• 夢幻機動ゼレイブ 第7話「ガンマ3に住む男」

    2015-05-03 23:141


    久しぶりの更新です。
    まー好き勝手進めていきます。
    幻想郷に舞台が移れば東方キャラの出番もあるんですがねぇ。
    感想をいただけると励みになります。
    匿名の方がいい方はブログhttp://touhoualive.blog124.fc2.com/までどうぞ

    燃え盛る平野、あたりに散らばる仲間の死体。
    無機質な音を立てて近づく魔導兵器、響いては消える断末の声。
    「人間を…殺セ!」
    「人間ヲ…殺せ…!」
    魔導兵器がそう聞こえるかのような音を出しながら近づいてくる。
    逃げようと思っても、足がすくんで動けない。
    叫ぼうと思っても、か細い声は辺りの音にかき消されてしまう。
    「い…イヤ…!」
    「人間ヲ…殺せ…!」
    「人間ヲ…殺せ…!」

    「いやああぁぁぁ!!」
    鈴仙は悲鳴をあげながらベッドから飛び起きた。
    静寂と暗い部屋が、先の光景が夢であったことを教えてくれるようだった。
    「また、か…」
    もう夢で何度見たかわからない過去のビジョン。
    魔導戦争の恐怖は、あれから十数年経とうとも彼女の記憶から消えることはなかった。
    寝直す気分にもなれず、寝汗でべたつく寝間着を脱ぎ捨て
    鈴仙はいつもの服とサングラスを身につけ、ゼロの姿で廊下に出た。
    ゼロは外の見える窓に腰掛けると、懐の箱からオレンジ色の小さな棒を取り出し、
    口に咥えてライターで先端に火をつけた。
    「よう、ゼロの大将。夜更けに一服かい?」
    廊下の奥から皿を持って歩いてきたクライドが言った。
    「…タバコじゃないぞ?」
    「え? どう見てもタバコにしか見えないが…」
    「知り合いが作ったキャロットスティックだ。
     ニンジンの線香みたいな嗜好品だとさ」
    「確かに、ニンジン臭いな」
    クライドはゼロの隣に腰掛け、皿に盛っていた何かを口に運んだ。
    「ところで、えーっと…」
    名前を言いかけて詰まるゼロに苦笑しながらクライドが返した。
    「…クライドだ。
     まあ、大して活躍してないからな…」
    「…すまない」
    ゼロは、素直に謝罪した。
    「仕方ねえよ、宇宙じゃあヘリ乗りに出番はないしな」
    「じゃあ、どうして救出作戦に?」
    「…誰かがやらなきゃいけなかったんだ。
     んで、行けるようなのが俺だけだっただけさ。
     こんな危険な任務には、俺みたいな独り身の人間くらいがちょうどいいのさ」
    クライドは苦笑混じりに遠くを見つめながらそう言うと、ゼロに向かい直した。

    「ところで、さっき何にうなされていたんだ?」
    「…」
    「いや、スマン…。
     話したくないのなら…」
    「…いや、いいだろう」
    閉口するゼロに、クライドは慌てて話を変えようとしたが、
    ゼロは気にすることなく話し始めた。
    「そうだな…。
     魔導戦争は知っているか?」
    「月のでっかい戦争だっけか?」
    「それほど単純ではない…な。
     月の歴史上初めての、人間と機械の戦争だ」
    「人間と機械…」
    そう呟くクライドに、ゼロは説明を続けた。
    「巨大な機械の軍勢に対し、我々は銃を持つだけの生身の兵士…。
     力の差は圧倒的だった。
     文字通り肉の壁で侵攻を防ぐ程にな…。
     その時の恐怖が、今も消えないんだ」
    フゥー、とゼロがニンジン臭い息を吐き出した。
    クライドは、こんなに強そうな人にも深く心に傷を負っているのかと思った。
    いや、心に傷を負っているからこそ強いのかもしれない。
    「…結局、敵のマシーンを狂わせられる
     コンピューター・ウィルスを使うことで
     同士討ちをさせて、勝利をおさめることができたが…。
     私は、当時の仲間をネイザン以外全員喪ってしまった…」
    「そうか…そういうことが…」
    「私くらいの歳の玉兎兵はみんな経験していることさ…」
    そう言うと、ゼロは短くなったニンジンスティックを
    火の着いた先端を残して噛みちぎり、落ちた先端を灰入れの小箱にポンと入れた。
    「フ、これで満足か?」
    「あ、ああ…」
    ゼロに真っ直ぐ見られて、クライドはたじろいだ。
    「…過去を思い返しても仕方がない。
     今は、レイセンたちの無事を祈ろう」
    「そうだな…。
     霖之助、パルスィ…くたばんじゃねえぞ…!」
    二人は窓の外の宇宙を見ながら言った。

    「おーい、レイー!
     霖之助ー! パルスィー!
     生きてたら返事しろー!」
    エーディンは、スカイイーターでムーンライズの周辺宙域を探しまわっていた。
    しかし、その通信での呼びかけに返ってくる声はなかった。
    「ちくしょー…どこまで流されたんだ…!?」
    そう呟きながらも、エーディンは通信を飛ばし続けた。

    「う、ううん…」
    レイセンが目を覚ますと、目の前には知らない天井が広がっていた。
    「ここは…?」
    そう言って起き上がろうとして、レイセンはうまく動けないことに気がついた。
    両手がロープで縛られていたのだった。
    どうしてこんなことになったのだろうか?
    レイセンはおぼろげな記憶をたどった。
    「そうだ、コスモ・パイレーツが再び攻めてきて…」
    ムーンライズへのコスモ・パイレーツの再襲撃。
    迎撃に出るレイセン達。
    そして…その戦闘に介入する幻想同盟。
    「それで…レーダーが封じられて…」
    必死に思い出そうと頭が痛くなるが、記憶の断片を掘り起こしていく。
    魔導兵器を連れた幻想同盟。
    魔導兵器をコントロールする指揮官機の追撃…。
    それから…。
    「気がついたら…ムーンライズから遠く離れてたんだ…」
    共に指揮官機の迎撃に出ていた霖之助とパルスィも一緒にはぐれてしまい、
    やがて機体のエアーが減少していって、酸欠で気を失った。
    それが、レイセンが思い出せたここまでの経緯であった。
    そこまで思い出すと、レイセンのいる部屋に男が入ってきた。
    「ほう、嬢ちゃんも目が覚めたか」
    「誰ですかっ…!?」
    「ちっ…!」
    ズドォンッ!
    レイセンの質問に、男は舌打ちと発砲で答えた。
    放たれた弾丸は、レイセンをかすめて床に弾痕を作った。
    レイセンはその恐怖で怯んだが、目を閉じて首を振り、
    恐怖を払って言葉をひねり出した。
    「いきなり、何をするのです!」
    「気に入らねえんだよ、その育ちのいいしゃべり方が…!
     お高く止まりやがって…!」
    レイセンは、その男が言う意味がわからなかった。
    「あなたは…月面軍!?
     それとも、幻想同盟!?」
    レイセンは、言葉遣いに気をつけながら男に質問をした。
    先ほど撃ったことで気が済んだのか、男は拳銃を仕舞いその質問に答えた。
    「そのどちらも当たりだ」
    「…?
     ここは、どこなの?」
    「フン…質問の多いガキだ。
     ここは、農業コロニー、ガンマ3だよ」
    レイセンは、ガンマの名のつくコロニーは、食料生産コロニーとして
    魔導戦争以前は数多く存在したが、戦争の際に多くが失われ、
    今は10番代から振り直されたナンバーのコロニーが運用されていると、
    依姫から教わったことを思い出した。
    答え終わると、男は一呼吸の後、レイセンに命令した
    「質問タイムは終わりだ、さっさと立て!
     ついてこい、早くしろ」
    レイセンは撃たれないためにも、そう急かす男の指示に従った。

    男が案内した先は格納庫には、片側の壁際にゼレイブと1号機、その反対側の壁際に2号機が立っており、
    その付近では霖之助とパルスィが手を縛られたまま何やら作業をしていた。
    この格納庫は人工重力が弱いのか、ふたりともフワフワと浮きながら作業をしている。
    レイセンが訊くよりも先に、男がレイセンに命令をした。
    「いいか、お前の機体のエアーとか、弾薬の補給をしろ。
     こいつらをいずれは外に運ばなきゃならんのでな。
     こいつを食らいたくなきゃ、さっさと言うとおりにしろ!」
    手に持った拳銃をトントンと指で叩きながら言う男に、レイセンは従うしかなかった。
    手を縛られたままなので作業がしづらかったが、なんとかエアー補給用のホースを手に取り
    ゼレイブのエアータンクに繋ぎ、エアーの供給を始められた。
    エアーを入れながら周囲を見渡すと、霖之助が男に気付かれないように
    レイセンに向かってちょいちょいと合図をしていた。

    簡単なジェスチャーであったが言いたいことは感じ取れた。
    エアーのホースで、男に向けて何かをしろと言いたいらしい。
    エアー補給用のホースは、接続部近くのトリガーを引くと、勢い良く空気が噴出す構造になっている。
    レイセンがコクリと頷くと、パルスィも何かを察したらしく頷いていた。
    「ああああーっ!」
    「何だ!?」
    突然パスルィが叫んだのに気を取られ、男がレイセンから目を離した隙に
    レイセンはホースを持ったまま男に近づき、背後からエアーを噴射した。
    「ぐわっ!?」
    男は急なエアーの放射による強風に驚き、足が床から離れて宙に浮かび始めた。
    「たああぁぁぁあ!」
    その隙を突いて、霖之助がエアーの噴射をブースター代わりにし、
    すごい速さで男に飛び蹴りを放った。
    霖之助の蹴りは男の銃を持つ手にヒットし、男の手から拳銃が離れた。
    浮かんでいる拳銃を霖之助が縛られたままの手でキャッチし、男に向けて言った。
    「僕はこう見えても武闘派なんでね。
     ホールドアップ、ってやつかな?」
    「ほう…てめえら、ただのボンクラじゃねえようだな」
    感心したような様子で言いながら、男が手を上げながら後ずさる。
    「動くな! 僕はやる時はやるぞ!」
    霖之助はそう言いながら威嚇射撃をしようと引き金を引こうとするが、
    引き金は固く、撃つことができなかった。
    「あ、あれ?」
    「バーカ! 銃にはセーフティってもんがあるんだよ!」
    男はバカにしたような口調でそう叫びながら格納庫から逃げていった。
    「あ、待てー! あ、あれれれー!?」
    パルスィが男を追おうと走ろうとするが、慣れない低重力で勢い余ってくるくると宙で回転してしまった。
    「…とりあえず落ち着いたほうがいいみたいね」
    レイセンはパルスィの回転を止め、霖之助から銃を受け取った。
    「あ、ありがと…。
     で、その銃でどうするの?」
    パルスィが訊くと、レイセンは床を撃ち、床のパネルの1枚を割った。
    そしてレイセンは割れた床のパネルの尖った部分で霖之助とパルスィの手を縛るロープを切った。
    「おっ、やるねえ」
    「とりあえず、ここから出るためにもあの人を追いましょう。
     用意周到なところを見ると、罠を仕掛けてるかもしれないし…」
    パルスィにロープを切ってもらいながら、冷静にレイセンが提案した。
    「こんな状況でよく冷静に判断できるわね?」
    「えっと…そんな気がしたの…」
    パルスィに言われて、レイセンはどうして自分が
    そう思ったのかわからなくなり、適当にはぐらかした。
    時折レイセンは、自分たちがやるべきことが
    まるで誰かに教えられたかのように浮かぶ時がある。
    今までそれでうまくいっていたのだが、さすがに気味が悪いので他の人には黙っていた。
    「お、こんなところに自動小銃がある」
    格納庫の脇のコンテナを漁っていた霖之助が言った。
    渡された銃を握りながら、パルスィがぼやいた。
    「私、こういうの好きじゃないんだけどなぁ…」
    「そうは言っても、あの男が弾幕勝負なんかしてくれるわけ無いだろう?
     乱暴だけど、鉛の弾幕で黙らせてやらないと」
    霖之助が準備しながらそう言った。
    「色々情報を聞いたほうがいいから、間違って殺さないようにしないと…」
    レイセンが補足するように言った。

    武装した3人は格納庫から内部へ入り、警戒しながら通路を進んだ。
    格納庫だけでなく、このあたりも人工重力が弱く、フワフワと浮きながらではあったが。
    すると、脇道から男が自動小銃だけを出して、3人に向けてめちゃくちゃに撃ち始めた。
    「わわわっ!?」
    「ハハハハ! 通路で全身を丸出しで進むバカが居るかよ!」
    急な発砲に驚く3人に、男は笑いながらそう叫び何処かへと去っていった。
    「あのおっさんめー! バカにしてー!」
    運良く一発も当たらなかったのを確認した後、憤慨しながらパルスィが言った。

    男が入っていった形跡を追って、3人は箱の積まれている部屋に入った。
    すると突然積まれている箱が崩れ、3人は箱に埋まってしまった。
    「ガハハハハ! 使えるもんは何でも使うもんだよ!」
    男はその様子を見ると、そう言ってまた去っていった。

    その後も、男に消火用のホースで不意に水を浴びせられたり、
    背後から野菜を投げつけられたりと様々な手段で男は3人をやり過ごしていた。
    「…作戦を考えよう」
    擦り傷だらけになった霖之助が冷静になって提案した。
    びしょびしょに濡れたパルスィと、顔がスイカ汁まみれになったレイセンが賛同する。
    「さんせーい…」
    3人は辺りにあるものを色々と探り、作戦を練った。

    男はまた別の部屋で3人を待ち構えていた。
    「へへへ、ガキども…次はどうしてくれようか」
    男がそう思っていると、3人が部屋に入ってきた気配を感じた。
    「ついに警戒せずに突っ込んできたか!」
    男はそう言って入口付近の物体を撃ったが、すぐにそれが彼らではないことがわかった。
    「タ、タマネギ?」
    そう、部屋の中に大量のタマネギが部屋に放たれたのだ。
    「ほうら、催涙のシャワーだ!」
    「農家の人、ごめんなさーい!」
    そう言って、3人はタマネギに向かってメチャクチャに銃を撃った。
    破裂するタマネギから目にくる成分が部屋中に充満する。
    「ぐおっ!? 目、目が見えん…!」
    タマネギの成分にやられ、男が身悶える。
    その様子を見た霖之助は、男に飛びかかった。
    「でやあああ!! ぎゃああ! 目が!」
    何の防備もなしに突っ込んだので、霖之助もタマネギの成分にやられてしまった。
    お互い目が見えない状態でもみくちゃになる男と霖之助。
    「なにやってんだか…ううっ!?」
    そうこうしているうちにタマネギの成分は廊下にも広がり、
    廊下で待機していたパルスィとレイセンも目をやられてしまった。
    「ちょっと、これキツイよパルスィ!」
    「ぎゃー! もうなんでこんな目にー!」
    ここにいる4人全員が濃密なタマネギの成分にやられたところで男がギブアップした。
    「待て、待て待て!
     このままじゃ埒が明かねえだろうが!
     休戦だ、休戦しよう!
     銃を捨てるからとっととここから出してくれー!」
    このままではどうしようもないので、渋々3人は了承して男を確保し、別の部屋に連れて行った。

    「…はあ、やっとマシになってきた。
     お前ら、やり口はいいが自分の防備くらい整えておけよ…」
    武装解除した男が涙目のまま言った。
    「散々やってくれたくせによく言うわ」
    呆れながらパルスィが水で目を洗いながら言った。
    男の身体検査をしていた霖之助が、男がこれ以上武器類を持っていないことを確認した。
    「…よし、もう武器はないな。
     で、あんたは何者なんだ?」
    「ちっ…もう勝者のつもりかよお前らは。
     俺の名はバル、幻想同盟の兵士だ」
    観念してバルが言ったことに、レイセンが反応した。
    「幻想同盟の…?」
    今まで、幻想同盟の兵士とは交戦こそすれ、実際に生身で会うのは初めてだった。
    レイセンはバルが言っていたことを思い出しながら、彼に質問した。
    「でも、最初に月面軍でも間違いはないみたいなこと言ってたような…?」
    「…まあ、な。
     俺は元々は月面軍に所属していたからな…」
    「なんだって?」
    「月面軍に男っていたんだ…」
    バルの答えに霖之助とパルスィが驚く。
    「お前ら、その歳でその反応って…月面人じゃないのか?」
    「…隠してもしかたがないけど、この娘…レイセン以外はそうだよ」
    霖之助が正直に言った。
    知らなかったその事実に、レイセンが驚いた。
    「ええっ!? ふたりとも幻想人だったの!?」
    そういえば説明してなかったわね、とパルスィが呟きながら、
    バルとレイセンにこれまでの経緯を説明した。

    ひと通りの説明を終え、情報を整理た後に霖之助がバルに質問をした。
    「それで、なんで元月面軍人のあんたが幻想同盟なんかに?」
    「…何も好きでこうなったんじゃねえよ。
     深い事情が、色々あってな」
    「…魔導戦争がらみ?」
    バルに対してレイセンが訊くと、バルは舌打ちをしながら答えた。
    「…あながち間違いじゃねえ。
     あんまり詳しいことは言いたくないがな」
    そう言うバルの様子を見て、霖之助は無理に聞き出しても答えないだろうなと思い
    次の質問をバルに言った。
    「…幻想同盟って、一体どんな組織なんだ?
     月面軍に攻撃をする割には、幻想郷では僕らに味方をするわけではない…」
    レイセンはその言葉で、幻想郷での幻想同盟の活動を察した。
    どうやら月面軍に対しては幻想郷と協力関係にあると言いながらも
    実際は幻想郷とは完全に無関係な組織らしい。
    「しかも、豊姫っていう月のお偉いさんともつながりがある。
     全然実態が見えてこないんだけど…」
    「俺だって知らねえさ。
     特に、こんな末端の兵士になんかな」
    「えっ…?」
    嘘を言ってるようではないバルの返答に、パルスィが驚く。
    「じゃあ、あなたはよく知りもしない組織に手を貸してるってわけ?」
    「…手を貸したほうが得だと考えたからな。
     方法がどうあれ、恨みのある月面軍を叩きのめせるんだからな…」
    バルの言葉からは、その意味がよくわからなかった。
    そのまま、諦めた様子でバルが言った。
    「お前らの機体を同盟に渡せば、同盟の戦力になる。
     そう思ったからとっ捕まえたんだが、どうもダメみてえだな」
    「どういうこと?」
    「お前らの部隊と、月面軍の海賊隊がココらへんでぶつかり合ってて
     同盟はこっちに部隊をよこせねえんだとさ。
     試しに出した偵察隊もお前らに潰されちまったみたいだし」
    そこで、ガンマ3に流れ着く原因となった戦闘に幻想同盟が乱入してきた理由がわかった。
    その後も色々と質問したが、これ以上新しい情報は得られなかったので
    3人はバルを交代で見張るようにし、疲れきった体を休ませることにした。
    時間的には、既に深夜を回っていたからだ。

    「うう、ん…あっ!」
    バルを見張りながらウトウトしてたレイセンは、一瞬居眠りしている間に
    バルが部屋を抜けだしていることに気づいた。
    こっそりバルにつけていた発信機を頼りに、レイセンは一人で追った。
    「どこに行くんだろう…?」
    バルはレイセンたちが休んでいた居住スペースを抜け、
    農場エリアにあるビニールハウスの一つに入っていた。

    「何をしているの!」
    レイセンが拳銃を構えながらバルの入ったハウスに入ると、
    そこには大きな石に名前を彫っただけの、簡素な墓が立ち並んでいた。
    その内の一つの墓石の前で、バルは酒瓶を持ったまま振り向いた。

    「…悪いな、これだけは欠かせなくてな」
    「お墓…?」
    レイセンは立ち並ぶ墓に言葉を失った。
    「ミケル、ハイマン、ヘッシャー、キール…
     俺と一緒にここにいた月面軍の兵士だ。
     エミリーとマコは栽培管理のチーフ、メアリーは気のいい医者の婆さんだった…」
    「これは、何があったの…?」
    墓に刻まれている人物の名前を読み上げるバルに、レイセンが訊いた。
    「みんな良い奴だったのに、殺されたんだよ。
     …魔導兵器にな」
    バルはタバコに日をつけ、遠くを見つめながら話し始めた。
    「魔導戦争のあの時、魔導で動いていた農耕器具や、
     防衛用のマシンが俺たちを襲い始めた。
     元々ここは軍事基地でもない、ただの食料生産用コロニーだ。
     俺たち警備用の軍人も、戦い慣れているようなのじゃなかったし
     白兵用の装備だって、大したものは置かれていなかった。
     多くの仲間を殺されながらも、俺達は必死に戦った。
     食料生産用コロニーは月の生命線の一つ、
     守りきらなきゃ月が飢えちまうからな…」
    バルは、そこで一旦ため息とともに煙を吐いて、墓に酒を注ぎながら話を続けた。
    「コロニー内の魔導機械を全部ぶっ壊した時、
     生き残ったのは俺と、重症の二人だった…。
     俺達は月に何度も通信を飛ばした。
     魔導戦争が集結した後も、ずっとずっとな…。
     だが、一向に返事は帰ってこなかった…。
     そのうちに、重症を追った二人は死んじまった。
     その時に確信したのさ、俺達は政府に見捨てられたんだってな…」
    レイセンは、信じられないような目でバルを見つめていた。
    「俺達が命がけで守りぬいたこのコロニーは、
     月の連中にとっちゃ…どうでもいいものだったんだよ。
     生存者がいるかどうかも調べにも来ねえ…。
     俺は、絶望したよ…。
     最初から逃げようと思えば、コロニーを捨ててもいいと思えば、
     はじめからこのコロニーをさっさと脱出してれば、
     仲間は死ななくてすんだんだからよ…。
     見捨てられるってのに、必死で守った結果がこれだ!
     旧政府の解体! 新政府の編成!
     そんなことばかりやって、国のために命張った連中は放置だ!!
     俺だけじゃねえ、必死にコロニーを守り抜いたのに
     月に見捨てられたのは俺以外にも、大勢いる。
     幻想同盟に加わってんのは、そういう連中だよ」
    「そんな…月が…? 信じられない…!?」
    レイセンは、突然聞かされた月政府の非道さに信じられないでいた。
    「ああそうだろうよ、お前は特に育ちが良さそうだからな。
     月の美談やら綺麗な歴史ばーっかリ聞いてきて、
     あそこが穢れとは無縁の清廉潔白な理想郷とでも思ってたんだろ…?
     医学の進歩を穢れなんかと結びつけて、地上を穢れの地だとか貶めたり、
     平気で嘘をつき綺麗に取り繕おうとするのがあの国なんだよ!」
    レイセンは、バルから聞かされた月の行為に言葉を失っていた。
    「ひとつ教えておいてやる。
     幻想同盟は、豊姫が作った組織だ。
     …月をぶっ潰すためにな」
    「え…?」
    「俺達のような月に恨みを持つ連中を集め、
     戦争のドサクサで月面軍を攻撃させる。
     俺達月面人が、身分を隠して堂々と月に復讐できるんだ。
     断る奴はいなかったよ。
     豊姫のやつが、ぶっ潰した月をどうするかは知らんがな…」
    「そんな…豊姫様が…?
     なんで…?」
    そうレイセンが呟いた後、ドドンと大きな音がして地面が揺れた。
    「何だ!?」
    バルとともにレイセンがビニールハウスの外にでると、破壊された外壁の向こうから
    月面軍の戦車が大量に向かってきていた。
    「あれは…!?」
    「魔導戦争の時に俺達を襲った月面軍の制式戦車・メイヴァーだ…!
     だが、あの時に全部ぶっ壊したはず…!?」
    そう言った後、バルはひとつの結論に気づいた。
    「生き残りがいて…こっそり修理してやがったのか…!?」
    「ええっ!?」
    「無いとはいえない話だ!
     魔導機械にはメンテナンスマシンもあったんだ!
     んで、お前たちが来たことで人間の反応が増えたから、
     目覚めて攻撃してきたってわけか!?」
    そう言い終わらないうちにメイヴァーのうち一台がプラズマ弾を発射してきた。
    「危ない!」
    とっさにレイセンはバルを突き飛ばし、なんとかプラズマ弾をかわした。
    「お前…どうして俺を…!?」
    「ハァ…ハァ…、目の前で、人が死ぬのが…嫌なだけです!」
    「…言ってくれる!」
    レイセンはバルとともに格納庫へ向かった。

    格納庫では異変を感じて起きた霖之助とパルスィも来ていた。
    「一体何があったんだ!?」
    「まだ生きてる魔導兵器がいやがったんだ!
     このままじゃお前らも餌食になる!
     さっさと逃げちまいな!」
    レイセンたちがそれぞれのWAに乗り込んでいると、
    格納庫の脇にある管制室からバルが通信で呼びかけた。
    「どうして!?」
    「てめえらはここの魔導兵器とは無関係だろうが!
     へっ…死ぬにはいいシチュエーションだぜ…!」
    パルスィにそう答えると、バルは機械を操作しエアロックの内部扉を開放した。
    と同時に、数台のメイヴァーが格納庫に侵入してきた。
    「来やがれ! クソッタレの魔導兵器ども!
     俺が相手をしてやるぜぇぇ!」
    バルが自動小銃を乱れ撃つが、頑丈な装甲を持つメイヴァーはビクともしていない。
    「人間…殺ス…」
    「人間…抹殺セヨ…!」
    機械的な声をあげながら、メイヴァーは管制室に砲塔を向けた。
    「ミケル…今お前らのもとに行くぜ…!」
    死を覚悟したバルがそう呟くと、ゼレイブのプラズマ・サーベルが唸り、
    バルを狙うメイヴァーを切り裂いた。
    爆発して燃え上がるメイヴァーを見ながら、バルが叫んだ。
    「お前ら…どうして!?」
    「僕らが来たのが引き金だったのなら、
     関係ないとは言わせないよ」
    「ただ…私は、目の前で人が死ぬのが嫌なだけよ!」
    霖之助とレイセンがそう言うと、3人は格納庫に侵入してきたメイヴァーを攻撃し始めた。
    「ったくもう、私はそんなんじゃないんだけど!」
    パルスィはそう言いながらも、二人と協力して戦いに臨んだ。

    「ぐああああ!」
    数台のメイヴァーを破壊したあたりで、バルの叫びが聞こえてきた。
    その声のする方を向くと、砲塔の代わりに
    巨大なアームの付いたメイヴァーがバルを掴んでいた。
    「くっ!」
    レイセンがとっさにプラズマ・ライフルを構えるが、霖之助が制止した。
    「ダメだ! 今撃ったら彼に当たる!」
    「あ…!」
    レイセンは、バルを盾にされているのにもかかわらず
    引き金を引こうとしていた自分に気づき、手が震えた。
    「ためらうな! 俺ごと撃てー!」
    「できるわけ無いでしょう!」
    自己犠牲に走るバルをパルスィが否定するのを聞いたからか、アームの付いたメイヴァーは
    格納庫から退き、ビニールハウスの立ち並ぶ農場エリアへと向かっていった。
    「レイセン、追うぞ!」
    「あ、うん!」
    レイセンは、震える手を抑えながらゼレイブを駆り農場エリアへと進んだ。

    農場エリアへ続く大型通路では2~3台のメイヴァーが待ち構えていた。
    レイセン達はバルとの戦いを思い出し、脇道に身を隠しながら通路のメイヴァーを狙い撃ちしていく。
    「…あの人とやりあっててよかったわね」
    通路のメイヴァーを撃破した後、パルスィがつぶやいた。
    戦いのセオリーを知らない3人にとっては、メチャクチャではあったが
    バルとの白兵戦は貴重な経験であった。

    農場エリアでは多くのメイヴァーが待ち構えており、エリアに入ってきた3人を一斉に攻撃した。
    「待ちぶせっ…!?」
    「ちょっと、魔導兵器ってこんなに賢いの!?」
    人質を盾にし、おびき寄せ待ち伏せをするという戦法にパルスィが舌を巻いた。
    メイヴァーの攻撃を1号機の砲塔シールドで防ぎながら、霖之助がパルスィに叫んだ。
    「僕が攻撃を抑える間に、パルスィは空から攻撃してくれ!」
    「わ、わかったわ!」
    パルスィは2号機を戦闘機形態に変形させ、周囲を囲むメイヴァーをミサイルで攻撃した。
    空中からの攻撃で数台破壊されたのに気づいたメイヴァー達は、フォーメーションを変え
    4台程が機関砲で2号機に攻撃を始めた。
    「よし、敵陣に穴が開いた!
     斬り込むぞ! レイセン!」
    霖之助がそう言うが、ゼレイブは防御姿勢のまま固まっていた。
    「どうした!? レイセン!」
    「あ…はい!」
    レイセンは我に返り、2号機を狙うメイヴァーに攻撃を仕掛けた。
    その間にも霖之助が1号機でメイヴァーを撃破していく。
    「ぐおおおお!」
    バルは体を掴んでいるアームの強さが増してきて苦しんでいた。
    「こいつ…加減くらいしねえか…!」
    「バルさん!!」
    その様子に気づいたレイセンがアームの付いたメイヴァーの下部を攻撃しようとするが
    バルが盾にされているのと、メイヴァー自体が素早い動きでかわすため当てられないでいた。
    「何をしている…!
     俺にかまってる場合か…!?」
    そう言うバルの言葉には耳を貸さず、どうやればバルを救えるかをレイセンは考えた。
    「しまった、あたった!?」
    空中から攻撃していたパルスィの2号機の主翼に、プラズマ弾があたってしまった。
    バランスを崩した2号機はWA形態に変形し、地面を削るように不時着した。
    「こいつらの主砲はプラズマ・ライフル並だ! 油断するな!」
    メイヴァーを撃破しながらも霖之助が叫ぶ。
    2号機の不時着でえぐれた地面を見て、レイセンは閃いた。
    「地形を…利用する!」
    逃げまわるアームの付いたメイヴァーの移動先にレイセンはプラズマ・ライフルを発射した。
    プラズマ弾の着弾により、地面にそれなりの深さの穴が開いた。
    アームの付いたメイヴァーはその穴に引っかかり、動きを止めた。
    「今だぁぁ!」
    とっさにプラズマ・サーベルの出力を抑えたまま、バルを締め付けるアームの根本を切り裂いた。
    根本を切り離されたアームはバルを掴んだまま地面に落ちた。
    「バルさん!」
    レイセンは急いでゼレイブの手でバルを拾った。
    「いててて…助けるならもっと丁寧にしてくれよ…」
    文句を言いながらも、バルは無事な姿を見せた。
    バルの無事を確認すると、プラズマヘッドカノンでアームの付いたメイヴァーの下部を破壊した。
    すると、他のメイヴァーの動きはピタリと止まり、戦闘は終わった。

    「いてて…俺を掴んでいたのが戦車共を操っていたみたいだな…」
    バルがゼレイブの手から降りて、戦場跡を見回しながら言った。
    霖之助とパルスィもコックピットから降りてきた。
    「あんなのと、生身でやりあってたんだね…」
    「ホント、あんたとやりあってなかったらこっちもちょっと危なかったわ」
    そう言う二人に、バルは苦笑しながら言った。
    「礼なんか言うなよ、くすぐったいぜ。
     ったく、てめえらお人好しすぎるぜ…俺は敵だってのによ」
    「敵かどうかって、変わらないものじゃないと思う…」
    レイセンはコックピットから降りながら言った。
    「確かにあなたは最初は敵だったけど…悪い人じゃないって分かったし、
     それに…味方が敵になることだってあるから…」
    レイセンは、敵になった豊姫と月面軍のことを思い出しながら言った。
    「チッ…どこまでもいい子ちゃんぶったガキだぜ。
     さっさとこんなところから出て行きやがれ」
    「えっ、出ていいの?」
    パルスィが驚きながら聞き返した。
    「バーカ、WAに乗ったお前らを俺が止められるわけねえだろ。
     とっとと出てけ出てけ!」

    レイセン達の機体がエアロックに立ったのを確認すると、バルは宇宙に通じる扉を開いた。
    「ありがとう、また会いましょう!」
    レイセンはバーニアを吹かせながらバルに向かって通信を飛ばした。
    「二度と来るんじゃねーぞ! ガキども!」
    最後にそう憎まれ口を言って、バルの通信が切れた。
    少しの時間ではあったが、ガンマ3での出来事は3人には大きな経験となった。
    が、レイセンは捕まったバルに向けてためらいなく引き金を引こうとしていた自分に恐怖を感じてもいた。
    多くの事実と謎を残したまま、レーダーに映るムーンライズの反応の方向に3人は向かっていった。


    ムーンライズへの帰艦に成功したレイセン達。
    彼女たちに訪れるしばしの安息。
    それは、地球降下をかけた決戦の嵐の前の静けさでもあった。
    次回、夢幻機動ゼレイブ 第8話「束の間の静寂」
    君は、月の果てに何を見るのか。


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  • 夢幻機動ゼレイブ キャラクター紹介

    2015-04-25 15:261
    おかげさまでゼレイブも6話まで出来ました。
    というわけで、一旦登場キャラクター紹介をします。
    栢山さんのデザイン画があるキャラクターについてはそれも紹介します。
    疑問点や文章的におかしい点はコメントしていただけるとありがたいです。

    メカデザインは大変だからメカ紹介はまた今度だなぁ。

    ■レイセン(レイセン・ワタツキ)


    綿月姉妹のペット。16歳。
    ショートカットの淡水色の髪をした少女であり、
    9年前の儚月抄事変の際の行動がきっかけで綿月姉妹の目にとまり
    玉兎たちにとっては憧れの座である、閣僚である綿月姉妹のペットの座についた。
    素直で優しい性格で、正義感が強い。
    また、状況への適応がかなり早く、危機的状況でも慌てることなく
    自分のすべきことを行うことができる胆力をも持ち合わせている。
    偶然ゼレイブに乗ったことがきっかけでムーンライズ隊のパイロットとなり
    短い搭乗期間にもかかわらず、めきめきと操縦の腕を上げている。
    しかし、天性の才能という言葉でも説明できないような能力を多々見せることがあり、
    幼少期の記憶が無いことからもその過去には謎が多い。

    ■ワカバ(ワカバ・ラムゼイ)



    学園都市コロニー・イオタ3の工業系ハイスクールに通う玉兎の少女。
    16歳。赤いツインテールの髪型が特徴。
    親友のユリとジェーンと3人でレイセンにイオタ3を案内していたところ、
    コロニーが幻想同盟の襲撃を受け、戦艦ムーンライズに救われる形で
    ムーンライズ隊に加わることになる。
    ムーンライズが危機に陥った時に勝手に出撃したことがきっかけで
    ワンダーアーマーのパイロットとなった。
    気が強く、特にライバル意識を燃やしているレイセンに対しては
    きつくあたってしまうことが多いが、内面は世話やきで優しい。

    ■ユリ(ユリ・シラカワ)



    学園都市コロニー・イオタ3の工業系ハイスクールに通う玉兎の少女。
    おさげの緑色の髪が特徴。16歳。
    ワカバとは親友同士であり、いつも一緒にいる。
    イオタ3が幻想同盟の襲撃を受けた際、戦艦ムーンライズに救われ
    ムーンライズ隊に加わることになる。
    争いを好まない優しい性格で、ムーンライズ隊に加わった後も
    戦いには参加せずに、料理などの家庭的な部分での手伝いに従事している。
    ワンダーアーマーに乗って戦いに加わるワカバを心配するとともに
    自分から離れていっているように思い内心では恐れている。

    ■ジェーン(ジェーン・ロシェール)



    学園都市コロニー・イオタ3の学校に通う玉兎の少女。
    ボブカットの金髪の髪が特徴。14歳。
    人見知りで口数が少なく、臆病な性格。
    ワカバやユリとはかつての先輩後輩の関係であり、レイセンの案内の際に
    ユリが彼女に声をかけたため参加することにした。
    幻想同盟の襲撃によってワカバたちとは離ればなれになるものの
    乗っていた脱出艇がアルファ7にて幻想同盟に捕まったことで捕虜になり、
    ムーンライズ隊に助けられワカバたちとは再会する。
    しかし、アルファ11において、他の避難民たちとともに本土へ帰還させられてしまう。

    ■エーディン(エーディン・メルヴィル)



    月面軍第8航空小隊所属の戦闘機パイロット。
    階級は准尉であり、年齢は18歳。
    非番の時に母校のあるイオタ3を訪れていたところで幻想同盟の襲撃に巻き込まれ、
    偶然出会ったレイセンとともにゼレイブに乗り込む。
    戦艦ムーンライズに助けられた後は、ムーンライズ隊のパイロットのひとりとして、
    戦闘機・スカイイーターで戦う。
    ワンダーアーマーの操縦は非常に苦手であり、ゼレイブに搭乗した時は
    揺れた衝撃で頭をぶつけて負傷してしまう。
    男のような口調・一人称や、短い髪などから男とも思われることも少なくないが、
    れっきとした女性兵士である。
    なお、月面軍の中でも数少ない人間の軍人であり、
    ウサ耳型の通信機は周りに合わせて身につけているだけである。

    ■ゼロ(ゼロ・ゲイン)


    ムーンライズ隊のエースパイロット。階級は少佐。25歳。
    サングラスを常に身につけており、ネイザン以外の前では決して素顔を見せようとはしない。
    ワンダーアーマーの操縦技能は天下一品であり、量産型のワンブでも高い戦果を発揮する。
    軍人としての厳しさと仲間に対する優しさを兼ね備えており、
    ムーンライズ隊のリーダーとして周囲からの信頼は厚い。

    ■鈴仙(鈴仙・優曇華院・イナバ)



    魔導戦争の英雄であり、ゼロ・ゲインの正体。
    月面軍所属当時の最終階級は大佐。
    綿月姉妹のペットであったが、英雄である自分を祭り上げることでしか
    政府を維持できない魔導戦争後の月面政府の腐敗ぶりに月の未来を憂い、
    自ら反逆者の汚名を被りながらも月から去った過去を持つ。
    なお、その件は表では「逃げ出した」と言われてはいるが、
    鈴仙がそういう人物でないことから月では信じていない者は少なくない。

    月面軍に潜入していた目的は、不穏な動きを見せる豊姫の監視であり、
    同時に月面軍を探るスパイとしても動いていた。
    正体発覚後、捕らえられ裁判なしの銃殺刑を言い渡されるが、依姫の協力を得て脱出。
    ムーンライズ隊と共に幻想郷へと向かうこととなった。
    なお、正体発覚後もエーディンの案で戦争が一段落するまでは
    サングラスを身につけゼロ・ゲインを名乗り続けることにした。
    自分の意志で複数の性格を切り替えることができ、幻想郷での優しい薬売りの姿も、
    ゼロとしての隊長の姿も切り替えられる性格の一つである。
    どの性格が本来の素なのかはネイザンだけが知っている。

    ■ネイザン(ネイザン・マツオ)


    戦艦ムーンライズの艦長である女性。29歳、中佐。
    魔導戦争経験者であり、その戦闘の中で鈴仙をかばった際に右腕を失っている。
    ゼロとは旧知の仲であり、よくふたりきりで話している姿を見かけられる。
    艦長としての能力は高く、非戦闘時は隊の母親役として仲間を暖かく見守っている。
    なお、失った右腕を義手に代えないのは軍上層へのあてつけのためであり、
    とくに片腕で困っている様子もない。

    ■霖之助(森近 霖之助)



    幻想郷出身の商人。
    幻想同盟に拉致され、アルファ7にて監禁されていたところをムーンライズ隊に救われる。
    その際に新型ワンダーアーマーに乗ったことがきっかけで
    ワンダーアーマーのパイロットとして数えられてしまう。
    物腰柔らかそうな外見に似合わず意外と武闘派でもある。

    ■パルスィ(水橋 パルスィ)



    幻想郷の民間人。
    幻想同盟に拉致され、アルファ7にて監禁されていたところを
    ムーンライズ隊に救われる。
    その際に新型ワンダーアーマーに乗ったことがきっかけで
    ワンダーアーマーのパイロットとして数えられてしまう。
    戦いに巻き込まれたことを嘆いている。
    なお、幻想郷出身の非戦闘員がワンダーアーマーでも戦果を出せるのは、
    ワンダーアーマーの操作系が思考による補助を利用したものであり、
    日々の弾幕勝負や荒事で戦いに対しての動き方を心得ているからである。

    ■わかさぎ姫(わかさぎ姫)
    幻想郷の民間人。
    幻想同盟に拉致され、アルファ7にて監禁されていたところを
    ムーンライズ隊に救われる。
    その際に新型ワンダーアーマーに乗ったことがきっかけで
    ワンダーアーマーのパイロットとして数えられてしまう。
    人魚のため下半身が魚であるが、擬態魔法で人の足に見えるようにしている。
    普段は足が悪いということで車いすに乗って過ごしている。

    ■クライド(クライド・エイムズ)


    幻想軍の軍人。階級は軍曹相当。26歳。
    霖之助達を救出するために片道切符のワープでやってきた。
    霖之助とは気が合うため仲が良い。
    軍人と言っても幻想郷の軍組織はラフであるため軍隊的な堅苦しさや規律とは縁遠く、

    クライドも軍人というよりは用心棒みたいな感じである。
    戦闘ヘリ乗りであり、ワンダーアーマーの操縦はしたことがない。
    そのため宇宙空間の戦闘では役に立てないのを気にしている。

    ■依姫(綿月 依姫)
    現在の月の最高権力者である豊姫の実妹。
    常に帯刀をしており刀を媒介に神の力を使うことができるが、
    ワンダーアーマー相手は効果が薄いのと、
    ワンダーアーマーの操縦をしたことが無いため戦いには参加できない。
    鈴仙が月にいた頃は彼女を頼りにしており、当時はやや依存していた。
    強く逞しく振舞っているが、心は繊細で内面はじつは弱い。
    豊姫が自分を邪魔とし、幻想同盟を使って消そうとしていることを偶然知ってしまい、
    ムーンライズ隊や、銃殺刑を言い渡された鈴仙とともに月を離反。
    幻想郷にいる永琳を頼るために地球へ向かうこととなる。

    豊姫(綿月 豊姫
    現在の月の最高権力者。依姫の実姉。
    かつては月政府で防衛省にあたる部門を担当していた閣僚の一人であったが

    開戦の際の幻想郷側の先制攻撃で他閣僚が全滅したため、唯一残った彼女が
    実質的に最高指導者の座に収まることとなった。
    戦争以前は穏やかで優しいのんびりとした性格であったが、最高指導者となってからは
    冷酷な判断をためらわず下すことも多くなり、厳しい人物となった。
    敵対組織であるはずの幻想同盟ともつながりを持っており、鈴仙や依姫を消そうとするなど
    黒い部分が見え隠れしているが、大半の月の民達はそのことに気づいていない。

    ■ミオ(ミオ・ヴァイス)


    「月面の白き隼」の通名を持つ月面軍のエースパイロット。大佐、25歳。
    白と見間違うほどの銀色のウェーブがかかったショートの髪型。
    鈴仙とは魔導戦争時代の同期であり、彼女と同じく数少ない
    戦争を五体満足で終えた兵士の一人。
    魔導戦争の最終決戦では同じ部隊に所属し、共に戦争終結を果たした功労者でもある。
    しかし、鈴仙ばかりが英雄として讃えられたことと、
    鈴仙が閣僚のペットの座を蹴って地球に下ったため、
    鈴仙のことを非常に強く憎んでいる。
    豊姫からはその鈴仙に対しての憎悪を認められ、ムーンライズ隊の掃討を命じられる。

    ■レーア(レーア・エンロート)
    月面軍の私掠部隊「コスモ・パイレーツ隊」の隊長。中佐、35歳。
    深緑色のロングヘアーと左腕の義手が特徴。
    海賊部隊とも呼ばれ、汚れ役を担う隊を率いるだけあって豪傑肌な人物であり、
    多少のルール違反は気にせず、禁忌のビーム兵器を低出力とはいえ平気で使う。
    しかし、完全に冷酷非道でも心が無いわけでもなく、
    肉親をも平気で消そうとする命令を下す現在の豊姫には疑問を抱いている。


  • 夢幻機動ゼレイブ 第6話「コスモ・パイレーツ」

    2015-04-20 23:522

    1~5話までの「導入編」が終わり、この話から地球を目指す「逃亡編」となります。
    面白い作品にするために、頑張っているけれど
    小説という形態はやはり難しい…。
    もっと文章や物語構成のうまい人に手直ししてもらいたいなぁ。
    そんな弱音を吐きつつ、6話をどうぞ



    ミオの愛機、ペリグヴァインがブースターを切り離し減速した。
    ペリグヴァインのレーダーには友軍母艦を示すアイコンが点滅している。
    「あれか…」
    ミオはそう呟くと、バーニアを吹かせて戦艦「レゴリス」へと着艦した。
    「本土から大佐殿が、わざわざご苦労だねぇ。
     あたしは『コスモ・パイレーツ隊』隊長、レーア中佐だよ」
    ミオがレゴリスのブリッジに上がると、髪の長い30半ばの玉兎が挨拶をした。
    「私とて、豊姫様の命令じゃなければ
     上官に敬語も使えないような連中なんかと
     一緒の作戦になんかゴメンだよ」
    「へっ、言ってくれるねぇ。
     どうせあたしらは汚れ役専門の私掠部隊だ。
     本土の正規連中ほどお高くとまれないもんでさ」
    開き直る態度のレーアに、ミオが続いて言った。
    「フン…離反した味方殺しに駆り出されるには
     うってつけの部隊ってことか」
    「あんたも人のことは言えないだろう?
     聞いてるよ、開発途中のモノを勝手に使って
     こんな辺境に飛ばされてきたんだろう?」
    ミオは、そう言われてムーンライズ隊を取り逃した後のことを思い出した。

    ミオが、ガチャリと扉を開け執務室に入る。
    執務室の椅子には、不敵な笑みを浮かべる豊姫が鎮座していた。
    「狂化兵士を使ったそうね」
    「はっ…」
    あの時、ミオは鈴仙を逃がすまいと開発中の狂化兵士の1番目である
    サーディスを勝手に目覚めさせ、投入したのであった。
    結果、ユリを撃墜したもののムーンライズ隊の逃亡を止めることはできなかった。
    「まだ狂化兵士は不安定なのよ。
     あなたが鈴仙に執着しているのは知っているけれど
     まだ未完成の彼女たちを使うのは良くないわね」
    ミオは豊姫にそう言われ、頭を下げた。
    「申し訳ありません…。
     罰ならなんなりと」
    「あなたには、コスモ・パイレーツ隊に合流してもらうわ」
    「コスモ・パイレーツというと…あの海賊部隊ですか?」
    「正確には私掠部隊。
     敵輸送船の略奪や反体制派の粛清みたいな
     後ろ暗いことを影で行う汚れ役の部隊よ。
     今のあなたが行くには、うってつけじゃない?」
    「…何を仰りたいので?」
    「フフ…。
     ムーンライズの航路はある程度予想はできているわ。
     コスモ・パイレーツは、その途中に今いる。
     鈴仙をその手で殺してあげたいんでしょう?」
    「…!」
    「すでにWA用の加速ブースターを用意させてるわ。
     先回りして、コスモ・パイレーツと共に
     ムーンライズを沈めてあげなさい」
    「ハッ…!」

    憎き鈴仙をその手で殺したいと考えているミオは、
    確かにコスモ・パイレーツ向きだとは思った。
    しかし、エリート意識のあるミオは素直に認めるわけにはいかなかった。
    気持ちを抑えつつ、ミオは冷静に提案をした。
    「…連中は仲間を一人喪ったばかりで
     士気が落ちているはず。
     捉え次第、攻撃をかけよう」
    「フン、せっかちだねぇ?
     まあ、こっちもさっさと終わらせたいもんだしね。
     けれど、艦には豊姫様の妹やペットが乗っているんだろう?
     始末しちまってもいいのかい?
    「豊姫様はそれでも良いとおっしゃっていた」
    その言葉を聞いて、レーアは少し嫌な顔をした。
    (肉親や従者を平気で切り捨てるような奴が今の月のトップかい…)
    「お前たち! 準備をするんだよ!」
    レーアは不快感を表に出さないようにそう叫び、ブリッジを去っていった。
    「鈴仙…今度こそお前を…!」
    ミオは、静かに闘士を燃やしていた。


    光を失った真っ赤な目をして、個室の中でワカバは泣いていた。
    「う…うう…」
    親友のユリが目の前で、自分を守るために死んだという現実は
    それまでただの学生として生きてきたワカバには、辛すぎる現実であった。
    「…どうだった?」
    「ああ…やっと落ち着いたわ」
    ワカバの部屋に外から鍵をかけ、鈴仙は廊下で待っていたネイザンと一緒にブリッジに戻った。
    ブリッジに戻った鈴仙に、エーディンが掴みかかって叫んだ。
    「ゼロ少佐…!
     ワカバを、ゼレイブに乗せるって本当かよ!」
    「彼女のことを思ってのことよ…。
     このまま、狂気の瞳が発症したままでは
     精神に傷が残る可能性があるから…」
    「あんたが原因なんだぞ!
     あんたがスパイ行為なんてするから、
     関係がなかったユリが巻き込まれて、死んじまった!」
    鈴仙はそう叫ぶエーディンの手を払いのけた。
    「私は、あなた達を騙していたんだからね。
     恨んでくれても構わないわ。
     責任を感じているからこそ、ワカバには生きてもらいたい。
     戦いで発症した狂気の瞳は、
     戦いの中で克服させるしかないのよ」
    「狂気の瞳は、放置すれば不安定な心のまま
     自傷行為に走ったり、自殺をする可能性もある危険な状態なの。
     通常は数カ月間のカウンセリングを行って
     徐々に治していくものなんだけど…」
    「今、この艦にはそんな時間も余力もない。
     だから、戦場という極限状態の中で戦いの恐怖を…
     ワカバには克服してもらう」
    ネイザンと共に、鈴仙が言った。
    「そんな方法があるかよ!
     それでワカバが死んじまったらどうするんだ!
     真っ赤な目になって、あんなになっちまって!」
    「そうならないようにゼレイブに乗せるのがわからないか!」
    鈴仙が大声で反論した。
    「今、発進前に搬入できた物資でゼレイブの強化改造をやらせている。
     主に、生存性向上のためのね。
     …私は、調整を手伝ってくる」
    そう言って、鈴仙は格納庫の方へ行ってしまった。
    追いかけようとしたエーディンを、ネイザンが止めた。
    「艦長…どうして…!?」
    「鈴仙は…必死なのよ。
     魔導戦争の時に、私たちの仲間が大勢死んだわ。
     多くは戦場で…だけど、仲間を失ったショックで発症した
     狂気の瞳がもとで自ら命を絶った仲間も多かった…。
     ちょうど、今のワカバくらいの歳の娘もいたわ」
    「魔導戦争…」
    鈴仙が英雄となった戦争。
    しかし、英雄とならざるを得なくなった過程で多くのつらい経験をしたのであった。
    その話を聞いて依姫がブリッジを訪れた。
    「鈴仙は…今も過去と戦っているのね…」
    「依姫様…」
    「ごめんなさい。
     あなた達を巻き込んでしまって…。
     私が、姉様を止めることができれば…」
    依姫がエーディンに頭を下げた。
    エーディンは慌てて依姫をとめた。
    「あ、頭を上げてくださいよ!」
    「はい…」
    依姫が顔を上げるのを確認して、エーディンは少し間を置いて考えを話した。
    「俺だって、豊姫様のやろうとしていることは危険だと思うし
     止めなきゃいけないと思ってますよ。
     ただ…考えが、まとめられないだけなんです…。
     知り合いが戦いで死んだなんて経験…した事無いですから」
    そう言って、エーディンは部屋にこもっているレイセンのことを思い出した。
    「そろそろ失礼します。
     レイセンのやつの様子も見てやらないと。
     気丈なフリしてたけど、あいつも辛いだろうから…」
    「ありがとう。頼みます…」
    依姫の言葉を受け、エーディンはレイセンの部屋へと向かった。
    「…若いですね」
    「ええ…」
    エーディンの後ろ姿を見て、ネイザンと依姫が呟いた。

    (はっきりと症状の出てたワカバばかり気にしてたけど、
     あいつもこんなこと初めてだっただろうに…。
     狂気の瞳が発症しているかもしれないからな…)
    そう思いながらエーディンは廊下を進み、レイセンのいる部屋をノックした。
    「…どうぞ」
    「入るぞ…その、なんだ。
     お前も辛いのならこもってないで相談を…」
    そう言いつつ、レイセンの目を見たエーディンは驚愕した。
    レイセンの目は、目に光こそあれど今のワカバと同じ真っ赤な色になっていたからだ。
    「お前…その目…」
    「はい…狂気の瞳…ですよね…」
    「気分は大丈夫なのか…?」
    「気分は…大丈夫なんです。普通です。
     むしろ、頭のなかがスッキリしているくらい…。
     私…何が起こってるんですか…!?」
    エーディンは答えられないまま立ち尽くしていた。

    一方、霖之助は格納庫で整備長を手伝っていた。
    霖之助、パルスィ、わかさぎ姫、クライドの4人は鈴仙と相談し
    幻想郷出身であることをまだ隠しておくことに決めていた。
    月面軍からの離反のショックや、ワカバの狂気の瞳などの問題が解決し
    落ち着いた時に明らかにしようと取り決めたのだ。
    必要以上に、艦内に混乱を増やさないためである。
    「子供が死ぬのを見るのは、辛いな…」
    ふと、霖之助が心境を漏らした。
    それを聞いて、整備長が口を開いた。
    「ああ、あっちゃいけねぇさ。
     しかもあの娘は、兵士ですらなかった…。
     状況的にしかたなかった、で片付けるしかねぇとはわかっちゃいるが
     そう認めたくはないもんだ…」
    「整備長…」
    「わしらが整備するのが、パイロットの棺桶であっちゃならねぇ。
     こいつらワンダーアーマーを、パイロットを乗せて、
     無事に帰してくれる乗り物にするために
     わしらはこうやって、整備しているんじゃよ…」
    寂しそうな顔で話す整備長を見て、彼が過去にも送り出したパイロットが
    帰ってこないということを経験したのであろうと、霖之助は感じた。
    何か言葉をかけてあげようと考えていると、鈴仙が格納庫に入ってきて整備長に作業の進捗状況を聞いた。
    「整備長、ゼレイブの改修の方はどう?」
    「ああ。
     最新型のプラズマ・シールドに、装甲には耐プラズマ性コーティング。
     それから、フルドライブの時間を伸ばすために
     2倍の容量のバッテリーを2本に増設。
     それから自動防御パターンの動作と、
     フルドライブのエネルギー供給先にバーニア部分を追加しておいたぞ。
     お前さんたちの機体にもプラズマ・シールドだけはつけておいた」
    「プラズマ・シールド?」
    「プラズマエネルギーの膜を生成し、攻撃を防ぐ防御装置じゃよ。
     プラズマエネルギーの電荷吸収効果によって
     実弾はもちろん、プラズマ弾やスパーク弾も防げる、
     WA同士の戦闘用にと開発されたものをちょろまかしてたんじゃよ」
    「WA同士の戦闘…幻想同盟との戦いのための装備が、
     同軍同士の戦いの役に立つとは皮肉なものね…」
    鈴仙はプラズマ・シールドの発生ユニットを見上げながらそうつぶやき、整備長に礼を言った。
    「ありがとう。
     あとは…レイセンのやった操作感度設定を保存して初期化しないと…」
    「ああ…あの赤毛の嬢ちゃんを乗せるんだったな…。
     そういうのはわしらよりも、あんたのほうが詳しいじゃろ?
     すまんが、やってくれんかの?」
    「…わかったわ」
    鈴仙はそう言ってゼレイブのコックピットに登り、設定画面を開いた。
    保存する設定数値を見て、鈴仙はあることに気づいた。
    「私の設定と、全く同じ…?」
    エーディン曰くレイセンがめちゃくちゃにやったらしい
    ゼレイブの操作感度設定数値はすべて、小数点以下単位で鈴仙の設定と同じだった。
    通常、操作感度設定とはパイロットそれぞれで違うものであり
    すべて同じというのは、ありえないことである。
    (一体…なぜ…?)
    鈴仙は、数値の初期化作業をしながらしばらく考え込んだ。
    ピリリリ。
    鈴仙が考えこんでいると、ネイザンから通信が入った。
    「こちら鈴仙。どうかしたの?」
    「ああ、鈴仙。
     今、エーディンから聞いたんだけど、
     レイセンが狂気の瞳を発症していたの」
    「…無理もないわね。それで、症状の程度は?」
    「それが…彼女の症状は、克服後のそれなのよ…。」
    「…何だって?」
    鈴仙の中でまたひとつ、レイセンに謎が増えたのであった。
    カウンセリングで狂気の瞳を治療した場合は、その後に狂気の瞳になることはない。
    ネイザンもかつてはその方法で狂気の瞳を治療した。
    狂気の瞳を発症してもなお、正気を保っていられるのは
    鈴仙のように戦いの中で狂気を克服した者の中の一握りである。
    ネイザンから聞いたレイセンの状態が本当ならば、
    レイセンは過去に狂気の瞳を発症するような戦いを行い、かつ克服したということになる。
    たとえ、類まれなるWA操縦の天性を持っていたとしても、
    あの若さでそのような戦いに加われるものであろうか?
    それ以前に、魔導戦争終結からこの戦争が始まるまでにそのような戦闘が起こったであろうか?
    そう考えを巡らせていると、不意にけたたましく警報が鳴り響き、
    オペレーターの放送が格納庫に響き渡った。
    「15機のワンダーアーマーの接近を確認!
     識別は…月面軍私掠部隊『コスモ・パイレーツ』と判明!
     また、内1機はペリグヴァインの反応と確認!
     ワンダーアーマーパイロットは、至急発進準備を行ってください!」
    「ペリグヴァイン…ミオも来たわね…!」
    鈴仙はゼレイブのコックピットから飛び降り、エーディンが背負ってきたワカバをゼレイブのコックピットまで案内した。
    その傍らで、整備長がパルスィと霖之助に叫んでいた。
    「だから、オメーらの機体は宇宙用の気密処理ができてねーんだって!」
    「どうして3号機だけは大丈夫なのよー!」
    「んだって、3号機は水中用だもんで、
     気密はしっかりしてるし、変形は宇宙にも対応できるようになっとるんだって。
     おおう、わかさぎちゃん。
     車いすのまま乗れるように改造しておいたぞ!」
    「ありがとう、おじいちゃん!」
    車いすに乗ったわかさぎ姫は、そのまま3号機に乗り込んでいった。
    「わかさぎ姫…俺達の分まで頼むぜ」
    クライドが見送りながら言った。

    ワカバをゼレイブに乗せた後、自動発進モードを入れコックピットを出た鈴仙に、
    エーディンはサングラスを差し出した。
    「…これは?」
    「俺達と一緒に行動する間は、こいつをつけて
     ゼロ・ゲイン少佐でいてくれ。
     素顔のあんたのままだと、殴りたくなってくる」
    「…それで気が済むのであれば」
    鈴仙はサングラスを受け取って身につけた。
    「少佐…もしも、ワカバが死ぬようなことがあったら
     俺があんたを撃つ。いいな?」
    「そうならないように、お互いにフォローを頼む」
    ゼロになった鈴仙はそう言うと、ワンブ・ゼロに乗り込んだ。

    ワカバの代わりにワンブに乗り込もうとするレイセンに依姫が声をかけた。
    「レイセン、大丈夫なの…?」
    「はい、依姫様。狂気の瞳が出てから
     頭のなかがスッキリしているんです。
     今なら、ワンブでもいけます」
    「そう…気をつけてね」
    「はい!」

    「…幸運を祈っちょるぞ。
     ゼレイブ、自動発進!」
    整備長の号令とともに、カタパルトに乗せられたゼレイブが
    ワカバを乗せて宇宙空間に飛び出した。
    「ゼロ・ゲイン、ワンブ・ゼロ、出るぞ!」
    「エーディン、スカイイーター、出る!」
    「レイセン、ワンブ、行きまーす!」
    「わかさぎ姫、3号機、行きます!」
    その後を追うように、残りの機体も次々と発進していった。
    「ハハハッ!
     十人十色な顔ぶれだねぇ!
     選り取りみどりだ!」
    先行していたレーアがムーンライズ隊のWAを見て興奮した様子で叫んだ。
    「紫の奴は私がやる!
     他の雑魚は任せた!」
    ミオはそう言ってワンブ・ゼロの方へとバーニアを吹かせて向かっていった。

    「各機、ゼレイブを中心にフォーメーションを固めろ!
     3号機は後方から援護しろ!」
    ゼロの号令でゼレイブを囲むようにエーディン達は陣形を固めた。
    「鈴仙、覚悟ぉぉ!!」
    「チィッ!」
    ゼロは真っ直ぐ向かってきたミオ機のプラズマ・ライフルの弾丸を
    プラズマ・シールドで受け止めた。
    「ふん…面白い!」
    そのまま、ゼロはミオをゼレイブから引き離すように交戦しながら移動していった。
    「敵ワンブ接近!」
    「対空砲、迎撃開始!
     補給はできないんだ、無駄弾は撃つなよっ!」
    ネイザンの命令でムーンライズの対空気銃が火を吹いた。
    敵ワンブ部隊は対空砲火を受け散開した。
    「敵部隊の散開を確認!」
    「待ってました!」
    わかさぎ姫は、3号機のレバーを捻った。
    3号機のバックパック部からミサイルが発射された。
    ミサイルは敵ワンブに向かっていき、大きな爆発を起こした。
    「やった!」
    しかし、そんなわかさぎ姫の声をかき消すがごとく1機のWAが突撃してきた。
    「舐めるんじゃないよ! そんなミサイルで!」
    「見たことのないWA!?」
    「このあたしのカイメルから逃れられるものか!」
    レーアはそう叫びながらカイメルの胸部からビームの機関砲をゼレイブに向け発射した。
    ゼレイブをかばうようにレイセンのワンブが割り込み、シールドを展開して防いだが
    あまりの弾速のために数発はゼレイブにあたってしまった。
    「ああああっ!」
    「ワカバッ!」
    ゼレイブが大きく振動し、乗っているワカバがうめき声をあげる。
    「ビーム兵器だって!?
     禁止されているはずだぞ!」
    「あたし達が知るもんかい!
     戦いはルールを守るおままごとじゃないのさ!
     野郎ども! あのツノ付きをのしちまいな!」
    レーアの命令を受け、散開したワンブのうち数機がゼレイブに向かって来た。
    「守るだけじゃダメだ!
     敵の数を減らす!」
    エーディンはそう言って接近してくるワンブに向かって突撃を仕掛け、
    ミサイルと機関砲を乱れ撃った。
    それに続いて、わかさぎ姫は3号機を潜水艦形態に変形させ敵に向かっていった。
    「私もお手伝いします!」

    ゼロは、遠くからゼレイブに敵ワンブが集結していることに気づいた。
    「ゼレイブがっ!」
    「よそ見をしている場合か!」
    ペリグヴァインのプラズマ・サーベルがワンブ・ゼロをかすめた。
    「お前の相手は私だよ!
     せいぜい楽しませてくれよな!」
    ペリグヴァインはワンブ・ゼロから距離を取り、
    その周りを周回するような動きをしながらプラズマ・ライフルを連射した。
    ゼロは防戦一方となっていた。
    「くっ…!」
    ゼロはプラズマ・シールドで攻撃を防ぎながらもペリグヴァインの動きを注視していた。
    そして、一瞬だけわざとシールドの方向をペリグヴァインのライフルから逸らした。
    ミオはその瞬間を逃さず、プラズマ・ライフルを構えた。
    「そこだぁっ!」
    「もらった!」
    ペリグヴァインが発砲するよりも早く、ゼロは頭部のプラズマヘッドカノンを発射した。
    プラズマ弾を受けたペリグヴァインのライフルが、エネルギーの行き場を失い爆発した。
    「バカなっ、隠し武器!?」
    「はぁぁぁぁ!」
    爆発に怯んだ隙にゼロはハンドレールガンを連射しながらペリグヴァインに接近する。
    「負けてられるかぁっ!」
    ペリグヴァインは腰部からカギ状の刃を持つ武器を取り出し、レールガンの弾丸を素早い動きで弾いた。
    「プラズマ・ハーケンか…!」
    「お前にだけは…負けられないんだよ…!」

    「何をもたもたしているんだい!
     もういい、あたしがやるよ!」
    しびれを切らしたレーアが攻撃をかいくぐりゼレイブに接近し、
    先端にプラズマエネルギーを帯電させたチェーン状の武器を発射した。
    「速いっ!?」
    レイセンはそう言いながらもプラズマ・サーベルでチェーンを弾くが、
    その間にカイメルがレイセンのワンブの目の前に接近していた。
    「ショックウィップを防いだのは褒めてやろうかねぇ…!
     だが、カイメルはWAや魔導兵器の良いパーツの集合体さ!
     既成兵器が追いつけるものじゃないんだよ!」
    カイメルの素早い動きにはワンブに乗ったレイセンでは反応しきれず、
    プラズマ・サーベルで片足を来られてしまった。
    「あああっ!」
    「レイーッ!」
    レイセンのピンチに機関砲を乱れ打ちながらエーディンが接近するが
    軽くあしらわれた上にショックウィップを受けてしまった。
    「ぐあぁぁ!」
    「エーディン准尉!」
    「くっ…悪いがこれ以上は無理そうだ…。
     ワカバを…頼んだぜ…!」
    エーディンはそう言って傷ついた機体のままムーンライズに帰艦した。
    「さあ…次はお前の番だよ!」
    「ワカバ…!」
    レイセンは、未だ動かないゼレイブの方を見てワカバの名を叫んだ。
    「ワカバ…動いて…!」

    「うっ…ううっ…」
    ワカバはゼレイブの中で涙を流していた。
    「こんな…事になるなんて…」
    涙を流し泣きじゃくりながら、ユリとの会話を思い出していた。
    『ワカバ、依姫様に会えるんだよ!
     レイセン様ともお友達になれるかも…!
     一緒に行こうよ! ね!』
    ワカバと無理やり一緒に、レイセンの案内役として立候補した時のこと。
    『ああっワイヤーがっ…!』
    『ユリ!』
    『ワカバちゃん…!
     どうしてワイヤーを…!?』
    『一人にさせられるわけ…ないでしょ…!』
    ムーンライズに拾われる前、修理ポッドのワイヤーが切れた時のこと。
    『これ、ワカバにあげる!』
    『わ、私に?』
    『最近、ワカバ戦い続きだったから…お守り!』
    アルファ11の店で、ユリにお守りをもらった時のこと…。
    「ずっと…一緒だったじゃない…!
     どうして…あんただけ死んじゃったのよ…!
     ユリがいない世界なんかよりも、私も一緒に…」
    そういう考えをかき消すがごとく、
    レイセンが防ぎきれなかった攻撃がゼレイブに当たり、コックピットが激しく揺れた。
    「死ぬ…の…? 私…。
     消えるの…? ユリのように…」
    初めて月の賢者・八意永琳の伝記を読んで彼女のようになりたいと思ったことも。
    一人ぼっちだったところを話しかけてくれたことがきっかけで
    ユリと出会い、共に学び、遊んだ思い出も。
    死ねば全て消えてしまう。
    「嫌…!
     私が死んだら…ユリが…!」
    ユリとの思い出が消えることは、
    ユリの存在そのものが消えることに等しいとワカバは思った。
    「生きたい…死にたくない…!」
    ワカバが決意を固めるのに応じるかのように、ワカバの目に光が戻った。
    「こんなところで…負けたくない…!
     死ぬもんか…生きてやるんだァァァァ!!」
    ワカバはゼレイブのフルバースト・システムをオンにし、
    バーニア制御のペダルを目一杯踏み込んだ。

    「何っ!?」
    突然フルバーストにより光り始めたゼレイブを見て、レーアは一旦全速でゼレイブから離れた。
    「…ヤバイね、嫌な予感がする。
     態勢を建て直して再度攻撃を…!」
    そう言い終わらないうちに、猛加速したゼレイブがカイメルに追いついた。
    「逃すもんかぁぁぁ!!」
    「バカなっ! カイメルに追いつくだって!?」
    カイメルと並走しながらゼレイブが頭部のプラズマヘッドカノンを発射し、
    カイメルのバーニア部にダメージを与えた。
    「しまった!」
    速度が落ちたカイメルに向かって、ゼレイブがプラズマ・サーベルを抜き接近する。
    ゼレイブのサーベルの一線を、カイメルがプラズマ・サーベルで防ぎ、
    少しの間、鍔迫り合いをした後離れた。
    「…もう、誰も死なせやしない!」
    ワカバはゼレイブのフルドライブを、バーニアから武器に切り替え、
    プラズマ・シールドの照射方向を全面に集中させた。
    そしてそのまま、プラズマ・シールドをカイメルに向け、突撃した。
    「やぁぁぁぁ!」
    「くっ!」
    レーアのカイメルがプラズマ・サーベルで受け止めようとしたが、
    出力差によりプラズマ・サーベルを貫通し、
    ゼレイブのプラズマ・シールドはカイメルのコックピットのやや外した位置を貫いた。その衝撃でカイメルの右腕と頭部が爆発し、カイメルは動かなくなった。
    「くっ…とどめを刺しなっ!」
    レーアは敗北を察し、ワカバに向けて叫んだ。
    しかし、ワカバはフルドライブを解除して言った。
    「…殺すまではしない」
    「あたしに情けをかけるってのかい!?」
    「私たちの目的はあなたを殺すことじゃない…。
     私たちが生き伸びるために抵抗しただけ。
     戦えなくなったあなたに攻撃する意味は無いわ」
    「そんな綺麗事で!」
    「じゃあ言葉を変えるわ。
     エネルギーがもったいない!
     …これでいい? じゃあね…!」
    そう言って、ゼレイブがカイメルを蹴っ飛ばした。
    「小娘の言うことかぁぁぁ!」
    蹴られたカイメルはバーニアで姿勢制御することもできず、回転しながら離れていった。
    「野郎ども、作戦は失敗だ! 引き上げだよ!
     さっさとあたしを回収をし!」
    レーアは、かろうじて生きてた通信で叫ぶと、ため息を付いて呟いた。
    「屈辱だよ…。
     あたしに情けをかけるとはねぇ…。
     初めてだよ、そういうの…」
    その周りでは、コスモ・パイレーツのワンブが次々とカイメルに集まってきていた。

    「ちっ…撤退か…!」
    ミオは通信を聞いてワンブ・ゼロから離れ、離脱した。
    「次こそは必ず…お前を…!」
    ゼロは、そう叫び去るミオの姿に向けて言った。
    「あれが恨みの強さか…。
     ミオ…このままじゃお前が…」
    その言葉は、ミオには届かなかった。

    「ユリ…私は生きるよ。
     あなたの分まで…」
    光の灯った赤い目のまま、ワカバはゼレイブの中で呟いた。
    「ユリ…あなたが生きていたという事実を、
     消さないために…ね…」
    そう言って、ワカバはユリからもらったお守りを握りしめ、涙を流した。



    運悪くコスモ・パイレーツと幻想同盟に挟まれ形で戦うこととなったムーンライズ隊。
    その乱戦のさなか、レイセンと霖之助達は帰艦のタイミングを逃し
    農業コロニー・ガンマ3へと迷い込む。
    そこで彼らを待っていたのは、旧月面軍の軍人、バルであった。
    次回、夢幻機動ゼレイブ 第7話「ガンマ3に住む男」
    君は、月の果てに何を見るのか。



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