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【第274号】ジョージ秋山と毒薬仁太郎
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【第274号】ジョージ秋山と毒薬仁太郎

2020-06-03 07:00
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    マクガイヤーチャンネル 第274号 2020/6/3
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    おはようございます。

    ちょっとずつ映画館が開くようになってきて、自分の日常も戻ってきたような気もします。

    これで、中止した御蔵島旅行にまた行けるようになれば完全に復活なのですが、なかなか難しそうですね。




    マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。



    ○6月8日(月)19時~「分断の時代のウォッチメン」

    HBO製作のドラマ版『ウォッチメン』がスターチャンネルで配信されています。また、6/3にはブルーレイやDVDが発売され、ワーナーのサイトではデジタル先行配信もされています。

    このドラマ版『ウォッチメン』、アメコミの『ウォッチメン』を原作としつつもザック・スナイダーが監督した映画版『ウォッチメン』のようにそのままの映像化ではなく、34年後(つまり「いま」)の架空世界を舞台にした続編のようなドラマとなっています。映画版『ウォッチメン』公開時にアラン・ムーアが「いま映画化するなら冷戦にこだわらず現代を舞台とすべきだ」みたいなことをいっていましたが、それへのアンサー・ソングのようにも思えます。今回もアラン・ムーアは原作クレジットを拒否していますが、はっきりいって面白いです。

    そこで、原作コミック、映画、『ビフォア・ウォッチメン』や『ドゥームズデイ・クロック』などの関連作に触れつつ、ドラマ版『ウォッチメン』を特集する放送を行ないます。

    ゲストとしてアメコミ翻訳家の御代しおりさん(https://twitter.com/watagashiori)をお迎えする予定です。



    ○6月26日(金)20時半頃~金ロー『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』生実況

    コロナウイルスの影響か、名作洋画を放送している最近の金曜ロードショー、この度『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズが三作連続で放送されることになりました。自分のようなアラフォーにとっては思い出たっぷりの作品です。

    そこで、『PART3』の生実況放送を行います。

    コロナウイルスでおうちに籠もりがちなみんな、テレビの前でぼくらと(心の中で)握手!



    ○6月29日(月)19時~「ラーメンハゲ芹沢達也の苦悩のサーガとしての『ラーメン発見伝』・『らーめん才遊記』・『らーめん再遊記』」(「最近のマクガイヤー」から企画変更となりました)

    『ラーメン発見伝』『らーめん才遊記』の続編『らーめん再遊記』の単行本第1巻が6/8に発売されます。『らーめん才遊記』のドラマ化に合わせた復活連載かと思いきや、『発見伝』では最強のライバル、『才遊記』ではメンターとして登場したラーメンハゲこと芹沢達也を主人公にした、堂々たる続編でした。これまでの連載分を読んだだけで、傑作の匂いがぷんぷんします。

    Twitterでは芹沢達也のコマがネットミームとして拡散しているのですが、『ラーメン発見伝』から続くシリーズをきちんと読んだ方はどれくらいいるのでしょうか。『発見伝』、『才遊記』は、それまでのグルメ漫画では比較的取り上げられ難かった「飲食店経営」にフィーチャーした点が画期的な作品でした。若くして理想のラーメンを作り上げるも、資本主義社会でサバイブするためにビジネスという鎧で自らを武装した芹沢達也、彼が象徴する商業性と作家性の両立は、なにもラーメンだけに限った話ではありません。当初は明らかに一回限りの脇役として登場した芹沢が、再登場するに連れ人気を増し、作品のテーマを担うような人物になったのは、ある意味で必然だったのかもしれません。続編『才遊記』では主人公のメンターになり、最新シリーズ『再遊記』では遂に主人公となりました。

    そこで、『ラーメン発見伝』・『才遊記』・『再遊記』を芹沢達也サーガと捉え、解説するようなニコ生を行います。

    ゲストとしてお友達の編集者のしまさん(https://twitter.com/shimashima90pun)をお迎えしてお送り致します。



    ○藤子不二雄Ⓐ、藤子・F・不二雄の作品評論・解説本の通販をしています

    当ブロマガの連載をまとめた藤子不二雄Ⓐ作品評論・解説本『本当はFより面白い藤子不二雄Ⓐの話~~童貞と変身と文学青年~~』の通販をしております。

    https://macgyer.base.shop/items/19751109


    また、売り切れになっていた『大長編ドラえもん』解説本『大長編ドラえもん徹底解説〜科学と冒険小説と創世記からよむ藤子・F・不二雄〜』ですが、この度電子書籍としてpdfファイルを販売することになりました。

    https://macgyer.base.shop/items/25929849


    合わせてお楽しみ下さい。




    さて、今回のブロマガですが、先日亡くなったジョージ秋山について書かせて下さい。最近追悼記事ばかり書いているような気がしますが、それだけ自分も年取ったということなのでしょう。


    ●追悼ジョージ秋山

    漫画家のジョージ秋山が5/12に亡くなっていたことが一昨日発表されました。享年77歳。死因は発表されていません。

    あまり調子が良くないという話は聞いていたので意外ということはないのですが、感慨深いものがあります。


    自分は学生の頃からダイビングをしていたのですが、関東のダイビングのメッカと呼ばれる大瀬崎に通う最中、「貝殻亭」というレストランが気になっていました。ただ、夕飯を食べる店が決まっていたので、約20年間ずっと行かなかったのです。

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    昨年、ふとしたきっかけで初めて行ってみて、驚きました。なんとジョージ秋山が常連として通っていたお店だったのです。店内にはジョージ秋山の絵が飾られていて、家族ぐるみの付き合いをしているということでした。


    後から気づいたのですが、『田中圭一のペンと箸』の第六話で紹介されていたお店でした。

    http://r.gnavi.co.jp/g-interview/entry/1742

    駿河湾で獲れるカレイかカサゴの唐揚げはこの辺りの名物で、多くのお店で出されているので、全く気付きませんでした。


    当然「貝殻亭」の料理は美味しかったです。 

    こんな店だったなんて、20年間全く知らなかった、もっと行っておけばよかった、ジョージ秋山にばったり会えたかもしれないのに……と大興奮していたのですが、その時一緒にいたダイビング仲間は誰もジョージ秋山のことを知らなかったのです。

    近年、『田中圭一のペンと箸』でも言及されたように、『捨てがたき人々』の映画化、『銭ゲバ』のドラマ化、『アシュラ』のアニメ化と、映像化が積極的になされたのですが、30代くらいだと全然知らないのかなあ。



    ●ジョージ秋山作品の普遍性

    ジョージ秋山作品といえば、名作がありすぎて語るのが難しいです。

    明らかにギャグ漫画として始まったにも関わらず、最後には正義とは何かを問いかける展開になる『デロリンマン』

    金のためなら何でもする主人公のピカレスクロマンを通して資本主義社会の真実を描こうとする『銭ゲバ』、

    カニバリズムは単なる一要素でしかなかった『アシュラ』、

    『ぼくらの』のインスパイア元となった最恐の巨大ロボット漫画『ザ・ムーン』

    母親への想いが強烈な動機となったであろう『ばらの坂道』

    近親相姦に並々ならぬこだわりが感じられる『ピンクのカーテン』『ドハツテンツク』

    44年間連載され、ライフワークとなった『浮浪雲』(ビートたけし版のドラマも傑作だった)、

    50代に入ってからの作品ながらも、それまで抱えていたテーマの集大成でありつつ新たな境地に達した傑作『捨てがたき人々』

    ……と、全作品を読んでいないにも関わらず、語りたい作品が多すぎて右往左往してしまいます。


    幅広い作品を描いているのですが、どの作品も人生を生きることと自意識の関わりがテーマとなっていること、底辺の人々――捨てがたき人々にフォーカスしていること……などが共通点となっています。

    執筆からかなりの時間が経っているにも関わらず、映像化した『捨てがたき人々』、『銭ゲバ』、『アシュラ』などがきちんと現在にも通用しつつ、どの時代にも通じる普遍性があるのは、ジョージ秋山が抱えるテーマがどの時代のどの人間にも通用するものだからだと思います。

    特に、『銭ゲバ』や『捨てがたき人々』の頃から繰り返される「人が心底で考えていることは金とセックスのことだけ」というテーマは、『惡の華』などの現在の漫画作品にもしっかりと受け継がれ、語りなおされています。



    ●ジョーカーとしての毒薬仁太郎

    ただ、ジョージ秋山作品の中から、最も心に残ったキャラクターを挙げるとすれば、『銭ゲバ』の蒲郡風太郎でも、『捨てがたき人々』の狸穴勇介でもなく、毒薬仁太郎でしょう。

    毒薬仁もしくは毒薬仁太郎は、複数のジョージ秋山作品に出てくる名脇役です。

    普段はみすぼらしいルンペンとして暮らしている主人公が、依頼によって二枚目でダンディな伊達男に変身するという、いかにもバブル期にありがちな劇画『くどき屋ジョー』(1986-87)において、不細工で訛りがある田舎者だけどカネだけはあるという毒薬仁は、主人公と対置される悪役としてのキャラクターでした。

    ところが、「女くどき屋風子」に自分を口説くよう依頼するも断られ、自分はどこから見たって悪党らしい悪党で、正義に人々が戦いやすい悪党だろうとメタ的な台詞を発するに至って、まるでジョーカーのような趣が出てきたのです。

     
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