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中村うさぎの死ぬまでに伝えたい話 2018.10.16【Vol.225】
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中村うさぎの死ぬまでに伝えたい話 2018.10.16【Vol.225】

2018-10-16 18:00
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    中村うさぎの死ぬまでに伝えたい話
    2018.10.16【Vol.225】


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    ■目次
    ┣1.うさぎ的日常日記
    ┣2.女王様のご生還
    ┣3.うさぎの図書館(ネタバレ上等)
    ┣4.うさぎとそうしの英会話レッスン
    ┣5.動く中村うさぎ
    ┣6.著作一覧
    ┗7.運営事務局から一言

    ──────────────────────────────────


    ── 1.うさぎ的日常日記 ──


    中村うさぎさんがご多忙の為、こちらのコーナーは明日10月17日(水)に延
    期配信とさせていただきます。




    ── 2.女王様のご生還 ──


    前回「新潮45」休刊についての感想を書いたが、やはりあの騒動を批判した
    のは私以外に何人もいたようで、その人たちの寄稿を興味深く読んでみた。
    その中にはあの杉田水脈氏よりも過激な意見もあって、まったく「何言って
    んだ、この人(笑)」と目を丸くしてしまったのだが、それもまた私としては
    非常に面白かった。
    なんかもう理屈もへったくれもなく「俺は同性愛者とか嫌いだし、絶対に許
    せんのっ!」的なヘイトを持ってる人って、やっぱりいるんだよね。
    そういう人が存在しないかのような社会および言論界って、やっぱ欺瞞的で
    しょ。

    それで思い出したのが、1998年の映画「アメリカン・ヒストリーX」だ。
    現代アメリカ社会に根強くはびこる人種差別、黒人と白人間のヘイトをテー
    マにした作品だが、その冒頭部分に主人公の男子高校生の書いた読書感想文
    が教師たちに問題視されるシーンがある。
    彼は白人至上主義の兄に強い影響を受けていて、学校の読書感想文の課題に
    ヒットラーの「わが闘争」を選びヒットラーを絶賛したために、教師から叱
    責を受けるのだ。
    たしかにヒットラーの「アーリア人至上主義」は根拠薄弱な人種差別思想で
    あり、そのため膨大な数のユダヤ人が虐殺されるという重大な悲劇を招いた。
    「自由と平等」を掲げるアメリカ社会がヒットラー的思想を容認するはずは
    ないし、自分の学校の生徒がヒットラーを尊敬していると知ったら教師は大
    いに危険視するだろう。
    が、だからといって、アメリカ社会に人種差別感情が完全になくなったわけ
    ではない。
    それどころか現代アメリカでは、「行き過ぎたアファーマティヴ・アクショ
    ン」を批判しますます人種差別感情を募らせる白人たちが増えている。トラ
    ンプ当選がその証拠だ。

    結局、どんなに差別的言論を封じ、法律や規則によって差別撤廃を目論んだ
    ところで、人の心から差別感情やヘイトが消えるわけではないのだ。
    表面上はなくなったように見えても、水面下でそれはくすぶり続ける。
    そして、既得権益を剥奪された者たちの恨みや怒りがそこに結びつき、強い
    「憎悪」が生まれるのだ。

    「LGBT保護が行き過ぎている」という考えは、「アファーマティヴ・アクシ
    ョンが行き過ぎている」という主張と同じものだ。
    私もアメリカの「アファーマティヴ・アクション」がはたして有効なのかど
    うか疑問である。
    だから、そういう意味では、杉田氏の主張もわからないわけではない。
    「生産性」云々に関してはいかがなものかと思うが、そう感じる人がいるこ
    とに驚きも違和感もないのだ。
    その杉田論文の尻馬に乗って、日頃からLGBTを苦々しく思っていた人たちの
    不満やヘイトが一気に表沙汰になる現象も、「やっぱりね」といった感じだ。
    そして、こういう膿みは出しておいた方がいいのだ、と思う。
    公の議論の俎上に載せて、思う存分、双方が言い合えばいいのだ。
    前回も言ったが、「口を封じる」のではなく「口を開かせる」ことが大事な
    のである。

    憎しみはどこから生まれるか。
    それは「正当な権利を剥奪されている」という怒りと不満からである。
    かつてそれは被差別側の黒人の怒りであったが、今は白人の怒りとなってい
    る。
    この現象は、何も人種差別に限ったものではない。
    LGBT差別にも女性差別にも、同様の現象が生まれつつある。
    そんなの自明の理であるのに、いまだに言論封殺や表現弾圧という手段に頼
    ろうとする活動家たちのなんと愚かなことだろう。
    君たちは自分で自分のケツに火をつけているんだよ?

    「差別感情」がなくならないのは、我々人類が「他者への優越」を常に目指
    す習性を持つからだ。
    己自身に誇りを持てない人々は、性別や人種や性癖を根拠に「優越感」を得
    ようとする。
    それしか自分の優越を確認する根拠が見つけられないからだ。
    教育によって人種差別やLGBT差別や女性差別が完全に払拭されたところで、
    我々はまた新たな差別を見つけようとするだろう。
    貧富の格差、教育の格差、果ては美醜の格差まで、この世にはありとあらゆ
    る「優劣」が
    存在する。
    我々は自己と他者を格付けせずにはいられない生き物なのだ。

    あらゆる差別撤廃を叫ぶなら、まず、その事実を踏まえてからでないと意味
    がない。
    我々は「優劣なき社会」を作れるのか?
    作れたとしても、それははたして「幸福な社会」なのか?
    差別なき社会を目指すより、私はまずそこから議論を始めたい。




    ── 3.うさぎの図書館(ネタバレ上等) ──


    ホラー映画が好きでちょいちょい観てるんだが、どうも悪魔だの幽霊だのの
    話がピンと来ない。
    「呪怨」も「リング」もそれなりに怖かったけど、それは顔が怖いとかそう
    いう理由で、べつに話自体が怖いわけではないのだ。
    ましてや欧米の悪魔モノなんか、笑えるばかりで全然怖くない。

    そんな私が今まで観たホラー映画でもっとも評価してるのが、イタリアの
    「サスペリア2」と韓国の「箪笥」だ。
    どちらも、幽霊譚と思わせて、じつはサイコホラーという作りになっている。
    霊現象ではなく、狂った人間の仕業なのだ。
    連続殺人鬼モノが好きな私だけあって、霊や悪魔より人間の狂気の方にそそ
    られるようである。

    「サスペリア2」の白眉は、なんといってもラストの手前だ。
    主人公が犯人に気づくシーン……記憶を辿っているうちに、自分が犯人の顔
    を見ていたことを思い出すシーンだ。
    我々の目はいろんなものを見ているのに、脳がそれを重要視しないと見過ご
    してしまう。
    たしかに見たのに、見たことに気づかないのだ。
    だが、その映像は記憶に刻まれており、ずっと後になってから衝撃的に浮か
    び上がる。

    「サスペリア2」には、もうひとつの重要な「記憶」が伏線として描かれる。
    冒頭で繰り広げられる殺戮シーンのシルエットと、それを覗いている子ども
    の姿。
    この子どもが誰なのか物語の後半でわかってくるのだが、その凄絶な記憶が
    すべてのカギを握っている。
    子どもは何を見たのか? 誰が誰を殺していたのか? そして、その記憶が
    数十年後の事件とどう関連しているのか?
    そこらへんの謎解きが、手に汗握るほど面白い。
    幽霊なんか出てこなくても、充分に恐ろしいのだ。

    一方、韓国の「箪笥」もまた、記憶にまつわる怪談である。
    ヒロインの視点で描かれてきた幽霊譚が、途中からくるりとひっくり返って
    サイコホラーに変わる、その瞬間が衝撃的だ。
    ヒロインの妹、ヒロインの継母……それらの登場人物の解釈がすべて一転す
    ると、そこにまったく新しい物語が立ち現れるのだ。
    このあたりの劇的などんでん返しは、デヴィッド・リンチの「マルホラン
    ド・ドライブ」に通じるものがある。
    語り手の視点が変わると物語も世界もすべてが変わってしまうのは、我々の
    リアルそのものの姿でもあるのだ。

    我々がリアルだと思い込んでいるこの世界と自分の物語は、我々の脳が恣意
    的に作り出したフィクションにすぎないのではないか?
    「箪笥」と「マルホランド・ドライブ」は、そんな不安と恐怖を観客に与え
    る。
    その恐怖は私にとって、幽霊や悪魔の恐怖より何倍も身につまされる。

    最近、「狂人失格」でモデルにした女性がどうやら躁状態らしくて、毎日何
    通も絶好調のメールが届く。
    もはや何を言っているのか意味不明な内容なのだが、それを単に「キチガイ
    の妄言」と笑い飛ばせるほど、はたして私は「正常」なのか?
    私が自分を「中村うさぎというエッセイスト」だと信じ込んでいるように、
    彼女もまた傍から見ると荒唐無稽な「自分物語」を信じている。
    だとしたら、私の物語だけが真実であるという保証はどこにもない。

    認知症の母もまた、「自分物語」の中に住んでいる。
    彼女の脳が「記憶」を選んで編集し直し、新しい物語を作り上げて、彼女に
    とって居心地のいい架空の楽園を築いている。
    私の目から見るとはなはだご都合主義的な現実離れした楽園だが、彼女がそ
    の楽園に守られているのなら、それでいいではないかという気がしている。
    だって私もまた、自分に都合よく記憶を編纂して物語を作り上げているのだ
    ろうから。
    フィクションの世界に生きているのは、何も狂人や認知症患者だけではない。
    我こそは正常であると信じている我々もまた、妄想世界の住人なのだ。

    「記憶」も「現実認識」も、何ひとつ確かなものはない。
    我々が根源的に抱えるその恐怖と不安を、ホラーというスタイルを借りて描
    いているのが、「サスペリア2」と「箪笥」である。
    サイコホラー好きな人には必見の名作です。


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    ── 4.うさぎとそうしの英会話レッスン ──


    前回同様、今号もカルフォルニアドリーミングを題材に、英会話教室をお届
    けいたします!


    ・「うさぎとそうしの英会話レッスン」LESSON 43
    「カリフォルニア」という幻想 California Dreamin 後編 & Hotel Califor
    nia Part 1

    動画はコチラ(期間限定のメルマガ会員優先公開)
    https://bit.ly/2EtLzC2

    ・優先公開期間終了後はコチラでどうぞ。
    中村うさぎオフィシャルチャンネル
    http://bit.ly/2b1CJMv




    ── 5.動く中村うさぎ ──


    8月19日(日)に開催しました「第24回うさぎのメルマガオフ会」ダイジェ
    スト版を、期間限定メルマガ会員様優先で動画配信させていただきます。

    ゲストに作家の森 奈津子先生をお迎えした対談形式のイベントの様子を、
    お楽しみください。

    ※今週号は2本立て御座います


    ・「第24回うさぎのメルマガオフ会」ダイジェスト版 4・5

    動画はコチラ(期間限定のメルマガ会員優先公開)

    ダイジェスト版 4
    https://bit.ly/2DLaS1S

    ダイジェスト版 5
    https://bit.ly/2zLgHbP


    ・優先公開期間終了後はコチラでどうぞ。
    中村うさぎオフィシャルチャンネル
    http://bit.ly/2b1CJMv




    ── 6.著作一覧 ──


    現在、好評発売中です!

    「エッチなお仕事なぜいけないの? 売春の是非を考える本」
    出版社:中村うさぎ 発売:ポット出版プラス
    発売日:2017年9月13日
    単行本:344ページ
    http://bit.ly/2iZ0IQW

    「死を語る(PHP文庫)」
    出版社:(PHP研究所)
    発売日:2017年8月3日
    文庫本:253ページ
    http://bit.ly/2w9fGIZ

    「信じる者はダマされる うさぎとマツコの人生相談」
    出版社:(毎日新聞出版)
    発売日:2016年11月23日
    ソフトカバー:240ページ
    http://bit.ly/2f0VyAn




    ── 7.運営事務局から一言 ──


    「うさぎ的日常日記」は更に明日の延期になりました。誠に申し訳御座いま
    せん。

    本日は「女王様のご生還」「うさぎの図書館」をお楽しみください。

    それでは、明日10月17日にお会いしましょう。




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