彼は、今。
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彼は、今。

2017-01-06 18:00
  • 4
彼はどこから来て、どこに行ったのか。
誰も知りませんでした。


ときどきふらりと現れては、輪の中に入りづらそうにしている彼を見て、
私は声を掛けました。


彼は、同級生とは思えないほど大人びていて、
端正な面持ちをしており、ほとんどしゃべらないおとなしい男の子でした。


私が、小学校3年生の頃のおはなしです。





彼は、常にひとりでした。


友達を連れて歩いている姿を見たことはありませんでした。


私は、いつもつるんでいた友達と、いつもの公園で遊んでいました。
その公園にときどき彼が現れ、一緒に鬼ごっこや勇者遊びをしていました。


彼は、いつも遠慮がちでした。
何かに怯えているような目でした。
私は彼を、ほうってはおけなかった。


その目を見ていられなかった。
なんとかしたいと思っていました。
今ならわかります。


彼は、私と同じだと。


きっとそうだと思います。


……


私はある日、彼だけを家に招待しました。


私は、ファミコンが大好きでした。
そして、彼もファミコンが大好きでした。


ふたりで黙ってファミコンをしました。
何も言わず、何も語らず。
黙々とファミコンをプレイしました。


彼は、私のプレイを黙って見ていました。
1機やられたら、交代。
そして私は、彼のプレイを黙って見ている。


それだけを繰り返しました。


そのような日々が、ときどきではありましたが、続きました。


なぜだかはわかりませんが。
そのような静かな時間が、私は一番「楽」だと感じていました。


………


『毎日来てくれへんかな。』


彼はいつ来るかわかりません。
だから、彼にそう言いたかったのですが、私は口を紡ぎました。


拒絶されるのが怖かったからだと思います。


彼は、何を考え、何を想って私とファミコンをやっているのか。
聞きたいような、聞きたくないような。


彼はほとんどしゃべりません。
その彼がある日、1本のファミコンソフトを持ってきて、こう言いました。


「貸したる。」


その白いソフトには、「ファイナルファンタジーⅡ」と書かれていました。



………


主人公の名前は「ひろ」と付けられていました。
私はその時はじめて、彼の名前を知りました。


私は、ファイナルファンタジーⅡに没頭しました。
こんなおもろいゲームがあるんか、と。
攻略本も買いました。何度も何度も読み返し、何度も何度もプレイしました。


しかし、クリアできなかった。


ひろ君が来るたびに私は、ファイナルファンタジーⅡの話をしました。


『デスライダー強すぎるんやけど。』
『モルボルグレートにいっつもやられるねん。』


彼は、黙って聞いていました。


彼が帰った後も、私はファイナルファンタジーⅡをプレイしました。
次にひろ君が来るまでに、クリアしてみせる。
『クリアしたよ!』って言いたい。
そして、ちゃんとソフトを返さなきゃ。


……
………


結局、クリアすることは叶いませんでした。
いい加減、ソフトを返さなきゃ。


彼が来た時に、私はこう言いました。


『いつクリアできるかわからんわ。いつでも返せるように、家教えてくれん?』


言葉ったらずですね、私は。


私は、彼の家に行きたかったんです。
どんな奴なのか、知りたかったんだと思います。


ひろ君は、立ち上がりました。
案内して、くれるのか?


ひろ君と一緒に、私の家の玄関を出て、いつもの公園を通り過ぎて。
ふたりでせまい路地に入りました。


その時私は、彼を見失ってしまいました。


あれ?どこいった?


私は彼を探しました。
しかし、見つけることができなかった。


それが、彼を見た最後です。


それっきり彼は、私の家に来なくなってしまいました。
いつもの公園にも、来なくなりました。


私は彼を探しました。


学校で彼を見かけたことがない。
どうやら校区が違うようだ。


家の前にあった駄菓子屋のおばちゃんにも聞いてみました。
どこに住んでいるのか知らないと言います。


誰も、彼のことを知りませんでした。
私も、彼のことを知りませんでした。


何も知らなかったのか、オレは。


手元には、ファイナルファンタジーⅡだけが残りました。


………
………


私がずっと歳を取り、家内に1台あるほどPCが普及し、インターネットが発達した頃。
20代後半のある日。


私は、とあるサイトを見つけました。
「FF2よ永遠なれ」というサイトです。


私が何度も何度も読み返した攻略本よりずっと詳しい情報が載っていました。
私は、そのサイトをむさぼり読みました。


『そうか、そういう仕様だったのか!』


私の幼少時の記憶は、「寂しい」という記憶ばかりです。
しかし、ひとつ「楽だった」思い出がありました。


それがひろ君との記憶であり、ファイナルファンタジーⅡです。


『決着を付けるべきゲームが、まだあったぜ。』


私は、「FF2よ永遠なれ」を読みながらファイナルファンタジーⅡをプレイしました。


…いともあっさりクリアすることができました(笑)。


私はココロの中で、彼にこう告げました。


『ファイファン2、クリアしたで。割とあっさりな(笑)。』



………
………


彼は今、どうしているのか。
私には、わかりません。
彼はどうして来なくなったのか。どこから来て、どこへ行ってしまったのか。
私には、わかりません。
彼は、いつも何を想っていたのか。


私には、わかりません。


ただ、一緒に遊んだ記憶があり、黙ってファミコンをしていた記憶だけがあります。


「ココロが、楽だ。」と感じられた記憶だけがあります。


私にとっては新鮮な経験でした。
ほんの少しの経験だけど。かみしめられるほどのたくさんの経験ではなかったけれど。
今となってはその経験こそが、ココロにとってかけがえのないものだと。


そう、言えます。


彼は、今、どうしているのでしょうか。
元気でやっているのでしょうか。
もし、彼に伝えられることがあるのなら、こう言います。


『ファイナルファンタジーⅡ、面白かったぜ。ありがとな。あと…ごめんな。』

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自分は貧乏な家に生まれたので物欲が他の人とは半端無いくらい強かったですね
当然ファミコンはしばらく買って貰えず、
仕方なく友達のところに行きプレイしているのを見たりちょっとやらせてもらったりして
我慢ができなかったんですね。
ディスクシステムが出た頃には話についていくことができず
多種多様なゲームが出てきたので余計話が合わず。
そんな中スーファミが出るもやっぱり買えず買って貰えない。
次にゲームボーイは出ました。ようやく買って貰え
どっっっっっっぷりハマりました。
ハマった結果・・・壊されました。
禁止されればされるほどやりたい欲求が止まりませんでした
反動がものすごいのです。自分の中で抑えられないのです。
年齢を重ね多少落ち着いてきたかなと思うのですが、まだ自分の心の仲に居る気がします。

自分の中で育った物欲の暴走悪鬼は今も自分の中に居ます。

皆さんも親になる時は子供の物欲は適度に満たしてあげてください。

周りの話についていくことができない上に孤立しますし我慢させただけ反動がでかくなるのです。
我慢できなくなると暴走しますのでご注意を・・・
子供の友人関係をぶち壊したいのならどうぞそのままで結構です。極限まで我慢させて暴走させてください。(極論)
5ヶ月前
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>>1
壊されたというのは、尋常ではないですね。
おっしゃるとおり、子供は適度に自由にさせたほうがいいと思います。
禁止しすぎると、勉強はおろか、他のことも手に付かなくなりますからね。

相当な反動があるとお見受けします。
今はどうぞ、やんちゃな自分と存分に遊んであげてください。
それが一番だと私は思います。
しかし…壊すかね(汗)。
5ヶ月前
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レールを外す親なので・・・
子供の成長が怖かったのでしょうかね
物欲欲求が強すぎるので自分の子供を持ちたくない理由にもなってて厄介なんですよ(笑)
今思えばもっと大人な人の元に生まれたかったなとww
こどもはおやを選べませんし
5ヶ月前
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>>3
つらい環境におられたんですね。
親御さんから「持たされたモノ」、たくさんありそうですね。
ほんと、実に重そうですわ。
『よく今まで背負ってこられましたね。』って思います。
すごくね?私なら、つぶれるなきっと。

私もけっこう「持たされたモノ」が多かったかなぁ。
重いと動けなくなるじゃないですか。だから私、こっそり荷をおろしちゃった(笑)。
背負わなくていいんだって決めちゃいました。

お互い、楽しましょう。
5ヶ月前
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