• 夢幻起動ゼレイブ 第9話「大気圏の死闘」

    2015-08-08 10:51




    大気圏に近い宙域で、戦いが始まった。

    大気圏突破のための準備と、そのための時間稼ぎをするムーンライズ隊。
    そしてそれを阻止しようと攻撃を仕掛けるコスモ・パイレーツ。

    レーアの駆るカイメルの運動性にゼロは苦戦を強いられていた。
    「ミオの奴を軽くいなすからどれほどの腕かと思えば、
     その程度とはがっかりだね!」
    レーアはゼロを嘲笑するかのように言い放つと、カイメルの左腕に内蔵されているショックウィップをワンブ・ゼロに向けて射出した。
    ワンブ・ゼロはプラズマ・サーベルを抜き、ショックウィップをかわそうとするが、重力に引っ張られ動きが鈍りかわしきれなかった。
    ショックウィップは敵に巻きつけ高圧電流により機能不全を引き起こす武器だ。
    味方の少ない現状で受ければ逃げる手立てはない。
    重力に苦しむワンブ・ゼロに対し、カイメルは大型スラスターを複数装備し、
    大気圏付近での戦闘に特化したカスタムを施されたため、
    この環境でも高い運動性を維持できるのである。
    ムーンライズにはそのような改造を施す物資が無く、
    通常の宇宙用兵装で戦わざるをえないゼロとワカバには厳しい戦場だった。
    「くっ!」
    ゼロが反撃に転じようとした時、目の前をレールガンの弾がかすめていった。
    「無様な格好だな、鈴仙!」
    「ミオッ!!」
    レーアに気を取られるうちに、ゼロはミオに背後を取られていた。

    「当たれっ! 当たれーっ!」
    ワカバはプラズマ・ガトリングガンのトリガーを目一杯引き、
    サーディスに向けて乱れ撃った。
    しかし、サーディスは流れるような動きで攻撃を回避し、
    一瞬の隙をついてワカバに接近してきた。
    「いだたきっ!」
    サーディスがモーラ・グースのシールド・シザースを構える。
    ワカバはとっさにスラスターを噴射するとともに、
    頭部の左右に増設したプラズマガンポッドを連射しサーディスから離れる。
    放たれたプラズマ弾をシールド・シザースでガードしたサーディスは
    ハンドレールガンで牽制しながら嬉しそうにはしゃいだ。
    「フフフ! 逃げまわる獲物ほどいじめ甲斐があるわぁ!」
    「や、やられるもんかっ!」
    ワカバは、気圧されないように叫ぶが、内心は死の恐怖に震えていた。
    ユリを殺した相手と不安定な場で戦い合うという状況は
    戦闘慣れしていないワカバにとっては想像以上のプレッシャーであった。
    レールガンの掃射をプラズマ・シールドで防ぎつつワカバは体勢を整えた。

    「大丈夫かな・・・・」
    格納庫で自分の機体に乗っているパルスィがつぶやいた。
    霖之助たち待機組は、降下後のトラブルに備えて各々の機体に乗り込み
    いつでも発進できるように準備をしていた。
    「二人を信じましょう、それしか今は出来ないわ」
    「せめて宇宙用の高出力の装備があれば・・・・」
    わかさぎ姫と霖之助のぼやきを聞きながら、レイセンは壁際に座り込んでいた。
    宇宙パックを装備したゼレイブで発進すれば、ゼロとワカバを助けに行くことができる。
    しかし、コックピットで止まらない手足の震えがそれを妨げるのだ。
    ゼレイブの制御は難しいため、この不安定な状況で
    レイセン以外が乗るのは自殺行為に等しいと、整備長から予め釘を差されていた。
    レイセンは、自分の臆病さと不甲斐なさを呪った。
    ブリッジではネイザンが大気圏降下のタイミングを慎重にはかっていた。
    少しでもタイミングを逃せば、幻想郷に降下することは出来ない。
    「降下開始まであとどのくらい!?」
    「は・・・・あと5分23秒!」
    あと5分がこんなにも長く感じるなんて。
    ネイザンはそう思いつつゼロとワカバの無事を祈っていた。

    ミオの駆るペリグヴァインとレーアの駆るカイメルの
    2機に挟まれたゼロは防戦一方となっていた。
    代わる代わる交互に攻撃してくる2機。
    ペリグヴァインのレールガンをかわせばカイメルのショックウィップが
    カイメルのプラズマ・ランチャーをかわせばペリグヴァインのアサルトランサーが襲いかかる。
    ミオが新たに用意したアサルトランサーは回転するランス状の武器がついたレールガンで、遠近両用の携行武器である。
    反撃を許さない攻撃の応酬を受けながらも、ゼロは勝機を待っていた。
    「どこかに・・・・付け入る隙があるはず・・・・!」
    しかし、その間にもワンブ・ゼロに
    かわしきれなかった攻撃を受けたダメージが蓄積していく。
    「ハハハハ! 無様だなあ鈴仙!」
    ミオがその姿を見て嘲笑した。

    「くっ! ゼロ少佐が危ないってのに!」
    モーラ・グースの攻撃から逃げ回りながらワカバは叫んだ。
    敵の腕前は自分よりはるかに上。
    真正面からの殴り合いは圧倒的に不利である。
    そんなワカバを見ながらサーディスは嬉しそうに声を上げた。
    「あははっ! 鬼ごっこはいつまでやるのかな?」
    「くっ!」
    その時、レーダーに光点が3つ現れワカバの方向へ向かってきた。
    コスモ・パイレーツの増援のワンブ部隊が接近していたのだった。
    「今よ! サーディスが動くを封じている今のうちに赤いワンブを仕留めるのよ!」
    そう叫びつつ増援達はモーラ・グースの脇をすりぬけ、
    ワカバのワンブに向けレールガンを乱射した。
    いきなり乱入を受けたサーディスは、苛ついた表情でシールド・シザースを持ち上げ、増援のワンブの内一機を掴んで言い放った。
    「・・・・邪魔」
    掴まれたワンブがコックピットごと両断された。
    ワカバは断面からコックピットの中が見えたが、すぐに目をそらした。
    その様子を見た増援は蜘蛛の子を散らすようにモーラ・グースから距離をとった。
    「フフフ、聞き分けのいい子は長生きするわよ」
    「な、仲間を殺したの!?」
    「仲間・・・・? 違うね!
     私の仲間は、私だけだーっ!」
    モーラ・グースがシールド・シザースを開き、ハサミの間にある銃口からプラズマ弾を発射した。
    「くっ!」
    ワカバはとっさにシールドを展開しプラズマ弾を防いだが、
    その隙にモーラ・グースが目の前まで接近し、シールド・シザースを振りかぶっていた。
    「速いっ!?」
    「いっただき!」
    ワカバが一瞬死を覚悟したそのとき、ワカバの目が真っ赤に染まり狂気の瞳が発動した。
    その力によりシールド・シザースの動きが見えるようになった。
    プラズマ・シールドを素早く動かし、シールド・シザースをガードするワカバ。
    「あらぁ・・・・?」
    「ハァ・・・・ハァ・・・・。
     これなら・・・・少しは・・・・!」
    ワカバが反撃しようとワンブの右手でサーベルを取ろうとした。
    その時、ワカバはシールド・シザースがすでに振り下ろされる状態にあることに気づいた。
    左を防げば右に、右を防げば左に。
    狂気の瞳が発動したワカバの目でも追い切れないほどにサーディスの繰り出す攻撃は激しかった。
    今までは手を抜いていたのだろうか。
    ワカバがそう思っていたことを読み取ったのか、それに答えるようにサーディスが言った。
    「当たり前じゃなぁい!
     すぐお人形を壊したら楽しめないからね!」
    「!?
     何も言ってないのに!?」
    驚くワカバにサーディスがはしゃいだような声で答える。
    「玉兎にはテレパシー能力があるのよ!
     と言っても、使いこなせるのはあんまりいないけどねえっ!」
    モーラ・グースが一瞬離れたかと思ったら、スラスターを噴射した蹴りを放った。
    とっさの格闘攻撃に対応できず、ワカバのワンブはもろに腹部に蹴りを受けてしまった。
    攻撃を受けたショックでコックピットが激しく揺れる。
    「ガハッ・・・・!」
    衝撃で頭がクラクラするのを気合で持ち直し、再び放たれるサーディスの攻撃をシールドで防いだ。

    「捕まえたよ!」
    ペリグヴァインとカイメルの猛攻に耐えられず、ついにカイメルのショックウィップがワンブ・ゼロの右腕に巻き付いた。
    ショックウィップの高圧電流でワンブ・ゼロの右腕がショートを起こし内部パーツが火花を散らした。
    コックピット内のコンソールを見て右腕が機能停止したことを確認したゼロ。
    レーダーには反転して猛スピードで向かってくるペリグヴァインが見える。
    「ハハハハッ! これで終わりだ、鈴仙!」
    ミオはアサルトランサーのランス部分を高速回転させたまま猛スピードでワンブ・ゼロのコックピットに向けて突撃を仕掛けてきた。
    逃れようにも腕に巻きついたショックウィップと重力が動きを封じる。
    カイメルに向けてプラズマヘッドカノンを発射するも、度重なる攻撃で銃口が破損しており使い物にならなくなっていた。
    「おやおや、もう終わりかい?
     英雄だかなんだか知らないけど、あっけなかったねぇ」
    「まだ・・・・終わりじゃない!」
    レーアに対して言い返したあとゼロは無事な左腕のプラズマ・シールドを展開し、シールドの照射方向を変えてシールドブランドに変え、
    ワンブ・ゼロの右腕を根本から切り離した。
    強くショックウィップを引っ張っていたカイメルは切り離されたことでバランスを崩した。
    「バカなっ! 自分から腕を!?」
    体勢を立て直そうとするカイメルには目もくれず、ゼロは向かってくるペリグヴァインに向かって加速し、シールドブランドの根本をドリルのように回転させ始めた。
    「れいせぇぇぇぇぇん!」
    「ミオォォォ!」
    互いに猛スピードですれ違う瞬間、ゼロはアサルトランサーのランス部分にシールドブランドを引っ掛け、進行方向を少しだけ逸らした。
    そしてミオが進行方向のズレに気づいたその一瞬で機体ごと横回転し、ペリグヴァインのスラスターをシールドブランドで切断した。
    噴射していたスラスターを破壊されたことでペリグヴァインは重力から逃げられなくなり、地球へと引っ張られていく。
    「バカな・・・・私が負けた・・・・!?
     ウワァァァァ!!」
    そのままペリグヴァインは大気圏に吸い込まれやがて見えなくなった。
    「チッ、大口叩いてそのザマかい」
    消えていったミオを見たレーアは毒づいた。
    「まだやる!?」
    ゼロはレーアにシールドブランドを向けて訊いたが、レーアは興味を失ったように後退し始めた。
    「誰があんな奴のために命を張るもんかい!
     あいつがおっ死んじまったんだ。あたしらの仕事はおしまいだよ!」
    そう言うとレーアはゼロに背を向けて母艦へと飛び立っていった。
    ゼロはすぐさまムーンライズの方へとスラスターを噴射させた。

    度重なるシールド・シザースの連続攻撃に、ついにワカバのワンブのプラズマシールドが限界を迎えた。
    シールドが消えた左腕を、そのままシールド・シザースが切り裂く。
    「ああっ!?」
    「アハハ! そろそろタイムアップだね!」
    返す手でワカバのワンブの右腕を切り飛ばし、両足を一薙ぎで吹き飛ばすモーラ・グース。
    そして手足をもがれダルマとなったワカバのワンブのコックピットをシールド・シザースで甘く挟んだ。
    ワカバはコックピットのすぐ外の装甲が軋む音を聞いた。
    「い・・・・嫌・・・・!」
    「アハハハハ!
     奥の手の狂気の瞳が通用しなくて残念だったわねえ!
     狂ってるのは何もあなたの特権じゃあないのよ!」
    サーディスのその言葉を聞いて、ワカバはハッとした。
    「まさか・・・・ずっと狂気の瞳を・・・・!?」
    サーディスの異常とも言える高い操縦技術。
    狂気の瞳を発動してもなお追従する判断能力。
    それは紛れも無く狂気の瞳のものであった。
    「だ・い・せ・い・か・い!
     世の中の広さってのを少しは知るといいわ!
     といっても、もう手遅れだけどね!」
    徐々に力を加えられてコックピットの内壁が軋んできた。
    「あ・・・・ああ・・・・!」
    目前に迫る死の恐怖を前に、ワカバは声にならない声をだすことしか出来なかった。
    (た・・・・助けて・・・・!)
    その叫びも、恐怖に押しつぶされてただの呼吸音にしかならなかった。
    「フフフ、気の強さの割には可愛らしい怯え方をしてくれるじゃない!
     殺すのはもったいないわぁ・・・・
     連れて帰って私のために鳴くお人形にしてあげようかしら!
     アハハハハ!」
    サーディスの言葉も、もうワカバには聞こえなかった。
    ワカバは一心不乱に、ただ助けを願い続けた。

    『た・・・・助けて・・・・!』
    レイセンは頭のなかでワカバの悲痛な叫びを聞いた。
    と同時に、ワカバが味わっている恐怖を感じ取った。
    自身の抱く恐怖と助けに行きたいという想い。
    ワカバの助けを求める言葉と、今まさに死に瀕している恐怖。
    それらの言葉と感情がレイセンの頭のなかでグルグルと混ぜあわさり、
    レイセンの精神を蝕んだ。
    「うわぁぁぁぁぁ!!」
    「な、何!?」
    レイセンの急な叫びにパルスィたちが驚いた。
    「戦わなきゃ・・・・止めなきゃ・・・・!」
    そう呟きながら、レイセンは光を失った目でゼレイブを発進デッキに移動させ、
    そのまま強引に宇宙に飛び出した。
    ブリッジでは無許可発進を知らせる警報が鳴り響いていた。
    「何が起こったの!?」
    「は、それがゼレイブが発進しました!」
    「なんですって!?」
    オペレーターからの報告を聞き、ネイザンは慌てて叫んだ。
    「すぐに呼び戻しなさい!」
    「それが、通信が通じません!」
    間もなく大気圏突入タイミングである。
    ここを逃せば幻想郷に降りることは不可能となってしまう。
    「こちらゼロ少佐! ブリッジ、どうした!?」
    ゼロが通信でブリッジに呼びかけてきた。
    「ゼレイブが・・・・レイセンが飛び出していったの!!」
    「レイセンが・・・・?
     まさか、ワカバを助けに!?」
    ゼロはすぐに追おうとしたが、ネイザンに止められた。
    「間もなく大気圏に突入する!
     ここで行けば、もうムーンライズには戻れなくなるわ・・・・!」
    「くっ・・・・!」
    ゼロは離れていくゼレイブを見送りながら、
    ムーンライズの発進デッキから格納庫に入らざるを得なかった。

    「アハハハハ! ・・・・あら?」
    恐怖に震えるワカバを観察していたサーディスが接近するゼレイブに気がついた。
    「いいところだったのに!
     もういい 落ちちゃいなさい!」
    そう言ってサーディスはワカバのワンブを離し、地球に向けて蹴り飛ばした。
    「あああああ!」
    スラスターでの姿勢制御も効かず、ワカバは重力に引かれていく。
    「どうしてそんな残酷なことが、できるんですかあぁぁぁ!?」
    レイセンが叫びながら猛スピードでモーラ・グースに体当たりをした。
    予想していなかった原始的な攻撃方法に、サーディスは面食らい思わず声を上げる。
    「バカなの、あなた!?」
    「こんなことをしていいわけが、無いでしょうがぁぁぁぁ!!」
    ゼレイブがワカバのワンブが手放したプラズマ・ガトリングガンを左手に掴み、
    プラズマ・ライフルを右手に構え、プラズマヘッドカノンも含めてデタラメに乱れ撃った。
    すさまじい弾幕に、さしものサーディスも思わずたじろぎ、回避行動をする。
    しかし、レイセンはサーディスがどちらに逃げるかわかったかのように撃つ方向を変え、
    かわしたはずのモーラ・グースを狙い撃った。
    「そんな!? 私が読まれている!?」
    モーラ・グースは弾幕を受けてシールド・シザースが大破した。
    「逃がさない・・・・殺さないと・・・・!」
    レイセンがうつろな声を出しながらサーディスに追撃をかけようとしたその時、再びワカバの助けを求める声が聞こえてきた。
    『レイセン、助けて!!』
    その声を聞き、ハッと正気に戻ったレイセンは、
    反転して大気圏に飲み込まれつつあるワカバの方へ向かった。
    サーディスは追おうとするも、先の攻撃でスラスターがやられ、
    身動きがとれなくなっていた。
    「あの子・・・・許さないわよ・・・・!」
    サーディスは離れていくレイセンにそう吐き捨てた。

    スラスターを目一杯吹かして、レイセンはなんとかワカバの元へと追い着くことが出来た。
    が、すでにそこは大気圏。摩擦熱で機体の表面温度が上昇していく。
    「ワカバ、無事ね・・・・!」
    「レイセン、どうして死にに来るようなマネを!?」
    「ワカバが助けを求めてたから・・・・」
    「求めてないよ、バカ!
     このままじゃ二人とも死んじゃうわよ!
     バカ正直に来なくても良かったのよ!
     そしたら私だけが死んで、みんなは無事に地球に・・・・!」
    ワカバはそう乱暴に言いながらも、責任を感じていた。
    もはやスラスターの噴射では脱出できない重力圏である。
    このままではワカバもレイセンも焼け死んでしまう。
    もしも自分が助けを求めなければ、
    レイセンまで死ぬことはなかったのだと。
    絶体絶命の状況下で、レイセンはワカバとは違う声が突然聞こえてきた。『プラズマ・シールドを使うのです』
    「誰・・・・!?」
    聞いたことのあるような、懐かしいような声に導かれるように、
    レイセンはゼレイブを操作し、ワカバのワンブを抱いたままプラズマ・シールドを下に向けて展開した。
    ほんの少しだけ機体の温度上昇の速度が下がったが、焼け石に水であった。
    「レイセン・・・・!」
    「まだよ・・・・ゼレイブ、フルドライブ!!」
    レイセンがフルドライブを起動すると、プラズマ・シールドがまるで機体を包むオーラのように広がっていった。
    摩擦熱をプラズマ・シールドが吸収し、機体の温度上昇が止まった。
    「このまま・・・・このまま・・・・!」
    まるで光る流星のように、幻想郷の大地に向けて二人は落下していった。

    「幽々子様、見てください! あれ!」
    「あらまぁ、綺麗ね~」
    プラズマ・シールドに包まれて落ちる姿は、遠目には流れ星のように見えていた。
    そしてその流れ星は、幻想郷に生きる者達の目にも映っていた。
    「見て、流れ星よ。永琳」
    「姫様・・・・本当ですね・・・・」
    流れ星は徐々に地面に近づいて行った。
    「見たかよ、今の」
    「今更何が起こっても驚きゃしないわよ」
    そして・・・・。

    「う・・・・ううん・・・・」
    ワカバが目を開けると、落下の衝撃で裂けたコックピットの隙間から
    緑いっぱいの外の風景が見えた。
    「生きてる・・・・の・・・・?」
    ワカバがコックピットの外に出ようと立ち上がろうとするが、
    非常に体が重く感じ、そのまま外に倒れてしまった。
    「重い・・・・レイセンは・・・・無事かな・・・・?」
    そのまま這うように生い茂る草の上で体を動かしていると、ガサガサと物音が聞こえてきた。
    「レイセン・・・・?」
    ワカバが音のする方を見ると、そこには巨大な4本足の動物が立っていた。
    実際にはその動物には人のようなものが乗っていたのだが、ワカバはそのことに気づく余裕はなかった。
    ヒヒィーン!!
    「きゃああああぁぁぁぁ!!!」
    動物が鳴き声を上げたのと同時に、ワカバは我慢しきれずに叫び声を上げた。




    幻想郷へと降り立ったレイセンとワカバ。
    二人はてゐと名乗る幻想郷の住人のもとで
    働きながらもムーンライズの行方を調べる。
    しかし、彼女たちの前に月面軍の刺客が迫っていた!
    次回、夢幻起動ゼレイブ 第10話「幻想の大地」
    君は、月の果てに何を見るのか。



    ■登場WA紹介 その4
    【ペリグヴァイン】
    「月面の白き隼」の異名を持つ月面軍のエースパイロット
    ミオが搭乗するワンブのカスタム機。
    機体はパーソナルカラーの白に染められ、
    各部のパーツはミオの操縦技能に合わせてピーキーな調整を施されている。ミオの技量もあり様々な新武装のテストを任されることも多く、
    メタルハーケンやアサルトランサーといった新兵器は優先的に回される。
    《武装》
    ●ハンドレールガン
    腰にマウントされた小型のレールガン。いざというときのサブウェポン。
    ●メタルハーケン
    月面軍の新兵器のひとつ。先端がT字になったナイフのような形状を持つ。
    ●アサルトランサー
    月面軍の新兵器のひとつ。アサルトレールガンとランスの複合武器。


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  • 夢幻機動ゼレイブ 第8話「束の間の静寂」

    2015-05-29 00:591

    意外と苦戦した日常パート。
    せっかく新しい公式の玉兎兵が出たんだし、しっかり出してあげないとねっ。
    やりたい話が迫ってて楽しみである。
    あと、キャラクター紹介(ar778224)にキャライラストが追加されました。
    感想をいただけると励みになります。
    匿名の方がいい方はブログhttp://touhoualive.blog124.fc2.com/までどうぞ




    豊姫は明かりを付けず、暗い自室で通信のチャンネルをつないだ。
    画面には『リュンナ基地司令部』と表示されている。
    「オーフェリア准将」
    「なんだ、お前さんか」
    オーフェリアと呼ばれた通信の相手は、
    顔の上半分を隠す仮面をつけたまま、砕けた口調で豊姫に話し始めた。
    「なあ、地上に応援を送ってくれない?
     最近、地上人どもの抵抗が激しくて兵が疲弊しているんだ」
    「でも、戦線の維持はできているんでしょう?」
    「そうだが、かなりカツカツだよ。
     なにせ、イーグルラヴィの連中まで戦いに駆り出しているくらいでさ」
    「イーグルラヴィって、諜報部の?」
    「ああ。
     以前の地上の作戦の時に戦闘経験を得た連中を
     ワンダーアーマーに乗せてるのさ」
    オーフェリアはペラペラと紙をめくるような音をさせながら、静かに報告を始めた。
    「例えば数日前、イーグルラヴィのセイラン曹長が地上の兎を
     月面軍に引き入れることに成功したなぁ」
    「地上の兎…以前レイセンが隠れ蓑にしていた連中ね」
    「そうなのか?
     まあいいや、引き入れた兵たちはセイラン曹長共々リンゴ中尉に任せた。
     セイラン曹長を隊長に、『グッドラック隊』って名前にしてな」
    「いいじゃないの」
    「それほどやらなきゃ戦線が維持できないんだよ」
    オーフェリアは通信機越しにため息を付いた。
    オーフェリアはこの戦争において地上部隊の司令官を務めている。
    豊姫は、そんなオーフェリアに対して苦言を呈した。
    「こちらも今、幻想同盟の攻撃を凌ぐために兵を割かなければならないの。
     手の開いている兵は新兵ばかりだし。
     それに、今ひとつ面倒事を抱えていてね…」
    「面倒事?」
    「ええ、ムーンライズという新造艦の部隊が
     新型のWAをごっそり抱えて幻想郷に亡命しようとしているの」
    「面倒事どころじゃない、一大事じゃねーか」
    「現在、コスモパイレーツに追わせているけれど、
     なにぶん新型のWAな上、精鋭ばかりで苦戦しているのよ」
    「コスモ・パイレーツってーとあの悪名名高い…。
     って…精鋭ばかり? 何があったんだ?」
    「貴女が気にすることじゃないわ」
    豊姫の物言いにエーディンは引っかかるものを感じた。
    精鋭ほどの人物が何人も敵に亡命するなんて普通はありえないからである。
    「で、その連中はこっちに向かっているんだろう?
     私らが相手をしなくてもいいのか?」
    「地上に降下した場合は任せるわ」
    「あ、ああ…わかったよ」
    「それじゃ、例のコスモパイレーツと通信しなければいけないから
     通信を切るわよ」
    「お、おい、ちょっと…」
    オーフェリアの声を無視して、豊姫は通信を切った。
    その後すぐにコスモパイレーツの旗艦レゴリスに通信を繋いだ。
    「レーア中佐、応答しなさい?」
    「ああ…豊姫さんかい」
    「ムーンライズの始末に手こずっていると聞いているけれど
     連中はもう地球近海まで来ているんでしょう?
     このままじゃ地球に降りられてしまうわ」
    「仕方ないだろう?
     こちとら少ない人員でやりくりしてるんだよ。
     あんたがよこした大佐さんも敵の一人に執着するばかりで
     まるで役に立たないときた」
    「ミオが? 鈴仙にかしら?」
    「さあね、あたしの知ったこっちゃないよ」
    豊姫はしばらく考えた後、レーアに言った。
    「じゃあミオに伝えてちょうだい。
     サーディスを貸すから、今度こそムーンライズを沈めろってね。
     そして、もしもムーンライズの地球降下を止められなかったら、
     私のところに戻ってこいとね」
    「へぇ? お仕置きでもしてやるのかい?」
    「フフ、秘密よ」
    不敵な笑いを浮かべ、豊姫は通信を切った。

    「ったく、何考えてるんだいあのお姫さまは」
    通信を切られて、レーアはブリッジで悪態を付いた。
    コスモパイレーツとして、反政府運動を行うグループの粛正、
    密輸団の輸送船の攻撃、事故死に見せかけての汚職高官の抹殺など
    これまで汚れ役として数々の任務を行ってきたレーアであるが、
    幻想郷に投降しようとしているとはいえ、
    豊姫が実妹である依姫を簡単に切り捨てるような命令を下すこと。
    そして、不穏な動きを見せる幻想同盟と豊姫が裏で繋がっているという噂。
    月の汚い部分を散々見てきたレーアの目には、
    今の豊姫は非常に不気味な存在に見えていた。
    「そろそろ、あたし達も身の振り方を考えた方が良さそうだねえ…」
    誰にも聞こえないような小さな声でレーアはつぶやいた。
    「さっきの通信、豊姫様からか?」
    そんな事情を知らないミオが、ブリッジに入ってきて訊いた。
    「ハッ! そうだよ。
     あんたの扱いに関してのお話さ」
    「それで、何と?」
    「ふっ、サーディスとかいうのを寄越すとさ。
     それと、地球降下までにムーンライズを止められなきゃ
     あんたは終わりだともね」
    「何?」
    レーアは、わざとミオに嘘を混ぜたの情報を教えた。
    嘘というよりは、今の豊姫なら確実にそうするであろうというレーアの予想であった。
    「サーディスというのが誰かは知らないけどさ、
     今のこちらの状態だと、次に仕掛けられる頃には
     向こうは大気圏に突っ込んじまってるがどうすんだい?」
    1回目のムーンライズへの襲撃による損傷は激しく、
    特に攻めの要となるレーアのWA、カイメルの修復にはかなりの時間を要していた。
    「だったら、大気圏に突入するそのときに襲撃する」
    「正気かい!?
     そんなことしたら、ヘタすりゃあたしらが地球に落っこちて
     おっ死んじまうよ!」
    「だからこそ、奴らは襲撃を予想してないはず。
     このまま引き下がるわけにはいかない…!」
    「チッ、つきあっちゃられないね。
     あたしらはあんたと一緒に心中するほど
     お人好しじゃあないよ」
    「心配は無用よ、そう言うと思って作戦をある程度考えてある。
     サーディスが使えるなら、より良くなる作戦がね」
    「ほう、聞かせてもらおうじゃないか」
    レーアはミオの話す作戦に耳を傾けた。

    ガンマ3から無事に戻ったレイセンたちは、
    ムーンライズの格納庫に集まっていたみんなに歓迎された。
    「レイセン…あなたが無事で、本当に良かった…!」
    「わわっ、苦しいですよ依姫様!」
    ゼレイブから降りたレイセンは依姫に強く抱きつかれうれしい悲鳴を上げた。
    「ったく、心配かけやがって!」
    エーディンも嬉しそうにレイセンに向かって言った。
    その脇で、整備長が霖之助に声をかけていた。
    「坊主ども、よく無事だったのう?」
    「ああ、それがだね…」
    霖之助はガンマ3で起こったことについてを話した。

    「幻想同盟の兵士は旧月面軍の兵士だったのね…」
    霖之助の話を聞いたネイザンが言った。
    これまで得体の知れなかった敵の正体が、同じ月の人間だというのは
    エーディン達、月出身者にはショックな事実であった。
    霖之助が話している間、俯いていたレイセンに依姫が声をかけた。
    「レイセン、どうしたの?」
    「私…わからなくなっちゃいました…」
    「え?」
    「WAに乗っている人たちのこと…
     今まで考えずに戦ってきました。
     けれど、月面軍の人たちはもちろん、
     幻想同盟の兵士の人も、私たちと同じ
     血の通った人間だったってわかってしまった…。
     彼らにも、ちゃんとした理由があって、
     月に不満があって戦いに身を投じている…」
    今までレイセンは、月面軍のWAに対してはコックピットを外して攻撃するなど、
    極力殺傷を避けるように攻撃していたが、
    幻想同盟のWAには容赦なく攻撃をしていた。
    敵だとはいえ、殺していた相手が人間であるということにショックを受けていたのだった。
    「だとしても、敵として襲ってくる以上、身を守るためにも戦わなければいけない」
    「それだけじゃないんです」
    ゼロの言葉を遮るように、レイセンが続けて話した。
    「私…ガンマ3での戦闘で、魔導兵器に捕まったバルさんを
     魔導兵器ごと撃とうとしてしまったんです…」
    「その時は、僕が止めたからよかったけど…」
    「怖いんです…!
     たまに自分じゃない誰かが私に人を殺させようとするような…。
     自分が自分じゃなくなるような感じがするんです…!
     そんな私が…他人の命を背負うなんて…怖いんです…」
    レイセンは涙を流しながら自分の身に起こっている不可思議なことを訴えた。
    「レイ…」
    初めて見るレイセンが落ち込む姿に、ワカバは言葉が出なかった。
    エーディンはレイセンに駆け寄り、彼女の頭を撫でながらゼロに提案した。
    「戦いが続いて、レイは疲れてるんだ。
     しばらく休ませてやったほうがいいんじゃないか?」
    「ふむ…そうだな…」
    エーディンの言うことも最もだといった風に、ゼロが頷いた。
    「なあに、レイが抜けても大丈夫よ。
     ゼロ少佐に戦いの訓練をさせてもらってるし、
     私のワンブ・カスタムもあるからね」
    「ワンブ・カスタム?」
    ワカバの言葉にパルスィが首を傾げた。
    「フフフ、狂気を克服したワカバ嬢のために
     わしらが腕によりをかけてワンブを改良したんじゃよ!」
    整備長がそう叫びながら指さした先には、
    格納庫のハンガーに赤色に塗装されたワンブが立っていた。
    皆がワンブ・カスタムに目を向けたのを確認して、整備長が熱く解説を始めた。
    「プラズマ・シールド発振機をつけるついでに、
     秘蔵のプラズマ・ガトリングガンを装備させ
     さらに宇宙パックを固定することで推進力はゼレイブにも匹敵ィ!
     カラーはワカバ嬢のパーソナルカラーに…!
     …コホン、というわけじゃ」
    周囲の雰囲気を察し、整備長は興奮を抑え説明を終えた。
    「ワカバは戦うこと、平気なの…?」
    レイセンは涙を抑えながらワカバに聞いた。
    「割りきれているわけじゃないけれど、
     こっちがどう思っていようと敵は殺しに来るのよ。
     相手がかわいそうだからって殺されるほど
     お人好しじゃないわ。
     それに…」
    ワカバは、そこで一呼吸置いた。
    「私が死んだら…ユリの死が無駄になるから…!」
    「ユリの…」
    レイセンはユリが謎の緑色の機体の攻撃から
    ワカバを庇って死んだことを思い出した。
    「ユリが守ってくれた命…
     それに報いるためにも、私はこの戦争を終わらせなきゃいけないのよ…!」
    「…!」
    ワカバがユリとの思い出の首飾りを握りしめながら話した信念に、
    レイセンは心が震えた。
    レイセンは、今まで流れのまま言われるままに戦ってきており、
    何のために戦うのかという理由を持っていなかった。
    一連の話を聞いたゼロは、レイセンに問いかけた。
    「レイセン、お前はどうだ」
    「えっ…?」
    「周りに流されるままに戦いを続ければ、今のように限界が来る。
     精神か肉体…あるいはそのどちらか…」
    「戦う理由を見つけろと…言うんですか?」
    「そう感じたのなら、それを考えろ」
    「…」
    戦う理由、と言われレイセンは閉口した。
    「おい、ちょっと待てよ!
     なんでレイを戦わせる前提なんだ!」
    ゼロのレイセンに対する態度にエーディンが怒りを露わにして突っかかった。
    「ゼロ少佐、あんたレイを戦いの駒みたいに
     思ってるんじゃないか?」
    「…なぜそう思う?」
    「レイが戦いに疲れて病んでいるのに、
     戦いの理由を考えろだって?
     少しはレイの気持ちを考えてやれよ!」
    「そこまで言うことはないんじゃないか…?」
    憤慨するエーディンをクライドが抑えようとするが、
    エーディンの怒りは収まらなかった。
    「レイ、お前は部屋で休んでいろ。
     ここにいたら、ゼロに無理矢理戦わされるぞ!」
    「あ…エーディンさん…!」
    そう言って、エーディンはレイセンの手を引いて格納庫を去っていった。
    「レイセン、待って!」
    二人を追って、依姫も格納庫を出て行った。
    「…嫌われたかな?」
    そう苦笑するゼロを、ネイザンがフォローした。
    「エーディン准尉、アルファ11を出てから…
     ユリを喪ってからあなたに不満があるみたい…」
    「わからなくもない…。
     私が捕まったことが原因で、ユリが死んだようなものだからな…」
    ゼロは俯いて呟いた。
    重い空気に耐えられず、わかさぎ姫が提案した。
    「このまま行けば、幻想郷に降りるまで
     敵の攻撃は受けないんでしょ?
     その間に、仲直りした方がいいと思うな…」
    「そうなの?」
    攻撃を受けないということに関して、パルスィが訪ねた。
    その質問には、クライドが答えた。
    「ああ、追ってきているコスモ・パイレーツ隊の
     これまでの損傷具合から、
     敵が再び攻撃してくる頃には、こちらは大気圏突破中だ。
     その状況で攻めてくるような自殺行為はしないだろう…ってさ」
    「時間があるんだったら仲直りするなら
     レイセン達が落ち着くのを待ったほうがいいわね。
     こういう時に物事を解決できるのは、時間だけよ」
    ネイザンはそう言ってブリッジへと戻っていった。
    それにつられてか、格納庫に集まっていた人たちも
    各々持ち場に戻っていった。
    一人格納庫に残されたゼロは、大きくため息を付いて呟いた。
    「果たして、ミオが諦めるかどうか…」

    エーディンに無理やり個室に連れて来られたレイセンは
    促されるままに一人ベッドに横になった。
    「お前が気にすることはない。
     ゼレイブだって、他のやつが乗ればいいんだ」
    エーディンは、慰めるつもりでそう言った。
    「あはは…」
    「レイセン、大丈夫?」
    レイセンが苦笑いしたタイミングで、依姫が部屋に入ってきた。
    「依姫様…」
    「ごめんなさい、私のせいでこんなことになって…」
    そう言って頭を下げる依姫を、慌ててエーディンが止めた。
    「あ、頭を上げてくださいよ!
     どうして依姫様が謝るんです?」
    「私がレイセンをイオタ3に連れてこなければ…。
     アルファ11で皆で逃げようなんて言い出さなければ
     あなた達はこんな目に合うことにならなかったかもしれない…。
     私のせいで…」
    自分のしたことを思い出し、落ち込みながら話す依姫。
    エーディンは少し今までを振り返りながら反論した。
    「確かに、始まりはそうだったかもしれませんよ。
     ですけどね、レイセンがいなかったら俺はゼレイブごと
     幻想同盟に殺られちまってたし、
     アルファ11でもそのままいたらゼロ少佐だけじゃなく
     俺らまで殺されちまうところだったんですよ。
     あんまり悲観しないでくださいよ、依姫様は俺らの旗印なんですから…」
    「エーディン准尉…ありがとう…」
    エーディンの素直な言葉に、依姫は少し励まされたようだった。
    「よしてくださいよ…。
     俺は本当に、レイに感謝しているんですから」
    「えっ…?」
    急なエーディンからの感謝の言葉に驚くレイセンに
    エーディンは自分の思いを打ち明けた。
    「実は俺…迷っていたんですよ。
     学校を出て、勢いで軍に入っちまったはいいけど、
     このままでいいのかなって…。
     そこでレイに出会って、こいつが小さな体で頑張る姿を見るうちに
     負けてられないな…って思ってね。
     初めて、軍人として戦うことの意義を見つけたというか、
     自分よりも幼いレイが頑張っているのに
     俺がそんな中途半端でいいのかって思ったというか…。
     まあ、うまく言葉には出来ねえんですがね」
    エーディンは、ベッドに腰掛けて天井を見上げながら続けた。
    「そして、ユリを喪ってさ…。
     あんな小さな娘が犠牲になるなんて、とんでもないことだ。
     こんな戦争、早く終わらせなきゃいけないって思ってさ。
     もう、誰も死なせないために戦おうって思ったんですよ」
    「エーディン准尉…」
    「ハハハ…俺、バカだから変なこと言ってるかもしれないけど、
     俺の戦う理由は、レイやワカバのような若い連中を
     これ以上犠牲にしたくない…ってとこです。
     そのためなら、相手が元同胞でも…俺は戦います」
    「…すごいな、エーディンさんは」
    エーディンの話を聞いたレイセンはポツリと呟いた。
    「私なんて、人を傷つけることが怖くなって…
     戦いで人を傷つける権利が私にあるのかって、
     死んだ人の命を背負うことが私にできるのかって…。
     そう思っちゃってグルグルして、わけがわからなくなっちゃってるのに…。
     エーディンさんは自分の意志で、戦う覚悟ができてるもん」
    「何も、戦うだけができることじゃないぜ」
    レイセンが話していると、突然レイセンたちのいる部屋をクライドが訪れた。
    「クライドさん、どういうことですか…?」
    「あのなー…戦いに出れない俺が
     ただ艦内でぶらぶらしてるだけだと思ってるのか?
     聞き耳を立てるつもりはなかったんだが、聞こえちまったからには
     ちょいと世話位はしてやるよ、と。
     ついてきな」
    そう言って、クライドは廊下を進みだしたので、
    レイセンたちもクライドを追いかけて部屋を出た。

    クライドが案内した先は、ムーンライズの厨房だった。
    厨房のテーブルには、簡単な料理や、作りかけの料理が並んでいた。
    「これ、もしかしてクライドさんが作ったんです?」
    「まあな。
     一人で暮らしてると、これくらい出来なきゃいけないもんでさ。
     まあ、大人数分作るのは慣れてないから練習中だけど…。
     ヘリしか操縦できない俺は戦いじゃ役に立てない。
     だから、こういった形で手伝いをしてるってわけだ」
    そうクライドが話している間、依姫は作りかけの料理をジーっと見ていた。
    「どうした姫さん、珍しいのか?」
    「いえ、月にいた時は料理人が作った完成品しか見たことなかったので
     作りかけの料理っていうものを見たことがなくて…」
    「ハハハ! 月の姫さんってのは相当豪華な暮らししてたんだな」
    クライドに笑われて、依姫は顔を赤くして反論した。
    「わ、私だって何も出来ないわけじゃないですよ!
     ちょっと私にも手伝わせてください!
     綿月の家の者として、料理のひとつくらい作れるようになりますよ!」
    「ええっ!?」
    「そうですね…そこの野菜を調理します!
     道具を貸してください!」
    そう言って依姫は箱に入っているジャガイモを取り出して
    クライドに道具の催促をした。
    急な依姫の行動に、クライドは困惑していた。
    「芋の皮むきなら、助かるんだけど…困ったなあ」
    「私も…お手伝いします」
    レイセンも依姫に続く形でジャガイモを手にとった。
    二人の行動に、エーディンはあきれ果てていた。
    「おいおい、皮むき大会でもするのか?」
    「しょうがない…ほら、皮むき器だ」
    そう言って、クライドは厨房の引き出しから皮むき器を3つ取り出して
    テーブルの上に並べた。
    「…一つ多くないか?」
    エーディンがクライドに尋ねた。
    「ここに来たからには手伝ってもらうぞ」
    「…俺も?」
    「3人でやれば、早く済むだろ。
     どうせ暇してるんだったら手伝いな」
    「おーい…」
    しぶしぶエーディンも皮むき器を手に取り、ジャガイモに向かい始めた。
    「まあまあ、そうボヤくなよ。
     戦いの中じゃ、こういうのは結構和むぜ」
    「そうかなあ…」
    ブツブツと文句をいうエーディンの傍らで、
    依姫とレイセンは真剣な眼差しでジャガイモの皮を剥いていた。
    その姿を見たエーディンは、ため息をつきつつも皮むきに専念し始めた。

    その頃、暇を持て余したワカバは格納庫に戻ってきていた。
    工学系の学校に通っていたワカバは、整備長の話を聞くのが楽しみになっていた。
    「爺さーん…あれ?」
    整備長に声をかけようとしたが、ワカバは整備長の周りに
    霖之助とパルスィとわかさぎ姫がいることに気づいた。
    「爺さん、4人で何してるの?」
    「おお、ワカバの嬢ちゃん。
     ちょうど今、彼らの機体を調べててわかったことがあっての」
    「わかったこと?」
    ワカバの質問に答える代わりに、整備長は巻かれた紙を懐から取り出し、
    彼女たちの前に広げた。
    紙にはレックス、プテロス、エラスモと書かれていた。
    霖之助は整備長に文字の意味を尋ねた。
    「整備長、これは?」
    「3号機のデータを解析してて発見したんじゃが、
     PVAシリーズには開発ネームが決まっていたのじゃよ!」
    「開発ネーム?」
    聞きなれない単語に、わかさぎ姫が首を傾げた。
    「正式な名称が決まるまで、開発中の機体につける名前じゃよ。
     いつまでも1号2号じゃあ、格好が付かないからの。
     霖之助君の1号機がレックス、
     パルスィちゃんの2号機がプテロス、
     わかさぎちゃんの3号機がエラスモじゃ」
    「これは…恐竜の名前かな?」
    「霖之助君、当たりじゃよ。
     きっとアルファ7の開発主任あたりが好きだったんじゃろう」
    「なぁ~んだ、第三の変形形態でも見つかったのかと
     ワクワクしてたのにぃ」
    予想と外れた答だったので、パルスィがすねた。
    「そもそも変形機能自体が整備士泣かせなもんじゃから
     たとえ見つかったとしても教えてやらんもーん!」
    「あっ! このジジイ!」
    ガヤガヤと口喧嘩をするパルスィと整備長を見ながら、ワカバがふと思いついた疑問をぶつけた。
    「思ったんだけど、何で月と地球で恐竜の名前が同じなの?」
    「そういえばそうね、偶然にしては不思議ね」
    ワカバの疑問にわかさぎ姫も同調した。
    「それに関しては、こういう説があるんだ」
    霖之助がその疑問に答えるように説明を始めた。
    「八意女史の持っている月の資料とかを見て気づいたんだけど、
     ペンは月でもペンだし、リンゴは月でもリンゴと呼ばれているんだ。
     もしかしたら、人間の文化っていうものは始まりが違っても、
     ある程度発達すると決まった一つの結果に収束するんじゃないかってね」
    「どういうこと?」
    「例えば、僕らの名前とかは外界の日本という国の名付けが非常に近い。
     同じように、依姫さんとかも日本の名付けに近い名前になっている。
     これは、月と地球で全く始まりの違う文化だけど、
     そのなかで同じ日本的な文化が生まれたということの証拠かもしれないんだ」
    「要するに、車を作ろうと思ったらどちらの文化でも最終的に4輪の車ができるし
     鉛筆をつくろうと思ったら鉛の周りに木を固める方法に行き着くということじゃな」
    「う~ん、わかったようなわからないような…」
    難しい話についていけず、パルスィは頭を抱えた。
    「まあ、要するにこれからはこのコードネームで呼ぶように
     艦長たちにも伝えておるから間違えんようにな!」
    「レックス、プテロス、エラスモかぁ…」
    ワカバは何度も言うことで機体の名前を頭に叩き込んでいた。

    「痛っ!」
    依姫が手を滑らせて皮むき器で指をけがしてしまった。
    「依姫様、大丈夫ですか!?」
    「あーあー…血が出てるな。
     これくらいだったら絆創膏貼れば大丈夫だ」
    「ごめんなさい…」
    クライドに絆創膏を貼ってもらいながら思わず依姫は謝ってしまった。
    「いやいや、おかげで助かったよ。
     これでしばらくは楽ができる」
    「役に立てたんだ…」
    レイセンが嬉しそうな顔で言った。
    「戦いだけができることじゃない。
     こういう風に手伝うこともできるからな。
     思いつめる必要はないんだぜ」
    「あの…ありがとうございます」
    ピピピッピピピッ!
    レイセンがお礼を言ったタイミングで、ネイザンの艦内放送が流れた。
    「地球が大きく見える位置まで来たわよ。
     見たい人はブリッジから見ていいわよ」
    「地球が?」
    「レイ、行こうぜ」
    「はい!」
    そう言って、レイセン達は厨房を後にした。

    「わぁー! おっきい!」
    ブリッジの窓から見える地球の大きさに、ワカバが感嘆の声を上げた。
    「すごい…月から見たのと、ぜんぜん違う!」
    ブリッジクルーも口々に感動の言葉を言った。
    その様子を見ていた依姫は、ゼロに尋ねた。
    「あなたも初めて地球に来た時、この風景に感動したの?」
    「いや、そんな余裕はなかったさ…」
    依姫にそう言うと、ゼロはマイクをネイザンから借りて
    全員に向かって話し始めた。
    「これより、大気圏に突入し幻想郷へと降下する。
     降下した後、八意永琳率いる幻想軍と合流し
     彼女らの作戦に協力する予定となっている。
     総員、大気圏突入準備にかかれ!」
    「イエス・マム!」

    同じ頃、レゴリスの艦内ではレーアやミオ達が出撃準備にかかっていた。
    「この状況で戦いをしかけた例は存在しない。
     だからこそ手はず通りに頼むよ」
    「しつこいねぇ、わかっちゃいるよ!
     言っとくけどあんたと一緒に大気圏で心中するつもりはないからねぇ、
     危なくなったらさっさと退かせてもらうよ!」
    「フフフ、そんなことはいいから早く出ましょうよ!」
    レーアの声を遮るように先ほど合流したサーディスが言った。
    「お前は私たちの邪魔をする連中を好きに料理しろ、いいわね?」
    「アハハ! わかったわ!」
    そう言うと、サーディスは一足先に
    緑色の機体『モーラ・グース』をカタパルトに移動させた。
    「サーディス、モーラ・グース! 出るわよ!」
    「ミオ、ペリグヴァイン! 出る!」
    「レーア、カイメル! 出るよぉ!」
    次々とレゴリスからコスモ・パイレーツ隊のWAが発進していった。

    「艦長! 敵機の接近を確認! 数は…8機!」
    「なんですって!」
    オペレーターの急な報告に、ネイザンは驚愕した。
    大気圏に近いこの空域では、地球の重力に引かれて落下し
    大気圏の熱で燃え尽きる可能性が高いのだ。
    大気圏降下のタイミングとは、もっとも艦が無防備になるが
    戦闘を仕掛けるにももっとも危険なタイミングである。
    「全パイロットに次ぐ! 敵機の接近を確認!
     ゼロ、ワカバの両名は発進準備にかかれ!
     目的は敵機の撃墜でなく、大気圏突入までの時間稼ぎである!
     重力に引っ張られないことと、帰艦のタイミングを見逃すな!」

    「…やはり来たか!」
    格納庫内で放送を聞いたゼロはワンブ・ゼロに乗り込みながら言った。
    「どうして僕らは出られないんだ!」
    「言ったっておめぇ!
     PVAの3機はスラスターの推力不足で
     うかつに出たら重力を振りきれず地球へ真っ逆さまだ!」
    「くそっ…!」
    そんな整備長と霖之助たちが言い合っている傍ら、
    レイセンも格納庫に来ていた。
    「お前は待機だ、レイセン。
     そんな精神状態で出るのは危険だ」
    「心配しなくても、私たちで抑えてみせるわよ!」
    「…二人とも、ご無事で!」
    レイセンに見送られ、ゼロとワカバが発進していった。

    宇宙空間に出たゼロは重力に引っ張られないようにスラスターを目一杯噴射しながら辺りを見回した。
    「ミオ…どこからくる!?」
    「残念だったねぇ…あんたの相手はあたしさ!」
    そう言って、レーアの駆るカイメルがバズーカ砲を構えてワンブ・ゼロに接近してきた。

    「ゼロ少佐!」
    「あらあら、悲鳴の聞きがいのある獲物だこと!」
    ゼロを心配するワカバの前に、サーディスのモーラ・グースが現れた。
    「緑色の機体…まさかユリを殺した!」
    「あら~私いちいち殺した相手のことは覚えられないのよ~。
     というわけで、お死になさい!」
    そう言ってサーディスがワカバに向かってシールド・シザースを開きながら襲いかかった。

    そして、その戦場をミオが離れて傍観していた。
    「ここで終わらせるよ、ムーンライズ!」



    死と隣合わせの大気圏付近で地球の重力と
    コスモ・パイレーツの挟撃にさしものゼロも苦戦を強いられる。
    そしてワカバにもサーディスの毒牙が伸び、
    絶体絶命のピンチに、レイセンが覚悟を決める。
    次回、夢幻機動ゼレイブ 第9話「大気圏の死闘」
    君は、月の果てに何を見るのか。



    ■登場WA紹介 その3

    カイメル
    コスモ・パイレーツ隊の隊長、レーアの専用機。
    量産型ワンブをベースに、鹵獲した幻想同盟の機体や
    魔導兵器から優れたパーツだけを取り、組み込んだ機体。
    そのため外見はアンバランスであるが、最高水準のパーツの集合体のため
    性能は飛び抜けて高く、また低出力の連射式ではあるがビーム兵器も内蔵している。
    敵機を破壊するよりも、適度にダメージを与え鹵獲しやすくする武器に偏っている。

    《武装》
    ビーム機関砲
    胸部に固定された低出力ビームを連射する機関砲
    拡散バズーカ弾
    発射されると小型弾頭を放射する弾丸を放つバズーカ砲
    ショックウィップ
    手の甲部分から射出される電撃のワイヤー。
    プラズマ・サーベル
    ワンブのものと同じプラズマの刃を発するサーベル。
    プラズマ・ランチャー
    バズーカ砲をプラズマ発射モードに切り替えることで大型プラズマ弾を発射できる。

    モーラ・グース
    狂化兵士サーディスに与えられた緑色の専用機。
    右腕部に大型の盾形状になっており、盾を展開することで
    強力な近接武器シールド・シザースとなる。
    頭部の造形がワンブ系列とは異なっており、
    どちらかと言うとバラムに近い形状となっている。

    《武装》
    ●スパークウィップ
    左腕部の手の甲部分から射出される電撃のワイヤー。

    ハンドレールガン
    ワンブのものと同じ携行型の実体弾兵器。
    シールド・プラズマキャノン
    展開したシールドの間から発射される高威力のプラズマ砲。
    シールド・ブレイド
    シールドを閉じたままシールドの周辺をプラズマ・ブレード化してそのまま切り裂く。
    シールド・シザース
    展開したシールドの間に敵を挟み両断する強力な近接武器。









  • 夢幻機動ゼレイブ 第7話「ガンマ3に住む男」

    2015-05-03 23:141


    久しぶりの更新です。
    まー好き勝手進めていきます。
    幻想郷に舞台が移れば東方キャラの出番もあるんですがねぇ。
    感想をいただけると励みになります。
    匿名の方がいい方はブログhttp://touhoualive.blog124.fc2.com/までどうぞ

    燃え盛る平野、あたりに散らばる仲間の死体。
    無機質な音を立てて近づく魔導兵器、響いては消える断末の声。
    「人間を…殺セ!」
    「人間ヲ…殺せ…!」
    魔導兵器がそう聞こえるかのような音を出しながら近づいてくる。
    逃げようと思っても、足がすくんで動けない。
    叫ぼうと思っても、か細い声は辺りの音にかき消されてしまう。
    「い…イヤ…!」
    「人間ヲ…殺せ…!」
    「人間ヲ…殺せ…!」

    「いやああぁぁぁ!!」
    鈴仙は悲鳴をあげながらベッドから飛び起きた。
    静寂と暗い部屋が、先の光景が夢であったことを教えてくれるようだった。
    「また、か…」
    もう夢で何度見たかわからない過去のビジョン。
    魔導戦争の恐怖は、あれから十数年経とうとも彼女の記憶から消えることはなかった。
    寝直す気分にもなれず、寝汗でべたつく寝間着を脱ぎ捨て
    鈴仙はいつもの服とサングラスを身につけ、ゼロの姿で廊下に出た。
    ゼロは外の見える窓に腰掛けると、懐の箱からオレンジ色の小さな棒を取り出し、
    口に咥えてライターで先端に火をつけた。
    「よう、ゼロの大将。夜更けに一服かい?」
    廊下の奥から皿を持って歩いてきたクライドが言った。
    「…タバコじゃないぞ?」
    「え? どう見てもタバコにしか見えないが…」
    「知り合いが作ったキャロットスティックだ。
     ニンジンの線香みたいな嗜好品だとさ」
    「確かに、ニンジン臭いな」
    クライドはゼロの隣に腰掛け、皿に盛っていた何かを口に運んだ。
    「ところで、えーっと…」
    名前を言いかけて詰まるゼロに苦笑しながらクライドが返した。
    「…クライドだ。
     まあ、大して活躍してないからな…」
    「…すまない」
    ゼロは、素直に謝罪した。
    「仕方ねえよ、宇宙じゃあヘリ乗りに出番はないしな」
    「じゃあ、どうして救出作戦に?」
    「…誰かがやらなきゃいけなかったんだ。
     んで、行けるようなのが俺だけだっただけさ。
     こんな危険な任務には、俺みたいな独り身の人間くらいがちょうどいいのさ」
    クライドは苦笑混じりに遠くを見つめながらそう言うと、ゼロに向かい直した。

    「ところで、さっき何にうなされていたんだ?」
    「…」
    「いや、スマン…。
     話したくないのなら…」
    「…いや、いいだろう」
    閉口するゼロに、クライドは慌てて話を変えようとしたが、
    ゼロは気にすることなく話し始めた。
    「そうだな…。
     魔導戦争は知っているか?」
    「月のでっかい戦争だっけか?」
    「それほど単純ではない…な。
     月の歴史上初めての、人間と機械の戦争だ」
    「人間と機械…」
    そう呟くクライドに、ゼロは説明を続けた。
    「巨大な機械の軍勢に対し、我々は銃を持つだけの生身の兵士…。
     力の差は圧倒的だった。
     文字通り肉の壁で侵攻を防ぐ程にな…。
     その時の恐怖が、今も消えないんだ」
    フゥー、とゼロがニンジン臭い息を吐き出した。
    クライドは、こんなに強そうな人にも深く心に傷を負っているのかと思った。
    いや、心に傷を負っているからこそ強いのかもしれない。
    「…結局、敵のマシーンを狂わせられる
     コンピューター・ウィルスを使うことで
     同士討ちをさせて、勝利をおさめることができたが…。
     私は、当時の仲間をネイザン以外全員喪ってしまった…」
    「そうか…そういうことが…」
    「私くらいの歳の玉兎兵はみんな経験していることさ…」
    そう言うと、ゼロは短くなったニンジンスティックを
    火の着いた先端を残して噛みちぎり、落ちた先端を灰入れの小箱にポンと入れた。
    「フ、これで満足か?」
    「あ、ああ…」
    ゼロに真っ直ぐ見られて、クライドはたじろいだ。
    「…過去を思い返しても仕方がない。
     今は、レイセンたちの無事を祈ろう」
    「そうだな…。
     霖之助、パルスィ…くたばんじゃねえぞ…!」
    二人は窓の外の宇宙を見ながら言った。

    「おーい、レイー!
     霖之助ー! パルスィー!
     生きてたら返事しろー!」
    エーディンは、スカイイーターでムーンライズの周辺宙域を探しまわっていた。
    しかし、その通信での呼びかけに返ってくる声はなかった。
    「ちくしょー…どこまで流されたんだ…!?」
    そう呟きながらも、エーディンは通信を飛ばし続けた。

    「う、ううん…」
    レイセンが目を覚ますと、目の前には知らない天井が広がっていた。
    「ここは…?」
    そう言って起き上がろうとして、レイセンはうまく動けないことに気がついた。
    両手がロープで縛られていたのだった。
    どうしてこんなことになったのだろうか?
    レイセンはおぼろげな記憶をたどった。
    「そうだ、コスモ・パイレーツが再び攻めてきて…」
    ムーンライズへのコスモ・パイレーツの再襲撃。
    迎撃に出るレイセン達。
    そして…その戦闘に介入する幻想同盟。
    「それで…レーダーが封じられて…」
    必死に思い出そうと頭が痛くなるが、記憶の断片を掘り起こしていく。
    魔導兵器を連れた幻想同盟。
    魔導兵器をコントロールする指揮官機の追撃…。
    それから…。
    「気がついたら…ムーンライズから遠く離れてたんだ…」
    共に指揮官機の迎撃に出ていた霖之助とパルスィも一緒にはぐれてしまい、
    やがて機体のエアーが減少していって、酸欠で気を失った。
    それが、レイセンが思い出せたここまでの経緯であった。
    そこまで思い出すと、レイセンのいる部屋に男が入ってきた。
    「ほう、嬢ちゃんも目が覚めたか」
    「誰ですかっ…!?」
    「ちっ…!」
    ズドォンッ!
    レイセンの質問に、男は舌打ちと発砲で答えた。
    放たれた弾丸は、レイセンをかすめて床に弾痕を作った。
    レイセンはその恐怖で怯んだが、目を閉じて首を振り、
    恐怖を払って言葉をひねり出した。
    「いきなり、何をするのです!」
    「気に入らねえんだよ、その育ちのいいしゃべり方が…!
     お高く止まりやがって…!」
    レイセンは、その男が言う意味がわからなかった。
    「あなたは…月面軍!?
     それとも、幻想同盟!?」
    レイセンは、言葉遣いに気をつけながら男に質問をした。
    先ほど撃ったことで気が済んだのか、男は拳銃を仕舞いその質問に答えた。
    「そのどちらも当たりだ」
    「…?
     ここは、どこなの?」
    「フン…質問の多いガキだ。
     ここは、農業コロニー、ガンマ3だよ」
    レイセンは、ガンマの名のつくコロニーは、食料生産コロニーとして
    魔導戦争以前は数多く存在したが、戦争の際に多くが失われ、
    今は10番代から振り直されたナンバーのコロニーが運用されていると、
    依姫から教わったことを思い出した。
    答え終わると、男は一呼吸の後、レイセンに命令した
    「質問タイムは終わりだ、さっさと立て!
     ついてこい、早くしろ」
    レイセンは撃たれないためにも、そう急かす男の指示に従った。

    男が案内した先は格納庫には、片側の壁際にゼレイブと1号機、その反対側の壁際に2号機が立っており、
    その付近では霖之助とパルスィが手を縛られたまま何やら作業をしていた。
    この格納庫は人工重力が弱いのか、ふたりともフワフワと浮きながら作業をしている。
    レイセンが訊くよりも先に、男がレイセンに命令をした。
    「いいか、お前の機体のエアーとか、弾薬の補給をしろ。
     こいつらをいずれは外に運ばなきゃならんのでな。
     こいつを食らいたくなきゃ、さっさと言うとおりにしろ!」
    手に持った拳銃をトントンと指で叩きながら言う男に、レイセンは従うしかなかった。
    手を縛られたままなので作業がしづらかったが、なんとかエアー補給用のホースを手に取り
    ゼレイブのエアータンクに繋ぎ、エアーの供給を始められた。
    エアーを入れながら周囲を見渡すと、霖之助が男に気付かれないように
    レイセンに向かってちょいちょいと合図をしていた。

    簡単なジェスチャーであったが言いたいことは感じ取れた。
    エアーのホースで、男に向けて何かをしろと言いたいらしい。
    エアー補給用のホースは、接続部近くのトリガーを引くと、勢い良く空気が噴出す構造になっている。
    レイセンがコクリと頷くと、パルスィも何かを察したらしく頷いていた。
    「ああああーっ!」
    「何だ!?」
    突然パスルィが叫んだのに気を取られ、男がレイセンから目を離した隙に
    レイセンはホースを持ったまま男に近づき、背後からエアーを噴射した。
    「ぐわっ!?」
    男は急なエアーの放射による強風に驚き、足が床から離れて宙に浮かび始めた。
    「たああぁぁぁあ!」
    その隙を突いて、霖之助がエアーの噴射をブースター代わりにし、
    すごい速さで男に飛び蹴りを放った。
    霖之助の蹴りは男の銃を持つ手にヒットし、男の手から拳銃が離れた。
    浮かんでいる拳銃を霖之助が縛られたままの手でキャッチし、男に向けて言った。
    「僕はこう見えても武闘派なんでね。
     ホールドアップ、ってやつかな?」
    「ほう…てめえら、ただのボンクラじゃねえようだな」
    感心したような様子で言いながら、男が手を上げながら後ずさる。
    「動くな! 僕はやる時はやるぞ!」
    霖之助はそう言いながら威嚇射撃をしようと引き金を引こうとするが、
    引き金は固く、撃つことができなかった。
    「あ、あれ?」
    「バーカ! 銃にはセーフティってもんがあるんだよ!」
    男はバカにしたような口調でそう叫びながら格納庫から逃げていった。
    「あ、待てー! あ、あれれれー!?」
    パルスィが男を追おうと走ろうとするが、慣れない低重力で勢い余ってくるくると宙で回転してしまった。
    「…とりあえず落ち着いたほうがいいみたいね」
    レイセンはパルスィの回転を止め、霖之助から銃を受け取った。
    「あ、ありがと…。
     で、その銃でどうするの?」
    パルスィが訊くと、レイセンは床を撃ち、床のパネルの1枚を割った。
    そしてレイセンは割れた床のパネルの尖った部分で霖之助とパルスィの手を縛るロープを切った。
    「おっ、やるねえ」
    「とりあえず、ここから出るためにもあの人を追いましょう。
     用意周到なところを見ると、罠を仕掛けてるかもしれないし…」
    パルスィにロープを切ってもらいながら、冷静にレイセンが提案した。
    「こんな状況でよく冷静に判断できるわね?」
    「えっと…そんな気がしたの…」
    パルスィに言われて、レイセンはどうして自分が
    そう思ったのかわからなくなり、適当にはぐらかした。
    時折レイセンは、自分たちがやるべきことが
    まるで誰かに教えられたかのように浮かぶ時がある。
    今までそれでうまくいっていたのだが、さすがに気味が悪いので他の人には黙っていた。
    「お、こんなところに自動小銃がある」
    格納庫の脇のコンテナを漁っていた霖之助が言った。
    渡された銃を握りながら、パルスィがぼやいた。
    「私、こういうの好きじゃないんだけどなぁ…」
    「そうは言っても、あの男が弾幕勝負なんかしてくれるわけ無いだろう?
     乱暴だけど、鉛の弾幕で黙らせてやらないと」
    霖之助が準備しながらそう言った。
    「色々情報を聞いたほうがいいから、間違って殺さないようにしないと…」
    レイセンが補足するように言った。

    武装した3人は格納庫から内部へ入り、警戒しながら通路を進んだ。
    格納庫だけでなく、このあたりも人工重力が弱く、フワフワと浮きながらではあったが。
    すると、脇道から男が自動小銃だけを出して、3人に向けてめちゃくちゃに撃ち始めた。
    「わわわっ!?」
    「ハハハハ! 通路で全身を丸出しで進むバカが居るかよ!」
    急な発砲に驚く3人に、男は笑いながらそう叫び何処かへと去っていった。
    「あのおっさんめー! バカにしてー!」
    運良く一発も当たらなかったのを確認した後、憤慨しながらパルスィが言った。

    男が入っていった形跡を追って、3人は箱の積まれている部屋に入った。
    すると突然積まれている箱が崩れ、3人は箱に埋まってしまった。
    「ガハハハハ! 使えるもんは何でも使うもんだよ!」
    男はその様子を見ると、そう言ってまた去っていった。

    その後も、男に消火用のホースで不意に水を浴びせられたり、
    背後から野菜を投げつけられたりと様々な手段で男は3人をやり過ごしていた。
    「…作戦を考えよう」
    擦り傷だらけになった霖之助が冷静になって提案した。
    びしょびしょに濡れたパルスィと、顔がスイカ汁まみれになったレイセンが賛同する。
    「さんせーい…」
    3人は辺りにあるものを色々と探り、作戦を練った。

    男はまた別の部屋で3人を待ち構えていた。
    「へへへ、ガキども…次はどうしてくれようか」
    男がそう思っていると、3人が部屋に入ってきた気配を感じた。
    「ついに警戒せずに突っ込んできたか!」
    男はそう言って入口付近の物体を撃ったが、すぐにそれが彼らではないことがわかった。
    「タ、タマネギ?」
    そう、部屋の中に大量のタマネギが部屋に放たれたのだ。
    「ほうら、催涙のシャワーだ!」
    「農家の人、ごめんなさーい!」
    そう言って、3人はタマネギに向かってメチャクチャに銃を撃った。
    破裂するタマネギから目にくる成分が部屋中に充満する。
    「ぐおっ!? 目、目が見えん…!」
    タマネギの成分にやられ、男が身悶える。
    その様子を見た霖之助は、男に飛びかかった。
    「でやあああ!! ぎゃああ! 目が!」
    何の防備もなしに突っ込んだので、霖之助もタマネギの成分にやられてしまった。
    お互い目が見えない状態でもみくちゃになる男と霖之助。
    「なにやってんだか…ううっ!?」
    そうこうしているうちにタマネギの成分は廊下にも広がり、
    廊下で待機していたパルスィとレイセンも目をやられてしまった。
    「ちょっと、これキツイよパルスィ!」
    「ぎゃー! もうなんでこんな目にー!」
    ここにいる4人全員が濃密なタマネギの成分にやられたところで男がギブアップした。
    「待て、待て待て!
     このままじゃ埒が明かねえだろうが!
     休戦だ、休戦しよう!
     銃を捨てるからとっととここから出してくれー!」
    このままではどうしようもないので、渋々3人は了承して男を確保し、別の部屋に連れて行った。

    「…はあ、やっとマシになってきた。
     お前ら、やり口はいいが自分の防備くらい整えておけよ…」
    武装解除した男が涙目のまま言った。
    「散々やってくれたくせによく言うわ」
    呆れながらパルスィが水で目を洗いながら言った。
    男の身体検査をしていた霖之助が、男がこれ以上武器類を持っていないことを確認した。
    「…よし、もう武器はないな。
     で、あんたは何者なんだ?」
    「ちっ…もう勝者のつもりかよお前らは。
     俺の名はバル、幻想同盟の兵士だ」
    観念してバルが言ったことに、レイセンが反応した。
    「幻想同盟の…?」
    今まで、幻想同盟の兵士とは交戦こそすれ、実際に生身で会うのは初めてだった。
    レイセンはバルが言っていたことを思い出しながら、彼に質問した。
    「でも、最初に月面軍でも間違いはないみたいなこと言ってたような…?」
    「…まあ、な。
     俺は元々は月面軍に所属していたからな…」
    「なんだって?」
    「月面軍に男っていたんだ…」
    バルの答えに霖之助とパルスィが驚く。
    「お前ら、その歳でその反応って…月面人じゃないのか?」
    「…隠してもしかたがないけど、この娘…レイセン以外はそうだよ」
    霖之助が正直に言った。
    知らなかったその事実に、レイセンが驚いた。
    「ええっ!? ふたりとも幻想人だったの!?」
    そういえば説明してなかったわね、とパルスィが呟きながら、
    バルとレイセンにこれまでの経緯を説明した。

    ひと通りの説明を終え、情報を整理た後に霖之助がバルに質問をした。
    「それで、なんで元月面軍人のあんたが幻想同盟なんかに?」
    「…何も好きでこうなったんじゃねえよ。
     深い事情が、色々あってな」
    「…魔導戦争がらみ?」
    バルに対してレイセンが訊くと、バルは舌打ちをしながら答えた。
    「…あながち間違いじゃねえ。
     あんまり詳しいことは言いたくないがな」
    そう言うバルの様子を見て、霖之助は無理に聞き出しても答えないだろうなと思い
    次の質問をバルに言った。
    「…幻想同盟って、一体どんな組織なんだ?
     月面軍に攻撃をする割には、幻想郷では僕らに味方をするわけではない…」
    レイセンはその言葉で、幻想郷での幻想同盟の活動を察した。
    どうやら月面軍に対しては幻想郷と協力関係にあると言いながらも
    実際は幻想郷とは完全に無関係な組織らしい。
    「しかも、豊姫っていう月のお偉いさんともつながりがある。
     全然実態が見えてこないんだけど…」
    「俺だって知らねえさ。
     特に、こんな末端の兵士になんかな」
    「えっ…?」
    嘘を言ってるようではないバルの返答に、パルスィが驚く。
    「じゃあ、あなたはよく知りもしない組織に手を貸してるってわけ?」
    「…手を貸したほうが得だと考えたからな。
     方法がどうあれ、恨みのある月面軍を叩きのめせるんだからな…」
    バルの言葉からは、その意味がよくわからなかった。
    そのまま、諦めた様子でバルが言った。
    「お前らの機体を同盟に渡せば、同盟の戦力になる。
     そう思ったからとっ捕まえたんだが、どうもダメみてえだな」
    「どういうこと?」
    「お前らの部隊と、月面軍の海賊隊がココらへんでぶつかり合ってて
     同盟はこっちに部隊をよこせねえんだとさ。
     試しに出した偵察隊もお前らに潰されちまったみたいだし」
    そこで、ガンマ3に流れ着く原因となった戦闘に幻想同盟が乱入してきた理由がわかった。
    その後も色々と質問したが、これ以上新しい情報は得られなかったので
    3人はバルを交代で見張るようにし、疲れきった体を休ませることにした。
    時間的には、既に深夜を回っていたからだ。

    「うう、ん…あっ!」
    バルを見張りながらウトウトしてたレイセンは、一瞬居眠りしている間に
    バルが部屋を抜けだしていることに気づいた。
    こっそりバルにつけていた発信機を頼りに、レイセンは一人で追った。
    「どこに行くんだろう…?」
    バルはレイセンたちが休んでいた居住スペースを抜け、
    農場エリアにあるビニールハウスの一つに入っていた。

    「何をしているの!」
    レイセンが拳銃を構えながらバルの入ったハウスに入ると、
    そこには大きな石に名前を彫っただけの、簡素な墓が立ち並んでいた。
    その内の一つの墓石の前で、バルは酒瓶を持ったまま振り向いた。

    「…悪いな、これだけは欠かせなくてな」
    「お墓…?」
    レイセンは立ち並ぶ墓に言葉を失った。
    「ミケル、ハイマン、ヘッシャー、キール…
     俺と一緒にここにいた月面軍の兵士だ。
     エミリーとマコは栽培管理のチーフ、メアリーは気のいい医者の婆さんだった…」
    「これは、何があったの…?」
    墓に刻まれている人物の名前を読み上げるバルに、レイセンが訊いた。
    「みんな良い奴だったのに、殺されたんだよ。
     …魔導兵器にな」
    バルはタバコに日をつけ、遠くを見つめながら話し始めた。
    「魔導戦争のあの時、魔導で動いていた農耕器具や、
     防衛用のマシンが俺たちを襲い始めた。
     元々ここは軍事基地でもない、ただの食料生産用コロニーだ。
     俺たち警備用の軍人も、戦い慣れているようなのじゃなかったし
     白兵用の装備だって、大したものは置かれていなかった。
     多くの仲間を殺されながらも、俺達は必死に戦った。
     食料生産用コロニーは月の生命線の一つ、
     守りきらなきゃ月が飢えちまうからな…」
    バルは、そこで一旦ため息とともに煙を吐いて、墓に酒を注ぎながら話を続けた。
    「コロニー内の魔導機械を全部ぶっ壊した時、
     生き残ったのは俺と、重症の二人だった…。
     俺達は月に何度も通信を飛ばした。
     魔導戦争が集結した後も、ずっとずっとな…。
     だが、一向に返事は帰ってこなかった…。
     そのうちに、重症を追った二人は死んじまった。
     その時に確信したのさ、俺達は政府に見捨てられたんだってな…」
    レイセンは、信じられないような目でバルを見つめていた。
    「俺達が命がけで守りぬいたこのコロニーは、
     月の連中にとっちゃ…どうでもいいものだったんだよ。
     生存者がいるかどうかも調べにも来ねえ…。
     俺は、絶望したよ…。
     最初から逃げようと思えば、コロニーを捨ててもいいと思えば、
     はじめからこのコロニーをさっさと脱出してれば、
     仲間は死ななくてすんだんだからよ…。
     見捨てられるってのに、必死で守った結果がこれだ!
     旧政府の解体! 新政府の編成!
     そんなことばかりやって、国のために命張った連中は放置だ!!
     俺だけじゃねえ、必死にコロニーを守り抜いたのに
     月に見捨てられたのは俺以外にも、大勢いる。
     幻想同盟に加わってんのは、そういう連中だよ」
    「そんな…月が…? 信じられない…!?」
    レイセンは、突然聞かされた月政府の非道さに信じられないでいた。
    「ああそうだろうよ、お前は特に育ちが良さそうだからな。
     月の美談やら綺麗な歴史ばーっかリ聞いてきて、
     あそこが穢れとは無縁の清廉潔白な理想郷とでも思ってたんだろ…?
     医学の進歩を穢れなんかと結びつけて、地上を穢れの地だとか貶めたり、
     平気で嘘をつき綺麗に取り繕おうとするのがあの国なんだよ!」
    レイセンは、バルから聞かされた月の行為に言葉を失っていた。
    「ひとつ教えておいてやる。
     幻想同盟は、豊姫が作った組織だ。
     …月をぶっ潰すためにな」
    「え…?」
    「俺達のような月に恨みを持つ連中を集め、
     戦争のドサクサで月面軍を攻撃させる。
     俺達月面人が、身分を隠して堂々と月に復讐できるんだ。
     断る奴はいなかったよ。
     豊姫のやつが、ぶっ潰した月をどうするかは知らんがな…」
    「そんな…豊姫様が…?
     なんで…?」
    そうレイセンが呟いた後、ドドンと大きな音がして地面が揺れた。
    「何だ!?」
    バルとともにレイセンがビニールハウスの外にでると、破壊された外壁の向こうから
    月面軍の戦車が大量に向かってきていた。
    「あれは…!?」
    「魔導戦争の時に俺達を襲った月面軍の制式戦車・メイヴァーだ…!
     だが、あの時に全部ぶっ壊したはず…!?」
    そう言った後、バルはひとつの結論に気づいた。
    「生き残りがいて…こっそり修理してやがったのか…!?」
    「ええっ!?」
    「無いとはいえない話だ!
     魔導機械にはメンテナンスマシンもあったんだ!
     んで、お前たちが来たことで人間の反応が増えたから、
     目覚めて攻撃してきたってわけか!?」
    そう言い終わらないうちにメイヴァーのうち一台がプラズマ弾を発射してきた。
    「危ない!」
    とっさにレイセンはバルを突き飛ばし、なんとかプラズマ弾をかわした。
    「お前…どうして俺を…!?」
    「ハァ…ハァ…、目の前で、人が死ぬのが…嫌なだけです!」
    「…言ってくれる!」
    レイセンはバルとともに格納庫へ向かった。

    格納庫では異変を感じて起きた霖之助とパルスィも来ていた。
    「一体何があったんだ!?」
    「まだ生きてる魔導兵器がいやがったんだ!
     このままじゃお前らも餌食になる!
     さっさと逃げちまいな!」
    レイセンたちがそれぞれのWAに乗り込んでいると、
    格納庫の脇にある管制室からバルが通信で呼びかけた。
    「どうして!?」
    「てめえらはここの魔導兵器とは無関係だろうが!
     へっ…死ぬにはいいシチュエーションだぜ…!」
    パルスィにそう答えると、バルは機械を操作しエアロックの内部扉を開放した。
    と同時に、数台のメイヴァーが格納庫に侵入してきた。
    「来やがれ! クソッタレの魔導兵器ども!
     俺が相手をしてやるぜぇぇ!」
    バルが自動小銃を乱れ撃つが、頑丈な装甲を持つメイヴァーはビクともしていない。
    「人間…殺ス…」
    「人間…抹殺セヨ…!」
    機械的な声をあげながら、メイヴァーは管制室に砲塔を向けた。
    「ミケル…今お前らのもとに行くぜ…!」
    死を覚悟したバルがそう呟くと、ゼレイブのプラズマ・サーベルが唸り、
    バルを狙うメイヴァーを切り裂いた。
    爆発して燃え上がるメイヴァーを見ながら、バルが叫んだ。
    「お前ら…どうして!?」
    「僕らが来たのが引き金だったのなら、
     関係ないとは言わせないよ」
    「ただ…私は、目の前で人が死ぬのが嫌なだけよ!」
    霖之助とレイセンがそう言うと、3人は格納庫に侵入してきたメイヴァーを攻撃し始めた。
    「ったくもう、私はそんなんじゃないんだけど!」
    パルスィはそう言いながらも、二人と協力して戦いに臨んだ。

    「ぐああああ!」
    数台のメイヴァーを破壊したあたりで、バルの叫びが聞こえてきた。
    その声のする方を向くと、砲塔の代わりに
    巨大なアームの付いたメイヴァーがバルを掴んでいた。
    「くっ!」
    レイセンがとっさにプラズマ・ライフルを構えるが、霖之助が制止した。
    「ダメだ! 今撃ったら彼に当たる!」
    「あ…!」
    レイセンは、バルを盾にされているのにもかかわらず
    引き金を引こうとしていた自分に気づき、手が震えた。
    「ためらうな! 俺ごと撃てー!」
    「できるわけ無いでしょう!」
    自己犠牲に走るバルをパルスィが否定するのを聞いたからか、アームの付いたメイヴァーは
    格納庫から退き、ビニールハウスの立ち並ぶ農場エリアへと向かっていった。
    「レイセン、追うぞ!」
    「あ、うん!」
    レイセンは、震える手を抑えながらゼレイブを駆り農場エリアへと進んだ。

    農場エリアへ続く大型通路では2~3台のメイヴァーが待ち構えていた。
    レイセン達はバルとの戦いを思い出し、脇道に身を隠しながら通路のメイヴァーを狙い撃ちしていく。
    「…あの人とやりあっててよかったわね」
    通路のメイヴァーを撃破した後、パルスィがつぶやいた。
    戦いのセオリーを知らない3人にとっては、メチャクチャではあったが
    バルとの白兵戦は貴重な経験であった。

    農場エリアでは多くのメイヴァーが待ち構えており、エリアに入ってきた3人を一斉に攻撃した。
    「待ちぶせっ…!?」
    「ちょっと、魔導兵器ってこんなに賢いの!?」
    人質を盾にし、おびき寄せ待ち伏せをするという戦法にパルスィが舌を巻いた。
    メイヴァーの攻撃を1号機の砲塔シールドで防ぎながら、霖之助がパルスィに叫んだ。
    「僕が攻撃を抑える間に、パルスィは空から攻撃してくれ!」
    「わ、わかったわ!」
    パルスィは2号機を戦闘機形態に変形させ、周囲を囲むメイヴァーをミサイルで攻撃した。
    空中からの攻撃で数台破壊されたのに気づいたメイヴァー達は、フォーメーションを変え
    4台程が機関砲で2号機に攻撃を始めた。
    「よし、敵陣に穴が開いた!
     斬り込むぞ! レイセン!」
    霖之助がそう言うが、ゼレイブは防御姿勢のまま固まっていた。
    「どうした!? レイセン!」
    「あ…はい!」
    レイセンは我に返り、2号機を狙うメイヴァーに攻撃を仕掛けた。
    その間にも霖之助が1号機でメイヴァーを撃破していく。
    「ぐおおおお!」
    バルは体を掴んでいるアームの強さが増してきて苦しんでいた。
    「こいつ…加減くらいしねえか…!」
    「バルさん!!」
    その様子に気づいたレイセンがアームの付いたメイヴァーの下部を攻撃しようとするが
    バルが盾にされているのと、メイヴァー自体が素早い動きでかわすため当てられないでいた。
    「何をしている…!
     俺にかまってる場合か…!?」
    そう言うバルの言葉には耳を貸さず、どうやればバルを救えるかをレイセンは考えた。
    「しまった、あたった!?」
    空中から攻撃していたパルスィの2号機の主翼に、プラズマ弾があたってしまった。
    バランスを崩した2号機はWA形態に変形し、地面を削るように不時着した。
    「こいつらの主砲はプラズマ・ライフル並だ! 油断するな!」
    メイヴァーを撃破しながらも霖之助が叫ぶ。
    2号機の不時着でえぐれた地面を見て、レイセンは閃いた。
    「地形を…利用する!」
    逃げまわるアームの付いたメイヴァーの移動先にレイセンはプラズマ・ライフルを発射した。
    プラズマ弾の着弾により、地面にそれなりの深さの穴が開いた。
    アームの付いたメイヴァーはその穴に引っかかり、動きを止めた。
    「今だぁぁ!」
    とっさにプラズマ・サーベルの出力を抑えたまま、バルを締め付けるアームの根本を切り裂いた。
    根本を切り離されたアームはバルを掴んだまま地面に落ちた。
    「バルさん!」
    レイセンは急いでゼレイブの手でバルを拾った。
    「いててて…助けるならもっと丁寧にしてくれよ…」
    文句を言いながらも、バルは無事な姿を見せた。
    バルの無事を確認すると、プラズマヘッドカノンでアームの付いたメイヴァーの下部を破壊した。
    すると、他のメイヴァーの動きはピタリと止まり、戦闘は終わった。

    「いてて…俺を掴んでいたのが戦車共を操っていたみたいだな…」
    バルがゼレイブの手から降りて、戦場跡を見回しながら言った。
    霖之助とパルスィもコックピットから降りてきた。
    「あんなのと、生身でやりあってたんだね…」
    「ホント、あんたとやりあってなかったらこっちもちょっと危なかったわ」
    そう言う二人に、バルは苦笑しながら言った。
    「礼なんか言うなよ、くすぐったいぜ。
     ったく、てめえらお人好しすぎるぜ…俺は敵だってのによ」
    「敵かどうかって、変わらないものじゃないと思う…」
    レイセンはコックピットから降りながら言った。
    「確かにあなたは最初は敵だったけど…悪い人じゃないって分かったし、
     それに…味方が敵になることだってあるから…」
    レイセンは、敵になった豊姫と月面軍のことを思い出しながら言った。
    「チッ…どこまでもいい子ちゃんぶったガキだぜ。
     さっさとこんなところから出て行きやがれ」
    「えっ、出ていいの?」
    パルスィが驚きながら聞き返した。
    「バーカ、WAに乗ったお前らを俺が止められるわけねえだろ。
     とっとと出てけ出てけ!」

    レイセン達の機体がエアロックに立ったのを確認すると、バルは宇宙に通じる扉を開いた。
    「ありがとう、また会いましょう!」
    レイセンはバーニアを吹かせながらバルに向かって通信を飛ばした。
    「二度と来るんじゃねーぞ! ガキども!」
    最後にそう憎まれ口を言って、バルの通信が切れた。
    少しの時間ではあったが、ガンマ3での出来事は3人には大きな経験となった。
    が、レイセンは捕まったバルに向けてためらいなく引き金を引こうとしていた自分に恐怖を感じてもいた。
    多くの事実と謎を残したまま、レーダーに映るムーンライズの反応の方向に3人は向かっていった。


    ムーンライズへの帰艦に成功したレイセン達。
    彼女たちに訪れるしばしの安息。
    それは、地球降下をかけた決戦の嵐の前の静けさでもあった。
    次回、夢幻機動ゼレイブ 第8話「束の間の静寂」
    君は、月の果てに何を見るのか。