• 暇潰し用オハナシ緊急ピックアップ集

    2018-06-18 20:491時間前1
    けんいちろうです。
    本日は朝に大変な事が起こりましたね。
    その影響を受けた方も皆様の中にはいらっしゃるかと思います。

    ここは一つ、
    影響を受けた方もそうでない方も、
    一緒くたにほんわかするようなオハナシを厳選いたしました。
    以下八品です、どうかお楽しみ下さい!

    青色の文字の所をタップ、もしくはクリックして下さい。

    『もし鶴が恩返しに行ったのが浦島太郎だったら』
    ■鶴「覗いてはいけませんよ」
     浦島「そんなの無理じゃよ」

    『あなたと私とテレパシー』
    ■心が通じれば便利だけど、通じちゃマズイ事もある。

    『萌え殺しのアイラ』
    ■なに、その萌え殺しって

    『飲む度私を思い出して』
    ■注意書きとして、最後に一人死んじゃうんですが、
     それに至るまでの流れが非常に美しかったので今回取り上げました。
     是非どうぞ、そんなに後味は悪くない筈です。

    『オジギソウ型失声症』
    ■こんなに騒がしい沈黙聞いた事が無い

    『僕たち腐ってます』
    ■たとえ身体が腐っても、この魂と友情は

    『アナタの肩を外したい』
    ■書いた本人が自認する、けんいちろう屈指の名作の一つ。

    『礼ぐらい言わせろよ』
    ■クリスマスの話。
     今は夏だって?細けえ事は良いんだよ。

    お楽しみ頂けたでしょうか。
    今回の記事は一人でも多くの方に読んで頂けるように、
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    貴方の暇潰しのお供、けんいちろうでした。
  • 広告
  • 飛びたかったの

    2018-06-15 19:333

    「そろそろらしいぞ。」
    「おっ本当?リカルドの嫁だよなぁ。」

    お店の中で声が聞こえた。
    僕の母親の噂話だ。
    わざと話の方向に歩いて話をしている男達の視界に自ら入った。

    「…お。」
    「っと…。」

    驚いたように言葉を発する先程の二人。

    僕と眼が合うと二人はしまった、という顔で、
    そそくさと店から出て行った。
    僕は今晩の夕食の食材を持って会計に行く。

    「やあ、お母さんはどうだい?」

    店主が品物を数えながら聞いてくる。

    「あんまりよくありません。」
    「そうか…こんな事を聞くのもなんだけど、
    そろそろ近いのかい?」

    「…ええ。」
    「そうかい…綺麗に逝けるといいね。」
    「ありがとうございます。」

    僕は麻布の買い物籠を手に家路についた。その途中。

    「タム。」

    一番近い家のルーシュが声をかけてきた。
    連れている犬は眉毛のせいでいつも困った様な顔をしていて、
    いつも撫でずにはいられないのだが生憎今は籠で両手が塞がっている。

    「散歩?」
    「うん。買い物?」
    「うん。」
    「そう…。」

    もう夕方、日も暮れ始め、
    仕事帰りの人で狭くなり始めた道を暫く二人で黙って歩いていた。
    その沈黙を破ったのは、ルーシュから。

    「おばさん、もう近いの?」
    「うん。」
    「眼の色は変わったの?」
    「奥の方が金色に輝いてる。」
    「そっか。アタシのおじいちゃんの時は赤だったよ。」
    「火星だったんだ。おじいちゃん。」
    「うん。おばさんは金星みたいね。」
    「うん。」
    「おじいちゃんの時ね、
     夕暮れがいよいよ黒に染まってきたって時に死んだんだ。
     …とっても綺麗でさ、青黒い空に飛んでったおじいちゃんの元心が。」

    僕たちの民族は死ぬと「元心」と呼ばれる魂のようなものが星に帰る。
    僕たちの民族は太陽系八惑星のうち、
    地球を除いた七惑星のどれかに属している。
    属した惑星種によって性格等の特徴が分かれると言われている。
    色々推測は出来るが、はっきりと属星が判るのは死ぬ間際。
    死ぬ間際になると、眼球の奥の方で色が輝く。
    その人の属している星の色がキラキラ輝くのだ。

    「お兄ちゃん!」

    いよいよ家に近づくと弟が飛び出してきた。

    「お母さんが…!」

    「始まったのか!?」
    「早く!飛んでっちゃうよ!」

    僕は目の前まで見えている我が家に向かって突っ走った。
    中からは父に抱きかかえられた母が出てきた。
    母は毛布に包まれて、まるで赤子のようで、
    丁度僕が駆け付けた瞬間に父は母を抱いたまま地面の上に屈みこんだ。

    「外に出るの?寒いのに!」

    僕は二人に駆け寄って屈みこんだ。
    母は身体が輝き始めていた。

    「あ…タム。」

    母が口を開く。

    「家の中だったら…屋根…突き抜けちゃうでしょ?」
    「そんなこといいのに、直すからさぁ。外寒いよ。」

    母は息も絶え絶え、もう苦しそうでたまらない。

    「おばさん…。」
    「あ、ルーシュちゃん…タムと仲良くしてやってね」
    「はい……見ておばさん、綺麗な夕暮れですよ。」

    ルーシュは日の方向を指差す。


    「ああ、本当だ…。綺麗…。」

    母の輝きが一層強くなりだした。

    「あたし、あの空に飛んでいくのね…。」

    「セツ。」
    「子供の時から空を飛ぶのが…夢だったのよ、アタシ。」
    「セツ…。」

    父が優しく母の頬を撫でるその指には、
    どんな思いが宿っているんだろう。

    「リカルド…あたし、あなたと居れて良かったわ。リカルド…」
    「…なんだい?」
    「愛してる」

    そう言い終わると母は光となって爆音と共に空に飛び立っていった。

    「僕もだよー!!セツーーーー!!!」

    父は光に向かって叫び通した。

    「愛してる、愛してるよーーー!!セツーーー!!!」

    光の筋が、暫く父の腕の中の毛布から立ち上っていた。
    光は音より早いと学校で習った。

    「綺麗…。」

    黄金色に輝く母の光の柱を見てルーシュは呟いた。

    「ああ、綺麗だ…。」

    僕も夕暮れに映える母を見て呟いた。
    毛布からはもう光は出尽くしていた。

    「母さんは、綺麗に逝ったなぁ…。
     父さんも、母さんと一緒になれて良かったよ…。」

    僕たち四人は、
    正確には近所の人たち全員が見つめていたのだろうけど、
    僕達四人は冬の空の下、母さんの輝きをじっと見ていた。

    「…タム。」
    「ん?」
    「悲しいよね。」

    ルーシュが指の背中で僕の目じりをぬぐった。

    僕の目じりには涙がついていた。
    知らぬ間に僕は涙を流していた。
    輝く母さんを見つめながら、涙を流していた。

    「屋根の心配をするなんて、おばさんらしいね…。」

    その言葉を聴いた瞬間、一気に涙が出てきた。
    恥ずかしいが嗚咽も出てきた。弟も見ているのに。

    「タム。」

    痛みを知る触り方は毛布を子供にかける母親の様で、
    ルーシュの手の平が僕の手の甲にかかり、
    でも寒かったからだろうか、
    僕の手の甲の方が、熱かった。

    「アタシも泣いたよおじいちゃんの時。
     止まらなかったよ、涙が。」

    知らぬ間に涙が出ていたルーシュと一緒に、
    夕暮れ空に輝く母を暫く眺めていた。

    父の最後の言葉は母に届いただろう。
    光は音より早いと学校で習ったが、
    愛が光より遅いとは習っていない。

    母の流星痕は空を分かつほどに長かった。


  • 踊り滅ぼせこの夜に 滅編

    2018-06-13 20:092

    このオハナシは続き物です。
    →前回を読む←
    ―――――――――――――――――――――

    祭りは急に終わらない。

    引き潮を何倍も遅くした緩やかさで畳まれる。
    ダイスダーグの「ここまでにしよう」を皮切りにして、
    まずバリンテンの音楽隊がその楽器を仕舞い始めた。
    広場の魔法陣は突然始まった結婚式のせいでそれより前に消えている。
    光を放った魔法使い達は気を遣ってかまだ光を萎れさせていないが、
    もうそれぞれが水の入ったコップを片手に空いている椅子に座っている。

    一人、また一人と広場を去って行く者の足音が遠ざかる。
    泊める事は出来ない、彼らには寝床が待っている。
    祭の浮ついた気分で潜り込む寝床は格別なものになるだろう。
    それを袖を引いて台無しにするような酔っ払いも、もういない。

    ネイチェは結局、最後まで場所を変える事無く座ったままだった。
    ダイスダーグは色んな人間にねぎらいの言葉をかけたり、
    短い世間話をして別れの挨拶を最後に添えている。
    彼と会話をした者は広場を去り、
    今、残っているのはダイスダーグとネイチェと、
    あとは少しの寝たくないと駄々をこねる酔っ払いが少々。
    あんまり騒ぐんじゃないぞ。
    そう言い添えたダイスダーグはネイチャの傍に腰かけた。

    「今夜は寝れそうか」

    そう尋ねたダイスダーグ。
    大丈夫だ、もう騒ぎまわる子供もいないし、
    酔っ払いの男も疲れたのか口数が少ない、コップを傾けるのが精々だろう。
    皆で跳ねる靴の音もとっくに消えて、
    乾杯のコップを打ち合う音も聞こえない。

    「祭の後はいつも静か、知ってる。」
    「静かさは眠れる理由としては弱い」
    「そう?」
    「ああ、俺が知ってる」

    最後の酔っ払いが広場を出ていくのが見えた。

    「送ろう」

    じゃあ送って。
    ネイチェとダイスダーグが歩き出した。
    会話は無い。
    世界を滅ぼす魔法は誰かがプロポーズするという事件で防がれたが、
    道行く二人はその事について一言も語ろうとしないだけではなく、
    お互い目も合わせようとしない。暗いからだろうか、
    目を合わせる事は暗闇の中では意味が無いという判断からだろうか。

    もう足取りは止まり、ネイチェの家の前に着いてしまった。

    「おやすみ」
    「ダイスダーグ」
    「ん?」
    「ありがとう」
    「……正直、君からその言葉を聞けるとは思わなかった」
    「……アタシが怒ってるとでも?」
    「世界を滅ぼしたいのが、他人に邪魔されて、
     あまつさえ結婚を祝う羽目になった。世界を滅ぼすどころじゃない」
    「本当にね」
    「俺は知っている。
     人間は自分の思い通りにならなかったら苛立つものだ。
     しかもそれが何日も下準備をしてだ、
     その上この俺の所に相談を持ち掛けてきた程の事なら」
    「この村指折りの魔法使いだものね」
    「え?ああ、はは、そうそう、
     このエッペンルーヤ指折りの魔法使い、ダイスダーグに、な。
     それを目出度い事ではあるが、その、」
    「いい」
    「ん?」
    「別に、今夜の事は、これでいい」
    「  そうか」
    「アンタこそすまなかった、こんなに付き合わせたのに」
    「ネイチェ」
    「え」
    「こっち見て」

    そう言われたのでネイチェは首を上げ、
    ダイスダーグはネイチェの瞳の深淵を見た。

    「……」
    「……なに?」
    「うん、おやすみを」
    「うん、ありがとう、今日は、おやすみ」

    それ以上ダイスダーグがした事と言えば、
    何も言わずに来た道をゆっくりと引き返しただけだった。
    足音もよく鳴らさなかった、とても静かな足取りだった。

    ネイチェはというと、
    家のドアを開け、
    ランプも付けず、
    夜だというのに窓を開け、
    月明かりに任せて部屋の中を見渡した。

    相も変わらず、汚い我が家。
    長年積み重ねてきた、自分の怠惰と、自己嫌悪と、向上心の無さ、
    自己愛なんてものは知らぬ間に窓から逃げて行った。

    部屋の隅には埃が溜まって鼠の背の様になっている。
    部屋の隅だけの事でもない、本棚の淵や、
    ドアの横の壁伝い、覗いてはいないが、ベッドの下も酷かろう。

    枕も、匂いを他人に嗅がせるのが怖い。
    自分の匂いは判らないというが、他人に嗅がせたらどんな顔をするだろう。
    ほったらかしにしている靴下なんて自分で嗅ぐのも躊躇う見た目。

    整頓されずに床に寝そべったままの本達、
    使われずに埃の溜まった雑巾、
    いつ使ったか忘れる程の箒。

    開けっ放しのドア、開けっ放しの窓から覗いた闇達が、
    「うわぁ、酷い」としかめっ面をしてもおかしくない。
    そんな部屋の中の物言わぬ面々が帰って来たネイチェに囁いた。

    おい、まだ世界は滅ぼさないのか。
    もう嫌だから滅ぼそうと言ったじゃないか、
    あんなに一緒に世界を憎んで、滅ぼそうと誓ったのに、
    おいおい、早くこの世界を滅ぼそう。

    靴下が、ベッドが、滅多に使わないフライパンが。
    部屋のありとあらゆる物がネイチェに囁いた。

    「この      」

    ネイチェの底から湧き上がる様な声が部屋に響いた。

    「この    このっ……」

    窓から毛布が飛び出した。
    外の道の上だ、ネイチェの家の窓から毛布が飛び出た。

    「     この     この!」

    本も二冊、今度は開けっ放しのドアから飛び出した。
    中身の入って無いバケツ、たわし、片方だけの靴下。

    「このっ……この!」

    また、本が一冊。
    ネイチェの両手でがっしと掴まれた丸机は、
    ドアの横の壁にあたり大きな音を立てて跳ね返ったが、
    さらに蹴り飛ばされて無事に外に飛び出した。

    「………このおっ!!」

    鈍い音を立てながらネイチェの家のドアと窓から物が飛び出すのが止まらない。
    夜の道に物が落ちる音はそれはそれは大きくて、
    向かいの家のチェス打ちが窓を開けて覗き見た。
    するとどうだ、向かいの家から嵐でも起こっているのか、
    どんどんと物が飛び出てくるではないか。
    確かあの家に住んでいるのは今夜の祭りの立役者の一人だった筈だが、
    さては途中で結婚した男女が祭りを乗っ取ったのでヒステリーを起こしているのか。
    理由の詳細は知らないが、それにしても夜に音が良く響く。

    あちらの物を投げ、そちらの物を投げ、
    家の中の影は、透明な相手と踊りを踏んでるかに見える。
    一つのステップで本が一冊、
    一つのステップで服が一つ。
    人影が舞う毎に家から物が外に飛ぶ。

    細かい物はあらかた手についたのか、
    いよいよ大きな物がダンスの相手に選ばれた。

    「くぬぅ」

    とネイチェが踏ん張る声が外にまで聞こえる頃には、
    何事かと気付いた周囲の人間達が家の外に出てやじ馬を始めていた。

    「だらぁ!!」

    勇ましい声でタンゴを踊らされたのは本棚で、
    その巨体がドアの淵に当たって木材が吹き飛んだ。

    「ああらぁ!!」

    次の演目はワルツ。お相手はベッドの木枠。
    ネイチェの身体を長年受け止めていたベッドの木枠は窓の一部だった石材を突き破り、
    夜とは思えない、稲妻でも落ちたような音を辺りに響かせて夜の道の上に。

    やじ馬達はこう話し合っていた。
    やはりプロポーズをしたのが不味かったのだろう。
    この部屋に住むネイチェはあの祭の発起人の一人だ、
    なんであの祭を始めたのか理由は知らないが、
    全く関係の無い人間の結婚式に乗っ取られたのはやはり嫌だったのでは。
    だから祭が終わった今、この癇癪騒ぎになっているとしても可笑しくないだろう。
    ははあ、なるほどな。それにしてもなかなかの大暴れだぞこいつは。

    大物を仕留め、
    後は残った小物をポイポイと部屋の外に放り投げ、
    もういいだろう、部屋の中にはネイチェ、
    お前が一人、いるだけだよ。

    綺麗なものだ。
    毎日毎日目に入っていた部屋のありとあらゆる物は、もう無い。

    肩で息をしながら部屋の中に立ち尽していたネイチェ。
    その細い体をこれほど使った夜が他にあっただろうか。
    くるりと振り返ってみると、何かの砲弾が貫いたのか、
    ドアの横の壁が抉れていた。
    そこから見える外には自分で放り出した数々の家の物とやじ馬が並んでいる。
    まるで自分で殺した相手の生死を確認するかの如くネイチェが外に出て見ると、
    不思議そうな顔で居並ぶやじ馬の中に、あのダイスダーグを見つけた。

    ダイスダーグは引き返してきたのである。
    夜の道を歩いていると物が落ちる音が聞こえてきた。
    金物、木の物、大きいような、小さいような。
    それが聞こえたダイスダーグは足の向きを百八十度翻し、
    しかし急ぐでもなく、至って普通の歩調でネイチェの家へと戻ったのだった。

    憐みの目をしている訳でも無い。
    変人を見る目をしている訳でも無い。
    ただダイスダーグが居た。

    「    ちゃんと」

    ネイチェの息はまだ幽かに荒い。

    「滅ぼした……アタシが滅ぼしたかったものを。ごめん」
    「何故謝る」
    「世界を滅ぼしたいなんて言った」
    「謝る事じゃない。だってちゃんとやり遂げただろ」

    ダイスダーグの指が上がった。
    その指先にあるのは、ネイチェの部屋、もう、中には何もない。

    「よく仕留めた。ちゃんと世界を滅ぼした。
     嫌な聞こえになるかもしれないけど、君の世界だ。」
    「ああ、とても狭かったし嫌だった」
    「俺も昔同じ事をした」
    「アンタが?」
    「意外か?」
    「嘘でしょ」
    「ただ俺はぶっ壊す勇気が出るまで一か月かかった。
     三日でやり遂げた君は凄い。」
    「そんな……別に」

    人の群れの中から、一人の男がぬう、と現れた。

    「あのぉ……」
    「え」
    「怒ってます、よね。俺達が余計な事したから」

    それはあのプロポーズをした男だった。

    「すいません、俺が結婚を」
    「いや別に怒ってないです」
    「え」
    「はは、ネイチェ、お前早口だな」
    「怒ってませんから。これは私が個人的に前からしたかった事なので。」
    「ええ…?いやでも」
    「それに、あの祭はまた来年しましょう」
    「お?」
    「そうそう、そうしましょう。
     それでまた誰かに結婚の申し込みをして貰おう。」
    「ええ?」
    「それもちゃんと祭りの期間のうちに。
     そうでないと世界は滅びます、あれはそういう祭なんです。
     そうだよねダイスダーグ。」
    「はは、ああそうだな、確かにそういう祭りだ、
     今回君達が結婚してなかったら七日後に世界は滅びてたぞ」
    「ええ?冗談でしょ……」
    「冗談か?ネイチェ」
    「冗談じゃないよねダイスダーグ。」

    昼間だったら誰かが笑っただろうか。
    もう深夜、誰も笑わない。

    「ところでネイチェ、お前今日はどこで寝るんだ」
    「いやー…どうしようね」
    「良ければうちに来い」
    「いやでも」
    「世界を滅ぼす偉大な功績をした者に対して、俺は紳士だ」
    「そう?じゃあお言葉に甘えて」
    「ここの掃除も明日手伝ってやるよ」
    「ホントに?」
    「ああ、最初から最後まで見届けた年長の務めだ。」
    「ダイスダーグ」
    「ん」
    「もっと賢いやり方があったとか……そう思う?」
    「欲しい結果に辿りついた。
     ならどんな方法であってもそれは正だ。
     魔法使いの世界では辿り着けない方法だけが誤である。」
    「アンタの考え方?」
    「俺の師匠がそう言っていた。良い師匠だった。
     だから俺もお前の方法を咎めないし貶さない。」
    「……あー、やりすぎたかもなぁ」
    「凄いよな、見ろ、あそこの壁抉れてるぞ」
    「あー、大家さんに叱られるわ」

    道の上に横たわっている家具の数々は、
    もうネイチェに囁きはしなかった。
    世界を滅ぼせ、世界を滅ぼせと。
    もうネイチェの世界は家の中だけではなく、
    祭の節々に伸び渡り、今やこの、

    夜空の上まで。

    ―――――――――――――――――――――
    けんいちろうです。
    人間の世界というのは様々な形をしています。
    形だけではありません、その大きさも様々ですし、
    そのルールも多種多様で平均化するのはおよそ無理だと思っています。

    ただ、狭い世界は時として人を卑屈にさせます。
    その結果、命を奪ったり、無謀な事をさせたり。

    自分の世界の『殻』を壊すというのは非常に勇気のいる事です。
    年齢が嵩むにつれてその勇気の必要量は飛躍的に増え、
    人は保守的に走るのです。
    それが良いのか悪いのかは論じません。
    ただ、もし、今ここまで読んでくれた読者の貴方が、
    『世界』から何か悪い脅迫的な『囁き』をされているのだとしたら。
    その世界はぶっ壊すに限ります。
    今夜のネイチェの様に。

    けんいちろうでした、良い夜を。