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飯田哲也氏:この選挙でエネルギー政策が問われなければならないこれだけの理由
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飯田哲也氏:この選挙でエネルギー政策が問われなければならないこれだけの理由

2022-06-29 20:00
    マル激!メールマガジン 2022年6月29日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1107回)
    この選挙でエネルギー政策が問われなければならないこれだけの理由
    ゲスト:飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長)
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     日本がエネルギー危機に瀕していることは誰の目にも明らかだ。ウクライナ戦争を機にガソリン価格はリッター200円を超え、政府の補助によって辛うじて市場価格が170円台に抑えられている状態だ。ガソリン価格の高騰は物流にも影響を与え、折からの円安や食糧価格の上昇とも相まって、今やあらゆる商品が値上げされ家計を直撃している。しかも、日本はこの夏、電力不足に陥る恐れがあるのだそうだ。間もなく始まる猛暑のシーズンのただ中で政府から省エネを呼びかけられても、あまり協力はできないかもしれない。
     しかし、今週、参院選が公示されたというのに、政権や各党のエネルギー政策を問う声はあまり聞こえてこない。この選挙が終わると、衆参ともに選挙のない「黄金の3年間」が待っているというのにだ。
     現在の日本のエネルギー危機は、自業自得な面が多分にある。2011年の原発事故で日本中の原発が止まった結果、日本は少なくとも一時的には化石燃料、とりわけ火力発電によってエネルギーの大半を賄わなければならなくなった。しかし、原発事故を奇貨として日本は再生可能エネルギー推進に舵を切り、長期的には原発依存も化石依存も解消されていくはずだった。
     ところが、原発事故から11年が経った今、日本は依然として化石依存を解消できていない。今もエネルギーの約7割を化石燃料に頼り、再エネのシェアは2割程度にとどまっている。昨年10月に閣議決定された長期のエネルギー基本計画では、日本は2030年になっても4割強を化石燃料で賄う予定で、再エネのシェアも36~38%にとどまる。2030年にドイツはエネルギーの80%を、デンマークにいたっては100%を再エネで賄う計画を着々と実行中であることと比べると、明らかに周回遅れ、いや2周遅れの状態だ。
     日本のエネルギー政策で何よりも問題なのは、エネルギー自給率の低さだ。日本は一次エネルギーの自給率が12.1%にとどまっており、これは先進国中最低レベルだ。アメリカやカナダのエネルギー自給率が100%を越えているのは別格だとしても、イギリスやフランスでも自給率は軒並み5割を越えている。また、34%と先進国の中ではエネルギー自給率が低い部類に属するドイツは、再エネを推進することでこの先、一気に自給率を高める予定だ。ウクライナ戦争を機に、日本の安全保障に対する関心が高まっていると聞くが、ことエネルギー安全保障に関する限り、ここまでの日本の成績は完全に落第点といわざるを得ない。
     結局、化石燃料に頼っている限り、石油も石炭も天然ガスも日本は全面的に輸入に依存しているため、エネルギー自給率が上がるわけがない。アメリカのように国内に潤沢な石油・ガス資源を持つ国や、フランスのように開き直って原発と心中する覚悟を決めた国を別にすると、高いエネルギー自給率を誇る国はどこも再生可能エネルギーへのシフトに成功している。言うまでもないが、どこの国でも太陽光や風力は純国産エネルギー源となり得るからだ。
     ではなぜ、日本だけが再エネのシェアを増やすことができないでいるのだろう。
     世界のエネルギー事情に詳しいNPO環境エネルギー政策研究所長の飯田哲也氏は、現行の政策のままでは日本の再エネは2030年に36~38%という目標も達成が難しいだろうと語る。それは依然として独占状態にある電力市場と古色蒼然たる電力会社の体質、脱原発に舵を切れない自民党と一部の野党勢力の存在など、原因は色々あるが、その中でももっとも重大なものを一つ挙げるとすれば、今の日本が最先端の知識から隔絶されたところにあることだと飯田氏は言う。
     世界の最先端で揉まれ、最新の知識を身に付けてきた人材がいたとしても、日本の組織、とりわけ官僚機構や電力会社、大企業といった古い体質を引きずる組織は、それを活かすことができない。また、そのような人材は自らの能力を発揮できない日本の組織に属したいとも思わなくなっている。結果的に日本は前時代的な知識や基準に基づいて政策決定が行われているのが実情だと飯田氏は言う。更に日本ではメディアも独占市場で活力を失っているので、そうした問題をまともに取り扱うことができていない。その結果、日本の市民は今自分たちの国に何が起きているのか、どれだけ日本が取り残されているのかを知ることすらできなくなっているというのだ。
     これではどんなに深刻な問題であろうとも、それが国政選挙の争点にならないのは無理もない。しかし、その結果、被害を被るのは有権者に他ならない。
     今日本のエネルギー政策はどのような課題に直面しているのか。なぜガソリン価格は高騰し、日本は電力不足に喘ぐことになっているのか。日本の産業や経済が世界と互していく上で重要なカギを握るエネルギー政策はこのままで大丈夫なのか。今、世界の最先端はどこまで進んでいるのか。エネルギー政策を参院選の重要課題とすべく、飯田氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・周回遅れで惨憺たる、日本の電力政策
    ・再エネシフトの一丁目一番地、太陽光発電が潰される
    ・“優秀な人間”が寄ってたかって、なぜこの体たらくか
    ・飯田氏の処方箋と、極まった日本人の劣等性
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    ■周回遅れで惨憺たる、日本の電力政策

    神保: 今回は選挙が公示されて最初のマル激です。公示されたこともあまり知らないかもしれませんが、街に出ればポスターが貼ってあり、そのなかでウクライナなどで露呈した日本のエネルギー政策の問題点がまったく争点になっていません。これだけガソリン代が上がり、電力不足が叫ばれ、ウクライナに制裁をしながら相変わらずロシアから天然ガスを買い続けているなかで、これが問われないというのはあり得ないだろうと。そして、地球温暖化の問題があるのに、先進国で化石燃料にこれだけ依存しているままだという恥ずかしい状況でもあります。
     そこで今回は、環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也さんをゲストに、日本のエネルギー政策について議論したいと思います。飯田さん、総論として、まずどんなことが問われるべきでしょうか。

    飯田: 日本はエネルギー政策全体が完全なる機能不全に陥っています。歴代自民党のなかで、とりわけ安倍政権のときに劣化しましたが、世界全体が21世紀型に進化する中で、日本だけが談合的というか、古い仕組みでやろうとしており、この複雑系についていけず、エネルギー政策の基盤が崩れている。50年前の石油危機においては、まだ牧歌的ではありましたが、いちおう国が真面目に正論をやろうとしていました。いわゆる石油代替エネルギーとか、省エネルギーとか、やり方は古典的だったけれど、それは一定程度機能した。しかしいまはその正論がない。さらに気候危機の問題がそこに加わっており、エネルギー価格が高騰し、これだけ自給率の低い国なのだから、自国の再エネをもっと徹底的にやるべきですし、ガソリンが高いのだったら、ドイツやイギリスがやっているように、EVにドンとシフトするなど、正論を正論として、きちんと政策に落とし込んでいかなければならないのです。それが完全に雲散霧消しています。ロシアのウクライナ侵攻より、日本は今だけ、金だけ、石油だけ、サハリン2は死守するんだと言っています。
     
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