• うにゅほとの生活2033

    2017-06-26 23:391時間前

    2017年6月26日(月)

    昼食後、自室へ戻ろうとしたときのことである。
    「……?」
    階段の下から三段目──右に折れ曲がる段の端に、消火器が立っていた。
    「なんだこれ」
    「しょうかきだよ」
    「それはわかる」
    「うん」
    「──…………」
    「──……」
    会話が終わってしまった。
    「いや、そうじゃなくて」
    「?」
    うにゅほが小首をかしげる。
    「なんでこんなところに消火器があるのかなって」
    「ないと、かじのとき、あぶないよ?」
    「まあ、うん」
    「──…………」
    「──……」
    会話が終わってしまった。
    「いや、そうでもなくて」
    「?」
    うにゅほが小首をかしげる。
    「さっきまでなかっただろ、消火器なんて!」
    「え」
    うにゅほが絶句する。
    「しょうかき、ずっとあったよ……?」
    「えっ」
    今度は俺が絶句する番だった。
    「……ずっとって、どのくらい?」
    一ヶ月くらい前からだろうか。
    「りふぉーむしてから、ずっと」
    「マジかよ……」
    「まじ」
    この一年間、一升瓶より大きな消火器の存在に一切気付かず過ごしてきたというのだろうか。
    「──いや、違う、消火器があるのは知ってた」
    「うん……」
    「もし火事が起こったら、真っ先に階段に向かってたと思う」
    「うん」
    「……認識はしてたけど、意識にはのぼってなかったってことなのかな」
    「◯◯、だいじょぶ……?」
    心配されてしまった。
    「大丈夫、たぶん」
    「たぶん……」
    「大丈夫です」
    盲点には、人が思っている以上に大きなものが入るらしい。




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  • うにゅほとの生活2032

    2017-06-25 23:39

    2017年6月25日(日)

    しゅるるるる。
    背後から、ハンドスピナーの回転音が聞こえてくる。
    「──…………」
    「──……」
    るるる──
    回転速度が落ちたのか、やがて音が止む。
    「──…………」
    「──……」
    しゅるるるる。
    再び、回転音が始まる。
    このサイクルが、淀みなく繰り返され続けている。
    「××さん」
    「?」
    しゅるるるる。
    「それ、やり過ぎ」
    「そかな」
    「どのくらいやってるか、自覚ある?」
    「じっぷんくらい……」
    「──…………」
    無言で壁掛け時計を指し示す。
    「……いちじかんたってる!」
    「気づいたか」
    「きづいた……」
    「ずっとやっちゃうのはわかるけど、ハンドスピナーだけいじってるのは大いなる時間の無駄だと思うぞ」
    「うん……」
    「せめてこう、本読みながらとか」
    「わたし、かたてでほんめくれない」
    手、小さいからなあ。
    「……一緒に映画でも観る?」
    「みる!」
    うにゅほを膝に乗せて、Amazonのプライムビデオを開く。
    レンタルする必要すらないとは、すごい時代になったものである。
    「──…………」
    「──……」
    しゅるるるる。
    大長編ドラえもんを観賞しながら、うにゅほがハンドスピナーを回す。
    ハマるのはいいが、やり過ぎはよろしくない。
    気にかけておこうと思った。




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  • うにゅほとの生活2031

    2017-06-24 23:40

    2017年6月24日(土)

    たまたま近くを通り掛かったので、いつものゲームセンターへと立ち寄ることにした。
    五百円玉一枚でチョコボールを荒稼ぎし、店内をぐるりと回る。
    「……?」
    すると、うにゅほがある筐体の前で立ち止まった。
    「なんだこれ」
    視線の先にあったものは、
    「──ああ、ハンドスピナーか」
    「はんどすぴなー?」
    うにゅほが小首をかしげる。
    「なんか流行ってるらしいけど、知らない?」
    「しらない……」
    「××はネットしないしなあ」
    「うん」
    最新のデジタルギアでSNSを使いこなすうにゅほ──なんて、とてもじゃないが想像できない。
    「ともあれ、そういうのが流行ってるんだってさ」
    「なにするもの?」
    「中心にベアリングが組み込まれてて──」
    「べありんぐ?」
    そこからか。
    「まあ、とにかく、めっちゃ滑らかに回転するらしい」
    「……なにするもの?」
    「だから、回して遊ぶもの」
    「おもちゃ?」
    「そうそう」
    「はー……」
    うにゅほが筐体を覗き込む。
    いささかの興味はありそうだ。
    「取ろうか?」
    「おいくらでとれますか」
    「この形式なら、千円あれば」
    「おねがいします」
    ぺこり。
    「お願いされました」
    財布を取り出し、両替機で千円札を崩す。
    結果、宣言通り九百円でハンドスピナーを入手することができた。
    「はー……」
    帰途の車中、助手席のうにゅほが、指で挟んだハンドスピナーをくるくると回し続けていた。
    「それ、面白いの?」
    「わかんない」
    「わからないのか」
    「でも、なんかやっちゃう……」
    しゅるるるる。
    静かな回転音が耳朶を打つ。
    「……帰ったら、ちょっとやらせてな」
    「うん」
    面白いような、そうでもないような。
    不思議な感じである。




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