• 『コスプレ少女』新装版 249-252頁         ★遠藤マリ

    2017-11-19 17:30
    ちょっと心に傷あるコスプレ少女たちの物語。
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    【連載小説 コスプレ少女】 今までのあらすじ

    コミュ障で友達が出来なかった中学生のルミは、イベントで年上の美少女レイヤー滝沢エリカや同じ歳で萌え可愛い人気レイヤーの白銀(しろがね)リンと出会う。
    ある日、イベント会場でリンの幼馴染の遠藤マリが現れた。
    彼女は かつてヤンチャしてたリンの姉貴的存在で、親の借金取りの事務所を火炎瓶で襲撃する過激な不良少女だった。
    エリカ遠藤マリとともに不良グループにさらわれ、リンは乱闘を制し、救出に向かうのだが、様子が違う?
    リンの過去をめぐって、まわりの少女達の葛藤が渦巻く。


    *********************************************************
    07~09年に商業誌の新人賞に応募も落選した「コスプレ少女ルミ」シリーズと「ソニックボイス」の作品を
    再編集して、書き直したものです。先に当ブログに掲載していましたが、ルミの一人称形式を改め、
    設定(携帯⇒スマホ)修正、加筆しての新装版です。

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    *****

    【登場人物紹介】                
                          人公の本田ルミ
    この春、中学生になったばっかりの女の子。
    ゲームオタクでプチ引籠り、コスプレをきっかけに
    コミュ障からリハビリ中。
     ツインテールのメガネっ娘のゲームキャラ
    「賢者のルミ」のコスプレイヤー。
       

    イメージイラストは ぽよん様提供。
                      

                       滝沢エリカ
    ポニーテールにティアラを着けた「エリカ姫」

    コスプレイヤーで中学三年生。
    イジメによる背中に酷い火傷がコンプレックス。リストカットした過去もあるちょっとワケあり
    の美少女。
    ルミをダンス動画作りに誘う。





                          白銀(しろがね)リン
    ルミ
    がイベント会場で出会ったベレー帽が
    トレードマークの萌え可愛い女の子。
    本名は坂本サキ

    「天使のリン」をイメージしたオリジナルコスプレイヤー。
    実は「狂犬サキ」の異名をもつ、街の不良からも一目置かれるほどの喧嘩猛者だった。
     
    イメージイラストは ゆりぺっこ様提供。

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     当ブログ内のイラストの著作権者は、各絵師様に有りますので転載等はご遠慮願います。

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       249-252頁です。


    アハハハハハ! 
    サキちゃんがたった一人で三十人相手に。
    アハハ、ヒーヒーヒーヒー!

    遠藤マリが部屋中に響く大きな声で、頭がおかしくなったかと思うくらい笑い出した。
    天を仰いで大口を開いたり、腹を抱えて身を丸めたりと体を大きく揺らす。

    ひとしきり笑った後、フウと大きな溜め息をつくと、座っていた机からピョンと飛び降りた。

    黒いワンピースのスカートがふわりと翻る。

    まあ、しゃあないか。
     あんたの兵隊たちって、本気で人を殴ったり、殴られたりした奴って半分もおらんやろ。 あの子とは、くぐってきた修羅場の数が違う。
     なんせ、うちと『血の七日間抗争』に参戦しとったからなあ

    眼帯少女は耳の後ろをガシガシと掻きながら、面倒くさそうにぼやいた。

    「な、なんだと、俺らをバカにしてんのか!」
     ボスの男が怒り出す。

    まったく、使えん連中やなあ ……

    「なんだと、話が違うぞ遠藤!」

     遠藤マリとボスの二人が言い争いをしていると、外から大きな声が聞こえてきた。

    マリちゃん! 話が違うって何?

     声の主はリンだ。

    戦況報告をした男が外を確かめようと入口に向かい、ドアの扉を開けた瞬間、
    ヒュンという風切り音がした。

    ゴンと鈍い音がしたかと思うと男が丸太のように突っ立った姿勢のまま、床にぶっ倒れた。

    リンの鉄パイプに顎を打ち砕かれたのだ。

     部屋の中へと足を踏み入れるリンその後ろからルミも恐る恐る中を覗きこむ。

    マリちゃん! どういう事? エリカさんは何処なの?

    遠藤マリリンの問いかけには答えず、脇からドラムを叩くスティックのような
    木の棒を二本取り出し、爆龍連合のボスに対して構えた。

    左右の手に持った棒を正面で交互に振り抜くような独特のスタイル、
    これこそがフイリピンの古武道エスクリマの構えなのだ。

    「この期に及んで裏切る気か?」

     ボスの方も拳を握り、ファイティングポーズをとる、太い首にスタジャン越しでも分かる
    盛り上がった肩の筋肉、例え素手でも短い木の棒相手など圧倒しそうな体格だ。

    裏切るやない、見限ったんや

     少しも臆することなく不敵に笑う遠藤マリ

    「ふん、まだ『血の七日間抗争』に参戦した過去の栄光に浸っている気か?
     足の悪い今のお前に、舐められてたまるか」

     ボスの男はボクシングスタイルの構えから、ヒュッヒュッと短い呼吸音を
    吐きながら鋭い連続パンチを繰り出した。

     遠藤マリはワンピ―ス姿でありながら、体を素早く左右に揺らし、
    涼しい顔でかわしている。
     手に持った木の棒で、男の腕の内側や脇を撫で斬り、拳のベクトルを巧みにズラしている。

     かわすばかりではない、時には喉や脇腹といった弱い部分を突き、
    相手の攻撃の出鼻を挫く。  

    決して、強打をしているわけではないので、傍目には体格が一回りも二回りも
    大きい男を相手に 女の子がパタパタと棒きれで叩いているようにしか見えない。

    「ちくしょう!」

     男は邪魔な木の棒を掴み取ろうと腕を振り回すのだが、掴むことが全く出来ない。
     遠藤マリの棒さばきが凄まじく速いのだ。

     ルミリンもこの両者の闘いを部屋の隅から黙って見守った。


     男のスタミナに衰えが見え始め、連打に勢いがなくなり、段々と防戦一方になってきた。 木の棒のジャミングにもどかしくなった男は、ボディへのガードを空けて
    捨て身の攻撃に出た。
     隙の出来た下腹に強い突きが当たり、男は思わずガードを腹側に下げてしまう。

     遠藤マリはその一瞬を逃さなかった、いや、このタイミングを待っていたかのように、
    前へ跳び出てハイジャンプ、黒いスカートから白い膝を男の顔面へと突き出した。

    膝頭が男の顎の先端に軽く当たっただけのように見えた。
    だが、宙にいた遠藤マリが着地した後、男は糸が切れた操り人形のように
    ガクンと崩れ落ちた。ボクシングで言うところのクリーンヒットだったのだ。

     これを目の当たりにしたルミは呆然とした。

    以前、ファミレスで遠藤マリの武勇伝を聞いていたルミだったが、
    その技の切れに体が熱くなるくらい感動を覚えた。

    凄い! さすがリンちゃんに喧嘩を教えた人だ! 
    でも遠藤さんって、本当に足が悪いの?
     こんなに強いなら、いつでも逃げ出せたはず

     ルミはまだ二人が争った事態が解らずにいた。

     ボスの男がやられたので、リンが倒れた男を跨いで遠藤マリに詰め寄る。

    マリちゃん! エリカさんは何処? 何処にやったの?

     リンの怒りに満ちた鳶色の瞳に、遠藤マリはバツが悪そうに視線を逸らす。

     そして、無言で部屋の奥に下がると、壁際にあるロッカーの扉を乱暴に開けた。
     すると中から猿ぐつわをされたポニーテールのエリカが床へと転がり出てきた。
    足を縛られていて、白い太腿も露わにくの字に横たわった。

    「エリカさん!」

     ルミリンは同時に叫んだ。


     エリカを拉致したのは、遠藤マリも共犯だったのだ、ルミもようやく状況を理解した。

     後ろ手を縛られ、目の周りも赤く泣き腫らした痛々しい姿、
    でもエリカのトレードマークである頭のティアラは健在だった。

     ルミたちが助けに来たのが分かったのか、猿ぐつわをされたエリカは、
    モゴモゴと何か言おうと眼を潤わせ訴えた。

     エリカに駆け寄るルミ

    エリカさん、今、外してあげますからね

     囚われのお姫様を抱き起し、猿ぐつわを解きにかかる。
    ルミ自分エリカを助けることが出来て嬉しかった。

     猿ぐつわを解かれたエリカは、助けに来たルミへの礼より先に、開口一番。

    リン! どうして、ここへ来たのよ!
     それに、あんたその恰好はなんなのよ!

    血染めの迷彩服姿で立つリン、いきなりエリカに怒られ目を丸くした。

    リンちゃんと二人して、エリカさんを助けに来たですゥよ~

     そりゃあないですよという感じで脱力気味の言葉を返したリン

    ルミ! あんたが付いていながら、どうしてリンを巻き込んだのよ!

    ええっ! なんでわたしまで怒られちゃうの
     復活したエリカの理不尽な言葉にリンと同じくルミも目を丸くした。

     手足が自由になったエリカは、ルミの胸ぐらを掴んでまくし立てる。

    リンが傷害沙汰を起こしたら、ヤバいって、
    あんたもよく知ってるでショ!

    えっ、でも ……

    でもも、へったくれもないわよ!
     あいつらの狙いはリンなのよ!
     あんな大勢に敵うわけないわ

    いや …… もう、リンちゃんがやっつけちゃったんですけど ……

    何ですって?

     興奮気味だったエリカがようやく我に返り、ルミの胸ぐらを掴んでいる手を緩め、
    辺りを見回した。

     部屋の床にスタジャン男が倒れている。

    ??? 


     リンが再び遠藤マリを問い詰める。

    マリちゃん! どうしてこんな事を?

    サキちゃんを …… 取り戻すためにや ……

     遠藤マリは幼馴染のリンを本名のサキで呼ぶ。

     少し恥ずかしそうに彼女はそう白状した。

    うちを取り戻すって?

     怪訝な表情で問い返すリン

    サキちゃんの事を本当に理解出来て、付き合っていけるんは、うちだけや!

     滝沢エリカの前でそれを見せたかったんや。

     爆龍連合の連中を焚きつけてサキちゃんを襲わせて、やられそうになったら、
    うちが出ていって助けるつもりやったんや。

     でも、うちの予想以上にサキちゃんが強うなってて、この有様や

     そう告白し、眼帯で独眼の遠藤マリは、肩をすくめ、手のひらを拡げて見せる。

    そんな事の為にエリカさんを拉致した!」  ルミは驚き、そしてこう思った。

    リンちゃんの親友のクセに、リンちゃんや他人まで巻き込んで……この人、病んでるよ!

    ほんま、三十人も兵隊集めて失敗するとは、予想外やったわ。

     誘い出す場所かて、サキちゃん得意の跳躍反転攻撃がしづらい、
    このだだっ広い遊園地をわざわざ選んだのに。

     連中にもソニックボイス封じで遠巻きに攻めろ、陣形を組んで間合いに入らせるな、
    長期戦でスタミナ切れを待てって指示しておいたのに

     遠藤マリは寂しそうに言った。

     リンの攻略法から場所選びまで、全ては遠藤マリのお膳立てだったのだ

    うちが勝てたのは、ルミちゃんの作戦のおかげなのですゥ

    なんやて? 作戦? あの乱闘に作戦なんかあったんかいな?

     遠藤マリは独眼を細め、いぶかった。


    (つづく)
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  • 『コスプレ少女』新装版 245-248頁         ★ 三十二 対 一(その④)

    2017-11-10 23:26
    ちょっと心に傷あるコスプレ少女たちの物語。 敵の副隊長との決着はいかに!
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    【連載小説 コスプレ少女】 今までのあらすじ

    コミュ障で友達が出来なかった中学生のルミは、イベントで年上の美少女レイヤー滝沢エリカや同じ歳で萌え可愛い人気レイヤーの白銀(しろがね)リンと出会う。
    ある日、イベント会場でリンの幼馴染の遠藤マリが現れた。
    彼女は かつてヤンチャしてたリンの姉貴的存在で、親の借金取りの事務所を火炎瓶で襲撃する過激な不良少女だった。
    リンの過去をめぐって、まわりの少女達の葛藤が渦巻く。


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    07~09年に商業誌の新人賞に応募も落選した「コスプレ少女ルミ」シリーズと「ソニックボイス」の作品を
    再編集して、書き直したものです。先に当ブログに掲載していましたが、ルミの一人称形式を改め、
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    【登場人物紹介】                
                          人公の本田ルミ
    この春、中学生になったばっかりの女の子。
    ゲームオタクでプチ引籠り、コスプレをきっかけに
    コミュ障からリハビリ中。
     ツインテールのメガネっ娘のゲームキャラ
    「賢者のルミ」のコスプレイヤー。   

    イメージイラストはぽよん様提供。

                       滝沢エリカ
    ポニーテールにティアラを着けた「エリカ姫」

    コスプレイヤーで中学三年生。
    イジメによる背中に酷い火傷がコンプレックス。リストカットした過去もあるちょっとワケあり
    の美少女。
    ルミをダンス動画作りに誘う。





                       白銀(しろがね)リン
    ルミ
    がイベント会場で出会ったベレー帽が
    トレードマークの萌え可愛い女の子。
    本名は坂本サキ

    「天使のリン」をイメージしたオリジナルコスプレイヤー。
    実は「狂犬サキ」の異名をもつ、街の不良からも一目置かれるほどの喧嘩猛者だった。

     
    イメージイラストはゆりぺっこ 様提供。

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       245-248頁です。

    剣道の上級者である副隊長、リンは彼の強烈な突きを胸に喰らってしまった。
    まるでピンボールのように後方に弾き飛ばされ、乾いたコンクリートの地面に
    仰向きにぶっ倒れた。

    一方の副隊長は、難敵をようやく仕留めたことでガッツポーズをきめ、勝ち誇っている。

    やったぞ! ついに狂犬を仕留めたぞ!
     最初の打突をかわすとは大した奴だったが、さすがに俺様渾身の高速連打は
    かわしきれなかったみたいだな …… なっ!

    冗舌な言葉が途中で消えた。

    なぜなら、地面に仰向きになっているリンが そのままの体勢で両足が高々と上げている。
    お尻が浮き上がるまで逆屈みになったかと思うと次の瞬間 上半身を反らして跳ね起きたのだ。

    バカな! 立ち上れるはずが!
    胸をモロに突いたんだ、手応えもあった、
    肋骨の何本か折れていてもおかしくないはず …… 」

    再起不能のダメージを与えた相手が、プロレスのフォールカウントを逃れるように
    復活した光景に 男は我が目を疑った。

    リンは不敵な笑みを浮かべ、迷彩ジャケットの胸に付けたホルダーから
    黒いナイフを抜き出した。

     そう、それは角張った武骨なデザインが
    特徴的なアイクホーン社製のKM2000だ。

     彼女はナイフを男に見せびらかすかのように
    ピラピラと扇ぎ振る。

    うちの御守り、ちゃ~んと役に立ったわ
    そう言って、ナイフに唇に当ててキスをすると、
    元の胸のホルダーに差し込み、
    スナップボタンをパチンと留めた。

    「そうか、胸に付けていたその肉厚なナイフのおかげか。
    運のいい奴め、命拾いをしたな」
    男は奥歯を噛みしめ悔しがる。

    キャハハハッ、運がいいだって? 
    もしかして、偶然やと思てんのか?
     たまらず笑いを吹き出すリン

    そして、彼女の説明に男は青ざめていく。
    わざと胸を打たせたんやで

    胸のホルダーを親指で突きながら言う。
    おまえの隙を突くために、ナイフでガードしている
    この胸を狙わせたんや!

    それから、うちの投げた鉄パイプ。
    あれ、うちが苦し紛れに投げたんやと思てへんやろな? 
    おまえのくるぶしを狙ったんやで。
     そろそろ、内出血で腫れてくる頃やなあ

     つらつらと冷酷な台詞を吐くリン
    男は慌てて自分の足首を手で触って確かめた。
    リンの言葉の通り腫れ上がってきていた。
     ジンジンとした痺れ、熱も帯びている。

    「最初から狙っていただと! 

    中坊のお前が俺の打突を全て見切っていたって言うのか!」

     剣道において、打撃の鋭さは踏み込みの強さだ、
    打ち込みのタイミングも足捌きで決まる。 

    だから、剣道では長い袴で足元を隠し、相手に動きを読まれないようにしているのだ。

    「くそう! 俺の負けだ」

     副隊長の男は剣道で鳴らしていただけに、足負を負傷した己の今の状態では
    勝ち目のないことを悟り、潔く負けを認めて膝を着いた。


     だがしかし、それでは終わらなかった。

     勝者白銀(しろがね)リンは、先に投げて地面に転がっている鉄パイプを
    拾い上げると、再び二本を頭上に構えた。

    膝を着いている男にゆっくりと近づき、

    これは試合とちゃうで

    「?!」

     おぞましい悪魔の布告の始まり。

    うちはおまえらをボコりに、ここへ来たんや

     小さな悪魔は、体が一回りも二回りも大きく感じられるようなオーラを放っていた。

    その殺気を察した男は、直ぐに立ち上がって木刀を構え直した。

     リンは両手の鉄パイプをクルクルと振り回す、正面で交互に交差させながら回転させ、
    男との距離を詰めていく。

     男は中段の構えで木刀をリンに突き出し、間合いに入らせまいと距離をとる。

    リンが突然体を沈ませ、地を転がるような低い体勢で木刀の間合いを掻い潜り、
    男の右膝を鉄パイプで狩った。

    男は地面を転がるリンに木刀を振り下ろすも、踏み出しの軸となる左足に痛みが走り、
    鋭さの失せた一太刀では、鉄パイプで軽く受け流されてしまう。

    リンの変則攻撃についていけず、膝を打たれて右足の支えを失い、ガクリと体を沈ませ、
    再び地に膝を着いた。

    左の軸足も右足もやられ、地に膝を着いた男に、今度はリンが攻撃の主導権を完全に握った。

    振り回している鉄パイプの動きを止めることなく、リンは小さなつむじ風のごとく
    男に乱打を浴びせる。

    男は自分の頭をガードしようと咄嗟に木刀を真横に構えたが、二刀流の打ち込みは、
    横から斜めからと男の腕や顔面にヒットした。

    一打の威力はそれほどでなくとも、数打重なると与えるダメージは大きい。

    リンが体得したエスクリマというフィリピンの武術では、オリシ棒と呼ばれる本来は
    木製のスティックを使う。

    腕力が乏しい彼女は、細身だが重量のある鉄パイプを使うことで威力を補っているのだ。

    鉄パイプが男の皮膚をえぐる。
    まるで、ピラニアの群れに襲われたように無数の打撃によって、男のが辺りに飛び散った。

    男は身を丸めて蹲っている。
    リンは乱打の手を休めない、このフルボッコ状態に、もはや男の意識があるのかも怪しい。

    この壮絶な光景を目の当たりにした周りの者たちは、悲痛な叫び声をあげる。

    「ひいー、副隊長がやられた!」

     リンはようやく手を止め、蹲っている副隊長をコンバットブーツでゴロンと蹴飛ばすと、
    鉄パイプを持った右手を高々と揚げて、他の者たちを鋭い目つきで威嚇した。

    最初三十人ほどいた仲間が、気付けば十人もいないほどに減っていたことで、
    彼らはすっかり腰がひけて浮き足だっていた。

    「こ、こいつは化け物だ~!」

    一人が逃げ出し始めると、残りの者も次々とその場から散っていった。


     無謀とも思えた三十二人をも相手した大乱闘、

    狂犬の異名を有する白銀(しろがね)リンの勝ちが見えてきた。

    リンちゃん、強ええっ!

    ルミは双眼鏡から目を離すと、眼下のリンに向かって大きく手を振った。
    リンもそれに気付いて手を振り返す。

    ルミはリュックに双眼鏡を押し込むと遊具管制室の階段を意気揚々と降りていった。

    リンちゃ~ん、やったね ……

     リンに駆け寄ったルミは、間近に彼女を見て目を丸くした。

     勇ましい勝者傷だらけだったのだ。

     さっきまで、ルミは遠くから双眼鏡で見ていたのでよく分からなかったのだが、
    釘バットがかすったのであろうか上着の所々が裂け、赤黒くが滲んでいた。

     肩を大きく上下させ、息も荒い。

    リンちゃん、大丈夫なの?

    ハアハア……平気ですゥ。それよりルミちゃん、エリカさんを助けに行きますですゥよ

    うん、わかった

    さっきまで悪鬼のごとく振舞っていたリンだったが、ルミを前にし
    て元の舌足らずなアニメ口調に戻った。

    二人はイルカショーのプールを後にして、チケット売り場のある方へと向かう。

    離散していった連中の中で、一人だけチケット売り場に真っすぐ向かった者がいたからだ。

     

    チケット売り場は平屋建てで端にスチールドアが一つ、中は教室の半分もないくらいの広さで事務机とロッカーが残されたままになっていた。

    ルミリンと合流する少し前に、敗走してきた男が息を切らせて駆け込んできた。

    「ふ、副隊長がやられたっス!」

     男は開口一番、戦況を告げた。

    「なんだと! それで今はどうなっている?」

     部屋の中にいた男が報告を聞いて驚いている。
    背中に金色の龍の刺繍がある派手なスタジャ
    ンを着たこの男こそが 爆龍連合のボスだ。

     連合の名が示す通り、いくつかの不良グループが集まって出来た新興勢力で、
    副隊長はナン
    バー2だった。

    寄り合い所帯ゆえ、組織への求心力を維持する必要があり、そのために
    名の知れた『狂犬サキ』を討ち取ることを狙ったのだ。

    「そ、それが、みんなやられました ……」

    「ええっ! みんなか? 相手はサキ一人なんだろ? 一体何が起こったんだ」

    「奴の強さは半端ないっスよ。
    おまけに屋根が崩れて、みんな巻きぞい喰らったっスよ 」

    「屋根が崩れた! そうか、あの大きな音と見えた砂煙は屋根が崩れたからか」

     ボスは苦虫を嚙み潰したような顔で、後ろを振り返って叫んだ。

    「おい遠藤、どうなっているんだ!」

     ボスが声をかけた先には、事務机の上に腰かけている黒いワンピースを着た少女がいた。

     眼帯をしたその少女、爆龍連合に囚われているはずの遠藤マリだった。

    (つづく)
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  • 『コスプレ少女』新装版 241-244頁         ★ 三十二 対 一(その③)

    2017-10-15 23:34
    ちょっと心に傷あるコスプレ少女たちの物語。バトルステージクライマックス! 敵の副隊長の鋭い打突がリンに命中!
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    【連載小説 コスプレ少女】 今までのあらすじ

    コミュ障で友達が出来なかった中学生のルミは、イベントで年上の美少女レイヤー滝沢エリカや同じ歳で萌え可愛い人気レイヤーの白銀(しろがね)リンと出会う。
    不良グループに拉致されたエリカリンの幼馴染を救出すべく、リンは闘いに臨む。
    彼女狂犬の異名を持つ喧嘩猛者、三十二 対 一という 圧倒的に不利な状況下で死闘が続く。
    リンの過去をめぐって、まわりの少女達の葛藤が渦巻く。


    *********************************************************
    07~09年に商業誌の新人賞に応募も落選した「コスプレ少女ルミ」シリーズと「ソニックボイス」の作品を
    再編集して、書き直したものです。先に当ブログに掲載していましたが、ルミの一人称形式を改め、
    設定(携帯⇒スマホ)修正、加筆しての新装版です。

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    【登場人物紹介】                
                   人公の本田ルミ
    この春、中学生になったばっかりの女の子。
    ゲームオタクでプチ引籠り、コスプレをきっかけに
    コミュ障からリハビリ中。
     ツインテールのメガネっ娘のゲームキャラ
    賢者のルミのコスプレイヤー。   



    イメージイラストは はじめとみかん様提供。

                       
                       滝沢エリカ
    ポニーテールにティアラを着けた「エリカ姫」の

    コスプレイヤーで中学三年生。
    イジメによる背中に酷い火傷がコンプレックス。
    リストカットした過去もあるちょっとワケあり
    の美少女。
    ルミをダンス動画作りに誘う。





    白銀(しろがね)リン
    ルミがイベント会場で出会ったベレー帽が
    トレードマークの萌え可愛い女の子。
    本名は坂本サキ

    天使のリンをイメージしたオリジナルコスプレイヤー。
    実は「狂犬サキ」の異名をもつ、街の不良からも一目置かれるほどの喧嘩猛者だった。

     
    イメージイラストは ゆりぺっこ 様提供。





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       241-244頁です。


    イルカショーの舞台セットも兼ねたその建物は、建物と言っても二階までしかなく、
    打ちっぱなしのコンクリートに海をイメージした青いペンキが塗ってあるだけだ。

    中には 大人一人が通れるほどの狭い階段と道具置き場に使われていた空っぽの部屋、
    屋上に抜けるとイルカショーで使う小道具を プールの上に吊り下げる
    ワイヤーが渡してあった。

     建物に飛び込んだリンは、狭い階段を背に追っ手を応戦しながら、徐々に
    上の階へと登っていく。
     狭い階段では、相手が大勢でも対峙する敵はほぼ一人で済む。

     そう、リンは相手を誘い込んだのだ。

     リンに打ちのされた男が、階段から途中の連中を巻き添えにしながら転がり落ちる。
     下の階で、五、六人が塊りとなって、見動きとれずにもがいていた。

    だが、連中もバカではない、狭い階段では不利だと気付くと、外の壁をよじ登り、
    屋上から乗り込んで上から挟みうちにしようとした。

    リンが屋上に飛び出した。
    たちまち、よじ登ってきた者たちと階段からの追っ手に取り囲まれた。


    その様子を遊具の管制室に潜んでいたルミは、双眼鏡で見ていた。

    屋上に人が拡がり、迷彩服を着た赤いベレー帽のリンを取り囲み、
    総勢十五名が動き回っている。
    乱闘の場が、イルカショーのステージから高所の屋上に移ったことで、
    管制室からの距離が近くなりよく見えた。

    右へ左へと素早い動きで相手を翻弄するリン

    しかし、追いかけ回されていることには変わりなく、ドヤドヤと動くその足音が
    教室で椅子取りゲームをした時に似た地響きとなって、
    離れた管制室に居るルミにまで伝わってきていた。

    小さな体で鉄パイプを振り回し、敵の攻撃をしのぎ続けてはいるが、
    男たちとの体格差は大きい。

    リンルミと同じ中学一年生、身長もルミと変わらず百五十センチもないくらいだ。
    俊敏さやジャンプ力はアスリート並みでも、細い腕の筋力は中学生の女の子。

    さっきの巨漢の金属バットのような重量のある攻撃をまともに喰らいでもしたら、
    例え鉄パイプで受け止めても弾き飛ばされてしまう。

    不良グループたちは、単独では間合いを詰めてこない、
    幾人かで同時に打ち込む戦法に変えてきた。

    防戦一方のリンは、次第に屋上の隅へと追い詰められていく。
    やはり、相手の人数が多すぎる。

    ヤバい! リンちゃん逃げて!

     リンは屋上から1mほど離れた鉄組みの梁へと飛び移った。
    この梁はイルカショーの観客席を覆う大屋根へと繋がっていた。

    逃がすものかと不良たちも梁を渡る。

    狭い足場の梁をリンは苦も無く走って渡り、さらにテントを張った大屋根へと飛び移った。

    その後を追って、不良たちも次々と大屋根へと飛び移る。

    大屋根は支柱の上にキャンバスが張られたものだが、
    リンはキャンバスの上からは見ない支柱の部分だけを踏み場にして、
    飛び石を渡るように跳ねながら、反りあがっている屋根の先へと逃げていく。

    軽やかな足取りで渡っていったリンと違って、不良たちの追撃は急に勢いを失った。
    狭い支柱の上だけを見定めながら進む、そんな鳶職人スキルの有る者は少ない。

    十m近い眼下は硬いコンクリートの観客席、落ちたらバカに出来ない高さだ。
    テントのキャンバス部分に足を踏み外すと生地が裂けて足がズッポリとはまってしまう。

    せっかく足の踏み場を選んで慎重に進んでいたのに、後から来てバランスを崩した者に
    体を掴まれ、道連れにされる気の毒な者もいた。

    先へ進むほどテントのキャンバスはボロボロに破れていて、ほとんど支柱だけになっていた。

    屋根の端では、足場が大きく上下に揺れ動く。

    「てめえ、もう逃げ場はねえぞ」

    威勢のいい言葉とは裏腹に、男は四つん這いの情けない体勢で這いずっていた。


     グオオオオン ――

     まるでゴジラの鳴き声のような音が辺りの空気を震わせる、
    それは屋根の柱がひしゃげていく悲鳴だった。
    その音はさらに断末魔のように甲高くなっていった。

    何しろ、錆びたボロ屋根に十名以上が載っているのだ、
    重みに耐えかねメリメリと大きく傾き、斜めになった屋根から、
    みんな石ころのように滑り落ちていく。

    リンちゃん!

    ルミは落ちていく人の中から、必死になって目印の赤いベレー帽を探した。

    リンはまだ屋根にいた、骨組みの上で中腰になり、サーフィンのように腕を拡げて
    バランスを取っている。足場の屋根がどんどん沈んでいく中、その体勢を崩さずにいる。

    リンちゃん、スゴい!

     ルミは、まるでCG映像を見ているかのような不思議な感覚に囚われた。

     傾いた屋根が下の観客席にぶつかる寸前、リンは屋根からプール側へ飛び降りた。

     崩れた屋根が観客席のプラスチック椅子を押しつぶし、地響きをたてる。
     辺りがたちまち爆破現場のように砂煙に包まれた。

     もうもうと立ち込める砂塵の中、鉄パイプを手にしたリンが姿を現した。
     そして、屋根から落ちた衝撃で、立ち上がることもままならない者たちに
    躊躇なく鉄パイプを振り下ろしていく。
    助けを請う相手も情け容赦なく足蹴にし、無慈悲に片っ端から仕留めて回っている。

    かろうじて建物の階上に残っていた者たちは、その惨状を目にして茫然としていた。


     リンは再びイルカショーのステージに上がると、上着をお腹から手繰り上げ、
    体に巻いていたごついベルトをステージの下へ投げ捨てた。

     ズドッと重量感のある音、ステージの下にいた者たちが、投げ捨てられた
    そのベルトを間近で見て顔色を失った。

    「ゲッ、こ、これは鉛のベルト!」

     そう、それはダイビングで使われる鉛のベルト(ウエイト)だった。

     重いベルトを外したリンは、ボクサーのようにピョンピョンと身軽に飛び跳ねて見せた。 次に首を回してゴキゴキと関節を鳴らすと、ドスの効いた声でステージ下に向かって
    こう言い放った。

    ウオーミングアップは終わりや。そろそろ本気だそうか

    なんと、今まで散々走り回り、追いかける側の男たちも疲れが見え始めたというのに、
    重いベルトのハンデを自ら負って、これからが本番だと、
    スタミナの化け物のような事を言うのだ。

     口の端を上げ、鳶色の瞳を爛々と輝かせる殺る気満々の悪魔に、
    眼下の者たちは震え上がった。

    ウリヤヤヤアアアー

     悪魔のリンが雄叫びをあげながらステージからプール側の敵陣へと飛び降りた。
     まるで大音量のスピーカーのような声に圧倒され、敵は一斉に離散した。

     ただ一人、木刀を持ったスタジャンの男が逃げずにリンと対峙した。

     他の連中は遠巻きに二人の様子を窺う。

     金色の地に黒い竜の刺繍が施されたスタジャンの男、手には硬い樫の木の木刀、
    長身で背筋も真っすぐに中段の構えを取っている。

    「副隊長は剣道で全国大会レベルの腕前。試合で相手を半殺しにしちまったくらいだ!」

    後方の者が男の素性を説明した。

    あんたが副隊長か
     リンはいい好敵手が現れたと破顔する。

     そして、先に飛ばされてプールに転がっていたもう一本の鉄パイプを拾いあげると、
    二刀流の構えからクルクルと回し始めた。

     これがリン遠藤マリから伝授されたフィリピンの古武道エスクリマの戦闘体勢なのだ。

    「キエエッ!」

     両者は五メートルほども離れていたが、男がいきなり飛ぶような速さで踏み込み、
    リンとの間合いを瞬時に詰めると、鋭い打突で喉元を狙ってきた。

     キーンと耳に突き刺さるような金属音が響く、リンは咄嗟に鉄パイプを斜めにして、
    その直撃の力を削いでかわした。

     踵を浮かし、前後に開けた足、男のスピードは鍛錬された剣道の足捌きのそれだ。

     振りかぶるのではなく打突で攻める、長身の男の腕と木刀でリンの間合いを寄せつけない。

     リン二本の鉄パイプを構え直した。

     背後から一度倒れていた男が起き上がり、リンを襲おうと飛び掛かる。

     だが、リンは相手と視線を合わせることなく、真正面の副隊長を見据えたまま、
    鉄パイプをヒュンと一振りして背後の男を撃沈した。

     そして、左手の鉄パイプを逆手に握り直し身構えた。

    「キエイッ!」

     再び副隊長の打突が、しかも残像が見えるほどの連続で繰り出された。
    リンは鉄パイプで一、二撃目を受け流すも、最後の一突きを胸に喰らって後方に吹っ飛んだ。

    吹っ飛ばされる寸前に、投げ放った鉄パイプが副隊長の左足のくるぶしに当たった


    (つづく)
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