• 氵月 - うるう - [小説]

    2017-12-07 06:31

    シ月 - うるう -


     わたしは猫だ。
     なまえは、まだない。
     きょうも、とても寒い。寒いりゆうは、このお空からふってくるしろくてやわらかい、おほしさまだ。このおほしさまは、お空にあるおほしさまよりも、ずっとずっと冷たくて、しろい。さわると、くしゃりとてにくっついて、わたしのからだから、お熱をうばってしまう。
     きのうは、いっしょにいた猫さんが動かなくなった。どんなにわたしがゆすってもさすっても、動いてくれないのだ。ひどいはなしだと、思う。
     仕方がないので、わたしは歩くことにした。
     しろいじめん。
     くらい夜。
     とても、とてもさむい。
     あたりがしろいせいか、わたしのしかいもしろくかすみがかっているみたいだ。
     しゃぐしゃぐ。 おとが鳴る。
     わたしは歩く。
     ふいに、あのときの猫さんのことがきになって、うしろをふりかえってみた。そこには、わたしがつけたであろう足跡が、しろい夜のそこ、くらやみのほうにずっとのびているだけだった。わたしはなぜかかなしくなった。
     ふと、そらをみあげる。
     しろいおほしさまの、はいけいに、まんまると、ぼんやり光っているものがあった。
     わたし、これをしってる。
    〝お月さま〟だ。
     まっくらなそらと、おほしさまと、しろいおほしさま。あっとうするように、そこにそんざいしていた。
     あかるい。
     だけど、なにか、ないているのかなとわたしは思った。
     お月さまは、ぼんやりとかすんでいた。
     わたしは、もういいかな、と思った。
     あるくあしがとまって、よるのそこにうずくまった。
     よるのそこはつめたくて、いたかった。
     こんなきれいなお月さまがみれて、わたしは幸せだ。
    「ねえ。」
     そのときだった、わたしだけのせかいに、とつぜんこえがこだました。
     わたしはおどろいて、あたりをみまわす。けどだれもいない。
    「こっちこっち。」
     こえがしたほうをみる。そこは、お月さまのほうだった。
     すると、そこに、お月さまのひかりをあびてぼんやりとした、しっぽがふたつあるねこさんがあらわれた。
    「あなたは、なに?」
     わたしはちからをふりしぼって、あたまにうかんだギモンをつぶやいた。
    「ん、ボク? 〝ネコマタ〟ってやつさ。」
     ねこさんいわく、そうなのだそうだ。
     わたしは、いつだれにきいたのかはわからないのだけど、そのような存在をしっていた。 だから、にわかにはしんじられず、
    「ふ、ふーん……」
     とわたしはつまらないへんじをしてしまった。
     すると、ねこまたさんは、
    「ありゃ。きみ、意外に驚かないんだね。へんな仔だ。」
     と、ぎゃくにめんをくらったようにかえしてきた。
     へんなことはしんがいである。
    「うーん……なんていうか、しんじられない、かな。ねこまたさん、なにかしょーこみせてよ」
    「え。そんなの尻尾がふたつあるじゃん。ほら。」
    「…………」
    「…………だめ?」
    「うん」
    「う~ん……。」
     ねこまたさんはこまったひょうじょうをする。なんだ、しょーこないんじゃん。わたしはどっとつかれた。なにをきたいしたのだろうか? 夜のそこがつめたい。いしきが。いきるためのちからをこんなつまらないことにつかってしまうだなんて。さむい。さむいのか。もう、なんだかよくわからなくなってきた。あいもかわらずお月さまはかすんでいるようだった。
     白い。
     わたしは、静と、めをとじて――
    「ああ、そうだそうだ。これならどうだ。」
     ――死なせろよ。
     めのまえにざっとおりてきたねこまたさんを、わたしははんめで、しかしぜんりょくでにくにくしげにみた。
     だけどとうのねこまたさんは、せわしそうに、こちらのしせんにきづくこともなく、よるのそこを、つもりにつもったしろいおほしさまを、ざくざくと、しかしていねいにわたしのまわりにあつめはじめる。
    「これでよし~。」
     きようにも、ねこまたさんはしろいおほしさまでまるいどーくつのようなものをつくった。
    「これはな〝カマクラ〟って言うんだ。 冷めてえ雪を固めたものなのに、その中はすっげえ温かいんだ。きみ、とても寒そうだから作ってみたよ。どう? これが〝ネコマタ〟である証拠さ。色々な、多くの知識を持ってる。無知ではネコマタにはなれないからね。〝neko become NEKOMATA〟ってやつさ。」
     いみふめーだ。
     とりあえずわたしはなっとくできなかった。さいごのぶぶんのいみのなさがあやしさをぞうちょうさせている。
     でも。
     この〝カマクラ〟とやらがとても温かいのはたしかだった。
     かんかくがもどってくる。
    「そしてほら。」
     ねこまたさんが、わたしによりそう。
    「こうすればさらに温かい――」
     不思議だ。急に、急に、胸からぼっと火がともったように、暖かくなった。


         ○ ○ ○


     わたしはどうやら助かったようだ。
     依然として手足のさきは動かないけれど、感覚はある。人生ここまでかなんて思ったけど、なんとなく生きている。
    「まーあれだよ。人生に意味なんて基本的にはないよ。意味を生じさせる、規定する。これは後付の設定さ。一匹のシガナイネコマタが存在する意味。きみに解るかい? 判らないだろう? つまり、そういうものなのさ。超然と飄々と、ボクはそういうふうに、自分のシガーのない知識を提供しながら生きているけれども、これは自分以外の、誰かの人生の意味設定の後付のためにやっているにすぎない。ただの自己満足だね。でも、これがボクなりの、ボクだけの人生の……って、きみ聞いてる?」
    「はいはい、聞いてます聞いてます」
    「態と二回言って聞いてない感をアッピルしなくていいからね? 結構真面目に話してるのになぁ、やっぱりみんな聞いてくれないよね。」
    「いやいや、聞いてますよ」
    「ボクは感動で涙がホロホロでちょちょぎれるよ。」
    「……まあつまり、話を要約するとこうですよね。『わたしを助けたのはただのお節介焼きだった』と」
    「どうしてそうなる」
    「えっ、何か間違いましたか?」
    「いやほら……。でもさあ、もっと言い方ってものがだな……。」
    「いいじゃないですか。少なくともわたしは感謝していますよ」
    「そ、そうかいっ……。」
     ねこまたさんは顔(ここでいう顔は極めて人間に近いものです。つまりネコマタということ)を赤くしてそっぽを向いた。


         ○ ○ ○


     お空から降ってくる白いお星さま。
     ねこまたさんいわく、これは〝雪〟というらしい。この雪を「白いお星さま」と呼んでいることを教えると、ねこまたさんは「やっぱりきみはへんな仔だね。ボクはびっくりだ。」と言って驚いた。
    「そう言えば、きみには名前がないんだったね。ううむ、ここはネコマタのボクがウルトラスーパーに美しく素晴らしい名前を託宣しよう。うーん、じゃあ『ルウ』で。」
    「『ルウ』? それに何か意味があるの?」
    「いや、ない。」
    「えー……」
    「そもそもだな、意味(省略)だ。」
    「はいはい」
     そうしてわたしの名前は『ルウ―Roux―』になった。


         ○ ○ ○


     その後、わたしとねこまたさんは、色々なことを話した。
     わたしは色々なことを知った。
     日曜日、寄り添うことを。
     月曜日、夢を見ることを。
     火曜日、愛しさのことを。
     水曜日、自律することを。
     木曜日、思考することを。
     金曜日、学習することを。
     土曜日、努力することを。
     いつしか時間は流れ、わたしたちは一緒にいた。
     そんなある日、ねこまたさんはよく話をしたがった。
    「それでこれはこうで……。」
    「……どうしたの?」
    「えっ、な、なにが」
    「今日へんだよ。ねこまたさん、へんな仔だ」
    「…………ははは。実はボク、もうすぐ消えちゃうんんだ。」
    「え」
    「ネコマタには、寿命ってのがあるんだよ。いや、正確にはその場所にいられる時間に限りがあるんだ。肉体ごと消えちゃうってのが正しいんだけどね。」
    「…………」
    「ど、どうした!?」
    「ううん、何でもない……」
    「……泣いてる仔のどこが何でもないんだ。」
     気づくと、わたしのめから、ぽろぽろと〝何か〟がこぼれていた。
     ねこまたさんは、そんなわたしによりそってくれた。暖かかった。そして、うれしいことや、かなしいこと。色々な感情が溢れてきた。ひぐひぐと泣くわたしを、ねこまたさんはあやして、一緒にいてくれた。でも、わたしの感情は胸につかえて、なかなか言葉にならなかった。
     そうして夜になった。
     お空にはあのときと同じまんまるのお月さまがあった。ぼんやりと霞んでいた。
     頬を〝何か〟が伝う。
     わたしは、まだこれを知らない。
     わたしは、これは〝お月さまのしずく〟だと思った。
     うるうると、月がぼやける。
    「ルウ、大丈夫?」
     ねこまたさんが、心配そうに声をかけてくる。優しい。
    「ねこまたさん、いなくなるの?」
    「うん。」
    「いやだ」
    「仕方のないことなんだ。」
     そんなのは、ひどい話だ。
     だって、いることを知ってしまったら、いないことが辛いじゃないか。
    「また会える?」
    「……どうだろう。」
    「…………」
    「でも信じていれば、ボクはまた会えると思う。ボクはそう信じてる。」
    「じゃあ、わたしも信じる」
    「そうか……。ありがと。また会おう。」
     そうして、朝起きたら、ねこまたさんは消えていた。


     わたしはいま、一人で力強く生きてる。
     また彼に会えることを信じて。
     月を見ながら。


    (2010/3/30 執筆)
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  • トゥルー・ループ・ラヴ [歌詞]

    2017-11-05 00:00

    トゥルー・ループ・ラヴ

    アルツハイマー マリーローランサン
    つのの長い鹿 ウォーターハウス
    今晩のおかず 甘えん坊
    トゥルーループラブ
    生後二百十六ヶ月 の自由です
    地球は赤かったり青かったり
    でも美しかったり
    逃避行したいな、きみと
    でも嫌われたくないな、きっと

    じっと待ってる 嫉妬している
    ずっと好き… 「しっかりものだもんね」
    いったりきたりゴールはない
    失敗ばかり
    京都から北海道 沖縄から東京、同じ時間が流れてる
    眺めてる アイスを食べてる
    愛すべきか、悩んでる

    でも本当は感情なんてたった1つなんだ
    単純な迷路を抜け出して!
    ヴァーチャルだなんて突き放さないで!
    私の声をもっと聞いて!!
    大好きだって言って!!
    何度だって君の名前を呼ぶよ!!

    だから教えてほしいんだ
    ガラクタをループさせた真実の愛を
    トゥルーループラブを
    今日を生きることだけでしか伝えられない
    残酷な明日を


    (2017/11/04)
  • 夜明けに『生きる』[歌詞]

    2017-10-17 00:00

     夜明けに『生きる』

     風に煽られ木の葉揺れ
     先行き知らない音のうえ
     言葉にできない隙間の中で
    「死にたいよ」『でも生きたいの』

     声にならずに咲いた羽
     夜空のミルクに抱いていた雨
     苦しいけどあなたのことを
    『知りたいよ』「また会いたいの」

     苦しい崖の郷里の祝福
     表裏一体な影と約束
     薬草に摘んだ花ばなは
     軽々しく揉まれ肌をつんざいた
     寸前、夢見た大通り
     やり直せばもう元通り?
     程遠い理想、影と逆境
     苦しくなるだけチャイムと学校
     発砲してた、ソラの弾丸
     頭痛くなるからパンシロン
     ガンガン 真っ白な炭酸
     みたいにはじけて飛んでっちゃえ
    「やー」
     正解のない闇ばかりを追いかけては
     老いさらばえていた
     くだらない『ぼく』は
    『ストロボラスト』の『Q』uestionな
    『ソラ』を『さかな』と泳いでいた

     声にならない声だして
     ハートマークの偽善を愛して
     異性であることに苛立って
    『聞きたいよ』「でも言えないの…」

     重なり合うまま夜明けを待って
     壊れない朝をずっとさすって
     キミの頬濡らすちいさな虹を
    「拭いたいよ」『また笑いたいの』

     得体の知れない恐怖の朝
     夜の怖さが知れず背後
     消える街灯、痺れる最後
     さよなら言う間になくなる
     千切れた愛憎
     解像しないで、夜の朝に
     零れた赤いワイングラスにシャンパン
     判断できない三半規管
     アンダーライン引いた夜の弾丸
    「ガンガン行こうぜ僕らの人生」
    『感謝の姿勢も貫く真剣』
     逃げるだけじゃ掴めない未来
     疲れた頬濡らす鮮やかな世界
     描いてた夢は莫迦にでかいでも
     狭い世界だけでは生きられないの
    『さぁ飛び出して、今すぐに』
    「MIKUHOPがあなたを癒やす国」

     風に煽られ木の葉揺れ
     先行き知らない音のうえ
     言葉にできない隙間の中で
    『死にたいよ』「でも生きたいの」

     声にならずに咲いた羽
     夜空のミルクに抱いていた雨
     苦しいけどあなたのことを
    「知りたいよ」『また会いたいの』

     浅い呼吸で、意味を求めた…
     ちいさな覚悟で、良いと思ってた…
     独りで箱に、ただ閉じ篭ってた…
     そうやって本音を飲み込んでた…

     憂鬱が呑みこむ未来が
     どれだけ絶望の明日だろうと
     僕のこの声が『刺さる』のならば
     希望の炎を燃やす Life goes on

     風に煽られ木の葉揺れ
     先行き知らない音のうえ
     言葉にできない隙間の中で
     死にたいよ でも生きたいの

     声にならずに咲いた羽
     夜空のミルクに抱いていた雨
     苦しいけどあなたのことを
     知りたいよ また会いたいの

     声にならない声だして
     ハートマークの偽善を愛して
     異性であることに苛立って
     聞きたいよ でも言えないの

     重なり合うまま夜明けを待って
     壊れない朝をずっとさすって
     キミの頬濡らすちいさな虹を
     拭いたいよ また笑いたいの



    (2017/10/16)