• 可搬式カフェ『かはんちゃん』を背負って旅に出た

    2017-07-21 00:401737

     けものフレンズ3話『こうざん』が好きだ。このエピソードは私が思うユートピア、人類と機械が共生する理想的なポスト・シンギュラリティ世界をよく描いている。
     ジャパリパークは「ジャパリまん」というベーシックインカムが支給され、誰でも遊んで暮らせる世界である。パークの維持に必要な労働はロボットがしてくれる。知識は図書館に集約され、誰でも無料で利用できる。
     そんな楽園にもかかわらず、自主的に仕事をするフレンズがいる。
     2話ではジャガーが川で渡しをやり、5話ではアメリカビーバーとプレーリードッグが家を建てていた。
     そしてこの3話ではアルパカ・スリがカフェを営んでいる。
    「ここって隣の地方に行くときよく通るじゃない? このあたりで一休みできたらとても素敵だなって。で、ある日、隣の山にこの小屋を見つけたんだ。そういうところでお茶を出すとカフェになるって聞いて、図書館で作り方を教えてもらったの
     こんな動機でアルパカはスタートアップした。仕事とは嫌々するものではない。自分のやりたいこと、向いていることで社会に貢献して、やりがいや生きがいを得られる。これでこそユートピアである。
     
     3話の終盤、一同が紅茶を飲むシーンは幸福感に満ちていて、こちらまで気持ちが伝染してくるようだ。
     過去のエントリーを読めばわかるとおり、私はアニメの紅茶シーンが好きで、去年はガールズ&パンツァーにおける紅茶の再現に熱中していた。けものフレンズ3話のここは、近年のアニメで屈指の紅茶シーンである。
     そんなわけで私は、
    「人生に紅茶は必要だ。うちでもテラスで紅茶を飲もう。しかしお盆で茶器を運ぶと両手がふさがるのでドアの開閉ができない。片手で運べる岡持ちを作ろう」と思い立った。

     宅配ボックスの余った材料があったので、正味2時間ほどでこの岡持ちを完成させた。トップがテーブル代わりになるので、折りたたみ椅子の横に置いてもいい。
     人に寄り添うこのフォルム、どことなくラッキービーストみたいではないか?

     この岡持ちを作ったのは6月上旬だが、その頃、『隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働』という本を読んでいた。これもユートピアへの道を説いている。
     "ベーシックインカムを導入したら誰も働かなくなる、という考えは誤りである。多くの実験で、人々はさらに勤勉になるという結果が出ている"――なんて論説には大いに首肯するのだが、反証があるかどうか不明なので、いまのところ話半分ぐらいに思っている。
     この本はGDPが生活の質を反映しないことにも触れている。デジカメは写真店やフィルム産業を駆逐してGDPを下げた。インターネットもGDPを下げた。だが生活の質、QOLは向上している。
    「なるほど、GDPよりQOLか。なら私は紅茶とともにある生き方を、さらに追求してみよう」
     と思い、次なる工作の構想にとりかかった。

     扉のない岡持ちでは屋内から庭先まで、ごく短い距離の輸送にしか使えない。もっと長距離を旅して、海や山でも紅茶が飲めるようにしたい。
     アウトドア用の茶器はすでに市販されているが、私が思い描くのは、聖グロリアーナの戦車やジャパリカフェのように、家で使う茶器をそのまま持ち出すスタイルだ。普段使いの茶器を運んでこそ日常性が保存され、エクストリーム・カフェになるのである。
     そのためには(1)ガラスや陶器でも安全に運べる梱包 (2)水を沸騰させる器具 (3)テーブル (4)椅子 (5)装備一式をまとめるバックパック ――が要件となる。
     すなわち可搬式カフェ『かはんちゃん』である。

     最初のラフスケッチはこんなものだ。蟲師のバックパックみたいな箱の蓋が開いてテーブルになる。内部は区割りされていて、陶器を壊さずに運べるように梱包材を工夫する。
     細部が固まらないまま、さくさく工作して下のようなプロトタイプができあがった。なお、緑の椅子はヘリノックスのチェアワンという製品だ。畳むとかはんちゃんの本体内部に収納できる。




     使っていない軍用ザックのストラップを取り付け、問題なく背負えることを確認した。
     テーブルではノートPCや手帳を使ってみたが、すぐ作業に集中して、新装備をテストしていることを忘れてしまった。
     アウトドア活動をしていて、風景は素晴らしいのだが、落ち着く場所がなくて、立ったままうろうろした経験がないだろうか? こんなとき椅子とテーブルの効果は絶大で、そこに根を下ろした感覚を持てる。




     

     
     着色ウレタンニスを塗って完成状態にした。デザインが固まったわけではないが、以後は使いながら改良していくことにする。
     内部はコンテナ区画ふたつとバラ積み区画ひとつから成っている。コンテナの内側にはフェルトを貼り、仕切りとゴム紐を取り付けて茶器を保持できるようにした。逆さにしても落下することはない。
     バラ積み区画にはひったくり防止ネットを取り付け、立てた状態で蓋を開いても中身がこぼれないようにした。写真の状態でスイス陸軍水筒(コンロと鍋を兼ねる)とチェアワンが入っており、収納スペースにはまだ余裕がある。

     7月のはじめ、私はかはんちゃんを背負って、亀山市にある関宿を歩いた。江戸時代の宿場町が1km以上にわたって景観保存されていて、私の好きな散歩道だ。
     歩きながらかはんちゃんの背負い心地を試したのだが、特に問題はなかった。腰と肩のあたりにパッドをつければ、さらに快適になるだろう。

     関宿の中程に「アールグレイ」という紅茶専門店がある。
     だいたいにおいて、紅茶専門店というのは女性ばかりいる上品な空間で、私のようなおじさんには敷居が高い。
     だが、紅茶専門店の紅茶はそのへんの喫茶店のそれより断然うまいし、茶葉も販売している。この日は茶葉を仕入れるために、勇気をふるって店に入ったのだった。
     すると、まだ席も決まらないうちから、マスターのご婦人に、「あら、その箱は何ですか?」と聞かれた。幸い、ほかに客はいなかった。
    「ええと、これはどこでもお茶を飲めるようにする装備でして…」と私は答え、店内でかはんちゃんを展開してみせた。
     マスターは「あらあらあら、これはいいわねえ!」と面白がり、さらにこうたずねた。
    「それ、どこに売ってたんですか?」
     ニコニコ技術部員にとって100万ドルの質問が来た。私は呼吸を整えて答えた。
    「いえ、自分で作ったんです」
    「作ったあああああ?!」
     さながらサーバルちゃんである。私は心でガッツポーズを取った。
     しばらくして、店のオーナーが現れた。マスターよりさらに年配のご婦人で、いい茶葉を求めて世界を旅しているという。そのオーナーもまったく同じ質問をくりかえし、
    「作ったあああああ?!」
     と大受けしてくれたのだった。
     ニコニコ技術部員はだいたいウケを狙って作品を組み立てるものだが、今回はこれが誰かに受けるなど、まったく想定してなかった。それが意外な層にウケたので、私は大いに鼓舞された。
     私は店で亀山紅茶など買い込み、開発中のモーニングセットを試食したり、サービスでダージリンのファーストフラッシュを淹れてもらったりして楽しい午後をすごしたのだった。

     そして7月8日~9日、私はニコニコ技術部のイベント、NT金沢にかはんちゃんを背負って参加した。NT金沢をひとくちで説明するのは不可能なので、以下に貼った写真でおよその雰囲気をつかんでほしい。
















     私は会場の一角でかはんちゃんを展開した。すぐに人の輪ができて、にぎやかなお茶会になった。
     自分で持っていったカップは2セットだけだったが、チームラボの高須さんが持参した旅行用工夫茶(蓋碗)セットが便利で、これで4人の参加者をまかなえた(写真下)。お土産にもらった鉄観音茶も素晴らしかった。

     白いティーポットはUtah Teapot と言われる、3DCG黎明期にモデリングされたことで有名なものだ。元のメーカーはドイツのメリタ社だが、そこから分裂したFriesland社が現在もオリジナルのまま製造している。
     湯沸かしの熱源は、アウトドアではアルコールストーブを使うが、ここでは火を使えないのでトラベルヒーターを使った。ポットに取り付いている緑色の器具がそれだ。

     二日目も場所を変えながら、かはんちゃんでお茶会した。お名前を聞き忘れたが、聞香杯(お茶の香りをかぐための縦長の杯)や台湾の高山茶を持ってきた通もいて、さすがだった。
     こうした国際派のメンバーに誘われて、11月のMaker Faire Taipei にかはんちゃんを持っていくことを決めてしまった。ついこんなことになってしまうのも、人の輪とお茶の力、それを媒介したかはんちゃんの効果だと思う。

     金沢二日目の午前中は単独行動して、道ばたの公園でお茶したりした。もともと一人用に作ったものなので、ゆったりと自分だけの時間をすごせた。
     まあ、道行く人からはホームレスに見えたかもしれないが、お茶を飲んでくつろいでいると、そんなことは気にならなくなるものだ。


     金沢にはTea House Sakura という素敵な紅茶専門店があるので、かはんちゃんを背負って入ってみた。スリランカのフレーバー・ティーをたくさん揃えていて、完熟桃をどっさり使ったアイスティーが絶品だった。桃の下にあるお茶も桃のフレーバーティーで、これが実にうまく溶け合っている感じなのだ。
     それとともに、Tea Free というセットメニューがあって、カップにいろんな紅茶を注いでくれる。茶葉の選択は店の人まかせで、カップが空になると頃合いをみはからって別のお茶が注がれる。5種類くらいのお茶が楽しめる、嬉しいサービスだ。
     金沢は都会だけあって、店の人はかはんちゃんをスルーしてくれていたが、同じカウンターにいた女性から「あの、その箱なんですか?」と聞かれた。
     いつもどおり説明して「駅前でやってるイベントで披露してるんですが」と言うと、「もしかしてNT金沢ですか? 私もこれから行くんです」という、意外な返事だった。なお、店の人は「行商の人かと思ってました」と、このとき言った。
     13時からNT金沢のトークセッションに出るので、12時半頃に店を出て、その女性といっしょに歩いて会場に入った。

     トークセッションでも、私はかはんちゃんを展開して、左右にいる秋田先生、高須さんにお茶をサービスした。「何をやってるんだ、あいつは」という無言の視線がちょっと面白かった。

     金沢の二日間、大活躍したかはんちゃんだったが、どうしても顔見知りで集まりがちだった。こういう新陳代謝が大切なイベントで「古株がとぐろを巻いている」感じになるのはよろしくない。知らない人、年の離れた人がふらっと参加できる雰囲気作りをするにはどうするか、が課題として浮上した。
     たとえば……紐を引くと鐘が鳴ってメッセージが出る、みたいな仕掛けをつくっておいて、操作した人は否応なくお茶を飲まされる、というのはどうだろう?

     ニコニコ技術部の作品といえば電子技術を駆使したものが多いが、電気などで能動的に動くものを「アクティブ工作物」とするなら、椅子や机、宅配ボックスや岡持ち、かはんちゃんは「パッシブ工作物」である。
     パッシブ工作物は自分では動かない。かわりに人が動かす。視点を変えれば、
    「人を動かす」のがパッシブ工作物の本分である。カマキリに寄生してその行動を支配し、自分を水辺に運ばせるハリガネムシのようで、これは電子技術とは別の妙味があると思う。
     かはんちゃんは私を利用して関宿と金沢を旅した。利用するだけでは人に嫌われ、放置されてしまうだろう。だからかはんちゃんは、代償として、何人かの人に憩いのひとときを提供したわけだった。

    ●2017年7月24日 追記
     トークセッションの動画を公開していただいたので以下にリンクする。



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  • 宅配ボックスの作り方

    2017-07-16 23:37917

     オタクにとって宅配は生命線だ。その宅配業界が音を上げかけている。原因のひとつは再配達によるオーバーワークだという。私はひとり暮らしで、昼間は家を空けていることが多いから、再配達させてしまうことが多い。なんとかしなくては、と前から思っていたので、一念発起して宅配ボックスを制作・設置することにした。
     しかし宅配ボックスとは、自作して通用するものなんだろうか?
     ネットで調べたり、家に来た配達ドライバーに聞いてみた結果、宅配ボックスの要件は以下の通りだとわかった。
    (1) 施錠できる箱であること。
    (2) 宅配ボックス自体が盗まれないよう、固定されていること。
    (3) 印鑑は不要、もしくはあったほうが良い、とドライバーによって意見が揺れていた。
    (4) それが宅配ボックスであることを示す掲示をすること。
    (5) 郵便小包や書留郵便物などは規則上、宅配ボックスを使えないので、対象外となる。

     そして作ったのはこんな箱だ。高さ90cmほどで、大きさの違う2ドア構造になっている。上の小さい区画はAmazonのよくある段ボール箱が入る大きさ。下の大きい区画は旅行鞄ぐらいのものが入る。
     箱の外側にはシャチハタネームをピンクの紐でぶら下げた。これが使われているかどうはわからない。

     宅配ボックス設置から10日ほど経って、帰宅した私を待っていたのは不在通知であった。ドライバーは玄関に置いた大きな緑の箱に気づかなかったらしい。
     そこで呼び鈴の上に、写真のような掲示を出した。

     設置から15日め、ついに最初の獲物がかかった。「宅配ボックスに入れました」と記入した不在通知がポストに入っていた。私はひとり玄関でガッツポーズを取ったのだった。

     宅配ボックスとして、戸外に設置するストッカーを利用する人もいるようだ。施錠できる金具がついていれば、盗難防止のチェーンを取り付けるだけで設置できる。ただし2ドアのものは見当たらなかった。
     いちからDIYしたい人の参考になるかもしれないので、私が作ったものを以下に公開しておこう。



     これはcaDIY3Dというアプリケーションを使ったものだ。一ヶ月間無料で試用できる。
     caDIY3D用のCADデータはこちらに置いた。アプリケーションから開いてみれば、ぐりぐり動かして確認できる。
     木工部分は木取り図のとおり、厚さ12mmの針葉樹合板2枚から作れる。この合板は1枚1000円~1500円ぐらいだ。テーブルソーや丸鋸を使って自分で切るか、ホームセンターの工作室にあるパネルソーで切ってもらうとよい。この段階では精度が重要なので、ハンドツールは使わないほうがいい。

     パーツの切断が終わったら、平らな台の上で、木工用ボンドを使って接着していく。釘や木ネジは使わない。それで不安になるなら、木工用ボンドの偉大さを知らないか、接着に手落ちがあったのだろう。
     接着にあたっては重しを乗せたり、紐でぐるぐる巻いたりして接着面に圧力をかけることが必要だ。圧力をかけたとき、ボンドが均一にはみ出してきたら良い兆候だ。はみだしたボンドを指でぬぐい、その指はペーパータオルでぬぐう。

     ヒンジは各ドアに二つずつ使う。
     取り付け位置は作図していないが、適当でよい。

     ドアの左側には、マグネットキャッチと南京錠をかける金具を取り付ける。
     金具の厚さのぶん、ドアを削ったが、金具のベース部分を左の端面につければこの加工は不要かもしれない。

     宅配ボックスは玄関の柱にチェーンで取り付けた。チェーンを通すため、本体に穴をあけ、ボックスの内部で南京錠を使ってチェーンを結んでおく。

     先述のとおり、外側にシャチハタネームをぶら下げた。この方式だと、不特定の人がこの印鑑を使えることになるので、理想的ではない。メーカー製の宅配ボックスは暗証番号を使うなど、もっと複雑な方法でガードしている。
     ともかく、これまでのところ、この宅配ボックスは数回の使用実績があるし、トラブルは起きていない。そして設置から1か月半が経ったいまも、再配達は一度も起きていない。
     宅配ボックスはいいものだ。旅行などで数日家を空けるときなど、その期間に配達がないように通販での購入をやめていたが、そんな気遣いをする必要がなくなった。
     そして何より、帰宅したとき宅配ボックスが施錠されていると、罠に獲物がかかったような高揚感が味わえる。自作したものが他者に使ってもらえるのは嬉しいものだ。

  • Makerは我が道を行く――Maker "Fire" 能登、あるいはNT能登キャンプ

    2016-08-27 02:3622

     日本最大のMakerの祭典、Maker Faire Tokyo (MFT) は、今年も充実していた。ビッグサイトの西2ホールを埋め尽くした作品はどれをとっても創意工夫に富んでいた。








     科学未来館が会場だった頃はとにかく窮屈で、テーブルに乗る小さな作品を詰め込んだ養鶏場のような眺め、と感じたこともあったが、ビッグサイトになってからは高水準を維持していて、文句のつけようがない。通路が広くて出展者とゆっくり話せるし、アメリカ本国のMaker Faire で見かけるような巨大オブジェはないが、乗用車サイズの作品ならごろごろしている。
     だがしかし、私はそんなMFTにも慣れてしまった。優れた作品で飽和状態になるせいか、以前のようには感激しなくなった。集まる数が多いので、優れた作品でも市場価値が低下して、ありふれたものに感じてしまう。
     そしてビッグサイトも、ある意味では窮屈だ。床面積は大きいが、消防法の規制がうるさく、燃焼系の作品が展示できない。ハンダゴテさえ自由には使えない。
     かつてMFTがMake Tokyo Meeting と呼ばれていた頃は、もっと奔放だった。火炎を噴き出す自作ジェットエンジンや、レシプロ機関で動くロボットなどがあって、世の中にはこんな無茶をする奴がいるのか、と刺激を受けたものだ。
     俺定義では、Makerとは、技術をもって我が道を貫く人であるその作品は他人にとって不快なものや危険なものもあるはずだ。
     現在のMFTにはそうした作品がない。オタクっぽさもほぼ消えた。生き方を感じさせる作品はあるが、家族連れでも安心して見られる行儀のいい作品ばかりが選ばれている。これが悪いとは言わないが、以前のようにはわくわくしなくなった。

     イベントと自分がこんな関係になったら、さっさと別の道へ進むのがいいだろう。
     ニコニコ技術部・金沢メンバーのヒゲキタさんとあきにゃんも大体同じことを考えていたらしく、「NT能登キャンプ」を企画した。日時と場所だけ決めておいて、あとは自由、参加登録もしないというフリーダムなイベントだ。Maker Faire というよりはバーニングマンに近いかもしれない。場所は能登半島のほぼ先端、五色ケ浜海水浴場。日時は8月13~14日。
     NTというのはNicoTecの略である。ニコニコ技術部のイベントはNT+開催地名+開催年という命名規則になっている。これは整理用の名前で、別に愛称をつけることもある。この場合は「Maker Fire 能登」が愛称になるだろうか。

     Maker Fire(Faireではない、ファイヤーである) を名乗るからには、火を使ったものを持ち込みたい。
     そこで私は前からやってみたかったポテト砲を作った。じゃがいもを砲弾として発射するもので、推薬はカセットコンロのブタンガスなどを使う。やんちゃなMakerの遊びとして定番で、potato cannon で検索するといろいろ出てくる。金属弾を発射しない限り、銃刀法には触れない。
     動画>> 燃焼チャンバーの着火試験1着火試験2ポテト弾の試射
     このタイプのポテト砲は塩ビ製で、凝らなければ1~2時間で作れてしまう。とはいえ初めてだったのでいろいろな問題に直面し、いまいち着火が安定しないまま当日を迎えた。ほかに投げ釣り道具、シュノーケル一式、目印用のデルタカイト、キャンプ用具を車に積み込んだ。
     私は前日から出発し、当日朝9時に小松でnikuさんを拾って会場をめざした。
    「会場は金沢のちょっと先」ぐらいに思っていたのだが、私は能登半島をなめていた。金沢からが遠いのだ(羽咋からも遠い)。しかもお盆期間だから帰省ラッシュで道が混んでいた。

     羽咋の手前でなぎさドライブウェイを走った。日本で唯一、車で波打ち際を走れる道路だ。しかしここも結構混んでいた。
     羽咋から"のと里山海道"なる道路に乗って山の中を延々走り、東海岸に出てからも延々走った。

     途中の海岸に伝統漁法「ボラ待ち櫓」なるものがあった。櫓からボラの群れが来るのを監視していて、来たら網を引きあげて一網打尽にするのだそうだ。


     午後2時頃、ようやく会場の五色ケ浜海水浴場に着いた。先にヒゲキタさんが来ていて、テントとブルーシートで場所を確保していた。なぜか「NT金沢」の看板を掲げている。
     この写真ではよくわからないが、海水浴客が大勢いて、駐車場もしばらく空きを待つ状態だった。もっと辺鄙で貸し切りになるような場所だと思っていたのだが、これではポテト砲が撃てない。

     とりあえず、デルタカイトを揚げて目印にした。この凧でニコニコ技術部の幟を掲げるつもりでいたが、幟を持ってくる人の到着が日没後になったので果たせなかった。
     相馬野馬追に影響されて「人生は旗だ」などと考えるようになり、今回も旗を揚げることにこだわっていたのだが、残念だ。次からは人に頼らず、自分の旗を作っていこう。


     とりあえず、他の海水浴客が帰るまで、泳ぐことにした。
     素晴らしい海だった。波打ち際は真っ白な砂地だが、10mほどで海藻が繁るようになる。消波ブロックを積んだ防波堤や岩場まで行くと、さまざまな魚が見られた。透明度も高く、10mぐらい見通せる。
     私は珠洲市まで車を走らせて釣り餌を買い求め、投げ釣りをやってみた。キスが一匹釣れたが、伊勢湾のように遠浅ではなく、すぐ根掛かりしてしまう。そこで棒きれの先に短い釣り糸と釣り針を結び、餌をつけて、シュノーケリングしながら魚を誘ってみた。すぐに小さいフグが飛びついてきた。食べるわけにはいかないが、水中で様子を眺めるのは面白かった。nikuさんに道具一式を貸すと、彼も長いこと熱中していた。

     後になって思ったのだが、シュノーケルと水中眼鏡を持参するよう、参加者に伝えておくべきだった。夏の海辺に来て、これがあるとないでは体験がまったく違う。よく水中映像で見かけるダイビングの世界を体験するには、大がかりなスキューバ装備など要らない。1000円ぐらいで買えるシュノーケルと水中眼鏡だけでも満喫できる。さらに足ヒレがあれば行動半径がkm単位で拡大する。

     夕方になって他の海水浴客がいなくなったので、私はポテト砲を撃った。
     めむくろさん撮影の動画
     ポテト砲の弾丸にはじゃがいもを使うのだが、これをてるてる坊主のように布で包んで数mの紐を結ぶと、いろんなものを投射できる。他の人が持ってきていた花火を飛ばそうとしたのだが、このときはうまく着火せず、失敗に終った。どうやら撃った後にチャンバー内を換気しないと適切な混合比にならないらしい。



     暗くなってくると、あちこちで野外調理が始まった。私も釣ったキスを焼いて食べた。焼肉、パエリヤ、MRE、ダッチオーブンの料理など、盛りだくさんである。
     車から電源を取ってビールサーバーも設置され、ビーパル族の宴会みたいになった。このときは20人ほど集まっていた。



     暗くなると参加者による火炎ショーが始まった。スプレー缶にガスバーナーで着火するもの、火をつけたスチールウールに針金をつけて振り回すもの、マッドマックスの火炎放射ギター、水素爆鳴気の点火など。
     いちばん過激だったのは充電したリチウム二次電池を斧で割り、バーナーであぶるというものだ>>めむくろさんの動画
     リチウム電池の発火事故はよくあるので、こうした機会に体験しておくといいだろう。

     なかなか刺激的な宴になったが、いまひとつまとまりに欠けていた気もする。
     私が普段しているソロキャンプはもっとストイックなもので、食料はなるべく現地調達し、焚き火で必要最小限を作る。酔うと危険だから酒は飲まないか、ごく少量ですませる。夜はしじまの中で星を見上げたり、獣の鳴き声に耳をすませたりしながら思索にふけるスタイルなのだが、今回は花見の宴会みたいなものになった。
     焚き火を囲んでMakerの人生観などを語らう時間があってもよかったのだが、数人のグループに分かれて雑談するばかりだった。しゃべる人はとことんしゃべり、静かな人は黙ったままなので、少し仕切って自己紹介ぐらいさせればよかったと思う。いまだに誰が来たのか把握できないし、Twitterのまとめ を読んでもハンドル名と本人が結びつかない。

     キャンプといっても人それぞれで、私は夕方から翌日午前中までがコアタイムだと思っていたのだが、夕食が終ると片付けが始まり、家に帰ったり宿に移動する人が出始めた。なんだか思っていたものと違うなあと思いつつ、お開きムードになったので、私も車の中で横になった。
     後でヒゲキタさんから聞いたところでは、そもそもこの場所はキャンプ禁止だということが当日になってわかった。海水浴場の管理人が「まあいいよ」と見逃してくれたので続行できたのだが、次は別の場所を探さねばならない。

     4時頃目が覚めたので、車を降りて用を足した。月が沈んだために満天の星空になっていて天の川もくっきり見えた。ちょうどnikuさんも起きてきたので、二人でペルセウス座流星群を眺めた。流星群のピークは前日だったが、このときは20分ほどで10個以上の群流星を見た。

     翌朝は8時前に起き、再び海で遊んだ。まったくこの海は素晴らしい。nikuさんがキスを釣ったので、焚き火で炙って食べる方法を指南した。

     海に向かってポテト砲で水切りをしたりもした。じゃがいも弾は水面を3回跳ねた。
     仰角45°で撃つと100m近く飛んで防波堤の外側に水柱が上がった。

     3人ぐらいで11時頃まで遊んで、帰途についた。途中、コスモアイル羽咋に寄って宇宙機を見物した。他のメンバーは景勝地に行ったり、自家用機で体験搭乗したり、金沢で遊んだり、自転車旅行を続けたりしたようだ。各自やりたいようにやっているところは頼もしい。

     私はこの旅とイベントを大いに楽しんだが、先述の通り、Makerがたくさん集まったことによるシナジーが十分に引き出せなかったのは反省点だと思う。また、人によってアウトドアのスタイルがかなり違うのにも戸惑った。
     しかし、ぜひ次に繋げたいものだ。そのときは以下の点を練っておきたいと思う。

    ・コアタイムだけははっきり決めて、自己紹介や作品演示を全員参加でやりたい。
    ・お盆期間は避けたい。コミケと重なるのもよくない。
    ・海なら海水パンツ、水中眼鏡、シュノーケルは持参したい。
    ・キャンプするならLEDヘッドランプは持参したい。
    ・どんなアウトドア活動になるか、事前に承知しておきたい。花見宴会、河原バーベキュー、デイキャンプ、オートキャンプ、バックパッキング等の分類など。
    ・車横付け可能か、裸火で焚き火可能か、トイレ・水場はあるか、爆音は出せるか等を確認しておきたい。
    ・ゴミが出過ぎるので使い捨て食器を禁止したい。各自が飯盒やメスキットを持参すればゴミ問題は解消するはず。