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小説『神神化身』第二部 二十二話  「残心」
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小説『神神化身』第二部 二十二話  「残心」

2021-09-24 19:00

    小説『神神化身』第二部 
    第二十二話

    「残心」


     『残心』という言葉がある。
     この言葉は武道と共に芸事──舞でも用いられる言葉であり、前者の文脈で用いられる際は技を決めた後にも気を抜かず、最後まで慢心しないという心構えのことである。一方、後者の文脈では最後の一所作まで神経を行き渡らせて舞終えることを指す。
     佐久夜(さくや)は自分に舞奏(まいかなず)の才があるとは思えなかったが、最後まで気を抜かないことだけは、ずっと意識していたことだった。
     遠江國舞奏社(とおとうみのくにまいかなずのやしろ)の稽古場にて、佐久夜は一人での稽古に励んでいた。
     鵺雲(やくも)と巡のいるゲームセンターにて、佐久夜は自分も覡主(げきしゅ)になると名乗りを挙げた。そして、この流れがごく自然であると誰もが知っていたかのように、全ては舞奏披(まいかなずひらき)にて決めるということとなった。
     つまり、佐久夜は稀代の天才である九条(くじょう)鵺雲の舞奏と、幼い頃から焦がれ続けてきた栄柴巡(さかしばめぐり)の舞奏と競い合うこととなる。
     正直な話、勝てる見込みは無いに等しかった。何しろ技量が足りていない。鵺雲はずっと舞奏を続けてきたのだろうし、巡だって一線は退いていたものの、指導者の立場にはあったのだ。そして、佐久夜が二十年以上注力していたのは、社人(やしろびと)として覡(げき)を支えることである。
     だが、言わずにはいられなかった。自分の我を押し通す為には、掻き乱す覚悟を決めなければならない。奇跡が起こらなくとも、食らいついてやらなければならない。
     何しろ、佐久夜はかくあるべき欲深さを備えているのだから。
     そうして一人で励んでいると、稽古場の戸が叩かれた。──巡だった。
    「精が出るねえ佐久ちゃん! 舞奏披に向けて、めっちゃ頑張ってるって感じ?」
    「……ああ、そうだな。本来ならばお前も稽古に精を出しているはずなんだが」
    「いーじゃん、決められた時間になったらちゃんとやってるんだからさー!」
    「それは……その通りだな」
     御斯葉衆(みしばしゅう)の覡になると決めて以降、巡はきちんと稽古に出ている。そして、佐久夜が目を見張るほど素晴らしい舞奏を見せるのだ。本当は、巡も影で稽古をしているのかもしれない──そう思わせるに足るほど、研ぎ澄まされた舞だ。
    「ええ、なんか佐久ちゃんに素直に言われると照れるんだけど! ま、俺も一応は栄柴の家の子だし? 才能、見せちゃってるって感じー?」
     素直に認められたことが気恥ずかしいのか、やや早口で巡が言う。そのまま、巡がまた違った笑みを浮かべた。
    「でも、まさか佐久ちゃんがあんなこと言い出すなんて思わなかったよ。佐久ちゃんって全然そういうタイプじゃなかったもんね」
    「……そうだな」
    「ま、いーんじゃない? むしろ超いい! 佐久ちゃんがおっきくなって覡主になりたいとまで言うなんて、おにーちゃんはとっても嬉しい的な?」
    「誰がお兄ちゃんだ」
    「てなわけで、舞奏披が終わるまで、俺はもう佐久ちゃんにアドバイスとかしないからね。舞奏披が終わって、覡主が決まった後なら別だけど」
    「それは確かに……そうだな。敵に塩を送ることになる」
    「ううん、それもあるけど、そうじゃないよ」
     巡がひらひらと手を振りながら言う。
    「舞奏披までに形作られる舞奏は、本当の意味で佐久ちゃんだけのものでしょ? 俺のアドバイスとかであんまり水を差したくないの。ていうか、本気で俺らが競い合う舞奏をやろって思ったら、もうアドバイスなんかしても意味ないだろうし」
     巡の瞳の奥に、揺らめく炎が見えた。
    「俺、思うんだけどさ、舞奏って我を見せるものなんじゃないかって。となると、もう佐久ちゃんの剥き出しの我を見せてもらうしかないわけじゃん? それに何を言うこともないよ」
    「……剥き出しの我」
     鵺雲にも同じようなことを言われた。ということは、その概念は二人とも共有している──ある意味で舞奏に通底しているものなのだろう。不意に、巡が言った。
    「佐久ちゃんは欲深いよね。求めるものが多すぎて」
     巡が小さく笑った。
    「だからきっと、いい舞奏が奉じられるよ」
     それに何を答えていいか分からなかった。黙り込んだ佐久夜の前で、巡がころりと表情を変える。
    「ていうか、欲しいものといえばさー、大祝宴に辿り着いたらなんでもお願いごと叶っちゃうんでしょ? どーしよっかな。やっぱ運命の相手と結ばれますように的な? 率直にモテるのもよさそう」
    「栄柴の覡に相応しい願いにしろ」
    「いーじゃん! 相応しいでしょ! ていうか佐久ちゃんは?」
    「俺は御斯葉衆の覡が一人として役割を全うすることこそが本願だ」
    「へえ、教えてくんないんだ」
     背筋に冷たいものが走る。表情に出さないようにするだけで精一杯だった。本願。役割を全うすることこそが本願である、という意識は変わっていない。だが、それは自分をも欺く為の方便なのだろうか。
     自分は、この欲深い腹の中に、これ以上何を溜め込んでいるのだろうか。
     佐久夜の心中を知らない振りで、巡が笑顔で言った。
    「ていうか、お願いごとってマジで叶うのかな? あれはただの伝説? 栄柴の家に伝わってるのは舞奏の技法とか、戦ってきた記録とかそういうんばかりで、そこんところはビミョいんだよね」
    「本願が成就するという言い伝えは、代々継がれているものだ。それに纏わる説話もいくつもある」
     佐久夜は社人として勤めるにあたり、そういった伝承についても多く学んでいた。
    「とある覡は家族を十二分に養う為の多大な財産を望んだ。大祝宴に覡が到達した後に、家族には使い切れぬ程の富が一夜にして与えられたという。その覡と共に舞奏衆(まいかなずしゅう)を組んでいた覡は、干魃(かんばつ)に見舞われていた自身の村落に恵みの雨を求めた。それ以来、その村落が干魃に見舞われることはなくなった」
     そこは今でも、豊かな自然と穏やかな気候に恵まれた土地であるとされている。説話と現在が繋がっているということは、あながち荒唐無稽な話でもないだろう。自分が社人の家系であるということを抜きにしても、信憑性は高いように思える。そもそも、化身というものが才の証なのだと教えられてきたのだ。そこに人の力の及ばぬものを感じざるを得ない。
    「へー、じゃあ全然効果あるんだ」
    「そんな医薬品のような言い方をするな」
    「じゃあ、地元に戻った覡達はヒーローみたいな感じだったのかもね。そしたらもうモッテモテじゃん! そこから運命の子に巡り合っちゃったり? いいなー、実質俺からしたら二つ願い叶ってるようなもんなんだけど!」
    「不純なことを言うな」
     だが、確かに願いを叶えてくれた覡は英雄のように扱われていたかもしれない。人間の力の及ばないところを、人智を超えた力で解決してもらったのだから。カミに感謝するよりも前に、覡に感謝するだろう。巡の言う通り、懸想をされることも多かったかもしれない。
     だが、その後の彼らのことはあまり聞かない。それどころか、人々の語り草になるのはその舞奏ばかりで、一線を退いた覡達は、その後も舞奏を続けたのだろうか。それとも、後進の育成に身を窶(やつ)したのだろうか。いくつかは舞奏の名家として連綿と続いていったのだろうが、彼ら個人がその後どうなったのかは──分からない。優れた覡として人々が讃え継いでいった覡達が、何を愛し日々を摘んでいたのかも。
     不意に、九条鵺雲のことを思い出した。彼は、覡として役目を全うした後はどうするつもりなのだろうか。彼のことだから、九条家の発展の為に跡継ぎを育成することに注力するだろうが、その後はどうするのだろう。
     御斯葉衆が大祝宴に辿り着いた後、鵺雲は遠江國から出るはずだ。彼は元よりここの人間ではないのだから。そうしたら、自分と鵺雲はもう二度と会うことが無いのだろうか。
     願い。……欲深さを芯まで通した自分の願い。自分がカミに望むもの──。
    「たはー、佐久ちゃんは物知りだねえ」
     巡の言葉で意識が引き戻された。
    「秘上(ひめがみ)家の人間として当然のことだ」
    「いやあ、歴代の秘上家の人間だって、佐久ちゃんほどすごくはないよ! さっすが俺と同じ代! 俺の大親友!」
     巡がいつぞやのように抱きついてくる。高校生の頃はふざけてよくこうしていた。やっていることは同じなのに、様々なことが変わってしまった。
    「秘上の家は代々栄柴の家に忠節を誓ってきたんだって、小さい頃から言われてきたよね。でも、俺はそんなのおかしいって思ってた。だって、家がずっとそうしてきたからって、栄柴家の次の当代が全然仕えるに値しない人間かもしれないじゃん?」
     巡が芝居がかった調子で言う。その大仰な身振りに合わせて、耳に付いているピアスが揺れた。
    「俺はそんなのぜーったいよくないと思うわけ!」
    「……俺は社人の家に生まれたことも、それで栄柴の舞奏を支えることが出来ることも、共に誇りに思っている。それをお前がそう断じることは間違っているんじゃないか。これは俺の──秘上の家の矜持なのだからな」
    「いいや、俺の矜持でもある」
     巡ははっきりと言った。
    「ただの家柄の話じゃない。俺とお前の話だよ」
     覡主として名乗りを上げた佐久夜に対しての、思い上がりを窘めるような声だ。穏やかではあるが、主としての威厳を備えている。
    「俺は俺の実力によってのみ、お前を従わせたい。他の誰でもなく、俺が主であると認めさせたい。もう二度と、逆心を得ぬように」
    「……巡」
     張り詰めた空気が数瞬流れた後、巡が耐えきれないと言わんばかりに笑った。
    「なーんてね! 今のちょっとカッコよくなかった?」
    「……いいや」
    「ちぇー、ギャップでいいでしょ、ギャップで!」
    「ギャップと言うなら比率を変えろ。お前は四六時中ふざけ過ぎだ」
     佐久夜が言うと、巡はわざとらしく唇を尖らせた。
    「ま、いいや。稽古の邪魔してごめんね? あ、舞台担当の沙根(さね)さんが後で佐久ちゃんと話したいって言ってたよ。なんか、御斯葉衆の舞奏披って特別に舞台組んでやるんでしょ? それの話がしたいって」
    「ついでのように言ってるが、それが本命の用事だったんじゃないか?」
    「なーに言ってんの! 俺と佐久ちゃんが話すこと自体が本命なの!」
     巡がからからと笑う。あと少しだけ稽古をしたら、忘れずに沙根のところに向かわなければならない。巡の言う通り、御斯葉衆の舞奏披は特別の舞台を組んで行われる。沙根が考えている案では、かなり豪奢なものとなりそうだ。佐久夜は御斯葉衆の覡であるが、社人としての仕事もこなさなければならない。ちゃんと打ち合わせなければならないだろう。
    「でもさ、ちょっと心配だよね」
    「どうした」
    「だって、舞奏披の日って雨かもしれないんだよ。ところによっては雷もって。まあ、先の天気予報なんて外れるかもしれないけどね。俺がいたらガン晴れかもだし!」
    「雷……」
     佐久夜は小さく復唱する。

     巡をゲームセンターに呼んだ後、三人はしばらくそこで過ごした。
     興が乗ったのか、巡はあの後もクレーンゲームに勤しんで景品をいくつも取った。取った景品の殆どはいつも通り佐久夜に押しつけられたが、鵺雲が興味を示すと、巡はさしたる興味も無さそうにぽいとそれを渡すのだった。
     気づけば、なかなかの時間をゲームセンターで過ごしてしまっていた。そろそろ夕食の時間でもある。切りの良いところでここを出なければならないだろう。
     そんな佐久夜の考えを読み取ったのか、巡が先に言った。
    「そろそろ帰ろっか。結構な時間でしょ」
    「そうだな……。巡、今日は来てくれて感謝する」
    「僕の方もありがとう、巡くん。まさかチョコレートパイが手に入るだなんて思わなかったよ!」
    「いーですってそんなの。大したことじゃないし! って、佐久ちゃんなんでここで終わりって雰囲気出してんの!? 一緒に帰ろうよ!」
    「俺は鵺雲さんを旅館に送り届けなくてはならないからな」
    「僕はタクシーを呼んでも構わないけど」
     鵺雲が首を傾げながら言うが、そういうわけにもいかない。ここまで連れてきたのは佐久夜なのだし、道中に何があるかも分からない。
    「ええー、ここで解散になんの? それも寂しくない? どうせなら三人でなんか食べに行こうよ」
    「お前、車で来たんだろう。どうするんだ。二台で行くか」
    「それもめんどくない? あ、じゃあ俺の車でどっか食べに行って、鵺雲さん送って、佐久ちゃんここに下ろしてって流れは? 俺、駐車場から車取ってくるからさ!」
    「俺は別に構わないが──」
     ちらりと鵺雲の方に視線を向ける。すると、鵺雲も手を併せて言った。
    「うんうん、僕も嬉しいよ。親睦を深めることは舞奏の向上にも繋がるもの。巡くんにはお手間を掛けさせてしまうけれど、良かったら一緒に夕食を取れると嬉しいな」
    「わっかりましたー。じゃ、佐久ちゃん。いい子で待っててよね。知らない人についてっちゃ駄目だよ?」
    「俺をいくつだと思ってるんだ」
     巡は笑いながら、ゲームセンターを後にした。姿が見えなくなってから、鵺雲が楽しそうに言う。
    「それにしても、巡くんは本当にすごいね。感動しちゃったよ」
    「完敗でした。あいつは本当に凄いと思います」
    「でも、佐久夜くんはこの鳥くんを取ってくれたじゃない」
     鵺雲は手に握っている小さなキーホルダーを見せながら、そう笑った。
    「それだけじゃないですか」
     結局、佐久夜が獲得出来たのはそれだけだった。それも、クレーンゲームで手に入れたものじゃない。ゲームセンターの片隅に背筋計を模した遊具があり、それで一八〇キロ以上の値を出せば景品が手に入る仕組みになっていたのだ。
     普段ならゲームセンターにあるこの類の遊具には目もくれないのだが、景品にあった鳥のキーホルダーを鵺雲がしげしげと眺めていた。
     結果、佐久夜はキーホルダーを手に入れたのである。
    「この鳥くんはね、とあるゲームのマスコットキャラクターなんだよ。ひーちゃんが実況プレイというものをしているゲームのね。ひーちゃん自体も鳥を自分の象徴としているようだから、なんだかシンパシーを感じちゃって」
    「そうだったのですか。てっきりあなたが気に入ったのだと」
    「気に入るに決まってるじゃない。折角佐久夜くんが手に入れてくれたものだしね。大切にするよ」
    「……そうですか」
    「うんうん、本当だよ。佐久夜くんは僕の大切な御斯葉衆の一員だもの」
    「あなたが遠江國を離れる時にも、連れて行ってくださりますか」
     佐久夜の言葉に、一瞬鵺雲が不思議そうな顔をする。何を言われているのかが分からない、というような、なかなか見ない表情だ。微笑みは普段と変わりないが、こちらを見定めているようにも感じる。一瞬の間の後に、佐久夜の方が先に口を開いた。
    「舞奏競(まいかなずくらべ)が終わっても、あなたが遠江國に残るとは思えません。きっと、相模國(さがみのくに)へ戻られるのでしょう」
    「舞奏競が終わった後……ねえ」
     鵺雲が口元近くに手を当てる。そんなことを──その後のことを何も考えていないような顔だった。いくら舞奏に注力している鵺雲であろうと、その先を考えずにはいられないだろうに。いくら九条比鷺(ひさぎ)がいるとはいえ、鵺雲にはまだ九条家の嫡男としての役割があるだろう。
    「なるほど……遠江國を離れる、君はそう思っているわけだ」
    「大祝宴に辿り着いてしまえば、あなたはもう遠江國に心を残すことはないのかもしれません。ですが、キーホルダー一つくらいなら重荷にもならないでしょう」
    「え?」
    「いえ、出過ぎたことを──」
    「あ、うん、そうか」
     鵺雲がたった今何かに気がついたと言うように目を伏せた。心なしか気まずそうというか──はにかんでいるようにも見える。何かおかしいことを言ってしまっただろうか、と更に不安な気持ちになる。すると、鵺雲は小さく溜息を吐いてから呟いた。
    「あのね、勘違いをしちゃったみたいなんだ」
    「……勘違い、ですか」
    「いや、キーホルダーの話だと思っていなくて……」
    「キーホルダーの話だと思っていない……? どういう意味ですか?」
    「だから──君かと思っちゃったんだよね」
    「俺かと」
    「連れて行ってほしいとか言うからさ」
     そこまで聞いて、ようやく合点がいった。
     つまり鵺雲は、遠江國を出る時にキーホルダーを持って行くのではなく、佐久夜自身を連れて行ってくれるかを尋ねられていると思ったのだ。その勘違いは……それは……なんだろう、と佐久夜は思う。何とは無しに気まずい空気の中、ややあって佐久夜が言った。
    「……あなたは連れて行かないでしょう、俺を」
    「うーん、少し考えちゃったけど」
    「ご冗談を」
     わざとらしく眉を下げた鵺雲を流しながら、佐久夜の方も溜息を吐いた。
    「うん、僕が遠江國を離れることになったら、きっとこのキーホルダーを持っていくよ。約束するね」
     鵺雲が笑顔で言う。約束を違えるような人間じゃないから、きっと彼はそのキーホルダーを持っていくのだろう。そこに愛着などがあるかどうかは別にして。
     それにしても、と佐久夜は思う。別に変なことを言っているわけではない。遠江國を離れることになったら、キーホルダーを持っていく。その言い方では、まるで鵺雲はずっと遠江國にいるようではないだろうか?
     自分の感じ方に一定のバイアスが掛かっているのかもしれない。ただの言い方の問題だ。遠江國に愛着を持ち、ここにずっと暮らしてもいいと思い始めた──とは、到底思えないような気がする。鵺雲のことが、ますます分からない。そもそも、自分のバイアスの由来もわからない。自分は、鵺雲に遠江國にいてほしいのだろうか。舞奏が上手く、自身をその才に捧げる覚悟を決めた男に?
     何かを言おうとした時に、スマートフォンが鳴った。
    「巡からです。俺達も出ましょう」
    「うん、楽しみだね」
     鵺雲が自分に沿って歩き出す。その時、彼が涼やかに言った。
    「大丈夫、大祝宴に到達すれば、僕達は一緒に居られるよ」
     それは──どういう意味なのだろうか。
     けれど、それを聞いてもはぐらかされるばかりであろうし、自分達のことを巡が待っている。
    「そうですか。それは何より」
     差し当たって、佐久夜はそう答えるしかなかった。




    著:斜線堂有紀

    この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。





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    ©神神化身/ⅡⅤ

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