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森田洋之氏:病院がなくなったら市民が健康になった夕張から学ぶべきこと
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森田洋之氏:病院がなくなったら市民が健康になった夕張から学ぶべきこと

2016-07-27 20:00

    マル激!メールマガジン 2016年7月27日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第798回(2016年7月23日)
    病院がなくなったら市民が健康になった夕張から学ぶべきこと
    ゲスト:森田洋之氏(内科医・南日本ヘルスリサーチラボ代表)
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     医療の行き過ぎが、財政負担の増大を招くばかりか、かえって市民の健康にマイナスになっている可能性があるという。財政が破綻した夕張市では各種の公共サービスの大幅縮小を強いられてきたが、医療も決して例外ではなかった。171床あった市立病院は廃止され、19床の診療所と40床の介護老人保健施設に再編された。救急車の応答時間も破綻前の2倍近くかかるようになっていた。当初、これは医療崩壊が避けられないもの考えられていた。
     ところが、医療崩壊に直面した夕張市は、逆に市民の福祉を向上させることに成功した。医療を失った結果、市民がかえって健康になったというのだ。財政破綻後の夕張市立診療所の所長を務め、地域医療を担ってきた内科医の森田洋之氏は、夕張では医療や健康に対する市民の意識が変わり、結果的に心疾患や肺炎で亡くなる人の割合が減ったと指摘する。また病院が減り、医師が患者宅を往診する在宅医療に比重が移ったことで、高齢者一人当たりの診察費が抑制され、病院ではなく自宅で亡くなる人の割合が大幅に増えたという。
     日本では、1951年には8割以上の人が自宅で最期を迎えていたが、現在は75.6%の人が病院で亡くなるようになった。しかし、夕張では医療崩壊によって終末医療を病院に任せられなくなった結果、在宅で療養する患者を隣近所が協力して面倒を見るようになり、地域の繋がりが強まる効果も生んだ。結果的に自宅で死を迎えられる人が増えたと、森田氏は言う。森田氏はまた、医療が高度化すると、過剰な医療サービスが提供されるようになり、不必要に医療費が膨れ上がる傾向があると指摘する。人口10万人に対する病床数が日本で最も少ない神奈川県の一人当たりの入院医療費が8万6,046円であるのに対し、病床数が2479床と日本で最多の高知県では、一人当たりの入院医療費が19万70円にものぼっている。
     夕張では財政破綻という最悪の理由から、市民は否が応にも医療サービスの大幅な低下を受け入れざるを得なかった。しかし、その結果、市民の健康に対する意識が上がり、かえって市民が元気になるという、予期せぬ効果が生まれた。
     財政が逼迫し、医療サービスを縮小せざるを得ないという宿命を抱える日本は、夕張市の実例に何を学ぶべきか。ゲストの森田洋之氏とともに、マル激初登場、ジャーナリストの迫田朋子と社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・病床数が激減するも、死亡率は下がった夕張
    ・病院化する社会――家族の死を“外注”するのは幸福か?
    ・まさに“お上にまかせず、引き受けた”夕張市民たち
    ・「老衰」と診断できる医療のあり方 夕張から学ぶべきこと
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    神保: 本日の司会は私ではないのですが、最初にアナウンスメントをしたいと思います。20年来の付き合いをしているジャーナリストの迫田朋子さんがNHKを退職され、ビデオニュースに籍を置いていただけることになりました。晴れて自由の身になった……という言い方でいいのかどうか、今回は非常に造詣の深い医療分野がテーマということで、司会をお願いします。もう20年前、僕が対人地雷の取材をしているときにNHKで扱っていただいたときからの縁ですが、医療や福祉というのは必ずしもビデオニュースが強い分野ではないので、いろいろと助けていただければと。

    宮台: 僕は神保さんのパーティーで10年くらい前にお会いしていて、そのずっと前からテレビで拝見していたので、知り合いのように錯覚していました(笑)。

    迫田: よろしくお願いします。現場の取材もさせていただき、またお伝えできればと思っています。

    神保: 迫田さんは東日本大震災の被災地にも何度も足を運んで取材されているので、そうした問題についてもご協力いただけるとうれしく思います。

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    ■病床数が激減するも、死亡率は下がった夕張

    迫田: 第798回のトーク・オン・ディマンドは、神保哲生さんに代わり私、迫田朋子が司会でお送りいたします。少々自己紹介しますと、NHKに36年余り勤めまして、医療や福祉のことをずっと取材して番組をつくってきたのですが、定年退職し、フリーランスになりました。これまでどおり取材を続けようと考えてりますので、時々、このように参加させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

    宮台: 迫田さんのことは、今から25年ぐらい前の『おはようジャーナル』というNHKの朝の番組で、毎日のように拝見をしていました。よろしくお願いいたします。

    迫田: 早速ですが、今回のテーマは「夕張の医療破綻から学ぶ」というものです。夕張が破綻してちょうど10年(※2007年3月財政再建団体に指定)になり、市民の人たちが辛い、苦しい負担などをしながら過ごしてきたわけだと思います。そのなかで、夕張の医師だった方が、「医療崩壊のススメ」というスピーチをして、これが非常に評判になっていると。

    宮台: 「TEDxKagoshima2014」でのスピーチですね。

    迫田: 多くの人が見て「いいね」と言っていますが、180度アタマがひっくり返るような内容でした。

    宮台: 関連で最初にひとつ申し上げると、2011年の東日本大震災の直前に、レベッカ・ソルニットという災害社会学者が、『災害ユートピア』という本を書き、世界的に話題になりました。話題になった最大の理由は――「経済破綻かもしれないし、災害かもしれないが、巨大システムはいずれ倒れる。そのときに生き残れる社会とはどんなものなのか」という問題意識を掲げていたことです。
     その意味で言うと、番組でも繰り返し申し上げてきたように、東日本大震災で巨大システムが破綻し、福島を中心とする東北がどのように復興するのか、その姿が日本の将来を占うだろうと、みんな考えてきた。しかし、それは残念ながら期待外れに終わりました。それまでダムに依存してきたのと同じように、護岸工事とか、巨大防潮堤とか、中央あるいは上にぶら下がる従来の箱物行政の延長線上になってしまった。
     それとは別に、例えば民主党の時代に「コンクリートから人へ」とか「新しい公共」と言われていたのはなぜなのかということを思い返してみると、これは今回の夕張のお話につながります。医療に限らない、より重大な問題なのですが、今後先進国は、グローバル化を背景にして人口当たりの税収がどんどん下がっていく。したがって、困っている個人を行政が直接支えることは、どんどん難しくなるんです。

     
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