• 夢幻起動ゼレイブ 第11話「平和のコタえ」

    2015-12-14 18:21

    レイセンが目を覚ますと、白い天井が目に写った。
    「ここは・・・・?」
    ズキズキと痛む頭を抑えながら、レイセンは周囲を見渡した。
    清潔感のある白い部屋、白いベッド。
    医務室か病室なのだろうか。
    そして、レイセンは経緯を思い出そうとした。
    (確か・・・・敵が来て、それで・・・・)
    ワカバを置いてゼレイブに乗って、敵を倒し・・・・
    そして、救援に来た鈴仙に攻撃をした。

    「お目覚めかい?」
    病室の扉を開け、てゐが入ってきた。
    「てゐさん、ありがとうございます」
    「礼なら鈴仙の奴に言ってやりな。
     私は何もできなかったよ」
    そう言いながらてゐは棚の上のコーヒーの素を手に取り、
    コーヒーを淹れ始めた。
    (ああ、鈴仙さんを攻撃したことに
     あえて触れないでいてくれてるんだな)
    レイセンはてゐの態度から、そう読み取った。
    「そうだ、ここはどこなんですか?」
    レイセンはコーヒーをすするてゐに尋ねた。
    「ここは、人里の外れの山中。
     幻想郷軍の基地だよ」
    てゐがそう答えると同時に、部屋の扉が勢い良く開きワカバがレイセンに飛び込んできた。
    「レイ! レイ、無事だったのね!」
    (ワカバ、心配してくれてたんだ)
    レイセンの胸の中で喜びの声を上げるワカバに対し
    レイセンは素っ気ない感想を抱いた。
    「こらこら、けが人をそんなに揺らしたらダメよ」
    「あっ、八意先生! すみません…」
    ワカバから八意先生と呼ばれた人物に言われ、慌ててワカバは飛びのいた。
    「あなたは…八意さん…」
    「久しぶりね、レイセン。
     といっても、今の私の立場は幻想郷軍の総司令官ではあるけれど、
     あなたの主治医も務めさせてもらうわ」
    かつて、レイセンが幻想郷に来た時に竹林にある屋敷に世話になっていた。
    その屋敷の主とも言えるのがこの人物、八意永琳であった。
    「あなた、自分の身に何が起こったのかわかるかしら?
     …ってわかるわけ」
    「わかります。狂気の瞳が暴走したんですよね」
    永琳が尋ねるのを割り込む形でレイセンは答えた。
    「えっ…?」
    「私は敵意を感じるままにゼレイブに乗って暴れた。
     鈴仙さんが来てくれて、私を止めるために湖にゼレイブを沈めたんですよね。
     わかっています。それが私を傷つけずに意識を奪う最善手だったでしょう。
     地球降下時のショックでハッチ周りの密閉がゆるくなっていたんです。
     それを知って鈴仙さんは私を湖に…あの人は流石です。
     窒息して意識を失った私を鈴仙さんは…」
    「レ、レイ…?」
    すました顔で自分の身に起こったことを、あたかもそれを見ていた第三者のように話すレイセンに
    ワカバは少し恐怖を感じた。
    「どうしたの、ワカバ」
    「あなた、変よ…なんでそんな感じに…」
    「私は…普通だよ」

    「永琳、ありゃあどうなってるんだい?
     数日間あの子と一緒にいたがあんな奴じゃなかったぞ」
    病室の外の廊下を歩きながら、てゐは永琳に尋ねた。
    「おそらく、度重なる戦闘での頭の使いすぎだったところに
     狂気の瞳の暴走によって思考がオーバーヒートを起こした。
     その反動で、今は超冷却状態にある…ってところかしらね」
    「レイは…大丈夫なんですか?」
    「ゆっくり休めば大丈夫…と言いたかったわね」
    不安げにワカバが永琳に訊くと、深刻な顔をして永琳は答えた。
    「どういうことなんですか、八意様!」
    廊下の分かれ道から、会話を聞いていた依姫が飛び出した。
    「依姫…」
    「あの子は、どうなってしまうんですか?
     どうしたら、治すことができるんですか!?」
    必死な顔で食って掛かる依姫に対して、永琳は手を顎に当てながら答え始めた。
    「今のところは一時的な状態だと思うわ。
     だけど再度、狂気の瞳が暴走すれば…元に戻れないかもしれない」
    「えっ…」
    「鈴仙から聞いた彼女の状態は、極度の興奮状態…
     それも追いつめられた獣のような状態だったと聞くわ。
     狂気の瞳というものは、玉兎が持つ防衛本能の一種なのだけど
     そのタガが必要以上に外れてしまえば…」
    「あの暴れた時のような状態が…ずっと続くということですか?」
    ワカバが言うと、永琳は静かに頷いた。
    「ええ、恐らくは一生。
     そうなってはもう、取り返しは…」
    「そんな…」
    永琳から聞く最悪の結末に、依姫は絶句した。

    その時、永琳の持つ携帯電話がピリリと鳴った。
    「はい、こちら八意」
    「総司令! 西方面部隊からの報告が来ています」
    「わかったわ、今行くから繋いでちょうだい」
    永琳は電話を切ると、小走りに廊下の奥へと消えていった。
    「…ここにいちゃ、いけない」
    静まり返った廊下で、ワカバが呟いた。
    「え?」
    「ここにいたら、またレイは戦いに巻き込まれる…。
     戦いが起こったら…レイはまた…」
    「連れ出す…ってことかい?」
    ワカバの言っていることを、てゐが要訳した。
    「この世界なら、居場所はどこかにある…だから…」

    レイセンは、突然出してきたワカバの発案をすんなりと飲み、
    すました顔のまま、依姫に連れられ格納庫へと向かった。
    「確か、てゐさんが機体を用意してくれるって言ってましたけど…」
    「綿月の姫さん、こっちだよ」
    格納庫の奥のほうで手を振るてゐに、依姫とレイセンは駆け寄った。
    「ワンブ・ゼロ…」
    「ハッチが吹き飛んでて修理状態だから、調達はすんなりだったよ」
    「調整、終わりました」
    ワカバがワンブ・ゼロのコックピットから降りてきて言った。
    「コックピットが丸出しだから、
     くれぐれも落ちないようにだけは気をつけて」
    「ええ、わかりました。ありがとう」
    てゐと依姫は握手した。
    「ねえ、レイ…」
    ワカバが身を乗り出してレイセンの両手を握った。
    「…元気でね、レイ」
    「…?
     ワカバもね」
    レイセンの心は、ワカバの言葉からは何も感じてはいなかった。

    ビーッビーッ!
    突然鳴った警報に、通信室にいた鈴仙は仰天した。
    「何事? 敵!?」
    「い、いえ! 違います!
     ワンブ・ゼロが勝手に発進を!」
    「脱走…?」

    ワンブ・ゼロは、バーニアを吹かせて森の上を飛んでいた。
    重力下なので長時間飛べるわけではないが、慣性に身を任せるままただ前へと進んでいた。
    「風が気持ち良いわね、レイセン」
    ポニーテールをたなびかせながら、シートの脇に座る依姫が言った。
    「依姫様、どうして一緒に出てきたんですか?」
    「あなたがこうなったのも、私の為みたいなものですし…
     責任くらいは、とらないと。
     私だって、あなたを守るくらいは出来ますし…」
    ちょっと申し訳無さそうな顔で帯刀した刀をトントンと叩きつつ依姫はレイセンに答えた。
    風に吹かれて、何も考えずに前へ進む。
    レイセンは感じるままに、前へ進んでいた。
    風がレイセンの心を洗ってくれるかのように…。

    そのうち、眼下の風景は森から、小さな町に変わった。
    風景を眺めていた依姫が、突然斜め下を指差して叫んだ。
    「レイセン、あそこ!
     人が追われてる!?」
    依姫が指差した方を見ると1台のトラックのような車が
    3台の武装したバギーのような車に追われていた。
    「助けなきゃ…いけませんね」
    「レイセン…!」
    レイセンは操縦桿を握り、地上で繰り広げられているカーチェイスを追い始めた。

    「ジュンさん、もっとスピードを出して!」
    「言うがよ、妖夢の嬢ちゃん!
     これでフルスピードだ!」
    追われているトラックにのった二人の女性が言い合っていた。
    ふと、バギーに巨大な影が覆いかぶさり、
    クルマを運転しているジュンと呼ばれた隻眼の女性が窓から顔を乗り出して見上げた。
    「あ、あれは…ワンダーアーマー!?」
    助手席に座る妖夢が同じように窓から顔を出して叫ぶ。
    「プロトウェイブ…なのか…?」
    ジュンがワンブ・ゼロを見て呟いた。
    ワンブ・ゼロの頭部バルカンの発射前のキチキチという音を感じ、
    ジュンは拡声器を取り出して叫んだ。
    「撃つなっ!!」

    「えっ…?」
    レイセンは下から聞こえてきた叫びを聞き、とっさにバルカンの発射スイッチから指を離した。
    「あいつらはただの野盗だ!
     追い払うだけでいい!」
    その指示を聞き、レイセンはワンブ・ゼロの手でバギーの上を軽く払った。
    「ひ、ひええ! ワンダーアーマーなんて聞いてねえぞ!」
    身の危険を感じた2台のバギーが追うのを止め、Uターンして反対方向へと逃げていった。
    しかし、後の一台は信念があるのか、ワンブ・ゼロに突っつかれてもなおトラックを追うのを止めなかった。
    「どうすれば…」
    依姫が悩んでいると、トラックからさっきとは別の女性の声が聞こえてきた。
    「すみません! 何か刀剣のようなものはありませんか!?」
    「刀なら…」
    依姫は腰の刀を外して見せた。
    「投げてください! 必ず返します!」
    「え、ええ…?」
    依姫は、妖夢の声を信じて刀をトラックめがけて投げた。
    その瞬間、妖夢は一瞬でトラックの助手席から屋根の上に飛び乗り、空中で刀をキャッチした後
    高速でバギーを通り抜けた。
    妖夢が刀を鞘にカチンとしまうと、バギーは中央から真っ二つになり乗っていた男たちが慌てて飛び降りた。
    真っ二つになったバギーは乗り手を失い、そのまま左右に別れて倒れ、動かなくなった。
    「ちくしょう、覚えてろー!」
    バギーに乗っていた男たちは捨て台詞を言い逃げていった。
    レイセンはとっさに逃げる男たちを追おうとしたが、ジュンにとめられた。
    「そこまでする必要はない、逃がしておけ!」

    「刀、ありがとうございました」
    妖夢と名乗った女性が依姫に刀を返しながら言った。
    レイセンと依姫はバギーを追い払った後、ジュンと名乗る女性の目的地までついていき、
    機体から降りて二人に挨拶をしに来たのだ。
    「わざわざすまなかったね。
     ちょっと乱暴すぎた気もしたけど…」
    ジュンがトラックから降りて言った。
    「あの人達は…何を狙っていたんです?」
    「こいつさ」
    ジュンがそう言いながら荷台から大きな袋をドサッと落とした。
    「お米…? ごはん?」
    「こんなものを…?」
    袋いっぱいに詰まった米袋を見て、レイセンと依姫はぽかんと口を開けた。
    「ハハハ、『こんなもの』はないだろう!
     戦いが続くとね、どうしてもああいう奴らは出る。
     腹も減るし、心が荒めばしょうがないことだよ」
    ジュンがさっきまで自分たちを追っていた野盗の擁護をすることに、レイセンは驚いた。
    「私達は、避難所にいる人達のためにおにぎりを作りに来たんです」
    「避難所?」
    「あそこです」
    依姫に聞かれ、妖夢は向こうに見える大きな建物を指差した。
    「こうも戦いが続くとね、時たま近くが戦場になったりもする。
     流れ弾やなんやで家が壊された人も多くてね。
     最近はマシになったけど、壊れたものは戻らないからね」
    ジュンが避難所の方を見て言った。
    「避難所にいる人達のご飯をボランティアで作るんですよ。
     ジュンさんの家は鍛冶屋で、家事に使う熱を利用した発電機があるんです。
     その発電機で、炊飯器を…ってところです」
    妖夢がそう説明すると依姫が興味深そうに尋ねた。
    「ジュンさん…ですっけ、あなた鍛冶屋なんですか?」
    「ああ、そうだよ。それが何か?」
    「いえ、いいんです…」
    「?」
    依姫の態度に、レイセンは首をかしげた。

    「こんなところで立ち話も何だ、家に入りなよ」
    ジュンにそう言われ、レイセンと依姫は妖夢と一緒にジュンの家に上がらせてもらった。
    レイセンは、壁にかかっている写真を見た。
    若い時のジュンと男性、それから数人の子供が写っていた。
    (昔から隻眼なんだ・・・)
    レイセンが写真を見ているのに気づいたジュンがレイセンの背中をぽんと叩いた。
    「15年くらい前のだよ、これは。
     旦那は今は避難所で力仕事、子供どもは他のとこへ出てっちまった」
    「出て行った…?」
    「独り立ち。私も50過ぎて、子供はみーんな成人だ。
     あ、仲が悪かったわけじゃないぞ」
    ジュンが笑いながら説明し、奥の部屋に引っ込んだ。
    「そういえば、どうして炊飯器なんです?
     大勢の分のごはんを炊くなら、お鍋でやったほうが…」
    「ふふっ、依姫さんってキャンプとか好きなんですか?
     そういうのができる人がいれば良いけど、
     素人がやるなら大量の炊飯器に任せるほうが早いしお手軽です」
    妖夢に言われて、依姫はハッとした。
    「そういや、あんたらはこれからどうする?
     どこかへ向かっていた…ようには見えなかったが」
    両手に炊飯器を抱えたジュンが依姫に訊いたが
    どうにも事情が説明できず、二人は閉口した。
    「…ワケあり、だろうね。
     行く宛がないのなら、しばらくここで手伝ってくれないかい?
     助けてもらった恩はあるし、人手は多いほうが良い」
    「いいんですか?」
    「ああ、いいともさ。
     まずは米とぎだ。妖夢の嬢ちゃん、教えてやりな」
    「はい!」

    ジュンの家の裏手の大きな水道から出した水が
    大量のお米が入った大きな器に注がれる。
    その様子を見ながら、妖夢は依姫に質問した。
    「さっき…ジュンさんが鍛冶屋ということに
     なにか反応してたようですけれど」
    「えっ…」
    突然訊かれて、依姫はびっくりした。
    「私だって剣士のはしくれ。
     何か刀に関して悩みどころがあると見ます」
    観念したように、依姫は説明を始めた。
    「…私の刀、いわゆる神霊を宿す刀なんだけど
     最近ずっと調子が悪いんですよ。
     相当古いものだから、打ち直す必要があるのかなって思ってまして」
    「…なるほど、振った時の違和感はそれだったのですね」
    妖夢が手のひらにポン、と拳を乗せた。
    「違和感?」
    「先ほどあなたの刀を振った際、まるで棒状の風船を振った時のような
     不安定感があったんです。
     恐らく、刀に使われている金属に何か不具合が出ているのでは?」
    妖夢の指摘がピンとこず、依姫はうーんと唸った。
    「…そうなのでしょうか?」
    「あとでジュンさんに相談してみましょう。
     何かヒントが掴めるかもしれません」
    「じゃあ、そうさせてもらいます」
    二人の会話をよそに、レイセンは入り込めない雰囲気に寂しさを感じていた。

    「ふーっ! 終わりました!」
    ズラッと並んだ炊飯器全てにお米をセットし終え、依姫が一息ついた。
    「お疲れ! じゃあさっき言ってた刀の話をしようか」
    ジュンがそう言って、工房で依姫の刀を抜きいろいろと調べ始めた。
    「うーむ…」
    「…わかりますか?」
    唸るジュンに依姫が訊くと、ジュンは軽く2,3度刀を振り鞘に戻した。
    「神霊? っていうのかな。
     そいつの大きさに対して、刀のキャパシティが大きすぎるんだ」
    「…どういうことですか?」
    「ものを宿す、っていうのはまあ入れるものと器があるわけだが
     器側が大きすぎるってことだな。
     例えるなら、一人ぽつんと広い部屋にいたら落ち着かないだろう?
     それに似た現象が刀と、神霊に起こってるんだ」
    わかるような、わからないような様子でレイセンと依姫は話を聞いていた。
    「それで…どうすればいいんですか?」
    「一旦刀身をドロドロにして、神霊が宿る金属と普通の金属を混合させた刀にする…
     ってのが一番手っ取り早いね。
     妖夢の嬢ちゃんの刀もたまにそうやって調節してやってるんだ」
    「あ、あの!」
    そこまで聞いて、依姫が食って掛かるように身を乗り出した。
    「あの、その作業…私にやらせてくれませんか!」
    「えっ?」
    いきなりの勢いに、レイセンは驚いた。
    「それは…刀鍛冶を教えろって言うことかい?」
    「…はい。
     私の刀ですし…自分で面倒を見るということをやっておきたいのです。
     だから…」
    「いいよ」
    「へ?」
    ひどくあっさりと快諾したので、依姫はあっけにとられマヌケな声を出してしまった。
    「ただし、私の教えは厳しいよ!
     ギブアップはさせないし、避難所の手伝いもやってもらうからね」
    「は、はい!」
    こうして、レイセンと依姫はしばらくジュンの元で暮らすこととなった。

    炊き出し、鍛冶修行、避難所の人たちとの交流。
    そのすべてがレイセンと依姫にとって新鮮な体験だった。
    狂気の瞳のことも忘れ、レイセンは日常を謳歌した。
    そして、この街を訪れてから1周間がたった夜…。

    「…あれ? ジュンさん?」
    物音を聞いて、レイセンは布団から抜け出し家の裏手に出た。
    そこには巨大な刀に対して何かを行っているジュンの姿があった。
    「…レイセンか」
    「ジュンさん、この刀は?」
    「月面軍が発注してそれっきりになった、ワンダーアーマー用の刀さ」
    確かに、よく見てみればサイズはWAに合った大きさにも見える。
    「こいつに、依姫の刀から出た神霊が宿る金属の端材をメッキしてやってるのさ」
    「どうして?」
    「…どうしてか、ね。
     理由なんざ考えたこともなかったな。
     この刀で、どうするか…何をするか…。
     なんだったら、あのプロトウェイブに持たせてみるのもいいかもな」
    この1周間の間、ジュンはワンブ・ゼロのことをプロトウェイブと呼び続けていた。
    今までは間が悪く、聞けずじまいであったが、レイセンはこの際訊いてみることにした。

    「…プロトウェイブ、そいつがあれの…元々の名前さ」
    「元々の?
     …どうしてそれを知っているんです!?
     あなたは一体…?」
    疑問に疑問が重なり、ついレイセンはジュンの正体に踏み込んだ。
    「あんたにならバラしてもいいか。
     私は…元月面軍テストパイロット、ジュン少尉…だった」
    「あなたが…月面軍の軍人さん…?」
    ジュンは頷いて、それから続けた。
    「昔の話だ。当時、軍内で機動兵器の開発計画が進んでて
     そこでプロトウェイブのテストパイロットをしていたのが私さ。
     といっても、完成前に移動中にトラブルに巻き込まれたがな」
    ジュンは月を見上げながら言った。
    「それが事故なのか、事件だったかは知らないが
     それが元で私はこの地に落っこちちまった。
     この目はその時の傷が原因。
     月では穢れの地獄だなんだと言われてた地上だ。
     最初は震えたね、当時はまだ20超えたてのぺーぺーだ」
    自分の経歴を話すジュンの言葉に、レイセンは聞き入っていた。
    「地上に降りてすぐ私は頭の耳を外して、この地に溶け込んだ。
     待ってればいつか助けが来るか、あるいは帰れる方法が見つかるかもしれない。
     …そう思っていた」
    「でも、帰れる方法は見つからなかった…?」
    レイセンがそう訊くと、ジュンは首を横に振った。
    「地上で過ごす内に、どーでも良くなったのさ。
     月じゃ、やれ玉兎だ人間だと面倒くさいいさかいばかりだった。
     でも、地上は…この地では、人間だろうがなんだろうが
     ルールさえ守れば平等に暮らさせてくれる。
     実際、いい旦那に巡りあったし、子供もできた」
    ジュンはそこまで言うと、ふーっと溜息をつき、レイセンの顔を開いている方の目でじっと見つめた。
    「レイセン、あんたは…『平和』って何だと思う?」
    「えっ…平和…?
     争いがないとか、みんなが幸せとか…?」
    「その答えは60点だ。
     人間、大勢で生きる限り小さな諍いや小さな不幸くらいは
     いくらでも起こる。
     大切なのは、それらが理不尽に与えられない世の中ってことさ」
    「理不尽に与えられない…」
    「避難所で見ただろう。
     戦いに巻き込まれて家を失った、家族を失った連中を。
     あいつらは別に何かしたわけでも、そうなる理由や因果があったわけじゃない。
     ただ、ある日理不尽に不幸をぶっかけられちまった。
     …そういうことがあっちゃいけない。
     そういう理不尽が起こる心配をしなくてい…それが平和だと私は思っている」
    その言葉を聞いて、レイセンはこの1周間を思い出していた。
    毎日、少しづつ大変なことが起こったりはしたけれど、
    朝起きて、避難所で働いて、ご飯を食べて、夜に眠る。
    そのサイクルを疑問を抱かずに繰り返すことにどこか幸せを感じていた。
    今まで漠然と『平和のために戦う』と意気込んでいたが、
    その『平和』の一つの答えに行き着いた、とレイセンは感じた。

    その時、夜の静かな空気を一つの爆発音が妨げた。
    警報が鳴り響き、街から煙が上がる。
    「何が起こった!?」
    ジュンは立ち上がってあたりを見回したが、
    周囲では何も起こっていない。
    「あの方角…避難所じゃないですか!?」
    レイセンがひときわ大きく煙が上がっている方を指差しながら叫んだ。
    「野盗…? 違う、もっと大きな…!」
    レイセンはその最中、月明かりに浮かぶWAの姿を見た。
    「ワンダーアーマー…!」
    レイセンは、忘れかけていた戦いを思い出し、手足が震え始めた。
    膝を付いたレイセンを見て、ジュンは覚悟を決めたような顔をし、ワンブ・ゼロに駆け寄った。
    「ジュンさん!?」
    「今の私の仕事じゃないけど…な!
     少し借りるよ!」
    ジュンはそのままワンブ・ゼロのコックピットに乗り込み、
    ワンブ・ゼロが立ち上がった。
    「ハッチは閉じないか…なあに、かえって風通しが良い!」
    ジュンはそう言って家の裏手の巨大な刀をワンブ・ゼロに握らせた。
    「レイセン! あんたは妖夢と依姫を連れて逃げろ!
     私は…避難所を守る!」
    「ジュンさん!!」
    ワンブ・ゼロはバーニアを吹かし、避難所の方向へと飛び去っていった。
    レイセンは急いで妖夢と依姫を起こし、3人でトラックに乗り込んだ。
    「どこに逃げるんですか!?」
    妖夢に訊かれ、レイセンは強く答えた。
    「避難所の人たちをトラックで逃がすんです!
     理不尽を与えちゃ…いけない!」

    「食い物まで焼くんじゃあないよ!」
    避難所ではレーア率いるコスモ・パイレーツ隊のカイメルが大暴れしていた。
    逃げ惑う人々に対してバルカンを放ち、略奪を行っていた。
    「月面軍から離反したってえ食いモンがなきゃやってられないんだ。
     あたしたちにも時間がないんだよ!」
    カイメルに乗ったレーアはそう叫びつつ、避難所の建物にライフルを構えた。
    「させるかよーっ!」
    ワンブ・ゼロが体当たりでレーアのカイメルをふっ飛ばした。
    「ちいっ! 何だい!?
     なぜここにムーンライズの機体が!?」
    レーアは驚きつつも、むき出しになったワンブ・ゼロのコックピットに座る
    隻眼の女性の姿を見た。
    「ハン、乗ってるのはただの一般人かい!
     あんたたち、やつを潰しちまいな!」
    レーアの指示を受け、別のカイメルがワンブ・ゼロに向けてライフルを放った。
    ジュンはバーニアを吹かせてその場から飛びのき、ライフルを撃ったカイメルをその勢いのまま蹴り飛ばした。
    「うわあああー!」
    コックピット部分を蹴られたからか、カイメルに乗っていた兵士が投げ出され、街路樹にぶつかってそのまま落ちた。
    「痛そー…っと! 言ってる場合じゃないかっ!」
    ジュンは向き直り、別のカイメルが振りかぶるサーベルを、ワンブ・ゼロの刀で受け止めた。
    「実体剣でプラズマを受け止めた!?」
    「使いこなせはしないが、メッキに宿った神霊がプラズマとぶつかり合っているのか! 便利だな!」
    数秒の鍔迫り合いの後、刀を引きバランスを崩したカイメルの頭と腕を刀の二振りで切り落とした。

    「つ、強い…!」
    逃げる人々をトラックの荷台に案内しながら、戦いを見たレイセンが叫んだ。
    その時、流れ弾がレイセンの近くの建物に直撃し、崩れた壁が降ってきた。
    「危ないっ!!」
    ジュンがそう叫びつつワンブ・ゼロをとっさにレイセンの上に覆いかぶせ、瓦礫から守った。
    「早く逃げろ、巻き込まれるぞ!」
    「で、でも…!」
    「あなたが無理に戦う必要はないんですよ! レイセン!」
    戦場の方へ行こうとするレイセンを、依姫が止めた。

    そうしている間に、ジュンはレーアのカイメルと交戦していた。
    「フン! 只者じゃあないみたいだね!」
    「こいつ…手強い!」
    「むき出しのコックピットごとミンチにしてやるよ!」
    レーアはワンブ・ゼロのコックピットを狙うように攻撃を始めた。
    ジュンはその攻撃をさばくものの、防戦一方になっていた。
    「このままじゃ…!」
    ジュンは頬に汗を垂らした。

    「レイセン! 早く!」
    トラックに乗せられるだけ避難民を乗せた妖夢が叫ぶ。
    レイセンはただただ手足を震わせたまま、戦いを見守っていた。
    戦いに巻き込まれ徐々に壊れていく避難所を見て、レイセンは悲しい気持ちになった。
    たった一週間という短い間なれど、避難所の人たちと交流している内に
    避難所の人たちの『平和』を感じ取ったレイセンが、今それを目の前で崩されている、それも理不尽な暴力によって。
    「う…うう…!」
    哀しみが膨らみ、レイセンの目に涙が浮かんだ。
    日常が崩される、平和を壊される。
    『理不尽が起こる心配をしなくてい…それが平和だと私は思っている』
    さっき話したジュンの言葉が、レイセンの中にこだまする。
    「私は…私は…!」
    レイセンは、涙を流しながらおもいっきり叫んだ。
    「私は…『平和』を奪わせたくないっ!!」
    レイセンは道の脇に倒れている、先ほどワンブ・ゼロが蹴っ飛ばしパイロットが投げ出されたカイメルに乗り込んだ。
    ワンブ系と同じ月面軍のOSを再起動し、カイメルを立ち上がらせた。
    そのレイセンの目は、狂気の瞳の赤を放ちながらも、光を保っていた。

    「そろそろ終わりだよ!」
    疲弊し、ガードが甘くなったワンブ・ゼロのコックピットにサーベルの刃が近づく。
    その瞬間、割りこむようにレイセンの乗るカイメルがサーベルを走らせ、レーアのサーベルを弾き飛ばす。
    「その声…レイセンか!」
    「私も加勢します! ジュンさん!」
    「ありがたい!」

    「邪魔が入ったか、面白く無いねえ」
    サーベルを弾かれたレーアは一旦距離をとり体勢を立て直した。
    「相手は相当の手だれだ、どうする?」
    ジュンは背中合わせしつつレイセンに訊いた。
    「一瞬だけでも隙が作れれば、同時攻撃で行けるはずです…!」
    「よし、乗った!」
    ジュンの攻撃とレイセンの攻撃を、レーアは必死にさばいていた。
    ジュンの方にはコックピットという弱点があるがためにそれを狙ってしまい、
    そこをレイセンに邪魔されるため、なかなか決定打が撃てずにいるのだ。
    「ちょこまかと、小賢しい!」
    その中でもレーアは、コックピットを狙える一瞬の隙を見逃さなかった。
    「もらった!」
    「レイセン、今だーっ!」
    レーアがワンブ・ゼロのコックピットに攻撃を向けた一瞬に、レイセンはひときわ大きなガレキをレーアに向けて蹴っ飛ばした。
    ガレキの直撃を脇に受け、レーアのカイメルがバランスを崩す。
    その一瞬の隙にジュンとレイセンはレーアのカイメルに攻撃を仕掛け、カイメルの頭部と右足を切り落とすことに成功した。
    片足になり、バランスを崩し倒れるカイメルを抑えこみジュンはレーアをホールドアップさせた。

    戦いが終わり、レーアを含む投降したコスモ・パイレーツの兵士たちが避難所の近くに集められた。
    「チッ…あたしたちゃ負けたんだ、殺さないかっ!」
    両手を縛られそう叫ぶレーアに、ジュンはおにぎりを一つ差し出した。
    「…何のマネだい?」
    「食ってみろ」
    「…?」
    急に与えられたおにぎりを、空腹に耐えられず頬張るレーア。
    「うまいか? どうだ?」
    「…マズくはないね」
    「そうやって食ったってことは、まだあんたは生きたいって思ってるはずだ。
     あんたたちに壊された分の修繕やらで人出が足りないんだ。
     …お前たち、働いてくれないか?」
    ジュンが出した予想外の提案にレーアはあっけにとられながらも強気を崩さなかった。
    「こんな握り飯一つで懐柔するつもりかい? 私も舐められたもんだね。
     攻撃を仕掛けた側の私達が受け入れられるわけ無いだろう?」
    「それは、お前たちの心次第だ。
     生きたいと思うなら、少しくらいは抵抗してみせな」
    「…フン、わかったよ。
     ただ、うちの連中に手ェ出した日には…」
    「それはお互い様だな」
    そう言われ、観念したかのようにレーアは残ったおにぎりを、口に詰め込んだ。

    「ジュンさん、ありがとうございました」
    レーアの襲撃から数日後、依姫の刀が完成したのをきっかけにレイセンと依姫は基地に戻ることに決めた。
    「もっとゆっくりしていけばよかったのに…」
    名残惜しそうに妖夢が言った。
    「そうはいきません。
     私、自分が戦う理由見つけましたから」
    「ほう?」
    ジュンがレイセンの言葉にニヤリと笑みを浮かべた。
    「よし! じゃあ私はここでレイセン達が『平和』を作ってくれるのを待ってるとしよう。
     その刀、持っていけ」
    ジュンはワンブ・ゼロの腰に装着された刀を指差して言った。
    「いいんですか?」
    「使ってくれる方が、刀としても本望だろう。
     そいつで『理不尽』をぶった切ってやりな!」
    「…はい!」
    レイセンは依姫とともにコックピットに乗り込み、おにぎりを片手に基地の方向へと飛んでいった。



    自分の戦いを見つけ基地へと戻るレイセン。
    彼女たちを待っていたのは、月面軍の基地の場所を探るという作戦だった。
    そして迫るセイランと、仮面の女オーフェリア。
    青と赤の挟撃に、ムーンライズ隊は苦戦を強いられる。
    次回、夢幻起動ゼレイブ 第12話「赤い閃光オーフェリア」
    君は、月の果てに何を見るのか。



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  • 夢幻起動ゼレイブ 第10話「幻想の大地」

    2015-09-09 23:5411
    ぶっちゃけこのブロマガにあげているものって、小説というよりはプロットを読める形にしたような感じが強いのです。
    小説書く人に手直ししてもらいたいなと思いつつ、今日もつらつら更新します。
    試しにサービスシーンっぽいの入れてみたけど、どうだろうか。


    静かな竹林の一角でレイセンはゼレイブの調整をしていた。
    高高度からの落下にも関わらず、内部系にはあまり損傷が見られなかったのは
    柔らかい大地がもたらした奇跡なのであろうか。
    「・・・・ふう」
    レイセンはふとため息を付いた。
    ワカバから、自分がサーディスと戦った際にただならぬ気迫と攻撃でサーディスを圧倒したと聞いて
    また自分の意識とは離れた別の戦闘意識的なものが発現したのだと気が重くなった。
    コックピットの脇のパネルの蓋を閉じようとした時、外から甲高い叫び声が聞こえてきた。
    「こらーっ!
     まーた油売ってるのー!?」
    レイセンはその声を聞いて慌ててコックピットから飛び降り、声の主の方へと走り寄った。
    「てゐさん、すみませーん!」
    レイセンの向かう先には、てゐと呼ばれた背の低い女性が馬に乗って待っていた。
    「まったく、機械いじるヒマがあるなら
     収穫の手伝いでもしたら・・・・」
    てゐがそう説教しようとした矢先、レイセンは馬の左側にかかっていたバスケットを持ち上げ、そのまま走っていった。
    「これ、ワカバの分の食料ですよね?
     私が持っていきまーす!」
    「あ! レイセンお前!」
    レイセンはワカバのいる小屋に向かってさっさと走り去った。
    プラズマ・シールドを使ってワカバとともに大気圏を突破し、幻想郷に落下したレイセンは
    落下地点から近い場所に住んでいる因幡てゐという人物に助けられ、彼女のもとに身を寄せていた。
    といってもタダというわけにも行かず、彼女がやっているニンジン栽培の手伝いが条件ではあるが
    初日にやった作業の重労働さに音を上げ
    数日経った今はのらりくらりとかわしているのであった。

    「ワカバ?」
    レイセンはワカバのいる部屋の扉を開けた。
    レイセンに気づいたワカバはベッドからゆっくりと身を起こした。
    「起きれるようになったんだ」
    「まあ、なんとかね・・・・」
    月圏生まれでコロニー育ちのワカバにとって
    慣れない地球の重力というものは非常に重く
    起き上がるのすら困難なほどである。
    「レイは・・・・やっぱりすごいね」
    「私は・・・・前にも一度来たことがあるし・・・・」
    いつもなら二言目にはレイセンに悪態をつくワカバが
    弱々しくレイセンを褒めたのでとっさにレイセンは謙遜をした。
    「ううん、すごいよレイは。
     強いし、重力にも負けないし、私を助けてくれるし・・・・。
     私なんか、全然かなわないなぁ・・・・」
    ワカバらしくない言葉遣いから弱気になっていることをを察し、
    レイセンは黙ってしまった。
    「目、まだ治らないんだ・・・・?」
    黙ってうつむくレイセンの顔を見て、ワカバが言った。
    「あ・・・・うん」
    大気圏での死闘の際にサーディス相手に狂気の瞳が発動してからというもの
    レイセンの目は赤いまま元に戻らなくなっていた。
    血のような赤さを湛える目は、明らかに異質であった。
    「そ、そうだ!
     のど乾いたでしょ?
     お水持ってくるね!」
    レイセンは目のことについて深く突っ込まれたくないので
    話題を切り、水を汲みに行った。
    小屋の水道からコップに水をくみ、ついでに近くにあった空のボトルにも水を汲み
    ワカバのもとへ運んでいった。
    「はい、どうぞ。
     飲みたくなったらこのボトルの水を飲んでね」
    「あ、ありがと・・・・」
    ワカバは渡された水をゴクリと飲み込んで、プハーと一息ついた。
    「なんだか、ベッドでお世話してもらってると
     小さい時にお母さんに看病してもらったことを思い出すなぁ」
    そう、ぽつりとワカバがつぶやいた。
    「お母さん、コロニーに住んでるの?」
    「うん。デルタ14コロニーにね。
     イオタ4の学生寮に入るときに別れたきりだけど、
     地球とは反対側にあるコロニーだから戦争に巻き込まれてはいないと思う・・・・」
    寂しげな表情でそう言うワカバの姿を見て、レイセンは天井を見上げて言った。
    「いいなあ、お母さんお父さんがいるって・・・・」
    「え?」
    「私、小さいころの記憶が無いんだ・・・・。
     お母さん、お父さんが誰なのかも、どこで生まれたのかもわからないの」
    「そうだったんだ・・・・」
    突然のレイセンの告白に、内心ワカバはとても驚いていた。
    ワカバはレイセンの身の上を想像したことがなかった。
    綿月様の側近であるという地位に甘んじているだけの娘・・・・と考えていたというのもある。
    「でも、寂しくないよ!」
    同情の目でワカバに見られていることに気づいたレイセンは笑顔で言った。
    「綿月様は優しいし、ムーンライズ隊の人たちとも仲良くなったし。
     それに、今は隣にワカバもいるからね」
    ワカバもいるからね、と言われて照れくさくなって、ワカバは顔を赤くした。
    赤くなった顔をレイセンに気づかれないように、ワカバは慌てて布団をかぶった。
    「あ・・・・ゴメンね、疲れちゃった?」
    突然布団をかぶったワカバを心配してレイセンが言った。
    「ううん・・・・違うの。
     でも・・・・」
    「?」
    「・・・・ありがと」
    「どういたしまして」
    その時、外からてゐの怒鳴り声が聞こえてきたのでレイセンは慌てて立ち上がった。
    「じゃあワカバ、またあとでね!」
    そう言ってレイセンは外へ飛び出した。

    「こんなにニンジンを作って、どうするんですか?」
    畑から収穫したニンジンをカゴに入れながらレイセンはてゐに尋ねた。
    「機械に入れて加工して、月面軍の連中に売りつけるのさ。
     『キャロットスティック』つって、あいつらには大人気なのさ。
     お前さんも一本どうだい?」
    そう言いながらてゐは懐の小箱からキャロットスティックを一本取り出し
    レイセンに差し出した。
    「け、結構ですよ・・・・まだ子供だし・・・・」
    「タバコってわけじゃないんだがなぁ」
    てゐは差し出したキャロットスティックをそのまま自分の口に運び、先端に火をつけた。
    ブルルとてゐが乗っている馬もキャロットスティックを欲しがったので、
    もう一本てゐは取り出して、馬に食べさせた。
    「その動物、ウマって言うんですっけ?」
    「お馬さんだよ。
     農耕に移動に、便利なんだ。
     こいつはちょっとデカイけど、こいつを見て腰を抜かしたのは初めて見たけどね」
    「それって、私じゃなくてワカバだって!」
    ワカバは幻想郷に降り立ってすぐ、初めて見た巨大な馬を怪物と勘違いして腰を抜かしてしまったのだった。
    「ハハハ! 細かいことは気にするもんじゃないよ」
    「細かくありませんってばぁ・・・・。
     そういえばてゐさん、私たちのこと・・・・訊かないんですか?」
    レイセンは前から思っていた疑問をてゐに投げかけてみた。
    てゐはレイセンたちのことについて特に事情を聞くこともなく、
    二つ返事で世話をしてくれていた。
    「ふーっ・・・・。
     聞いて何になるんだい?
     月面軍に引き渡す?それとも幻想郷軍に?
     バカバカしいよ、カネにもなりゃしないしね。
     さ、余計なこと喋ってるヒマがあったらさっさと収穫の続きしな!」
    「あ、はーい!」

    日も沈み、夕食を済ませたレイセンは
    収穫の疲れでクタクタになった身体を布団に投げ出した。
    「ゼロさん・・・・ネイザンさん・・・・みんな大丈夫かな・・・・」
    ムーンライズが大気圏突入の際、
    ゼロやワカバの活躍もあって艦自体は妨害を受けなかったものの、
    大気圏突入の時を最後にその後を確認していないため、レイセンは心配していた。
    しばらく目をつぶっていたが、ムーンライズ隊のみんなや、自分の狂気の目について
    頭のなかが考えでいっぱいになって、寝付けないでいた。
    外の空気を吸おうと小屋の廊下を歩いていると、
    ワカバの部屋の扉が半開きになっていることに気づいた。
    「ワカバ・・・・?」
    中を覗くと、部屋の中にはワカバの姿は見られなかった。

    レイセンが小屋を出て辺りを見回すと、
    小屋からそう離れていない小さな湖の近くにワカバが脱いだであろう服を見つけた。
    パシャン、と水の音が聞こえた方を振り向くと、
    ワカバが一糸まとわぬ姿で湖を泳いでいた。
    ワカバは潜ったり浮かんだり、手で身体を洗ったり、一人で水浴びをしているようだった。
    水が滴り月明かりを受けて輝くワカバの綺麗な肌を、レイセンはしばらく見つめていた。
    「はぁ・・・・地球ってすごいなぁ・・・・」
    浮力に身を任せて仰向けで水面にぷかりと浮かんだワカバがつぶやいた。
    そして、服が風に飛ばされてないか確認するために振り向いて、
    レイセンがじっと見ていたことに気づいた。
    「っ・・・・!」
    ワカバは顔を真赤にして潜り、水しぶきを上げながらすごい速さで
    レイセンの近くの岸まで泳いできた。
    「ち、違うの! 覗いてたんじゃなくてその・・・・」
    「ば、バカ!
     女同士で何であんたまで恥ずかしがってるのよ!」
    ワカバは胸と股間を手で隠しながらレイセンに近づきながら言った。
    レイセンはワカバに近づかれて頭が真っ白になってしまった。
    「えっと・・・・」
    「服っ!!」
    ワカバは言葉が詰まったまま突っ立ってるレイセンが持ってる自分の服を
    奪うように取り上げ、そのまま草むらの中に入っていった。

    しばらくすると、濡れたまま慌てて着たからなのか湿った服を着たワカバが戻ってきた。
    時間がなかったのか髪は束ねられておらず、濡れたままの赤く長い髪が風に揺れていた。
    「・・・・何よ」
    ワカバはムスッとした態度でレイセンに訊いた。
    「あ・・・・立てるようになったんだ・・・・?」
    「少しだけね・・・・あっ!」
    突然バランスを崩して倒れそうになったワカバを、とっさにレイセンは支えてあげた。
    「あ・・・・ありがと・・・・」
    「どういたしまして」
    不器用なお礼を言うワカバに、レイセンは笑顔で返した。
    ワカバはまだ立ったままだと辛そうなので、二人は湖の岸に腰を下ろした。
    ふぅー、と溜息をついたワカバは、レイセンから顔を逸らしながら
    どうして湖にいたのかを話し始めた。
    「何日も身体洗ってなかったから、汗だけでも流そうと思って・・・・」
    「全然臭わなかったよ?」
    「そういう問題じゃない!
     ったく・・・・ホントあんたどこかズレてるわねぇ・・・・」
    そう言って、少し黙ったあとワカバは夜空を見上げた。
    「レイ・・・・地球って、すごいね・・・・」
    「え?」
    「知らない生き物がいっぱいいて、大きな生き物もいて、
     空気や水にも匂いがあって・・・・。
     さっき湖に潜ったらね、たくさん魚がいたの」
    月の、それもコロニーの中は空気は作られたもの故に澄んではいるが匂いはなく、
    水辺はほとんど用水路と下水なので、養殖以外で自然に生息している魚はすごく珍しい存在である。
    「地上は穢れてるとか言われてたけど、私はこっちの方が好きだな・・・・」
    「ワカバ・・・・」

    ドシン。
    突然地面が揺れ、湖の水面が波立った。
    「何の揺れ!?」
    「これは・・・・ワンダーアーマー・・・・!」
    そう言うレイセンの目が、光を失っていくのをワカバは見た。
    その後すぐにレイセンは立ち上がってゼレイブが置いてある方へ走り始めてしまった。
    「レイ!? 待って!」
    その後を追って、ワカバも慌てて走ろうとしたがうまく立てずに転んでしまった。

    竹林の竹をなぎ倒しながら、WAの部隊が小屋に接近しつつあった。
    隊長機から周囲の味方に通信が送られる。
    「こちらセイラン、裏切り者を発見した。
     グッドラック隊、攻撃の準備をしろ」
    セイランは通信を送ったあと、クックッと笑いながらつぶやいた。
    「連中のはぐれを捕らえる簡単な任務。
     しかも機体は新型の『レゴス』ときた。
     名をあげるにはちょっと物足りないけど・・・・!」
    セイランのレゴスを先頭に、グッドラック隊のレゴスが次々とバーニアを吹かせた。

    「おぉーい! 大丈夫かー!?」
    馬に乗ったてゐが異変を察知してワカバの元へ駆けつけた。
    「何が起こってるの・・・・?」
    「あんたたちにお客さんだよ・・・・!」
    てゐがそう言い終わらないうちに目の前の竹やぶがメキメキと音を立てて倒され、
    WA・レゴスが姿を表した。
    「ちいっ! 見つかったか!」
    「どうするの!?」
    「乗りな! 逃げるんだよ!」
    てゐはワカバに手を差し伸ばし、掴んだ腕をおもいっきり引っ張って馬の背にワカバを運んだ。
    しかし、その隙にレゴスはレールガンを二人に向け、今にも発射体制に入りつつあった。
    「やられるっ!?」
    ワカバがそう思った瞬間、ゼレイブがレゴスにタックルをして発射を阻止した。
    そのままゼレイブはプラズマ・ライフルを倒れたレゴスに向けて発射した。
    レゴスの頭部が爆発し、戦闘不能になったのを悟ったのかコックピットからパイロットが逃げていった。
    「レイ、すごい!」
    ワカバが歓喜の声を上げるが、その声はプラズマ・ライフルの発射音にかき消された。
    「許さない・・・・許さない、許さない!!」
    レイセンは叫びながらプラズマ・ライフルをひたすら打ち続けた。
    何度も何度もプラズマ弾を撃ち込まれ、レゴスが原型を失っていく。
    「レイ!? もうそいつは動かないよ!!」
    レイセンの狂気じみた攻撃に、ワカバは恐怖を感じた。
    「あの娘、ちょっとイッちゃってるみたいだね・・・・」
    「レイが・・・・イッちゃってるって・・・・?」
    「まるで戦いに取り憑かれているみたいだ。
     巻き添えを食う前に離れるよ!」
    てゐはそう言うと馬にムチを入れ、ゼレイブの遠くへ移動させた。
    「レイを置いていくの!?」
    「黙ってな、あの娘に殺されたくなけりゃね」

    ゼレイブがプラズマ弾を撃ち尽くしてもなお引き金を引き続ける背後から、
    別のレゴスがプラズマ・サーベルを構えて飛び出してきた。
    「来るなぁぁぁ!!」
    レイセンはその気配を察知し、レゴスがサーベルを振り下ろすより早く
    居合い抜きの如きプラズマ・サーベルの早抜きと、
    機体の横回転を組み合わせてレゴスを空中で胸部から横に両断した。
    天井部分が切り取られた形となったコックピットからパイロットが飛び出し、そのまま湖に落ちていき水柱を立てた。
    それと同時に今度は2機のレゴスが挟み撃ちの形でゼレイブに跳びかかったが、
    バックパックから放たれたトマホークビットと、プラズマヘッドカノンによって
    近寄る前に2機とも動かなくなった。

    「レイ・・・・?」
    ほんの数十秒という短い時間に鬼神のごとく近寄る敵を的確になぎ倒すゼレイブの動きを見てワカバは震えた。
    「・・・・イッちゃってるって意味がわかったかい?」
    てゐにそう訊かれて、ワカバは震えながら頷いた。
    「レイは・・・・どうしちゃったの・・・・?
     何があったの・・・・!?」
    「恐らくあれは・・・・狂気の瞳の暴走だよ」
    「暴走・・・・?」
    馬を湖から少し離れた高台で止め、てゐはワカバの質問に答えた。
    「戦闘による心身の高ぶりに、一種のPTSDが重なると
     戦いたいという感情と、戦いたくないという感情がぶつかり合って
     行き場を失った感情エネルギーがああいった形で表に現れる・・・・」
    次々とレゴスを破壊するゼレイブが、てゐの説明を証明するかのようだった。
    「って、あいつの受け売りだけどね」
    「あいつ・・・・?」

    『うわぁぁぁ! 脱出!!』
    通信から聞こえてくる味方が次々とやられる声に、セイランは身を震わせていた。
    まだ交戦を初めて2分と経っていないのだ。
    その短時間にすでに味方を6機も失ってしまったのだ。
    普通に考えれば退くべき事態ではあるが、実戦慣れしていないセイランには
    その判断はできなかった。
    むしろ、簡単だと思っていた任務を失敗するという不安に負けてしまっていた。
    「あいつだけは・・・・潰す!!」
    セイランのレゴスのみが持っている専用のプラズマハンマーを構え、
    バーニアを全開に吹かせて一気にゼレイブに詰め寄った。
    「もらったぁぁぁ!」
    背後からゼレイブめがけプラズマハンマーを振り下ろすセイラン。
    レイセンは超人的な反応速度でプラズマサーベルを構え、ハンマーを受け止めるが
    質量とエネルギー量に勝るハンマーの方がサーベルの刃を貫き、
    そのままゼレイブの左腕を叩き潰した。
    左腕を失ったゼレイブは宙返りの要領でレゴスに背を向け、バーニアを吹かせて一旦距離をとった。
    「逃がすかーっ!!」
    セイランが再び距離を詰めようとしたところで前方から無数の竹が飛んできていることに気づいた。
    ゼレイブが残った右腕で乱暴に竹を引き抜き、投げつけていたのだった。
    飛んでくる竹を腕で防ぎながら、セイランは前進した。
    「こんな程度の攻撃、効きは・・・・!」
    そう言い終わらないうちにゼレイブの右足の飛び蹴りがレゴスに炸裂する。
    ゼレイブは投げつけた竹にまぎれてレゴスに向かって突撃をかけていたのだった。
    「うわぁぁぁぁ!!」
    セイランはコックピットの部分を蹴りぬかれ、頑丈なコックピットの内壁に守られたまま彼方へと吹っ飛んでいった。
    「だ、脱出!」
    コックピットが地面に衝突する寸前に、セイランは脱出ポッドを起動した。
    「な、何なのよあいつ・・・・全然話が違うじゃない!!」
    脱出ポッドで逃げながら、セイランはレイセンに対しての憎しみをつのらせた。

    指揮官であるセイランが敗れたことで、残ったレゴスは辺りをめちゃくちゃに攻撃し始めた。
    流れ弾がワカバたちのいる高台の付近に着弾し、土が舞い上がった。
    「っと・・・・ここも危なくなってきたね」
    「レイは!? レイを止めなくちゃ!」
    「今の私達に何ができるっていうんだい!!
     ・・・・ん?」
    てゐが着弾した方を見ると、巻き上げられた土を被りながらうさみみの生えた少女が逃げ回っていた。
    「あの娘は・・・・?」
    「さっき湖に落ちたパイロットだよ。
     そして・・・・」
    てゐは馬を走らせ、片手でその娘を引っ掴んで辺りから離れた。
    「て・・・・てゐ様・・・・!?」
    てゐに掴まれた娘が驚いた表情でてゐを見つめていた。
    「幻想郷裏切って意気揚々と月面軍に寝返った結果がこれかい。
     情けないってレベルじゃないね」
    「知り合い・・・・なの?」
    二人のやりとりを見ていたワカバが尋ねた。
    「知り合いどころか、昔の主従さ。
     私らはあんたらで言う地上兎ってやつなんだが、
     大勢が幻想郷の不利を見て月面軍に寝返ったんだよ」
    「寝返り・・・・」
    ワカバは、自分たちが月面軍を裏切ったことを思い出していた。
    「話は後でじっくりと聞かせてもらうとして、
     あいつをなんとかしなきゃな・・・・。
     畑が潰されたら大損害だ」
    今なお暴れ続けるゼレイブの方を見ててゐが言った。
    「でも、どうやって・・・・?」
    「もうすぐ来るはずだよ、奴がね」
    「奴・・・・?」
    ワカバがわからない表情でてゐに問いかけると、いたずらっぽい笑みを浮かべててゐが答えた。
    「そう、お前たちも知っているあいつだよ」

    竹林の中をものすごいスピードで何者かのWAが駆け抜けていた。
    レゴスに乗ったパイロットがその気配を察知し、レールガンを放つが
    着弾する前にそのWAは高くジャンプし、着地とともに的確にレゴスの両腕と片足を切断し一瞬で無力化していった。
    そして、そのWAは次々とレゴスを破壊していき、ゼレイブの前に姿を表した。
    「あれは・・・・ワンブ・ゼロ!?」
    「遅刻し過ぎだよ、鈴仙!」
    ワンブ・ゼロを視界に捕らえたゼレイブはプラズマサーベルを引き抜き、バーニアを吹かせ突進してきた。
    ワンブ・ゼロはその攻撃を横に転がるように回避し、ゼレイブに向かってプラズマヘッドカノンを発射したが弾丸はゼレイブのサーベルで薙ぎ払われ防がれてしまった。
    「くっ! 目を覚ましなさい! レイセン!」
    鈴仙はゼレイブに向かって広域通信で呼びかけるが、レイセンからの返事はなかった。
    再びプラズマサーベルで斬りかかるゼレイブの攻撃をワンブ・ゼロは間一髪で避けたものの
    サーベルの刃はコックピットハッチを引き裂き、鈴仙の乗るコックピットがあらわになった。
    「ゼロ少佐!!」
    ワカバが思わず叫んだ。
    鈴仙はその方向を見て瞬時に作戦を思いついた。
    みたびプラズマサーベルで攻撃を放つゼレイブを、ワンブ・ゼロは今度はプラズマサーベルで受け止めた。
    そして、サーベルを持ってない方の腕でゼレイブの腕を掴み、
    重心をずらしそのまま横に・・・・湖に向かってゼレイブを叩き落とした。
    激しい戦闘で若干変形したゼレイブのコックピットハッチの隙間から湖の水が入り込み、
    思わず水を飲んでしまったレイセンは息ができなくなりやがて気を失った。
    ゼレイブが動かなくなった瞬間ワンブ・ゼロはゼレイブを引き上げ、コックピットハッチを無理やり開き
    鈴仙はレイセンを外に出した。
    「ハァ・・・・ハァ・・・・乱暴な手で・・・・ごめんね・・・・」
    鈴仙は息を切らしながらワンブ・ゼロから降り、気を失ったレイセンに人工呼吸を行おうとしたが
    体力がもたずにその場にへたり込んでしまった。
    「はやく・・・・蘇生しなきゃ・・・・」
    「私が・・・・やります!」
    てゐの馬からワカバが飛び降り、レイセンに駆け寄った。
    「ワカバ・・・・」
    「レイがこうなったのは・・・・私を守ろうとしたからだから・・・・」
    ワカバはそう言いながら息を大きく吸い込み、レイセンに口づけし、息を送り込んだ。
    「んっ・・・・ぷはぁっ・・・・」
    もう一度息を吸ってレイセンの口から息を送り込むと、レイセンがゲホゲホと咳込み飲んでいた水を吐き出した。
    「レイ!」
    「後は任せな」
    そう言っててゐはワカバの後を引き継ぎ、レイセンに応急処置を施した。

    「・・・・これでもう安心だよ」
    てゐがそう言ってレイセンから離れた。
    急いでワカバが駆け寄ると、レイセンはすぅすぅと寝息を立てて眠っていた。
    「よかった・・・・。
     ・・・・でもゼロ少佐、どうしてここを?」
    ワカバは鈴仙に質問すると、てゐが立ち上がって言った。
    「私が連絡したのさ」
    「てゐさんが?」
    「私とこいつは、まあ同じ屋根の下で暮らす間柄なもんでね」
    「てゐさんが!?」
    「あーもう!私が知り合いで悪いかよ!!」
    あまりにもワカバに驚かれるので、思わずてゐは怒鳴ってしまった。
    その様子を見て鈴仙から思わず笑みがこぼれた。
    「フフ、幻想郷に降り立った次の日くらいに、
     てゐからあなた達を見つけたって連絡があってね。
     WAの修理が終わり次第、急いで駆けつけたってところね」
    その話を聞いて、ワカバはとっさにムーンライズ隊の無事を訊いた。
    「あ、そうだ! ムーンライズのみんなは!?」
    「あなた達のおかげで、みんな無事に降り立つことができたわ。
     といっても、着陸の時の衝撃でムーンライズはしばらく修理が必要だけど」
    「よかったぁ・・・・綿月様やエーディンさんも無事だったのね・・・・」
    安堵するワカバの表情を見た鈴仙は、ふとてゐの後ろで座り込んでいる少女に気づいた。
    「ひっ・・・・」
    鈴仙の鋭い目に見つめられ、少女は怯えた声を出した。
    「てゐ、この娘って・・・・」
    「ああ、ウチんとこの一人だよ。
     WAに乗ってやがった」
    「そう・・・・」
    てゐの説明を受けて、鈴仙は少し落ち込んだような素振りを見せた。
    「おーい!」
    不意に空から声とブロペラの音が聞こえてきたので上を見ると、ヘリコプターからクライドが手を振っていた。

    月面軍の地上基地に逃げ戻ったセイランは、ブリーフィングルームに呼び出されていた。
    「レゴス14機に行方不明1・・・・ハデにやられたねぇ」
    仮面をつけた月面軍の兵士、オーフェリアが報告書を読みながら言った。
    「オーフェリア准将・・・・ごめんなさい!」
    「敵を二人連れ戻すにしては、犠牲が大きすぎないか?
     何かあったのか?」
    「えっと・・・・敵の角つきのWAがとんでもなく強くて・・・・」
    「ハハハハハ!」
    セイランの言い訳を聞いて、オーフェリアは思わず高笑いした。
    「おまえがバカのひとつ覚えみたいに真正面か突っ込むからこうなったんだろうが!」
    「うぅ・・・・」
    笑われながら正論を言われ、セイランは黙りこんでしまった。
    オーフェリアは落ち込むセイランの肩に腕を回し、励ますように言葉を続けた。
    「ま、過ぎたことを言ってもしょうがない。
     現在、我々の置かれている状況は悪いわけじゃあない。
     と言ってもムーンライズ隊の連中が敵軍に合流しちまったっていう懸念点もある。
     連中の動きに合わせてこちらが叩きに行く感じでしばらく様子見するのが一番だろ」
    「・・・・罰はないんですか?」
    軽い調子で話し続けるオーフェリアに、思わずセイランは尋ねた。
    「与えてどーすんのよ。
     罰を与えたら本気を出すっての? 違うだろ?
     そんなヒマがあったら失敗を取り返すつもりで働いたほうがいいって。
     といっても、お前の機体は吹き飛んじまったからしばらくは雑務をしてもらうことになるだろうが。
     次の指示が決まったらそんときゃ連絡するよ、じゃあな!」
    オーフェリアそう言ってブリーフィングルームから去っていった。
    「さーて、メシだメシだ!
     あーあ、カレシに弁当作ってもらえるやつが羨ましい・・・・」
    廊下に出ながらボヤくオーフェリアの声を聞いて、セイランはポカーンと立ち尽くしていた。



    狂気の瞳の暴走を防ぐため、
    ワカバ達によってレイセンは依姫とともにあてのない旅を始めた。
    その度の中で出会った、ジュンと妖夢という二人の女性。
    この出会いが、レイセンに何をもたらすのだろうか。
    次回、夢幻起動ゼレイブ 第11話「平和のコタえ」
    君は、月の果てに何を見るのか。


    ■登場WA紹介 その5
    【レゴス】
    月面軍が地上侵攻用に開発した新型の陸戦用WA。
    陸戦パックを装着したワンブよりも更に陸上での運動性を追求し
    ホバークラフトにより、地面から少し浮いた状態で滑るように移動することができる。
    また、ホバーに使っている足裏のエアバーニアをフルパワーで噴射することで
    高くジャンプすることも可能。
    先行量産分がセイラン率いるグッドラック隊に回されたが、
    暴走したレイセンに多くが大破させられてしまった。
    《武装》
    ●ハンドレールガン
    腰にマウントされた小型のレールガン。いざというときのサブウェポン。
    ●レールバズーカ
    巨大な弾頭を発射するレールガン機構のバズーカ砲。
    ●プラズマ・サーベル
    近接戦闘用のプラズマの刃を発するサーベル。
    ●プラズマハンマー
    セイラン機のみが装備してる高威力のハンマー。
    叩きつけると同時にプラズマエネルギーで殴打部を破壊する。

  • 夢幻起動ゼレイブ 第9話「大気圏の死闘」

    2015-08-08 10:51




    大気圏に近い宙域で、戦いが始まった。

    大気圏突破のための準備と、そのための時間稼ぎをするムーンライズ隊。
    そしてそれを阻止しようと攻撃を仕掛けるコスモ・パイレーツ。

    レーアの駆るカイメルの運動性にゼロは苦戦を強いられていた。
    「ミオの奴を軽くいなすからどれほどの腕かと思えば、
     その程度とはがっかりだね!」
    レーアはゼロを嘲笑するかのように言い放つと、カイメルの左腕に内蔵されているショックウィップをワンブ・ゼロに向けて射出した。
    ワンブ・ゼロはプラズマ・サーベルを抜き、ショックウィップをかわそうとするが、重力に引っ張られ動きが鈍りかわしきれなかった。
    ショックウィップは敵に巻きつけ高圧電流により機能不全を引き起こす武器だ。
    味方の少ない現状で受ければ逃げる手立てはない。
    重力に苦しむワンブ・ゼロに対し、カイメルは大型スラスターを複数装備し、
    大気圏付近での戦闘に特化したカスタムを施されたため、
    この環境でも高い運動性を維持できるのである。
    ムーンライズにはそのような改造を施す物資が無く、
    通常の宇宙用兵装で戦わざるをえないゼロとワカバには厳しい戦場だった。
    「くっ!」
    ゼロが反撃に転じようとした時、目の前をレールガンの弾がかすめていった。
    「無様な格好だな、鈴仙!」
    「ミオッ!!」
    レーアに気を取られるうちに、ゼロはミオに背後を取られていた。

    「当たれっ! 当たれーっ!」
    ワカバはプラズマ・ガトリングガンのトリガーを目一杯引き、
    サーディスに向けて乱れ撃った。
    しかし、サーディスは流れるような動きで攻撃を回避し、
    一瞬の隙をついてワカバに接近してきた。
    「いだたきっ!」
    サーディスがモーラ・グースのシールド・シザースを構える。
    ワカバはとっさにスラスターを噴射するとともに、
    頭部の左右に増設したプラズマガンポッドを連射しサーディスから離れる。
    放たれたプラズマ弾をシールド・シザースでガードしたサーディスは
    ハンドレールガンで牽制しながら嬉しそうにはしゃいだ。
    「フフフ! 逃げまわる獲物ほどいじめ甲斐があるわぁ!」
    「や、やられるもんかっ!」
    ワカバは、気圧されないように叫ぶが、内心は死の恐怖に震えていた。
    ユリを殺した相手と不安定な場で戦い合うという状況は
    戦闘慣れしていないワカバにとっては想像以上のプレッシャーであった。
    レールガンの掃射をプラズマ・シールドで防ぎつつワカバは体勢を整えた。

    「大丈夫かな・・・・」
    格納庫で自分の機体に乗っているパルスィがつぶやいた。
    霖之助たち待機組は、降下後のトラブルに備えて各々の機体に乗り込み
    いつでも発進できるように準備をしていた。
    「二人を信じましょう、それしか今は出来ないわ」
    「せめて宇宙用の高出力の装備があれば・・・・」
    わかさぎ姫と霖之助のぼやきを聞きながら、レイセンは壁際に座り込んでいた。
    宇宙パックを装備したゼレイブで発進すれば、ゼロとワカバを助けに行くことができる。
    しかし、コックピットで止まらない手足の震えがそれを妨げるのだ。
    ゼレイブの制御は難しいため、この不安定な状況で
    レイセン以外が乗るのは自殺行為に等しいと、整備長から予め釘を差されていた。
    レイセンは、自分の臆病さと不甲斐なさを呪った。
    ブリッジではネイザンが大気圏降下のタイミングを慎重にはかっていた。
    少しでもタイミングを逃せば、幻想郷に降下することは出来ない。
    「降下開始まであとどのくらい!?」
    「は・・・・あと5分23秒!」
    あと5分がこんなにも長く感じるなんて。
    ネイザンはそう思いつつゼロとワカバの無事を祈っていた。

    ミオの駆るペリグヴァインとレーアの駆るカイメルの
    2機に挟まれたゼロは防戦一方となっていた。
    代わる代わる交互に攻撃してくる2機。
    ペリグヴァインのレールガンをかわせばカイメルのショックウィップが
    カイメルのプラズマ・ランチャーをかわせばペリグヴァインのアサルトランサーが襲いかかる。
    ミオが新たに用意したアサルトランサーは回転するランス状の武器がついたレールガンで、遠近両用の携行武器である。
    反撃を許さない攻撃の応酬を受けながらも、ゼロは勝機を待っていた。
    「どこかに・・・・付け入る隙があるはず・・・・!」
    しかし、その間にもワンブ・ゼロに
    かわしきれなかった攻撃を受けたダメージが蓄積していく。
    「ハハハハ! 無様だなあ鈴仙!」
    ミオがその姿を見て嘲笑した。

    「くっ! ゼロ少佐が危ないってのに!」
    モーラ・グースの攻撃から逃げ回りながらワカバは叫んだ。
    敵の腕前は自分よりはるかに上。
    真正面からの殴り合いは圧倒的に不利である。
    そんなワカバを見ながらサーディスは嬉しそうに声を上げた。
    「あははっ! 鬼ごっこはいつまでやるのかな?」
    「くっ!」
    その時、レーダーに光点が3つ現れワカバの方向へ向かってきた。
    コスモ・パイレーツの増援のワンブ部隊が接近していたのだった。
    「今よ! サーディスが動くを封じている今のうちに赤いワンブを仕留めるのよ!」
    そう叫びつつ増援達はモーラ・グースの脇をすりぬけ、
    ワカバのワンブに向けレールガンを乱射した。
    いきなり乱入を受けたサーディスは、苛ついた表情でシールド・シザースを持ち上げ、増援のワンブの内一機を掴んで言い放った。
    「・・・・邪魔」
    掴まれたワンブがコックピットごと両断された。
    ワカバは断面からコックピットの中が見えたが、すぐに目をそらした。
    その様子を見た増援は蜘蛛の子を散らすようにモーラ・グースから距離をとった。
    「フフフ、聞き分けのいい子は長生きするわよ」
    「な、仲間を殺したの!?」
    「仲間・・・・? 違うね!
     私の仲間は、私だけだーっ!」
    モーラ・グースがシールド・シザースを開き、ハサミの間にある銃口からプラズマ弾を発射した。
    「くっ!」
    ワカバはとっさにシールドを展開しプラズマ弾を防いだが、
    その隙にモーラ・グースが目の前まで接近し、シールド・シザースを振りかぶっていた。
    「速いっ!?」
    「いっただき!」
    ワカバが一瞬死を覚悟したそのとき、ワカバの目が真っ赤に染まり狂気の瞳が発動した。
    その力によりシールド・シザースの動きが見えるようになった。
    プラズマ・シールドを素早く動かし、シールド・シザースをガードするワカバ。
    「あらぁ・・・・?」
    「ハァ・・・・ハァ・・・・。
     これなら・・・・少しは・・・・!」
    ワカバが反撃しようとワンブの右手でサーベルを取ろうとした。
    その時、ワカバはシールド・シザースがすでに振り下ろされる状態にあることに気づいた。
    左を防げば右に、右を防げば左に。
    狂気の瞳が発動したワカバの目でも追い切れないほどにサーディスの繰り出す攻撃は激しかった。
    今までは手を抜いていたのだろうか。
    ワカバがそう思っていたことを読み取ったのか、それに答えるようにサーディスが言った。
    「当たり前じゃなぁい!
     すぐお人形を壊したら楽しめないからね!」
    「!?
     何も言ってないのに!?」
    驚くワカバにサーディスがはしゃいだような声で答える。
    「玉兎にはテレパシー能力があるのよ!
     と言っても、使いこなせるのはあんまりいないけどねえっ!」
    モーラ・グースが一瞬離れたかと思ったら、スラスターを噴射した蹴りを放った。
    とっさの格闘攻撃に対応できず、ワカバのワンブはもろに腹部に蹴りを受けてしまった。
    攻撃を受けたショックでコックピットが激しく揺れる。
    「ガハッ・・・・!」
    衝撃で頭がクラクラするのを気合で持ち直し、再び放たれるサーディスの攻撃をシールドで防いだ。

    「捕まえたよ!」
    ペリグヴァインとカイメルの猛攻に耐えられず、ついにカイメルのショックウィップがワンブ・ゼロの右腕に巻き付いた。
    ショックウィップの高圧電流でワンブ・ゼロの右腕がショートを起こし内部パーツが火花を散らした。
    コックピット内のコンソールを見て右腕が機能停止したことを確認したゼロ。
    レーダーには反転して猛スピードで向かってくるペリグヴァインが見える。
    「ハハハハッ! これで終わりだ、鈴仙!」
    ミオはアサルトランサーのランス部分を高速回転させたまま猛スピードでワンブ・ゼロのコックピットに向けて突撃を仕掛けてきた。
    逃れようにも腕に巻きついたショックウィップと重力が動きを封じる。
    カイメルに向けてプラズマヘッドカノンを発射するも、度重なる攻撃で銃口が破損しており使い物にならなくなっていた。
    「おやおや、もう終わりかい?
     英雄だかなんだか知らないけど、あっけなかったねぇ」
    「まだ・・・・終わりじゃない!」
    レーアに対して言い返したあとゼロは無事な左腕のプラズマ・シールドを展開し、シールドの照射方向を変えてシールドブランドに変え、
    ワンブ・ゼロの右腕を根本から切り離した。
    強くショックウィップを引っ張っていたカイメルは切り離されたことでバランスを崩した。
    「バカなっ! 自分から腕を!?」
    体勢を立て直そうとするカイメルには目もくれず、ゼロは向かってくるペリグヴァインに向かって加速し、シールドブランドの根本をドリルのように回転させ始めた。
    「れいせぇぇぇぇぇん!」
    「ミオォォォ!」
    互いに猛スピードですれ違う瞬間、ゼロはアサルトランサーのランス部分にシールドブランドを引っ掛け、進行方向を少しだけ逸らした。
    そしてミオが進行方向のズレに気づいたその一瞬で機体ごと横回転し、ペリグヴァインのスラスターをシールドブランドで切断した。
    噴射していたスラスターを破壊されたことでペリグヴァインは重力から逃げられなくなり、地球へと引っ張られていく。
    「バカな・・・・私が負けた・・・・!?
     ウワァァァァ!!」
    そのままペリグヴァインは大気圏に吸い込まれやがて見えなくなった。
    「チッ、大口叩いてそのザマかい」
    消えていったミオを見たレーアは毒づいた。
    「まだやる!?」
    ゼロはレーアにシールドブランドを向けて訊いたが、レーアは興味を失ったように後退し始めた。
    「誰があんな奴のために命を張るもんかい!
     あいつがおっ死んじまったんだ。あたしらの仕事はおしまいだよ!」
    そう言うとレーアはゼロに背を向けて母艦へと飛び立っていった。
    ゼロはすぐさまムーンライズの方へとスラスターを噴射させた。

    度重なるシールド・シザースの連続攻撃に、ついにワカバのワンブのプラズマシールドが限界を迎えた。
    シールドが消えた左腕を、そのままシールド・シザースが切り裂く。
    「ああっ!?」
    「アハハ! そろそろタイムアップだね!」
    返す手でワカバのワンブの右腕を切り飛ばし、両足を一薙ぎで吹き飛ばすモーラ・グース。
    そして手足をもがれダルマとなったワカバのワンブのコックピットをシールド・シザースで甘く挟んだ。
    ワカバはコックピットのすぐ外の装甲が軋む音を聞いた。
    「い・・・・嫌・・・・!」
    「アハハハハ!
     奥の手の狂気の瞳が通用しなくて残念だったわねえ!
     狂ってるのは何もあなたの特権じゃあないのよ!」
    サーディスのその言葉を聞いて、ワカバはハッとした。
    「まさか・・・・ずっと狂気の瞳を・・・・!?」
    サーディスの異常とも言える高い操縦技術。
    狂気の瞳を発動してもなお追従する判断能力。
    それは紛れも無く狂気の瞳のものであった。
    「だ・い・せ・い・か・い!
     世の中の広さってのを少しは知るといいわ!
     といっても、もう手遅れだけどね!」
    徐々に力を加えられてコックピットの内壁が軋んできた。
    「あ・・・・ああ・・・・!」
    目前に迫る死の恐怖を前に、ワカバは声にならない声をだすことしか出来なかった。
    (た・・・・助けて・・・・!)
    その叫びも、恐怖に押しつぶされてただの呼吸音にしかならなかった。
    「フフフ、気の強さの割には可愛らしい怯え方をしてくれるじゃない!
     殺すのはもったいないわぁ・・・・
     連れて帰って私のために鳴くお人形にしてあげようかしら!
     アハハハハ!」
    サーディスの言葉も、もうワカバには聞こえなかった。
    ワカバは一心不乱に、ただ助けを願い続けた。

    『た・・・・助けて・・・・!』
    レイセンは頭のなかでワカバの悲痛な叫びを聞いた。
    と同時に、ワカバが味わっている恐怖を感じ取った。
    自身の抱く恐怖と助けに行きたいという想い。
    ワカバの助けを求める言葉と、今まさに死に瀕している恐怖。
    それらの言葉と感情がレイセンの頭のなかでグルグルと混ぜあわさり、
    レイセンの精神を蝕んだ。
    「うわぁぁぁぁぁ!!」
    「な、何!?」
    レイセンの急な叫びにパルスィたちが驚いた。
    「戦わなきゃ・・・・止めなきゃ・・・・!」
    そう呟きながら、レイセンは光を失った目でゼレイブを発進デッキに移動させ、
    そのまま強引に宇宙に飛び出した。
    ブリッジでは無許可発進を知らせる警報が鳴り響いていた。
    「何が起こったの!?」
    「は、それがゼレイブが発進しました!」
    「なんですって!?」
    オペレーターからの報告を聞き、ネイザンは慌てて叫んだ。
    「すぐに呼び戻しなさい!」
    「それが、通信が通じません!」
    間もなく大気圏突入タイミングである。
    ここを逃せば幻想郷に降りることは不可能となってしまう。
    「こちらゼロ少佐! ブリッジ、どうした!?」
    ゼロが通信でブリッジに呼びかけてきた。
    「ゼレイブが・・・・レイセンが飛び出していったの!!」
    「レイセンが・・・・?
     まさか、ワカバを助けに!?」
    ゼロはすぐに追おうとしたが、ネイザンに止められた。
    「間もなく大気圏に突入する!
     ここで行けば、もうムーンライズには戻れなくなるわ・・・・!」
    「くっ・・・・!」
    ゼロは離れていくゼレイブを見送りながら、
    ムーンライズの発進デッキから格納庫に入らざるを得なかった。

    「アハハハハ! ・・・・あら?」
    恐怖に震えるワカバを観察していたサーディスが接近するゼレイブに気がついた。
    「いいところだったのに!
     もういい 落ちちゃいなさい!」
    そう言ってサーディスはワカバのワンブを離し、地球に向けて蹴り飛ばした。
    「あああああ!」
    スラスターでの姿勢制御も効かず、ワカバは重力に引かれていく。
    「どうしてそんな残酷なことが、できるんですかあぁぁぁ!?」
    レイセンが叫びながら猛スピードでモーラ・グースに体当たりをした。
    予想していなかった原始的な攻撃方法に、サーディスは面食らい思わず声を上げる。
    「バカなの、あなた!?」
    「こんなことをしていいわけが、無いでしょうがぁぁぁぁ!!」
    ゼレイブがワカバのワンブが手放したプラズマ・ガトリングガンを左手に掴み、
    プラズマ・ライフルを右手に構え、プラズマヘッドカノンも含めてデタラメに乱れ撃った。
    すさまじい弾幕に、さしものサーディスも思わずたじろぎ、回避行動をする。
    しかし、レイセンはサーディスがどちらに逃げるかわかったかのように撃つ方向を変え、
    かわしたはずのモーラ・グースを狙い撃った。
    「そんな!? 私が読まれている!?」
    モーラ・グースは弾幕を受けてシールド・シザースが大破した。
    「逃がさない・・・・殺さないと・・・・!」
    レイセンがうつろな声を出しながらサーディスに追撃をかけようとしたその時、再びワカバの助けを求める声が聞こえてきた。
    『レイセン、助けて!!』
    その声を聞き、ハッと正気に戻ったレイセンは、
    反転して大気圏に飲み込まれつつあるワカバの方へ向かった。
    サーディスは追おうとするも、先の攻撃でスラスターがやられ、
    身動きがとれなくなっていた。
    「あの子・・・・許さないわよ・・・・!」
    サーディスは離れていくレイセンにそう吐き捨てた。

    スラスターを目一杯吹かして、レイセンはなんとかワカバの元へと追い着くことが出来た。
    が、すでにそこは大気圏。摩擦熱で機体の表面温度が上昇していく。
    「ワカバ、無事ね・・・・!」
    「レイセン、どうして死にに来るようなマネを!?」
    「ワカバが助けを求めてたから・・・・」
    「求めてないよ、バカ!
     このままじゃ二人とも死んじゃうわよ!
     バカ正直に来なくても良かったのよ!
     そしたら私だけが死んで、みんなは無事に地球に・・・・!」
    ワカバはそう乱暴に言いながらも、責任を感じていた。
    もはやスラスターの噴射では脱出できない重力圏である。
    このままではワカバもレイセンも焼け死んでしまう。
    もしも自分が助けを求めなければ、
    レイセンまで死ぬことはなかったのだと。
    絶体絶命の状況下で、レイセンはワカバとは違う声が突然聞こえてきた。『プラズマ・シールドを使うのです』
    「誰・・・・!?」
    聞いたことのあるような、懐かしいような声に導かれるように、
    レイセンはゼレイブを操作し、ワカバのワンブを抱いたままプラズマ・シールドを下に向けて展開した。
    ほんの少しだけ機体の温度上昇の速度が下がったが、焼け石に水であった。
    「レイセン・・・・!」
    「まだよ・・・・ゼレイブ、フルドライブ!!」
    レイセンがフルドライブを起動すると、プラズマ・シールドがまるで機体を包むオーラのように広がっていった。
    摩擦熱をプラズマ・シールドが吸収し、機体の温度上昇が止まった。
    「このまま・・・・このまま・・・・!」
    まるで光る流星のように、幻想郷の大地に向けて二人は落下していった。

    「幽々子様、見てください! あれ!」
    「あらまぁ、綺麗ね~」
    プラズマ・シールドに包まれて落ちる姿は、遠目には流れ星のように見えていた。
    そしてその流れ星は、幻想郷に生きる者達の目にも映っていた。
    「見て、流れ星よ。永琳」
    「姫様・・・・本当ですね・・・・」
    流れ星は徐々に地面に近づいて行った。
    「見たかよ、今の」
    「今更何が起こっても驚きゃしないわよ」
    そして・・・・。

    「う・・・・ううん・・・・」
    ワカバが目を開けると、落下の衝撃で裂けたコックピットの隙間から
    緑いっぱいの外の風景が見えた。
    「生きてる・・・・の・・・・?」
    ワカバがコックピットの外に出ようと立ち上がろうとするが、
    非常に体が重く感じ、そのまま外に倒れてしまった。
    「重い・・・・レイセンは・・・・無事かな・・・・?」
    そのまま這うように生い茂る草の上で体を動かしていると、ガサガサと物音が聞こえてきた。
    「レイセン・・・・?」
    ワカバが音のする方を見ると、そこには巨大な4本足の動物が立っていた。
    実際にはその動物には人のようなものが乗っていたのだが、ワカバはそのことに気づく余裕はなかった。
    ヒヒィーン!!
    「きゃああああぁぁぁぁ!!!」
    動物が鳴き声を上げたのと同時に、ワカバは我慢しきれずに叫び声を上げた。




    幻想郷へと降り立ったレイセンとワカバ。
    二人はてゐと名乗る幻想郷の住人のもとで
    働きながらもムーンライズの行方を調べる。
    しかし、彼女たちの前に月面軍の刺客が迫っていた!
    次回、夢幻起動ゼレイブ 第10話「幻想の大地」
    君は、月の果てに何を見るのか。



    ■登場WA紹介 その4
    【ペリグヴァイン】
    「月面の白き隼」の異名を持つ月面軍のエースパイロット
    ミオが搭乗するワンブのカスタム機。
    機体はパーソナルカラーの白に染められ、
    各部のパーツはミオの操縦技能に合わせてピーキーな調整を施されている。ミオの技量もあり様々な新武装のテストを任されることも多く、
    メタルハーケンやアサルトランサーといった新兵器は優先的に回される。
    《武装》
    ●ハンドレールガン
    腰にマウントされた小型のレールガン。いざというときのサブウェポン。
    ●メタルハーケン
    月面軍の新兵器のひとつ。先端がT字になったナイフのような形状を持つ。
    ●アサルトランサー
    月面軍の新兵器のひとつ。アサルトレールガンとランスの複合武器。