エレキブランとART-SCHOOL
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エレキブランとART-SCHOOL

2013-07-19 18:30
    1994年~1995年(14歳~15歳)の頃、僕は少し悶々としていた。

    いかにも中学生な頭の悪いパンクバンドを始めていたが、練習やライブをする度に、当初の「僕たちの魂を!」なんて恥ずかしく最高にかっこ悪い思想が消えていき、どんどんチャラくなっていった。
     粋な思想よりモテを優先するようなメンバーとなんか一緒に演奏したくない。
     粋よりイキを優先するようなメンバーにパンクがわかるわけがない。(下ネタ)
    そんな具合で心は折れていた。

     学校生活でも悶々とした気持ちは加速するばかりで、先生は尊大で同級生は無自覚なのでナチュラルに失礼な人が多かった。
    サッカー部に入部したもののボールをあまり触らせて貰えず、ただただ毎日走っているだけだった。
     学校も部活もバンド活動も全部つまらなく感じ、腐った日々を送っていた。

     ある日、学校帰りにトボトボ歩いていたら、正面から凄いスピードの自転車がやって来た。
    それは、よっちゃんだった。
    よっちゃんは僕のクラスメートで身体が凄く大きく運動神経も良いのに部活には入らず、家でVHSを日々編集している一風変わった男の子だった。

    「約束していたTVドラマ『悪魔のKISS』の再放送録画したよ~。」とよっちゃんが息を切らせながら言葉を発したが、僕はその約束をした覚えはなかった。
    僕は呆気にとられて言葉が出てこなかった。
    すると「何ボーっとしているんだよ。さっそく、俺の家で常盤貴子を拝もうぜ!」

     よっちゃんの家に向かう途中で僕は何度も、今僕の横にいる大柄な男の子の事を考えていた。
    まず、挨拶や軽い会話はした記憶があるが、お互いを知るような深い会話をした事がない。
    今、歩いているこの道も全く記憶がない。初めて見る景色ばかりだ。
    仮に日常会話の中で『悪魔のKISS』の話をしていてもこんな急な展開と距離の縮み方はやっぱり違和感がある。

    こうやって想いを巡らせている間にも、よっちゃんは嬉しそうにアニメ『幽遊白書』の話を熱く語っていた。
    そして、僕が上の空だと気付くとよっちゃんは、大きな身体を全体で使い腕を振り上げ、人差しと親指だけ立てて、僕の胸の所まで腕を振り下ろしポーズを決めて大きな声を発してこう言った。
    「霊丸~!!!ビシュウ!!(効果音です)」
    僕は「近所迷惑を考えず、僕を元気づけようとアプローチしてくれたんだ。確かにそのメッセージ僕の胸に響いたぜ!この鼓動は間違いなくよっちゃんと僕を紡ぐリズムなんだな!!」
    …とは全く思わず、激しい面倒臭さを感じた。

    「よっちゃん、やっぱ今日帰るわ。」
    「ええ~、家の前まで来てんのにそんな事言うの~?」
    「ちょっと用事がある事を思い出してね…」
    「はは~ん、用事って録り貯めてる幽遊白書の鑑賞の事だな~。」
    「いや、そんなんじゃないよ。」
    「隠さんでも俺にはわかるんだよ、その気持ちが俺には痛いほどわかるからな。」
    「いや、本当に大事な用事なんだ。」
    「そんな、ノリの悪いこと言わんでよ~。ノリの悪い子は霊丸だ。ビシッ!」

    ここに来ての霊丸の乱発と霊丸という概念をツッコミに変えるルーズさに僕は本当に嫌気が差して「いや本当に帰る!」と言うと、よっちゃんはとても寂しい顔をして「じゃあ5秒だけ時間をくれよ、見せたいシーンは5秒で終わるから。」と言った。
    僕はよっちゃんの寂しい顔に罪悪感を感じてしまい「じゃあ5秒だけ付き合うよ。」と言い2人で無言のままよっちゃんの部屋に辿り着いた。

    そしてよっちゃんの部屋で見た5秒間の映像は常盤貴子のヌードシーンで、ひたすらに興奮と喚起を僕にもたらした。そのまま2人で100回ぐらいそのシーンを繰り返し観た。
    映像を観ているこの瞬間が永遠に変わって欲しいと思う気持ち、5秒間のこの気持ちが延々リピートされ毎秒、毎分、毎日、こんな気持ちでいる事が出来たらどんなに素晴らしい事か!
    ありがとうよっちゃん!!ありがとう寺脇康文!!(常盤貴子のバスタオルを取っている役者さんです。)

    軽く腐っていたけど今はとても晴れ晴れとした気持ちになる事が出来たよ。
    そしてこんなに単純なことで晴れるなんて人間って良いなぁ…!!

    …と頭の悪い事を考えていたら、よっちゃんが心配そうな顔で話しかけて来た。
    「ひとつ言いたい事があるんだけど…」
    「なんだい?よっちゃん」
    「さっき言っていた用事は大丈夫なのかい?」
    僕はハッとした。ハッとしてBADな気分になった。
    嘘をつくとこんな事になってしまうんだという模範的な事態に陥った僕はか細い声で
    「いや、用事って実は、幽遊白書の鑑賞だったんだ…」と嘘の上塗りをした。
    すると「やっぱりそうだろう!!ダハハ!!他の人は騙せても霊界探偵の俺は騙されないぞ!ダハハ!!」と明るく返してくれた。
    このタイミングならイケルと踏んだ僕は重要な事を聞いてみた。

    「あのさぁ、このタイミングは変かもしれないけどさぁ…『悪魔のKISS』の録画の約束って何時したんだっけ?僕、申し訳ないんだけど全然覚えていなくて…ごめんなさい」
    「あぁ、そりゃそうだろ!だってお前とはこの約束していないもん。俺も霊丸を打った時、違和感があったんだ。多分他の人と約束したんだと思うんだけど、記憶違いで話しかけてしまって今に至るんだよ!!ダハハ。」

     すれ違いが起こした不思議な出来事の受け止め方を知らなかった僕は声を出して笑った。
    「こんな滑稽な事、そうそうないよなぁ!」と言ってよっちゃんも笑っていた。
    原因が何であれ、今こうしている瞬間、この気持ちが真実だと感じた事で悶々とした気持ちが一気に晴れたような気がした。
    テレビからは『悪魔のKISS』のエンディングソングであるサザンオールスターズの『エロティカ・セブン』が流れていた。コーラスのように2人の笑い声が鳴り響いた。

     「まぁ、勘違いから始まったことだけど今日は楽しかったよ。俺の心の霊丸にVivid(ビビっと)来てくれたのは嬉しいよ。」とよっちゃんがダジャレ込みで言っていた。
    僕は「くだらない~」と言いながらも笑い「じゃあね!」と別れの言葉を交わした。

     
     それから1週間後のある休日、僕は家でゴロゴロしながら音楽を聴いていた。
    ポーティスヘッド、ジザメリ、マイブラ、プライマル等の洋楽を中学生ならではのスノッブ感で愛聴していた。
     『ラブレス』のアナログ盤を悦に入ったしたり顔でB面に変えようとした時、母がノックもせず部屋に入って来て「友達が訪ねて来たよ」と言った。
    そのまま玄関に行くと、よっちゃんが立っていた。

     僕の部屋に入り、音楽を聴きながら愚にもつかない会話をしていたらよっちゃんが「俺、洋楽はよくわからないから邦楽を流してよ。」と言った。
    僕は「OK!」と言い、邦楽バンド、エレキブランの曲を流した。
    エレキブランの『メルト』という曲はキュアーのようなくぐもったサウンドの中に美しいメロディーが詰まっていて本当にお気に入りだった。
    よっちゃんも1発で気に入ってくれて「今まで知らなかった曲だけど凄い綺麗だな、儚いなぁ。」と言った後で「サナギが蝶になる時の美しさに似てる。」と大きな身体のイメージとは似つかわない少女のような表現をしていた。
    僕は感性の部分で気持ちを共有できている気がしてとても嬉しかった。
    それから先は、いつものようによっちゃんの幽遊白書の熱弁が始まり、僕は笑顔で頷きながら耳を傾けていた。

    その日から僕とよっちゃんが家で遊んでいる時は必ずエレキブランが流れていた。


    初めてよっちゃんの家に行った日から約半年が経ったある日、家でゴロゴロしていたらまた母に呼ばれた。
    「よっちゃんが遊びに来た!」と玄関まで小躍りしながら向かうと、よっちゃんと僕の知らないスレンダーな女性がそこには立っていた。

    「昨日、色々あって急に彼女が出来たんだ、この近くの公園でデートしていたんだが妙な気持ちにお互いなってしまって…この辺だと微妙に俺ん家も遠いし…
    頼む1時間、いや30分で良いから部屋を貸してくれ。」とよっちゃんが言った。
    僕はスリリングな展開に胸がワクワクドキドキして「良いよ。」と言った。
    「ありがとう。これでジュースでも飲んでくれ。」とよっちゃんが言い僕は150円を受け取った。

     僕は母を連れて玄関を出た。家を出てすぐの所にある自販機で買ったコカコーラにをつけようとしたら窓が開いた僕の部屋からエレキブランの『メルト』が聴こえてきた。
    コカコーラを息が続くまで一気に喉に入れ、さっきまでよっちゃんと女性がデートしていた公園まで母と向かった。
    公園では近所の子供たちの笑い声が最高のBGMになっていた。

    よっちゃんが童貞を捨てたのか、女性が処女だったのかは忘れてしまったけど、僕の外出中に無事初体験を済ませた2人。

    家に戻ると女性が「ありがとう、お礼にこれをあげるわ」と僕にカセットテープを差し出した。『ペイブメント』と女性が書いたとは思えないほど汚い字で記入してあった。

    2人が帰り貰ったテープを聴いてみた。
    ガチャガチャのロックンロールが流れ「青春だなぁ」と思った。

    その後、よっちゃんと遊ぶ時には、女性が一緒だった。
    なんだかんだ僕にも彼女が出来て、よっちゃんと2人きりで遊ぶ事がなくなってしまった。

    あの日の公園の子供たちの笑顔とか、よっちゃんの霊丸とか、カセットテープの書体とか、
    嘘の上塗りとか、初めての行為とか、悶々とした気持ちとか。
    いつか全部忘れてしまうんだろうな…。


    それから10年後の2005年11月6日、僕は渋谷にいた。
    中学卒業を機に、離れ離れになってしまったよっちゃんとART-SCHOOLのライブに一緒に行くためだ。
    よっちゃんと僕は違う高校に行き、大学でよっちゃんは上京した。
    連絡は年に3回ほどしか取らなくなっていた。
    2005年に出たART-SCHOOLの『あと10秒で』という映画女優の三輪ひとみさんがジャケットのミニアルバムをお互い気に入り連絡の回数が増えた。その流れで一緒に渋谷でライブを観ようという事になった。

    そのアルバムに収録されている『カノン』という曲を初めて聴いた時、とても不思議な気持ちになった。よっちゃんにその事を伝えると「俺も俺も!」と言っていた。

    僕らの人生なんて夜空に点在する星のように、地面に転がる石のようにバラバラに拡がっているものかも知れないが、その星たちが偶然、線を結ぶ瞬間、その石たちが必然、線を結ぶ瞬間があるから生きていけるんじゃないかと、ぼんやり待ち合わせ場所で考えた。
    そんな事を考えていたら待ち合わせ場所によっちゃんが霊丸のポーズで現れた。
    THE END.

    http://www.youtube.com/watch?v=6YF0rtDHiYg 
    ↑ART-SCHOOL『カノン』のスタジオ版です。

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