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『水曜夜は冒険者!』ミスタラ英雄戦記On the Table~:ステージ7:ラファエルの洞窟:レッドドラゴン
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『水曜夜は冒険者!』ミスタラ英雄戦記On the Table~:ステージ7:ラファエルの洞窟:レッドドラゴン

2013-10-16 17:18
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第8回目のその前に
 水曜夜は冒険者――場所はおなじみ、東京は代々木のホビージャパン会議室から。配信が始まると画面いっぱいに芋煮の鍋。今回はどうやら“秋らしく芋煮を食べつつ酒を呑みつつ”というコンセプトらしく。
 あとはもう少し煮込んで味付けだけ、というところで、数人が鍋の準備の手を止めて、『カプコン版ミスタラ英雄戦記』での今回予告。前座の敵を倒し、ラファエルの洞窟に入り、本当に赤竜と戦うのかと問われて退かぬ戻らぬと返すも、最後の選択肢で“ではどうしても死に急ぎたいか”と問われてうっかり“No”を選択してしまい、レッドドラゴンの洞窟から引き返す破目に。これじゃあ予告になってない。そして一行は、今日何が起きるかを知らずにセッションに臨むことになる……


赤竜の洞へ

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 ラファエルの洞窟を下った冒険者一行、天空城へと吹き上げる“道”に至るその前に、地下第50階層のそのすぐ先、赤き竜が棲むという洞窟に立ち寄ることにした。目的は2つ。
グレルダンのかつての盟友とその連れを救い出して仲間に加えること。
そしておそらくは女王シンの配下であろう赤竜を倒し、後顧の憂いを断っておくこと。

 硫黄の臭いが急に濃く鼻や喉を塞ぐようになったので、くだんの横穴はすぐにそれと知れた。踏み込むとそこはあたかも金蔵の中身をぶちまけたかのような有様。足元に散乱する数知れぬ銀貨や金貨、中には古代王国の珍奇な貨幣も混ざり、まさに地下に眠る宝の山――だが、今はそれに気を取られている暇はない。

 金貨を踏み分けながら行くうちに、奇妙なものに気が付いた。蓋の空いた宝箱の前に立つ2つの石像――どちらも冒険者をかたどったもの、いや、このような場所だ、もともとは生きた冒険者だったのが石化させられたものだろう。1人は戦士、もう1人はドワーフ。いずれもとても助からないような深手を負っているのが石の姿となっていても容易にわかる。

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グレルダン:「……クラッサス、ディムズディル、いったいお前たちに何が……!!」

 グレルダンが声を詰まらせて叫ぶ。この石像と化した戦士の名はクラッサス、ドワーフの名はディムズディル。かつてグレルダンと共にセーブルタワーにてデイモスと戦った者たちに間違いないのだった。

それにしても奇妙な状況ではあった。戦いの最中に石化させられたかと思ったが、どうも様子がおかしい。戦士は確かに武器を振りかぶる姿勢をしているがその手に剣はない。また、その表情には欠片の乱れもなく、一方ドワーフはというとそれこそ泰然自若と構え、二人ともまるで望んで石像と化したとでもいうかのよう。

――いったい何が起きたというんだ。

 エルカンタールが周囲の地面を改めると、そこには無数の人型生物の足跡が入り乱れている。どうやらこの石化した戦士たちの一行は、大勢のアンデッド・モンスターと戦っていたらしい。さらに調べると、幾分小柄なブーツの足跡、それに子どもくらいの小さな足跡が洞窟の外に出て行って戻ってきていないということもわかった。

――おそらくこれは、大勢の敵と戦ってなんとかその場はしのいだが、クラッサスとディムズディルがとても助からないような深手を負ってしまったということだろう。このままここに残しても死んでしまう。ならば、と、緊急措置として石化させたに違いない。宝箱の中に石化の罠があることは、シーフがいたのであればわかっていたはずだ。そうしておいて、今のところ名前のわかっていないシーフ娘とハーフリングは2人を救う手段を探しに外に出て行った、というところではないだろうか。
少ない手がかりからなんとかそんな状況を導き出してはみるが――さて、どうしたものか。石化した2人を癒して仲間に加えたいところではあるが、一行の中に石化したものを元に戻す手段を持つ者はいないのだ。
実は、グレルダンが石化を解除できるとDMは思い込んでいたらしいのだが……(『ヒーローズ・オヴ・フォールン・ランズ』に掲載されたウォープリーストのクレリックの4レベル呪文にはホーリー・クレンジング(聖なる浄化)があり、これを使えば石化は解除できる。が、グレルダンはウォープリーストではなく、テンプラーだったのだ!)

とりあえず、2人が何らかの手段で目覚めたときにわかるように、と、グレルダンは近くの岩に、「自分たちはここまでやってきたが君たちの石化を解除するすべを持たない、このまま赤竜を討ちに奥に入る」と彫り付ける。その隣でアーズが口の中だけで「それから、伝説の剣が見つかったらそれは僕が貰うよ」とつぶやいていたのだが、それは誰も知らぬ話。そう、邪竜を屠ったと伝説に語られる“ヤマノウの剣”は、今は戦士クラッサスの手にあって“クラッサスの剣”と呼ばれていると、ベスビア川の洞窟に住む精霊ラファエルは言っていたではないか。その剣が今、クラッサスの手の中にないということは――ひょっとしたらこの洞窟の奥にそれがあるかもしれぬ。

一行が洞窟の奥に進んでいくにつれ、足元に横たわる宝の山はいっそう珍しく美しいものになっていった。その一方で、立ち込める硫黄の臭いも徐々に濃さを増していく。

ブラント:「そういやぁメギス、この指輪はあんたがもってたほうがいいんじゃないか」

 突然、ブラントが言って、ポケットから指輪をひとつ取り出した。

ブラント:「あのビホルダーの眼柄にはまってたやつだ。確か、にっちもさっちもいかなくなったときにその場から撤退するのに使えると、あんたから聞いたような気がする」
メギス:「そうだ、撤退の指輪(リング・オヴ・リトリート)……まぁ、その場から逃げだすのに使うには指輪にそれなりに魔力が蓄積されていないといけないし、逃げ出して出る先は指輪を作った時に既に決まっているから、出た先が地獄の釜の中であっても文句は言えぬという代物なのだが……おや、珍しい、この指輪はいつでも“使える”状態になっている」

 「まぁ、怒り狂った赤の竜の牙と爪の前よりはどこだってましだろうよ」と笑いながら、メギスは指輪を受け取った。

 そうこうするうちに、洞窟が急に広がった。一行は巨大な空洞の壁に張り付いた狭い岩棚の上にいるのだった。おそらく、竜はここにいる。それはすぐに、空洞じゅうの空気を震わせて深く轟く声に裏付けられた。

レッドドラゴン:「愚か者どもめ、命が惜しければ今すぐに立ち去れい」

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断る、と、誰かが答えた。

レッドドラゴン:「このまま進めば貴様らと戦うことになる。そうなれば命の保証はない。ここから立ち去れい」

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 断る、と、別の誰かが声を張り上げた。

レッドドラゴン:「まことに愚かな奴。もう一度訊く。そんなに死に急ぐか」

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 死ぬつもりもないが、行くぜ、と誰かが叫び返した。それからずいぶん偉そうだが、貴様は誰だ。

レッドドラゴン:「定命のものどもに名乗る名などない。では、愚か者どもよ、死ね!」

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 その言葉が終わる前に、冒険者たちは走り出していた。
 さっきまで彼らが立っていた場所を、炎の奔流が走ってゆく。
大地が煮えたぎる赤に染まる。
 それから岩棚の片側に、とんでもなく巨大なものが現れた。それが赤き竜の頭部、そして突き出された右手と左手であると理解するのに、まばたき2つぶんを要した。あまりにも巨大なため、狭い岩棚の上からではその身体は視界に収まらないのだ。

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 年経た竜はいくらでも巨大化する。
 それだけではない。人の子の考えなど至らぬほどの永世を生きる竜は、もはや理不尽なまでの力をその身に宿していく。
 この竜はいったいいつの時代から存在しているのか――半ば伝説と化したその竜は、これまで冒険者たちが出会い、戦い、時には倒しても来たドラゴンとは存在原理の根本からして違っているように思えた。
具体的にはDMは、『ミスタラ英雄戦記』が元ネタとした、いわゆる“赤箱・青箱・緑箱・黒箱”に掲載されたドラゴンをオリジナルデータにより再現し――もとい、そのまま持ち込もうとしたらさすがにルール解説担当の塚田からダメが出たのでそれなりにカスタマイズはして――持ち込んでいた。

 身構えるだけの暇もなく、赤き竜の右の掌から火柱が走った。
 噴き出す炎に焼かれずに済んだのはメギスとエルカンタールのみ。
 次の瞬間、アーズが飛び出した。逃れ得ぬ一撃が竜の爪を斬り飛ばす。焼かれた以上に貴様の血を流させてやる。
 竜の眼の色が、すぅ、と変わった。
 竜の首は大きく息を吸い込んだ。炎が、来る。
 雪崩れ落ちる炎が岩棚を覆った。大きく上に飛んだローズマリーだけが無事。後の5人は焼けただれ、虫の息で倒れている。
 
 ローズマリーは竜の頭部の正面まで急降下すると、岩棚に華麗な土下座をキメて叫んだ。

ローズマリー:「降参! 降参しますっ!! 許してくださーい!!」


小妖精の仕事

レッドドラゴン:「……ほう?」

 赤き竜の動きが止まる。

ローズマリー:「あ、ここまでで拾った宝物は全部お渡ししますっ。あたしたち調子に乗ってました。普段はそんなんじゃないんです。あたしたち、あなたみたいな御方を煩わせようなんて……」
レッドドラゴン:「そのわりには、その小僧はずいぶんなことをしてくれたが……」

 赤竜が斬られた右手を見せつけるようにすると、

ローズマリー:「ああ、その、そいつはあたしたちの中でも血気にはやっててちょっとアレで手が速くって……」

 言いながら身に着けた“癒し手の腰帯(ヒーラーズ・サッシュ)”の力を使ってアーズの生命力をそのまま赤竜に移し替え、傷を癒す。仕方ないのだ。こうしている間にも倒れた仲間たちの血は地面に吸われていく。命の火がすっかり尽きてしまう前に何とか竜を言いくるめてこの場を脱出しなければ。そのためには……宝も、それに多少の生命力も惜しがってはいられない。

レッドドラゴン:「ふむ、そうか。まあ、話ぐらいは聞いてやらんでもない。で、ちっぽけな妖精よ、お前のような取るに足らないものが我に何を差し出せるというのだ?」
ローズマリー:「あ、あたしは詩人です。これでもちょっとは名前も知られています。だから……だから、あたしは偉大なあなたさまの伝説を、この先も、命ある限り、ずっとずっと語り継ぎます。そしてあたしがいなくなったあとも、その伝説だけは人々の口の端に上りつづけるような歌を歌ってゆきます」

 震え声で言いながら、しかしローズマリーの神経は最大限に張りつめている。詩人としての技能のありったけを使い切る。たった一人の“聴衆”の心を動かすために。友愛の詞(ワーズ・オヴ・フレンドシップ)を操り、それが今ひとつ“聴衆”のお気に召さなかったと感じたなら、素早くそれを言い換える。“確実なる技術(アシュアド・スキル)”の技だ。少し考えが足らないけれど、正直で一生懸命でちっぽけな妖精が、たった一人残って必死で命乞いをしている、この姿に――さあ、心を動かせ。

レッドドラゴン:「……ふむ。では、そうだな。我がコレクションに加えるにふさわしい、美しい武器や鎧、伝説に謳われるような品……それを差し出せば、悔恨のあかしとして収めてやらんでもない」

 具体的には“レア”に分類される武器や鎧や魔法のアイテムを渡せ、ということである。ざっと仲間の装備に目を走らせる。アーズの“嵐の魔剣”を差し出すか、グレルダンの鎚鉾――ビホルダーの谷で拾った呪われた武器を、この数日かけてグレルダンは呪いを解き、聖別しなおしたのだ――か、それともノームたちからもらったエルカンタールの“隼の弓”か。いや、いちいち選ぶそぶりを見せたら竜の機嫌をそこねるかもしれない。いっそのこと全部差し出すか。詩人の霊感の導きに――具体的には視聴者アンケートに従って……

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 結果は“すべて差し出せ”。

 ローズマリーは目についた武器をすべてかき集めた。アーズの剣も、グレルダンの鎚鉾も、エルカンタールの弓も一緒に並べる。次々とその来歴を説明したあと、ローズマリーは岩棚に這いつくばるかのように深く一礼し、そのまま声を張り上げた。

ローズマリー:「どうぞ、これは全部差し上げます。ですからあたしたちがこのままここを立ち去るのをお許しください」

 少しばかり手を斬りつけられはしたがそれも治り、名のある武器をこれだけ並べられたとあって、赤き竜の機嫌はずいぶん上向いた。

レッドドラゴン:「ふん、よかろう。では、ここまで来て我に刃向ったという証拠ぐらいは残してやらねばなるまいな」

 そう言うと竜は、虫の息で横たわるローズマリー以外の5人の上の空間それぞれに、爪の先で何ごとか書きつけた。するとそこには金色に輝く竜語の文章が現れ、一瞬光って、それから消えた。

ローズマリー:「い、今のは……」
レッドドラゴン:「貴様らの眼には今は映らぬだろうが、竜の眼には永遠に明らかな“称号”を被せてやったのだ。
まずこの血気盛んだという小僧は“熱に浮かされし殺し損ない屋”とな。
そして魔法使いなどというものは大体ちっぽけな火球を投げて悦に入るものと相場が決まっているから、こいつには“炎に抱き殺されし炎の使い手”と。なかなか愉快ではないか。
太陽神の神官には“衰え沈みし陽光”、そして弓使いには“微塵に砕けし矢柄”。
そして、こわもての聖騎士には“消魂の騎士”。おお、我ながらなかなか的を射ているではないか。本職の詩人に語らせるにしても、これなら恥ずかしくなかろうよ。さて、これからは死をもってしてもすすげぬ恥を背負って冒険を続けるがよい」
ローズマリー:「い、命をお助けいただくのですから、ええ、はい……」

 這いつくばりっぱなしなので唇を噛む表情が竜の眼には入らぬのが幸い。

ローズマリー:「あ、あの、あなたさまのお名前だけでも教えていただけませんか。歌を作るにも名無しの竜が主人公では、その……それがあなたさまであるとはわかりません」
レッドドラゴン:「ふぅむ……道理。では、“英雄喰らい(ヒーロー・ディヴァウラー)”とでも呼ぶがいい。ほかに聞くことはないか、詩人よ?」
ローズマリー:「あ、あたし一人だけでは伺うべきこともとっさに伺いもらすかもしれません。仲間の傷を治して意識を戻してやってもいいでしょうか。よくよく言い聞かせて、絶対におとなしくさせておきますから」
レッドドラゴン:「……ほう? ……いや、ダメだ。まず嵐と喧嘩の神コードの聖騎士は命が欠片でも残っていたら戦いを止めぬ。太陽神ペイロアの神官は舌先がぺろりと動いただけで全員の傷を癒し、そうなれば貴様とてたちまち約束を反故にして殴り掛かってくるやもしれぬ。魔法使いはもっとダメだ。魔法使いを自由にしてよいことなどひとつもない。そこの小僧はどうせ言うことなど聞かぬのだろうし、弓使いのごときこそこそした連中は死んで転がっていると見えても油断はできぬ。息を吹き返させることなどまかりならん」

 おっしゃる通りです、と言いながら、ローズマリーは必死に考えをめぐらす。上の空なのを悟られまいとしつつ、赤竜に自慢の戦歴などを尋ねて話の糸口を探す――ああ、今ならきっと大丈夫。

ローズマリー:「ああ、あたしが今まで耳にし口にした中でも、一番恐ろしくむごたらしい歌ができそうです。これまでは“女王”シンの歌が一番派手でしたけど……あなたさまはそれ以上です」
レッドドラゴン:「おお、シンもなかなかの竜ではあるのだぞ。あの女も確かに旧い竜で、我がその名を知った時には既に伝説に語られる存在ではあった。シンは我がもとに土産を携えて自ら訪れ、自分の計画を話した上で力添えを求めてきた。礼儀もわきまえており、計画もなかなか興味深い。で、我はあの女に力を貸してやることにした」
ローズマリー:「あなたさまが、シンに力添えを?」
レッドドラゴン:「そうとも。この地の精霊ラファエルがあの女の計画を邪魔立てするという。精霊とその眷属どもの本拠地は我が棲処のすぐ傍、というわけで我は精霊どもの力を抑え込んでやったのだ。その返礼にとあの女はそれに見合った宝物を寄越し、そのほかにも、元素の渾沌に通じるこの洞窟の地下を、我に住みよいマグマ溜まりに変えるという約束をしたのでな」
ローズマリー:「ああ、そのようなことが。ではその、参考までにおうかがいしますが……実のところ、あなたさまとシンではどちらが強いのでしょう?」
レッドドラゴン:「歌を作るためにはずいぶんと大胆になるのだな、小さな詩人よ。いや、恐れるな、我は今機嫌がいい。今なら戦えば勝つのは我であろうよ。だがあの女はいくらでも悪巧みを巡らす奴だ。正面からでなく脇からかかってこられたら、我も用心せねばなるまいよ」
ローズマリー:「悪巧みや計画とおっしゃいますが……それは具体的にはいったいどのような……」
レッドドラゴン:「その質問に答えてやるには、貢物が足らぬぞ」

 しまった、感づかれたかとローズマリーは一瞬身構えるが、竜の表情は相変わらず上機嫌だ。面白い話し相手をからかって楽しんでいるといったところ。ならば、よし。ローズマリーの脳裏でグレルダンがにっと笑う。構わん、この鎧ひとつでことが済むのならくれてやれ。ひとつ小さく息をつくと、ローズマリーはグレルダンの“鱗の鎧”を脱がせる、それを差し出す。

レッドドラゴン:「なに、鱗の鎧とな。貴様らのように鱗ひとつないみっともない体をしているものは、わざわざ作り物の鱗をまとうのか。全く難儀なことだな。我には不要のものとはいえ、うん、なかなかいい細工だ。そこで石化した戦士の像にでも着せておこう。
 さて、シンの計画だったな……」

 すっかり気をよくした赤竜が芝居気たっぷりに語って聞かせたのは、こんな話である。

“女王”シンは支配欲の権化である。この世を隅から隅まで統べることを望んでいる。その欲望はこの世にとどまらず、他次元界をも我がものにせんとする勢い。だが、他の次元界に侵攻するには竜といえども生身ではすさまじい困難を伴う。そのため、女王シンは竜を超えることを目指し、研究を続け、ついに“魔人”と呼ばれる存在にまで行き着いた。

レッドドラゴン:「それが何であるのかは我も知らぬ。神であるのか、プライモーディアルと呼ばれる始原の存在であるのか……少なくとも竜を超える力を持つ存在であること、そして現在は“胚”の状態で眠っていることだけはたしかだ。
 シンはその魔人を目覚めさせ、それを支配するか、あるいはみずから魔人になりかわることを計画している。かの天空城こそは魔人の揺り籠、そしてこの地から延びる大樹は魔人のへその緒で、大地の精気を天空城に送り続け、いまだ胚の魔人を養っているのだ」

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ローズマリー:「……あ、あまりにも壮大すぎて、あたしたちの手の及ぶところではありません。でも、歌には歌い込みますとも。その壮大な計画にもあなたさまはその力の一端をお貸しになったのだ、と。
ところで、シンは女王を名乗るくらいですから、女性ですよね。あたしが見た姿も女性でした。竜であるあなたさまから見て、シンは魅力的なんでしょうか?」

 赤竜は愉快そうに笑った。

レッドドラゴン:「おお、詩には欠かせぬロマンスというわけか。残念ながら期待には応えられぬぞ、詩人よ。だが、ふむ、あれだけ欲の皮のつっぱった女もおらぬぞ。普段はああやって人間の姿などして取り澄ましておるが、そいつを一枚はがせば欲の塊よ。あれもこれも欲しい、あの世界もこの世界も我がものとしたい。まさに竜の中の竜と言える女」

 感心はしているが誉めてはいない口調だった。

ローズマリー:「何かあなたさまのお心に染まぬことでも……?」
レッドドラゴン:「なに、好みの問題だ。が、あの女のやり方は邪道だと我は断ずるぞ。シンはあまりにも計略やらなにやらに寄りすぎる。竜ならば、特に誇り高き赤竜であるならば、己の身体ひとつを恃みとし、返り血で身体をさらに紅く染め、地平の果てまでを己の炎で焼き焦がし、唯一の孤高の存在としてあらゆるものから畏怖されるべきだ。それをあの女はなんだ。卑小な存在を配下と称してかき集め、あまつさえ竜の姿をヒトの姿に変えてまで……おお、なんと下らぬ」
ローズマリー:「あ、ああ……それは、あなたさまのような方にはさぞ苦々しく感じられることでしょう。ではまさか、いずれはその、シンと戦うこともあるとか……」
レッドドラゴン:「気にくわぬ女だが、そうはなるまいよ。少なくともあの女の計画が一段落するまでは、な。さて、ずいぶんとしゃべりすぎた。もう行け。残りの人生、上手に使えよ」

 赤竜たる者の誇りと女王シンについてひとくさり演説をしてしまうと、そろそろ小妖精にも飽きたのか、竜は頭を巡らせ、洞窟の奥の暗がりに立ち去っていく。

レッドドラゴン:「そうだ、ひとつ言っておく。詩人よ、約束は守るのだぞ。我はここから出ることはまずなかろうが、気が向いたら手下を地上に送る。そして我が英雄譚が語り継がれていなかったなら、我はこの世の果てまでも貴様を追いかけ、生かしてはおかぬぞ」

 それっきり、竜はもう何も言わなかった。呼びかけても返事はなく、やがてゆったりとした寝息が聞こえ始めた。


寄り道の報い
 竜の姿が見えなくなると、ローズマリーは大急ぎで仲間たちの息を吹き返させ、そしてさっきまでの経緯を手短に説明した。一同はしばし呆然としていたが、しかし命が完全になくなるよりは、装備を失ったとしてもまたもう一度息をし立ち歩き、戦えるほうがずっとましなのには違いなかった――アーズを除いては。

アーズ:「僕は魔剣を探すために生きてきたんだ。せっかく手に入れた魔剣を失くすぐらいなら死んだほうがマシだった!」
ブラント:「まあ、落ち着け。俺たちはこれからシンを倒す。それから強くなる。例の赤竜野郎はこの穴ぐらから出る気はないみたいだから、あれ以上強くなることはない。だから次に戦ったら俺たちが勝つ。そうしたらあの剣はまたお前のものになる。……うん、この俺が武器を取る暇もなくあの世に行きかけるぐらいだ、あの竜ンとこにあずけときゃあ、あの剣はずっとあそこにあるだろうよ。他の誰かが取っていくことはなかろうさ」
グレルダン:「うむ。それにシンの計画については、ローズマリーの働きあって、赤竜の口からすっかり語られた。奴を倒してしまっていれば知ることのかなわなかったこと。まこと神は誉むべきかな、この敗北もおそらくは神のおぼしめしであろう」

 であるから、我らはこれからシンを倒し、赤竜どもに目に物見せてやればよい。この敗北が神のおぼしめしである以上、失った装備は再び与えられるであろう。
具体的にはあの赤竜のデータがやりすぎだったとDMが反省している以上、たぶん次回はアイテム増えるんじゃないかな。

 竜の右掌が振り上げられてから5人が倒れ伏すまで、心臓の拍動がやっと3つ。
 しかし、竜が去った後に欠けたものも、また、いない。
 ならば、この戦いの惨状を糧として気を引き締め、シンの討伐に向かうのみ。

そして必ずや、捲土重来を――竜の手下が地上に現れ、竜の英雄譚など誰も知らぬことに気づいてしまう、その日の前に。


 なお、赤竜戦がいわゆるボーナスステージ状態で挿入されたということもあって、DMからは今後のシナリオ進行を少し圧縮しますという宣言がなされました。そのため、今回はルート選択のアンケートはなし。
 その代り、ダイスを振ることが叶わなかったPLも出るという思いもよらぬ事態になってしまったわけだけど、見ていていかがでしたか? というアンケートに。

 結果は「良い」と「もっとやれ!」がそれぞれ半数近く、ということに。とりあえず楽しんでいただけたのなら良し。たぶん。
 セッションで重要なのは物語が思惑通りに進むことではなく、みんなが笑いながら卓を囲んでいられること、そしてまた次も集まって一緒に遊ぼうと心から思っていられること、なので。
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46ヶ月前
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