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  • 第6話:夏の終わり

    「大好きだからね…」  涙を浮かべた彼女が僕に力なく微笑みかける。その笑顔は儚くて、悲しくて、思わず手を伸ばしても…背を向けて歩いて行ってしまう。 「待ってくれよ!」  必死の叫びが届くことはない。彼女は振り向きもせず、行ってしまう__ 「夢、か…」  はぁ。はぁ。僕は飛び起きた。汗でパジャマがぐっしょりと濡れている。  カーテンから朝の陽の光が差し込んでいた。また、朝が来た。何度目の朝だろう。そして、こうやって彼女の嫌な夢で起こされるのも。  散らかった部屋には足の踏み場もない。片付ける理由もなくなってしまったからだ。    彼女がいなくなった。 「…来てるわけ、ないよな」  淡い期待は見事に打ち砕かれた。 携帯を確認しても、 彼女からの連絡はやっぱりない。絵文字で目がチカチカするような連絡が今となってはとても恋しかった。  そのままベッドの上で僕は布団にくるまり続ける。このまま眠ってしまって、朝が来なければいい。生まれて初めて味わう喪失感に呑み込まれてしまいそうだった。  彼女の体調が悪くなるにつれ、会う頻...

    2018-09-03

    • 69 コメント
  • 第5話:異変

    「あつーい…」  扇風機の真ん前を陣取りながら、彼女が言う。 「ほんとに暑いよなぁ。あ、あれ食べようよ、スイカバー」  毎日のように部屋に来ては一緒にスイカバーを食べるのが日課だったので、自然と冷蔵庫のストックも増えていた。が…。 「…ごめん、いらない…」  申し訳なさそうに、体育座りをしながら彼女が言う。 「えっ、珍しい! 最近食欲ないよな、大丈夫か?」  この前夕ご飯を食べに行ったときも、明らかに食べる量が少なかった。夏バテなのだろうか。今年の夏の暑さは異常だから、それも仕方ないのかもしれない。 「大丈夫大丈夫! ごめんね、心配かけて!」  取ってつけたような笑顔。  あの海の一件から、なんとなく気づいていた。彼女の様子がおかしい、と。  何かを隠している。でも、それについて彼女は頑なに口を閉ざし、何も語ろうとはしなかった。僕が詮索しても、乾いた強がりを見せるだけだ。  急に不安になることが増えた。  彼女の様子が気がかりで、ともすれば問い詰めたい気持ちを呑み込んで無言になることが増える。そのたびに、また彼女は更に不...

    2018-08-23

    • 104 コメント
  • 第4話:海デート

    「わぁぁああああ! ねぇねぇ、すごいよ! 起きて起きて!」 「んー…」  彼女が興奮した様子でバシバシとたたき起こしてくる。  勘弁してくれよ…。こっちは怠惰に怠惰を重ねた夏休みに朝五時起きというミッションを課されて寝不足なんだ…と思いながらも、眠たい目をこすり窓を覗き込む。 「うぉぉぉおおお! すげー! めっちゃ綺麗じゃん!」 「でしょでしょ!? 渋ってたけど、来た甲斐あったでしょ? ほら、わーい!」  わけもなく僕らはハイタッチをした。  僕等は今日、遠出して海へ遊びに来ていた。電車から見える窓の外には、日光を反射してキラキラと輝く海が一面に広がっている。青々とした空には大きな入道雲が浮かんでいる。最高の眺めだ。 「海海海ーっ!」  彼女は嬉しそうに歌を歌いながら、一体何が入っているんだと突っ込みたくなる巨大な大きさのバックから様々なものを取り出す。浮き輪に、ビーチバレーに、何故かアヒルのおもちゃまで入っていた。 「なんだよこれ、小さい子のお風呂じゃないんだから…」 「あー、スイカ割りもしたかったのに…」  僕の話な...

    2018-08-13

    • 60 コメント
  • 第3話:夏祭り

    「いやー、緊張するなぁ…」  慣れない甚平を何度も着ては脱いではソワソワしている僕。  夏休みが始まる前は空白ばかりだったカレンダーに、大きく赤丸がつけてある。それが、夏祭りの今日だった。地元ではそこそこの規模で賑わう祭りとして有名なのだ。  そして今日、僕の一世一代の大勝負がかかっている…。 「やるしかねえええええええ!」  意味もなくガッツポーズをしながら気合いを入れてみる。緊張と不安で部屋の中にいても汗だくだ。こんな僕をどうぞ愛してくれ、彼女!  そんなときだった。ピンポーン。チャイムが人の訪れを知らせる。彼女だ。 「お待たせ」  浴衣姿に目を奪われる。思わず、言葉が出なかった。華奢な体格に上品な柄の浴衣がよく似合っている。思わず見惚れてしまう。 「ど、どうかなあ…?」 彼女が自信なさ気に、上目遣いで見てくる。 「滅茶苦茶、似合ってるよ。綺麗」 僕の返事に、思わず赤面する彼女。そのまま素直な気持ちを伝えただけだったのだが。いや、今日はもっともっと大切なことを伝えなければならない日なんだ…。彼女の手を強く握り返した。 ...

    2018-08-02

    • 37 コメント
  • 第2話:急接近

    あれから夏の日差しが強まっていくのと同じように、僕らの仲も急速に深まっていた。 「ねー、今日も会いにいってもいい?」 ピコン。彼女からのLIMEが鳴る。 午前11時、何の予定もなく部屋で漫画を読み漁っていた僕は慌ててパジャマを着替えようと立ち上がった。 「いいよー」 彼女との関係は新鮮だった。彼女が初対面の僕のどこにそれほど惚れてくれたのか、深い理由なんて考えてもわからないが、運命なんて使い慣れない言葉が脳裏に過るぐらいには何か少し違ったものを感じているのは確かだったのだ。 コン、コン。 「来ちゃったー!」 「はや。5分じゃん」 と、クールに答えつついまだに彼女と話すと照れる僕。そこで自分の恰好が三年前から着ているパジャマであることに気づき一層赤面する僕。 「えー、玄関の前でちょっと待ったんだよ? こんな早く来たら気味悪がられるかなって」 「どんだけ早く来てるんだよ」 思わず突っ込む僕に、彼女は長い手足をバタバタしながら言った。そんな仕草も、子供みたいで可愛い。 「会いたかったんだよー」 今日は彼女の提案で、ゲームセンタ...

    2018-07-31

    • 30 コメント
  • 第1話:出会い

    「私、今日からあなたの彼女だから!」 目の前にいるのは可憐な美少女。 相対するは普段着のジャージにスイカバーを持った僕。 透き通るような白い肌が夏の日差しの下で眩しい。蝉の鳴き声が僕を囃し立てるように、深緑の中で響いていた。 何なんだ。一体何なんだ、この神様からの特大プレゼントは。 暑さではなく、体が火照るのを感じながら僕はゆっくりと彼女を見た。 こうしてこの夏、僕は運命のヒトに出会ってしまった。 ----------------- ジリジリと照りつけるような夏。 世間は夏休みなんだよなぁ、なんて思いながら僕は真っ白なカレンダーを見てため息をつく。このままでは記念すべき夏休み第一週目を浪費してしまいかねない。勿論それなりに年頃だし、彼女だって欲しいとは思っているのだが。 「どっかに超絶美少女、落ちてないかな……」 思わず口をついて出た独り言に苦笑しながら、重たい腰を上げる。よし、アイスでも買いに出かけようか。自分へのご褒美とやらだ。いや、誤解なきよう付け加えるが僕は他人にも頗る親切である。面倒見の良さで友達のペットを誑し込むのは得...

    2018-07-20

    • 71 コメント

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