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【特別インタビュー】大西ラドクリフ貴士 世界の〈境界線〉を飛び越える――Q&Oサイト「ヒストリア」の挑戦(後編)
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【特別インタビュー】大西ラドクリフ貴士 世界の〈境界線〉を飛び越える――Q&Oサイト「ヒストリア」の挑戦(後編)

2017-07-11 07:00

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    Q&O(クエスチョン&オピニオン)サービス「historie(ヒストリア)」を立ち上げ、国際情勢や歴史認識に関する議論を、新しい切り口で可視化しようとしている大西ラドクリフ貴士さん。後編では、多民族が参加するオンラインスクール事業のアイディアや、物語性を超えた歴史観をいかに子供たちに教育するかについて、お話を伺いました。(構成:菊池俊輔)
    ※本記事の前編はこちら
    ▼プロフィール
    大西ラドクリフ貴士(おおにし らどくりふ たかし)
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    1988年兵庫生まれ。起業家。横浜市立大学卒業後、RECRUITに新卒入社。内定者時代に社内新規事業制度「Newring」にてグランプリを獲得し、「Media Technology Lab.(現 新規事業開発室)」にてプロダクトマネージャーとして新規事業立ち上げ。RECRUIT VENTURESに異動し、Open Innovation戦略担当として「Newring」をRECRUIT史上初めて社外に解放。三井不動産、サイバーエージェント、経産省との協業を企画。Recruit Lifestyleでは UX DesignerとしてFintech系プロダクトの新機能立ち上げを担当。2017年4月末に同社を退職し、historieを運営するthe Babels株式会社を創業、代表取締役社長CEOに就任。 世界平和をインターネットからつくる。

    CGMの限界とオンラインスクールの可能性

    宇野 ただ、一つ聞いてみたいのは、いま世界には民主主義の限界を意識せよ、という考え方のほうが説得力を持つ局面があるのは間違いないと思うんですよね。端的に言えば、バカにインターネットをもたせるとロクなことをしない。だから、ネット時代に民主主義は究極的には成立しない。民主主義で決められる範囲をなるべく狭くし、立法ではなく行政、デモクラシーではなくガバナンスで問題解決を試みる方が「賢い」と考えるほうが優勢だと思うんですね。

     そんな中で、このhistorie(ヒストリア)はまだ素朴なインターネットへの信仰、つまり発信力を与えることで人間が「群」として賢くなるという幻想に基いているように思えるんですよ。もちろん、それができるなら越したことはないと僕は考えているからこういうことを聞くわけですが、そんな状況の中で、あえてボトムアップのCGM的なサービスに期待するのは、なぜでしょうか?

    ラド CGMといっても正直なところ、historieの議論のレベルを維持するためには、一般コンシューマーよりも、いわゆる「プロコンシューマー」の意見の方に期待しています。プロコンシューマーというのは専門性や知識を持ってるユーザーのことです。やっぱりある程度の専門性や知識がないと、発言しにくいし支持されるものになりにくいですからね。でも、その一つ一つの意見をジャッジするのは実は一般コンシューマーの方です。現代の世界を解剖するには「プロコンシューマーの意見がどのように一般コンシューマーに支持されているのか?」の集積と分析が重要だと思うんです。

     例えば、米国大統領選でのトランプの支持層を見ても、プロコンシューマーではない一般コンシューマーのVote(投票)が最終的な決定権を握っていたわけじゃないですか。こういったネット上では大騒ぎしなくて目立たないような、サイレントマジョリティやサイレントマイノリティの声の受け皿が、いま世の中に必要で。彼らのVote(投票)を受け付けるようなCGMが、非常に重要になると考えています。そういう意味では、ネット上の民主主義にはまだまだ大きな可能性があると僕は捉えています。

     少し話が飛びますが、よくインターナショナルとグローバリセーションを対比する議論があるじゃないですか、インターナショナルとは「寛容になる」ということであって、どちらかを選ぶという話ではない。ここにCGMを持ち込めないかなと。

    宇野 あえてざっくり整理するならインターナショナルは境界のある世界でお互い頑張って交流しよう、グローバルは境界そのものをなくしてしまおう、という考え方ですよね。前者ではいかに人々が「寛容」になっていかに他者に手を伸ばすかが大事になって、後者では自動的に接続されてしまったものの間をいかに調節するか、もっと言ってしまえばいかに手を離すか、が大事になっていく。具体的には画一化されたプラットフォームの上でどう多様性を実現するかが問われることになる。

    ラド まだ上手く言語化できてないですけど、インターナショナルでもない、そしてグローバリゼーションでもない、そのもうひとつ先にある世界があると思っていて、そしてそれを描きたくて、そこにCGMの可能性を見ているんです。世の中にはたくさんの境界線があり、人々は色眼鏡やフィルターを通して世界を見ている。そういった状況に対して、僕らのアプローチは3つあって、「1.境界線を超える」、あるいは「2.境界線を溶かす」、そしてもうひとつ、「3.境界線を上書きする」があると思っています。1はインターナショナル的、2はグローバリゼーション的と言ってもいいかもしれない。そして3は、つまりは、境界線を爆発的に増やすことで、実質的に人々の色眼鏡を無効化するようなものかと。

     例えば「中国のことはあまり好きじゃない」というレイヤーに重なるかたちで「でも、中国のFintech(フィンテック)とかって超すごい」みたいなレイヤーで内側に入れる。たとえば「韓国のことはあまり好きじゃない」というレイヤーに重なる形で「K-POPは好き」という発想があってもおかしくない。それって、「K-POPアイドル好き」という趣味性の領域において、境界線の内側に入り込んでいる状態なんですよね。これは、ネット上で動画がシェアされファン層が急激に拡大していくような動きとして現れますが、そのことによって境界線が爆発的に増えて、誰もがお互いに相対化されれば、境界線の内側同士になれるんです。ただし、この方法は、ちょっとだけ境界線が増えても意味がない。爆発的に増えないと意味が出にくいんです。狙いとしては、国籍の上にさらにいろんな境界線がひかれまくってしまうと、わけわかんなくなってきて、その興味分野に関しては自分がナニジンかとかどうでもよくなってしまう瞬間があると思いますから、その演出です。そういう意味でも、CGMのアプローチは未だに有効であると考えています。

    宇野 境界線をあえて「増やす」というアプローチですね。「日本人とそれ以外」という境界線を心のなかに持っている人に対して、自分自身がもっとたくさんの、複数の境界線が複雑に絡み合ったところに浮かんでくる存在だということを知ってもらう。国民というアイデンティティを相対化することで、ナショナリズム回帰を乗り越えよう、という議論はずっとあったと思うんですが、それをCGMサービスのようなかたちで実践するという発想はなかなかなかったと思います。

    ラド CGMの本質はそこにあると思っていて、トップダウンでは方向性が決まってしまって打破できない状況を、ボトムアップの集合知で高速に無効化していく。境界線を跨いでどうしても気になっていたことが、別の境界線が上書きされて囲われることで、無効化、希薄化、中和されて、いつのまにか気にならなくなっていく。そういう意味で象徴的なのは日本のネット文化です。

     わかりやすい例としてよく話すのは「初音ミク」とか。こういうことを言うと実際の初音ミクのファンの方は嫌がると思うし、僕自身は純粋なファンではないから言えるんだと思うんですが、僕はウェブサービスの設計者として、初音ミクをあくまでウェブサービスやプラットフォームとして捉えたい。

     プロコンシューマーによって、楽曲数という点では、B’zやサザン、秋元康さんといった天才たちをはるかに凌ぐ勢いでが数が増加していくわけですが、そのプロコンシューマーたちって、全然一つの文化圏に収まりきってなかったりして。初音ミクというCGMの前では、自分がナニジンかとかどんな職種だとか、そんなあらゆる境界線が上書きされて、どんどん内側へと入り込んでいく。

    ――ニコニコ動画では、動画数が増えすぎると逆に閉塞的になる。初音ミクの話でも、曲が増えすぎて素人にはどれが良い曲かよくわからない。つまり、情報量がある閾値を超えたときに、ピックアップや編集を加えて全体性を仮構しないとオープンな場を維持することが難しいという問題がありますが、そこについてはどうお考えですか?

    ラド おっしゃる通りだと思います。ただ、このhistorieは、プロコンシューマーが中心となって、世界から有益な情報を吸い上げる装置として機能すればいいと考えています。やっぱりウェブである以上、気になってGoogleで検索するとか、historieをSNSでシェアするような友人が周りにいるとか、興味やコミュニティが無い人々にはなかなか届かないので。意見を吸い上げる装置が、もともと興味ある人とか知識人に閉鎖的になってしまう部分は、ある程度仕方ないと思っています。でも、そこから生まれたいわゆる「良い曲」をしっかりと編集して「アルバム」の形にして届けるのは、また別の作業だと思っていて。

     historieで得られた素材を編集して子供たち(大人かもしれませんが)に届けるのは、「バベルスクール」というオンラインスクール事業を計画しています。もちろん、編集が入る時点で公平さを維持できるのかという議論はありますが、僕らはたとえば右翼にも左翼にもフラットで、あくまでも複数の意見を立体化させるためのプラットフォームとして情報を届けていきたい。それが、historieの向こう側にある、国境をまたいだ次世代の教科書や学校事業です。

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    ――「バベルスクール」では、子供たちに向けてどのようなコンテンツを提供するのでしょうか?

    ラド まだ構想段階ですが、バベルスクールでは、「オンラインインターナショナルスクール」にチャレンジしたいなと思っています。具体的には、文化圏をまたいだ同世代の子供たちを、オンラインで時差が合う時間帯に集めて、ディスカッションさせる場を作ろうとしています。多民族の小さなクラスルームを作って、たとえば原爆についてのクエスチョンで、「最低限こういうことは調べてきてね」と事前課題も与えた上で議論を行う。そうやって学校や家族に教えられた自分たちの常識的な歴史観が、実は国ごとに全然違っていることを体感できる場を、提供していきたい。

     historieという名前で「歴史を教える」と話すと、どうしても歴史上の「過去」を引っ張り出して議論しているように聞こえるかもしれないんですが、むしろ逆だと思っていて、バベルスクールは現代史も含めて「今」や「未来」の世界を考える時間を提供していけると思っています。

     History(歴史)って、ほんとは、過去の出来事を教える科目じゃなくて、未来を考える想像力を育てる科目なはずだと僕は思っているので。だから、歴史を学ぶことは、未来を考えること。歴史を教える仕事は、未来をつくる仕事です。歴史って暗記科目じゃないですよ、超クリエイティブです。

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     近年、シリコンバレーでは、子供にリベラルな教育を与えたいと考える親が増えています。21世紀型のグローバルシティズン力、つまり地球市民としての力がビジネスにおいても問われ始めている。それを教育によって伸ばしていこうという動きがあります。

     そういう教育を望んでいる親は、カリフォルニアのリベラル層や富裕層を中心に、世界中、日本にもいます。でも、完全にインターナショナルスクールに通わせるのっていろいろハードル高くて、それをオンラインで私塾的につまみ食いできる場所があればいいなと、ファーストステップとしてはそう思っています。

     本当は、届ける人を最大化するためにも、公教育に落とすところまでやっていきたいんですが、それはとてもパワーもかかることだと理解しているので、公教育を進めてこられた有識者の方々のご支援やご指導を受けながら、時間をかけてしっかりと進めて行きたいと考えています。日本国内だけでもディスカッションの場を提供することには意味がありますし、スクールとして非常に価値があることだと思ってます。

    物語的な歴史観の限界をいかに乗り越えるか 


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