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記事 4件
  • Vol.226 結城浩/『読み・書き・自己言及』 - 結城浩ミニ文庫/どうしてあの人は/教えるときの心がけ/

    2016-07-26 07:00  
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    Vol.226 結城浩/『読み・書き・自己言及』 - 結城浩ミニ文庫/どうしてあの人は/教えるときの心がけ/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年7月26日 Vol.226
    はじめに
    おはようございます。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    特別授業の話。
    この結城メルマガが配信される火曜日に、 結城はある中学校で特別授業(講演会)を予定しています。 人前で話すのは年に一回か二回ほどのことなので、 少し(かなり)どきどきしています。
    飛行機に乗るのも久しぶりで、 乗り遅れたらどうしようなどと子供のようなことを考えています。
     ◆飛行機に乗ります(「いらすとや」のイメージイラスト)
    講演会は書籍を書くこととずいぶん違いますので、 その準備の中でいつもと違う学びがあります。 どんなときでも「人に何かを伝えよう」とするときには、 学びがあるものです。なぜなら、人に何かを伝えるためには、 その「何か」のことをよく理解している必要があるためです。
    しっかり伝えようと願えば願うほど、 その気持ちは「何か」を深く理解しようという気持ちへつながっていきます。 深く理解しようという気持ちが、学びを生まないわけがありません。
    広い意味での「熱意」といえます。
    特別授業の様子は、スライドつきの読み物に変換して、 後日この結城メルマガで配信する予定です。 これまでも、
     「数学ガールの特別授業」
    として何回か配信してきました。 どうぞお楽しみに!
     ◆数学ガールの特別授業  http://www.hyuki.com/girl/lesson.html
     * * *
    重版出来の話。
    先日、出版社より、 『数学ガールの秘密ノート/式とグラフ』の増刷決定の連絡がありました。 いわゆる「重版出来(じゅうはんしゅったい)」の連絡ですね。 読者さんの継続的な応援に感謝です!とってもうれしいです。
     ◆『数学ガールの秘密ノート/式とグラフ』  http://note1.textfile.org/
    「重版出来!」のドラマで、
     「重版出来は、本に関わる人みんなが幸せになれる言葉」
    という主旨のセリフがありました。私もそう思います。 自分の本の重版出来はもちろんうれしいですけれど、 他の人の本の重版出来を聞いても、とてもうれしいですね。 思わずにこにこしてしまうニュースです。
    重版出来は「版を重ねる」ということですが、 「刷(すり)を重ねる」という方が実際に近いでしょう。 第1版が第2版になるわけではなく、 第1版第1刷が第1版第2刷になるということですから。
    一回の刷り部数は本によってさまざまですから、 刷数が多い方が出版部数が多いとは限りません。 「なんとすでに○○刷突破!」という宣伝文句だけで、 何部売れたかまではわからないのです。
    しかし、それでも重版出来のニュースはうれしいものです。 「本が売れている・本を買う人がいる・本を読む人がいる」 ということが集約されている言葉だからなのかもしれませんね。
     * * *
    文章を書く話。
    結城は「文章を書く」ということについて、いつも考えています。
     ◆文章を書く(「いらすとや」のイメージイラスト)
    どうして文章を書くことについていつも考えているかというと、 それが「考える」に直接的に結びついているからだと思います。 誰しも毎日いろんなことを考えますよね。 見たものについて、聞いたことについて、感じたことについて。
    結城の場合には、その「考える」というプロセスと、 「文章を書く」というプロセスが分かちがたいほどに絡み合っています。 そういう人は少なくないはずです。 文章を紡ぎながら、ああかな、こうかな、と考えているのです。
    プログラミングのときもそうですね。考えながらプログラムを書く。 書いているうちに、自分の考えていることが明確になり、 不思議な感慨に至る。
     「ああ、私が考えていたことは、こういうことだったんだ」
    文章でも同じことが起きます。考えながら文章を書き、 考えるために文章を書いているうちに気付く。
     「ああ、私が考えていたことは、こういうことだったんだ」
    変な話ですよね。自分のことなのに、改めて書かないことには、 自分が何を考えていたのかわからないなんて。 あなたはそういう経験はありませんか。
    頭の中で考えているというのは、 考えることの途中の段階にすぎないんじゃないでしょうか。 書き上げてはじめて、考えるという行為が完成する。 いや、もっとかな? 書き上げて、人に伝えて、そして人に伝わって、 はじめて完結するのかもしれません。
     * * *
    縦書きと横書きの話。
    先日、村上春樹の文庫をKindleで読んでいて、 何となく横書きで読みたくなりました。 固定レイアウト型ではなく、リフロー型でしたから、 横書きに切り換えることができてもよさそうですが、 どうもできないみたいです。
     ◆『風の歌を聴け』(村上春樹)  http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B01G6MF4J2/hyam-22/
    iPhoneのKindleアプリで読むとき、縦書きより横書きの方が読みやすく感じます。 視線の動きが少ないからかもしれませんし、 横書きに慣れているからかもしれません。 何しろ、いまや私が読むもののほぼすべては横書きですからね。
    紙の本だったら縦書きでもいいのですが、 iPhoneで読むなら横書きの方がしっくりくるようです。
    あなたはいかがですか。
     * * *
    Webページの見え方の話。
    結城はふだん小さなWebサイトを作って遊んでいます。 だいたいは自分がユーザなのですが、 公開しているWebサイトは他の人もアクセスします。 そうすると気になるのが、 「他の人にはどう見えているんだろう」ということです。
    Twitterのフォロワーさんから、 NetRendererというサイトを教えていただきました。 指定したURLをWindowsで見たらどのようになるかという、 まさに結城が求めているようなサイトです。 たとえば、結城のWebサイトトップページの見え方は、 このように違います。
     ◆Windowsで見たトップページ(NetRenderereによる)
     ◆Macで見たトップページ(MacBook Safariによる)
    だいたいのレイアウトは同じですが、 フォントの違いで印象は少し変わりますね。
     ◆NetRenderer  http://netrenderer.com/
    その他に、Microsoftが提供している同様のページも教えていただきました。
     ◆Browser screenshots  https://developer.microsoft.com/en-us/microsoft-edge/tools/screenshots/
    こちらも、URLをいれるだけで、 OSとブラウザでの見え方の違いがわかるようになっています。
    結城はMacとiPhoneで見ているので、 WindowsユーザやAndroidユーザにどう見えているのが気になります。 こういう気持ちも《読者のことを考える》の一つなのでしょうか。
    それにしても「こういうの、ほしいな」 と思うツールがすでに存在しているのは、 驚くと共にありがたいことですね。 それにすこし「ほっ」とします。 それは、自分が考えることが見当違いでないと気付くからです。
     * * *
    時間の話。
    先日 @key1jp さんのこんなツイートを読んで感動しました。
     ---------  https://twitter.com/key1jp/status/750174169086636033  息子は年齢を聞くみたいに「パパは今何時?」「ママは今何時?」って  個別に聞くんだけど、ああ、時間がすべての人に共通に流れるって  前提がないんだなーと思うとなんか宇宙が見えた  ---------
    これを読んで感動した理由はいろいろあります。 一つはこのような「各人が時間を固有に持っている」かのような 息子さんの言葉に。
    また、その息子さんの行動を 「時間がすべての人に共通に流れるって前提がない」 と表現した @key1jp さんに。
    それから結城は「でも、私たちは本当に共通の時間を生きているのかな」 と考え始めました。たとえば、基本的な話として「時差」がありますよね。 海外と日本とでは時刻が異なります。海外とやりとりをしている人は特に、 時差を意識して活動していると思います。
    さらに「同じ時間を過ごす」ってどういうことなんだろう、 とも考え始めました。好きな人とデートして、 同じ場所で時間を過ごすのは楽しいものです。 そしてそれは確かに「同じ時間を過ごしている」感覚があります。 でも、現代では遠くの人とチャットしたり、ゲームしたり、 物理的な制約からは自由になっています。 だから、必ずしも物理的に同じ場所にいる必要はありません。
    さらにいうなら「古い本」を読むとき。 すでに著者はこの世にいない。でもその本の中では言葉が生きていて、 読んでいる自分に強く語りかけてくる。 まるで同じ時間を過ごしたかのような気持ちになることは、 決してめずらしくありません。
    先日の @key1jp さんのツイートから、 そんなことを考えて、私はとても豊かな時間を過ごしたのでした。
     * * *
    「作戦」の話。
    最近、一週間単位で自分の「作戦」を考えるのが好きです。 最初はただの「目標」にしていたのですが、 ある方から「ガールズ&パンツァー」に出てくる「作戦」みたいですねと言われ、 それから「作戦」と呼ぶようになりました。
    たとえばある週は「わざとゆっくり作戦」を掲げました。 その週は何かにつけて「わざとゆっくり」するという作戦です。 文章を書くときに、あわてて手を動かさない。 まずはゆっくり考える。ゆっくり考えて、 自分の「手」が書きたがったとしても、すこし焦らす。 そのくらいゆったりと時間を掛け、そこから書き出す。
    作業を切り換えるときもそうです。 作業Aが終わってすぐに作業Bを始めない。 作業Aが終わったらゆっくり作業Aでやったことを振り返る。 少し休憩する。そして作業Bに移る。 それが「わざとゆっくり作戦」なのです。
    「わざとゆっくり作戦」の他に、 「背筋をピンと作戦」や「まずは、深呼吸作戦」 をこれまでに実行してきました。 何だか子供みたいな話ですけれど、 こういう「作戦」を自分で決めてそれを守るのは、 意外におもしろいものですよ。
    あなたは今週、どんな「作戦」で行きますか。
     * * *
    では、今週の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    『読み・書き・自己言及』 - 結城浩ミニ文庫
    わかりやすい説明 - 教えるときの心がけ
    どうしてあの人は、私が思ったように動いてくれないんだろうか
    おわりに
     
  • Vol.225 結城浩/esa社訪問記/「思い込み」を殺す/中高生が数学を学ぶ秘訣/

    2016-07-19 07:00  
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    Vol.225 結城浩/esa社訪問記/「思い込み」を殺す/中高生が数学を学ぶ秘訣/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年7月19日 Vol.225
    はじめに
    おはようございます。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    Vimの話。
    結城はふだん、Vimというテキストエディタを使っています。 先日、formatprg という機能を知りました。 この機能は簡単にいえば、
     指定した範囲のテキストを、  好きなプログラムに入力として与え、  そのプログラムの出力でもとのテキストを置き換える
    というものです。通常はテキストの整形処理に使います。
    この機能を応用すれば、 自分好みのテキスト変換を外部のプログラムで自由に行えることになります。
    たとえば、Vimの内部からpandocを起動したり、 箇条書きのマル印を付加したり、インデントを着け直したり、 一部をHTMLに変換したり、LaTeXに変換したり、 などなど、自在にテキスト変換を行えます。 もちろん、プログラム次第ではということですが。
    たとえば「範囲指定した一行目に item と書くと、 残りの行の先頭に item という文字列を入れる」 みたいなプログラムを作ることができます。
    言葉で説明してもよくわからないですよね。 動画にしてみました。
     ◆Vim formatprg  https://youtu.be/YEwTkvlono8
    もちろん、こういう処理はVimに内蔵されているスクリプト言語である Vim scriptを使えば実現できますが、 その処理を自分の好きなプログラミング言語で書けるのがうれしいのです。 たとえば、Rubyで書くと以下のようになります。
     ◆formatprgの例  https://gist.github.com/hyuki0000/db4572c5ece783755ff0875e05a10bcd
    一般に「自分がタイプしやすいテキスト形式」と、 「自分が欲しいテキスト形式」とは異なるものです。 このformatprgを活用すれば、自分のタイプ量を減らして、 自分が欲しいテキストを作りやすそうだな、と思いました。
    なお、formatprg を知ったのは、ssh0さん(@ssh0r0ta)による、 以下の記事がきっかけです。感謝します!
     ◆TeXで書くのめんどくさい部分は  markdownで書いちゃえば最強じゃないかな?【Vim + pandoc】  http://qiita.com/ssh0/items/679ac9dd3c33b0e5cd90
     * * *
    整理の話。
    iPhoneのKindleアプリでよく電子書籍を読みますが、 Kindleアプリで本読んでいる人って、 たくさんの本をどうやって整理しているんでしょう。
    Kindleアプリで本を読もうとすると、 フラットにアイコンが並びます。 それで管理できるのはせいぜい数十冊くらいでしょうか。
    Kindleには「コレクション」という蔵書をまとめる機能がありますが、 それでは、焼け石に水だと思うのです。
     ◆iPhoneのKindleアプリで本を並べる?
    結城はいわゆる「自炊」をして、紙の本をPDFにしています。 さっき数えたら987冊ありました。 それはすべてDropboxの一つのディレクトリに入れてあるので、 いわばこちらもフラットに並んでいるのですが、 Kindleに比べて違和感はありません。
    というのは、本はシンボリックリンクを使い、 ジャンルごとや仕事ごとに複数のグループに分けられているからです。 実際に読むときには987冊の中から目視で探すわけではありません。
    UIの問題なのか、何なのかわかりませんが、 Kindleでたくさんの本をさばけるようになってほしいと思います。
     * * *
    Web連載と学びの話。
    Web連載「数学ガールの秘密ノート」は毎週金曜日、cakesで連載しています。 今週は新シーズン「広がる複素数」が始まって三週目になりますね。
     ◆Web連載「数学ガールの秘密ノート」  https://bit.ly/girlnote
    Web連載の準備は毎日少しずつ進めています。 「今週はどんなことを書こうかな」と考えるのは楽しいものです。
    先日、Web連載の準備のために参考書を調べていて、
     「この概念なら、こういう用語の方がピッタリくるんじゃないかな?」
    と気付いたことがありました。 そして参考書の次のページをめくると、まさにその用語が登場!
     「なるほど! やっぱりそれでいいんだ!」
    と感激です。数学って楽しいですねえ!
    と、そこまではよかった。
    やや悲しい出来事もありました。 それは私が感激した参考書のまさにそのページに、 私の書き込みがあったこと。 欄外に興奮した筆跡で「なるほど!」と書いてあったんです。 すっかり忘れていましたよ……。
    Web連載の準備にはいろんなことをやります。 先日は、道を歩きながら、
     来週のWeb連載に出てくる話の流れを、  全部《そら》で思い出してみましょう!
    というコーナーをひとりで楽しんでいました。
    連載記事に登場する数学的概念をひとつひとつ思い浮かべ、 それに対して数学ガールたちがどんな意見を出すか、 どんな質問が飛び出すか、 そういう数学トークに耳をすませるという「準備」です。
    何もないところでそらんじることができれば、 理解している証拠なので、 結城はときどきそうやって自分を試します。
    その「準備」は道を歩きながら行いますので、 本を調べることはできませんし、紙に書くこともできません。 ですから、思い浮かべた数学的概念の正しさは、 非常に簡単な《例》を使って確認します。 考えたことが正しいと暗算でも確かめられる例を作るのです。 そのような「準備」はほんとうに楽しい知的活動です。
    結城がそんなふうに自分で考える数学的概念というのは、 数学者からみればそんなに難しいものではありません。 でも、難しいかどうかは重要ではないのです。 ただ、数学的な概念を思い浮かべ、 小さくて適切な例を作り、それをいじりまわすという活動自体が楽しいのです。 それは、パズルを解いているような、美術品を眺めているような、 工芸品を手に取っているような楽しみです。
    数学的概念を操作することが楽しいのは、 自然界の法則に支配される必要がなく、自由に考えていいからです。 論理的な一貫性、つじつまが合っていれば、 常識とは離れていてもかまわない。プログラミングと似ていますね。 その意味で、前シーズンの「数を作る」というのは、 特に楽しいテーマでした。
    結城は数学の専門書を書いているわけではないので、 あちこち論理をすっとばしますが、 私が感じているわくわくを少しでも読者に届けたいという気持ちで、 毎週書いています。 そしてもちろん、興味を持った読者がさらに専門的な本へ進んでもらえるなら、 望外の喜びといえるでしょう。
    学ぶというのは、ほんとうに楽しい活動です。
     * * *
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    目次
    はじめに
    esa社訪問記 - 仕事の心がけ
    「思い込み」を殺すために
    中高生が数学を学ぶ秘訣 - 教えるときの心がけ
    孤独の中で決断する仕事 - 仕事の心がけ
    おわりに
     
  • Vol.224 結城浩/再発見の発想法/esa.ioを使ってみよう(2)/作品を書く人は「言い訳」をしない/

    2016-07-12 07:00  
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    Vol.224 結城浩/再発見の発想法/esa.ioを使ってみよう(2)/作品を書く人は「言い訳」をしない/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年7月12日 Vol.224
    はじめに
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    Evernoteの話。
    「Evernoteを活用していますか?どのように?」 という質問をときどきいただきます。
    結城はEvernoteをたいへん活用しており、 執筆の仕事に欠かせないツールの一つになっています。
     ・本に関わるアイディアをメモする場所として  ・参考書のスクリーンクリップを保存する場所として  ・読者からの質問や誤植の指摘を保存する場所として
    というのが主な用途です。 それ以外、日々の備忘録にも使っています。
    現在ホットになっている書籍のアイディアや、 参考書のスクリーンクリップはもちろん大事です。 何しろ直近の作業に影響を与えますからね。
    でも「読者からの質問や誤植の指摘を保存する場所」としての方が、 Evernoteの恩恵を享受しているかもしれません。 というのは、読者からの情報は、 その情報を得た直後だけではなく、
     ・正誤表を作るとき  ・改訂版を作るとき  ・新規企画を考えるとき
    に大いに役立つからです。つまり、
     ・情報を「入手」する時  ・情報を「使用」する時
    この二つのあいだに時間があるということですね。 ということは、その間きちんと保存して置かなければなりません。 Evernoteを使っていると、
     「この本に関する読者からの情報はこのノートブックの中にあるはず」
    という確信が得られますが、これは大きな助けです。
    また、読者からの情報は、 以下のように多様なチャンネルからやってきます。
     ・メール  ・TwitterのツイートやDM  ・Facebookの記事やMessenger  ・ブログ記事
    必要になった時点で複数のチャンネルを探し回るのは非効率的ですから、 いろんな形での情報を入れておけるEvernoteは助かりますね。
    これに関連した話題は、 後ほど「esa.ioを使ってみよう(2)」にも出てきます。
    ところで、原稿そのものはEvernoteには入れていません。 結城は原稿をLaTeXで書いていますので、 プレーンテキストの管理が重要になります。 でも、Evernoteはプレーンテキストを管理するには向かないからです。
    検索してみると、Evernoteに対して何年も前から、 「プレーンテキストを扱えるようにしてほしい」 という要望が出ていたようです。 でも、まだ対応されていません。
    なぜでしょうね……
     * * *
    しょうもない話。
    「ふとんがふっとんだ」(実況記事)
    「ふとんはふっとんだ」(叙事)
    「ふとんはふとんだ」(トートロジ)
     * * *
    数学の話。
    先日、鯵坂もっちょさん(@motcho_tw, id:motcho)の記事を楽しく読みました。
     ◆とりあえずだまされたと思って-((-1)^(1/7))を2乗してみてくれ  http://motcho.hateblo.jp/entry/2016/06/06/222447
    ここに出てくるのは、
     aを二乗したらbで、  bを二乗したらcで、  cを二乗したらaになる、
    という数はどんなもの? という話題です。 二乗を繰り返すと、a→b→c→a→... のようにぐるっと回って戻ってくる数です。
    この記事を読むだけでもおもしろいのですが、 どうしても「なぜ、ぐるっと回って戻ってくるのか」を目の当たりに見たくて、 こんな図を描いてみました。

    「二乗を繰り返すと、ぐるっと回って戻ってくる」というのが、 「二倍して剰余を取ると、ぐるっと回って戻ってくる」というのに帰着できて、 楽しい気持ちがさらにアップ! 自分の手を動かして考えるのはいいですね。
     * * *
    ワンテンポ遅れる話。
    年を取ると何につけても「ワンテンポ遅れる」感があります。
    単に瞬間的な反応速度が遅いというだけではありません。 たとえば、いつもより激しい運動をしたとき、 次の日になって身体が痛くなるのはまだまだ若い証拠です。 年を取ると、一日置いてさらに次の日になって身体が痛くなる (ような気がするのです)。
    ソフトやサービスの評価で似たような現象が最近ありました。 ある週に「Ulyssesはどんなソフトかなあ」と試していて、 次の週になって、今度は「esaはどんなサービスかなあ」と試します。 そしてさらに次の週になって「そういえば、Ulyssesはなかなかいいかも」 などと考えはじめています。 自分の頭がワンテンポ遅れるのは悲しいですねえ。
    まあ、「ワンテンポ遅れる」ことがわかってさえいれば、 そんなに困ることはないんですけど。 要するに、
     性急な判断をしないように
    ということなんですから。
     * * *
    歩く話。
    結城はふだん、外にでて仕事をしています。 森を抜けて仕事場へ行き、カフェを巡って文章書き。
    iPhoneの「ヘルスケア」というアプリには、 結城の歩数が記録されています。 それによると、普段の結城の歩数は一日5000〜8000歩のよう。
    先日、外に出ない日が三日続いたのですが、 その日はいずれも1000歩未満になっていました。 外に出ない日の歩数は激減です。
    やはり、外に出て仕事するのは、 健康のためによいのではないか、と再認識しました。
    あなたは一日に何歩くらい歩いてますか。
     * * *
    具体例がすべてではないという話。
    文章では「具体例」がとても大事になります。 でも、どんな場合でも具体例が有効とは限りません。 具体的な話は確かにわかりやすく感じますが、 読者によってはわかりにくいと感じる場合もあるからです。
    読者が一般論を求めているときに、 具体例ばかりを羅列してもよくありません。 具体例を並べても説明の代わりにはならないからです。
    説明をせずに具体例を羅列するのは、 読者に対して「抽象化」や「一般化」という情報処理を丸投げしているともいえます。 その意味では、具体例の羅列は読者への負担となりかねません。
    具体例だけを示し、相手に一般化を暗黙のうちに行わせるのは、 詐欺師のテクニックにもありますね。
     「Aさんはこの方法で123万円儲けました!」
    という具体例だけを出すと、いかにも、
     「誰でももうかります」
    という一般論を提示しているように見えます。 でも、読者に一般化を行わせ、説明を補完させて、 誤解へ導いているのです。
    「具体的すぎてわからないから、もっと抽象的に言ってほしい」 というのは理系ジョークの一つですが、 具体例は、説明と共に適切に使いたいものです。
     * * *
    draw.ioの話。
    結城はふだん『数学ガール』の図を描くとき、 TikZというLaTeXのパッケージや、OmniGraffleというドローツールを使っています。
     ◆TikZ  https://texwiki.texjp.org/?TikZ
     ◆OmniGraffle  https://www.omnigroup.com/omnigraffle
    それはそれで問題ないのですが、 ときどき、原稿に残すわけではなく、 もっと「さくさく」っと図を描いて考えたいときがあります。 そんなときには、draw.io が便利です。
     ◆draw.io  https://draw.io
    ブラウザで draw.io を開くといきなり、 「新しい図を作る」と「既存の図を開く」ボタンが現れます。
     ◆draw.ioにアクセス直後
    そこで「新しい図を作る(Create New Diagram)」を選ぶと、 ブラウザ上ですぐに図を描き始められるのです。 そして、そのまま保存もできます。
     ◆draw.ioで図を描いている途中の様子
    draw.ioは手軽でいいツールですね。
     ◆draw.ioでさくさくと描いてみた「結城メルマガ」の執筆の流れ
     * * *
    Twitterでの「学び」の話。
    先日「有理数体のp進完備化」という概念について考えていたとき、 自分の理解がおかしいんじゃないかと不安にかられて、 ツイートをしました。
     https://twitter.com/hyuki/status/749165448428523520
    結果的に、何人かの人に教えていただいて、 私は自分の理解を正すことができました。 ……と、こういう出来事を結城はよく体験します。
    Twitterに限りませんが、結城のところには、 いろんな方から「結城さん、ここまちがってますよ」や、 「結城さん、それはこうしたほうがいいですよ」 というメッセージがやってきます。
    結城は数学読み物を書いていますから、数学の専門家から、 あるいは結城よりもずっと数学を理解している愛好家から メッセージがやってくるのです。 それは、何と感謝なことでしょうか。
    正直いうと、そのすべてを結城が理解できるわけではなく、 自分の不勉強を恥じて終わることも多いです。 でも、たとえそうだとしても、 このようなメッセージを送ってもらえることは感謝です。
    ふと思うんですが「インターネットで情報発信」というとき、 必ずしも、権威者として発信しなくてもいいのではないでしょうか。 その道のオーソリティだけが情報発信するものではない。 そうじゃなくて、学ぶ人がその都度その都度、
     「自分の現在の状況を発信する」
    ことにも、大きな意味があると思います。
    もちろん、まちがった情報を流しっぱなしというのは困りますが、 「絶対に正しい情報でなければ発信できない」 と考えないほうがいいと思います。
    せっかくインターネットが発達した現代に生きているのですから、 思い切って自分の学びを発信し、 いろんな人からフィードバックを受けるというのは、 なかなかよいことじゃないかと考えています。
    きっと、正直ベースで行くのがいい戦略なんですよ。 自分が「わかった」と思うことは「わかった」という。 自分が「わからない」と思うことは「わからない」という。 そういう正直さが、長期的には功を奏するのではないかと思います。
    「聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥」の現代版ですね。
    結城は、前世紀の終わりから、 そんなふうにして、たくさん学ぶことができました。
     * * *
    では、今週の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    再発見の発想法 - 三路スイッチ
    esa.ioを使ってみよう(2) - 仕事の心がけ
    作品を書く人は「言い訳」をしない - 文章を書く心がけ
    おわりに
     
  • Vol.223 結城浩/esa.ioを使ってみよう(1)/自意識でスウィング・バイ/思い込みに気付く心/

    2016-07-05 07:00  
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    Vol.223 結城浩/esa.ioを使ってみよう(1)/自意識でスウィング・バイ/思い込みに気付く心/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年7月5日 Vol.223
    はじめに
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     * * *
    推敲の話。
    秋に刊行予定の『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』を書いています。
    先日、第4章の構成を整えていました。 いったん文章をまとめた後、 何度も読み返しておかしなところを直していきます。
    それはいいのですが、 推敲の途中で自分の「モード」を間違ってしまうことがあります。 つい「勉強モード」にはまってしまうのですね。 本来は「推敲モード」で進むべき状況なのに。
    「勉強モード」というのは、 文章にわかりにくいところがあったときに、
     わかりにくいな。もっとがんばってじっくり読んで、  しっかり考えなくちゃ!
    という態度でいることです。
    それに対して「推敲モード」というのは、 文章にわかりにくいところがあったら、
     うん、これはわかりにくいな、  もっとわかりやすく書き直さなくちゃ!
    という態度でいることです。
    違いはわかりますよね。
    簡単にいえば、 「勉強モード」は、 「わかりにくいのは読んでいる自分のせいだ」と考える態度。 「推敲モード」は、 「わかりにくいのは文章のせいだ」と考える態度です。
    ふだん自分が誰かの本を読んで勉強しているときには、 文章が悪い!と文句を付けてもしようがありません。 勉強モードでは勉強をしなくちゃね。
    でも推敲モードでの書き手は、 読むときにがんばりすぎてはだめです。 文章の品質を上げるのが目的なんですから、 わかりにくいところや、読みにくいところがあったら、 がんばって理解しようとするのではなく、 文章を直せないかと考えるべきなのです。
    「推敲モード」は《生意気でわがままな読者モード》ともいえます。
     私が理解できないのは文章が悪い。  何度も読み返さないと文意が取れないのは書き手が悪い。  すべては書き手と文章が悪いんだ!
    そんな読者になったつもりで読む。 そういう態度が「推敲モード」には必要なのです。
     * * *
    前提条件の話。
    ネットをながめていると、不安感をむやみとあおったり、 過激な表現や極端な言い回しを使う記事を見かけることがあります。 たとえば「本気でセキュリティを守りたかったら○○は無意味だ!」 というような表現のことです。
    一般論として「セキュリティで〇〇は無意味」のような 「単純化された言明」は注意深く扱う必要があります。 セキュリティを守りたいというときは、
     ・どんな資産を  ・どんな脅威から  ・どれだけの期間  ・どれだけのコストをかけて  ・どんな形で守りたいか
    を定めないことには何も言えないからです。 前提条件をまったく定めずに「○○は無意味」とはいえません。
    上に書いた「どんな形で守りたいか」のところを少し補足します。 たとえば、脅威を「防止」することと「検出」することは違いますが、 どちらも「セキュリティを守る」の範疇に入る概念です。
    「防止」と「検出」を対比してみます。
    「防止」の例:「この機密情報を盗まれないようにする」こと。
    「検出」の例:「この機密情報を盗まれてもいいが、 盗まれてから1分以内に盗まれたとわかるようにする」こと。
    どちらの場合もあり得ますし、 防止と検出で対策が異なるというのも理解できると思います。
    私たちがセキュリティについて考えるとき、 心の中には必ず前提条件があります。 それを明確にせずに「○○は無意味」ということはできません。
    セキュリティに限りません。 複雑な事象を検討するときには必ず「前提条件」を確かめる必要があります。 そして前提条件をきちんと確かめた上で結論づけるのが専門家です。 専門家は安易に「○○は無意味」と結論づけたりはしません。 素人ほど、前提条件をすっ飛ばして安易に着地させたがるものです。
    誰かから「○○っていい?」と聞かれたとき、 「そんなこと聞かれても、それだけじゃ答えられないよ」 となることが多いでしょう。前提条件を確認したくなるはずです。
    ですから、ときに、素人よりも専門家の方が自信なさげに見える…… という奇妙な現象が起きることもありますね。
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    参考書の話。
    先日一冊の参考書を買いました。
     ◆『ヴィジュアルガイド 物理数学 1変数の微積分と常微分方程式』   (前野昌弘)  http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4489022409/hyam-22/
    タイトル通り、物理数学の本です。 結城がこの本を買ったのは、 Twitterで色がたくさん使われているという話題がでたからです。
    一般的に、色数が多い本というのは楽しいですけれど、 私はいささか苦手です。 色が多くなるというのは構成要素が多くなるわけで、 「いい本」を作るのはとても難しいことなのです (少なくとも結城には)。 図鑑のようなものならいざしらず、 数式がたくさん出てくる本で色数を多くしたらどうなるのかな。 そんな興味で買いました。
    ぜんぶを熟読したわけではありませんが、 想像していたよりもずっと抑えめの色合いで見やすそうです。 数式の細かい部分まで色分けがなされており、 しかも内容の理解しやすさに貢献しそうな色使いで、 この本を組版するのにどれだけの手間が掛かったのだろうと思いました。
    この本を通して、内容を勉強するだけではなく、 表現も研究してみようと思っています。
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    共同運営マガジンの話。
    少し以前のニュースですが、 クリエイター向けのプラットホームnote(ノート)で、 「共同運営マガジン機能」が使えるようになりました。
     https://note.mu/info/n/n0e79f2f571df
    公式のアナウンスによると、これは、 「有料マガジン」と「継続課金マガジン」を複数のクリエイター(最大10名)で運営できるようにする機能とのことです。 要するに、複数人のクリエイターが集まって、 一つの「オンライン雑誌」をWeb上で作成・販売できるわけですね。
    結城自身はこの機能をすぐに使う気持ちも予定も(そして余裕も) ないのですが、 こういうサービスを通しておもしろい読み物が生まれるかどうか、 そこに興味があります。
    自分では文章も書けない、絵も作れない、写真も音楽もできない。 でも知り合いに声を掛けて複合的な「雑誌」を作れる人。 それもまた編集者でしょうか。それともプロデューサでしょうか。 そんな人には有効なサービスかもしれませんね。
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    ビル・カニンガムさんの話。
    ビル・カニンガムさんは、アメリカの写真家です。 先日、彼の訃報を聞きました。
     ◆米の写真家、ビル・カニンガム氏死去  http://www.asahi.com/articles/ASJ6V5R9CJ6VUHBI019.html
     ◆ストリート・スナップの伝説が死去 NYが愛したビル・カニンガム  https://www.buzzfeed.com/davidmack/bill-cunningham-dies-1
    カニンガムさんのことは、 ドキュメンタリー映画『ビル・カニンガム&ニューヨーク』で知り、 その映画と言葉をこの結城メルマガでも取り上げたことがあります (以下のnote(ノート)でも読めます)。
     ◆美を追い求める者は、必ずや美を見出す / ビル・カニンガムの言葉より(文章を書く心がけ)  https://note.mu/hyuki/n/n99bedf3e294b
     ◆ドキュメンタリー映画『ビル・カニンガム&ニューヨーク』  https://www.youtube.com/watch?v=x2HU-iaiPgo
    結城は写真にもファッションにも疎いのですが、 この映画は妻と観てたいへん印象に残っています。 ひとりの人の生きる姿、特に仕事を通して生きる姿というのは、 心の深いところまで届くようです。
    ふと「働く姿」に関連して、 人気ドラマ『重版出来!』の一シーンを思い出しました。 身を持ち崩して一日じゅう酒に溺れている漫画家がいる。 その娘アユちゃん(中学生)が、 書店で働いている人の姿を見てぽつりと言う。
     「大人が働いているの見ると、ほっとする」
    最近思うのですが、人間はやはりソーシャルな存在であって、 良くも悪くも他の人間に影響を受ける。 またどんなに冷たく見え、他人に無関心に見える人も、 他の人間が気に掛かる。
    SNSで承認欲求を満たすという話題がありますが、 承認欲求という一単語で済ませないものがあります。 他の人の生きているようすを見ることで、 自分の立ち位置を確認する。 それは大事なことなんだと思います。
    ビル・カニンガムとアユちゃん。 その二つの話題にはあまり関係はないように見えますが、 結城は何か大事なことを見つけたように思います。
    あなたは、誰のどんな生き方を見て、 自分の立ち位置を確かめていますか。
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    では、今週の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    esa.ioを使ってみよう(1) - 仕事の心がけ
    自意識でスウィング・バイ - 文章を書く心がけ
    思い込みに気付く心
    会社の思い出と、多様性の受容
    おわりに