる方法/歳を重ねていくごとに/

    2017-07-25 07:00
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    Vol.278 結城浩/反実仮想と恋の歌/片思いを忘れる方法/歳を重ねていくごとに/

    結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年7月25日 Vol.278

    はじめに

    おはようございます。結城浩です。

    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

    あいかわらず暑い毎日が続いています。

    幸いにして結城は夏バテにもならず、 毎日規則正しい生活を送ることができています。

    水分を多めに摂ることと、 夜はできるだけさっさと寝ることと、 あまり物事をくよくよ考えないことを心がけています。

    今年の前半はとてもヘビーだったので、 そのバランスを取る意味でも、 無理せずがんばる方針で行きたいです。

     * * *

    『数学ガール6』の話。

    現在の最重要課題は、 秘密ノートシリーズではない「数学ガール」シリーズ最新刊です。

    ここしばらく、第4章をずっと書いています。 章を構成する素材としてはもう以前から準備が出来ているのですが、 どうしても章としてまとまりません。

    先週は、カギとなる数学的内容について検討していました。 でも、どうも収まりが悪い。

    結城が文章を書こうとしていてよく陥るのは、 以下のようなパターンです。

     ・とてもおもしろい題材がある。
      うまく料理できればベストである。
      しかし、難しすぎて料理できない。

     ・ちゃんと料理することは不可能ではない。
      でも、そのための準備が大掛かりすぎて、
      全体のバランスが大きく崩れてしまう。

    短くいえば、 「手が届きそうだけど、なかなか届かない状況」 ということですね。木の上のリンゴに手を伸ばしていて、 指先は触れているのだけれど、つかめない。 そんなもどかしさがあります。

    これはとても悩ましい状況です。 というのは、がんばって背伸びすれば、 バランスを崩さずに提示できる道が見つかるかも? と思ってしまうからです。

    結城はそのために一生懸命勉強します。 参考書を読んだり自分で考えたりして、 一つの解法だけではなく、複数の解法を検討します。

    正確さをできるだけ犠牲にせず、 わかりやすさもできるだけ犠牲にせず、 「なるほどね」に至るための細いルートを探索する。 そのような活動をしているつもりです。

    そのような探索は悪いことではありません。 でも、危険性がないわけではありません。

    一つは時間が掛かりすぎること。つまり、 「もうちょっと勉強しよう……」とか、 「もうちょっと調べよう……」を続けているうちに、 自分自身が深い森で迷い、疲弊してしまう危険性です。

    もう一つはサンクコストの誤謬にはまること。 「こんなに時間を掛けてしまったのだから、 この題材はぜったいに使わなくては」 と考える危険性です。

    どちらの危険性にも注意が必要です。 そしてそこから逃れるためには、 いつもの原則《読者のことを考える》 に立ち返る必要があります。

    この章で読者は何を期待するだろうか?

    この章で読者に伝えたいことは何だろうか?

    ひとことでいうなら、何が大事なの?

    それをしつこいほど自分に問わなくてはいけません。 学ぶことは大事だけど、 それが自己目的になってしまってはまずいですし、 自分が掛けた時間が惜しいからといって、 読者に生煮えのものを読ませてはまずいでしょう。

    ということを頭に置きつつ、 今週も第4章に取り組む予定です。

     * * *

    マリアム・ミルザハニさんの話。

    先日、ショッキングなニュースを知りました。

    数学者のマリアム・ミルザハニさんの訃報です。

    マリアム・ミルザハニさんは、 2014年にフィールズ賞を受賞した史上初の女性。 そして、フィールズ賞を受賞した初のイラン人です。 そのミルザハニさんがガンで亡くなったとのこと。

     ◆Iranian Math Genius Mirzakhani Dies of Cancer
     http://ifpnews.com/exclusive/iran-math-genius-die-cancer/

    2014年のフィールズ賞受賞の時点では、 既にガンであると診断されていたとのことです。

     ◆Fields Medals 2014 - IMU
     http://www.mathunion.org/general/prizes/2014/

    このようなニュースは、何ともいえず悲しくなります……

     * * *

    ペーシングの話。

    実際に人に会った場合であっても、 ネットでのやりとりの場合であっても、 結城は相手に合わせる習慣があるようです。

    コミュニケーションの用語でいえば「ペーシング」でしょうか。 相手の話すスピードや、テンションや、喜怒哀楽。 それに自分のペースを会わせて話す傾向があるのです。

    フェース・トゥ・フェースの場合には「ペースを合わせる」 ことの意味はわかりやすいでしょう。でも、 文章でやりとりする場合に「ペースを合わせる」 とはどういう意味でしょうか。

    簡単な例でいうと「文末を合わせる」というやり方です。 「!」で終わる文章には、「!」で終わる文章を返す。 「。」で終わる文章には、「。」で終わる文章を返す。 そして、「……」で終わる文章には、「……」で終わる文章を返す。 そのようにすると、 自然と相手のペースに合わせた文章になることが多いようです。

    といっても、 それをマニュアル化してやりとりしているわけではありません。 まず、相手の文章を注意して読みます。 そして、そこに書かれた文章上の意味だけではなく、 文章のスピードや、テンションや、 喜怒哀楽をできるだけ感じ取ろうとします。 そして、その上で、自分の言いたいことをいい、 書きたいことを書くようにしています。

    トランシーバーで交信をするときに、 まず相手と自分の通信する周波数を合わせます。 周波数が合わなければ通信は成り立ちません。 ちょうどそういう比喩が成り立つかもしれませんね。

     * * *

    クラウドファンディングの話。

    不特定多数の人からネット経由で資金を集める 「クラウドファンディング」 という方法があります。Kickstarterが有名ですが、 日本にも多数のクラウドファンディングサイトがあります。

    ところで「クラウドファンディング」という単語、 結城はつい先日まで、綴りを誤って覚えていました。

     (誤)Cloud Funding
     (正)Crowd Funding

    Webサービスでよく使われる「クラウド(Cloud)」と、 多くの人々(群衆)を意味する「クラウド(Crowd)」とが、 ごちゃまぜになっていたのですね。 「Crowd Funding」が正しい綴りです。

    確かに「不特定多数の人からネットで資金を集める」 という意味を考えればCrowdになるのも理解できます。

    ちょっと気になったので、 Twitterの投票機能を使って 「クラウンドファンディングの綴りを知っていますか」 と尋ねてみました。すると、 1012人のうち77%の人が「Cloudだと思っていた」とのこと。

    自分だけじゃなかった……と謎の安堵感を得た次第です。

     * * *

    バズの話。

    iPhoneでアプリのアップデートを行おうとしたら、 Tumblrアプリのリリースノートにおもしろいことが書かれていました。

     --------
     バグを退治しました。
     バグは他のアプリに移動したようです。
     --------

    プログラムミスのことを「バグ(虫)」と呼びますから、 バグを退治するというのはまあわかります。 でも「他のアプリに移動」とは!

    おもしろかったので、スクリーンショットを撮り、 「ちょっと待ってTumblrくん」という一言を添えてツイートしました。 まあ、いつも結城が行っている、軽口ツイートですね。

     ◆ちょっと待ってTumblrくん

    2017-07-18_buzz.png

     https://twitter.com/hyuki/status/887266466591981568

    ところが、思いも掛けないことが起こりました。

    この何気ないツイートが、 結城のツイート史上最大数のRTといいねをもらうことになったのです。 RT数が10000を越えたのはこれが初めてのことでした。 軽くバズった感じですね。

    RTがどんどん増えていくのを見ながら結城が最初に思ったのは、 「スペルミスしなくてよかった……」ということでした。 ツイートをする直前に、 「Tumblr(タンブラー)の綴りはこれであってるよな」 と確認をしたのを覚えています。 大量にRTされたツイートにミスがあったら恥ずかしい!

    Twitterには「アナリティクス」という機能があり、 自分のツイートがどれだけのインプレッションになったか、 あるいはそのツイート経由で何人がプロフィールを見たか、 ……といった統計情報がわかるようになっています。

    今回のツイートの場合、 驚くことに190万インプレッションにも達しました。

     ◆アナリティクス

    2017-07-24_ana.png

    自分ではまったく予想もしていなかったツイートが、 こんなに広まるとは。驚きです。

     * * *

    スーパーのレジの話。

    ぼーっと考えごとしつつスーパーに行ったとき。

     店員「お支払いは…?」
     結城「ポイントを使ってください」
     店員「はい、クレジットでよろしいですね」
     結城「いえ、現金で」
     店員「…」
     結城「…」

    そのあとレジのお姉さんと、 私たちは何をやっているのか!……と爆笑。 しかも、実際の支払いはSuicaになったのです(!)

    ちなみに、こんな会話になったのは、 今回の支払いの末尾が3円になったため。 やりとりの途中で「あっ、財布に3円あったぞ!」 と気づいたので、現金に切り換えたためです。 でも、実際は2円しかなかったのですが……

    また、別の日に、こんな出来事も経験しました。

     結城「ポイントは全額を使ってください」
     店員「わかりました。ポイントは?」
     結城「全額を使って…」
     店員「わかりました。113ポイントございますが、全額を使っても…」
     結城「全額を…」
     店員「わかりました。全額を使っても?」
     結城「全額を…」
     店員「使っても…」
     二人「「よろしいですー」」

    これじゃ、まるでミュージカルコメディです!

    このあと、レジのお姉さんと大笑いしました。

     * * *

    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。

    どうぞ、ごゆっくりお読みください!

    目次

    • はじめに
    • 反実仮想と恋の歌
    • ニュートラルで検証可能なマスメディアを求む
    • 片思いを忘れる方法 - Q&A
    • 歳を重ねていくごとに
    • おわりに
     
  • Vol.277 結城浩/再発見の発想法/繰り返しに耐える/大学の数学を理解するには/

    2017-07-18 07:00
    216pt

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    Vol.277 結城浩/再発見の発想法/繰り返しに耐える/大学の数学を理解するには/

    結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年7月18日 Vol.277

    はじめに

    おはようございます。結城浩です。

    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

    暑いですね……

    とても、暑いですね……

    毎日、とても、暑いですね……

    暑いせいなのか、結城は最近、 夜中に目を覚ましてしまうことがよくあります。

    ある日は午前二時十七分に。

    ある日は午前三時十四分に。

    ふと、目が覚めます。

    そんな時間に目が覚めたとき、 結城はクーラーの温度調節をしたり、 水を飲んだりします。そして、それ以外に、

     「眠れないでいる人のために祈る」

    ことを習慣にしています。

    夜中にふと目が覚めたときには、 眠れないでいる人のために祈る。

    幸いにして結城は(少なくとも最近は) 悩みごとのために眠れないという夜はほとんどありません。 眠くなってコトンと眠り、朝になったら自然に目が覚めます。 目覚ましを掛けることもありません。

    でも、世の中には「眠れない」という方はたくさんいらっしゃいます。 理由はさまざまです。悩みごとや心配ごとが心を満たすとき、 考えてもしょうがないとわかっていることでも気になってしかたがない。 そんなときはどうしても眠れないものです (結城もそういう時代を何回か過ごしたことがあります)。

    眠れないというのはつらいものです。ほんとうにつらいものです。 ですから、夜中にふと目が覚めたときには、 眠れないでいる人のために祈るようにしているのです。

     * * *

    多様性の話。

    結城は、朝起きると最初に聖書を読むようにしています。

    先日はこんな箇所でした。

     すべてあなたがたのうち、心に知恵ある者はきて、
     主の命じられたものをみな造りなさい。
     出エジプト記 35:10

    この箇所の前後は、神さまに命じられて建物を建て、 インテリアを整える場面になっています。特にこの箇所の後には、 モーセが神さまから指示された「これを作りなさい」 という物品リストが列挙されています。 幕屋とか、柱とか、机とか、パンとか。 素材も大きさも種類も目的も、 多種多様なものがリストアップされています。

    この聖書箇所を読むといつも、

     全体として一つのものを作り上げるときでも、
     多様なものが多数必要になるのだな

    ということを思います。 あたりまえといえばあたりまえのことです。

    ある程度以上の規模のものを作り上げるとき、 そこには構造があります。複数のもの…… 素材も大きさも種類も目的も異なるものが、 一つの意思の下で組み上げられて初めて、 大きな一つのものとなるのですね。

     ばらばらのままでは、一つのものじゃない。
     一つに組み上げられて初めて、一つになる。

    それは、モノに限らない話でしょう。

    プロジェクトを進めるとき、組織作りをするとき、 会社運営をするとき、旅行計画を立てて実行するとき、 勉強を進めるとき……どんな場合でも、 多様な要素をうまく組み合わせないとまとまりがなくなり、 収拾がつかなくなります。何か一つの旗印のもと、 多様な要素を組み合わせる必要があるのです。

    自分という一人の人間を考えても、わかります。 自分の活動や意思や感情は単純ではありません。 複雑に絡み合った多様性を持っています。 その中の一つだけを伸ばして残りを殺すことはできない。 かといって、ばらばらのままではまずい。

    自分の中の多様な側面を、うまく調和させ、 いい具合に組み上げたい。 そこにはきっと、 一つの意思が必要になるのじゃないかしら。

    そんなことを思いました。

     * * *

    インタビューを受けた本の話。

    昨年、結城は岡部晋典氏(同志社大学学習支援・教育開発センター助教) にインタビューを受けました。 今月末にそのインタビューを含む書籍が刊行されますのでご紹介。

    書名は、

     『トップランナーの図書館活用術 才能を引き出した情報空間』

    というものです。タイトル通り、 この本のテーマは「図書館」。 さまざまな分野で活躍している人が、 図書館をどのように関わってきたのかが語られています。

    インタビューイー一覧は次の通りです(掲載順)。

     落合陽一/清水亮/前野ウルド浩太郎/
     三上延/竹内洋/谷口忠大/
     結城浩/荻上チキ/大久保ゆう/
     大場利康/花井裕一郎/原田隆史/

    この本の中で、結城のインタビューは、 「小さな数学者たちの対話の場」というタイトルになり、 縦書きで24ページほどの記事になっています。

    結城が子供の頃から図書館で体験したこと、 『数学ガール』と図書館との関わり、 登場人物同士の対話、図書館に自著が入ることの意味、 結城がこれからの図書館に求めるもの……そんな話題を楽しく話しています。

    もしも機会がありましたら、ぜひお読みください。

     ◆『トップランナーの図書館活用術
       才能を引き出した情報空間』(岡部晋典編)
     http://amzn.to/2upuO4z

     * * *

    note(ノート)の売上の話。

    結城はnote(ノート)で読み物を公開しています。

    多くは「投げ銭」スタイルになっています (全文無料で、おもしろかったらお金を払ってねというスタイル)。 前半は無料で後半が有料になっているものもあります。 また、PDFとして用意し、そのURLを売っているものもあります。

    だいたいは、結城メルマガの過去記事として配信したものですね。

    読み物は不定期更新で、 宣伝はほとんどTwitterでのツイートくらいです。

    先日ふと「2014年4月から2017年6月までの売上」 のヒストグラムを作ってみようと思いつきました。 こんなふうになりました。

     ◆note(ノート)売上のヒストグラム

    2017-07-09_note.jpg

    これは、月単位でおおよそいくらになっているか、 その分布を表したものです。

    毎月の売上は平均すると「2418円」になります。 平均2418, 標準偏差2027ですから、 ばらつきがすごく大きいことがわかります。

    ともあれ、読み物をご購入&サポートしてくださっている 読者さんに感謝いたします。

     ◆結城浩のnote(ノート)
     https://note.mu/hyuki

     * * *

    ビデオコンテの話。

    新海誠監督が『言の葉の庭』テレビ放映の後に、 こんなツイートをしていました。

     --------
     『言の葉の庭』テレビ放送、
     遅い時間にもかかわらずご覧いただいた方、
     ありがとうございました!お礼代わり(?)に、
     制作に先立って作ったビデオコンテの一部です。
     スマホ直録りですが……ちゃんとしたものは、
     BD特典に入っていたかと思います。
     --------

     https://twitter.com/shinkaimakoto/status/883718188789145600

    リンク先には『言の葉の庭』のシーンの動画が公開されています。 監督が「ビデオコンテ」と表現しているように、 絵は線画で、色も二色しかついていません。 長さも1分半ほどの短いものです。 でも、非常におもしろい動画なのです。

    何がおもしろいかというと、コンテの形になっているがゆえに、 監督がイメージしている骨組みが見えるような気がするからです (結城は動画に関する知識がないので「気がする」だけですが)。

    たとえば、主人公がグッと表情を変えるシーン。 また、主人公が料理をしながらふと振り返るシーン。 あるいはまた、ガラス窓を流れる水滴の方向を指示しているところ。

    色も着けておらず、線もラフなのに、 上に書いたほんのちょっとしたところには細かい指示が入っている。 そこがおもしろいと思いました。

    このシーンで表情を変えるところ、このシーンで振り返るところ、 そして水滴がこの方向に流れていくところ……それは、 きっと監督にとっては何かしら重要な意味を持っているのでしょう。 だって、かなりの部分が省略されているのに、 わざわざ、ビデオコンテでそこの部分を詳しく描いているのですから。

    あたりまえですけれど、 監督にはいろんなことが見えているのだなあと思った次第です。

    そして、このビデオコンテの状態から、 完成版としてのアニメーションに持って行くために、 どれほど多くの手間と時間が掛かっているかを考えると、 気が遠くなってきます。

    アニメーション作品を見るときには、 その美しさや物語を楽しめばいいはずです。 でも、このビデオコンテのような制作途中の過程をチラ見すると、 あらためて、

     どんな作品でも、
     誰かが手を動かして作らなければ、
     この世に生まれなかったのだ。

    という事実を強く感じざるを得ません。

    しかも、その作品は、 他の誰も気がつかないような微妙な箇所を骨組みとして持ち、 とんでもない時間を費やして肉付けされることで、 初めてこの世に生まれたのです。

    そして、勝手ながら結城は、 「よし……私も、自分の書く本のためにがんばろう!」 と静かな闘志を燃やすのです。

     * * *

    索引の話。

    先日購入して、楽しみにしていた本がようやく届きました。 書籍執筆の参考にしようと思っていた本です。 でも、ぱらぱらとめくって、がっかりしました。

    その本には「索引」がなかったからです。

    本のはじめに書いてあるのは「目次」(もくじ)。 本の最後にあるのが「索引」(さくいん)。

    目次では、書かれている順番に従って内容が示されています。 索引では用語や人名がどこに出てくるかが五十音順などで示されています。 目次と索引は、本全体の姿を違った観点で見せてくれるのです。

    個別の書籍をディスることが目的ではないので、 索引がなかったその参考書名は挙げません。 とても厚くて調べ物にも使える本なのに、 索引がないのはとても困りますね。

    もちろん、きちんと構成してある本ならば、 本の初めに書いてある目次を読んで、 「このあたりに書いてあるかな」と予想はつけられます。

    でも、ある用語が予想もつかない場所に出てくる場合には、 その用語を見逃してしまう恐れがありますね。 一つの用語が、目次からは予想もつかない場所に出てくるとき。 それは、しばしば大きな喜びにつながります。 というのは、一見無関係に思われる分野が《つながっている》 ことを示唆するからです。

    言い換えるなら、索引をうまく使うことで、 目次からは読み取れない分野のつながりや、 概念のつながりを短時間で発見できるということです。

    索引が用意されていなければ、 その発見の道は失われてしまいます。

    結城の書籍『数学文章作法』では、 索引をつけることを以下のように強くお勧めしました。

     --------
     索引を作る場合でも,
     私たちの原則《読者のことを考える》は変わりません.
     まず何より,読者が調べるときに使う長い説明文なら,
     索引は必須であると心得てください.
     (『数学文章作法 基礎編』第7章)
     --------

    索引を用意するというのは、 読者の役に立つとはっきりわかっていて、 しかも著者にできることの一つです。

    結城はLaTeXで目次と索引を作ります。 索引項目のピックアップは私がやります。 ただ、最終工程では編集部の方で総確認を行います。 そしてしばしば 「こちらのページの方が適切ではないですか?」 という指摘を編集部からいただきます。 一つ一つの索引項目を、結城は編集部と共に真剣に取り扱います。

    いい索引を作るというのは、目立たず手間のかかる作業です。 しかし索引は、読者にとって非常に大事なものなのです。

    近くにある本を手にとって、目次と索引を眺めてみてください。 意外な発見がありますよ!

     * * *

    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。

    どうぞ、ごゆっくりお読みください!

    目次

    • はじめに
    • 再発見の発想法 - Promise(プロミス)
    • ギャンブルコミックが好きな理由
    • 繰り返しに耐えるということ - 本を書く心がけ
    • 大学の数学を理解するにはどう学べばいいですか - Q&A
    • おわりに
     
  • Vol.276 結城浩/値は値 - 仕事の心がけ/文系の三年生に数学を教えたい - Q&A/

    2017-07-11 07:00
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    Vol.276 結城浩/値は値 - 仕事の心がけ/文系の三年生に数学を教えたい - Q&A/

    結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年7月11日 Vol.276

    はじめに

    おはようございます。結城浩です。

    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

     * * *

    「あちはわー」の話。

    最近、ほんとうに暑い!暑い!

    とても暑いことを表現する顔文字として、

     あちはわーU>△<U

    というのがプチ流行していたので、 結城も便乗していました。

    すると、湊川あいさんが、 結城のキャラクタ(スレッドお化け坊や)を使って、 「あちはわー」を描いてくださいました。感謝!

     ◆結城先生で「あちはわーU>△<U」

    2017-07-03_achihawa.jpg

     https://twitter.com/webdesignManga/status/881836763269914625

    最近、ほんとうにこのイラストのように暑いです。

    そして、別の日。

    「あちはわー」を検索したら、 まったく関係がない「聖書の一節」が出てきてびっくりしました。

     ◆検索でみつかった「あちはわー」

    2017-07-05_achihawa.jpg

     おとめたちのうちに
     わが愛する者のあるのは、
     いばらの中に
     ゆりの花があるようだ。
     (雅歌二章二節)

    確かに「あ・ち・は・わ」という文字は入っていますが…… コンピュータはおもしろいところにパターンを見出しますね。

    ちなみに、上のツイートは2015年のもの。 縦書きツイートを作ったのは以下のツールで、 このツールの作者は『横浜駅SF』の柞刈湯葉さんです。

     ◆縦つい。
     http://yubais.net/tatetwi/

     * * *

    新刊の話。

    新刊『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』は、 順調に読者さんの手に届いているようです。 みなさんからの「買いました」ツイートを見たり、 「読みました」メールを見ていると、感謝で胸がいっぱいになります。

    先日結城が個人的に実施した《サイン本無料プレゼント》 の発送も無事に済みました。

    今回の題材は「積分」です。 Web連載の順序では「指数・対数」でしたが、 Web連載記事を書籍化する書籍化の順序を入れ換えて、 「積分」を先に持ってくることにしました。

    その理由はシンプルで、

     《微積分セット》

    を早く作りたかったからです。

    すでに第5巻目で「微分を追いかけて」 という微分を題材にした書籍は出版されています。 第9巻目となる今回の「積分を見つめて」と合わせると、 微分と積分を扱った二巻セットができることになります。

    微積分というと、三角関数と並ぶ「数学を象徴するキーワード」ですね。 人によっては「数学でつまずいたキーワード」かもしれませんが…… ともかく、数学といえば「微積分」を思い浮かべる人は多いでしょう。 ですから《微積分セット》を作りたいと思ったのです。

    この《微積分セット》というコンセプトは、 結城の方から編集長に提案したものです。

    もともと結城は、Web連載を順番に書籍化していこうと考えていました。 しかし、第8巻目を作るときに編集長から「統計を先にしましょう」 という提案をいただいたのです。その理由は、

     ・統計は注目をあびているので、早めに統計を出すのがいい。
     ・これまでの「秘密ノート」の読者層と違う層にアピールするかも。

    という二点でした。なるほど。

    結城はそのアドバイスに従い、昨年「やさしい統計」を出しました。 そして、編集長の予想通り、たいへんな人気となったのです。 出版直後に増刷が掛かり、10カ月たらずで第3刷が決まりました。

    今回の第9巻目を作るとき、 結城は編集長のアイディアを結城なりに咀嚼しました。 自分にこう問いかけました。

     連載順にこだわらないとしたら、
     次に出すべき書籍は何だろう?

    そして、先ほどから述べている《微積分セット》 というアイディアに繋がったのです。

    今回の「積分」というテーマの選択は、 編集長からもらった提案への 「結城なりにバージョンアップした返事」 といえるかもしれませんね。

    《微積分セット》というコンセプトは、 書籍紹介の文章の中にも入れましたし、 営業さんがアピールするときにも使われているはずです。 書店さんも「微分を追いかけて」&「積分を見つめて」 がセットで売れた方がうれしいでしょう。 《微積分セット》はみんなが喜ぶ企画なのです。

    「積分を見つめて」の刊行直前、 「微分を追いかけて」の増刷が掛かりました。 これはもちろん「積分を見つめて」の刊行に備えて、 《微積分セット》の体勢を整えるためです。

    こんなふうにして、今回の「積分を見つめて」は、 多くの関係者が、

     《微積分セット》

    というコンセプトをとらえた状態での出版となりました。 たいへん感謝なことですね。

     ◆数学ガールの秘密ノート/微分を追いかけて
     https://note5.hyuki.net/

     ◆数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて
     https://note9.hyuki.net/

    そして、新刊が出るとシリーズの他の巻にもよい効果があります。 ちょうど2017年7月10日(月)に、 以下の三冊の《同時増刷》が決定しました!

     『数学ガールの秘密ノート/式とグラフ』
     『数学ガールの秘密ノート/数列の広場』
     『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』

    結城は書籍を出すようになって二十数年経ちますが、 三冊の本の増刷が同時に決まったという経験は、 おそらく初めてではないかと思います。

    応援してくださる読者のみなさんに心から感謝します!

     * * *

    たなか鮎子さんの話。

    表紙カバー絵を描いているのは、 イラストレータ&絵本作家のたなか鮎子さんです。

     ◆AYUKO TANAKA
     http://ayukotanaka.com

    《微積分セット》の微分編の表紙モチーフはブランコで、 これは単振動のイメージです。

    《微積分セット》の積分編の表紙モチーフは階段で、 これは区分求積法のイメージです。

    毎回、書籍のカバーは結城と、編集長と、 デザイナーの米谷テツヤさんと、たなか鮎子さんで練ります。 説明にならないようにしつつ、内容と呼応するイメージを考え、 また他の巻とかぶらないように注意し、 あとは自由に描いていただきます。 毎回、すばらしいカバーになっていますよね。

    ベルリン在住のたなかさんの、 すてきなインタビュー記事はこちらから読めます。

     ◆「女性目線のベルリン」
      「アートで生計を立てていく」ためのヒント
     http://sekaistory.jp/2240/

    海外で、好きなことを仕事にして生きていく人のための、 特にアートで生きる人のためのヒントが書かれています。

     * * *

    Inkdropの話。

    Inkdropというのは、Markdownノートアプリです。 結城はユーザではないのですが、 先日見かけた以下の記事が気になりました。

     ◆MarkdownノートアプリInkdropで家賃の半分が賄えるようになりました
     https://blog.craftz.dog/3f30f4e1e479

    タイトルを見たときには「へえ」と思っただけでしたが、 はてなブックマーク数が多かったので、中身も読んでみました。 読み応えのある面白い記事でした。

    記事の中で特に印象に残ったのは、

     --------
     しかし僕はアプリをシンプルに保ちたいので、
     ほとんどの意見を保留にしたり断ったりしました。
     --------

    というところです。

    有料アプリをユーザに使ってもらうために、 ユーザからの意見を聞き、それを「取り入れる」ならばわかります。 「取り入れる」のではなく「保留にしたり断ったりした」 という点がすごいと思いました。

    ここには「作者の判断」がありますね。

    機能を実装してユーザに喜んでもらいたくなるのは人情です。 有料アプリならなおさらです。 お金払っている人からの意見を尊重しないで、 何を尊重しようというのでしょう。

    ユーザに言われるまま機能を実装していき、 アプリをシンプルに保てなくなり、 やがて使いにくくなったら、 結局ユーザには喜ばれません。

    機能を「実装する」判断ではなく「実装しない」判断は難しそうです。 その判断ができるということは、 きっと、このアプリの「あるべき姿」が見えているのでしょう。 つまり、それが「作者の判断」ということです。

    しかし、言うは易く行うは難し。 たくさん課金してくれるユーザから熱心な要望が来て、 それが自分の考える「あるべき姿」からズレていたならどうするか。 そうなってくると「作者の判断」というよりは「経営者の判断」 に近くなってくるかもしれません。

    価格に関しては、こちらにも文章がありました(英語)。

     ◆Why Inkdrop is a Subscription App
     https://hackernoon.com/beda29c507d5

    ぜひ、あなたもお読みください。

    ここでは、売り切りではなくSubscription model になっている理由が次のようにまとまっています (和訳は結城です。ずれていたらごめんなさい)。

     ・Going cheap is poor strategy
      (低価格勝負はまずい戦略)
     ・The most important thing is to make sure everything is sustainable
      (すべてを確実に持続させるのが最重要)
     ・The goal is not to catch ’em all
      (すべての人を得ることがゴールではない)
     ・If you try to please everyone, you won’t please anyone
      (みんなを満足させようとすると、だれも満足しない)
     ・Trusting the value
      (価値を信じる)

    結城は、ここには非常に大事なことが書かれていると思いました。

    結城は、自分が書く文章について思いながら、 この記事を読みました。 そして、このInkdropの作者TAKUYAさん(@craftsdog)をフォローしてみました。

     https://twitter.com/craftzdog

    価格については、後ほど「値は値」という別のお話をしましょう。

     * * *

    Web連載の話。

    先日CakesでのWeb連載「数学ガールの秘密ノート」 が第200回目を迎えました。 継続的な応援をありがとうございます。

    (と、落ち着いて書きましたが、 心の中では「200回!すごーい!」と叫んでいます。 数学のそれなりのクオリティの読み物を200回!……こほん、失礼しました)

    ところでその第200回目は、予定よりも長くなってしまい、 饒舌才媛ミルカさんの話がいれられなくなってしまいました。 Web連載ではそういう場合に「メタ数学トーク」と称して、 舞台裏のおしゃべりというスタイルで書くのですが、 今回はそこにも入りませんでした。

    せっかくなので、別途テキストに起こし、 数学部分だけを公開することにしました。 以下です。

     ◆フェルマーの小定理とオイラーの定理を見比べる
     https://story.hyuki.net/20170703011050/

    オイラーの定理が証明できれば、 フェルマーの小定理はその「系」として一瞬で証明できてしまいます。 でも上では意識的にその二つの類似性を強調して書いてみました。

    Web連載の第199回と第200回では、 「pを素数としたとき、p-1にはどんな意味があるだろうか」 ということがテーマになっていました。 p-1はもちろん「素数よりも1小さい数」ではあるのですが、 「pと互いに素であるp以下の正整数の個数」 という見方もできます。

    オイラーの定理に出てくるオイラーの関数φ(n)は、 「nと互いに素であるn以下の正整数の個数」 ですから、フェルマーの小定理とオイラーの定理に 類似性があるのもよくわかります。

     ◆第200回の最終パート(二つの定理の比較部分)

    2017-07-10_note200.png

    数式や証明をじっと観察していて、 そのような類似性が見つかるのは楽しいものです。 数学に詳しい人には「あたりまえ」かもしれませんが、 それを自分なりに「見出す」ところに喜びがあります。

    二つの「似ている」概念があったとして、 それが「似ている」ことをどのように表現すればいいでしょうか。 どのように表現したら「似ている」ことがはっきりと伝わるでしょう。

    結城は、

     概念上で似ているものを、
     表現上でも似ているように表す

    のが好きです。もちろん表層的に似た表現を使って、 無理矢理似せるわけではありません。 ほんとうに似ているものに、ふさわしい表現を与えて、 「確かに、見るからに似ている」 と読者に感じてもらいたいのです。

    残念ながら、今回の第200回では、 フェルマーの小定理とオイラーの定理の類似性について、 そこまでは突っ込んだ書き方ができませんでした。

    でもいつか(いつになるだろう)書籍化するときには、 その類似性が明確になるように書き表したいなと思っています。

    結城が文章(読み物)を書くときには、 それなりの「目標」があります。 「全体としてどこまで書きたいか」ともいえますし、 「読み終えたときに読者に何をつかんで欲しいか」 ともいえます。

    その「目標」が見えないと、 まとまった文章を書く意欲はなかなか出てきません。 「目標」が見えてくると、そこへ向けて材料を集めたり、 材料の取捨選択をしたりできるのです。

    Web連載はしばらくお休みをいただき、 8月から新シーズンの再開となります。 次のシーズンの題材候補はすでにいくつか見つけており、 そこへ向けての準備も進めています。

    ぜひ、ご期待ください!

     ◆Web連載「数学ガールの秘密ノート」
     https://bit.ly/girlnote/

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    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。

    どうぞ、ごゆっくりお読みください!

    目次

    • はじめに
    • 値は値 - 仕事の心がけ
    • 文系の三年生に数学を教えたい - Q&A
    • おわりに