• - デザインの遺伝子 - 酒器のかたち 西洋編2 〜牛の角〜

    2014-08-11 06:2521
    注:この記事は主任の古い記憶とうんちくによって構成されており、実際の事象・神話・歴史・人類学・醸造史・工芸史とは少し逸脱している場合があります。嘘をついているつもりはありませんが、なにせうんちくですので話半分、酒の肴として読んで頂ければ幸いであります。昔むかしの酒杯のお話でございます。


     前回は羊の角杯から取手付きのカップを経てジョッキ、ピッチャー等の酒器へと進化していった話をしました。
     今回は牛の角杯から話を進めていきましょう。

     牛も羊も古くから牧畜として人間に飼われていました。羊は食肉だけではなく羊毛が採れましたし、皮革(羊皮紙)としても重要な産物でした。
     牛も食用のほか、牛乳が採れましたのでそのまま飲用したりバターやチーズに加工して保存性を高めた食品も考案されました。チーズは今もお酒の良きパートナーであります。もちろん皮も利用されましたし、何より力持ちでしたので牛車や田畑の耕運の重要な労働力としても有効でした。

     そしてその角は羊と同様、角杯として利用されてきました。羊の角ほど複雑ではないものの、牛の角はやや湾曲している程度のシンプルな円錐形でしたので取り扱いはずっと楽でした。

     しかしどちらの角もひとつ難点がありました。その形状のため自立しないので、飲みかけの杯から手を離すことができないのです。そのため腰ベルトに挿したり皮ホルダーを付けて肩から下げたり、専用のスタンドが作られたりしました。
     やがて石や木材に穴をあけて、そこに角杯の先を差し込みました。こうして角杯は好きな場所に立てて置くことができるようになりました。


    ビールメーカー GARGERY のリュトン・グラス。(画像はGARGERYサイトの壁紙)
    角杯をイメージした円錐形のグラスと台座で構成されている。酒器の原点回帰ともいえるデザイン。


     さて、時は流れ文明も発展すると人口も増えてきます。日々の酒飲みの為に、いつまでも1頭の牛から2本しか採れない角で杯を作る訳にはいきません。前回と同様にもっと生産性の高い素材が必要になりました。

     ある時、良く角杯を倒してしまう気の短い人が「長過ぎるから倒れるんだ!」と角杯の先っぽをぶった切っちゃいました。盛大に穴があいたのでここを塞いで底を平らにしました。
     この形状を洗練させていくと、もうこれ以上無いほどにシンプルな器が完成しました。


    一般的にタンブラー(コップ)と呼ばれる形状。
    成形の都合上、下部がすぼまっているものが多いが、円錐状の牛角の形状を受け継いでいるともいえる。


     そう、タンブラー(語源:倒れる)です。コップともいいます。角杯とは筒であるという哲学的な解釈であります。
     底から口まで同径のものもありますが、多くは底の径が小さく口側が大きな径であるものが一般的でした。
     その方が飲みやすく、持ちやすく、また「ろくろ」で粘土を成形するのも容易だったからです。金属板を絞ったりプレス成形する場合も、型でガラスを成形する場合もその方が効率が良かったのでした。
     タンブラーの背を低くすればロックグラスになりました。ウイスキー等、アルコールの高いお酒を飲むのには、さほど量が入らなくても良いからです。

     話を牛角まで巻き戻します。牛角は円錐状の形をしていたので、角の先の方が細く持ちやすくなっていました。この持ちやすさと倒れない台座の形を踏まえていくと、ゴブレットが誕生しました。足付きコップです。


    細い脚の持ちやすさと、安定した台座を持ったゴブレット。
    この形状は長らく用い続けられていった。


     そしてこの持ちやすさをもっと洗練させていくと、ついにワイングラスに完成を見ることになります。


    ボルドータイプのワイングラス。
    基本的に本体、脚、台の3部品から構成されており、ゴブレットからの派生である。


     この美しく機能美にあふれるワイングラスも、デザインの遺伝子をたどれば牛の角だったのでした。

     タンブラーもゴブレットもワイングラスもその形は多彩ですが、これら西洋発端の酒器の多くが、日本の杯やぐい飲み、升などと比較しても背の高いものが多いのは、そのすべてが角の長い形状をデザインの遺伝子として受け継いでいるからに他なりません。


     今回はこのへんでおしまい。
    
 次回は日本の伝統的な酒器のデザインの遺伝子についてお話したいと思います。
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  • - デザインの遺伝子 - 酒器のかたち 西洋編1 〜羊の角〜

    2014-07-30 17:5041

    注:この記事は主任の古い記憶とうんちくによって構成されており、実際の事象・神話・歴史・人類学・醸造史・工芸史とは少し逸脱している場合があります。嘘をついているつもりはありませんが、なにせうんちくですので話半分、酒の肴として読んで頂ければ幸いであります。昔むかしの酒杯のお話でございます。

     昔むかし人は牛や羊などの獣角をお酒の杯として使っていました。「角杯」っていうやつです。獣角は筒状の構造になっているのでお酒を飲むのにちょうど良い。それに頑丈な素材でもあったのです。

     また、角杯を所持している事は、ひとつのステータスシンボルでもありました。
    たとえば「オレはこんなにでっかい角を持った牛を倒した勇敢なハンターなんだぜ!」とか「私はこの立派な角を持つ羊を沢山所有している裕福な族長である。」などと言った具合に、角杯それ自体が武勇伝や富の象徴でもあったのです。

     そしてこれらの元の動物はその地域での守護神や聖獣であったりするので、その角からお酒に神聖な力が宿ると信じられるようになり、その一部は儀式に用いられるようになりました。


    リュトン:ルーブル美術館所蔵
    リュトンは上方から酒を注ぎ、下部にある穴から杯に注ぐようになっている。
    動物(神の化身)の意匠が象られており、酒がリュトンを通過することで神聖な力が宿るとされていた。
    形状が似通っているため混同されやすいが、リュトンは杯に注ぎ分けるための道具であり、角杯のような個人使用目的の酒杯ではない。

     ちょっと脱線しますが、お酒はビールであれワインであれ農作物から作られます。半羊の姿である牧神パンは羊飼いの神様、そして田園の神様でもあります。牧神パンの息子からディオニュソス(バッカス)にブドウの栽培と醸造が伝わり、やがて人間にワインが広まりました。羊(の角)とワイン(酒)には、密接な関係があったのです。

     さて、時は流れ文明も発展すると人口も増えてきます。日々の酒飲みの為に、いつまでも1頭の羊から2本しか採れない角で杯を作る訳にはいきません。もっと生産性の高い素材が必要になりました。

     古くは石や木を削っていたのでしょうが、やがて粘土や金属という加工性に優れた素材にとって代わります。加工性に優れるということは、やがて装飾も施されるということですが、ここでは割愛して純粋に器としての形状そのものに注目していきます。

     金属(青銅や金銀)はまだ希少品だったので、まずは羊の角をお手本に粘土で杯を作っていくとしましょう。羊の角は先がくるんと丸まっていて、これが持ち手として実に具合が良い。この機能を守りつつ形を洗練させていくと…。

    写真:CarbonNY


     取手付きのカップへと進化しました。取手は器の上部をひも状に切り出して曲げたり、別パーツとして作った後、器に接着するなどしました。ガラス鋳造や素材がプラスチックに置き換わると、一体成形も可能になりました。取手は壁のフックに引っ掛けて収納することにも使えました。


    写真:55Laney69

     そしてこの取手は樽などの大きな容器からお酒を汲み出すのにも一役買いました。
     取手のない普通のコップだとやり難いし、間違って樽の中にコップを落としてしまいかねません。カップが樽底まで届くように取手をまっすぐに伸ばして長くすると柄杓(ひしゃく)になりました。
     とはいえ樽底まで手を伸ばすのは面倒だし、樽の蓋を開けっ放しにするとゴミが入ったりお酒の気が抜けるので、後に樽に穴をあけてそこから注ぐようになります。

    「樽の前に人が群がって混雑する。効率よく皆にビールを注いで廻りたい。」
     そんな居酒屋的事情から、カップは大型化してピッチャーになりました。はじめは水差しで代用していました。


    ピーテル・ブリューゲル:農民の結婚式 ウィーン美術史美術館所蔵
    左手前に水差しからジョッキにビールを注ぐ男性(花婿?)の姿が確認できる。

    「ちまちま注いでなんてやってらんねぇ!もうコイツでビールを飲んじゃえ!」


    写真:caba1

     そんな欲張りさんのためにピッチャーを飲みやすい大きさにサイズダウンして注ぎ口も無くしちゃうとジョッキへと生まれ変わります。カップのサイズアップとも言えます。

     結局の所、陶器や磁器、金属やガラスへと素材が変わろうと、またカップやジョッキへと形態が変わろうと、その取手の原型は、実は羊の角の丸まった部分にさかのぼることが出来るのです。

     これをデザインの遺伝子といいます。でもこの単語は主任が勝手に使っているだけです。


     今回はこのへんでおしまい。
     本当にただのうんちくですので鵜呑みにしないで下さいね。でも九割五分くらいは合っているはずです。
     次回、気が向いたら牛の角から話を進めていこうと思います。


  • 日本酒のアル添あれこれ 〜人はなぜアル添を嫌うのか?蔵はなぜアル添するのか?〜

    2013-06-21 03:3845

     どうも、主任でございます。しばらく放置気味のブロマガで恐縮であります。
     ようやく決算業務に目処がついたので、すこしはうんちくを開陳できそうです。

     やはりアルコール添加についてはどうしても説明しなくてはならない部分があるので、ここについてお話ししましょう。なるべくやさしく簡単にいきたいのですが、また長くなりそうなのでお時間ある時に読んでみてくださいね。


    三倍醸造?時代錯誤も良いところですよ

     仕事柄、様々なお客様の会話が耳に入ってきます。中でもお酒の内容となるとどうしても聞き耳を立ててしまう主任であります。よくある会話の内容は以下のようなものですね。

    『吟醸酒はアル添してあるから飲まない。あれは量を3倍に増やす為に醸造アルコールを入れてるんだろ?そんでもって量が増えた分、味が薄まるから調味料を加えて訳のわからない味になってる。だから飲まない。』

     うーむ、いろいろと間違っているのですが、なるべく判りやすく、噛み砕いて解説していきましょう。

     まず上の会話の場合、『吟醸酒にアル添してある』部分は正解なのですが、後の内容は全部間違いです。

     ひとつ結論から申し上げます。量が3倍になる、いわゆる「三倍醸造酒」なる日本酒は、今現在は存在しません。そもそも法律がそんな事を許しません。それに吟醸酒には調味料は入っていません。

    『ところで三倍醸造酒ってなに?』『なぜアル添なんかするんだろう?』といった、様々な疑問が湧いてくるかと思います。まずはアル添という行程が生まれた歴史から勉強してみましょう。

    「アルコール添加」等でインターネット検索して、1~5番目までのページを参照してみてください。おしまい。

     いやあ、楽ちんラクチン…という訳にはいきませんね。サボらずにきちんと解説していきましょう。


    江戸時代には存在していたアル添

     添加という意味では、江戸時代にはすでにお酒に焼酎を入れるという事は行われていたようです。目的としては腐敗(火落菌の繁殖)防止の意味が大きかったようですが、同時に味がスッキリするという結果もありました。

     ここでいう焼酎というのは、日本酒を搾った後の酒粕から造った焼酎、いわゆる粕取り焼酎だったようで、原材料は日本酒とまったく同じものです。

     この手法は柱焼酎と言われ、今でも柱焼酎仕上げの日本酒を目にする事ができます。

     さて、かつては腐敗防止として行われていた柱焼酎というアル添でしたが、今は加熱殺菌処理という技術が確立したため、腐敗防止という意味では柱焼酎という技法は必要が無くなりました。現在の柱焼酎酒は昔のお酒造りの再現といった意味合いが強いといえます。

     では、次は江戸時代から文明開化して大正に移っていきましょう。


    大正時代〜米騒動と合成清酒〜

     大正ではシベリア出兵等に起因する米価の暴騰と米騒動から、日本酒の原料米の供給が不安定な時期があった事、また将来起こりうるであろう米不足に備える為にも、少ない原料米でお酒を造る方法が研究されていました。

     複数の方法があったようですが、タンパク分解液に糖類添加して発酵させて調味料を加えるものとか、アミノ酸をエタノールに溶かして電気分解するとか、よく判らん化学的ななにかがホンニャラモンニャラして出来たのが、合成清酒というものであります。

     化学的ななにかはここでは重要ではないのでホンニャラモンニャラとさせていただきますが、要は米不足により今までのような日本酒造りが困難な時代があったという事だけ覚えておいてください。ぶっちゃけ主任が化学的な何かが良く判らないだけです。

     適当で恐縮ですが、足早に昭和へ飛びますよ。


    昭和時代(戦後)〜密造酒や純米酒よりやっぱり増醸酒〜

     太平洋戦争によりお米どころか物資全般がジリ貧であった日本でありました。もちろん日本酒を造る原料米も大量に確保できる訳でなし、高精米な吟醸酒など御法度。

     そこで戦中から認められていた増醸酒というものがありました。お酒と同等に薄めた醸造アルコールを加えて糖類や調味料を加えて味を整えたもので、今でいう普通酒とさほど変わりはありません。ま、これがいわゆる三倍増醸酒の誕生であります。

     そして敗戦。戦地からの帰還兵や満州等からの引揚げにより日本の人口は増加しました。
     ただでさえスッカラカンになのに人口増加、深刻な米不足であります。酒蔵を存続させる為には原料が少なくて済み、利幅のある増醸酒を造る他はありません。

     またこの頃は米不足の為に低精米で造った本当の日本酒(純米酒)の品質は良くなかったらしく、増醸酒の方が好まれていたという事情もありました。また粗悪な密造酒が横行していたこともあり、増醸酒に安心感もあったのかもしれません。

     いわゆる三倍増醸酒というものは戦中に製造が確立されましたが、普及したのは戦後といえます。

     いずれにせよ合成清酒も増醸酒も、米不足という日本酒造りにおいて致命的な事情に対応する為の苦肉の策ではありましたが、利潤は大きく市場でも求められていた為に、いくらかの変更点がありながらもおおむねそのまま現代に至っております。そして多くの蔵(メーカー)では、今も主力商品でもあります。

    『アル添とはなにか?』を説明するはずが、なぜか脱線に脱線を重ね、三倍増醸ならぬ三倍脱線して日本酒の近代史となってしまいました。しかしながら、この近代史を踏まえないと現在のアル添を理解する事ができません。

     現在の吟醸酒や大吟醸はなぜアル添するのか?ここからが本題であります。

     長くなってごめんなさいね。


    アル添が前提の吟醸造り〜守りたいこの吟醸香〜

     昭和5~6年頃に竪型精米機なるものが登場しました。お米屋さんや街中にちらほらある精米機のオバケみたいなもので、まさに工業機械ともいうべき巨大な精米機であります。

     私の動画の「酒蔵探訪 出羽桜酒造編」(宣伝)の冒頭にて、ゴウンゴウン唸って会話が全然聞き取れない、あの巨大な機械です。

     これにより、精米歩合50~60%という、今でいう吟醸酒や大吟醸に相当する精米が可能になった訳であります。

     ここで今までの酒造りにはない事象が発生しました。高精米の吟醸造りをした醪(もろみ:日本酒を搾る前の濁った状態)や搾った後の酒粕から、豊かな芳香が漂ってきたのです。

     いわゆる吟醸香というものですが、この香りが醪と酒粕からは漂ってくる。しかしなぜかお酒自体にはこの香りがない。

    『なんとかしてこの素晴らしい香りをお酒に持ってこられないだろうか。』

     研究の結果、芳香成分がアルコールに対し溶解性がある事が判り、お酒を搾る前に醸造アルコールを添加する事で吟醸香を抽出する事ができました。

     吟醸香のする現代の吟醸酒の誕生であります。

     そう、吟醸酒や大吟醸のアル添とは、増量目的ではなく吟醸香を引き出す為の技法だったのです。

     同様に醪から漂う吟醸香を日本酒に還元する別の方法も模索されました。

     仕込みタンクから発散していく吟醸香をもったいないと考えた、とある醸造試験所の学者さん3人組は、上手い事やってこの吟醸香を逃さずに手に入れる事ができました。

     『上手い事ってなんぞや?』詳しい説明は割愛しますが、発散する吟醸香の気体を冷やす事で液体にする技術を『上手い事』やって発明しました。たぶんウイスキー等の単式蒸留装置的な方法だったと思います。

     こうした吟醸香エキスを一升瓶に数滴入れるだけで、お酒に吟醸香を添加する事が出来たのです。

    「付け香」とか「やこまん(学者さん3人組『やまだ』『こもだ』『まの』の頭文字)」とかいわれる技法です。現代の吟醸酒の初期段階にもこの付け香は行われていたようです。また、この付け香を応用して「なんちゃって吟醸酒」なんかも作れちゃったりしました。

     しかしながらこのエキス、お酒の蓋をあけた瞬間は吟醸香が立ち上るのですが、数日で消えてしまう。匂いが不自然とか燗酒にすると気分悪い臭いなどと不評だったようで、国税庁も許可なく添加する事を禁止したほど。それでも「なんちゃって吟醸酒」は密かに作り続けられていたようであります。

     某グルメ漫画には『アル添した吟醸酒には不自然な香りがある』と、山岡さん雄山先生が言っている記述があったと思いますが、複数の指摘があるように、ここでいう不自然な香りとはこのエキスの事を指しているようです。

     私もこの点を確認したかったのですが、どうしてもこの某料理漫画の日本酒編の巻が見つからず、確認できずにいます。古本屋をあたるしかないようです。う~む、読んだ記憶はあるんですけれどね。

     脱線しましたが(脱線しかありませんが)、この吟醸香は高精米だけで発生する訳ではありません。新しく登場した酵母にも起因するのですが、ここでは割愛しまして、「吟醸酒のアル添は香りを引き出す技術の事なんだよ」という事を覚えてもらえればそれで結構です。


    全国新酒鑑評会〜アル添技術を競う品評会〜

     日本酒の醸造技術を競う「全国新酒鑑評会」は、かつてはアル添した大吟醸を出品するものでした。これは新しい日本酒である吟醸酒の製法を競う品評会であり、とりわけ極限まで精米した大吟醸、つまり究極の吟醸酒をめざして全国の酒蔵はその手腕を振るったのでした。

     今では純米酒の部が新設されており、幅広い日本酒の可能性が評価されるようになってきています。


    本醸造とは一体何だったのか?

     疑問がひとつ残ります。『それでは吟醸造りではない本醸造とは一体何なのか?』

     たしかに通常の本醸造酒は高精米ではないので吟醸香はありません。ま、あるお酒もあるのですが。

     まずは「本醸造」という名称、これは糖類や調味料を添加した普通酒や合成清酒に対する単語で、これらの添加や合成をしていない「本来の醸造をされた日本酒ですよ」といった意味合いだと思ってください。普通酒・合成清酒といった低価格帯のお酒の中では高価にはなりますが、本当の日本酒造りであるので品質は良いといえるでしょう。

     お醤油にも「本醸造」という単語が出てきますが、こちらも混合方式とか混合醸造というお醤油の製法に対して「本来の醸造をしてありますよ」という意味です。

     この「本来の醸造をされた日本酒」のうち、アルコール添加していないお酒を「純米酒」と呼んでいる訳であります。

     要は増醸酒である普通酒や合成清酒の他に、合成や混ぜ物のない本醸造酒がありました。  そしてこれら本来の醸造をされたお酒に吟醸酒も加えて、純米造りかどうかも分類して、ひとまとめに特定名称酒と呼称します。という事であります。

     ちなみに本醸造をはじめ吟醸酒、大吟醸の特定名称酒のアルコール添加量は原料米1tに対して120リットル(重量比約10%)までという決まりがあるので、最大でも1割程度しか量は増えません。

     普通酒でも現在は原料の米・米麹の重量を超えてはならない(最大で約2倍増醸)とあります。
    「三倍醸造酒なる日本酒は、今現在は存在しない」と言ったのは。こうした所以であります。


     さて、舌足らずなところもあるでしょうが、ここら辺で結論を。

    1.  現代のアル添とは、吟醸香を引き出すための技法であり、杜氏の腕の見せ所である。
    2.  三倍増醸酒は今は無い。二倍醸造酒ならある。
    3.  現在の普通酒はクオリティーが高い(山形では)。糖類添加をしない普通酒もあり、味も本醸造にも引けを取らないものもある。

     こんな感じですかね。そして主任から一言。

    「合成清酒も増醸酒も、その誕生の影には米不足という情勢の中、酒蔵の没落を避けたい。なんとかして酒造りを存続させたいという、先達の苦悩と情熱の狭間で生まれたという事を忘れないで下さい。吟醸酒のアル添も吟醸香をなんとか活かしたいという思いがあってこその技法です。アル添しているからと、どうか毛嫌いせずに一度は飲んでみて下さいね。」

     ていうか、なんで俺の嫁の悪口を言うんだよおォォォ!!


    おしまい。

    お酒は20歳になってから。







     柱焼酎という技法は、添加する焼酎の原料が酒粕(=米)であるために、アル添してあっても純米酒であるという意見があります。それはそれで一理あるなとは思うのですが、某酒造り漫画では、たしか夏子さんが『ひどい…、あたかも純米酒であるように偽るなんて…。』とか言っていたかと記憶しています。間違っていたらゴメンナサイ。
     それはさておき、山形でいいますと十四代の本丸という本醸造には「秘伝玉返し」なる文字がラベルにありますが、あれも柱焼酎の一種であるようですよ。





    大吟醸

    山形県内においても最高の大吟醸のひとつとして不動の位置にあるのが、小屋酒造の「絹」です。
    アル添を感じさせない美しく透明感のある仕上がりは、地酒愛好家の間でも畏敬の念すら抱いている事でしょう。








    吟醸酒

    元旦仕込みという限定酒なのですが、米鶴酒造の「吟醸三十四号仕込み」を紹介しましょう。お米の旨味を残しつつ軽快で香りもある酒質は、吟醸酒とはかくあるべしと納得すること間違い無し。
    三十四号とは、34番目に仕込んだお酒という意味なのですが、実は米鶴酒造の須貝智杜氏の名前にご注目。三十四=サトシ(智)という訳であります。
    探せばまだどこかの酒屋さんには置いてあるかも。




    本醸造

    東の麓酒造の「東の麓あらばしり」
    こちらも新酒時期の限定品で恐縮なのですが、酒蔵で初めて飲んだときの衝撃を今も忘れません。
    私もその場で自宅用に一本買わせて頂きました。
    マスターなんか2ケース発注する始末。
    濃厚な旨味と搾りたてのピリピリとしたガス感がたまりません。








    普通酒
    竹の露の銘柄もズバリ「竹の露」。「普通酒はここまできたか!」と、私もマスターも舌を巻いた一本であります。近々お店にも仕入れる事でしょう。