その51:春虫草MVP
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その51:春虫草MVP

2017-03-12 05:52
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≪注意≫
このブロマガはキノコ屋見習いの観察をまとめたものです。実際の同定に利用できるものではありません。
記事内容に訂正・補足がある場合はコメント等でご指摘いただければ幸いです。
なおキノコの正確な判別は経験者でも間違えるほど難しいものです。慣れない内はベテランの方に付き添って
もらうなどして、素人判断での採取・喫食は行わないでください。死にます。

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 3月に入って幾分暖かくなってきました。春一番も吹き終わりいよいよ春の到来を実感してきた今日この頃です。寒い間はキノコもそんなに見つからないし、そもそも動くのが億劫だしで部屋にこもっていた私もそろそろと動き始めました。啓蟄ですね。

 この日深夜バスに揺られ降り立ったのは名古屋駅。そこからosoさんの車で虫草の師匠たるどろんこさんのフィールドまで向かうことになっています。車を買い替えたというosoさんですが、車種は一緒だしカーナビは古いままでした。新東名で空を飛びます。

 集合場所に到着して少し待っていると現地組のどろんこさんと木下さんが合流されました。木下さんは以前のブロマガ(その47:忘年会をしました)にてKさんと表記していましたが、本名でもないのでそのまま使わせていただいてます。ちなみにどろんこさんは一人だけ木下さんの本名を知っていたため、しきりに「○○さん」「○○さん」と本名で呼んでいました。
 私は何言ってんだこいつ……と思って眺めてました。

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 なおこの日の観察会はosoさんが動画撮影されてました。いつも年甲斐もなくはしゃいでる風に書いてるけど、実際はもっと黙々とやってるんでしょ? とお思いの方は是非ともご確認ください。想像以上に気持ち悪いことになってると思います。
動画アドレス:http://www.nicovideo.jp/watch/sm30804180

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 さて今回の狙いは春生の虫草です。虫草といえば梅雨から夏にかけてが本番ですが、一足先に生えてくる奴らがいます。こいつらを探して、数があれば採取もしたいなという感じです。まあ今回は私を含め4人もいるのですから何も見つからないということはないでしょう。これで何も見つからなければホストのどろんんこさんへ貸しが増えるだけです。

 最初にやってきたのはメインフィールドとは別の場所。以前私を除いた、osoさん、どろんこさん、木下さんの三人でウスキタンポセミタケを見つけたというポイントを軽く見に行くことにしました。しかし夏場は木々が生い茂りうっそうとしていた場所も、今の時期はすっかり葉が落ちて風通しがよくなっていました。季節によって空中湿度がずいぶんと変わるようで、葉が生い茂るまで虫草は望み薄みたいです。この場所では私がイトヒキミジンアリタケを一つ見つけたくらいで、次の場所へ向かうことになりました。

 ついでやってきたのがどろんこさんのメインフィールド。昨年の虫草祭でも使われた坪(虫草の発生地のこと)で春先ではオオセミタケや春生のタンポタケなどが見つかるとのこと。さっそく荷物を降ろして周囲を探し始めます。冬を越え、久しぶりの虫草探しにすっかりなまっていたようで、すぐに悲鳴を上げる腰を伸ばすと地面に這いつくばっているおっさんが3人いました。変な光景だな、と思いましたが、よくよく考えれば私もその一人でした。



 それからしばらく探しましたがこれといって何も見つからず、これはどろんこさんのケジメ案件では? という話が上がり始めたころ、ついに見つけました! 春を代表する虫草のオオセミタケです! 虫草の中ではそれほど珍しい種ではないのですが、未だに地元では見つけていないので嬉しい限り。他の人に先んじて見つけられたのもドヤ顔ポイントですね。


 先端の丸くなっている部分が結実部といって胞子を作る子嚢殻ができる部分です。よく知るキノコで言えば傘の裏のヒダや管孔の部分ですかね。表面のツブツブしているのが子嚢殻でここで胞子が作られ、成熟すれば放出されます。右の結実部を見ればわかるとおり、表面を薄く白い菌糸が覆っています。これはまだできたばかりの未成熟な証です。

 なおこの個体はどろんこさんが調査のために持ち帰って追培養したいというので採集も任せて譲りました。私の場合、未成熟個体見つけても扱いに困るのできちんと観察できる人に任せた方がいいでしょう。

 とりあえず目標の一つだったオオセミタケは見つかったので一安心。先に成果を上げたことで余裕が生まれた私は他の人と離れて、あまり目が向けられてない個所に向かいました。

私「あ、これツチダンゴ」
oso「どれどれ」


 黒土から顔を覗かせるものには見覚えがありました。これは去年に地元でも見つけていたツチダンゴという地下生菌(地面の下付近に生えるキノコ)です。オレンジに近い明るめの褐色と表面を覆う細かいイボ状突起が特徴です。そしてツチダンゴが出ているということは……。

oso「見つけた! ハナヤスリだ」


 やはりいましたね。ツチダンゴに寄生して生える虫草のハナヤスリタケです。昨年の秋に富士山でも見つけたことがありますが、こちらは春型のハナヤスリといったところでしょうか。


 

 しかもこの場所がとんでもないくらいの大群生地でした。ちょっと落ち葉をめくればあちらこちらにハナヤスリタケが出てます。別の場所を探していた木下さんも呼びよせて、みんなで観察&採取です。中にはほとんど黄色の変な奴(↑の三枚目)もいて、なんだこれは??? ともなったのですが、どうやらこいつはまだ若い段階のハナヤスリタケのようです。初めはくすんだ黄色なのがだんだんと黒ずんで暗緑色に変わっていくみたいですね。


 採取したハナヤスリタケ。直根状の個体(右)と細根状の個体(左)です。やはり菌糸の伸び方には個体差があるようですね。今回の個体を見る限り、直根状のものは宿主(寄生する相手。この場合はツチダンゴ)が地面から顔を出していたり地表すれすれにいたりして、反対に細根状のものは少し深いところに宿主が埋まっていました。なので発生環境による災難じゃないかなぁと思います。



 ついでに宿主のツチダンゴです。外皮に大理石様の模様が見えるのでアミメツチダンゴでいいと思います。このあと他の人に言われて気づいたのですが、どうやらこの個体はハナヤスリタケに感染しているみたいです。中央の胞子を作る部分に見える白い亀裂は別の菌糸で、外皮を貫いて侵入している様子が観察されました。図らずも発生前のハナヤスリタケを見ることができましたね。

 さてオオセミタケとハナヤスリタケを見終わったところで時間は14時を少し過ぎたところ。どろんこさんが当初昼飯にと予定していたお店は14時までというので断念。もう一か所回りたいところもあるけど、ご飯食べてたら時間ないしなぁとなっていたので、いっそ昼飯は道中のコンビニで済ませて三つ目のポイントへ向かっては? と提案。そうしようそうしようということになりました。

 そしてやってきたのはとある神社の横にある斜面です。すぐ近くを沢が流れているので、湿度も十分。ここでは春型のタンポタケが見つかるというのでさっそく探して回ることに。


 ツバキキンカクチャワンタケの幼菌(左)とキイロチャワンタケ(右)。ツバキンが出てくるといよいよ春って感じですね。

 しかし少しかげってきた日差しのせいもあって捜索は難航、肝心のタンポタケは見つからず既に見つけたハナヤスリタケなどが出ているくらいでした。さらにosoさんに至っては今までなんとか耐えていた花粉症がここにきて突然の悪化。下を向くと鼻水が止まらず、ろくに探せないという有様でした。仕方ない、ここはいっちょ私がやってやるかと、気合を入れて這いつくばると、


 来ました! 春型のタンポタケ! こいつも富士山で秋に生えるものは見ていましたが、春に出るのは初見です。どろんこさん曰く、どうも春型と秋型には形態に差があるので別種なんじゃないか、とのことでした。私はまだそれぞれ一回ずつ下見たことがないので、へーそうなんだってなもんでした。こういうのは経験と観察眼がものを言います。私はどっちも持ってないです。


 左が今回発見の春型で右が昨秋の富士山で見つけた秋型。秋型のタンポタケは黄色が鮮やかなのに対して、春型はくすんで灰色がかっているのが特徴なのだそうです。比較してみれば違いがよくわかりますね。まあこの場合左はまだ若い個体で右はやや古い個体って差もあるんでしょうけど、こうして見ると全然違って見えます。


 その後私は立て続けにタンポタケを二つ発見しました。これなんかは宿主も地上に覗いていて実にかっこいい個体ですね。私に続けとみんなも奮起して探しましたが、結局この日タンポタケを見つけられたのは私だけです。これはいよいよ私の時代が来たようですね。

 どろんこさんあたりは相当悔しがっていましたが、日も落ち肌寒くなってきたのでここで終了。オオセミタケに春型のハナヤスリタケとタンポタケという見たかった虫草を制覇という実に充実した観察会でした。しかもまさかの一人フィーバー状態。こういう時に遠慮せず一人ではしゃぎまわるのが私です。イエイイエイとノリノリで帰っていきましたとさ。




 ちなみに今回採取したのはこちらです。ハナヤスリタケ二つとタンポタケ二つ。タンポタケは一つだけ採取するつもりだったのですが、掘り起こした影に実はもう一つ出ていてまとめて採ってしまいました。せっかくなのでまた胞子などを見ていきましょう。

 とはいえタンポタケに関してはどちらも未成熟個体で胞子が採取できそうにないのでこいつらは追培養に挑戦です。どろんこさんの話だとタンポタケは簡単、とのことでしたが、ベテラン勢の言う簡単ほど信用ならないことはありません。


 教えてもらったのは採取した場所の土を持ち帰って埋めるというやり方でした。甲子園の球児よろしく持ち帰った土が上の写真です。そのまま使ってもいいんでしょうけど、ダニとか菌が潜んでいても嫌なので電子レンジで殺菌しておきました。ラップはしていたもののレンジの中がだいぶ土臭くなってしまいましたが、まあいいでしょう。


 それからちょうど雪見だいふくのケースがゴミ箱に入っていたのでこれを洗って再利用。水が溜まらないように底に穴をあけ、土と一緒にタンポタケを植えました。あとはこれを適度に湿らせながら、丸ごとタッパーの中で保存しとけばいいと思います。さてさてどうなるかな。

 続いてハナヤスリ。こちらは胞子が採取できたので顕微鏡観察です。まあハナヤスリは以前見つけた奴で胞子観察してるけどね。と思って覗いたところ、ん? 何かおかしいぞ?


 こちらが40倍の胞子写真。ひじきみたいな一本一本が子嚢胞子と呼ばれるものです。
 これをさらに拡大してみたのが次の写真。



 これで200倍。一枚に収まらなかったので二つを繋げています。気になったのは胞子の数です。ハナヤスリタケの子嚢胞子は二次胞子と呼ばれる胞子一つ一つがつながって、一本の糸のようになっています。ここで二次胞子の数を数えてみると、左の画像では64個の二次胞子で一本の子嚢胞子を作っていることがわかりました。はて、64?








 比較に持ってきたのは昨年の秋に見つけたハナヤスリタケの子嚢胞子(200倍)。これは当時のブロマガにも書いた通り、128個の二次胞子が繋がった非常に長い胞子なのです。128個と64個。初めは長いやつが途中で切れちゃったのかと思ったものの(そうやって分かれていくのも虫草の胞子の特徴です)、先の40倍の写真を見てわかるとおり、64個の胞子は数あれど128個の長いものは見当たりません。というか64個の長さが基本のように見えます。








 さらに拡大した400倍の写真で比較してみましょう。左が春型で右が秋型。こうして見ると気持ち左の方が細長いような気がします。うーむ、しかしこいつは誤差の範囲かな。

 ただどろんこさんにも相談したところ、やはり二次胞子の数の違いは個体差というには大きすぎると思う、とのことでした。ただどろんこさん自身がまだ秋型の観察を十分に行えていないので明言できないそうです。図鑑の表記を見るに基準となっているのは128個の胞子で、おそらく秋型のものが基準種になっているのではないでしょうか。結局これらの違いは季節による差なのか、地域による差なのか。それともタンポタケのように春と秋で別種の可能性があるのか。今後の研究が待たれますね。


どろんこ「まあそういうのは専門家に任せましょう」

 あんただ、あんた。

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この日の観察会を撮影したものをosoさんがあげてらっしゃいますのでこちらもよろしくお願いします。
いい年こいたキノコ好きが4人集まるとどうなるかという貴重な実験映像です。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm30804180
1ヶ月前
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ハナヤスリタケにも春型秋型がある(かもしれない)んですね~。興味深いです。
宮城でも春の虫草を探してみていますが、今のところタンポタケ類もオオセミタケも見つかりません・・・
1ヶ月前
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記事乙です。
やっぱり胞子も違ったのですね・・・となると別種の可能性も説得力出てきますね。
それにしても自分含め皆三者三様にキモいですね。編集しててキツかったです。
でもやはりワイワイ実況は楽しいですね。また大規模遠征の際は録りたいです。
1ヶ月前
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>>錦田さん
私も地元では見つけられていませんね。オオセミは山よりも古い神社の境内に多いと聞きますし。今回タンポタケを見つけた場所もそのような環境でした。普段行く山とは別の場所を探さないと出会えないのかもしれません。

>>osoさん
どちらに関してももうちょっとサンプルがほしいですね。今回見たのは富士山採取の秋型と静岡採取の春型をそれぞれ一つずつですから。他の場所で採れたものでも同様の違いがあれば、かなり可能性が高まってきます。それと動画編集お疲れ様でした。見返してみると本当にひどい有様でしたね。また次の機会もやりましょう。
1ヶ月前
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乙です。
 楽しそうで何より。俺もそろそろ艦じゃなくてキノコ掘りに行かないと。
 少なくともハナヤスリタケに隠蔽種がある、ってのは濃厚になりますね。
 トガリアミガサタケもぼちぼち季節ですね。こっちはまだ出て無いっぽいので、少し遅れてるのかもですけど。
1ヶ月前
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虫草オフ会、楽しそうですね。大活躍だったようで。
関東は今なお虫草はさっぱりです。裏山。
4月にはオオセミタケ探しに行くつもりですが。
1ヶ月前
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>>青fungiさん
もし別種となって名前がつくとしたらハルタンポタケとかハルハナヤスリタケあたりになるんでしょうかね。アミガサも探したいところなんですが、原稿作業の真っ最中でして、必死に誘惑に堪えています。まあ早割締切なんでぶっちしても十分間に合うんですけど、この割引で遠征費用一回分くらいにはなるんですよねぇ。もったいないもったいない。

>>るねこさん
こちらも地元岡山ではまだ春生見れてないんですよ。早く作業終わらせて時間を作りたいところです。まあ今回見た虫草はどれもまだ未成熟なものばかりでしたし、4月くらいまでは残っててくれるんじゃないかなと思ってます。願ってます。
1ヶ月前
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