• ボーイ・ミーツ・ワンダーランド その5

    2014-04-14 20:05
    その5 暇ができたので今週中に全部終わらせる(予定)

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    「うお、お、お、お、これが自動車かぁー!」車内で揺られながらヤマトが興奮する。

     「すすす、凄いですねにいさん! 馬車や牛車よりずっと速いです!」ミコトも揺られながら興奮している。

     「そ、そ、そ、そんなに速いか?」むしろ揺れの方が気になる。

     というか揺れ過ぎ!

     「うるせーよてめぇら 静かにしやがれ」ハンドルを握っているカンナだけは一人平気そうにしていた。

     おれ達を載せたこの四駆はショッピングモールを出発してサンドロードを駆け抜けているところだった。ろくに舗装もしていない砂の道である。がたがたと車内は激しく揺れている。

     「とととところでカンナさん、目的地まではどのくらいかかりそうなんですか」助手席のドアと天井に手足を使って体を固定しながらミコトは聞く。

     「あん? ・・・エリア47だったな・・・あと半時間程でサンドロードからは抜けられる。その後最寄りの中継所から大陸横断ハイウェイにのって、まぁ混雑がなきゃ三時間程で着くだろうさ」カンナは片手で器用に運転しながらいう。左手には再び包帯に巻かれていた。片手の銃・・・。

     「なあおいカンナ右手どうなってんの?」おれはカンナに話しかける。きっとまだおれ達に馴染んでないであろうこいつにうまく溶け込めるようにというありがたい配慮と単純に気になるからという好奇心がごちゃまぜになった心から発せられた質問だった。

     「・・・・・」だがなぜかこの女はおれのそういった心遣いを完全に無視して、黙りこくってしまっている。

     「おい、なんだよなに無視してんだよ~」おれは後部座席から身を乗り出し、カンナの肩を指でつつく。

     「おい・・・」カンナは静かに語り出す。

     「気安く話しかけるなガキ。なぜかって? 理由は三つある。あたしはガキが嫌いだ。ガキが嫌いだ ガキが嫌いだ。以上」そう言って口を閉じるカンナ

     なんだこいつ。超感じ悪ィよ!

     それからしばらくカンナの運転する四駆は砂漠を駆けて行く。するとやがて砂が薄くなっていき、土の道路が見えてきた。

     「この辺でサンドロードは終わりみたいだな」カンチンが呟く。

     「ふー、ここでも色々あったがなんとか宝を手に入れたんだ。上々だぜ、なぁミコト」過ぎゆく砂漠の道を後部座席の窓から見送りながらヤマトはいう。

    「ええ、そうですね兄さん。このまま後二つも見つけてヒノ国を取り戻しましょう」ミコトは助手席から身を乗り出して、後部座席の方に振り向いて言う。「金の刃、無事入手出来ました」懐から金の刃を取り出す。

    「ぐえ」そして車体の振動に耐えきれず車の天井に頭をぶつけた

     「だからあんま騒ぐなっての」カンナが呆れたような声を出す。

     「・・・・・・なぁいい加減一つ教えて欲しんだけどさぁ」カンチンが改まっていう。

     「なんだよ」とヤマト。

     「まぁなんというかこの旅の根幹に関わる事で今さら聞くのもどうかと思うんだが・・・それ」それ、といってカンチンが金の刃を指さす。

     「お前等兄妹はその金の刃含めて三つの秘宝を入手すれば自分達が追われた国を取り戻せると息巻いちゃいるが・・・実際問題、どうやって取り戻すんだ? 今目の前にあるそのお宝はオレの目からはやはりただのガラクタにしか見えないぜ」

     「それは・・・それはですね・・・」体勢を立て直し助手席にもどるミコトは言いよどむ。

     「三つ揃えれば分かる、ってか? だがいったいなにが分かる? 一体なにがどうなるんだ? さっきあの博士にも言ってたが、三つ揃うと秘宝の価値が分かるらしいが、一体それはどういったものなんだよ? お前等知ってんだろ?」車体に揺られながらカンチンはミコトとヤマトの顔を見比べる。

     「・・・分かりました」カンナは一度両目をゆっくり閉じて開く。

    「ではお話しましょう。ヒノ国の秘宝について我々の知る全ての事を」

    「おいおいミコト」ヤマトがおいおいという顔をする。

    「いえ、兄さん、やはりここまで巻き込んでおいて秘宝の真実を話しておかないのは不誠実ですよ」

    「まぁこのお子様二人に関してはいいんだけどさ・・・」ヤマトはちらりと運転席のカンナに目線を向ける。

    「いいえ、兄さん話しますよ」割と強引にミコトは話を進めて行く。

    「実はですね・・・と改まるのもなんですが、この秘宝を三つ集めると世界を思い通りにできるそうなんですよ」さらりというミコト。

    「はッ」カンナの鼻で嗤う声が車内に響く。

    「なんだそりゃ」質問をしたカンチンも困惑している。

     「なんだもなにもその通りだよ。三つの秘宝を集めると世界を意のままに動かす事できるそうだ。それが言い伝えなんだよ」ヤマトはいう。

     「随分豪勢な話なんだな」馬鹿にした口調でカンナが言う。

     「世界って・・・具体的にどうやって?」カンチンが兄妹に聞く。

     そもそも世界ってなんで動いてるんだ? 電気? 

    「それは・・・よく分からないです。ヒノ国の文献にもその辺りはぼかして書いてあるので」

    「ハッ、なんだそりゃ。酔っ払いの武勇伝と一緒だな。無制限に話を盛っただけだろお前等の先祖は」

    「いえ、荒唐無稽に聞こえるかもしれませんが本当に本当なんです!」今度はしっかりと体を固定しながら助手席から振り向くミコト。

    「そうは言ってもねェ御嬢さん。証拠もないんじゃ信じる気にはなれないよ」ジロリとハンドルを握りながら一度ミコトに目をやるカンナ。

    「証拠という訳ではないのですが・・・一つその秘宝の力を使って行われたある事があるのです」一つ、と人差し指を一本立ててミコトはいう。

    「ほう、なんだそれは」

    「我々の国がそうなんです」

    「お前らの国・・・ヒノ国とか言ったっけ、それがなんなんだよ」カンチンが言う。

    「ええ、実はヒノ国はその秘宝の力によって生み出されたそうなんです、伝承によれば」

     伝承によれば、と同じことを二度繰り返すミコト。

     「どういうこと?」

     「私たちの祖先は元々はこの大陸に暮らしていました。そして、秘宝の力、今言った世界を自在に操る力を使い新しい国を海に生み出したそうなんです」

    「実際、ウチの国の学者によれば地質学的にもおかしな構造になってるんだとヒノ国は。ヒノ国は島国だが・・・元々あった島ではなく突然海に誕生したとしか思えない構造になってるそうだ。だkら俺等の先祖は秘宝の力で島を造りそしてこの大陸から移住したんじゃねーかって」ミコトの言葉をヤマトが補足する。

     「ふーん、しかしそんな便利な宝、というより機械か? を所持していながら島国一つ作って満足しったて事か? お前等の先祖は随分欲がなかったんだな」そのまま世界中を思い通りにできそーじゃねーか、とカンナがいう。

     「知るかよ。何千年前の人間の考えることなんて――まぁとにかく、そんな訳で、だ。三つ秘宝が集まれば世界を動かせちまうスゲーパワーのなにかが手に入るかもしれねーって事だ。その力で国を元の状態に戻す。内乱が起こる前の、平和な状態にな」ヤマトは若干投げやり気味にいう。

     「ふん、そんな与太話やはり真面目に受け取る気にはなれねーが・・・ま、いいぜ? 今はその話に乗ってやる。ただし、宝がガゼだろうがマジだろうが、三つ集めた最後にはキッチリ出すもんは出してもらうぞ」

     「お前最後までついて来るつもりかよ・・・」カンナの言葉にヤマトはゲンナリする。

     「まぁ! カンナさんのような凄腕の方に同行してもらえるなんてとても幸運ですわ」一方ミコトは喜んでいた。

     「なぁお前はどう思うテト? ホントにそんな便利な宝があると思うか?」すっかり蚊帳の外に置かれたカンチンとおれは二人で話している。

     「知らね。別にどっちでもいーんじゃないの」

     宝が本物だろーがそうでなかろーがどうせただの暇つぶしなんだし。

     それからしばらく車は進む、そしてサンドロードが完全に見えなくなった頃、おれ達の乗るこの自動車はハイウェイのロータリーに入ろうとしていた。このハイウェイは大陸を横断している一大道路網で毎日多くの乗用車や貨物車が観光や流通のために走っている。

     「よし、そんなに混んでないみたいだな。これなら三時間もかからねーでエリア47に入れると思うぜ」カンナが確認するように言う。

     「どういう所なんですか? エリア47・・・レイクタウンと言いましたか・・・は」ミコトが聞く。

     「どういうとこもなにも名前通りの所だぜ。レイクタウン。大陸最大の湖、デカデカン湖のそばにある街。デカデカンは本当にデカい湖だからな。川や海みたいに船で色んな物資を運んでる。レイクタウンはそういう船の港として発展した街だ。言ってみれば港街だ」カンナが割と丁寧にミコトに説明する。

     つーかこいつミコトとは普通に話してやがる。おれにはガキは嫌いとか言ってたくせに。

     「あとデカデカン湖は観光地としても有名だからな。観光客向けの土産物屋とか宿屋なんかも多いらしいぜ・・・ふん、そういえば有名な割にあたしもまだ行ったことはないな・・・まぁなにか手掛かりがあるとは思えんが・・・」そう呟き、カンナはハンドルを握りながら、ぱちり、と左手の包帯に目をやった。

     「あの・・・一つ聞いていいでしょうが」ミコトはおずおずとカンナに質問する。

     「あん? なんだい嬢ちゃん、レイクタウンの事なら通り一辺倒の事しか知らねーぜ。後は自分の目で確かめな」

    「いえ、そうではなく・・・あの、カンナさんの事なんですが・・・・・・」ミコトはさらにおずおずする。

     「あの、聞かれたくない事なら勿論答えなくて結構なのですが、カンナさんは何が目的なのでしょうか?」ミコトは助手席からカンナの様子を窺うようにして質問する。

     「・・・多分ですけど、ただお金が欲しい訳ではないですよね? お金でなにかやりたい事がある、のだと思います。あの・・・・・・もしよろいければお聞かせ願いませんでしょうか。もしかしたら力になれるかもしれませんし。あと、ひょっとしてひょっとするとそれはそのカンナさんの左手に関係があるのではないかなーと私のカンは告げているのですが」ミコトはかなりおずおずしている。

     ハッ、とミコトの問いを聞き終わったカンナは鼻で嗤う。

     「あたしの目的? 別にたいしたじゃねーよ、ほんとーに大した事じゃねーからワザワザ話す事でもねー。もちろんこの腕とも関係ねーよ」カンナは否定する。

     どうやらカンナの目的は結構大したことでそれは彼女の左腕の銃とも関係あるようだった。

     ミコトはしかしそれ以上は問う事はせず、そして車はアスファルトのハイウェイを進む。

     

     確かに三時間も掛らなかった。

     エリア47 レイクタウンである。

     ハイウェイの乗降口から降りてすぐにあるレイクタウンの近くにおれ達の乗る四駆は来ている。レイクタウンと描かれた木製の簡易なゲートが見える。

     あれがレイクタウンの入り口だ。

     「よーし、着いたな。さて車を置く場所は・・・と」車を減速させながらレイクタウンの入り口周辺を進むカンナ。

     「あった」レイクタウンと掲げられた看板のそばに巨大な駐車場であった。かなり大きな駐車場だが停まっている車はまだらである。

     「有名な観光地とか言ってた割には閑古鳥が鳴いてるみたいじゃん」ヤマトがその様子をみて言う。

     「別に今は観光のシーズンじゃねーし、こんなもんじゃねーの。ここは多分外部の人間専用の駐車場なんじゃねーの」カンチンが言う。

     しかしそれにしても、少なすぎる気がしないでもない。

     「空いてるなら結構な事じゃねーか」そういいカンナは車をレイクタウンの入り口のすぐ近く、もうほんと~にすぐ近くに停める。明らかに規定されている、ここの範囲で停めてねーという意味で引かれている白い線を逸脱した位置である。

     おれ達は停められた車から全員下りる。

     「わー・・・」ミコトが驚嘆の声を出す。

     レイクタウンはすり鉢状の半円が歪んだような地形の上に建造されている。

     つまりレイクタウンの入り口からは街の様子が全眺できるのだ。

     「綺麗な街・・・」

     レイクタウンは独特の建築で知られていた。カラフルな積み木で組み立てたような建物がところ狭しとひしめいている。極端に高い建築物も低い建築物も無いが、どれもまちまち高さの建物ばかりでそれが猥雑にならない程度のバランスで無秩序にならんでいる。カラフルな屋根や壁がそれらをまるでパーティの飾りつけのように彩っていた。

     「「おお~」」おれとカンチンも声をあげる。

     前述の通りここは有名な観光地であるので、街の全景も映像や写真で何度も見ているのだが生でみるのはこれが初めてだった。

     「お前等の街や、あの砂漠の街とも違うな・・・この国は街によってここまで趣が違うのかぁ」ウチは精々城下町とそれ以外って感じなんだが、とヤマトが言う。

     「それでそのデカデカンの湖とやらはどこにあるんだ? あの博士が言うにはそこに次の秘宝があるっつー話なんだろ」

     「どこにもなにも目の前に――ってあり?」

     デカデカン湖はレイクタウンのすぐ傍にある。というかデカデカンのスグ傍に建てられたのがレイクタウンなのだ。このすり鉢状の半円のすぐ向こうには大陸最大の湖が・・・

     「ない、あれないぞ?」

    ・・・ある。はずなのだが。

    「レイクタウンの向こうになんか白い・・・湯気みたいののがかかってるな」カンチンが向こう側を除き込むようにして言う。

    ない、というより見えない。

    「霧だな」カンナが短くいう。

    「キリ? キリってなに?」おれは聞く。

    「ふん、妙だな」だがカンナはナチュラルにおれを無視して言葉を放つ。

    「なにが妙なんだ? 湖・・・つーか水場なら珍しい事でもねーんじゃねぇの?」まぁこの街に大湖が加わればさぞかしいい景観だったろうからそれを見えないのはちょっと残念だが、とヤマトはいう。

    「はッ、お前のトコの田舎は知らんがここじゃ各地の機構はセキュリティによって厳しく管理されてる。あんな濃い霧がここで発生させる必要なんて無いはずだがな・・・」

    ちょっときな臭い匂いがするぜ、とカンナは言う。

    確かにデカデカンを生で見れないはヤマトの言う通り残念だが別におれ達は観光に来たわけではないので、気にせずレイクタウンの中に入る。

    何度も繰り返すがレイクタウンは大陸有数の観光地であり港町でもある。あるはずなのだが。

    「随分人気が無いんだな。聞いてる話と違うぜ?」レイクタウンの様子を見てヤマトは素直な感想を言う。

    確かにヤマトの言う通り人通りは少ない。少ないというよりも皆無だ。入り口を通って大通りに入ったのだが、いくつかの商店や食堂の中に人がいるだけで、通りを歩いているのはおれ達だけだった。というかその中の人達はどうやら店員っぽいし、ひょっとして今この街にいる外部の人間はおれ達だけなんじゃなかろうか。

    「妙だな~、いくら観光シーズンではないとはいえ、少しは観光客も来てるはずだし、他にも商業船や漁船の船員なんかもいるはずなんだが」カンチンが不思議そうにいう。

    「まぁ・・・なにやら奇妙な事になってるような気がしないでもないが・・・・・・俺達の目的はあくまで次の秘宝だからな。ミコト」ヤマトは訝しみながらも、気にしない事にしたようだった。

    「はい、指標石で確かめましょう兄さん」ミコトは懐から青の指標石を取り出す。またこれで探知するのだろう。

    ぎゅーと青に煌めく指標石を握り閉めるミコト。が、しかし

    「・・・・・何も起きてねーぞ」カンナがそれを見て言う。

    しかし再びまたしても指標石は反応しなかった。

    「おいおいマジかよ。まーた反応してねーじゃねーか」ヤマトが頭をぱりぱりと掻く。「この辺りにあるんじゃねーのかよ宝」

    「ジョーンズ博士が言う通りこの辺り秘宝があるのならさすがに反応が何かあるはずなのですが・・・」困りましたね・・・とミコトは困っている。

    「はぁ? なんだよここにあるんじゃねーのかよその秘宝ってのはよぅ、ふざけんじゃねーぞボケ、あたしは何のためにこんなとこまで運転してきたんだ」不機嫌そうにお前等あたしを担ごうってんじゃないだろうなぁ! と凄むカンナ。ガラが悪い。

    「お、落ち着いて下さいカンナさん、私達にも何が何だか・・」

    「しかし反応が無いのは事実だしなぁ。ここには無いんじゃないのかミコト。一度計画を練り直す・・・」

    なぁ、とヤマトの言葉をカンチンが遮る。

    「まぁ、とりあえずあそこで話でも聞いてみりゃいーんじゃね」そういって何かを指さすカンチン。

    その指差した先には『レイクタウン観光案内』と書かれた看板を掲げた小さな小屋があった。

    「! 観光案内所ですか・・・いいですね! いい考えですカンチンさん! 観光案内と銘打っているからにはこの街に詳しい方がなさっているはず。なにか秘宝の言い伝え等を知っている可能性が」楽観的な見方をするミコト。

    「いいですよね兄さん」

    「うーん。我が一族の秘宝の情報があんないかにも観光客向けの施設にあるとは・・・・・・いやでもさっきの例もあるか」ヤマトはブツブツしている。まぁさっきは情報どころかモールで見せものになってたもんなお前等の宝。

    まぁ行って行かないよりは行った方がいいだろう、という事でとりあえずその観光案内所に向かう事におれ達はする。

    「おじゃましまーす」先陣を切ったヤマトが小屋の引き戸を開いていう。おれ達も後にぞろぞろ付いて行く。

    「はわぁあああああああああああああああああああああ!」そんなおれ達に正面から何者かが衝突してきた。

    「ぐはっ、」その何者かの襲撃をまともにくらったヤマトは呻き声を上げる。

    「きゃっ、兄さん」ミコトが心配そうに蹲る兄を心配する。

    「いてててて、なんなんだぁ? 一体・・・」ヤマトは鬱屈そうに言葉を放つ。

    「むぅ! こ、これはす、すまんお客人!」勢いよくヤマトにぶつかって来た人物は謝意を示す。

     その人物は老人であった。禿げ上がった頭が脂ぎって照っている爺様である。

     「失敬、失敬!」恐縮しながら床に腰を付いたヤマトに手を貸す老人。あんな勢いでぶつかったのになんともなさそうな頑丈なじいさんだった。

     「なんなんだよ~じいさん。急にびっくりするだろうが」文句を言いながら立ち上がるヤマト。

     「いやぁすまんのう若い人よ。なにせここに訪れた人間は久しぶりだからのう、つい興奮してしまった」申しわけなそうそうにする老人。

     「久しぶり? ここは観光地にある観光案内じゃないのか?」観光客とか来てるんじゃねぇの、とカンナがいう。

     「確かにそうなんじゃが・・・ここ最近めっきり観光客が減っていてのう・・・お前さん方で実に一か月ぶりじゃよ。ここを訪れたのは」老人は矍鑠という。

     「そういえば外にも全然人がいなかったな」カンチンがいう。観光客どころか船員の類すらいない。

     「この街ってこんなに人いないもんなの?」おれは気になって聞く。

     「とんでもない! 普段のレイクタウンならそりゃあもう大変な賑わいの街じゃよ! じゃが今は・・・」老人は遠い目をする。

     「今は・・・? おじい様、この街で一体なにが・・・」余計なお節介心を出すミコト。

     「・・・全てはアレのせいなのですじゃ」それ見たことか老人は唐突な同情語りを始める。

     あのー、おれ達ここに何しにきたんだっけ。

     「これを見て欲しいですのじゃ」そう言い、老人は小屋の壁の方へと向かう。そこにはカーテンがかかっているスペースがある。窓があるのだろう。

     「これじゃ」そういって老人はカーテンを開く。当然だがそこには窓があった。オードソックスな四角い窓だ。

     窓の向こうにはいくつかの家の屋根と砂場と白い靄のようなものが遠近法的に並んでいる。

     これがどうしたの言うのだろうか。

     「本来この窓からはデカデカン湖がはっきり見えるはずなのじゃ。その美しく雄大な姿をな・・・・・・」

     「なにも見えねーじゃん」おれは言う。湖の部分には白い湯気のようなものが濃く漂っている。

     「この霧のせいなんじゃ! 全ては」老人は窓の向こうを指さす。あの白い湯気に様なものでデカデカン湖は隠されてしまったのだろうか。本来ならあの土の辺りなどは海岸・・・いや湖岸であるのだろうか。そしてその先に大湖の光景が見えたのだろうか。

     「今から二か月程前からかの・・・・・・デカデカンの湖に霧が出始めたのじゃ」老人は肩を落とす。

     「こんな事は今まで一度もなかった。突然濃い霧が漂い始めたのじゃ! 今まで薄いものですら出たことはなかったのに・・・湖に近づくと分かるが本当に前が見えない程の濃ーい霧なんじゃ。危なくて船が出せん。観光用のも漁船も商業船も、この街はデカデカン湖の恩恵を受けてここまで発展してきたのにこのままじゃレイクタウンはお仕舞いじゃ・・・」老人はさらに肩を落とす。

     「それは・・・一体原因はなんなんですか?」思いやりを見せるミコト。

     「不明じゃ」

     「セキュリティはなんて?」カンナが不審そうに質問する。

     「それが・・・霧が出始めてすぐセキュリティの放った探査ロボットが霧の中に向かったのじゃが・・・連絡がつかん」

     老人の言葉にカンナはへぇと反応する。

     「その一件以来セキュリティの方からの応答はない」

     「ハッ、あいつらはちょっとヤバいと思ったらすぐに慎重になるからな」へたれ揃いだ、とカンナは言う。

     「ワシ等もしびれを切らして有志による調査船を送ったのじゃが・・・」

     「結果は芳しくなかった・・・と言う事ですか」

     「ふむ、あの霧の中に入っていった後スグに連絡が取れなくなったんじゃ・・・」これ以上ないくらいに肩を落とす老人。

     「まぁ、いろいろ大変みたいだが・・・、悪いけど俺等には関係無いなぁ」ヤマトが億劫そうに述べる。

     「それよりもじいさん。一つ聞きたい事があんだけど」

     「まぁ確かにあんたらには関係の話じゃったな・・・すまんすまん。で、なにかなお客人。今言った様に名物のデカデカン湖は未練が・・・他にも隠れ家的な食堂やお得な宿泊施設なんかがあるから、まぁそこそこは楽しめるじゃろ」そこそこなのかよ。

     「いやそもそも俺達は観光目的じゃなくてだな・・・」ヤマトはヒノ国の財宝についての事を話す。

     「ほう! あんたらは外国から来たのか! いやー珍しいのう、ワシも長く生きとるが外国からの客人を相手するのは初めてじゃわい」

     「そこの二人だけだけどな」おれはヤマトとミコトを指さす。

     「それはいいけどさじいさん。なにか知らないか? 秘宝について」

     「直接は知らなくても、なにか伝説のようなものはご存知ないですか? 関係のありそうな・・・」ミコトは懇願するように聞く。

     「うーん・・・」老人は考え込む仕草をする。

     「すまんがその手の話はワシも聞いたことがないのう・・・力になれんで済まんが・・・・・・いや」

     「なにか心当たりがあるのか!?」跳び上がるように老人の言葉尻を捕らえるヤマト。

     「いやぁ~、今聞いたお前さんの国の財宝の件と関係あるのか無いのか知らんが・・・一つ今思い出した話がある」老人は滔々と語り出す。

     「昔々からこの地に伝わる言い伝えでな。ワシはワシの祖父から聞いて、祖父はそのまた祖父から聞いたらしい・・・ここのデカデカン湖は広さもさる事ながら深さも凄いらしくてな」

     広くて深い訳か。海顔負けだな。

     「その深さもいうのもまるで底なしらしい。そしてその深―い最深部にたどり着くと、この世界の果てに辿りつく事ができる、というのがその言い伝えじゃ」

     この世界の、果て。

     「なんだそりゃ」カンチンが素直な意見をいう。

     「まぁ興味深そうな話ではある・・・が、別に俺達には関係ないよな」ヤマトが残念そうに言う。

     「いえ、兄さん。今のはかなりいい話だったと思います」だがミコトの考えは違うようだった。

     「そうかぁ?」どこにでもあるくだらない言い伝えだったように思えるが。

     「ジョーンズ博士はここのデカデカンの湖に次の財宝があるとおしゃっていました」

     「そういやそうだったっけか」

     「ええ、そして今おじい様から聞いたお話、湖の底の世界の果て・・・世界・・・・・・財宝の話に連なるものがあると思いませんか?」ミコトは全員の顔を見渡しながら自説をいう。

     「世界を操るというお前等の財宝と世界の果てがあるというデカデカンの底、か・・・いやそんな関係あるか?」怪訝そうにいうカンナ。

     「それに二か月ほど前から霧が発生したという話ですが、兄さん」

    ミコトは確信を持って兄の方を見る。

     「二か月前といえば、ちょうど私達がヒノ国を出発した時期と一緒ではないですか?」

     そうか偶然だな。

     「ちょうど私達が国を出た時に発生し始めた霧・・・そして博士の言葉・・・・・・ここからある一つの仮説が導き出されます」

     「俺達を呼び寄せている・・・?」ヤマトがカンナに対応する。

     「ええ、ヒノ国の王族である。私達に宝が応えているのではないでしょうか。そういう仮説が立てられませんか」

     「つまり、湖の底にあるって事か? お前等の国の宝が?」

     「ええ、湖の深―いそこにあったら指標石が無反応だったのも説明が付くかも知れません」ミコトは力強く言い切る。

     「うーん、まぁリクツは分からんでもないが・・・」頭を掻き始めるヤマト。

     「でも確かめる価値があるはあると思いませんか? あの湖を」ミコトは窓の向こうを指さして言う。

     「・・・まぁここでじっとしてても仕方ないが」ヤマトはしぶしぶ同意する。

     「な! おぬし等、あの霧の中に行くつもりか!」

     「まぁそういう事になりそうだな」ヤマトが言う。

     「次はデカデカンかー、いいね。一回行ってみたかったんだ」

     「霧の中っつーのがアレだけどな」おれとカンチンは軽く同意する。

     「あたしはまだ同意してないんだけどー?」カンナが興味なさ気に言う。

     「別にお前に同意を求めちゃいねーよ。嫌ならここに残れや」ヤマトが睨む。

     「ハッ、霧に紛れて、このあたしから逃げるつもりか? そうはいかねーな。いくぜ一緒に」

     「別にそんな事考えてねーんだけど」とにかくカンナもくるようだった。

     「しかしどうするんだ? 場所は湖らしいが・・・」カンチンは窓の向こうを見る。

     「まぁとりあえず、普通に行くしかねぇだろ。なぁじいさん。小舟かなんかはあるかい?」ヤマトが老人に聞く。

     「まぁ湖岸の方にいけば貸しボート屋はあるが・・・本当に行くのか? 人間もロボットもあの霧に入って帰って来たものはおらんのじゃぞ?!」

     「その霧の謎も同時に解けるかもしれませんし・・・」老人の心配をミコトはやんわり躱す。

     「うーむ・・・そうか・・・・・・まぁおぬし等がいいのならそれでいいが・・・」老人は渋る。

     「まぁ・・・気を付けて行って下されよお客人。ボート貸家は湖岸のほとりにある。オヤジダという男がやっておる店じゃ」

     おれ達はその店へ向かう事にする。

     「ここか・・・」ヤマトが呟く。

     観光案内の小屋を出たおれ達はレイクタウンの街を通りそしてデカデカンの湖岸へとでた。あの老人の言っていたように湖岸に入ってすぐに一軒の小屋が見えた。

     「ボート貸家という看板も見えますし、間違いないようですね」そう言ってミコトは小屋に向かう。

     「すいまーん、お借りしたいものがあるのですがー」ミコトはそう言って小屋の扉を開ける。

     「すいませーん・・・」ミコトは扉を開けたまま同じ言葉を繰り返した。

     「なにしてんだよ」おれとカンチンはミコトの後ろから小屋の中を見る。

     「おーい、ってあれ」おれは小屋の中に向かってこえを出したがすぐにやめた。

     「真っ暗じゃねーか」カンチンがいう。

     その通り小屋の中は真っ暗で、人の気配はしない・・・

     「・・・・・・はーい」と思ったら中から誰かが返事をした。

     「いま行きますよ・・・・・・」そう言って闇の中から生気のない声がする。

     「・・・・・なんの御用ですかな」生気のない声をした生気を感じない男が出てきた。陰気な背の高い妙齢の男だ。

     「なんの御用ってのもないだろうよ。ここは貸ボート屋だろ? あんたがオヤジダだな。ボート一台かして欲しいんだ。金はいくらだ?」おれ達の後ろからヤマトがいう。

     「ふん・・・ボートだと? あんたらもしかしてデカデカン湖へ向かうつもりか? あの霧の中を?」

     「そうだけど。それがどうした?」

     「ふはーはっはは! 驚きだな! それは、あの霧の話を聞いてないのか! それとも自殺志願のアホゥなのかな」オヤジダという男は嘲笑のような高笑いをする。陰気な顔のまま笑うので、かなり不気味だ。

     「なんだぁ! 客に向かってその口の聞き方は!」ヤマトは憤慨する。

     「あの霧の中が危険だという事はもう散々お聞きしました。それでも我々はあそこに行きたいんです。お願いしますどうかボートをお貸し願いませんでしょうか」ミコトが深々と礼をする。

     「ははははは・・・そんな丁寧な頼み方をしなくてもボートなんていくらでも貸してあげるさ。ああ、お代も結構だ。どうせ帰ってこれないんだ。ボートはやるよ葬式代代りだ! おいポンチョ!」

     男に呼ばれてまた別の男が出てくる。太った背の低い男で、オヤジダとは対照的な男である。

     「はい、御主人様」ポンチョと呼ばれた男は返事をする。

     「こちらのお客をボート置き場まで案内してやれ」そうぞんざいに言い捨ててオヤジダは店の中、闇の中に消えていく。

     「ではお客様こちらへ」引っ込んだ主人代わりにポンチョという男が前へ出てくる。

     「しかしなんなんださっきの男は!」ヤマトが怒る。

     おれ達はポンチョという男に案内されてボート貸し小屋の外を歩いている。

     「ご機嫌でもすぐれなかったのでしょうか・・・」

     「部屋も真っ暗だったな。明かりを消して窓も締めきってんのかね」気味わりぃな、とカンチンが言う。

     「お客様には面目しだいもございません」と、おれ達を案内するポンチョは言う。

     「いやぁ別にあんたを責めようってんじゃないんだけどさ」ヤマトは言いにくそうに言う。

     「・・・・・・お客様には奇異に映ったでしょうが、主人はいつもは決してあのような人物ではありません・・・陰気なのはいつもの事なのですが、普段はあのような失礼な態度は決して取らない方なのです」

     陰気なのはいつもの事なんかい

     「では、いったい何が・・・?」ミコトは聞く。

     「それは・・・・・・全てあの霧のせいなんです」伏し目がちにポンチョは語る。

     「あの霧が?」

     「ええ・・・あの霧が出始めてからというものデカデカン湖への客足がめっきり途絶えたのは皆さんご存知でしょう。それは当然ここで貸ボート屋を営む主人の経営にも悪影響を及ぼしました。なにせ全く湖に入れなくなったのだから当然です」

     まぁ湖に入らないのにボート借りる奴もおらんわな。

     「当店は全く収入の無い状態になりました。主人は店を畳むことも真剣に考えだしました・・・代々受け継がれてきた長い歴史のある貸ボート屋なのに・・・うう」たかだか貸ボート屋に歴史とは滑稽な。

     「しかもそれだけではありません。主人には御一人娘様がいらっしゃるのですが・・・そのお嬢様・・・ムスメスお嬢様が」そこでポンチョはむせび泣くような形になる。

     「そのお嬢様が、霧の原因を調査するといいだして、そのまま霧の張るデカデカンへと向かい・・・・・・・音信不通になってしまったのです」その太った体を小刻みに震わせ、悲しそうな声を出すポンチョ。

     「! それは・・・行方不明になったって事か」ヤマトはいう。

     「そういえばさっきあのじいさんも言ってたな。しびれを切らして調査隊を送ったって。その娘もその一人って事か」合点が言ったようにカンチンは言う。 

    「はい・・・こんな急に出てきた霧なんかのために長年続いたこの店を閉じることはない・・・とお嬢様は調査隊に加わりました。私と主人は必至に止めたのですが・・・うう!」悲しそうに体をよじるポンチョ。小さいデブが小刻みに動くのは見てておもしろい。

    「しかし・・・調査隊からは一か月近く応答がありません。霧の中に入って以来一切の消息がつかめなくなったのです・・・それ以来主人はすっかり気落ちしてしまいまして。あのような様子に・・・」

    「そ、そんな事が・・・」今の話によっぽど感銘を受けたのか、ミコトは目にうっすら涙を浮かべている。

    「まぁ一か月連絡取れないなら死んでるわなそれ」カンナがどストレートな物言いをする。

    「もう、何てこと言うんですかカンナさん! 大丈夫ですよポンチョさん。私達はあの霧の中を調べに来たんです。娘さんの事もきっと見つけ出して見せますわ」

    やたら安請け合いするミコト。おれ達は宝を探すんだから目的が微妙に違うような・・・

    「うう、ありごとうございます! お嬢様は拳法とサバイバルの達人です。きっと無事であると信じておるのですが・・・」ポンチョはいう。ふーん凄いムスメなんだね。

    「ここです」ポンチョはボート置き場におれ達を案内する。さっきの小屋は湖岸にあったが。このボート置き場はさらに湖のすぐ近くにあり、もうほんとにスグそばだった。

    屋根と立て板だけの粗末な小屋に手漕ぎのボートが並んでいる。ずらりと。

    「へー、やっぱこういうアナログなもんは万国共通な形をしてrんだな」そう言ってヤマトはならべられたボートを見る。

    「ヤマトが漕ぐのか?」おれは聞く。

    「ええ、もちろん! 兄さんはこういう小舟なら本当に上手に漕ぐんですよ」ミコトはいう。

    「ふん、精々がんばって漕いでくれよお兄さん」カンナがやれやれといったていで言う。

    「・・・なんかお前に言われると釈然としねぇなぁ・・・ま、いいや・・よし、これだ」そう言ってヤマトは小屋のボートの中から一つを選ぶ。数人は乗れそうなそこそこ大きな手漕ぎのボートだ。

    「かしこまりました。では参りましょう」そう言ってポンチョはそのボートを持ち上げる。ボートの底にはオールも括り付けられていた。「このまま桟橋までお運びいたします」

    桟橋はボート置き場の隣だった。

    「ではお乗り下さい」オールを取り外したボートをロープで桟橋へと結び湖に浮かべ終わったサンチョが言う。

    「よし、サンキューな」サンチョからオールを受け取ったヤマトを先頭に、ミコトおれカンチンカンナの順で次々と乗り込んでいく。

    「ではポンチョさんありがとうございました」ミコトは礼を言う。

    「いえいえこちらこそでは皆さんご健闘をお祈りします。

    「じゃいくぜ・・・よいしょ・・・と」ヤマトがオールを漕ぎはじめる。ボートはゆっくりと進め始めた。どんぶらこー、こんぶらこー。

    おれ達は桟橋のポンチョに見送られながら、いよいよ霧の中、デカデカンの湖に突入する。

    「うーん本当に濃い霧だな・・・」カンチンが溜息を吐くように言う。

    たしかに濃い。遠くから見ていた時は湯気のようだったが、こうして近づいてみるとまるで入道雲の中にでもいるような気分になる。本当にちょっと先までしか前が見えない。

    「こりゃ、漁船だの商業船だのが渡れなくなるのも無理はないな」オールを漕いでいるヤマトが言う。

    「だが、消息を絶った連中がいるってのが解せねぇな。この街の調査船にしても、セキュリティのロボットにしてもよ」カンナが不穏に言い放つ。

    「なにか障害物にでも出くわしたか・・・あるいは、何か妙なのにでも出くわしたか・・・」

    「妙なのってなんだよ」おれは言う。

    「はッ、別にあり得ない話でもないだろ? お嬢ちゃんの言う通りならこの湖に財宝があるわけだ・・・だったらいてもおかしくないだろ? あの遺跡にいたのと似たようなガーディアンが」ニヤリと意地の悪い笑顔を浮かべる。

    「あの遺跡って、金の刃の遺跡の事かよ」あのモールにあった遺跡のことかよ。

    「ああ。あの遺跡からでたモンスターも宝を守るためのガーディアンだった。なら別の秘宝のあるかもしれんこの湖にはなにか出るかもしれん・・・」カンナは冗談ともつかない口調で辺りを見渡す。

    「おいおい、変な事いうなよ~、唯でさえこの霧で変な調子なんだ。冗談にきこえないぜ」カンチンがおびえる。

    「まぁ怪物でもなんでもいいけどよ。とにかくここまで来たんだ。何か反応が欲しい事だぜ」ヤマトが言う。

    「よし、もう結構漕いだぞ。どうだ!おれのボート技術はっ、なかなかの速さだっただろう? その上船上はほとんど揺れてねェ」ヤマトが自慢げに言う。だが、

    「半分? そんな訳ないだろ」おれは否定する。

    「全くだ。勘違いも甚だしい」カンチンも否定する。

    「なんだぁ! てめぇら俺のテクにケチ付ける気かよ!」ヤマトは不機嫌を示す。

    「に、兄さん残念ですがお二人の言う通りです」ミコトが残念そうに声を挙げる。「さっき地図で確認したのですがこのデカデカンの湖はだいたいヒノ国の面積と同程度です・・・まだ全体の爪先程度にしか進めてないかと・・・」

    「な! なんだと! 国一個分とか!?」ヤマトは驚愕している。

    「そうです・・・国一個分とです。ヒノ国全部がこの湖にすっぽりと入ります」

    「ふが・・・!」絶句するヤマト。

    「へぇ、デカデカンと同程度の大きさとはな。結構でかいじゃんお前らの国」カンナは感心する。

    「ああ全くだ。しょぼい小島みたいなもんだと思ってたのに結構デカいんだな」カンチンもそれに同意する。

    「ぐ・・・なんか激しく微妙な褒め方をされている・・・嬉しくねー!」ヤマトはオールで湖面をばしゃばしゃと悔しそうに叩く。

    「ま、まぁ兄さん。とりあえずここで一回確認してみますよ。ここまで進んだんですしっ」ミコトは慰めるようにそう言って懐から青の指標石を取り出す。

    「お、おう! そうだなっ、ミコト霧のなかに入ればなにか反応があるかもしれん」ミコトははい、そうですね、と言って指標石をぎゅーと握る。

    結果は・・・・・・。

    「うーん・・・」ミコトは芳しくなさそうな声を出す。

    実際ミコトの手に握られた指標石は相変わらず弱い光を放っているだけだった。

    「おいおいおーい! 結局無駄足かよ!」おれはプンプンする。こんな霧の中まで来て!

    「! いえ! さっきとは少し違います!」ミコトが叫ぶ。

    「え? そうかぁ?」カンチンが訝しむ。おれの目からも別に変わった所は見えんが・・・。

    「ここを見て下さいこの、指標石の下の方を」ミコトは指標石を握っていた手を離す。

    「この下の方を!」そして指標石の下部を指さした。

    「この下の部分だけ僅かに光が強いと思いませんか? ほんとうに僅かですが」

    「うーんそうかぁ?」覗き込むようにして石の下部を除くヤマトは疑問の声を上げる。

    「よく見て下さい・・・ほら!」石を皆でじっくりみつめる。

    「・・・・・・まぁ、確かに下の方が強いかもな。・・・ほんとに僅かだがな」カンナがじーと石を見つめ慎重に言う。

    「確かに・・・そう言えない事も無いかも」おれも同意する。

    「でもだからなんなんだよ? 相変わらず反応じたいは小さいままじゃねーか」カンチンは至極真っ当な反応をする。

    「この光が示す先には必ず秘宝はあります。つまり下の方に光が強まっているということは・・・」

    「この下・・・やはり湖の底に宝があるって事かあの小屋で話した通り」カンナは言う。

    「しかし湖の底か・・・・・・結構深そうだよなぁこの湖・・・素潜りなら何回かしたことあるが・・・」ヤマトはボートから湖を透き通すように見つめる。

    「なんの装備もなにままだと無理そうですね・・・あのおじい様の話だとかなりの深さだそうですし」

    世界の果てに繋がる程の深さだとかあの観光案内のじいさまは。

    「うーんなにか装備を整えるために一旦街に戻るか?」思案するヤマト。

    「はッ、まどろこっしいなぁおい、行ったり来たりよぅ」カンナが不満げな声をだす。

    「あー? しゃーねぇだろ。それともお前が潜ってくれるのか?」

    「はッ、冗談じゃねぇ・・・だが、一ついいものを貸してやるよ」そういってカンナは上着のポンチョからなにかを取り出す。

    「なんだそれ」変なモンをカンナは取り出していた。

    球場の掌から僅かに漏れるくらいの大きさの球体で、表面は黒い鉄の色が見える。

    「探知機だ」カンナは短くそう言う。

    「探知機ィ?」

    「ああそうだ。小型自動探知機その名も『ゼンチ君』、さ」カンナはそう言って手に握ったその黒い球体をボートの床に置いた。球体の割には転がったりしないし妙な物体だ。

    「こいつは命令された場所を徹底的に探ってくれる機械だ。自動でな。センサーを働かせ動くまくって探査する。バカ広いデカデカン湖もこいつを使えばあっという間に隅から隅まで探査してくれるぜ。お宝がありそうな場所もこいつで見つけられる」

    それは凄い。

    「随分凄い機械なんだな。まるでセキュリティの使うレベルの物だぜそれは」カンチンが感心したように言う。

    「まぁそのものずばり、セキュリティ産の機械だからなこれは」

    「へ?」

    「短い間だったが昔連中に雇われてた事があってな。これはその時こっそり拝借したもんだ」

    「へぇ」そんな過去が。あんた色んな事してんだね。

    「こいつを使ってやるよ。もちろん使用料は後できっちり徴収するからな」カンナは抜かりなく言う。

    「なーにが使用料だ。要するに盗品じゃねーかそれ」あきれてヤマトは言う。

    「まぁいいじゃないですか、兄さん。この際細かい事は。カンナさん、お願いしますね」案外あっさりとミコトは承認する。

    「へ、りょうかーい、と」カンナは球体を再び手に取る。

    「行け! ゼンチ君! デカデカンの湖を隅から隅まで調査してこい!」カンナがそう言うと、その黒色の球体は鈍い音を立てながら、回転し、カンナの手を飛び出して湖に飛びこんで行った。

    「さて、あとは待つだけだ。しばらくしたら調査を終えたゼンチ君が帰って来る。何か怪しい物があったら全て報告してくれるはずだ」

    そしてしばらくが過ぎる。

    「なかなか帰って来ませんね・・・『ゼンチ君』」ミコトが時間を持て余してそう言う。

    「この湖ウチの国と同じくらいの大きさなんだろ? しかも深さもあるし、中々調査なんて終わらんだろ」ヤマトはいう。

    「ふん、本当に底が無いのでもなけれりゃ、もうとっくに探索を終えてるはずだがな」カンナが冷静に疑い出す。

    「本当に底が無かったりして」無かったらどうなるんだろう、水が抜け続けるのだろうか。

    「なにをアホな事を言って・・・」カンナがそう言ったのとそれが出現したのはほぼ同時だった。

    ざっぱーん、大きな波しぶきと共になにかが湖面から出現した。おれ達のボートがある近くである。

    「な・・・なんだありゃ!」ヤマトが素っ頓狂な声を驚いて出した。

    それはとても奇妙な物体だった。

    巨大な貝である。

    いや貝のごとき物、というのが正しいのか?

    だってこんな大きい、おれ達の乗るボートよりも遥かに大きい、あの小屋よりも大きい、っていうかおれの家よりでかいよ! とにかくめちゃくちゃデカい貝だった。

    「な・・・なんだこれ・・・」呆れて声もでないといった感じでカンチンが言う。

    「な、なんだ? デカい湖にはデカい貝もいるのか?」ヤマトが口をあんぐりとする。

    「そんな訳あるか、こんな貝いるかよ!」カンナが食い気味に否定する。

    たしかに形は貝のようだが、表面なんかは金属を思わせる艶感で、生き物という感じではない気がする。

    『グイーン、グイーン』

    「「「「!」」」」おれ達は全員ビックリする。

    その貝の様なものは今度は奇怪な音を出し始めた。

    『確認確認、ヒノ国の一族をカックニーん、これより回収を行います』

    ごごごごごごごご

    轟音を立てて貝の口が開かれていく。

    そして―

    「うわ、」

    「きゃー!」

    「くそ!」

     おれ達は乗っているボートごとその口の中へ飲み込まれてしまう。

    つづく


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  • ボーイ・ミーツ・ワンダーランド その4

    2014-03-17 05:43

     再び再編集これで大体半分くらい?


    ___________________________________________

     ガヤガヤと多く人々が談笑している。

    「随分と多くの人がいらしてるんですねー。驚きです」

     ミコトが感心して言う。

    「ああ、さっきの村にも結構人がいたが・・ここにいる人数は別格だな

    まるででかい祭りでもやってるみてーだ」

     ヤマトもそれに追従する。

     「そうかぁ? 大体いつもこんなもんだと思うけどね、もぐもぐ」

     おれはスパゲッティを口に頬張りながらそう応える。

     おれ達はショッピングモール内のフードコートにいた。

     いろんな時代の色々な種類の食事を提供している場所だ。

     おれ達の他にも大勢の客がいて、
     白い床の広々としたスペースに配置されたいくつもの席に腰を掛け、
     なにか食べたりくつろいだりしている。

     おれ達も他の客と同じように席に座っている。

     「こことは別のところで乗った連中だろうけどね。

      結局サンドロードからこのモールに入ったのはおれ達だけっぽいし、もぐもぐ」

    そう言っておれはもぐもぐごっくんとスパゲッティを飲み込みハンバーグセットを全て平らげる。

     「ふーん・・・そんなもんかい。ま、それはどうでもいいとして、だ」

     とそこでヤマトは一言区切り、自分の席から身を乗り出し、一段口調を低くする。

     「やっぱ確かなのかミコトさっきのは」

     「はい、兄さん。間違いないかと。もう一度やってみましょうか?」

     そう言ってミコトはさっき懐から出してテーブルの上に置いた指標石を手に取った。

     そしてそれをギューと握りしめ、そして手から放つ。

     《ぴかーん》と金の指標石は強い光を放つ。

     今までで一番強い光だ。おれの家でやった時よりも、村の店でやった時よりも

     もはや《ぴかーん》というより《ぴかかかーん》といった感じである。

     それに激しい動きも付いている。今まではどこかの方角を指し示すだけであったが

     今、指標石はぐるぐるぐるとすごい勢いで、
     まるで壊れたコンパスのようにテーブルの上を回っていた。
     
    ぶっちゃっけかなりうるさいと思うのだが、フードコート内にいる沢山の客の出す雑音や、スピーカーから館内に流れる無節操なBGMなどのおかげでそこまで目立ってはいない。

    「今までで一番強い反応です。間違いなく、私達のすぐ近くに金の刃があります」

    ミコトは言う。

    「間違いない、か・・・・・・ならさっきのあの話も本当ってことになるな、さて、どうするかね・・・」ヤマトは思案するように呟く。

     ヤマトの言う『さっきの話』というのはさっきの話の事だろう。

     先程おれ達はこのショッピングモール内の入ったのだが、おれ達は中に入ってまず初めに

     モールの玄関すぐ傍にあるインフォメーションフロアに寄ったのだ。

     半円形のデスクの中に立つお客案内用アンドロイドにおれ達を代表してミコトは質問した。

     「あの~よろしいでしょうか?」ミコトは改まって言う。

     『いらっしゃませ。ようこそおいでくださいました』アンドロイドが応える。

     さすがにお客様対応用だけあってセキュリティの無機質な音声とは違い、

    よく調整された良い声色だ。

     「あ、これは御叮嚀にどうも、わたくしミコト、と申すものですが」

    予想以上にアンドロイドが丁寧に対応しかと思ったのか、かしこまるミコト。

    『お名前は結構ですよ。御用件はなんでございますか?』

    「あ、はい・・・あの、玄関においてあった看板についてお聞きしたいのですが・・

     あの、お宝発見とは・・・」

    『本日から始まった

     祝! お宝発見記念特別セール! 金の刃見つかりました!キャンペーンでございますね』

     アンドロイドは丁寧に答える。

     「あ、はい、その事についてなんですけど・・・」

     『祝! お宝発見記念特別セール! 金の刃見つかりました!キャンペーンは依然より我々グループが出資しておりました探検家チームが見事、このサンドロード西の遺跡から秘宝
    黄金色に輝く金の刃を発見した事を記念して開催される一大キャンペーンでございます』

    そこでヤマトの「なにぃ?!」という声が上がるが

    アンドロイドはそれは無視して説明を続ける。

    『まず当ショッピングモールにおける当該商品の30%~50%オフのセールさらに二階多目的ホールにて遺跡の全容を発見した秘宝と共に公開しています。こちらは入場無料となっておりますので是非お立ち寄り下さいませ』

     「全容・・・?」

     意味がよく分からないという表情でミコトが言う。

    『はい。当グループが出資をいたしました調査隊がこの付近にあったサンドロードの西の遺跡を完全解明し、秘宝『金の刃』を発見しました。そして西の遺跡自体と共に公開しています』アンドロイドは丁寧にそう言う。

    「は? 遺跡自体? 遺跡そのものがここにあるのか?!」

     ヤマトが驚いて聞く。

     『はい。二階多目的ホールにて西の遺跡を公開しています。危険が無いように多少の修復は行いましたが、ほぼ発見時のままの様子で館内に保存されています。金の刃を含むいくつかの秘宝も発見時のまま展示してあります。ちょっとしたアスレチック感覚で楽しめる博物施設となっておりますのでぜひお立ち寄り下さい』ニッコリとアンドロイドは微笑む。

     「遺跡をそのまま展示しているという訳ですか・・・豪勢なお話ですね」口に手を当ててミコトが言う。

     『遺跡と言っても平均的な一軒家程度の広さのものですので。当ショッピングモール内に十分収容可能な大きさでございます』

     「ふーん、遺跡というより祠みたいな感じなのかね・・・どっちにしろ大業な話だが・・・」とヤマトは頭を掻きながらさて困ったな・・という風に言う。

     おれとカンチンは長い話は特に聞いてはいなかった。


     「ってな事がさっきあったけど、ちょっとまずい事になったよなぁ、これは」ヤマトはまるで説明するように何かを言う。

     「そうですね・・・・・・どうしますか? 兄さん」ミコトもいかにも困ったといった風だ。

     「なにをそんなに困ってるんだよ?」おれはハンバーグセットの皿を舐めながら二人に言う。

     「何がってお前な、困るだろーが俺達の目当ての宝がここに展示されてんだぞ」

     「探す手間が省けてよかったじゃん」

     「ワザワザ遠い異国まで来て、宝だけ見て帰ろってか? アホかっての なんとか宝を入手する方法考えねーとな」首を捻るヤマト。

     「ここの責任者の方にお金で譲って頂くことはできないでしょうか?」ミコトが提案する。

     「どうだろなぁ、あちらさんも結構金掛けて見つけたみたいだし、今ある分だけの金で譲ってくれるかね・・・そもそもどのくらいの値が付くのかも見当つかんし・・・その辺も含めて見当するために一度その遺跡の展示会とやらに行きたいところだが・・・」

     そこでヤマトはちらりとおれの後ろ、フードコートに一度目を向ける

     「あいつはまだみたいだな。全員揃ってから出発したいんだが」

     ヤマトが言っているのはカンチンの事だろう。

     もう忘れているかもしれないが、奴は足を怪我してまともに歩けなくなっていた。

     いくらなんでもこの先ずっとあいつを背負っていくのは嫌なので、足を治すためにこのモール内のメディカルセンターに運んだのだった。治療が終わればこのフードコートに来るように言い含めてある。

    「それにしてもお店の中に病院があるなんて驚きです」ミコトが言う。

     「まったくだ。飯食うところもあるし、これで宿泊施設まであったらここで生活できるな」ヤマトが同調する。

     「? 病院じゃなくてメディカルセンターだぞ。医者がいて、怪我と病気を治してくれるところだ」
    まだモールの事を分からないであろう二人におれは親切にも説明する。
    そもそも病院ってなんだ

     「だからそれが病院だろうが・・・カンチンはまだ来そうにねーなぁ・・・・・・先に宝の方見に行くか?」ヤマトは気怠そうに言う。

     「そんな兄さん。カンチンさんが戻って来た時だれもいなかったら可哀想ですよ」

     「そう言われてもさぁ、時間は有効に使いたいじゃん? っていうかミコトは気になんねーの? はるばる異国まで求めた宝が直ぐ目の前にあるんだぜ? まぁ、俺達が見つけた訳じゃ無いのが難点だが」

     「それは私も気になりますけど・・・」ミコトが困ったような声を出す。

     「だろ?」

     「だったらここに一人残して展示会に行けばいーじゃん、というかおれも早く宝見に行きたいし、そうしようぜ。ミコト、お前そんなに心配なら残ってってよ」
     おれはそう言い、席から立ち上がりフードコートを抜け出すためにたったったと軽快に早歩きする。

     「ああっ、ちょっと待ってくだ・・・」ミコトが短く叫ぶ。

     「おれは止まらね~」だがそれを無視しておれはずんずん進む。

     「まぁしゃーねぇってミコト。男の好奇心は誰にも止められねぇのさ」
     ヤマトもおれに続き立ち上がる。

     「好奇心というかただ待つのが面倒臭くなっただけでは・・・?」

     ミコトの問いに、しかしヤマトは答えず「悪いな」とだけ言って片手をぶらぶら振りながらフードコートを出るために歩き出した。

     ミコトは「もう」と短く言う。



    おれとヤマトは先ほどアンドロイドに教えてもらった、宝の展示会とやらが催されているというショッピングモール二階の多目的ホールへと向かった。

     フードコートを出て、いくつかの専門店が並ぶルートを通り、途中エスカレーターに乗り、二階に出た直ぐのところだ。

     「ここか」

     『金の刃・遺跡展示会』と書かれた看板が掲げられている入口を見てヤマトが言う。

     入口はガラスで出来たそれなりの広さのものだった。

     それなりの広さの入口の前には結構な人の行列が出来ている。

     「結構混んでんなぁ・・・俺達の他にも宝目当ての奴がこんなにいるとはな」

     「うげぇ、おれ行列に並ぶのだけは嫌なんだよぅ、行列に並ぶのだけはさぁ」自分が並ぶものと思い行列を見ると途端に異様な長さに見えてくる。

     「ごちゃこちゃ言わずに並ぶぞ、こういう時並ぶのは万国共通だろ? 俺だって嫌だぜ、なにが悲しくて自分家の宝を並んで見なきゃならんのだか・・・」

     ブツブツと文句を言うヤマトに促されおれは列に並ぶ。

     うー、こんな事ならこなきゃよかった・・・

     「いらっしゃいませー、本日は当展示会にようこそおいでくださいました」

     列の最後尾にならんだおれとヤマトにモールの店員がそう言って近づいてきた。インフォメーションセンターにいたアンドロイドとは違い、こちらは人間の店員のようだ。

     「お待ちいただく間よろしければこちらを読んで下さい」近づいて来た店員はさらにそう言って、小さい長方形のなにか冊子のような物を渡してきた。

     「こちらの遺跡に関するパンフレットでございます」ヤマトは店んからその冊子を手渡される。

     「息子さんもどーぞ」今度はおれにその冊子を手渡す。

    「俺はこんな年のガキがいるくらいの年齢に見えるのか? ・・・・・・それにしてもパンフレットまであるとはねぇ」ヤマトは手渡されたパンフレットをパラパラとめくる。

     「ではこちらでしばらくお待ちください」

     「あ、ちょっと」立ち去ろうとする店員をヤマトは呼び止める。

     「はい?」

     「あのさ店員さん、ちょっと聞きたいことあんだけど」

     店員は丁寧に振り向く。

     「ここに展示してある宝・・・金の刃なんだけどさぁ」

     「はい! 金の刃は当展示会の目玉となって・・・」

     「あれさぁ、いくらくらいなら譲ってくれるかな?」

     「は?」一瞬『何言ってんだコイツ』とでもいいたげな表情を店員はする。

     アンドロイドならどんな事を言われても表情一つ変える事はないだろうが、こっちは人間である。

     「それは・・・その~お、お買い上げを希望で・・・?」しどろもどろになりながら店員は聞く。

     「うん、いくらくらい?」ヤマトは気にしてないようだ。

     「いや~、あの、今回は遺跡内の宝を全て展示限りとなっておりまして・・・・・・」

     「え、マジ? ならいつ頃からなら買えるの?」

     「いえ・・・あの~今回の展示が終了次第、大陸中央の研究所に送られる予定なのでそもそも買取というのは難しいかと・・・何ぶん学術的にも貴重な遺跡ですので・・・・・・」

     「え~そうなの? う~ん・・・・・・」ヤマトは頭をかく。

     そして、「・・・やっぱ力づくでも奪うしかないか」と呟いた。

     「はい?」

     「いや、なんでもねぇ、じゃ、分かったよ兄ちゃん、呼び止めて悪かったな」そういって店員に背を向けるヤマト。店員ははぁ・・・と合点の浮かばぬ顔をしておれ達の傍から離れていく。

     「なに? 泥棒すんの」おれはヤマトに聞く。

     「物騒な事を言うな。唯返してもらうだけさ、元々はウチのもんだからな」

     「見つかったのはこの大陸じゃん」

     「言い伝えによると昔ウチの国から伝えれたモンらしいからな」

     納得できるよな無茶苦茶なようなヤマトの不思議な理由だった。

     「まぁモール内はセキュリティの管轄内だからエリア内で犯るよりは簡単かもだけどさ」

     「あの機械のお化けみたいなのが仕切ってる訳じゃないのか」

     「うん、移動式のモールは大陸中を飛び回ってるから管轄の問題からセキュリティーはあんまり関与しようとしないんだって。タテワリギョーセーってやつ」おれは以前母親(あれ? 父親)だったっけ?)から聞いた話を完全に受け売りで話す。

    「ま。とりあえずは拝んで見ようじゃないの宝がどんな物なのかな」

     とりあえずこの行列には並んでなきゃいかんみたいだな・・・とおれは目の前からガラスの入口へと続く並んでみるとそこそこの長さに感じる行列を見つめる。

     「パンフでも見てよーと」とにかく行列というものは待っている間暇なのが問題なのだ。

     普段ならこういう文字がたくさん書いてあるものを読まない主義なのだが、時間を潰すためにおれはパンフレットに目をやった。

     パンフレットの表紙を捲ると『移籍内案内』と書かれた文字が目に入る。どうやらこれから入るこの遺跡の見取り図らしかった。

     『遺跡入口』と書かれた文字の下には石のブロックの積まれた門の写真がのっている。いかにも古めかしいつくりとなっている門は人一人分くらいのスペースの空いた門で、ガラスの入口を超えたらこの遺跡の入口につくらしかった。

     『進入路』と書かれた文字の下にはブロックの積まれた廊下のようなものの写真がのっている。門を入ったらまずこの進入路につくみたいだった。壁も床もブロックで出来ている。門のブロックは少し劣化していたように見えたが、中のブロックはさほど劣化はしていないようだった。最近まで誰も入らなかったからだろうか。最近見つかったらしいし。

    次に『祭壇の間』と呼ばれる文字が目に入る。進入路を抜けた先にあるちょっとした部屋のような場所だ。

    パンフレットに書かれた解説によるとこの『祭壇の間』は古代、この遺跡がなんらかの宗教的行事に使用されていた可能性を示しているらしかった。

     なるほど、たしかに『祭壇の間』と書かれた文字の下の写真にも、

    中央になにか盛り上がった石の台のようなものがあり、なにかの儀式に用いられる祭壇に見えないこともない。

    さらにその台のような物の周囲、この部屋の壁に寄り添うように、ぐるりと部屋の内側を囲むように石像がならんでおり、神秘性を高めている。

     パンフレットによるとこの石像についてはまだ調査中らしいが、写真にこの石像が写してある様子を見ると鎧のようなものを着込んだ人型のもののようだった。

     人型ではあるのだがその顔面を獣のようななんとも言えない面妖な風貌をしていた。虎のような頭に兎のような耳、爬虫類を思わせる目にサメのような口元・・・

     おれは次のページを捲る。

     『宝物の間』と書かれた文字が目に入る。

    『祭壇の間』から扉一枚隔ててある部屋だ。その名の通りこの部屋には様々な財宝が置かれているらしかった。

    黄金の器、宝石が散りばめられた王冠、透き通る水晶のティアラ・・・遺跡自体の保存状態が良かったのかなんなのかこの『宝物の間』に置かれている宝もかなり保存状態が良いようだった。

     おれはパンフレットの最後のページを見る。最後のページにはある人物が紹介されていた。

    『ジョーンズ・ジョーンズ博士』と書かれた文字の下に初老の男の写真と簡単な紹介文が載せられていた。

    おれは聞いたことが無かったがこのジョーンズ・ジョーンズ博士は考古学の有名な学者で今回の遺跡発掘隊のリーダーを務めていた7人物らしい。ジョーンズ・ジョーンズ博士はこの遺跡について様々な文献から調査をしたようだった。

     ふーん、おれ達は指標石を唯たどっただけだけど、この人は地道な調査で発見した訳か・・・・・・

     おれはジョーンズ・ジョーンズ博士の写真を見る。いかにも偉い先生っぽく白い髭をたっぷりと蓄えた紳士然とした男だ。

     「おーい、おまえら~」そんな時におれ達を呼ぶ声が聞こえる。よく聞いたことある声だった。

     「やっぱりここにいたか」カンチンだった。闊達に向こうからおれ達の並んでいる行列に向かって歩いてくる。

     「お、来たのか」ヤマトは言う。「怪我は治ったのか?」

     「ほれ」カンチンはその場で飛んだり跳ねたりする。「この通り」

     「マジで治ってんのか。俺の見立てじゃ全治一週間はかかりそうな見立てだったんだがなぁ」ヤマトがカンチンの足を見て言う。

     「移動モールのメディカルセンターは優秀で有名だからな。ナノテクで死なない限りの怪我ならすぐ治せる」カンチンがけんけんをしながらしゃべる。

    「そんなもんかい・・そういえばミコトは?」ヤマトは周囲を見渡す。

    「ミコト? 知らんけど?」

    「あり? 一緒にこなかったのか?」

    「一緒もなにもオレはメディカルセンターを出てすぐにこっちに来たし」

    ということはカンチンは直接この展示場に来たのか。

    「なんで来んだよ。入れ違いになってんじゃねーか、フードコートの方に来いって言ったろ?」おれはカンチンを注意する。

    「どうせ、おまえらオレを待てきれずに先に宝を見ようとすると思ったからな。直接ここに来る方が早いと思ったんだよ。抜けがけはだめだぜおれも宝が見たい」

     妙に鋭いカンを働かせているカンチンだった。

    「あとヤマト、昼飯代くれよ。おれも何か食いたい」来てそうそう催促するカンチン。

    「んあ」懐を弄り、金を出そうとするヤマト。

    「なにか食いたいならやっぱフードコートで良かったじゃん」

    おれはカンチンに言う。

    「あそこでさっさと済ますよ」そう言ったカンチンの指さした方角には一件の屋台が存在した。

    『おいしいクレープ屋』と書かれたそのまんまのネーミングのクレープ屋がそこにはあった。

    「あ、いいな! ヤマト、おれもあそこで食べたい」

    「おまえはさっき食ったばっかだろうが」

    「えー、いいじゃんケチ、成長期なんだしさぁ」

    「だーめ、この先なにがあるかも分からんのだ、必要最低限の出費しかせんぞ」
    ヤマトはぴしゃりという。ケチンボめ。

    「じゃあ、オレは食ってくるからな、後で列に加わる――

     とカンチンが言いかけた、その瞬間だった。

    どががががががががん!!となにか雪崩込んでくる音が店内に響いたのだった!

     「な、なんだぁ?!」突然の自体におれは驚きの声を挙げる。

     音の正体はなにか?

     「お、おい! あれ見てみろよ!」
     カンチンに言われる前にもう気づいていた。
     なにせその音の正体はおれ達のすぐ傍で起こった事だったのだ。

     「うわぁああああああああ」
     そんな叫び声をあげながら人々がガラスの入口から次々と飛び出して来ていたのだった。

     「な、なんだぁ、ありゃ」ヤマトがいう。ものすごい勢いで走りながら人々は出て行っている。

     いや出て行っていると言うより、逃げ出している、といってもいい?

     《キュウインキュウインキュウイン!》
     とそこで次ははち切れんばかりの警告音が店内全体に響き渡った。どこかのスピーカーからだろうか?

    《緊急事態発生、緊急事態発生!》警告音と共に音声が流される。《緊急事態発生、緊急事態発生! お客様は館内のスタッフの指示に従い直ちに指定の避難施設へと避難してください! 繰り返します・・・》音声は客への避難を繰り返している。

     「なんかヤバそうじゃねーか」そんな事はカンチンに言われなくても分かっている。明らかに異常な事態だった。

     「お客様! こちらに着いてきてください!」店員がおれ達を含む列に並んでいる客に向かってそう言って誘導しようとしている。ガラスの入口から、つまりは遺跡から逃げてきた連中は真っ先にその店員の方に走っていく。

     「た、助けてくれ!」「怪物が!」逃げてきた人々は次々にそんな事を口走りながら店員の方角に向かう。

     怪物?

     事情は飲み込めなくても異様な空気は察したおれ達以外の並んでいた客達も逃げてきた客に引き寄せられるようにその後を着いていく。すぐに入口前に残ってるのはおれとヤマトとカンチンの三人だけになる。

     「お。空いたじゃん」ヤマトが呑気な声を出す。

    「しかもこれで人目を気にしなくて宝を頂けそうだ」確かに周りの客は全員消えた。店員もまさか残る人間がいるとは思わなかったのだろう。一人残らず避難の誘導をしながらここを去っていった。

    邪魔者どころか目撃者一人なく犯行を実行できるだろう。

     「じゃ、ちょっと邪魔させてもらうか」ヤマトはガラスの入口へ向かう。

     「お、おい、いいのかよ」カンチンは躊躇する声を出す。

     「明らかにヤバイ雰囲気だぞ なんかあったんじゃないのか?」入口の方を見るカンチン。

     「つってもチャンスだしなぁ ビビってる場合じゃねーだろ」

     「それに早くみたいじゃん金の刃」おれはカンチンに言いながらヤマトに続き入口付近へ行こうとする。と、

     ういーん、となにか駆動音のようなものを立てて突然おれの足元が揺れる

     いや、揺れたのではない動いたのだ。ちょうとおれの足元あたりの床がマンホールの蓋一枚分だけ少し浮いたのだった。

     「なんだよ~今度はっ」おれは気味が悪くなり浮いた床から離れる。

     ういーん、ういーん、と浮かんだマンホール大の床をそのまま上がっていく。しばらくして人一人入れそうな円柱が床から伸びてきた。

     円柱の周りには『staff only 関係者用特別通路』と書かれた文字が浮かんでいる。

     そしてしゅーという音と共にその円柱が縦に開かれる。人一人入れそうな円柱の中には果たして人一人が入っていた。

     「ここか・・・」それは一人の女だった。

     足の長い、背の高い女だった。底の分厚いブーツを履いている事を除いてもヤマトと同じくらいの背丈はありそうだ。しかしすらりとした印象はなく、どちらかと言えば引き締まった体をしていた。少しダボ付いたジーンズと上着にしているポンチョの上からでもそれが分かる。

     女の肌は浅黒かった。そして瞳と髪が燃えるように赤い。

    「あの肌と髪、大陸南部の人間だな・・・」

    カンチンが呟く。そーなん?

    しかし外見上で一番目を引くのは女の左腕であった。包帯が太くぐるぐる巻きにされている。肘のあたりから手を完全に包むまで包帯で巻かれていた。

    怪我でもしたのだろうか? でもモール内にはどんな怪我でも治せるメディカルセンターもあるし・・・・・・もしかして、まさかとは思うがそういうファッションなのだろうか?

    「ん?」女はおれ達に目をやる。

    「おいおいお客さん、放送が聞こえなかったのかい? とっとと避難してくれよ。あんまりぼさっとしてるとこっちも責任を負い兼ねるぜ?」そしてぞんざいな口調でおれ達に警告する。

    「いや俺達は・・・・・・」ヤマトが弁明しようとすると、

    再びういーんという音がして女のそばの床が浮かんでいった。女が入っていたのと同じ円柱である。

    円柱が開きそこからまた人間が一人出てくる。

    今度は男だ。背の低い男。

    どうやら男はこのモールの店長のようだった。なぜ分かったかと言えば頭に『私が店長です』というハチマキを巻いていたからである。わかりやすい。

    「カ、カンナくん、何をモタモタとしているのかね?! は、早くアレを撃退しに行きたまえ!」店長は慌てふためいてガラスの入口を、遺跡の方を指差す。

    「分かってますって店長。なーに慌てなくても向こうからお出でになるんだ、ワザワザこっちから出向かなくてもここで撃退しりゃいーでしょ」店長とは対照的に女は、このカンナとかいう女は落ち着いているようだった。

    「し、しかしだね・・・中にはまで逃げ遅れたウチのスタッフが・・・・・」

    「あいつらは助かりませんよ、店長も見てたでしょ? 客は全員逃げれたんだあいつらはま、人柱って事で」

    「き、君! 仲間に向かってなんて事を!」

    「仲間て・・・唯の同僚でしょうが、そもそもあたしは正式の店員でもない雇われもんモノですし。申し訳ないけど仲間意識とか0ですわ」

    「!・・・き、君の契約には盗賊や山賊といった類の当モールに害をなす輩を排除し、我々を守る義務が含まれているはずだぞ! 今すぐ彼らの救出に向かいたまえ!」

    「アレは金目当てではなでしょ」

    「が、害獣駆除も契約の内だ!」

    「モニターから見た感じじゃ害獣っていうより怪獣っていった方が正しい感じっすけど・・・」

    なにやら二人は言い争っている。

    「なんだこいつら」ヤマトがいう。

    「話からして女の方はこの店の用心棒みてーだな」とカンチン。

    へぇ、あいつがねぇ、と興味深そうにヤマトはカンナとかいう女を見る。

    「へいへい分かりましたよ助けに行けばいいんでしょ。行けば」女はやれやれといった感じで店長との話を打ち切りガラスの入口へと向かう・・・・・・

    が、すぐに足を止める。

    「と思ったけど前言即撤廃ですわ店長。来ますよ連中。やっぱここで迎い撃ちますぜ」そう言い終わった後女はおれ達の方をちらりと横目で見た。

    「まーだ逃げてねぇのかてめぇら。もういいそこ動くなよ? 戦闘の最中にちょろちょろ動かれたら気が散る。動いたらテメェ等から撃つ」女はいう。おれ達の事をもう完全に客扱いしてない口調だった。

     それにしても撃つってなんだよ。別に見たところ武器を所持してる様には見えんが。

     「来たぜ・・・」女は静かにいう。いやなにが?

     どたどたどたどたどた。

     ガラスの入口の向こう、遺跡の方から足跡が響いてきた。

     さっきの逃げ遅れだろうか? それにしてはやけにゆったりとしている様に感じるが・・・

     それになんか人間の足音にしては妙に重量感がある気がする。

     どたどたどたどたどた。

    その足音がガラスの入口のあたりまで近、づ・・・く。

    「どわぁああああああああ」カンチンが驚愕の雄叫びを放った。

    当たり前だ。おれだって叫びたい。

    怪物だった。

    ガラスの向こうに怪物が存在していた。

    「な、なんだよおいおい」しかも一匹じゃない。一匹じゃない!

    群れをなしているのがガラスの向こうに見えるのだ。

    「たまげたなぁ・・・もしかしてあれもロボットなのか?」ヤマトが驚き半分、呆れ半分といった表情でおれに聞く。

    「んな訳あるかぁ! だれが作るんだあんな趣味悪いデザインの! 見たことねーよあんなの!」

    そう、あんな怪物など見たことがなかった。

    なるほど表皮などはまるで無機物というかまるで石像のようであったが、怪物達の体は激しく上下しており、息遣いがここまで聞こえてくるようだった。間違いなく生物である。

    それに見た目!

    とりあえず人型ではあるのだが、まず、その顔面を獣のようななんとも言えない面妖な風貌をしていた。そして虎のような頭に兎のような耳、さらに爬虫類を思わせる目にサメのような口元・・・・・・あり? なんかどこかで見覚えあるなコレ。

    いやいやいやこんな異形の者と面識があるような人生は送ってないはずなんだけどぁ・・・

    いや~でもやっぱどっかで見覚えあるわ。うん、あるある。

    うーん、どこだったかなー結構最近のような。

    「あ」あ、そうだ最近というキーワードで思い出した。

    おれはまだ手に持っていた遺跡のパンフレットをパラパラと捲る。

    あったあったこれよこれ。

    おれがあるページで手を止める。

    『祭壇の間』のページである。あの今おれ達に迫ろうとしている怪物達の姿はこのページの写真に写っている祭壇の間の壁をぐるりと回るように配置されているこの石像達とそっくりではないか。

    そっくりっていうかそのまんまだよ! はて、これは一体・・・?

    「ふ、ふるるるるるるるるぅっ」おれの思考を遮るように怪物の唸り声が響く。連中はもう、入口のすぐそこまで来ている。

    おれ達に狙いをつけたのだろうか? どすどすどすどす、ともうゆっくりとは言えない速度でガラスの入口を越えようとする!

    「く、くろぞ!」カンチンの短い叫び。ヤマトが刀に手をかける様子がした。おれは逃げ場所を探している!

    「こねーよ」だが一番早く動いていたのはカンナとかいう女だった。女は自分の左手の包帯に手をかける。そしてぐるぐる巻きにされた包帯を勢いよくほどく・・・

    と、そこにはなにか黒光りする物体が姿を見せた。

    銃。

    銃だ。

    女の肘から先にはゴツイ機関銃が据えられていた。

    きしゃり、と女は凄惨な笑みを浮かべその機関銃の銃口をガラスの入口――怪物達の方へと向ける。

    そして――

    ずががががががががんと機関銃の掃射が始まった!

    きっと音速を超えているであろう鉛玉の嵐がガラスを突き破り怪物達に直撃していく・・・!

    瞬時にして怪物達は薙ぎ払われていった。

    怪物のその石像のような皮膚が割れ、中から青い血が噴出していた。原型を留めていないモノさえいる。ぐ、ぐろい・・・。

    「ふー、取り敢えずこんなもんか」女は機関銃を構えたまま一息つく。

    「すっげー」思わず感嘆の声をあげるカンチン。

    「ヒュー、やるじゃん」ヤマトも感心したようだった。

    「すっげーなぁそれ、そのテッポウ、あんたそれ腕にくっ付いてんの? カッケー・・・おれも欲しいぜ、ねぇねぇ、どこで買えるそれ」おれはカンナとかいう女に質問する。

    「これでまぁ、怪物達については片付きましたよ」だがおれの質問には一瞥もくれずカンナは銃口を下ろし店長の方に向き直る。

    「ではさっそくスタッフの救出に向かってくれたまえ」

    「救出、ねぇ・・・・・まぁ分かりましたよ」そういってカンナは今しがた自分が蹂躙したガラスと血と肉片の入口へと向かう。

    「おいおいおい! このバケモン共は結局なんなんだよ?」ヤマトが進んでいくカンナに後ろから声を掛ける。

    「あん?」気怠い返事を返すカンナという女。

    「なんだよ、おまえら? もう動いていいから消えていいぜ」

    「おいおいお客様に対して随分な口の利き方だなー、教育がなってねーんじゃねぇの?」そう言い、ヤマトは店長の方を見る。

    「客ねぇ・・・」歩みを止めるカンナ。

    「いや~あのですね~お客様これはですね何と言いますか・・・」困ったように言い淀む店長。ヤマトはさらに続ける。

    「だいたいさっきの怪物はなんなんだよ? こっちは楽しいショッピング楽しもうと思ってたのにさぁ・・・台無しだぜ」

    そうなん? 泥棒するとか言ってなかったけ?

    「説明責任ってやつがあると思うがね」

    「いや~あのですね~お客様これはですね何と言いますか・・・」張り付いた笑顔のまま同じ事を繰り返す店長。

     「あの遺跡だよ」首を傾けるカンナ

     「ちょ、カンナ君・・」

     「別に言っても良いでしょ? 減るもんじゃなしに。あの遺跡だよ遺跡、っていうかさぁ店長私言いましたよね? キャンペーンだかなんだか知りませんが、あんま詳細の分かってないもんを店の中に入れるのは安全面からいって心配だって」カンナを左手の銃で屠った怪物の残骸を指さす。「案の定じゃないっすか」

     「う、そ、それは・・・」

     「あの遺跡がどうしたんだよ」カンチンがいう。

     「あー?」

    カンナは極めて手短に事態を説明した。

    すなわち遺跡の『祭壇の間』にあった石像が突然動きだし、スタッフや客を襲い始めたらしい。

    まぁ大体そんなとこでしょうよ。

    「私は関係者室のモニターから見てただけだけどな」この店の警備をまかされていたカンナは見ていたらしい、石像は動き出しまずは遺跡内で仕事をしていたモールの店員達に襲い掛かった。その獣のような爪と鮫みたいな口でざくざくがぶがぶいっちゃてたらしい。

    「体が爪に貫かれたり、頭から丸かじりにされたり、好き放題やられてたなぁ、やっぱもう死んでるでしょあいつら」

    「な、何てことを! 彼らはまだ生きている! そう信じる事が大事なんだよ!」

    「私は自分の目しか信じないんでね」

    確かに常識的に考えたら死んでそう。

    「て、店長!」突然叫び声が響いた。

    「き、君たち・・・!」誰だよ

    声はかつてガラスの入り口があった所から響いてきたのだった。

    そこにいつの間にか数人の人間が現れていたのだ。

    全員血みどろで、酷い恰好をしていた。

    「ウチのスッタフみたい・・・だな」カンナが呟く。

    へーってあれ、死んだんじゃなかったの?

    「やー君たち! 無事だったんだね!」店長がそのスタッフだという人間達の傍に駆け寄っていく。床の砕けたガラスとまき散らされた肉片を踏みしめながら。

    「君も君の君も! よくぞ無事でいてくれた!」うれしそうにする店長。

    「て・・・てんちょう・・」店員の一人が店長にこたえる。

    「しかし一体どうしたんだね? 私もカンナ君と同じようにモニターの映像でしか見てないが、あの石像は何故急に・・・・・」

    「わ、わかりませーん・・・と、突然、あいつらはうごきだして、そ、それでそれで・・・」

    「そういえば怪我は平気なのかね? 見たところ血だらけじゃないか! すぐにメディカルセンターに!」

    「こんなふうにおそってきたんです!」そう言って突然その店員は店長の首筋に噛みついた。

    「うがああああ」声にならない声を出す店長。

    「おいおい随分情熱的だな。お前等の国の習慣か?」ヤマトは間の抜けた声でいう。

    「いやいやいや、あきらかに襲われてるでしょ」このおれにこんなしょーもない返しをさせるとはヤマトめ。

    「ぐごごごご」今度は店員の方が声にならない声を出し始める。そして店長に噛みつきながら吹き飛ばした。

    どっしゃーあああああっと首から鮮血を出しながら店長を宙に舞い、床に墜落した。死んだな。

    「ぐごごごご」他の店員も同じような声を出し、様子が妙になっていく。そして・・・・・・

    「げぇ!」

    「! これは・・・」おどろくヤマト&カンチン。

    みるみる! 変身! して! いた!

    あまりにも驚きの事でおれも混乱している。理路整然に言うと店員達の体がみるみる異形の怪物へと変身していっていたのだ。

    「うお・・・すげー事になってる」

    店員達の姿は変容していく。

    虎のような頭に兎のような耳、さらに爬虫類を思わる・・・ってまたかよ。

    「石像と同じ姿になった!」カンチンが見たままの感想をいう。

    「どういうことだ? 感染でもすんのか?」ヤマトが刀を抜く

    「どうでもいい」即座にカンナは反応していた。

    再び銃撃が始まった。

    まるでさっきの虐殺をリピートするような光景が繰り広げられる。

    ずぎゃぎゃぎゃぎゃがーん!

    一瞬で怪物と化した店員達は銃弾により肉片に変えられた。

    「おいおい、いいのかよ? お前のとこの店員だろ?」

    「はッ、こんな面した同僚は知らねーよ」にべもなく言い捨てるカンナ。

    「しかしこれは・・・襲われた店員が化け物になった? まさか・・・」なにか考え込むカンチン。こんな時に考え事とは悠長な。

    「はッ別に考え込む事でもねーだろ?」吐き捨てるようにそう言うカンナ。それと同時に

    むくり、と店長が起き上がった。

    いやーあんな派手に吹っ飛ばされたのに頑丈ですなぁ

    「うごごごご」起き上がると同時に唸り声を上げ始める店長心なしかどこかで聞いたことのある唸り声だ。

    そして次に店長の姿は見る見るうちに変容していく。

     虎のような頭に・・・ってもういいよね?

    「こういう事だろ? ようするに」

    店長は石像の怪物と同じになった。

     「じゃあな店長。今月分の給料は葬式代って事でチャラにしといてやるよ」そういってカンナは左手の銃口を向ける。

     次の瞬間、一発の銃声と共に店長(元店長と言ってもいいかもしれない)の頭が叩きつけられたザクロのように弾けた。

     つーかホント容赦ないね、アンタ。


     「つまりあの怪物に襲われると・・・・・・怪物の爪や牙にかかると同じような姿の怪物になるって訳か?」

     一段落ついておれ達は今しがた遭遇した怪現象についてのちょっとしたディスカッションを開いた。

     「まぁそう見て間違いないだろうな。もっともただ傷つけられるだけで奴等の同類と化すのか、それとも傷つけられた上で殺されなきゃならないのか現段階では確認できないが」カンチンがヤマトの意見に同意しつつ自分の意見を述べる。

     「お前って、急に真面目になる時あるよな」そんなカンチンの意見におれは鋭い感想を言う。

     「もうどーでもいいんだよ、そんな事は」だがカンナはおれ達のやりとりを早々に打ち切る。

     「怪物の事なんてもうどうでもいい・・・まず」と言ってカンナは最初に自分が殺した、最初におれ達の前に表れた怪物達の残骸を指さす。

     「まず、初めに出てきたあの群れ・・・『祭壇の間』から出てきた連中は全滅した・・・モニターから見てた限りじゃ、あそこにあった石像は全部動いてたからな。もう出てこねーだろ」

     次にカンナは二番目に出てきた怪物達、つまりは店員が変容した怪物達(あと元店長)の残骸を指さす。

     「そして襲われて変化した連中・・・このモールのスタッフだが・・・これも今全滅したのでほぼ全部だ。モニターで襲われるとこ見てたからな」カンナは指差しをやめる。

     「ってことは・・・」ヤマトはカンナの方を見る。

     「ああ、もうあの化けモンは出てこねぇと思っていいだろ。もうさった脅威についてウダウダ考える必要なんてねーってこった」

     「ふーん、じゃ、安心して遺跡に行っていいわけだな」そういってヤマトは破壊されたガラスの入り口へ足を向けようとする。

     する、が。

     「おい。待て」カンナはそれを止めた。

     しかもただ止めただけではない。

     「なに普通に行こうとしてんだ? あー?」銃口を、左手の銃を向けるというあからさまな威嚇付でである。

     「おいおいなんだよ」少しおどけてみせるヤマト。しかしその口調はどこか平坦だった。そいうえばヤマトの手にはさきほど腰から抜いた刀がまだ携えられており、はからずとも凶器を持った二人が対峙している事になる。

     「俺達は元々ここの遺跡を見に来たんだぜ? 脅威は去ったんだ、見学させてくれよ」

     はッとカンナは短く鼻で嗤う。

     「なーにが見学だこのスカタンが、てめーらあれだろ? あそこの宝が狙いなんだろ? あの遺跡にある宝が」

     「なんの話だか・・・」

     「とぼけんじゃねぇ、避難誘導されてんのに従わない馬鹿がいるかよ。しかもこんな異常事態が発生してもまだのこのこしてやがる。もう遺跡狙い、宝狙いとしか考えられんね。大方最初からここの宝、金の刃だったか? アレが狙いでここに来たんだろ? そこで運よく今回の騒動が起こって、だ。千歳一遇、この騒ぎに乗じて宝を盗ろうって胎だろ?」

     この火事場泥棒が、と吐き捨てるカンナ。

     「やれやれ心外だねぇ、泥棒ってあれは元々ウチのモンだっつーの」ヤマトの声が低くなっていく。

     「それでお前さんの言う通りだとしても、別にいいじゃねーか俺達が泥棒でもなんでも」ヤマトは顔と体をカンナの方に向けながら目線を一瞬だけ地に伏せている元店長に向ける。

     それにしてもおれは元店長元店長とさっきから言っているがそれはもしかしたらシツレイかもしれなかった。たとえどんな姿になっても店長には変わらないのだから。これからが普通に店長と呼ぼう。

     「その責任者っぽい男はもう死んでるっぽいし、ただの雇われの身だっつーアンタはこれで雇い主を無くした状態なんじゃねーの? だったらいいじゃねーかここで何が起ころうがもうアンタには関係ねぇ・・・違うか?」

     ヤマトの問いにカンナは再び短く鼻で嗤い答える。

     「確かにお前の言う通り、あたしはそこの今さっきくたばった男に直接雇われてた。ここの警備担当としてな。だからそこの男が死んだ今、私はフリーの身って訳だ・・・まぁこのモール全体のスポンサーは別にいるからそいつ等に引き続き雇ってもらえる可能性もあるが・・・・・・まぁ無いだろうなここまでデカい騒ぎ起こして死人も出たんだ。このモールはおしまいさ。セキュリティの連中も真相究明に動き出すだろうし、賠償やら社会的責任やらで強制的に廃業決定。雇う雇わない以前の問題だな」

     ならいいじゃない、というヤマトの言葉をカンナは三度目の鼻嗤いで打ち消す。

     「何故だ? 義理か?」

     カンナはそれを聞いて笑い出す。さっきまでの嗤いとは違い、はっきりとした笑い声だった。

     「ひゃははははははッ、義理? 人情? そんなもん私みたいな渡世の女にある訳ねーだろ。このモールに身を寄せてたのはあくまで一時の事、とある目的のためだったが・・・どうやらそれも無駄骨だったんだけどな・・今回の事がなくても近いうちに辞めるつもりだったさ」

    とある目的?

     「とにかくあたしにはある目的のために金がいるんでね。退職金代はりにあの金の刃は頂いていく、文句は言わせねぇ」銃口をヤマトに向けながら凄惨に笑うミコト。さっき怪物達を殺しまくった時以上の凄みを感じる。

     「悪いがこっちも事情があるんでね、そう簡単には譲れ・・・

     「なら死ねっ!」ヤマトが言い終わる前にカンナは銃弾を放つ!

     ずがががががががが! 銃弾乱射!

     「しゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃあッ!」ヤマトは気迫を込めた掛け声を叫びながらその手に握った刀をひゅんひゅんひゅんっ、と目にも止まらぬスピードで振りまくる! ヤマトの前方に数発の金属音と火花が飛び散る。防いでいるのだ、刃で弾丸を!

     一瞬の攻防を経て、ヤマトとカンナの間に静寂が訪れる・・・ヤマトは・・・・・・・無事である。

    防ぎきったのか。

     「ふいー・・・っと」刀を構えたまま嘆息を付くヤマト。

     「へぇ!」その凄惨な笑みを貼り付けたまま、口元を尖らせるカンナ。

     「やるねぇ、アンタまさかそんな剣なんて古臭いガラクタで防ぎきるとは思わなかったよ」意外と素直に賞賛する片手銃の女。

     「へ、へへ、古いものでも時には役に立つのさ」

     「なるほど一理ある・・・が、やっぱりただのガラクタだな」

     「あー? ・・・ってあ!」突然何かに気づいた様子のヤマト。「急になんだよ・・・ってあー!」おれもそれにすぐに気づく。気づくよそりゃ。

     「だぁ~クッソっ! やっちまったぁー! 折れてんじゃんこれェ!」

    その通り折れていた。ヤマトの刀が根元からぽっきり折れているのだ。どう考えても今の銃撃を防いだ影響である。

    「これ家宝なのに~、ミコトに怒られちゃうじゃねーか!」根元から折れて、ほぼ取っ手だけになった刀をブンブンと振る。

    「ひゃははははっ、まぁあたしの銃撃を一回防げただけでも大したもんさ」

    たしかに。

    あんな鉄の棒切れより少しマシと言ってもよい刀で銃弾の嵐を一回でも止めただけでも凄いと言っていいだろう。

    「まぁ、ドンマイドンマイ。アイツの言った通り一回防げただけでも大したもんだって」

    「そうだそうだ。そんな気ィ落とすなよ」おれとカンチンはヤマトの偉業を素直に称え、そして落ち込んだ様子のこの男に慰めの言葉を掛けてやった。

    「てめーらに慰められてもうれしくねー・・・だぁー、どうすっかなぁー・・・くっつかねーかなこれ・・・」ヤマトはそういい、床に散らばった、砕けた刀の刃を見下ろす。

    「なんだなんだせっかく慰めてやってるのに」シツレイな野郎だ。

    「まぁいいじゃねーか。そんな事どーでも、どうせもうちょっとで何もかもどーでもよくなるんだからな」

     カンナはまだ銃口をこちらに向けている。

    「その柄だけの刀で防いだら今度は拍手してやるよ」

    「だぁあああ! ちょっとタンマタンマ! もういいよいいよ宝持ってて見逃しちくり~」

    さすがに命まで取られたらかなわん!

    「はッ、嫌だね! この左手が銃に変わって以来、銃口向けた相手を見逃した事はねぇ!」

    げぇ! こいつ話が通じねー!

    「待ちたまえ!」そこに突然声が割り込んできた。

    男の声である。結構歳をいった男の声であろう。

    「待ちたまえ・・・カンナ君・・・!」初老の男がガラスの入口に立っていた。もちろんさっきカンナが破壊したのでガラスの残骸となっている訳だが・・・とにかく一人の初老の男が立っていた。

    メガネを掛けた、顎に白い髭をたっぷりと蓄えた紳士然とした男・・・ってあれこいつもどっかで見たことあるな。どこだっけ。

    「・・・ジョーンズ博士か」目線と銃口をこちらに向けたままカンナはいう。

    おれはその言葉で思い出す。

    そうだ。この男は遺跡の発掘したというジョーンズ・ジョーンズ博士だ。

    「あーそうだ、そうだ。まだあんたがいたな。さっき撃った元スタッフの中にはいなかったなアンタ。最後の生き残りという訳だ。あんたも化物になんのかい? ちょっと待ってなこいつら殺ったら次はあんただ」

    カンナの物騒な言葉にジョーンズ博士はふふふ、とどこか自嘲気味な微笑みで返す。

    「ふふふ・・・残念ながら私は無事だよカンナ君。この通りだ」博士その場ではぐるりと一回転する。さっき化物になったスタッフ達は服もボロボロで血だらけだったが、博士は裏も表も傷どころか汚れ一つ無い。

    「ふふふふふ、この通りだ私も皆と一緒にあの怪物達におっ沿われたんだが、もみくちゃにされている内に弾きだされてね・・・気付いたら床に倒れていた・・・」

    「あんたがあの遺跡を探索したんだろ? あの化物はなんだったんだ?」ヤマトが聞く。

    「祭壇の間の石像達が突然動き出したんだ・・・おそらく遺跡の侵入者に対する、古代人の罠だったのだろう」

    古代人・・・・・・。

    おそらくミコトとヤマトの国の先祖なのだろう。

    物騒な祖先だな。

    「それで・・・・・・・そこの若い君・・・そしてそちらのお嬢さん・・・君たちはヒノ国の王族の人だね」

    お嬢さん?

    「皆さん・・・」おれ達の後ろからおれ達を呼ぶ声がした。

    「ミコト!」ミコトがこのフロアに出現していた。フードコートからこのフロアまで来たのだろうか。

    「なんだか凄い警報がなったので・・・避難誘導されたけれど抜け出して来てみたんですけど・・・」

    「ふむ・・・これで役者は揃ったといっていいね。ヒノ国の王子と姫君殿。その容姿から見て間違いない」ミコトとヤマトを交互に見比べジョーンズ博士は言う。

    「おっさん俺等の事知ってんのか?」

    「直接知ってる訳ではないがね。だがいづれヒノ国の王族が訪れるだろうとは思っていた。君達の一族の先祖が数千年以上前にこの大陸に隠した秘宝を求めてね」博士は語る。

    「それもご存知なのですか・・・」

    「ああ、いくつかの文献を調べたけっかそういう結論になった。このサンドロードで発見された遺跡はこの大陸外の文明によってもたらされたものであるという事がね・・・そしてこれも文献からだが・・・いずれその一族の子孫がその三つの財宝を求めにやってくると・・・・・・君たちはこれが望みなのだろう?」そう言って博士は懐からなにかを取り出した。

    「この・・・金の刃を」それは黄金色に輝く金の棒のようなものだった。

    「それは・・・! ミコト!」ヤマトがミコトに呼びかける。

    「はい・・・」ミコトも懐からなにかを取り出す。金の指標石。

    ミコトは金の指標石をぎゅーと握り締める。すると、

    ピカーンと光る指標石。今までで一番強い光だ!

    「これは間違いない反応です! 本物ですよ兄さん、やった!」ぱぁあ、と明るい笑顔を見せるミコト。

    なら博士の持ってる金の棒はやはり本物の宝なのか。

    「ふむ・・・やはりそうだったね。博士は懐から完全に金の、金の刃をとりだす。細長い黄金の棒状のものだ。

    「刃と言う割には、あんま尖ってないな」カンチンがおれと全く同じ印象を述べる。

    「だがこの指標石の反応は本物の証だぜ。おれらに宝の事を伝授した人間が言ってたのと同じ反応だ」ヤマトが言う。ふーん。

    「君たちはこれを求めてきたんだろう。さぁ、受け取り給え」博士は手に握った金の刃を手渡そうとヤマトの方に歩んでいく・・・

    「ちょっと待てや」だがそんな博士の歩みを止める者があった。

     カンナは銃口を天井に向け、数発銃弾を放つ。ホール内に銃声が響く。

     「誰に断ってそのお宝を渡してんだよ。それはあたしの資金源になる予定なんだ。勝手なことしてもらっちゃ困るぜ」

     いやどっちが勝手なんだよ。

    「カンナ君・・・」

     「だいたいアンタだってその宝探すのにそこそこの苦労したんじゃないのかよ? このモールの連中に金まで出させてよ」カンナは再び銃口をおれ達の方角に向け直す。

     「ふふ・・・たしかに私は若い時分からこの財宝を探し続けていた・・・様々な研究資料を頼りに、いくつかのスポンサーを頼ったりもしたね・・・」

     要するにおれのお袋・・・親父と同じようにこの博士もヒノ国の財宝を探し求めたということか。

    まぁ親父と違ってこの人はキチンと宝を見つけたみたいだけど。

    「そして長いあいだ苦労して発見する事が出来たのだ」

    「なら何故そうまでして見つけた宝を簡単に譲ろうとする? しかもこいつらは今日あったばかりの他人だろ?」どうせなら元同僚のよしみであたしに譲ってくれよ、とカンナはにやっと笑って言う。

    「確かに君の言う通りだ。私は長年の探索の果てにようやくこの宝を手に入れた・・・だが」博士は首を横に振る。

    「だが・・・その結果はどうだね? 私が・・・この遺跡を見つけたせいで、大変な災いが起こってしまった」博士はそう言って周囲を見渡す。

    「遺跡から湧いて出た怪物達・・・なぜ思いつかなかったのか・・・・・・宝を守る守護者の存在に。それにモール内で遺跡を公開するなどなんと危険な事を・・・」

    「それを提案した男ならさっき死んだぜ。別に報いを受けた訳じゃねーけどな」カンナは顎で床に転がっている店長の死骸を指す。

    「いや私の責任だよ。彼を止めるべきだった・・・しかし私は長年の宿願が叶った喜びで細かい事をまぁいいやと思ってしまったのだ」意外と大雑把な性格してんのね。

    「そのせいでなんの罪もないここのスタッフにまで被害が・・・うう」膝をがくり、と崩す博士。

    「それが何なんだよ。懺悔なら他所でやってくれ。こいつらに宝をやる事となんか関係あるのか」

    「ふふふ・・・関係大アリさカンナくん・・・。先ほどから何度も言っているようにこの宝は元々ヒノ国の物・・・ヒノ国の王族に託されるべき宝だったのだ。それに他所の国の人間が手をつけたのがまずかったのだよ・・・いくらこの大陸で発見されたと言ってもね」泥棒はいかんと言うことだ、と博士は言う。

    「これは仮説だが・・・恐らくそこのお二人・・・王家の人が入ったならあの石像も襲いかかって来なかったのではないかな。きっとあれは宝が持つべき人間に渡ったかチェックするためのトラップだったのだ」

    「これは君たちの物だ。受け取り給え」再び宝を渡そうとヤマトの傍に歩み寄ろうとする博士。

    「だーかーらーだめだって言ってんだろーが。アンタから風穴開けるぜ」銃口を博士に向けるカンナ。結局どんな理由だろうと宝を独り占めしようとするつもりなのだろうこの女は。

    「あ、あの・・・!」そこで突然ミコトがカンナの方を向き呼び掛ける。

    「なんだお嬢ちゃん。言っとくけど説得しようとしても無駄だぜ。躊躇や同情とかいった類のものはアタシは子宮の中に忘れてきたんだ」

    「い、いえ! そうではなく・・・・・・あの、カンナさん、でいいんですよね? あの、カンナさん。私達はどうしてもその宝が必要なんです・・・・ですから・・・」

    ですから・・・とミコトは同じ言葉を繰り返す。

    「ですから、こちらの宝を譲るってもらう代わりに、なにか別の形でカンナさんにはお礼をさせてもらう、という事でどうでしょうか?」ミコトは一気に言いたいことを言い切る。

    「別の形ぃ?」カンナが訝しむような声を出す。

    「そうです。カンナさんは宝それ自体ではなくお金が欲しいのですよね?」

    「まぁ、そうだけど」

    「でしたら、その宝と引換に金銭を渡せばカンナさんは納得してニッコリ笑って譲って下さるんですね」
     ミコトはカンナに向かって言う。カンナは数拍、なにかを考えるように空けて答える。

    「ふーん、取引って訳か。かまわんぜ、あたしは。別に学術だの芸術だののためにこの宝が欲しい訳じゃねーからな」
     カンナは相変わらず銃口をヤマトの方に向けながら、目線だけミコトを追う。

    「で、だ。いくらだすつもりなんだ? あたしを引き下がらせようってんだ、生半可な額じゃ・・・」

    「はい、きっとカンナさんが満足して下さるくらいには」

    「へぇ、そいつは楽しみだな。じゃあとりあえず前金だけでも今すぐに・・・・・・」

    「いえ、今すぐには無理です」ぴしゃりとミコトは言う。

    「はぁ?」間の抜けた声を出すカンナ。

    「それは今すぐは無理ですよー。私たちにも色々と予定があるし・・・とりあえず宝を集め終わるまでは待って頂かないとー」頬に指を当てていうミコト。

    「あのなぁ・・・お嬢ちゃん」呆れたような口調でカンナは言う。

    「そんな話に乗る訳ねーだろ。アホか。今すぐ出せねーってんなら信用できねー」いつもニコニコ現金払いだ、とカンナは付け足す。

    「そ、そんなー・・・、それにあ、アホって・・・」ミコトは断られた事よりもアホと言われた事の方がショックのように見えた。

    「まぁまぁカンナ君」とそこでジョーンズ博士が二人の間を取り持とうとするように割って入る。

    「彼らの話に乗るのも一つの手だと思うよ? 君の『本当の目的』のためにもなるかもしれない・・・」

    「あんたは黙ってろよ。大体今その事はカンケーねぇだろ。あたしはただその金の刃とやらをカネに換えて・・・」

    「無理だと思うよ」博士は言う。

    「は?」

    「無理だと言ったんだ。この金の刃を金銭に変えるのは。例え君がこれを手にしてもね。いや無理というよりあまり意味がないというべきか・・・」

    博士はそう言って金の刃を懐から完全に取り出した。

    「だったこれただ銅の棒に金メッキを貼り付けてあるだけのものだし」売っても大した額にはならないだろうねぇ、と言う博士。

    「な、なにィッ!」カンナは口角を上げて驚く。

    「嘘つけっ、見た感じ金の塊ってカンジじゃねーかッ、名前も金の刃だしッ」

    「完全に名前負けだねぇ」そう言って博士は手に持った金の刃でコンコンと床を2,3回叩く。あまり高級感も重量感もない軽い音だった。

    「どうだい? とても金の塊が出す音には聞こえないだろう? そもそも純金ならこんなに簡単に振り回せないしね」

    「う・・・」表情が曇るカンナ。

    「だ、だが何故だ? そんなメッキのおもちゃ一つのために古代人とやらはこんな遺跡まで建てて、あんな化物まで配置したのか?」

    解せねぇぜ、というカンナ。

    「・・・・・・・ウチの国の伝承によると三つの財宝はその全てが集まらないと意味の無いものらしいが・・・もしかしたら他の二つもそんなおもちゃみたいなもんで、一つ一つは大した事ないものなのかも知れんな」それまで黙っていたヤマトが口を開く。そんな話は初耳だぞ。

    「そういう訳だよカンナ君。この刀は現時点ではガラクタのようなものだ。おとなしく渡した方がいいのではないかね?」

    「チ・・・」カンナは舌打ちをする。

    そして数秒、間が空く。

    「その話が本当ならその三つの財宝が揃ったら本物の宝になるって事か?」

    「まぁ、その可能性が高い、とは言えるかもしれないね」と博士。

    「・・・・・一つだけ条件がある」カンナはミコトの方を向いていう。

    「はい?」

    「あたしもその宝の探索とやらに同行させてもらうぜ。三つ揃っても大したものにならなかったら・・・どんな手を使ってもいまここで見逃した分の恩は取り立てる」

    なかなか強引な事をカンナは言って左手の銃を下げる。

    「はぁ?! 何言ってんだお前! お前みたいな危ない女と一緒に旅なんて出来るか!」ヤマトは強い口調だった。

    「まぁ! ありがとうございますカンナさん! これからよろしくお願いしますね」だがミコトはそんなヤマトの反応は気にしていないような態度でカンナを歓迎する。

    「って、おいおいミコト~」WHY? といった身振りをしながらヤマトはいう。

    「まぁまぁまぁ兄さん。いいじゃないですか。この場を

    丸く収めるためですしそれに・・・」ミコトはヤマトのそばに寄る。

    「カンナさんは腕利きの方のようですし、またブリュー・タケマサが襲って来たときに心強い味方になってくれると思いますよ」なにやらごにょごにょと耳打ちしている。

    「うーん、こいつが共闘なんてする柄には見えねーが・・・」

    ヤマトとミコトは小声でしばらく話合いをしていたがしばらくして、「しゃーねぇ、ミコトがそういうなら・・・」とヤマトが

    「おい、あんた、ミコトとか言ったな。妙な真似したらたった斬るからな」といってカンナの同行を認めた。

    「はッそのガラクタでか?」左の銃口でヤマトの手に握られた、柄だけになった刀を差して言うカンナ。

    「あー! そうだった! 折れた、いや折られたんだった! おいッ、弁償しろこの野郎!」ヤマトは柄をブンブン振り回す

    「はッ嫌だよ。大体だれが野郎だこら」そう吐き捨てるカンナ。

    「話は済んだようだね」博士がカンナとヤマトに向かっていう。

    「では今度こそどうぞ、ヒノ国の王族の方よ」そして手に持った金の刃を二人に向かって差し出した。

    「ではありがたく・・・頂戴いたします」うやうやしくミコトはそれを受け取った。そして丁寧に懐にしまう。

    「やれやれやっと一つか。先が思いやられそうだな」カンチンが口を開く。

    「なんだがおれ達を置いて勝手に話が進んでたみたいだが・・・まぁいいや、おいミコトとかいう女! おれはテトだ。こっちはカンチン。よろしくな」おれは新しい旅のお供に自己紹介をする・

    「・・・・・・」だがカンナはそれに一瞥もくれず、不機嫌そうに眉をひそめるだけであった。

    なんだこの女。愛想ワリー。

    「それでこの後はどうすんだよ」カンチンがいう。

    「そりゃ当然すぐに探すさ。あと二つの宝をな。ミコト」

    「はい兄さん」ミコトはいつの間にやら手に指標石を握っていた。

    青色に輝く指標石だ。ミコトは青の指標石をぎゅーっと握る。

    《ぴこーん・・》と弱弱しい青い光を放つ。

    「うーん・・・結局サンドロードに着いた時と同じ反応か・・・おい、テトお前も試してみてくれ」ヤマトはおれを見る。

    「なにを?」

    「何を? じゃないよ全く、お前も持ってんだろが。緑色の指標石。お前の親父・・・いやお袋だったけか? に貰ったやつがあるだろ」

    「ああ」あったねーそんなの。いやー色々あって忘れちゃってたよ。

    「えーとどこいったかな~と」おれは自分で自分の体を弄る。

    「あーあったあった・・・これだこれ」そして緑色に輝く指標石を取り出す。

    「もっと大事に保管しとけよ・・・まぁいい、それの反応を見てくれ」

    「ふーい、え~こうだったけか」おれは指標石をぎゅーと握る。

    ・・・・・・だが、

    「ちっとも反応しませんね・・・」カンナがおれの手元を覗き込んでいう。

    「おいおいどうなってんだよ」おれはブンブンと振りながらさらに強く指標石を握る。

    だが、やはりなんの反応もなかった。

    「おいおい壊れてたんじゃねーのかこれ」おれは握るのをやめる。

    「我が一族に伝わる秘宝を指し示すアイテムが壊れるなんてありえねー、といいたい所だが今肝心のその宝が大したものじゃなかった事に直面したからな・・・もしかしたら壊れてるのかもしれん」

    腕を組みながらうーんと唸るヤマト。

    「どうしましょうか・・・・・・これで指標石に頼って次の目的を探すのが難しくなりましたね・・・」ミコトも腕を組む。

    「あの・・・ちょっといいかな?」とそこでジョーンズ博士が会話に割り込んでいく。

    「どうやら次の秘宝を探すためのヒントが欲しいようだが、私の方からそれに関してのヒントがある」博士は言う。

    「なにっホントかおっさん」ヤマトが食いつく。

    「ああ、この金の刃の遺跡を探すにあたっていくつかの文献をあたったのだが・・・その中に他の秘宝についての記述も僅かながらにあったんだ」

    まぁ、それは朗報ですわ。とミコトは手を叩く。

    「まぁ、本当に僅かな記述だったあまり期待しないでもらいたいのだが・・・それによると、どうやら大陸内側の大湖のどこかに秘宝の中の一つを封印したというものなんだ」

    「大陸内部の大湖か・・・」カンチンが呟く。

    「デカデカンの湖だな」そして確信したように言った。たしかに大陸の内部の湖といったらあそこが一番有名である。観光名所としても有名で、基本的に自分のエリアの事しか知らないおれでも知っていた。

    「エリアでいうと47辺りだな」

    「エリア47といいますと・・・・・・」そういってミコトは懐から大陸全体の地図を取り出した。

    「え~と、このサンドロードを抜けて、さらに東に向かった先ですね。うーん・・・結構かかりそうです」

    というか徒歩で行くにはいささか遠すぎる距離ですね・・・と広げた地図を眺めながらミコトが言う。

     「だったら私の自動車を使うといい、四駆のパワーのある車だ砂漠でもどこでも一気に駆け抜けいけるよ」と博士。

     「え、よろしいんですか? そんな自動車なんて」

     「そもそも自動車ってなんだよ」ヤマトが頭を掻きながらいう。

     「気持ちはありがたいけどなじいさん。オレとテトはまだガキだし、そこの二人はそもそも文明から隔絶されてるみてーだし、運転出来る奴がいねーぞ」カンチンが唇をすぼめる。

     「それは心配ないさ。彼女がいる」そう言って博士は上着のポケットから取り出したなにかをカンナに向かって投げつけた。

     「・・・ち」何故か不機嫌そうにそれを受け止めるカンナ。

     博士が投げつけたのは無骨なキーホルダーの付いた車のキーであった。

     「あたしに運転手をしろってか?」受け取ったキーをぶらつかせながらいう。

     「ああ、君なら問題なく運転できるだろ?」

     カンナは博士の言葉に舌打ちで返す。

    「よし、なんだか分からないがこれで決まったみたいだな。ならいくか、その湖とやらによ」ヤマトが話をしめる。

    次の目的地はエリア47、そこにあるデカデカン湖だ!

    「では健闘を祈るよ」博士がにこにこしながらいう。

    「博士・・・なにからなにまでありがとうございました」ミコトがジョーンズ博士に深々と礼をする。

    「なーに、気にする事はないと。さっきも言った様に秘宝を君たちと物なんだからね」

    「ま、見つけたらあんたにも見せてやるよ」ヤマトがいう。

    「それは楽しみだね」

    「そんじゃぁ行くか・・・その前に、だ」とカンチンはヤマトの方を向く。

    「おい、ヤマト飯代くれよ。オレはまだ何も食ってねーぞ」

    「あー、そういやそんな事言ってたな」ヤマトは懐を探る。

    「ほい、とっとと済ませて来いよ。急ぐんだからな」

    「あそこのクレープ屋でテイクアウトしてくるよ」カンチンがこのフロアにあるクレープ屋を指さす。屋台にはまだスタッフが残っているようで、さっきの事態にも逃げ出さないという事はアレは自動で客に対応するアンドロイドなのだろう。

    「あー、いいなぁ」おれはいう。うらやましい。

    「さっきも言ったがお前は駄目だぞ」ヤマトがいう。ケチ。


    「おーこれがその自動車ってやつか」ヤマトが感嘆の声を上げる。

    おれ達はさっきのフロアからこのショッピングモールの一階の端にある駐車場にやってきた。ここに博士の車があるのだ。

    「馬の無い機械で動く馬車のようですね」博士の立派な四駆を眺めながらミコトがいう。

    「ちょうど五人乗れそうだなもぐもぐ」これみよがしに旨そうにクレープを頬張りながらカンチンがいう。おのれ。

    「ならとっとと乗り込むんだな全員」無愛想にそう言いながらカンナは運転席へと向かう。

    「あ」おれは唐突に声を出す。

    「どうしたんだよ?」とヤマト。

    「いや、急にションベンがしたくなった」おれはいう。

    「はぁー? さっき済ませてこりゃよかっただろーがよ」ヤマトが頭を掻きながら言う。

    「今したくなったんだよ」

    「まぁいいじゃないですか。テトさん私達待ってますから大丈夫ですよ」

    「おう悪いな、わりぃわりぃ」おれは若干駆け足で駐車場を駆けて行く。


    「ふぃーここだここだ」
     おれは再び遺跡のあるエリアに戻っていた。このフロアの遺跡の入り口の向かいにトイレがあるのはさっき発見していた。地下の駐車場からこのフロアは結構距離があったが、膀胱の限界を探りながら勝手を知らないこのモールの他のフロアをさまようよりも、内部を把握しているこのフロアに向かった方がよいと判断したのだ。

    「さーてと」おれは男子用トイレの入り口へと向かう、と。

    「いやー参ったなぁ・・・」というなにかを嘆く声がトイレから聞こえてきた。

    「いやーなんとか一人になるのには成功したけど、この先どうしようかなぁ・・・」
    そこにいたのはジョーンズ・ジョーンズ博士だった。

    博士は男子トイレ内の洗面所の鏡の前で一人で独り言をいっているようだった。すぐそばにいるおれには気付いていない様子である。

    「いやー参ったなぁ、これ」博士は右腕の服の裾を肘まで捲りながら呟く。

    捲った裾から見える博士の右腕には爪で引っかかれたような切り傷が見えている。

    「たまたま腕まで裾を捲っていたところに傷を受けたから服は破けなかったけど・・・しっかりあの怪物達に攻撃受けちゃってたんだよなぁ・・・」
    博士はまるで誰かに説明を強いられているように呟く。

    「なんとかカンナ君を追い払う事に成功はしたけど・・・やばいよなぁこれ・・・なんか傷口から垂れている血も人間っぽく、なくなってきているし・・・」

    博士の腕の傷口はよく見ると青く変色していた。

     「はぁまずいよなぁ・・・小さい傷だったから変化が遅いのだろうけど・・・なんか段々頭もぼぉーっとして来たようなふがががががが・・・」博士の口調が段々獣じみていく。

     「っていかんいかん! 意識を保たなければ!」と思ったらすぐに元に戻る。

     「いかんなぁ、いかんよう・・・このままでは私もスタッフのように怪物に・・・うう、いっその事このまま人間として・・・・・・」

     そこまで言って博士はふるふると首を振る。

     「いやいやいや、いかんいかん死ぬのとか無理無理ムリ。ちょーこわいっ」そして頭を抱える博士。

     「やはりここは出来る限り理性を保つ方向でいこう、うん。それが本当の勇気というものだよな。うん」一人で納得したようにそう呟く博士。

     「うん、そうと決まればさっそく理性をなんとか保ちつつ戻るか。そろそろモールのスタッフや客も戻って来るだろうし平静をたもたねば・・・ん?」

     とそこで、博士はすぐ傍にいたおれに気付いた。おれの背後からはガヤガヤと人の気配がし始めている。今博士が言ったように客やスタッフが戻ってきているのだろう。

    「えーと、君一体いつからそこに・・・・・・?」博士はにっこり笑っておれにそう問いかける。

     ちなみにおれの背後にはさっきカンチンも利用したクレープ屋の屋台もある。


     「おかえりー遅かったな」ヤマトが駐車場に戻って来たおれにそう言う。

     「小便とかいってたけど、デカい方だったんじゃねーの?」

     「もう、下品ですよ兄さん」

     「ん? まぁウン、あーそうそう」おれは上の空で返事をする。

     「んあ? なんだお前・・・・ってあれ?」

     「どうしたんです兄さん」

     「いや・・・空耳か? 今悲鳴みたいなのが聞こえたような・・・」首を傾げるヤマト。

     「おい、さっさと乗れよ。いつまで待たすつもりなんだよ」うんざりしたような口調でカンナが運転席から声を掛ける。

     「ん、ああ、悪い悪い」そう言ってヤマトは自動車へ向かう。おれ達もその後に続く。

     ミコトはカンナの隣の助手席、おれカンチンヤマトは後部座席へと向かう。

     「自動車か・・・緊張するぜ」乗り込みながらヤマトはいう。

     「あれ・・・おいテトそれなんだ?」おれの隣にいるカンチンが声を掛ける。

     「ええ? なにが?」

     「頬になんか付いてる・・・なんかクリームみたいなの」

     おれはゴシゴシと頬を拭う。

     「そうか? 気のせいじゃねーの」おれは何も見てないし、なにも聞いていない。なにも口止め料なんてもらう必要はないのだ。

     おれ達は全員自動車に乗り込み、ショッピングモールから出発する。


     

     



      


  • ボーイ・ミーツ・ワンダーランド その3

    2014-03-17 05:38
    あんまり長くなるとアレなので編集した

    __________________________________________

    「んあ? な、なんだぁ・・・」ずりずりずりずり 

     どうやらヤマトが目を覚ましたようだった。

     「よぅ目が覚めたか?」カンチンがヤマトに声を掛ける ずりずりずりずり

     「ここは・・・」ヤマトは困惑した声を出す。ずりずりずり

     「手間掛けさせやがって・・・」ずりずりずりずり、おれは言う。

     「手間ぁ? って・・俺は確か・・・・・・! タケマサの奴に!」
    どうやら意識もはっきりしてきたようだ。ずりずりずり前後の記憶も確かなようである。

     「というかさっきから何かずりずり言ってないか? なんの音だよ・・・って、おい!」
     そして自分の置かれた状況に気づいた様子だった。ずりずりずりずり

     「ずりずりずり、って俺引きずられてんじゃねーか!」
      地面に引きずられている状態からヤマトは半身を起こした。

     おれ達は今サンドロードを渡っている最中だった。
     ブリュー・タケマサが帰った後すぐにあの店を出て、今ここにいる。

    おれとカンチンでさっきの村からここまでヤマトの足を持って引きずって来たのだった。

    「なにしやがるテメーら!」

    「なにしやがるって・・・おめーずっと寝たまんまだったから仕方ねーじゃん」
     おれはヤマトに向かって言う。

    「寝てた・・? 何言って・・・・は!」
     なにかに気づき、バネのように急に起き上がるヤマト。

     「そうだ俺はタケマサの奴に・・・! 
            奴に眠らされて・・・・・・どうなったんだっけ?」

     「あいつならあの後帰ったぞ」おれは言う。

     「また来るとか言ってたけどな」カンチンが言う。

     「帰ったってあいつがそんな簡単に引き下がる訳・・・・・・」
     ヤマトは服についた砂やほこりを払いながら言う。

     「ケッ、感謝しろよぅ? おれのおかげで追い払えたんだからな?」
     おれは恩を着せるために言う。

     「はぁ? 何言ってんだ? テメーみたいなガキにそんな事・・・」

     「もう! だめですよ兄さん!
             テトさんとカンチンさんのおかげで助かったんですから!」   

     「な、なに・・・?」ヤマトは驚いた様におれとカンチンの方を見る。

     「お二人がブリュータケマサを止めてくれなかったら今頃どうなってたか・・・」

     「ミ、ミコトが言うならマジなのか!? 信じられんこんなガキ共が・・・」
     ジロジロとおれ達の顔を見るヤマト。

     「ぬはははは、感謝したまえ」おれは首を上げて尊大そうに言う。

     「まぁ俺達のおかげというよりはあいつが勝手に危機感感じて帰ったって感じだったけどな」カンチンが余計な事を言う。

     「だが助けたのは事実だぜ」おれはそう付け足すのを忘れない。

     「きちんとお礼を言ってくださいよ~兄さん。私はさっききちんと言いました」
      ニコニコと笑顔を見せるミコト。

    「あ、ついでにおれが付いてくるのにも文句付けるなよ? なんてったって命の恩人なんだからな。必要経費もきちんど出すように」おれは念を押すように言う。

    「・・・・・・金は後でお前の父親・・母親だっけ? に請求するからな」
     そう言ってヤマトはプイ、と前を向いて歩き出した。

    「いやいや、お礼はどうしたお礼は」おれは突っかかる。

    「もういーじゃん先行こうぜ・・・宝がとられちまうぞ先に誰かに」
     カンチンもヤマトに続く。

    「ふふふ、兄さん素直じゃなくてすいません、でもきちんと感謝してると思いますよ?」
     ミコトがおれにそう言って前に進んでいく。

    「あ、ちょい待て待て待て、おれを置いていくな」おれも急いでその後ろに続く。


     色々あって再出発したおれ達はサンドロードを進んでいく。

     「・・・・・・・」ざ、ざ、ざ、ざ、ざ、歩を進めるたびに砂に足を取られる。
     指先に力を入れ、力みながら一歩一歩進む。
     ただ歩くというだけでもこの砂漠の道では重労働だ。

     「かなりつらいですね・・」ミコトがしんどそうに言う。

     「むぎぎ、足に砂が取られる・・・」カンチンもかなり疲れてきているようだ。

     「なるほどこれが砂漠ってやつか・・・・・・海岸の砂浜みてーなもんが続いてるみてーだな」ヤマトが言う。さすがにデカイ図体してるだけあってこいつだけは余裕そうだった。

     「でも気候は変わらないですね。砂漠というのはもっと暑いところだと思っていましたが・・」

     「エリア内は全部気温とかコントロールされてるからな、中央のコンピューターでどこでも常に快適だよ」おれは言う。

     「まじかよ・・・ホントあきれた科学力だな」ヤマトが溜息交じりに呟く。

    「ミコトとヤマトの国にはこういうとこねーのか?」
     おれは二人に聞く。話でもして気を紛らわせなければやってられない。

     「そうですね、ヒノ国は山と森の多い国ですからこういう極地的な場所は無いですね」
     ミコトが答える。

    「たいして広くもねー島国だからな・・・・・・まぁその大して広くもねー土地で争ってる訳だが」

    「さっきのアイツの事か」おれはあの無駄に偉そうな少年の事を思い浮かべる。

    「ああ、ブリュータケマサ・・・・・・全く、あのガキまさかこんなに早く追ってくるとはなぁ、俺の予定ではあいつが俺等の事追ってくるのはもうしばらく後のはずだったんだが・・・そもそもどうやって追ってきたんだよあいつは? 完璧に偽装してこっちにこれたと思ったんだけどなー」ヤマトは半分愚痴のように呟く。

    「彼もまさか財宝を狙ってるのでしょうか?」ミコトが言う。

     「まぁ確かになにか知ってる風だったな。しかしそうなると余計に不可思議だぜ。財宝の情報をどこで聞きつけたのか・・・・」

     「ち、あいつも狙ってるのかよ。まぁいいけど、ライバルは多い方が楽しいし」おれは言う。

     「そういえばさっきからなにか忘れてるような・・・・・・・」そこでミコトが言う。

     「あん? 忘れてるってなんだよ・・・・・・?」そこでおれは何かに見つめられている気がして後ろを周囲に視線やる。

     「あ、カンチン!」そうだ。カンチンの事を忘れていたのだ。しかしおれはなぜカンチンの事を忘れていたのか? 

     それは奴がいつのまにか砂の上に倒れこみおれの視界から消えてしまっていたからである。

     まぁ疲れて倒れたんだね。

     「うぐぐぐぐぐぐ・・・」おれ達の後ろで呻きながら仰向けになっているカンチン。

     「おい! 大丈夫か!」おれはカンチンに駆け寄る。

     「うぎぎぎぎ、もうだめだー! これ以上歩けねー!」叫ぶカンチン。

     「大丈夫ですか?」

    「どうしたんだよ? どっか痛めたのか?」ヤマトとミコトもやって来る。

     「ぎぎぎぎ、砂に足を取られて・・・」カンチンはヒョイっと片足を上げる。

     「あ、捻挫したのか!」ヤマトが言う。

    たしかにカンチンの片足の先の足首が腫れていた。青く腫れている。

    「砂に足を取られて捻ってしまったようですね」ミコトが心配そうに言う。

    「うぐぐっぐ、とても歩けな~い」とても痛そうに片足を摩るカンチン。

    「こりゃしばらく休まないと歩けそうにねーな」ヤマトが足を見て言う。

    「ええー! どうすんだよ! こんなとこで足止めかよ!」こんな砂漠のど真ん中で!

    「く、置いていけ!」カンチンが叫ぶ。

    「! カンチン?!」

    「このままじゃ治るまで歩けねぇ! おまえ等の足引っ張るなんてまっぴらごめんだ! おれを置いて先に進め!」

    「カ、カンチン・・・!」確かにこんなところで足踏みしている場合ではない。
     単純に効率だけを考えるならここに置いていくのもありか・・・・・・・?

    「ばーか、なにカッコつけてんだ、ガキのくせに」
     そこでヤマトがそう言って、カンチンをひょい、と背負った。

    「しょーがねーから背負ってやるよ。一応世話になったみたいだしな。二人は足の方を持ってくれ」カンチンヤマトはおれとミコトの方を見て言う。

    「分かりました。では私はこちらの足を」ミコトはカンチンの後ろに回りその右足を持つ。

    「よし、じゃ出発するか! 金の刃を求めて!」おれは宣言する。

    「いや左足持ってくださいよテトさん」冷静な声を出すミコト

    「なに一人だけサボろうとしてんだ。どう考えてもお前も一緒に運ぶ流れだろーが」ヤマトもそれに続く。ち、やはりそうか。

    「しゃ~ね~な~も~」おれは心底嫌々そうに(実際嫌だった)カンチンの左足の方に周り、それを持つ。

    「あいてててて、おいテト! そっちケガしてんだからもっと丁寧にしてくれよ!」カンチンが言う。

    「うるせーなぁ、運んでやるんだから文句言うなよ」そもそもお前の不注意原因だろうが。

    「ほぼ他人のおれ達より扱いが荒いってどういう事だよ」ヤマトが呆れた声を出す。

    「もう! ダメですよテトさん、我々はもう心を一つにしたチームです! 同志なんですよ? 一人のミスは全員でカバーしないと。一人は皆のために、皆は一人のために! ワンフォアオール、オールフォアワン!」

    「ヘイヘイ・・・」おれはミコトに大して気のない返事をする。
                                     

    再びおれ達は再出発する。

    ざ、ざ、ざ、ざ・・・ カンチンを三人で持ちながらおれ達はサンドロードを進んでいく。

    「うーつらーい・・・」おれは弱音を吐く。

    砂の道を歩くのは少し慣れてきたが、それで疲労まで感じなくなるという事はない。

     「もうそろそろ限界くるかもしれんぜ~・・・」というか今すぐカンチンを放り投げて砂の上に寝っころがりたい気分だった。

     「ったく、最近のガキは体力ねーなぁ・・・」ヤマトは呆れた風で言う。

     「俺がお前くらいの頃は体力なんて有り余ってたぜ? 一日中動き回っても平気だった」

     そして説教臭い事を言う。じじぃかおめーは。

     「だからお前みたいな田舎の出身と一緒にするなっての」おれは言い返す。

     言い返す分の体力ももったいないが。

     「あんだとー」さらにヤマトも言い返してくる。

     「地図によるともうすぐ金の刃の遺跡につくはずなんですが・・・」

    ミコトが前方をキョロキョロと見ながら言う。

    「もうすぐ~? それらしいもんは見えないが・・?」

    おれはカンチン越しに前方を見るが、辺り一面は相変わらず砂ばかりで特に何も見えない。

    「俺の目からも何も確認はできんぞ」ヤマトは言う。

    「おかしいですね・・・・・・

    もうそろそろなにか遺跡の影でも見えて来ても良さそうなのですが・・」

       ミコトは困惑気味だった。

     「もう一回指標石を確認してみるか? ・・・ん?」そうヤマトが言った瞬間だった。

      ずざざざざざざあああん、と強い強風が突如吹き始めたのだった!

     「な、なんだぁ!?」おれは叫ぶ、突然の突風だ!

      地表の砂が吹き荒れる。細かい砂の粒子が風に乗って体に当たりまくる。

     「く、砂嵐か?!」

     「きゃあ?!」ミコトとヤマトも驚く。

     「突然なんなんだよぅ~」

     おれは顔を背けて砂を躱そうとする・・・

     が四方八方から砂と風が吹いてくるので特に効果は無い。

     「これではとても歩けません!」ミコトが叫ぶ。

     「クソっ! なにか風を防ぐ物は・・・・・」辺りを見渡すヤマト

     「これで身を守るぞ!」おれはたまたま手に持っていた何かで身を守る発想を思いつく。

     「! よし来た! こいつを盾にするんだな!」

     「ちょうど風避けになりそうなサイズですね!」二人もこのアイデアに賛同のようだった。

     「よーし、これを盾にするぞ!」おれ達は何故か持っていた

     ちょうどおれ達三人が身を隠せそうな大きさの板のような物を盾にする事にした。

     その板のような物を前方に向けおれ達はその背後に身を隠す。

     「これなら砂と風を防ぎつつ前に進めるぞ!」

     おれはミコトとヤマトに号令をかける

     「ええ、いきましょう!」

     「このままじゃ砂嵐でも起きそうだ、一気に進むぞ!」

     おれ達はぞのままズンズンと進もうとする

     「ててっててって、いてーよ! 何さらっと人を盾にしようとしてやがる!」

     「何?!」板がしゃべった?!

     「ひでーぞてめーら! 風と砂が当たりまくって痛いっての! おれは怪我人だぞ!」

     なんと板のような物と思っていたのはカンチンだった。

     そういえばおれ達は怪我をしたカンチンを三人で運んで来たのだった。

     いやー突然砂と風に煽られたものだからついうっかり忘れちゃったよ

     「いやーすまんすまん。うっかりうっかり」

     おれはカンチンに謝意を見せる。

     「うっかりじゃね-! 鬼畜かっ!」

     しかしカンチンはそれを跳ね除けた。

     「すいません・・・つい咄嗟に・・」

     ミコトを申し訳なさそうだ。

     「急なトラブルだからな仕方ないさ」ヤマトがミコトを慰める。

     「仕方ないで済むかーうぱっぱっぱぺ!」

    おれ達に抗議している間も強い風と吹き荒れる砂が盾になったカンチンに直撃され続けている

     「は、はやく下ろせー!」カンチン必死の叫び。

     「しかし本当に強い風と砂だどうなってんだ!」ヤマトがそれを無視して疑問を呈する。

     「おっかしーなエリア内でこんなひどい気候になる事なんてないんだけどなぁ」

      基本的にエリア内の気候はセキュリティによって完璧に調整されているはずなのだが

     「そうなんですか? なんだか急に吹いてきたみたいに感じるのですが・・」

     ミコトはそう言って周囲を見渡す。

     「・・・・・・あれは・・・?」

     そしてミコトは上空付近で視線を止める。

     「どうしたんだ? ってなんだありゃあ・・・・・・」

     ミコトにつられて上空を見たヤマトはそう言って困惑する。

     「どうしたんだよ? 上になんかあんのか?」砂や風が鬱陶しいがおれも上を見る。

     ずごごごごごごごごご・・・

     『それ』は轟音を立てながら上空を滑走していた。

     巨大な建物。

     超ド級の巨大建造物がこのサンドロードの空を飛行していたのだ。

     高度を結構低く、もうすぐおれ達のすぐ真上辺りにくるだろう。

     「なんなんだあれは・・・・・・・?」

     「凄く・・・大きいです」

     言葉を失った様子のミコトとヤマト。

     「あれは・・・移動式のモールじゃん」おれは言う。

     あの白濁色の六角形の塊はそうに違いないだろう。空飛んでるし。

     「移動式の・・・なんだって?」ヤマトが聞いてくる。

     「移動式のショッピングモールだよ」おれは説明する。

     「いろんな店やフードコートやアミューズメントパークとかが一緒になった

    空飛ぶ総合商業施設」

     色々な施設を載せながら大陸中を飛び回っているのだ。

     「要するにデカイ店屋か・・・しかしあんなデカブツが空を飛ぶのかよ」

     「プロペラで浮いてる」おれは上空のモールを指差す

     モールの上部八箇所に空を飛ぶための巨大なプロペラが付いているのだ。

     「あ・・・!もしかしてあれのせいで砂嵐が起こっているのでは?」ミコトが言う。

     「は?」なにいってんだコイツ。

     「なるほどあれだけの大建造物だ。それが飛んでるとなれば相当の浮力を放っているだろう・・・その結果俺達の周囲に強い風が吹き始めたんだ!」

     ヤマトがミコトの意見に同意しているようだった。

     突然説明口調で何いってんだこいつら。

     「は! というかあれこちらにきてませんか?」ミコトが驚いて言う。

     「んあ? ああ、この辺に止まるんじゃないの?」

     移動式とは言っても当然ずっと動いてる訳ではない。

     定期的に各地に逗留し、そこで商売をするのだ。

     「ってあぶねーじゃねーか! ここにくるぞ!」ヤマトがそう叫ぶ

     「は? ここにくるってなにが?」

     おれはなにがと聞いたがそんなものは一つしかないのだ。

     「逃げろー!!!!!!」

     担がれていた(砂まみれの)カンチンが必死の形相で叫んだ。

     全力でおれ達は後退を開始する。

     ごおんごおんごおんごおおおおおん

     移動モールは上空からこの付近に着陸しようとしている。

     風がより一層強くなり周囲には建物の影が差し込んで来て一面が暗くなる。

     「どっは、あぶねぇええええええ!!」おれは叫ぶ。

     ほかの三人もわーとかきゃーとかぬははっはとか叫びまくっている。

     そして――

     『ど、すーーーーーん』というドデカイ音を立てて移動モールは地面に着陸した。

     その衝撃で激しく砂が巻き上げられる。

     おれ達は・・・・・・

      ・・・・・・・・・・・・・なんとか無事だった。

     なんとかギリギリのところ、

    ちょうどモールに踏み潰されない位置まで後退する事に成功していた 

    「ふは~あぶねぇ・・・・」おれは息を漏らす

    「はへー・・・危なかったです・・」腰を落とすミコト

    「やれやれ、不躾な店屋だなぁ全く」ヤマトが呆れたといった風を見せている。

    「つーかもっと早く移動しろよおまえら! 遅いっての!」

    カンチンが抗議する。おまえ自分じゃ動けないくせに。

     「それにしても移動モールかぁ。なんか久しぶりだなぁ・・」

     随分昔にと()()ちゃんに連れてってもらって以来だ。

     「なぁなぁせっかくだしちょっと寄ってこようぜ~さっきの村じゃあの変な奴のせいで

     全然休めなかったしさぁ」おれはそうせっつく。

     「はぁ? そんな時間ねーよ 他の探検家より先に金の刃を見つけにゃアカンのに

     まだ遺跡する見つけてねーんだぞ?」

     「でも兄さん・・・ここに寄っていく価値はあるかもしれません」

     「ダメダメいくらミコトの頼みでも聞けないぜ」

     「でもあれ見てくださいよ・・・・あの、正面の」

     ミコトはそう言っておれ達の正面の向こう、ショッピングモールの玄関付近を指差す。

     「あん? なんだって・・・・・・・どういう意味だ、あれ」

     ヤマトは指差された玄関付近を見、訝しげな声を上げる。

     おれも玄関を見ている。そこには、

     『祝! お宝発見記念特別セール! 金の刃見つかりました!』

     と書かれた看板が玄関の入口に掲げられていた。