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書評:10万年の世界経済史<上>
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書評:10万年の世界経済史<上>

2018-08-16 02:32


    書評:10万年の世界経済史<上>
     グレゴリー・クラーク著 日経BP社
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     まだ全体の半分である<上>を読んだだけで判断するのは早すぎると思いますが、まとまりの無い内容です。確かに個別のエピソードや資料などには興味深いものが多いのですが、<10万年の世界経済史>という壮大なタイトルの割に、中身は「枝葉末梢」のちまちました記述が続きます。

     世界の経済・社会が1800年頃から(正確な始まりの時期については諸説がある)の産業革命によって激変し、それ以降急速に成長を始めたことについてはよく取り上げられます。

     それが「その時代に」「英国で」始まったのが必然であったのかどうかについても論争があります。私自身は、<「歴史のべき乗法則」(詳しくは「歴史の方程式 科学は大事件を予知できるか」マーク・ブキャナン 著、早川書房を参照)の原則に従って、社会や経済も自然界と同じように、色々な変化が起こっていても「臨界点」に達するまでは劇的な変化は起こらない>という立場です。したがって、英国で1800年頃に産業革命が起こったのは、歴史上の必然ではなく、他のいずれの時代のいずれの場所でも十分起こりえた「臨界点」だと考えています。

     本書の立場も比較的それに近いと思うのですが、「1800年よりも前の時代を『マルサス的経済』ととらえ、色々と論証していること」は上記のテーマにとって重要では無いと思えます。

     ただし、「糞尿まみれで不潔なおかげでペストなどの病気が蔓延して死亡率が高かったヨーロッパ」と「極めて清潔で安全であり死亡率が低かった日本」とを比較して、前者の方が「成長しない経済」(マルサス的経済)の中では、より豊かな生活を享受できたという点は、言われてみればその通りですが、とても興味深い視点です。

     もっとも、アダム・スミスが「国富論」で述べていないことを批判しているのは著者の不勉強ぶりの現れです。カトリック教会がキリストが述べたはずが無いだけではなく聖書に書かれてさえいない言葉を信者に押し付けているのと同様に、スミス派と呼ばれている人々も、スミスが述べてもいなければ「国富論」にも書かれていないことを彼の言葉だと強弁しているのです。アダム・スミスとスミス派と呼ばれる人々は基本的に関係ありません。


     最後に、興味深いエピソードの中から一つだけ紹介します。「時間選好率」とは聞きなれない言葉だと思いますが、ざっくりとまとめてしまえば「今目の前にある10万円と1年先にもらえる100万円のどちらかを選べるときにどちらを選ぶか」の比率です。

     この比率は金利と同じようにパーセントで表現されるのですが、米国での実験的調査によれば、6歳児の時間選好率は1日当たり3%だそうです。つまり月利で約90%(ほぼ2倍)、年率換算では1080%(約11倍)ですから、前述の例では、1年後の100万円よりも、目の前の10万円を躊躇なく選ぶわけです。

     ハツカネズミの餌を使った時間選好に関する実験でもほぼ同様の結果ができているので「自然」環境下では、「まず目の前にある確実なものを確保する」本能が発達したものと考えられます。

     ただし、貧しく教育水準の低い人ほど時間選好率は高くなる傾向にあり、カリフォルニア州の幼稚園児で時間選好率が高かった子供は、他の子どもに比べて成長後の学力が低く、SAT(大学進学適性試験)の結果も悪かったそうです。なお時間選好率は、年齢を重ねていろいろ学ぶことによって低くなる傾向があります。

     この点は投資においても重要な点で、時間選好率が高い「日雇い投資家(デイ・トレーダー」は多くの場合不利な取引で損をし、バフェットのような時間選好率の低い忍耐強い長期投資家が、時間選好率が高い人々が損をする分だけ得をする仕組みになっているのです。


    (大原浩)


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    (情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
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