• ジャパリ馬車が運んだ小さな奇跡 ――超乗合馬車2017レポート

    2018-02-20 00:513

     ニコニコ超会議2017で超乗合馬車を運用したときのレポートである。

    ●超乗合馬車とは何か
     ニコニコ超会議会場において、人力で牽引する、山車のようなものだ。引き手は2~4人、乗客は6人前後。山車部分は軽自動車ぐらいの大きさ。引き手は馬のかぶりものを頭に乗せるので「馬」と呼ばれている。
     馬車の前部には「御者」が乗り、ステアリングとブレーキを操作する。
     馬車は会場内の通路上、一周10分くらいのコースを周回する。コース上に一箇所、停車場がある。ここで乗客や馬の受付と乗り降りをおこなう。

     馬車は無動力の台車みたいなものだが、内輪差を極限し、小回りがきくようにサーボステアリング装置がついている。演出サービスとしてパワーアンプ、ミキサー、エフェクター、電光掲示板、AC100V電源を搭載している。乗客はこれらを使って、歌ったり演奏したり、メッセージを声と文字で出したりできる。
     車体は鋼管を溶接して作られ、複合材でカバーされている。車輪部分は廃車から外してきたものを転用している。電光掲示板もステアリング用サーボも、すべてニコニコ技術部員の手作りだ。

    ●超乗合馬車の使い方
     馬車は予約もできるが、当日、停車場に来てスタッフに申し出れば、たいてい20分以内に乗れる。無料である。
     一周ごとに馬と乗客を入れ替える。超会議の二日間、終日運行する。VIPが来訪したり、通路が混雑するときは一時運休することもある。
     乗客になれるのは超会議の来場者すべてだ。ただし単なる遊覧で乗せることは少ない。コスプレイヤーやパフォーマーなど、周囲にアピールする要素のある人を優先している。
     例外として、車椅子の方や幼児を連れた方には優先的に遊覧搭乗してもらっている。

     馬役は誰でも参加できる。馬車が通りかかると、最初に受けるのは馬だ。それが楽しいので馬役のリピーターもいる。
     来場者の多くは馬車の利用方法を知らないので、こちらから通路にいる人をスカウトして、乗客や馬役になってもらうこともしている。スタッフのあずさんはスカウトと采配の達人で、あっというまにメンバーを揃えてしまう。私がスカウトすると、怖がって避けられてしまうことが多い。
     確実かつ計画的に馬車を利用したい人は、野尻 nojirihs(あっと)gmail.com までメールで連絡されたい。


    ●馬車運用の心得
     馬車のスタッフも乗客も、ともに心得てほしいこと。

    (1)安全第一。人が歩く速度で通路を動くだけなので危険は少ないが、将棋倒しなど、群衆事故を引き起こさないように細心の注意を払う。群衆事故は、誰かが悲鳴をあげるだけでも発生しうる。馬車の周囲は運営側スタッフも加わって交通整理をしている。
    (2)ギブ&テイク。混雑する通路をそれなりの面積で占有するので、「通行の邪魔になることと引き換えのなにか」を提供するよう心がける。つまり周囲を楽しませることを意識する。
     もちろんニコニコの文化だから、完璧をめざす必要はない。馬車に乗ったら、愛想良く手を振ろう、ぐらいのことだ。

    ●超乗合馬車の歴史
     馬車のデビューは2013年の超会議2からだ。当初の目的は、超会議におけるニコニコ技術部の作品展示のひとつで、馬車そのものが作品だった。さらに馬車を使ってほかの技術部作品を展示することも目的だった。
     発端となったアイデアはニコニコ技術部のIRCで出た「遊園地のミニ列車みたいなのを周回させたいね」であった。停車場をコースの両端に置いて、旅客輸送する構想もあった。
     実際には停車場が一箇所だけのクルーズ形式になり、主に移動ステージとして使われている。

    ●超会議2017での馬車
     ご覧の通り、車体をけものフレンズのジャパリバス風に改装している。通称として「ジャパリ馬車」とも呼んでいる。
     ばらばらに動いていた人たちが、けものフレンズを軸にしてさまざまな現象を生成し、それが超会議の場でシナジーを励起する、という小さな奇跡を久しぶりに味わった。以下に説明しよう。

    ・現象その1 2017年2月24日、野尻はTwitterでそそのかされ、馬車をジャパリバス風に改装することにした。当時は最終回も未放映で、それが不評だったらジャパリ馬車もネタとして滑るので不安だった。
     しかし自分の中では、もうすっかりけもフレファンだったので、やるしかないと思った。スプレーガンとコンプレッサーを買い込み、庭でがんばって塗装した。


    ・現象その2 2017年4月25日、akira_you氏が1/1巨大セルリアンを作り、動画を発表、たちまち7万再生に至った。彼は超会議に参加しなかったが、動画についた「超会議に来て」というコメントを読んで、私の家に一式送りつけてきた。馬車をトラックに積んで幕張メッセに向かう前日のことである。中身を確認する時間も場所もなかった。


     この巨大な風船みたいなものを馬車に乗せて練り歩けという難題である。私も保持用のポールなどを用意していったが、当日までどんなものかわからず、ダメモトだった。
     容積は約30立方メートルと聞いた。空気だけで40kgぐらいの質量になる。周囲が空気だから重さは感じないが、慣性は残っているから、動き出すと止まらない。止めようとして引っ張ると破れる。まったく御しがたいオブジェだった。
     結局、これを会場内で展示することは運営からNOが出た。私も群衆事故の危険を感じたので、展示は断念した。


    ・現象その3 展示をあきらめた巨大セルリアンだったが、運営の中野さん、メガネさん、徳竹さんらが、「中曽根オフになら出せますよ」とはからってくれた。中曽根オフというのは初日、入場待機中におこなうパレードだ。
    「これ絶対面白いから、出しましょうよ」と、運営側から言ってくれたのは胸熱だった。
     胸熱ではあったが、私はさらなる難題に直面することになった。屋外でこれを移動展示するのは想定外だ。風が吹いたらどうなるか。セルリアンの形を保つには、扇風機で送風し続けなければならない。しかしそこは技術部、馬車用の可搬電源を台車に乗せるなどして、なんとかなった。
     当日、セルリアンは日照で内部の温度が上昇し、じわじわと浮揚し始めた。幸いほぼ無風で、幕張の空を漂流して航空障害物と化すような事態は起きなかった。
     パレードは最高に楽しかった。つるの剛士氏のツイートで動画が見られる。





     パレードの最後で巨大セルリアンは野生解放したフレンズたちに倒された。めでたしめでたし。

    ・現象その4 ハギレの錬金術師氏が1/1ラッキービーストのぬいぐるみを作り、馬車で使ってください、と超会議の設営日に持ってきてくれた。プロの超絶技巧で作られた、素晴らしいものだった。


     作者のTwitter

    ・現象その5 あきにゃん氏が酔った勢いで、けもフレキャラをかたどったユニバーサル基板を作り、NT京都で頒布した。彼をスタッフに迎え、馬車乗車記念ノベルティとしてさらに800枚量産して配布した。



     基板を使った作品も投稿されている。


    BlueTone氏の作品

    ・現象その6 アニメ『けものフレンズ』をクリエイトしたirodoriの三人が馬車発着場に降臨した。
     写真の左から野尻、たつき、ゆっこ、白銀(敬称略)。
     乗車をすすめたが、たつき監督は固辞され、顔もラッキービーストぬいぐるみで隠しておられた。
     監督には事前にTwitterでお招きしたのだが、返事がなく、突然の来訪であった。



    ・現象その7 超会議の二日間、馬車は多数のフレンズ(けもフレのコスプレイヤー)を運んだ。1/1ラッキービーストがひっぱりだこになった。馬車スタッフ、あず氏のはからいで、けもフレコスの人にはこのぬいぐるみを小道具として勧めていた。
     もちろん、けもフレ以外のコスプレイヤー、パフォーマーもたくさんいた。実にさまざまな人が馬車に乗ってくれた。
     以下に二日間の写真をピックアップして貼っておく。適当に並べるが、テーマは馬車を引く人、馬車に乗る人、馬車を見る人、に分類できる。




































     当日のツイート、動画が以下にまとめられている。

    超乗合馬車2017 1日目まとめ

    超乗合馬車2017 2日目まとめ

     馬車にまつわるさまざまな「絵」を見れば、ニコニコ超会議という場の精髄が浮かび上がるだろう。基本的に無計画ながら、人それぞれに期するものがあってコスチュームや装置を用意してくる。それらがひとつの場に集まり、ある偶然のもとで瞬発力を発揮する。これらの絵は、その輝きを捉えたものだ。どの絵にも、小さな奇跡が宿っている。

     結局、馬車は初日29便、二日目28便運行し、無事故、無故障のうちに600人あまりが参加した(馬役含む)。馬車担当になった運営スタッフはかなりの肉体労働だったと思うが、よく働いてくださった。改めて感謝したい。




     超会議の二日間、私は馬車にかかりきりで、他の企画はほとんど見ていない。沿道に見えた企画では、歌ってみた・踊ってみた・演奏してみたがいずれも楽しそうで、特に踊ってみたのレッスンシーンには毎年感動してしまう。大勢が真摯に体を動かしている姿は、それだけで立派なコンテンツだと思う。いろいろと批判や失敗もあるニコニコだが、私はこの文化が好きだ。これを好きになるには、自分から能動的に参加してみることだろう。

    ・関連記事など

    動けー! ニコ超会場内をジャパリ“馬車”が疾走中、動力は人力 - ねとらぼ

    TOPGUN_Akiのブロマガ/超会議2017で、ジャパリ馬車(超乗合馬車)を曳いてみた

    ・ 同氏‏ @TOPGUN_Aki のツイートから。
      超会議ね、最初のころ「どうせ歌い手、踊り手とかパフォーマー優遇で技術部系はたいして注目さない」って思ってたから、参加も考えなかったんだよね。でも超乗合馬車やって思ったのは「技術部でもヒーローになれる」「裏方のステージ役でも注目される」そういうところだったんだよね。やってよかった。
     そういう、普段は裏方の人間が見かたと切り口を変えるとヒーローになれる、というのがまさに「ニコニコ技術部」だったわけで、ニコニコ超会議でもその機能はしっかり果たしていたわけだったんだ。
      ニコニコ超会議、「パフォーマーばっかり目立って参加する意義がない」と思ってて今まで参加しなかった自分をはじめて恥ずかしいと思ったし、行ってみたら「オフパコ超会議乙w」とか言ってる人は本当に酸っぱい葡萄だなー、って思っちゃった。結局行ってみてよかったよ!
      あと、超会議で感じたのは「承認欲求」の正当性だね。なんか「チヤホヤされたい」と言うとすごく承認欲求が悪いことに聞こえるけど、実際そうやって観てもらってうれしいし、観てる人間も楽しい、っていうのだと、誰も損しない。超乗合馬車でノリノリでパフォーマンスしてる人を見てそう思ったよ。

    【追記あり】「ニコニコ超会議2017」閉幕 ネット来場50万人減少、2018も決定 - KAI-YOU.net

    あずマガ大王 ジャパリ馬車こと超乗合馬車2017写真集 一日目

    あずマガ大王 ジャパリ馬車こと超乗合馬車2017写真集 二日目

    あずマガ大王 超乗合馬車ご利用いただきありがとうございました!


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  • 可搬式カフェ『かはんちゃん』を背負って旅に出た

    2017-07-21 00:401734

     けものフレンズ3話『こうざん』が好きだ。このエピソードは私が思うユートピア、人類と機械が共生する理想的なポスト・シンギュラリティ世界をよく描いている。
     ジャパリパークは「ジャパリまん」というベーシックインカムが支給され、誰でも遊んで暮らせる世界である。パークの維持に必要な労働はロボットがしてくれる。知識は図書館に集約され、誰でも無料で利用できる。
     そんな楽園にもかかわらず、自主的に仕事をするフレンズがいる。
     2話ではジャガーが川で渡しをやり、5話ではアメリカビーバーとプレーリードッグが家を建てていた。
     そしてこの3話ではアルパカ・スリがカフェを営んでいる。
    「ここって隣の地方に行くときよく通るじゃない? このあたりで一休みできたらとても素敵だなって。で、ある日、隣の山にこの小屋を見つけたんだ。そういうところでお茶を出すとカフェになるって聞いて、図書館で作り方を教えてもらったの
     こんな動機でアルパカはスタートアップした。仕事とは嫌々するものではない。自分のやりたいこと、向いていることで社会に貢献して、やりがいや生きがいを得られる。これでこそユートピアである。
     
     3話の終盤、一同が紅茶を飲むシーンは幸福感に満ちていて、こちらまで気持ちが伝染してくるようだ。
     過去のエントリーを読めばわかるとおり、私はアニメの紅茶シーンが好きで、去年はガールズ&パンツァーにおける紅茶の再現に熱中していた。けものフレンズ3話のここは、近年のアニメで屈指の紅茶シーンである。
     そんなわけで私は、
    「人生に紅茶は必要だ。うちでもテラスで紅茶を飲もう。しかしお盆で茶器を運ぶと両手がふさがるのでドアの開閉ができない。片手で運べる岡持ちを作ろう」と思い立った。

     宅配ボックスの余った材料があったので、正味2時間ほどでこの岡持ちを完成させた。トップがテーブル代わりになるので、折りたたみ椅子の横に置いてもいい。
     人に寄り添うこのフォルム、どことなくラッキービーストみたいではないか?

     この岡持ちを作ったのは6月上旬だが、その頃、『隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働』という本を読んでいた。これもユートピアへの道を説いている。
     "ベーシックインカムを導入したら誰も働かなくなる、という考えは誤りである。多くの実験で、人々はさらに勤勉になるという結果が出ている"――なんて論説には大いに首肯するのだが、反証があるかどうか不明なので、いまのところ話半分ぐらいに思っている。
     この本はGDPが生活の質を反映しないことにも触れている。デジカメは写真店やフィルム産業を駆逐してGDPを下げた。インターネットもGDPを下げた。だが生活の質、QOLは向上している。
    「なるほど、GDPよりQOLか。なら私は紅茶とともにある生き方を、さらに追求してみよう」
     と思い、次なる工作の構想にとりかかった。

     扉のない岡持ちでは屋内から庭先まで、ごく短い距離の輸送にしか使えない。もっと長距離を旅して、海や山でも紅茶が飲めるようにしたい。
     アウトドア用の茶器はすでに市販されているが、私が思い描くのは、聖グロリアーナの戦車やジャパリカフェのように、家で使う茶器をそのまま持ち出すスタイルだ。普段使いの茶器を運んでこそ日常性が保存され、エクストリーム・カフェになるのである。
     そのためには(1)ガラスや陶器でも安全に運べる梱包 (2)水を沸騰させる器具 (3)テーブル (4)椅子 (5)装備一式をまとめるバックパック ――が要件となる。
     すなわち可搬式カフェ『かはんちゃん』である。

     最初のラフスケッチはこんなものだ。蟲師のバックパックみたいな箱の蓋が開いてテーブルになる。内部は区割りされていて、陶器を壊さずに運べるように梱包材を工夫する。
     細部が固まらないまま、さくさく工作して下のようなプロトタイプができあがった。なお、緑の椅子はヘリノックスのチェアワンという製品だ。畳むとかはんちゃんの本体内部に収納できる。




     使っていない軍用ザックのストラップを取り付け、問題なく背負えることを確認した。
     テーブルではノートPCや手帳を使ってみたが、すぐ作業に集中して、新装備をテストしていることを忘れてしまった。
     アウトドア活動をしていて、風景は素晴らしいのだが、落ち着く場所がなくて、立ったままうろうろした経験がないだろうか? こんなとき椅子とテーブルの効果は絶大で、そこに根を下ろした感覚を持てる。




     

     
     着色ウレタンニスを塗って完成状態にした。デザインが固まったわけではないが、以後は使いながら改良していくことにする。
     内部はコンテナ区画ふたつとバラ積み区画ひとつから成っている。コンテナの内側にはフェルトを貼り、仕切りとゴム紐を取り付けて茶器を保持できるようにした。逆さにしても落下することはない。
     バラ積み区画にはひったくり防止ネットを取り付け、立てた状態で蓋を開いても中身がこぼれないようにした。写真の状態でスイス陸軍水筒(コンロと鍋を兼ねる)とチェアワンが入っており、収納スペースにはまだ余裕がある。

     7月のはじめ、私はかはんちゃんを背負って、亀山市にある関宿を歩いた。江戸時代の宿場町が1km以上にわたって景観保存されていて、私の好きな散歩道だ。
     歩きながらかはんちゃんの背負い心地を試したのだが、特に問題はなかった。腰と肩のあたりにパッドをつければ、さらに快適になるだろう。

     関宿の中程に「アールグレイ」という紅茶専門店がある。
     だいたいにおいて、紅茶専門店というのは女性ばかりいる上品な空間で、私のようなおじさんには敷居が高い。
     だが、紅茶専門店の紅茶はそのへんの喫茶店のそれより断然うまいし、茶葉も販売している。この日は茶葉を仕入れるために、勇気をふるって店に入ったのだった。
     すると、まだ席も決まらないうちから、マスターのご婦人に、「あら、その箱は何ですか?」と聞かれた。幸い、ほかに客はいなかった。
    「ええと、これはどこでもお茶を飲めるようにする装備でして…」と私は答え、店内でかはんちゃんを展開してみせた。
     マスターは「あらあらあら、これはいいわねえ!」と面白がり、さらにこうたずねた。
    「それ、どこに売ってたんですか?」
     ニコニコ技術部員にとって100万ドルの質問が来た。私は呼吸を整えて答えた。
    「いえ、自分で作ったんです」
    「作ったあああああ?!」
     さながらサーバルちゃんである。私は心でガッツポーズを取った。
     しばらくして、店のオーナーが現れた。マスターよりさらに年配のご婦人で、いい茶葉を求めて世界を旅しているという。そのオーナーもまったく同じ質問をくりかえし、
    「作ったあああああ?!」
     と大受けしてくれたのだった。
     ニコニコ技術部員はだいたいウケを狙って作品を組み立てるものだが、今回はこれが誰かに受けるなど、まったく想定してなかった。それが意外な層にウケたので、私は大いに鼓舞された。
     私は店で亀山紅茶など買い込み、開発中のモーニングセットを試食したり、サービスでダージリンのファーストフラッシュを淹れてもらったりして楽しい午後をすごしたのだった。

     そして7月8日~9日、私はニコニコ技術部のイベント、NT金沢にかはんちゃんを背負って参加した。NT金沢をひとくちで説明するのは不可能なので、以下に貼った写真でおよその雰囲気をつかんでほしい。
















     私は会場の一角でかはんちゃんを展開した。すぐに人の輪ができて、にぎやかなお茶会になった。
     自分で持っていったカップは2セットだけだったが、チームラボの高須さんが持参した旅行用工夫茶(蓋碗)セットが便利で、これで4人の参加者をまかなえた(写真下)。お土産にもらった鉄観音茶も素晴らしかった。

     白いティーポットはUtah Teapot と言われる、3DCG黎明期にモデリングされたことで有名なものだ。元のメーカーはドイツのメリタ社だが、そこから分裂したFriesland社が現在もオリジナルのまま製造している。
     湯沸かしの熱源は、アウトドアではアルコールストーブを使うが、ここでは火を使えないのでトラベルヒーターを使った。ポットに取り付いている緑色の器具がそれだ。

     二日目も場所を変えながら、かはんちゃんでお茶会した。お名前を聞き忘れたが、聞香杯(お茶の香りをかぐための縦長の杯)や台湾の高山茶を持ってきた通もいて、さすがだった。
     こうした国際派のメンバーに誘われて、11月のMaker Faire Taipei にかはんちゃんを持っていくことを決めてしまった。ついこんなことになってしまうのも、人の輪とお茶の力、それを媒介したかはんちゃんの効果だと思う。

     金沢二日目の午前中は単独行動して、道ばたの公園でお茶したりした。もともと一人用に作ったものなので、ゆったりと自分だけの時間をすごせた。
     まあ、道行く人からはホームレスに見えたかもしれないが、お茶を飲んでくつろいでいると、そんなことは気にならなくなるものだ。


     金沢にはTea House Sakura という素敵な紅茶専門店があるので、かはんちゃんを背負って入ってみた。スリランカのフレーバー・ティーをたくさん揃えていて、完熟桃をどっさり使ったアイスティーが絶品だった。桃の下にあるお茶も桃のフレーバーティーで、これが実にうまく溶け合っている感じなのだ。
     それとともに、Tea Free というセットメニューがあって、カップにいろんな紅茶を注いでくれる。茶葉の選択は店の人まかせで、カップが空になると頃合いをみはからって別のお茶が注がれる。5種類くらいのお茶が楽しめる、嬉しいサービスだ。
     金沢は都会だけあって、店の人はかはんちゃんをスルーしてくれていたが、同じカウンターにいた女性から「あの、その箱なんですか?」と聞かれた。
     いつもどおり説明して「駅前でやってるイベントで披露してるんですが」と言うと、「もしかしてNT金沢ですか? 私もこれから行くんです」という、意外な返事だった。なお、店の人は「行商の人かと思ってました」と、このとき言った。
     13時からNT金沢のトークセッションに出るので、12時半頃に店を出て、その女性といっしょに歩いて会場に入った。

     トークセッションでも、私はかはんちゃんを展開して、左右にいる秋田先生、高須さんにお茶をサービスした。「何をやってるんだ、あいつは」という無言の視線がちょっと面白かった。

     金沢の二日間、大活躍したかはんちゃんだったが、どうしても顔見知りで集まりがちだった。こういう新陳代謝が大切なイベントで「古株がとぐろを巻いている」感じになるのはよろしくない。知らない人、年の離れた人がふらっと参加できる雰囲気作りをするにはどうするか、が課題として浮上した。
     たとえば……紐を引くと鐘が鳴ってメッセージが出る、みたいな仕掛けをつくっておいて、操作した人は否応なくお茶を飲まされる、というのはどうだろう?

     ニコニコ技術部の作品といえば電子技術を駆使したものが多いが、電気などで能動的に動くものを「アクティブ工作物」とするなら、椅子や机、宅配ボックスや岡持ち、かはんちゃんは「パッシブ工作物」である。
     パッシブ工作物は自分では動かない。かわりに人が動かす。視点を変えれば、
    「人を動かす」のがパッシブ工作物の本分である。カマキリに寄生してその行動を支配し、自分を水辺に運ばせるハリガネムシのようで、これは電子技術とは別の妙味があると思う。
     かはんちゃんは私を利用して関宿と金沢を旅した。利用するだけでは人に嫌われ、放置されてしまうだろう。だからかはんちゃんは、代償として、何人かの人に憩いのひとときを提供したわけだった。

    ●2017年7月24日 追記
     トークセッションの動画を公開していただいたので以下にリンクする。



  • 宅配ボックスの作り方

    2017-07-16 23:371018

     オタクにとって宅配は生命線だ。その宅配業界が音を上げかけている。原因のひとつは再配達によるオーバーワークだという。私はひとり暮らしで、昼間は家を空けていることが多いから、再配達させてしまうことが多い。なんとかしなくては、と前から思っていたので、一念発起して宅配ボックスを制作・設置することにした。
     しかし宅配ボックスとは、自作して通用するものなんだろうか?
     ネットで調べたり、家に来た配達ドライバーに聞いてみた結果、宅配ボックスの要件は以下の通りだとわかった。
    (1) 施錠できる箱であること。
    (2) 宅配ボックス自体が盗まれないよう、固定されていること。
    (3) 印鑑は不要、もしくはあったほうが良い、とドライバーによって意見が揺れていた。
    (4) それが宅配ボックスであることを示す掲示をすること。
    (5) 郵便小包や書留郵便物などは規則上、宅配ボックスを使えないので、対象外となる。

     そして作ったのはこんな箱だ。高さ90cmほどで、大きさの違う2ドア構造になっている。上の小さい区画はAmazonのよくある段ボール箱が入る大きさ。下の大きい区画は旅行鞄ぐらいのものが入る。
     箱の外側にはシャチハタネームをピンクの紐でぶら下げた。これが使われているかどうはわからない。

     宅配ボックス設置から10日ほど経って、帰宅した私を待っていたのは不在通知であった。ドライバーは玄関に置いた大きな緑の箱に気づかなかったらしい。
     そこで呼び鈴の上に、写真のような掲示を出した。

     設置から15日め、ついに最初の獲物がかかった。「宅配ボックスに入れました」と記入した不在通知がポストに入っていた。私はひとり玄関でガッツポーズを取ったのだった。

     宅配ボックスとして、戸外に設置するストッカーを利用する人もいるようだ。施錠できる金具がついていれば、盗難防止のチェーンを取り付けるだけで設置できる。ただし2ドアのものは見当たらなかった。
     いちからDIYしたい人の参考になるかもしれないので、私が作ったものを以下に公開しておこう。



     これはcaDIY3Dというアプリケーションを使ったものだ。一ヶ月間無料で試用できる。
     caDIY3D用のCADデータはこちらに置いた。アプリケーションから開いてみれば、ぐりぐり動かして確認できる。
     木工部分は木取り図のとおり、厚さ12mmの針葉樹合板2枚から作れる。この合板は1枚1000円~1500円ぐらいだ。テーブルソーや丸鋸を使って自分で切るか、ホームセンターの工作室にあるパネルソーで切ってもらうとよい。この段階では精度が重要なので、ハンドツールは使わないほうがいい。

     パーツの切断が終わったら、平らな台の上で、木工用ボンドを使って接着していく。釘や木ネジは使わない。それで不安になるなら、木工用ボンドの偉大さを知らないか、接着に手落ちがあったのだろう。
     接着にあたっては重しを乗せたり、紐でぐるぐる巻いたりして接着面に圧力をかけることが必要だ。圧力をかけたとき、ボンドが均一にはみ出してきたら良い兆候だ。はみだしたボンドを指でぬぐい、その指はペーパータオルでぬぐう。

     ヒンジは各ドアに二つずつ使う。
     取り付け位置は作図していないが、適当でよい。

     ドアの左側には、マグネットキャッチと南京錠をかける金具を取り付ける。
     金具の厚さのぶん、ドアを削ったが、金具のベース部分を左の端面につければこの加工は不要かもしれない。

     宅配ボックスは玄関の柱にチェーンで取り付けた。チェーンを通すため、本体に穴をあけ、ボックスの内部で南京錠を使ってチェーンを結んでおく。

     先述のとおり、外側にシャチハタネームをぶら下げた。この方式だと、不特定の人がこの印鑑を使えることになるので、理想的ではない。メーカー製の宅配ボックスは暗証番号を使うなど、もっと複雑な方法でガードしている。
     ともかく、これまでのところ、この宅配ボックスは数回の使用実績があるし、トラブルは起きていない。そして設置から1か月半が経ったいまも、再配達は一度も起きていない。
     宅配ボックスはいいものだ。旅行などで数日家を空けるときなど、その期間に配達がないように通販での購入をやめていたが、そんな気遣いをする必要がなくなった。
     そして何より、帰宅したとき宅配ボックスが施錠されていると、罠に獲物がかかったような高揚感が味わえる。自作したものが他者に使ってもらえるのは嬉しいものだ。