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書評:歴史の方程式 科学は大事件を予知できるか
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書評:歴史の方程式 科学は大事件を予知できるか

2018-05-09 01:26


    書評:歴史の方程式 科学は大事件を予知できるか
    マーク・ブキャナン著、早川書房
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     マーク・ブキャナンは、この本の出版後「複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線」という本も書いていますが、こちらのほうがより「本質」に鋭く迫った内容です。

     タイトルでは「歴史」となっていますが、物理的な「時間軸」を人間社会に当てはめると「歴史」になるわけです。

     現在の科学(物理学)の基礎は、アルバート・アインシュタインの相対性理論と量子論の二つの方程式にあります。今のところ、この二つを組み合わせると矛盾が生まれますが、この世は11(または10)次元であるという前提(第一線級の多くの物理学者が受け入れつつある考え)などによってこの問題が解決され、この世の中のすべてをたった一つで表す「神の方程式」の完成が近いとも言われます。

     しかし、本書で触れられているように、相対性理論や量子論においては「時間軸」というものが考慮されていません(念のため、相対性理論において時間と空間は同じものだとされますが、現実の世界を理解するためには「時間軸」が不可欠だと著者は主張し、私もそのように考えます)。

     つまりこの世(広大な宇宙や量子などの極少の世界・・・)の一瞬を切り取り、その一瞬について研究するのが現在の科学の基本です。

     ですから、その理論は1枚の写真のようなもので動きがありません。しかし、本当の世の中は「動画」のように常に動いて止まらないのは明らかです。 スナップ写真1枚だけでは、現実は理解できないというわけです。

     「時間軸」が重要になるのは、「積み重ね」にかかわる事象です。「進化」が典型的な事例ですが、進化は単細胞生物から始まって多細胞生物、腔腸類、脊椎動物・・・などと段階を経ます。「時間軸」が必ず必要であり、「時間軸」の中には必ず「偶然」が現れます。

     進化論が狂信的キリスト教徒から執拗に攻撃されるのは、「時間軸」=「偶然の要素」という考えが、この世は「神の方程式」で成り立っているという一神教(ユダヤ教もイスラムも)の考えに反するからでしょう。

     典型的なのは「アダムとイブが楽園から追放された」という逸話です。この世の中には唯一の「正しい状態」が存在し、その「正しい状態」へ近づかなければならないという思想がその背景にあります。

     現代人はこの思想に強く洗脳されていて「地球温暖化教」や「環境保護教」などをはじめとして、この世の中をあらかじめ決められた「正しい状態」に戻さなければならないという愚かしい考えが蔓延しています。

     しかし、世の中には「時間軸」というものがあるのですから、二つとして同じ瞬間はありません。ですから、この世を写真のようなあらかじめ決められた「一瞬の正しい状態」に固定するなどということはできません。

     いみじくも「赤の女王」(不思議の国のアリスの登場人物)が言ったように、この世の中は懸命に走らなければ止まっていられないのです。

     その前提をわきまえながら、本書では「臨界」というものについて懇切丁寧に解説しています。「臨界」は原子力発電などでよく耳にしますが、ある一定以上の刺激(エネルギー)を加えると、自然に(自ら)核分裂を起こすぎりぎりのポイントです。

     この臨界は、地震(プレート同士のぶつかり合いの圧力が地震になるぎりぎりのポイント)や雪崩(落下する雪・土や振動が雪崩を起こすぎりぎりのポイント)など自然界に多数ありますが、人間の営みにも「臨界」が存在するというのが著者の主張です。

     ある映画が突然ヒットしたり、地味なインタ-ネットサイトのアクセス数が急増したりということは、よく見られますが、これも臨界で説明できます。

     また、世界大戦がごく小さな原因から始まることもこの臨界で理解できます。
     しかし、残念ながらこの臨界は複雑系における「蝶の羽ばたき」と同じで、
     どの羽ばたきが臨界状態を破るのかは予想できません。

     ただ言えるのは、大概の社会現象、特に金融市場で起こる大事件は、臨界状態が一線を越えることによって発生するので、その大事件に理由など無いということです。複雑系の蝶の羽ばたきに例えれば、どこかのサラリーマンが手持ちの株式の半分を売却することが、リーマンショック級の大暴落を起こすきっかけになり得るということです。

     もちろん、市場では膨大な数の売買が行われていますから、どの売買が大事件を起こすのか事前に予想することは事実上不可能ですし、事後でさえそれは大変な作業でしょう。

     例えば、金融市場で研究を重ねれば「今臨界状態であるかどうか」はおおむね推測できるかもしれません。しかしその臨界状態がいつ崩れるのか、あるいはどのくらいの変動になるのかは全く予想できません。

     ピーター・ドラッカーやウォーレン・バフェットが「未来は予想できない」と繰り返し述べるのも当然でしょう。

     しかしバフェットは「いつどのような災難が起こるかを予想することはできないが、いつか災難が降りかかるであろうことはわかる」とも述べ、危機に対する準備を怠らないよう教えます。

     また、ドラッカーは人口動態のように「すでに起こった未来」を注視する重要性を語っています。


    (大原浩)


    *2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
     (JKK)を設立しました。HPはこちら https://j-kk.org/


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    (情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
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