サプライチェーンは人間がいっぱい(Soylent Supply Chain) 著:Andrew “Bunnie” Huang アンドリュー・バニー・ファン
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サプライチェーンは人間がいっぱい(Soylent Supply Chain) 著:Andrew “Bunnie” Huang アンドリュー・バニー・ファン

2014-12-23 13:17
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友達のBunnieが、ブログに公開していた文章が、とても面白かったのと、なんとかして一回「プロジェクト杉田玄白」に参加してみたかったので、訳してみました。

深圳、大量生産、ハードウェアスタートアップ、メイカームーブメント、そういうことに興味ある人はぜひどうぞ。
アメリカのMakerMediaで出してる本も面白そうです。僕は日本のamazonでKindleで買いました。

Maker Pro
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posted with amazlet at 14.12.23
Maker Media, Inc (2014-12-09)
日本語版も出ました!日本語版は日本のMakerのインタビューがさらに面白い。特にヒゲキタ一代記は最高。
物を作って生きるには ―23人のMaker Proが語る仕事と生活 (Make:Japan Books)

オライリージャパン
売り上げランキング: 110,305

僕の英語はひどいので、みなさまのコメントを得て、適宜アップデートしていくつもりです。それでも訳したのは、この深圳のサプライチェーンに友達が2ケタいる日本人でこういうことをやりそうな人があんまり思い浮かばなかった(たいてい、僕以外のそういう人は忙しいし、気まぐれで無駄なことはやらない)。アップデートはGoogle Docs上でおこなっていくつもりだし、脚注なども増やしていくつもりなので、きちんと読みたい人はこっちを見てくれた方が正確です。サプライチェーンとは、僕らが注文したモノが届くまでのすべてのことです。たいてい、材料と加工と組み立てと箱詰めとマニュアル作りなどは別々の人たちを経由するので、チェーンと呼ばれます。それらはスイッチを押したら動くような機械ではなく、行程それぞれについて検討や判断、細かい軌道修正が発生するものです。Bunnieは生粋のアメリカ人ですが、深圳で自らのハードウェアを量産していて、MITのリサーチャーとしてJoiなどが深圳に訪れるときの案内をしています。シンガポールの僕のオフィスのすぐそばに住んでいるので、よく会います。日本でもメイカーズがらみの講演で来たりします。

Google Docs

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サプライチェーンは人間がいっぱい(Soylent Supply Chain)
著:Andrew “Bunnie” Huang CC BY-SA-3.0
訳と脚注: @tks Masakazu Takasu 翻訳もBY-SA-3.0です。

何人かの編集者が、僕に「メイカーにとっての大量生産のやり方」について本を書いて欲しいと頼んで来たんだけど、それはホワイトボードに建築家が描いたスケッチを見て、「この建物の写真を撮りたい!どこに行ったら良い?」に頼むようなモノだと思う。僕だってまだどうすれば一番いいかはわかってなくて、いろいろ手探りしている。

だけど、今度アメリカのMake:版元MakerMediaから「プロMakerのために(Maker Pro)」という本が出る。そこのために1章、まとめて今のところを書くことはいいことだと思った。


Maker Pro は17人のメイカーの知識がコンパクトにまとまったいい本だ。Amazonで買えるのでよろしく。


MakerMediaは自分の章について、クリエイティブ・コモンズのBY-SA-3.0で公開することを許可してくれた。僕は「サプライチェーンは人間がいっぱい(Soylent Supply Chain)」として、物理的なモノを作るときの、様々な関係者とつきあうことについての重要性について書いたんだ。



サプライチェーンは人間がいっぱい

今の小売店やECサイトは、サプライチェーンの複雑さをまったく見えなくさせている。手元のスマホをちょっといじれば、あらゆるモノを、誰にも会わずに次の日には届けてもらうことができる。
amazonが作ったビデオでは、ロボットが商品をピッキングして箱詰めしている。それを見ると、Googleが検索処理を自動で実行したり、ダイレクトメールが自動でコンピュータから送られてくるように、モノも自動で送られてくるように見えるだろう。

それは、ソフトウェアエンジニアにとっては「よくわかる」ことだ。彼らが使うOSの一つ,FreeBSDは最初に”make buildworld”って実行する。世界はプログラムによって作れてしまう。


もちろん実際は違う。高度に自動化された機械が、あらゆる物質を操ってるように見えるけど、ハードウェアのスタートアップが実際に製品を作り、顧客に届けるサプライチェーンを動かそうとしたら、ほとんどは手作業になる。今のところ、自動化の恩恵にあずかれるのは、限られたものすごいロット数の製品(自動車とかAppleの製品とか)だけだ。

「こんな簡単な単純作業も、自動でできないの?」と僕はよく言われる。でも、人間にとって簡単にみえることでも、ロボットがやるのはすごく難しい。「がらくたがいっぱい入ったおもちゃ箱から、赤い長方形のレゴを取り出すこと」は、人間なら子供だってできる。でも、最新型のロボットでも、人間ほど素早く、フレキシブルにそれをこなすことはできない。

たとえばKIVAシステムのような倉庫の自動化システムや、FANUCやPALが作っているロボットは同じような仕分けができるように見える。でも、それは均等にモノが置いてある場合だけだ。人間なら誰でもできる、「適当にモノが詰められた中から正しいモノを取り出す」というのは、ロボットにとってはまだ最先端の研究テーマなんだ。



深圳の工場で、一緒に作業する著者Bunnie (Photo credit: Andrew Huang.)


逆に、量産のための新しい自動化ハードウェアを作るというのも挑戦的なテーマだ。紙をレーザープリンタでなくて、オフセット印刷で色指定しようとおもったら、Pantoneの色指定に詳しくならなきゃならないように、ハードウェアの外装をつくるときに、「手触り」「テクスチャ」「表面仕上げ」といったことについて、既存の部品、加工方法について詳しくならないとならない。もちろん、ボタンやツマミみたいな部品まで含めて全部自分たちで新しく設計して、自動の組み立てラインまで作るなら何でもできるけど、それを回収するためには何百万個の製品をつくらなきゃならないんだろう。


このように、ハードウェアスタートアップが扱うサプライチェーンは、機械よりも人間に多くを頼っている。人間がサプライチェーンでいちばん大事なパートである以上、ハードウェアスタートアップが成功する一番いい方法は、お金やマシンや部材のことを考えることじゃなくて、サプライチェーンのことをきちんと考えてくれるパートナーを見つけることだ。インターネットやロボットの時代になっても、サプライチェーンを作る経験はAmazon.comや買ってくれる消費者が考える以上に重要なんだと思う。それは何千もの売り手が値段もつけずに開いてるバザールに近くて、そこでうまく(だまされずに)買うには、自分が作るものにとって一番適切な品質とお値段で売ってくれるベンダーと、「仲間、パートナー」にならなきゃならない。

僕がハードウェアの仕事を始めたばかりの頃、それにはすごく混乱させられた。僕が育ったのはアメリカ中西部の小さな街で、値段がついた店でしか買い物をしたことがなかったし、商人と話したことなんかなかったから。

だから、深圳の電気街に行くことはテクノロジーの面だけじゃなくて、コミュニケーションのためにもすごく大きな、大変な経験だった。多くの売り手と交渉し、何個をいくらで買うか決める。ゴミみたいなモノをいっぱい買ったし、失敗もたくさんやったけど、自分にとって本当に大事な製品を作るときの契約交渉の、よい練習にはなってると思う。


僕のプロジェクトの一つ、オープンソースのノートPC、Novena。 (Photo credit: Crowd Supply.)


こういうことは多くのハードウェアスタートアップが、頭の中に持ってない。

僕はすごくよく、「アメリカの外まで-アジアまでホントに行かなきゃならないの?」と聞かれる。「電子メールもSkypeもある」「代理店だっていっぱいある」「現地に行くのは最後の手段じゃないの?」って。

もちろん、それもできないことじゃないだろうけど、たとえば自分の服や夕食の材料を買うときに、代理店を使うかな?

どんな買い物だって、どの瞬間にも判断が求められる。

値段がついてて消費者保護法がある先進国のスーパーで、買い物かごに牛乳を入れるときだって、みんな賞味期限のラベルを見たりしてない?誰かに買い物を頼むと、たぶん一番前の製品をそのままカゴに入れるだけだよね。

服を買うときも、フィット感とか縫い目のほつれとか、色違いはないかとか、割引とかをチェックして、いちばんそのときに満足できるモノを買おうとするよね。それは代理人に正確に言葉で伝えられる行為なんだろうか。

もちろん、服や牛乳の買い物で少々ヘマがあっても、一晩寝たら忘れてしまう程度のモノだ。だけど、製造では、これが数百倍数千倍になって、最終製品にのしかかってくる。


代理店に「おまかせ」しちゃうことや、電子メールやテレビ会議だけでやりとりすることのもっともまずいことは、サプライチェーンが「仲間」じゃなくなることだ。深圳の工場と仕事するのは、友達の家に泊まりに行くようなモノだ。掃除を自分でやり、皿洗いを手伝い、電球の取り替えをやるように、次に自分が泊まりに行くときにどうやるとお互い快適になるかを考えなきゃならない。でも、礼儀に包まれた最初のフェーズを超えて、ベンダーと互恵的な関係を築けるところまで行ければ、それはお金では買えない価値になる。


もし、ベンダーからあなたを見たときに「お金」としか見えないなら、あなたはたいした価値じゃない。少々資金調達に成功したって、ハードウェアのスタートアップが用意できるお金なんてたかがしれていることを、どのベンダーも知っている。彼らはAppleの言うことは聞いてくれても、僕らの言うことは聞いてくれない。5つ星のサービスは、現金で1000億ドルを持っている、トップクラスの会社だけが受けられる。


これも僕のプロジェクトCircuit Stickers。シールで電線を貼ることで、簡単に電子工作が学べる、子供向けプロジェクト。 (Photo credit: Andrew “bunnie” Huang.)


ハードウェアスタートアップは、ヒッチハイクで友達の家のソファーを渡り歩いて成功への路を歩まなければならない。お金以外の価値をベンダーにもたらすために、まずは「いつも笑顔で楽しそうでいること」を強くオススメする。

お金持ちの旅行者が使う、ミシュランの三つ星レストランなら、一食$1000と引き替えに、いつでも最高のサービスが受けられる。屋台だと、忙しいときはスプーンがちゃんと洗ってないかもしれない。でも、すいてる時間に行くとか、お店の人がやりやすいように工夫すれば、ちゃんとしたサービスが受けられる。そのうち、お互い気心が知れて「おなじみさん」になったら、もっといいサービスが受けられるかもしれない。工場も同じだ。


そういう人間が作るサプライチェーンは、いつも合理的なわけではないし、時には間違いを犯す。でも、人間同士は互いに触発され、学びあい、同じ目標や夢のためなら休まず働くことができる。みんなが、お金をこえて、Happinessを望んでいる。ベンダーに自分たちの考えをわかってもらうこと、最終的に何がしたいかというビジョンを伝えて「仲間」になること、最終製品をその工場の人たちにも買ってもらうことは、ベンダーとうまくつきあうためにすごく大事なことだ。エンジニアに対しては、彼らのスキルと、そのために彼らが払った努力をちゃんと尊重することがだいじだ。僕は会議室でパワーポイントを使うより、一緒にビールを飲むことで解決できた問題のほうが多いと思っている。

単純労働する部分を最小限にするために、自分も設計のところで頑張る。検品やテストのためのツールを作り、テストすることそのものをおもしろがれるようにする。もしそれがうまく行かなくても、退屈な作業をなるべく安全に、わかりやすくするようにする。

どの作業にどのぐらい時間やコストがかかってるかを知ることは、単に値切るためだけじゃなくて、実際に作業する人たちを理解し、彼らがどういうインセンティブを得たいのか、本当にやりたいことがなんなのか、ミスがあったときにどうフォローすればいいのかを知ることに繋がる。そうすると、あなたのサプライチェーンは単なるベンダーじゃなくて、「仲間」になる。


自分の活動を通じて考えてみると、サプライチェーンで出会った人の99%は、優秀で正直者だと思う。もし問題が起こるなら、それは説明不足や誤解、無理解から生じるモノだった。

たいていは彼らは僕の期待にこたえてくれる。もしあなたが、彼らを悪役のゴロツキだと思ったり、ボラれてると思って彼らにちゃんとお金を払わなかったりしたら、もちろん彼らはそう振る舞って、犯罪的なことを僕らにするだろう。でも、彼らをちゃんと「期待できる人」として扱ったら、彼らはそれだけでモチベーションを上げて、すごいことをやってくれる。なぜなら、彼らもパートナー(君だ!)を失いたくないから。一番大事なのは自分がいいパートナーでいること。十分な仲間を集めることができれば、1%ぐらいの本当のゴロツキは、君に対して何もできない。ネジを締めるときは、ネジ穴とネジのどっちも大切だ。両方が、「どうやればもっとうまくやれるか」を考えなきゃならない。


最後にまとめると、「ハードウェアを作るというのはかなり社会的な取り組みだ」と言うことだ。いちばん重要な唯一無二の部分、「人間」は自動化されてない。オーダーメイドのやりかたをやるために、あなた自身が他の人と力を合わせて仕事をしなきゃならない。

ソフトと違ってハードは誰かが「所有」し、「操作」されてるから、求めるものの方向性、スケジュール、予算、要求水準の違いをあらゆるところですりあわせなきゃならない。

アイアンマンに出てくる「JARVIS」みたいな、なんでも知性を持って自動的に解決してくれるロボットが生まれるまでは、ハードウェアの設計や開発は、メカや電子回路を理解するだけじゃなく、取引先やそこで働く人たちとうまくつきあっていかなきゃならない。


結論は、「人間だ! サプライチェーンは、人間が作ってるんだ!」って事だと思う。





以下、訳者コメント:

深圳でのプロトタイピングは、よく安い安いと言われますが、実際は世界で売れるような品質(初期不良率が低いとか、きれいな化粧箱に入ってるとか)で作ろうと思うとそれなりの手間がかかります。工場に泊まり込むぐらいに気合いを入れてる人はうまくいってますが、お手軽に外注するとうまくいってない人も多いです。
メイカームーブメントはもちろん産業や資本主義を燃料として燃え上がっているのですが、種火になっているのは初音ミク
などと同じく、資本主義の向こう側に生まれた、何より「やりたいことを楽しくやるための活動」だと思います。この文章の”happiness is more than money”を見て、その思いをより強くしました。

BunnieはFacebookもやってないぐらいのオープンソース原理主義者なんだけど、いつも楽しそうに活動しています。彼みたいなMakerは日本にもいっぱいいて、MakerFaire Tokyo にくれば、話せます。そういう人にとって、ここに書いてあることは「あたりまえ」の事なのでしょう。

MakerFaire Tokyoに来ると出会えるそうしたMakerと、「仲間」になる人がいっぱい増えてくれると、いいですね。

この文書は、著者の許可を得て、「メイカーズのエコシステム」にも掲載しました。


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