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        <title><![CDATA[アマゾンなど販売書籍を定額で視放題　週刊誌メルマガ]]></title>
        <link>https://ch.nicovideo.jp/22thproject/blomaga</link>
        <description><![CDATA[22世紀プロジェクト発行週刊誌メルマガ
アマゾンなど販売書籍を定額で視放題。映画、ラジオ、舞台なども視放題。電子書籍などで個別購入可能。]]></description>
        <language>ja</language>
            <item>
                <title><![CDATA[警視庁　ＩＴ特別捜査官(上)　パズルのピース　二つ目]]></title>
                <description><![CDATA[<p>20××年。世界各国は、第12次諜報戦に突入。政府組織は機能不全に陥り秩序は崩壊。財産、生命、時間全てが電子化され、ギャンブルゲームで全てを奪い合う時代になった。国家はその威信をかけてIT犯罪一掃にでる。警視庁警部補水越薫は所属2年目にして、犯罪組織ISMへの潜入捜査を受ける。IT武装化したマフィア、深まる謎、駆け引き、CIA、MI6の干渉・・・管理社会がいきつく果ては、倫理が崩壊したカオスであり、結局強者が弱者を暴力で支配する地獄だった。サスペンスホラー小説。353ページ　読了時間約4時間（1日30分で8日楽しめます）</p>]]></description>
                <link>https://ch.nicovideo.jp/22thproject/blomaga/ar614999</link>
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                <pubDate>Wed, 03 Sep 2014 18:40:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[サスペンス小説]]></category>
                <category><![CDATA[警視庁]]></category>
                <category><![CDATA[マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[未来世界]]></category>
                <category><![CDATA[ギャンブル]]></category>
                <category><![CDATA[ホラー]]></category>
                <category><![CDATA[CIA]]></category>
                <category><![CDATA[世界戦争]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">間合いを計ったように絶妙なタイミングで、彼女のしなやかな身体がアスファルトを蹴って跳んだ。柔軟な身体つきが速度を倍加させた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">なにか格闘技をしているのか、ブラジル人はけん制の右フックではたき落とそうとした。しかし相手の攻撃が届くスピードの方が一足速く、膝がカウンター気味にそのあごを捉える。車にはねられたように、ブラジル人は真後ろに倒れこんでいった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">硬いアスファルトに後頭部をぶつけた彼に、反撃の余力はなかった。分厚いタイヤを鈍器で殴ったような不気味に籠もった音を立てて、ブラジル人は約一秒半で意識を失った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">死ぬほどの勢いで倒れた、男に見向きもしない。そのままの余力で振り返りもせず、着地した彼女は走って逃げようとする。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「止まれよ、フカマチ・マヤ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">銃声が響いた。彼女はぴたりと動きを止めた。夕空に向けて威嚇射撃を放った真田が、角から出てきた。銃口の照準は彼女の胸にぴたりと、つけられている。でも、と薫は聞き間違いを疑った。真田は、違う名前で彼女を呼んだ。彼女は、北浦真希じゃない？　まさか、そんなはずはない。本当に、彼女は別人だったのか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">聞き間違いではない。真田はもう一度、別の名前を呼んだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おれは本気で撃つぞ、フカマチ・マヤ。君を預かった機関から、許可されてる。どうだ、試してみるか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">黙って、フカマチ・マヤは両手を上げた。観念したように息をつき、なぜか、薫の方にも手のひらを見せる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「やめるのか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「やめとく」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田とマヤは同じタイミングで微笑した。彼女が薫に言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「命の駆け引きは、一日一回で十分よ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">フカマチ・マヤ　彼女が追うのは<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は彼女に手錠をかけるように、薫へ指示した。戸惑ったが、彼女の方ですすんで両手を差し出した。さっきのことといい、見た目は小娘の癖に、こうしたことに慣れきっている感じだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（何者なの、この子）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君のお守りはもううんざりだって、担当者がぼやいてたぞ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は言った。かなりブロークンな文法の英語だった。彼女もそれに流暢な英語で答え、しばしなにかのやり取りをしていた。雰囲気からして、彼女は純日本人だが、こちらの言葉にもともと慣れないらしい。英語の会話の方が自然に聞こえる。そう言えば、会話に独特の、変な間があった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">向こうの法制用語などが混じって全容は掴めなかったが、二人は足元のブラジル人の処遇について、議論しているようだった。真田はやがて、日本語で薫に言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「澤田森田も、確保したそうだ。まずは、戻ろう。・・・・・・・顔合わせも済んだし、一息入れるか」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">怪訝そうな顔で二人の様子を見ていると、マヤと目が合った。たぶん向こうも同じ気持ちで薫を見ている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君らは同じ、補充要員だ。不満があったら先に言ってくれ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「彼女は、何者なんですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ずばりと、薫は聞いた。奇妙だがそれしか聞きようがなかった。真田は返事の変わりに、苦笑して、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そいつは車の中で説明する。まずはここを出よう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、ふと、下でのびているブラジル人に目を移した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「こいつにも手錠をかけておいてくれ。トランクに押し込む。このブラジル人はサンパウロと、アメリカの二つの州で窃盗、強姦で二桁近い容疑が掛かってるそうだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">さっさと、真田はいなくなった。薫は、手錠をかけられた偽の女子高生と怪しいブラジル人と所在無く、置き去りにされた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「かけたら？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マヤが、真田から預かった手錠を差し出してくる。自分だけ、不公平だと言うように。ひったくるように受け取って、薫はそそくさとブラジル人をうつぶせにすると、後ろ手に回して手錠をかけた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・君たち」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">助手席ではなく、後部座席に座ることを薫は要求された。気まずい二人は、会話もなく横並びになった。背後から無数のヘッドライトの列に照射されながら、棺桶のようなトランクに一人を載せて夜の明治通りを三人は走っていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どっちも黙ってないで、自己紹介位したらどうなんだ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・わたしは」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、声を出したのは薫だった。隣ではなく、バックミラーに映る真田の鼻から上と額に向かって言う。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「不審な点は一切ありません。説明が必要なのは、彼女だけじゃないんですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あたしも、あなたにとってなんの不審もないと思うけど」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">見ての通りの女子高生だと言う風に、手錠つきの少女は言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうも、君らは自己紹介の趣旨を理解してないようだな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「わたしは警察官です。説明しなくても身分は証明されています」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「手帳を見せて」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">歌うように、マヤは言った。手錠をした彼女を薫は睨みつけた。見かねて、真田が割って入る。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「先に言っとくが、薫、おれの班での君は、彼女と動いてもらわなくちゃならない。君も知っての通り、菅沢を使って動いていたのは彼女だ。事件の裏表の情報交換は、十分にしといてもらわなくちゃ困るぜ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「彼女が何者か、真田さんが納得いく説明をしてください」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「分かったよ。じゃあ、三つ、確実なことを教えてやる。一つ、彼女は分類上、警察官でもなければ日本人でもない。二つ、北浦真希は実在するが、彼女は北浦真希ではない。三つ、北浦真希について以外でも重要なことは、彼女から聞け。以上だ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ねえ、あたしからも質問していい？　彼女が新しいお守り役？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「捜査のパートナーだ。誤解しないでくれ。君も知っての通り、彼女は君と同じ事件を追っていた。だから、君の邪魔をしたりはしないし、むしろすすんで協力を仰いでくれて構わない。彼女は、水越薫。美琴の事件を担当した警視庁捜査課の人間だ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「だからあたしを追ってたのね？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マヤは、いたずらげに薫を見て、言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「よろしく、薫。・・・・・あなたとなら、話が合いそう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大人をからかうのもいい加減にしなさい。ふざけてるの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は言った。運転席の真田が苦笑して肩をすくめた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「確かに、薫、君のが年長者だし、この国では常識人だ。彼女は北浦真希よりは年上かもしれないが、まだ、未成年ではあるだろうからな。君が折れるべきだぜ、マヤ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「分かったわ。祖国の諺ね。郷に入っては・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「郷に従え」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">理解したと言う風に、マヤは肯いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「と、こんな感じだ。生まれて初めてきた、祖国の常識を彼女に色々と教えてやってくれ。・・・・・これ以上彼女に、数ある重要な日本の法律を破られないうちにな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ブラジル人を引き渡した後、味のない会食をして二時間、薫はいつもの自分の部屋に戻ってきた。いつもと同じでそこは、とても静かだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・これから、しばらくはここね？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マヤは当たり前のように言って、さっさと上がりこんできた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">どうして、こんなことになったのだろうと、薫は考える気力もなかった。何者とも分からない人間を、泊める羽目になるなんて。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「シャワーを借りるわ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">言うと、場所も聞かずに彼女は、シャワールームに直行しようとした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ホテル暮らしだと浴びれないときもあるから、本当に助かるわ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたの泊まってるホテルに、どうして帰らないの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「無駄なお金がないわ。それに」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">モデルのような早さで服を脱ぎながら、マヤは言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「毎晩泊めてくれる人を探すのも、大変でしょう？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どう言うこと？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「来る前にリサーチした通り」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">脱いだ服を広げてみせて、マヤは言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「この服を着て、夜中まで歩いてると、誰かは泊める場所をくれるって声をかけてくれる。・・・・便利だけどその都度、代価を要求する相手を、黙らせる方法を考えなくちゃいけないでしょう？　脅すのも縛り上げるのも、さすがに疲れたし」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">・・・・・・家出少女か。しかも、送られ狼。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マヤの所持品は、薄いショルダーバッグがひとつ。中には、フラッシュメモリに身分を偽ったと思われる完全なパスポート数枚、携帯電話の他は、怪しいものは何も入ってはいなかった。ただ、明らかに女性のものには見えない、何枚もの空の財布を除いては。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（・・・・・日本のどころか、普通の人の常識を持ってるかどうかも怪しいわ）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">まったく、なにを考えて、真田が言う、海外の連絡機関は彼女みたいな危険人物を派遣したのだろうか。皆目分からない。そうだ、金城に・・・・・こんなこと、相談できるはずがなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「かいつまんで概略だけ、説明しよう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">二人の女性に食事を取り分けながら、真田は、言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「彼女はうちと繋がりのある、米国の連絡機関が派遣してきた、特別捜査員だ。とある極秘システムの捜索、秘密の保持、それに関するすべてのデータの破却がその任務になっている」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「特別捜査員？・・・・・彼女が？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">怪訝そうな顔で、薫はマヤを見た。真田に言われるまでもなく、どう見ても彼女は未成年だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">話の途中だ、と言うように、真田はそれには触れず、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「詳細は言えないが、向こうの国防総省が開発した、内外の情報収集のための極め付けのプログラムと言っておこう。悪用されれば、世界の情報システムに、壊滅的な打撃を与えることも可能な代物だ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「もう、実際一度、本国では悪用されてるけどね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">皮肉げな口調でマヤが口を挟む。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・ああ一年前、このシステムは不正に使用され、全米の国民のあらゆる個人情報にハッキングして改ざんすると言う、前代未聞の情報テロ事件が起きた。プログラムの名前をとって、国防総省のデータには、ＴＬＥ事件とファイルされているケースだ。・・・・・簡単に言うと彼女は、そのとき、現地ＣＩＡとＦＢＩの合同捜査チームに参加して、事態の収拾に努めた経験のある、関係者の一人なんだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田の言うことはすべて冗談だと言うように、マヤは薫に思わせぶりな視線を送った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「彼女は、この未曾有の事件の解決に非常に重要な役割を果たした人間だ。このシステムの悪用がどれほど深刻で危険なことなのか、彼女に聞けばなんでも分かるだろう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">仕向けられて仕方なく、マヤも口を開き、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「当時そのプログラムはさまざまな組織に悪用されて、電子化した個人資産や金融情報を盗まれたり、マフィアやカルト教団などが殺害した人間の身元を消し去ることなどに使われたわ。・・・・・・流用した人間は、もともとシステムの開発者のチームで、最初から別の、ある計画のためにこのプログラムを作ったんだけど」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「事件でそのチームの人間は残らず死に、データは回収された。しかし、彼らの活動によって無数のデータの断片が特殊に暗号化されて、全世界に流出していたことが、最近分かったんだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あたしたちはプロジェクトチームを立ち上げて、事件後ずっと研究、監視活動を続けている。・・・・・・流出したそのデータについてはそれ自体にまったく意味はなくて、プロテクトを取り去ってすべてを再構築したところで、そのプログラムの復活は理論上不可能だと言う結論が出てたものなんだけど」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・どうもこの日本に、プログラムを復活させた人間がいるかも知れないんだ。その人間は無意味に散乱した無数の破片から、もとの形の器を創り出してしまった可能性が高い」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そんなこと可能なんですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「理屈はいつまで経っても、理屈さ。理論上構築されえないものは、芸術と同じように、人間の感性ひとつで突然、誕生させられるものだ。マヤ、おれは可能性と言ったが、君の予定外の単独調査の結果で、結論は出たんだろう？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ええ、とマヤは、こともなげに肯き、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「可能性は確信に変わった。でも詳細は、後日」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おれの考えでは成田空港で取り逃がした神津良治が、そのプログラムの再生に一枚噛んでる。やつは、五年前、三つの広域暴力団の資金三百億円をさらって、ずっと行方を晦ましてたんだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「じゃあ、真田さんの考えではその神津はそのシステムの再生に、持ち出した莫大な資金を注ぎこんだ、ってことですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ああ、そうだ。マヤを派遣した機関からの情報提供で、やつはこの莫大な情報量のシステムの断片を回収することが目的で、三百億をさらったってことが分かったんだ。一ヶ月前の成田空港の貨物係の殺人もそのデータ絡みで起きたらしいってこともな。ちなみにそんときパクられたデータは、泰山会が神津をおびき寄せるために、香港人のハッカーから五億で買ったものだったそうだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「泰山会はそこまでして神津を？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ああ、三百億さらわれた三つの組の中で、もっとも損害を被ったのが、東日本最大の広域暴力団、泰山会だった。東南アジア諸国のどこかに逃げ込んだらしい神津を追い続けていたのは、ここの直系だけだったらしいからな。うちが確保した例の若頭は、五年ぶりに入国する神津を、どうにか押さえようとしたところだったみたいだ。誰かの下らない捜索に時間を取られずに、おれが直接指揮をしてれば、二人ともパクれたんだけどな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">揶揄する真田の視線に、澄ました顔でマヤは、食事を続けている。真田はため息をつくと、次の一言で話をしめた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「日本中のやくざから奪った三百億だけで途方もない話に聞こえるだろうが、もしシステムの完全な運用が再び可能になれば、三百億ほどの資金なら、すぐに回収できる。おれたちが追ってるのは、馬鹿げた話だが、本当に、そう言う代物でね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「タオル、借りたわ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">洗い髪をタオルで拭いたマヤが、顔を出した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あと、シーツや着替えも借りられたら、うれしいんだけど」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「待って」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、薫は、言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ソファも貸して欲しかったら、わたしの質問に答えて」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なにを？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">濡れたままの足で堂々とフローリングを徘徊しようとするマヤを水際で押し止めて、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたが何者でなにをしたいのか、まだ答えてもらってないわ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「真田が話したと思うけど」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたの口から聞いた憶えはないの」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">タオルで髪を拭きながら不思議そうに、マヤは首を傾げた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたは北浦真希じゃない。それは分かった。でもそれ以外にはすべて、わたしが抱いていた疑問は解決されてない」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「彼女は無事よ。ちゃんと保護してある。明日、案内しながら、説明するわ。どこかに埋めたりしてないから安心して」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「嶋野美琴と野上若菜は、あなたのせいで死んだの？　本当にあなたは殺人事件に関与していない？　わたしに納得いく説明が出来るのね？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「答えはノー。ここですぐ詳しい説明をしろと言うのにも、あたしが二人を死に追い込んだ張本人だと言うあなたの説にもね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ここで身の潔白を証明するのは無理だけど、明日になったら出来るって、あなたは言ってるの？　この事件について、あなたの知っていることを、すべてわたしに話す？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「イエス」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">はっきりと言ってから猫のようなあくびをして彼女は肯き、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「約束する。でも、今は出来ない理由はもう一つあるの。眠くて、これ以上難しい話はしたくない。ベッドも着替えもいらないわ。・・・・・シーツだけ貸してもらったら、もう寝ていい？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大丈夫？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">闇の中、マヤの声がささやくように響いた。彼女は本当にソファを使わず、部屋の入り口辺りの壁を背にして、膝を抱えて眠っていた。ベッドサイドのかすかな明かりに照らされて、マヤの影が、薫を見下ろしていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あたしの目をみて。・・・・・この前と同じ。すぐ、楽になる」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、彼女は言った。悪夢の余韻に鼓動を持て余しながら、薫は指示に従う。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・どうして」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">なぜ。彼女の言うとおりにすると。悪夢はなりをひそめる？<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・話が合うって言ったでしょ？・・・・・あたしたち、色々な意味で、話題が尽きなそう。朝まで話しててもいいけど、今日はもう、寝るわ。・・・・おやすみ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ねえ、これだけ答えて。・・・・・イズム」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は、言った。マヤの口にした、言葉だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「もしかして、それがあなたの追ってるプログラムの名前？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「正解は半分。残りはさっきも言った・・・・・また、明日」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">入ってきたときと同じく、なんの音も気配もみせずにマヤの影は立ち去っていった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">もう一人のマキ　生贄ゲーム<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『北浦真希を確保した？』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城の、怪訝そうな声が耳に刺さる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『それよりお前、本当に大丈夫なのか？』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なんとかね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の処分についての件は、真田が処理してくれたらしい。呼び出しの話が、知らぬ間に有耶無耶になっていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『お前、公安と動いてるんだろ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「事件からは降りてないわ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『無茶はしてないだろうな』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・今のところ、わたしはね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">起きだしてきたマヤを見やって、ため息をつきながら薫は言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・前に言ったとおり、彼女が事件について有力な情報を握ってることは確かだから、彼女を連れていく。指定の場所で合流しましょう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">困惑気味ながら、金城は承知してくれた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「で、そっちはなにか、変わったことはない？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『満冨悠里が姿を晦ましたぞ。・・・・・野上若菜の病室にも一回も、顔を出さなかったそうだ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ほんと？・・・・・・困ったわ。彼女の自宅は押さえた？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『・・・・・いや、それは無駄骨だった。悠里は両親の都合でマンションにほぼ一人暮らしらしいんだが、若菜が手首を切ったあの日に前後してマンションを引き払って、その後の彼女の足取りも判らなくなってるんだよ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・彼女の両親と、連絡はつかないの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『実は悠里の両親は、医療関係のシステムを開発するベンチャー企業を経営しているんだが、資金繰りのため頻繁に海外を飛び回ってるらしくてな。まったく連絡が取れない状態だ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・ついに満冨悠里までも、行方不明とはね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の不審な視線をよそに、マヤは勝手に用意を整え、コーヒーを淹れている。すでに薫が買ったことも忘れていた、ブルーマウンテンブレンドのパックをどこからか見つけてきて、念入りに豆を挽いている。通販で買ったあの挽き器も、その気になったのは一回だけで、面倒くさくなって仕舞った場所すら忘れた品だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『お前の読みではその真希って子が、犯人かも知れないんだろ？』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「うん・・・・・実は、それなんだけど、もしかしたらそうじゃないかも知れないのよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『なんだよ、自信ないのか？』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうじゃないんだけど・・・・・なんだか、よく分からないのよ、これから自分でも、どうしたらいいか」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『・・・・ともかく、北浦真希って子から話は聞けるんだな？』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「うん、それはなんとかね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ただ問題は。ここに一年も住み着いたような顔をして、あそこでコーヒーを淹れている女の子は北浦真希じゃない。どう言うわけか、似てるけど違う。しかも、事件の張本人ですらないらしいことだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「接触に成功したら、折り返し電話する。・・・・・・話はともかく、そのときにね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『次は、あんなことにならないように気をつけてくれよ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・努力する」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">電話を切った薫の鼻先に、コーヒーカップが突き出された。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あ、ありがとう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">釈然としない何かを抱えながら、薫はそれを受け取った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「満冨悠里が消えた？　本当に？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">突然、マヤは聞いてきた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ええ・・・・・なんと自宅ごとね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・そう、不思議」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そのつかみ所のない反応からは、相変わらずなにも読み取れない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「埋めたりはしてないのよね？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼女は肯いた。湯気の立った自分のカップに口をつける。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「薫と池袋で待ち合わせた日、彼女も来ていたはずよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「野上若菜と一緒に、あなたが呼び出した？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ええ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、彼女は言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「本当に上手く、二人には逃げられたわ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「若菜は昨夜の真夜中、亡くなったそうよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なんとも思わないのね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうしてそうなったのか分かるし。今さら驚くこともない」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたに責任がまったくないって言える？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「自分の命に責任を持つのはどんな場合も、自分しかいない」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マヤは静かな口調で言うと、肩をすくめた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・朝食は諦めるわ。もし、あたしと感性が合わないと思ったら、ルームシェアも諦めてもいいけど」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">別に絡む必要もなかった。苦笑して、薫は首を振った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そこまで言ってないし、朝食はわたしが作る。・・・・・それと、着替えが間に合わないなら、貸してあげるから、下着くらい替えなさい」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ありがとう。武士道ね、薫」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたには助けられたから、昨夜も。それにあなたを追い出したりしたら、援助交際と居直り強盗を認めることになるでしょ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・『敵に塩を送る』？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなた、わたしの敵なの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">答えを言わずに、マヤはクローゼットのある部屋に引っ込んだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マヤの淹れてくれたコーヒーは、最後の一口がもったいなくなるほど、美味しかった。薫が淹れたものとどうしてこれほど違うのか、不思議だった。薫は何年ぶりかで二人分の食事を作った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">時間通りに、金城はやってきた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「思い切って、貯まってた有給取ったよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜の事件で、マスコミが騒いでいる。警察は動きを封じられていると思ったが、遺留品や事件現場の捜索など仕事は多いのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ごめんね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は言った。薫が紹介する前に、マヤが手を差し出す。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「フカマチ・マヤ。・・・・・よろしく」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「彼女が北浦真希じゃないのか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城は昨夜、薫がしたような顔をした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「説明すると長いんだけど、実はそうなの。彼女が・・・・・その、本当の北浦真希の居所を知ってるそうよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マヤは普通の高校生の少女のように、メールをチェックしていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「真田は遅れるって。たぶん、なにか緊急事態ね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なんだよ、あいつも来るのか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">まったく、最悪のタイミングで真田の名前が出た。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あたしは彼に報告義務がある。薫と、あなたが持っているほとんどの疑問にも答えられると思うわ。真田には居場所を返信したから、先に行きましょう。真希が入院してる病院に、案内するわ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なんだって、入院？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">声を上げながら金城は、マヤが告げた電話番号をカーナビに入力した。当たり前だと言うように、マヤは答えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「彼女、レイプされそうになったのよ。ダメージは大きいわ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君じゃなくて、本当の北浦真希がか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ええ。・・・・・薫、昨日、実行犯を確保して真田が送検したでしょ？　あなたも立ち会ったはず」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「え、ええ、でも確保したのは澤田と森田の二人でしょう？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ブラジル人もね。あと、一人も、すでに確保してある」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">検索完了した地図は、確かに病院の住所を示している。金城は車を走らせた。シートに座った途端、マヤは眠そうな顔になる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたが、彼女を助けたの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうよ。わけあって、うちのチームが早くから嶋野美琴をマークしてたの。・・・・・こんなことになったから、北浦真希になりすまして捜査しようって言うのは、あたしのアイディアだけど」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「つまり事件が起きてから、わたしが会っていたのは、ずっと、あなただったってことね？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そう。楽しかったわ。学校なんて行ったの、生まれて初めてよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「この子、何者なんだ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「わたしにもよく分からないから、聞かないで」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城は近眼になったような顔で助手席のマヤを見る。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「しかし、本当に写真の北浦真希とそっくりだな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「念のため言うと、顔はいじってないわ。あたしも驚いてるの。あたしがしたことは、身分と制服を借りたことだけ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">誰も想像もしないだろう。まさか本当に、別人だったのだから。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「例の七人ってやつかな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・自分だったらと思うと、ぞっとするけどね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「七人って？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「こっちの話」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「この世界には最低七人は自分とそっくりな人間がいるんだと」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">言わなくてもいいのに、金城が言い添えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それって、日本の諺？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうなのかな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なんでわたしに聞くの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">怪訝そうな薫に比べて、マヤはひどく嬉しそうに言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「へえ・・・・・それならあたし、もう二人も見つけたわ。薫もあたしに、よく似たところがあるの」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうかな、それ・・・・金城、変な目で見るのやめてよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真に受けたのか金城は薫とマヤの顔を交互に見て、しきりに難しい顔で首を傾げていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">それほど時間もかからずに、ナビが案内したのは救急医療にリハビリセンターのある都内の病院だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なあ、彼女、本当に話を聞ける状態なのか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫が言い出すより先、金城が心配になってきたようだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「平気よ。たぶん、発見が早かったから」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マヤは、そっけなくこう答えただけだった。薫と金城は、顔を見合わせた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">北浦真希の病室は空だった。ちょうど、精神科に診察に出ているところらしい。怪我よりもむしろ、精神の傷がまだ深いことは、間違いなさそうだ。マヤの話では未遂とは言え、複数の大人の男たちにら致されて乱暴されかかったと言う事実は、すぐには癒えがたいものだ。やがて、リハビリ担当のＯＴ（作業療法士）に付き添われて、入院着姿の北浦真希が歩いてくるのが見えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「真希、元気にしてた？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「マヤちゃん、来てくれたの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">遠くからマヤが声をかけると、真希は嬉しそうに駆け寄ってきた。手を握り合って親しげに近況を話し合う様子は、同じ年頃の女の子たちがしているのと、そう変わりはない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「マジかよ・・・・なんか、気味悪いな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・ちょっとね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">確かに一見したところ、服装が違うだけで、二人の背格好はびっくりするほどそっくりだ。ただ、薫が同性の目でよく見ると、マヤの方が身体つきも身のこなしもしなやかな感じで、大人っぽいのに対して、真希はまだ固さが残り、下手すると年より幼い印象を与えた。入れ替わっても誰にも気づかれなかったのはもしかすると、よっぽど普段、真希の存在感が稀薄だったからかもしれないとも思う。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">似た種類の花でも、野生のものと地下室の蛍光灯でひっそりと栽培したものでは、雰囲気は大分変わるものだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マヤにはこの年頃の少女にはまったく不似合いな、まったく違う経験を経て培われた、厳しい、なにかがある。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そこまで分かるはずもない金城は唖然とした表情のまま、鏡に映したような二人が親しく話している不思議な場面を見守っている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大丈夫、心配しないで。・・・・・眠れるようにはなったし、大分気持ちも楽にはなってきたんだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、真希は言ったが、もともと血の気の薄そうな顔は、青白く、表情も伏し目がちに見えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「今朝、電話で話したとおり、刑事さんを連れてきたわ。警視庁の水越さんと、金城さん」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">同じ、唇がしゃべる。<span></span></span></p><p></p>
<span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「北浦真希です・・・・・・あの、みこちゃんの事件を調べ</span></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[警視庁　ＩＴ特別捜査官(上)　命を賭けたギャンブルゲーム]]></title>
                <description><![CDATA[<p>20××年。世界各国は、第12次諜報戦に突入。政府組織は機能不全に陥り秩序は崩壊。財産、生命、時間全てが電子化され、ギャンブルゲームで全てを奪い合う時代になった。国家はその威信をかけてIT犯罪一掃にでる。警視庁警部補水越薫は所属2年目にして、犯罪組織ISMへの潜入捜査を受ける。IT武装化したマフィア、深まる謎、駆け引き、CIA、MI6の干渉・・・管理社会がいきつく果ては、倫理が崩壊したカオスであり、結局強者が弱者を暴力で支配する地獄だった。サスペンスホラー小説。353ページ　読了時間約4時間（1日30分で8日楽しめます）</p>]]></description>
                <link>https://ch.nicovideo.jp/22thproject/blomaga/ar614998</link>
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                <pubDate>Wed, 03 Sep 2014 18:37:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[サスペンス小説]]></category>
                <category><![CDATA[警視庁]]></category>
                <category><![CDATA[マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[未来世界]]></category>
                <category><![CDATA[ギャンブル]]></category>
                <category><![CDATA[ホラー]]></category>
                <category><![CDATA[CIA]]></category>
                <category><![CDATA[世界戦争]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">この二人から、彼女は、決定的な情報を菅沢にリークしようとしている。正確には、菅沢を通してマスコミに、表の世界に、嶋野美琴を含む三人が関わっていた裏の事実を暴露しようとしている。彼女は三人に恨みを持っている。しかし、美琴の事件があるから、この事実の暴露に関して、直接表には立てない。彼女が「マキ」＝北浦真希である可能性は高い。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">残念ながら学校側にファイルを返却してしまったため、今は手元に北浦真希の顔を確認できる資料はない。菅沢なら知っているだろうが、彼を再び捕まえている時間的余裕は今、さすがにない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">三十分早く、薫はＪＲ池袋駅に到着した。朝早くにもかかわらず、南口の広場は待ち合わせに時間を潰す集団で賑わっていた。卒業式のシーズンで、集まっているのは近くの立大生だ。至るところに彼らはいて、待ち合わせにめぼしい席はほとんど埋まってはいたが、晴れ着のスーツや着物の中にあの学校の制服は目につくはずだ。とりあえず、目標を見失うことはなさそうだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">約束の時間まで残り十分・・・・・五分。四方に気を配ったが、それらしい影は見当たらなかった。式が始まるのか、地上、西口公園前に通じるエスカレーターに、大学生が移動し始めている。彼女からの電話はまだ、来ない。やがて、時間を過ぎた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">すると、突然、薫のバッグの中から振動音が響きだした。菅沢のではない。自分の携帯だ。あわてて、薫は中身を探った。ディスプレイには知らない着信が入っている。怪訝そうに首を傾げながら、薫は電話をとった。辺りに気を配り、それらしい人影を依然探しながら。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・もしもし」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『・・・・・・なんででないんだよ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">押し殺したような切迫した声が・・・・・突然聞こえてきた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなた誰？　わたしに何の用？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『電話しろって・・・・・言ったじゃんか・・・・なんだよ、全然でないじゃんか・・・・・』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">後半は、乱れた不規則な吐息と泣きじゃくる声が混じった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなた・・・・・もしかして・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は思わず息を呑んだ。まさか、野上若菜？<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「野上さん？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">息を切らしながら、彼女はそうだと言った。やっぱりだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『なにやってんだよ・・・・・今、どこにいるのぉ・・・・？』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">どうも、様子がおかしい。若菜はなにかに追い立てられているように、腹立たしげな泣き声を立てた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ごめんなさい、移動中だったの。・・・・・どうかしたの？　朝から、どこか様子がおかしいみたいだけど」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『今すぐ来て。すぐ。話したいことが、あるから・・・・・』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「話したいことってなに？・・・・・電話ではまずいこと？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『いいから、すぐ来てよ！』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜は叫ぶように、言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（どうしよう）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">今、ここを離れるわけにはいかない。しかし若菜の今の様子からも、そちらも放っておくわけにはいきそうにもない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなた今、どこにいるの？　もし、なにか切羽詰ってることがあるなら、本署の方に」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『あんたじゃなきゃだめなの！　いつでも連絡してって言ったじゃん！　来いよ！・・・・・来て、お願い、やばいの・・・・』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">菅沢の携帯が、鳴り出した。周囲を見渡す。それらしい誰かが来る気配はない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「すぐ行くわ。どこにいる？・・・・・・わたし今、池袋にいるの。あなたは」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『西口公園・・・・・おっきなエスカレーターのある劇場の下、トイレ・・・・早く、急いで・・・・・』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">最後は消え入りそうな声になった。小さく、咳き込む。彼女の身になにが、起こってる？　迷っている暇は、なかった。エスカレーターに群がる人並みを掻き分けて、西口公園を目指す。話からして、新芸術劇場の地下トイレだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">菅沢の電話が鳴り響く。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「五分ほど席を外すわ。緊急の用事よ。・・・・・少し待って」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">相手は返事をしなかった。否も応もない。薫は電話を切った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">将棋台を囲んだホームレスと、大学生がたむろする公園。薫は走った。どうして彼女はトイレにいる？　トイレから、どうして薫に助けを求めている？<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">新芸術劇場は、一階のフロアから最上階に直通でのぼる長いエスカレーターと、地下のギャラリースペースに降りるエスカレーターに分かれている。若菜が呼んでいるのは、地下、その奥にあるトイレだ。打ちっぱなしのコンクリートの壁を伝いながら、薫はどうにかそこにたどり着いた。この早い時間、使用中のトイレは入り口側の一室だけだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫はさっきから、何度も電話をかけなおしているが、彼女は着信に応じない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ブーン、ブーン、と熊蜂が漂うような、低いうなり声のバイブ音が、そのドアからかすかに響いてきていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「野上さん」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ドアには鍵が掛かっている。薫は彼女の名前を呼びながら、トイレのドアをノックした。中からはすでに返事がない。上から中を覗き込んで、薫は、はっと息を呑んだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜が、倒れている。辺りに血を、撒き散らして。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">白いセーターの袖。赤黒く濡れた手首。血まみれの指で、彼女は力なく、それを握っていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「野上さん！」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫はすぐに、携帯で応援を呼んだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">野上若菜はトイレの中で、右の手首を切って倒れていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">それが自分でやった傷だと言うことは、状況から考えても明らかだった。彼女がもたれていた便器の脚の下に散らばった数枚の替え刃があった。呼び出し音とディスプレイを光らせて床で時計回りに回転していた携帯電話、そのいずれも、血にまみれた若菜の指紋がついていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">自殺者が恐怖に思い余って、電話で助けを求めることはよくある。生と死を分ける二つのツール。その両方に若菜の手があったということは、それがそのまま彼女の混乱と不安の深刻さを表していた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">意識不明のまま、搬送された。手首を切って、薫の携帯電話にコールするまでの間、かなりの時間が経っていたらしく、薫が抱き上げたときには、その身体から体温はほとんど失われていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">所持品の生徒手帳で、若菜の血液型が判った。若菜は薫と同じ、Ｂ型。彼女の名前を呼びかけながら、薫は救急車に乗り込んだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「水越」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の報告を受けて間もなく搬送先の病院に現れた金城は、唖然とした顔になって彼女に聞いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大丈夫か」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ええ、わたしは・・・・・大丈夫、平気よ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そう言ったが、薫はほとんど放心状態に近かった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「手首を切ったのは、亡くなった嶋野美琴の同級生だったらしいじゃないか。お前・・・・・まさか、偶然通りかかったわけじゃないよな？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・ええ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は、静かに肯いた。今となっては遅いかもしれないが、もう話すべきだと、彼女は思った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どう言うことなんだ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は金城に、今までの動きすべてを話した。塚田、菅沢からあぶり出した、嶋野美琴の裏の顔。満冨悠里と野上若菜の二人のこと。そして、菅沢の情報提供者で、事件に深く関わっているはずの最後の関係者・・・・・北浦真希。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なんだよそれ・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">さすがに金城も顔色を失うくらいの戸惑いを見せて、言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうしてそんな重大なこと、今までみんなに隠してたんだ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「マキの正体が分かるまで、あなたにも伏せておきたかったのよ。・・・・・実は、わたしが見た悪夢が、わたしに『マキ』の存在を気づかせる、最初のきっかけになったから」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">もはや、呆れられてもいい。薫は夢の話もすることにした。事件発生から、ここ何日にも渡って、執拗に薫を脅かした、美琴の死の悪夢のこと。現実との不思議な符号。そして、ついに接触を果たすことになっていたかもしれない、「マキ」のこと。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城はそれを、余計な相槌ひとつ挟まずに聞いてくれた。長い間背負っていた荷を、やっと降ろせた気がしただけでも収穫だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の話の切れ目に、眉根を寄せて深くため息をついてから、金城が最初に口を開いた一言は、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お前がなにか悩んでたのは、察しがついてたよ。どっか様子もおかしかったしな・・・・・だがなぜもっと早く、おれだけにでも話してくれなかったんだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ごめんなさい。・・・・・わたしも最初は半信半疑だったの。悪夢に導かれて・・・・・調べるとそれがどんどん、本当のことになっていって、それを認めるのも怖かったからかもしれない」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「昨夜、お前が式場下のトイレの前で、誰かと騒いでたのを上から見てたよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">突然、金城は言った。薫は、はっとして金城を見返した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「相手は今日、手首を切った例の女の子か？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城は処置室のほうにあごをしゃくった。薫は無言で肯いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「その件は、黙っておいたほうがいいだろう。・・・・・ことによっては、証拠もない違法捜査で、関係者を脅迫したせいだと思われるかもしれないからな。ただ、それがなくてもまずいぞ。一課長は夕方から緊急記者会見を開く予定だと。あのとき現場にいたお前は、間違いなく事情を聴かれる。そのとき、どう答えるかだな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜と自分との関係について聴かれることは、うすうす、覚悟はしていた。しかし迷っていたのは、今までの経緯をどう説明したらいいのか、と言うことだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おれは・・・・・お前が今した話は、かなり信じられる線だとは思うよ。あの子と、もう一人いた満冨悠里って子、それにもう一人が深く事件に関わってるって言う、お前の話も筋が通ってると思う。だがもし、お前が追ってた子が死んで、違法捜査でお前がその槍玉に挙げられるとなると、たぶん、その線で事実関係を洗うことも、難しくなってくるはずだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・そうね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城の言うことはいちいちもっともだと、薫も思った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ともかく、お前の話は出来る範囲でおれの方でも洗ってみるよ。怨恨がもとになってるとしたら、ネット仲間より人間関係は洗いやすいからな。話では主犯は、その北浦真希って子なんだろ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・まだ全然、自信持って言える範囲じゃないんだけどね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「上出来だよ。手が空いてる仲間に声かけてみる」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ありがとう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城はなにか他に、薫にかける言葉を捜そうとしたが、見つからなかったのか、頭を掻いてから、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ちょっと休めよ、薫。早くそれ、着替えたほうがいいぜ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あ・・・・・・うん」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">今、気づいた。若菜を搬送してきたときのまま、薫はずっと、血まみれだったのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">病院を出た直後に上司から電話があった。無期限の自宅待機。上司が直接、薫に事情を聞くのは後日と言う。若菜が手首を切った状況についての事実は、初動捜査を担当した刑事に話をしてある。そうなった詳しい経緯は別として、今は、目の前の事態を収拾しなければならないのだろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">被害者の親友が、葬儀の後に自殺を図ったのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">緊急のニュース速報を伝える声の中を、どこか他人事のように聞きながら、薫は帰途に着いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">いつのまにか、夕陽が赤く射していた。ドアを開けて中に入ろうとした瞬間、菅沢の携帯電話が鳴った。「非通知」だった。すぐに薫は通話ボタンを押した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『・・・・・もしもし』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">相手は今日の、若い女の声ではなかった。男だった。薫は怪訝そうに眉をひそめる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「誰なの？　菅沢？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『・・・・・ああ、菅沢ね』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">？　相手は言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『君のお陰でやつには迷惑してるよ。・・・・・昨日も会ったが、電話を返してくれ、ってしつこくおれに、泣きついてきてな』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">トントン、と背後から肩を突かれ、びっくりして薫は背筋を立たせた。反射的に距離をとって身構える。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大変だったな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">いつのまにか真田が、電話を持って立っていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なにか用ですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「様子を見に来た。あれから、どうしてるのかと思ってね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君の同僚に聞いた。どうやら、君のせいで、嶋野美琴の関係者が自殺したらしいな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">無言で、電話を切ると、薫は真田にそれを投げつけたい衝動に駆られた。それでもどうにか無視して、ドアの鍵を探す。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「死んだのは、野上若菜か。彼女は死んだ嶋野美琴と、もう一人、満冨悠里って子と、つるんで、やばいことしてたんだろ。若菜が死んで、菅沢はがっかりするだろうな。これでまたしばらくは、誰もやつの原稿を買ってくれる編集者はいなくなる」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">鍵が見つかった。強引に、薫は鍵穴にねじ込んだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・彼女はまだ死んでいません。輸血もしたし、まだ五分の状態だと医者は言ってました」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どちらにしても失態は、接触を図りながらみすみす彼女を自殺に踏み切らせてしまった、君の責任になるだろう。菅沢の言うことを信用して、君は野上若菜を追い詰めた」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「責任は甘んじて受けます。主張すべきことは主張して」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ついに耐え切れずに、薫は口火を切った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「でも、それが今、あなたになんの関係があるんです？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・今日の野上若菜を含む三人は、人に頼んである夜、自分の同級生をさらわせたそうだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は、急に違う話を始めた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「集団でバンに押し込めて、山奥に連れて行って、レイプしようとした。犯行に参加したのは、上は二十八歳、下は十六歳まで合計四人。中には森田勝行って言う、横浜で路上強盗の前科のある少年も含まれてる。下北沢でクラブをやってる、澤田由紀夫って男が人数を集めたそうだ。・・・・・・ちなみにこの澤田って男は、売春クラブの一件で菅沢があげてた奥田の高校の同級生らしい」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「計画が実行に移されたのが、三月の六日。嶋野美琴が塾からの帰宅途中になにものかに拉致され、殺害後、自宅近くのゴミ捨て場に遺棄される事件が起きる、ちょうど二日前だ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・どうして」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">今。なぜ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「真田さんはそのことを？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「これは菅沢から聞いた話だ。だから君にも、聞く権利がある」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田はスーツのポケットを探ると、煙草を取り出して、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「その日、狙われた同級生は進学塾へ行く途中におびきだされ、四人にバンでさらわれた。だが不思議なことに、次の日、無事に登校してきたし、暴行を受けた様子も見えない。普通に学校に通っていたそうだ。さらに事件後、森田はじめ、犯行に参加したメンバーは全員行方が分からなくなっている。・・・・・ところでこの同級生だが彼女が誰だか、君には心当たりがあるか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「マキ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">思わず事実が判明したショックに半ば自失して、薫は答えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・北浦真希」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">答えた、と言うより、ほとんどつぶやいた印象だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そう、北浦真希だ。どうも同級生の証言によると、そのことがあった夜以来、彼女は様子がおかしくなっていたらしい。だがそれが、精神に傷を負ったり、塞ぎ込んだりした感じではなくてね。奇妙な話なんだ。・・・・・・多くの人は彼女が、別人のような印象になった、と証言している」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「奇妙な符号だろう？　ちょうど、一年半前、嶋野美琴が言われていたことと、同じことを、彼女は言われているんだ。なぜ、彼女は変わったのか・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「真田さん」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田の言葉を遮るようにして、薫は言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「分かりません・・・・・あなたの目的は一体、なんですか？　どうしてこの事件に・・・・・わたしに深く肩入れするんですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君に肩入れしてるつもりはない」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">意外そうな顔をして、真田は首を傾げた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「仕事は違うが、君とおれは同じ方向を向いている。中々、いい目の付け所だと言っただろう？　おれは、嘘は言わない。まあ君は近々、今の事件の担当を外されるみたいだが」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「真田さんには関係ない・・・・・何度も言わせないで」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「捜査を続ける気があるなら、おれは君を救うことが出来る。ただ、今の捜査課でなくこっちに入っておれの指示に従ってもらうが」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「弱みにつけこむ気はない。好きにすればいいさ。君の処遇も、近日中には決まってくるだろうし、その間少し休むのも、決して悪い考えじゃない」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マキの正体<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ついに、野上若菜の意識は戻ることはなかった。もともと、そんな予感がしていた。今となってはあのトイレの記憶は遠く感じられたが、彼女の自殺は追い詰められて決意したもの、と言うよりは、誰かに強制された色合いが強いように思えてならなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">あの場には、二人の人物がいなかった。言うまでもなく、満冨悠里と北浦真希だ。少なくとも一人は、近くまで来ていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">あれは緊急事態にあわてて薫に電話したものか、それがどう言う意図のものかは分からなかったが、若菜だけがあの場に残された。彼女は誰かのスケープゴートにされたのだ。薫は彼女を救えなかった。どんな処分を受けても不服はなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ほどなく、事件の担当から正式に薫は外された。処分が決定するまで扱いは、自宅謹慎になった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">処分を受け、自宅へ帰ると電話に、母からの伝言が入っていた。兄の晴文が戻ったらしい。無言で、自室に引き籠もっているという。父親との冷戦状態が解消したわけではないので、一件落着と言うわけにはいかないが、一応、安心はした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">受話器の奥で父親がなにか話したがっていたが、事件の捜査があるということで、先に切った。たぶん、薫が単独捜査で処分を受けた件を小耳に挟んだのだろう。別に何も、意見を求めることはない。　<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">菅沢の携帯には、二度と着信は入らなかった。若菜の事件が騒がれている。魚は、逃げた。捜査線上にもまだ、満冨悠里の名前は浮かんではいないようだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城とは不定期に二、三度、連絡を取り合っている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『野上若菜の件で、彼女の両親から警察に事情を聞きたいと申し出があったよ。今度の件で学校側も捜査協力に難色を示すようになってる。ほとぼりが冷めるまで、こちらとしては大人しくしているしかないな。お前が言ってる線を探るのは、しばらく無理だ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「北浦真希の件は？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『お前が聞いた、レイプ監禁云々の話は漏れてはこないな。もう学校は春休みに入って、彼女は自宅から二駅先の進学塾に通っているが、別に変わった様子はない。それは本当に確かな情報なのか？』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田から聞いた情報だとは言えず、薫は口ごもってしまった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">北浦真希の生徒証の写真が、薫のもとに届けられた。そこに写っている黒髪ショートの女子高生は、確かに薫が学校と美琴の葬儀場で二度も接触した、あの少女だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">やはり彼女が、北浦真希だ。彼女が、「マキ」。二人の少女の死に、関わった。たぶん、あの場にもいた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">不思議なことに悪夢は、その夜から再び復活した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫もこのままでは、引き下がる気にもなれなかった。ある日、真田の指定した番号に彼女はコールすることにした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『分かった。・・・・・じゃあ、早速仕事にかかろう』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は言った。オフィスに来いとも言わず、いきなり待ち合わせの場所と時間を指定してきた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『初仕事だ。君の働きを期待している』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なにをするんですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『そうだな』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と真田は歌うように言い、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『まずは、柄を押さえる』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・誰のですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『決まってるだろ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">愚問だと言うように笑うと、真田は言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『「マキ」のだよ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">指定された場所に、真田は現れなかった。いいようにあしらわれたのではないかと、正直、薫は思っていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">界隈はひどく、物騒な場所だった。盛り場と言うでなく、抜け道のような裏通りでもない。寂れた駅の沿線にある、荒れ果てた裏路地だ。シャッターの下りた店舗が目立つ一本道に通じたＴ字路の境は、潰れた駐車場になっている。唯一営業しているように見える個人経営の楽器屋の店先まで、五百メートルはあるだろうか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">夕暮れどき人気は極端に少なく、明かりもない。風景が、無人の暗室にいるように赤黒く暮れなずんでいる。人目につきたくない取引や接触を果たすのには、絶好の場所だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は車でやってきた。フィルムを張った黒のセダン。こんなところに長く停めてあると、職質されそうな怪しい車両に見えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ミラー越しに真田が隣に乗れと、指示していた。薫は助手席に乗った。真田一人だった。ここからどこでなにをするかは分からないが、夕日も落ちきって、大分冷えてきている。真田を疑った十五分で身体はかなり固まっていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「合図があったらすぐ出るぜ。準備は出来てるか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">わけが分からないまま、薫は肯いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ここで・・・・・なにをするんですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「言った通りさ。身柄を確保する。『マキ』のな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ここで？　『マキ』を捕まえる？・・・・・こんなところでですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は不審そうに辺りを見回した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君の言いたいことは、大体分かる」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は、平然として言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「北浦真希の身柄を確保したいなら、彼女の自宅に行けばいい。それで済むはずだ。ただそれはもし、今、拘束できる理由があったなら、だろう？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">困惑している薫をどこか楽しむように、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君はおれの指揮下に入った。ちゃんと、君の上司にも話は通してある。おれの指示に従って、まずはそれなりに役目を果たしてくれないと、困るな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は言った。ちょうど、無線機に入電した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「入ったか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田が聞く。真田の班員がどこかで張っているのか、対象者が動いた、と言う知らせがノイズとともに返ってくる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「よし、そのまま目を離すな。いいか。・・・・行くぞ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の返答も聞かずに、真田はドアを開けた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君はあっちだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">？　まごまごしながら真田について出た薫に声が飛ぶ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「反対側の路地から中に回ってくれ。早く。君はあの、角の通りを塞ぐんだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、指示通り走ろうとする薫に、真田は小さな塊を投げて寄越した。二十二口径リボルバー、実弾の入った拳銃だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「これは？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「護身用さ。・・・・・・場合によっては撃ってもいい。迷うな。始末書の心配は、無しだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">こともなげに言うと、真田は走り出した。薫もそれに従う。拳銃を携帯した経験はほとんどなかった。まして、発砲が許されたことなど。大体、捕まえるのは、ただの女子高生のはずだ。そもそも、こんな時間、こんなところにいるはずのない。どうして？　薫に答えをくれるものは、鈍い夕闇の中、すでに誰もいなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">路地からは、暴走族でも暴れているのか、若い男たちの怒号が聞こえてくる。捜査員たちはその声を頼りに、なにか右往左往しているようだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田に指定された角を曲がると、そこは古びたラブホテルが建ち並んでいるだけだった。声だけが聞こえてきた。囃すような声、笑い声。そして、たまにあれは・・・・・悲鳴か。女のものではないように思えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（どうすればいいの？）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は無線機を与えてはくれなかった。緊急で間に合わなかったのだろう。それほど、薫には期待していたわけではないのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">やがて、ホテルの裏から何者かが飛び出してきて薫と鉢合わせた。茶のブレザー、紅いリボン。チェックのスカート。北浦真希だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなた・・・・・・！」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">声をかけて、薫は二の句が告げなかった。本当に、現れた？<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・刑事さん？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">不思議そうに、彼女は小首を傾げた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「待って・・・・・待ちなさい」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その姿はこんな場所では、ひどく違和感あるもののように薫には映った。「マキ」も、薫の姿に気づいて一瞬、びっくりしたようだった。盗みをして走り出てきた猫のように、彼女は立ち止まった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なにか用？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">相手は言った。＝電話口の声。感情の抑揚の少ない、真水のような声音だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「こんなところで一体、なにをしてるの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">あなたこそ。と言うように、「マキ」は薫を見た。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あの日、待ってたわ・・・・・池袋駅の南口で」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は、余計な駆け引きなしで「マキ」にぶつけた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「菅沢の情報提供者はあなたでしょう？　あなたは、あのとき、野上若菜と満冨悠里を証言者として同席させようとした」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そうだとも違うとも言わずに、彼女は黙っていた。怒号が遠くに聞こえる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたのせいで二人死んだ。それは、疑いない事実よ。あなたは彼女たちにどんな恨みを持っていたの？・・・・あなたの目的を教えてちょうだい」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「恨みなんか、別にないわ。・・・あなた、勘違いしてる」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼女は言った。薫の剣幕に比べると、道端で盛り上がらない話をしているようなテンションだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「二人が死んだのは、自分たちの責任よ。彼女たちが、たぶん、ゲームに負けたから。つまり、そう言う仕組みなの。美琴も若菜も、死ぬべくして、死んだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ゲーム？　ふざけてるの？　あなた、おかしいわ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そう？　あたしが言ってることは・・・・・ただの事実なんだけどな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の目の前に、彼女の指が突き出された。とっさに薫は身構えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたも見たはずよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">どこかで。と、彼女は言った。その指は彼女自身のこめかみにいって、そこを軽く、二、三回、突いた。彼女は薄く微笑んだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「悪夢は消えた？・・・・・よく思い出して。美琴は、・・・・・あの子は、どんな風に死んだのか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">気がつくと、また同じ風景の中にいた。毎夜毎晩、薫を誘い込む風景の中に。男たちが、笑いさざめている。携帯電話を持ち寄り、吊るされた少女の遺体の写真を撮りつつ、「ゲーム」について話している。やつらは、言う。口々に。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そう。これは、ゲームだ。それに従って彼女は殺された。ゲームには、事実を正確に管理するために厳格なルールがある。彼女は、たぶん、それに則って殺されたのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いいか、これはフェアな、ゲームなんだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">誰かが言う。彼を知っている。彼は、鶴見だ。もう一人が言う。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ハズレを三回引けたら、助けてやる」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「再開の合図を受信したら、第二ラウンド再開だ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">男たちの手には、携帯電話が握られている。その憑かれたような眼差し。物欲に燃えた目、餓鬼の亡霊。ぼんやりとしていた男たちの顔が、はっきりと吊るされた薫の目に映りこんでいく。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「止まりなさいっ！」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は拳銃を構えた。両手で、狙いがぶれないように。反動を覚える。射撃訓練で教わった、基本中の基本をまず思い出した。マキは、はっとした顔ひとつ、しなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">まるで弾丸など、自分を殺す力はない、とでも言うように。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「手を上げて！」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の声には殺気が籠もっていた。なぜこうなったか分からない。悪夢。悪寒。そして憎悪。繰り返し刷り込まれた感情の高ぶりが、怒りが、一気に噴出して、彼女にぶつけられたのか。それでも平然と、彼女は銃口を睨んでいた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「止まらないとあなたを撃つ・・・・・あなたを確保するわ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、彼女は言った。マキとの間は、いつの間にか十メートル近くも離れていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「撃てばいいわ。たぶん、当たると思う。・・・・・・ちゃんと、人を撃った経験があるなら」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「撃てないと思ってるの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ぎりぎりの、はったりだった。撃たない理性くらいは残っている。それに日本の警官は無闇に拳銃を携帯しないし、発砲しないという前提で、厳然たる規則に縛られている。真田は無造作に拳銃を渡したが、薫には元来、街中で発砲すると言う意識それ自体がなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">端から威嚇だと思っているのか、まるで動じる気配がない。ただの女子高生が？　そんなはずはない。まさか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「聞かせて」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">銃口を下に向けながら、薫は聞いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたや、嶋野美琴になにがあったの？・・・・・どう見ても普通じゃないわ、あなた。・・・・・まるで」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「別人みたい？・・・・うん・・・・ほんと、そうかもね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マキは言った。冗談を言ったようには、聞こえなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「みんな、変わるみたい。しかも、本人も予想もしなかった方向に。イズム・・・・これは、そう言うゲームなの」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「イズ・・・・・ム？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">イズム？　なにを言っているのだ、彼女は。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その瞬間、マキの背後から、誰かが走り出てくる気配がした。応援か。薫は、そこで初めて我に返って顔を上げた。そこにいたのは、どう見ても、スーツ姿の応援の捜査員ではなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">身長、一八〇センチ以上の。目を血走らせた、外国人の男だった。南米系、見たところブラジル人。罵り声は英語ではない。紫色のパーカーに、ジーンズ。普通ではない興奮の様子から、薬物を使用している独特の雰囲気がうかがえた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">追ってきたのは、やはりマキだ。彼女の姿を見つけて、男はなにか卑猥なスラングをわめき立て、襲い掛かってくる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">止めないの？　と言う風に、彼女は肩をすくめた。一呼吸遅れて、薫は拳銃を構えなおした。<span></span></span></p><p></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ブラジル人は、殺到してくる。このまま両足を引っこ抜いて、マキを身体ごとさらって行きそうなスピードだった。止めないの？　彼女が仕草で薫に合図したのは、自分自身のことらしかった。<span></span></span></p><p></p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;font-size:16pt;">この二人から、彼女は、決定的な情報を菅沢にリークしようとしている。正確には、菅沢を通してマスコミに、表の世界に、嶋野美琴を含む三人が関わっていた裏の事実を暴露しようとしている。彼女は三人に恨みを持っている。しかし、美琴の事件があるから、この事実の暴露に関して、直接表には立てない。彼女が「マキ」＝北浦真希である可能性は高い。</span>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">残念ながら学校側にファイルを返却してしまったため、今は手元に北浦真希の顔を確認できる資料はない。菅沢なら知っているだろうが、彼を再び捕まえている時間的余裕は今、さすがにない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">三十分早く、薫はＪＲ池袋駅に到着した。朝早くにもかかわらず、南口の広場は待ち合わせに時間を潰す集団で賑わっていた。卒業式のシーズンで、集まっているのは近くの立大生だ。至るところに彼らはいて、待ち合わせにめぼしい席はほとんど埋まってはいたが、晴れ着のスーツや着物の中にあの学校の制服は目につくはずだ。とりあえず、目標を見失うことはなさそうだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">約束の時間まで残り十分・・・・・五分。四方に気を配ったが、それらしい影は見当たらなかった。式が始まるのか、地上、西口公園前に通じるエスカレーターに、大学生が移動し始めている。彼女からの電話はまだ、来ない。やがて、時間を過ぎた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">すると、突然、薫のバッグの中から振動音が響きだした。菅沢のではない。自分の携帯だ。あわてて、薫は中身を探った。ディスプレイには知らない着信が入っている。怪訝そうに首を傾げながら、薫は電話をとった。辺りに気を配り、それらしい人影を依然探しながら。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・もしもし」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『・・・・・・なんででないんだよ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">押し殺したような切迫した声が・・・・・突然聞こえてきた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなた誰？　わたしに何の用？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『電話しろって・・・・・言ったじゃんか・・・・なんだよ、全然でないじゃんか・・・・・』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">後半は、乱れた不規則な吐息と泣きじゃくる声が混じった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなた・・・・・もしかして・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は思わず息を呑んだ。まさか、野上若菜？<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「野上さん？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">息を切らしながら、彼女はそうだと言った。やっぱりだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『なにやってんだよ・・・・・今、どこにいるのぉ・・・・？』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">どうも、様子がおかしい。若菜はなにかに追い立てられているように、腹立たしげな泣き声を立てた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ごめんなさい、移動中だったの。・・・・・どうかしたの？　朝から、どこか様子がおかしいみたいだけど」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『今すぐ来て。すぐ。話したいことが、あるから・・・・・』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「話したいことってなに？・・・・・電話ではまずいこと？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『いいから、すぐ来てよ！』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜は叫ぶように、言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（どうしよう）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">今、ここを離れるわけにはいかない。しかし若菜の今の様子からも、そちらも放っておくわけにはいきそうにもない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなた今、どこにいるの？　もし、なにか切羽詰ってることがあるなら、本署の方に」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『あんたじゃなきゃだめなの！　いつでも連絡してって言ったじゃん！　来いよ！・・・・・来て、お願い、やばいの・・・・』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">菅沢の携帯が、鳴り出した。周囲を見渡す。それらしい誰かが来る気配はない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「すぐ行くわ。どこにいる？・・・・・・わたし今、池袋にいるの。あなたは」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『西口公園・・・・・おっきなエスカレーターのある劇場の下、トイレ・・・・早く、急いで・・・・・』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">最後は消え入りそうな声になった。小さく、咳き込む。彼女の身になにが、起こってる？　迷っている暇は、なかった。エスカレーターに群がる人並みを掻き分けて、西口公園を目指す。話からして、新芸術劇場の地下トイレだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">菅沢の電話が鳴り響く。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「五分ほど席を外すわ。緊急の用事よ。・・・・・少し待って」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">相手は返事をしなかった。否も応もない。薫は電話を切った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">将棋台を囲んだホームレスと、大学生がたむろする公園。薫は走った。どうして彼女はトイレにいる？　トイレから、どうして薫に助けを求めている？<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">新芸術劇場は、一階のフロアから最上階に直通でのぼる長いエスカレーターと、地下のギャラリースペースに降りるエスカレーターに分かれている。若菜が呼んでいるのは、地下、その奥にあるトイレだ。打ちっぱなしのコンクリートの壁を伝いながら、薫はどうにかそこにたどり着いた。この早い時間、使用中のトイレは入り口側の一室だけだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫はさっきから、何度も電話をかけなおしているが、彼女は着信に応じない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ブーン、ブーン、と熊蜂が漂うような、低いうなり声のバイブ音が、そのドアからかすかに響いてきていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「野上さん」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ドアには鍵が掛かっている。薫は彼女の名前を呼びながら、トイレのドアをノックした。中からはすでに返事がない。上から中を覗き込んで、薫は、はっと息を呑んだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜が、倒れている。辺りに血を、撒き散らして。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">白いセーターの袖。赤黒く濡れた手首。血まみれの指で、彼女は力なく、それを握っていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「野上さん！」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫はすぐに、携帯で応援を呼んだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">野上若菜はトイレの中で、右の手首を切って倒れていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">それが自分でやった傷だと言うことは、状況から考えても明らかだった。彼女がもたれていた便器の脚の下に散らばった数枚の替え刃があった。呼び出し音とディスプレイを光らせて床で時計回りに回転していた携帯電話、そのいずれも、血にまみれた若菜の指紋がついていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">自殺者が恐怖に思い余って、電話で助けを求めることはよくある。生と死を分ける二つのツール。その両方に若菜の手があったということは、それがそのまま彼女の混乱と不安の深刻さを表していた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">意識不明のまま、搬送された。手首を切って、薫の携帯電話にコールするまでの間、かなりの時間が経っていたらしく、薫が抱き上げたときには、その身体から体温はほとんど失われていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">所持品の生徒手帳で、若菜の血液型が判った。若菜は薫と同じ、Ｂ型。彼女の名前を呼びかけながら、薫は救急車に乗り込んだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「水越」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の報告を受けて間もなく搬送先の病院に現れた金城は、唖然とした顔になって彼女に聞いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大丈夫か」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ええ、わたしは・・・・・大丈夫、平気よ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そう言ったが、薫はほとんど放心状態に近かった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「手首を切ったのは、亡くなった嶋野美琴の同級生だったらしいじゃないか。お前・・・・・まさか、偶然通りかかったわけじゃないよな？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・ええ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は、静かに肯いた。今となっては遅いかもしれないが、もう話すべきだと、彼女は思った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どう言うことなんだ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は金城に、今までの動きすべてを話した。塚田、菅沢からあぶり出した、嶋野美琴の裏の顔。満冨悠里と野上若菜の二人のこと。そして、菅沢の情報提供者で、事件に深く関わっているはずの最後の関係者・・・・・北浦真希。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なんだよそれ・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">さすがに金城も顔色を失うくらいの戸惑いを見せて、言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうしてそんな重大なこと、今までみんなに隠してたんだ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「マキの正体が分かるまで、あなたにも伏せておきたかったのよ。・・・・・実は、わたしが見た悪夢が、わたしに『マキ』の存在を気づかせる、最初のきっかけになったから」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">もはや、呆れられてもいい。薫は夢の話もすることにした。事件発生から、ここ何日にも渡って、執拗に薫を脅かした、美琴の死の悪夢のこと。現実との不思議な符号。そして、ついに接触を果たすことになっていたかもしれない、「マキ」のこと。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城はそれを、余計な相槌ひとつ挟まずに聞いてくれた。長い間背負っていた荷を、やっと降ろせた気がしただけでも収穫だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の話の切れ目に、眉根を寄せて深くため息をついてから、金城が最初に口を開いた一言は、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お前がなにか悩んでたのは、察しがついてたよ。どっか様子もおかしかったしな・・・・・だがなぜもっと早く、おれだけにでも話してくれなかったんだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ごめんなさい。・・・・・わたしも最初は半信半疑だったの。悪夢に導かれて・・・・・調べるとそれがどんどん、本当のことになっていって、それを認めるのも怖かったからかもしれない」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「昨夜、お前が式場下のトイレの前で、誰かと騒いでたのを上から見てたよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">突然、金城は言った。薫は、はっとして金城を見返した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「相手は今日、手首を切った例の女の子か？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城は処置室のほうにあごをしゃくった。薫は無言で肯いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「その件は、黙っておいたほうがいいだろう。・・・・・ことによっては、証拠もない違法捜査で、関係者を脅迫したせいだと思われるかもしれないからな。ただ、それがなくてもまずいぞ。一課長は夕方から緊急記者会見を開く予定だと。あのとき現場にいたお前は、間違いなく事情を聴かれる。そのとき、どう答えるかだな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜と自分との関係について聴かれることは、うすうす、覚悟はしていた。しかし迷っていたのは、今までの経緯をどう説明したらいいのか、と言うことだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おれは・・・・・お前が今した話は、かなり信じられる線だとは思うよ。あの子と、もう一人いた満冨悠里って子、それにもう一人が深く事件に関わってるって言う、お前の話も筋が通ってると思う。だがもし、お前が追ってた子が死んで、違法捜査でお前がその槍玉に挙げられるとなると、たぶん、その線で事実関係を洗うことも、難しくなってくるはずだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・そうね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城の言うことはいちいちもっともだと、薫も思った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ともかく、お前の話は出来る範囲でおれの方でも洗ってみるよ。怨恨がもとになってるとしたら、ネット仲間より人間関係は洗いやすいからな。話では主犯は、その北浦真希って子なんだろ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・まだ全然、自信持って言える範囲じゃないんだけどね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「上出来だよ。手が空いてる仲間に声かけてみる」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ありがとう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城はなにか他に、薫にかける言葉を捜そうとしたが、見つからなかったのか、頭を掻いてから、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ちょっと休めよ、薫。早くそれ、着替えたほうがいいぜ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あ・・・・・・うん」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">今、気づいた。若菜を搬送してきたときのまま、薫はずっと、血まみれだったのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">病院を出た直後に上司から電話があった。無期限の自宅待機。上司が直接、薫に事情を聞くのは後日と言う。若菜が手首を切った状況についての事実は、初動捜査を担当した刑事に話をしてある。そうなった詳しい経緯は別として、今は、目の前の事態を収拾しなければならないのだろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">被害者の親友が、葬儀の後に自殺を図ったのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">緊急のニュース速報を伝える声の中を、どこか他人事のように聞きながら、薫は帰途に着いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">いつのまにか、夕陽が赤く射していた。ドアを開けて中に入ろうとした瞬間、菅沢の携帯電話が鳴った。「非通知」だった。すぐに薫は通話ボタンを押した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『・・・・・もしもし』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">相手は今日の、若い女の声ではなかった。男だった。薫は怪訝そうに眉をひそめる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「誰なの？　菅沢？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『・・・・・ああ、菅沢ね』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">？　相手は言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『君のお陰でやつには迷惑してるよ。・・・・・昨日も会ったが、電話を返してくれ、ってしつこくおれに、泣きついてきてな』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">トントン、と背後から肩を突かれ、びっくりして薫は背筋を立たせた。反射的に距離をとって身構える。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大変だったな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">いつのまにか真田が、電話を持って立っていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なにか用ですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「様子を見に来た。あれから、どうしてるのかと思ってね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君の同僚に聞いた。どうやら、君のせいで、嶋野美琴の関係者が自殺したらしいな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">無言で、電話を切ると、薫は真田にそれを投げつけたい衝動に駆られた。それでもどうにか無視して、ドアの鍵を探す。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「死んだのは、野上若菜か。彼女は死んだ嶋野美琴と、もう一人、満冨悠里って子と、つるんで、やばいことしてたんだろ。若菜が死んで、菅沢はがっかりするだろうな。これでまたしばらくは、誰もやつの原稿を買ってくれる編集者はいなくなる」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">鍵が見つかった。強引に、薫は鍵穴にねじ込んだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・彼女はまだ死んでいません。輸血もしたし、まだ五分の状態だと医者は言ってました」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どちらにしても失態は、接触を図りながらみすみす彼女を自殺に踏み切らせてしまった、君の責任になるだろう。菅沢の言うことを信用して、君は野上若菜を追い詰めた」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「責任は甘んじて受けます。主張すべきことは主張して」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ついに耐え切れずに、薫は口火を切った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「でも、それが今、あなたになんの関係があるんです？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・今日の野上若菜を含む三人は、人に頼んである夜、自分の同級生をさらわせたそうだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は、急に違う話を始めた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「集団でバンに押し込めて、山奥に連れて行って、レイプしようとした。犯行に参加したのは、上は二十八歳、下は十六歳まで合計四人。中には森田勝行って言う、横浜で路上強盗の前科のある少年も含まれてる。下北沢でクラブをやってる、澤田由紀夫って男が人数を集めたそうだ。・・・・・・ちなみにこの澤田って男は、売春クラブの一件で菅沢があげてた奥田の高校の同級生らしい」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「計画が実行に移されたのが、三月の六日。嶋野美琴が塾からの帰宅途中になにものかに拉致され、殺害後、自宅近くのゴミ捨て場に遺棄される事件が起きる、ちょうど二日前だ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・どうして」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">今。なぜ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「真田さんはそのことを？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「これは菅沢から聞いた話だ。だから君にも、聞く権利がある」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田はスーツのポケットを探ると、煙草を取り出して、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「その日、狙われた同級生は進学塾へ行く途中におびきだされ、四人にバンでさらわれた。だが不思議なことに、次の日、無事に登校してきたし、暴行を受けた様子も見えない。普通に学校に通っていたそうだ。さらに事件後、森田はじめ、犯行に参加したメンバーは全員行方が分からなくなっている。・・・・・ところでこの同級生だが彼女が誰だか、君には心当たりがあるか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「マキ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">思わず事実が判明したショックに半ば自失して、薫は答えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・北浦真希」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">答えた、と言うより、ほとんどつぶやいた印象だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そう、北浦真希だ。どうも同級生の証言によると、そのことがあった夜以来、彼女は様子がおかしくなっていたらしい。だがそれが、精神に傷を負ったり、塞ぎ込んだりした感じではなくてね。奇妙な話なんだ。・・・・・・多くの人は彼女が、別人のような印象になった、と証言している」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「奇妙な符号だろう？　ちょうど、一年半前、嶋野美琴が言われていたことと、同じことを、彼女は言われているんだ。なぜ、彼女は変わったのか・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「真田さん」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田の言葉を遮るようにして、薫は言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「分かりません・・・・・あなたの目的は一体、なんですか？　どうしてこの事件に・・・・・わたしに深く肩入れするんですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君に肩入れしてるつもりはない」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">意外そうな顔をして、真田は首を傾げた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「仕事は違うが、君とおれは同じ方向を向いている。中々、いい目の付け所だと言っただろう？　おれは、嘘は言わない。まあ君は近々、今の事件の担当を外されるみたいだが」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「真田さんには関係ない・・・・・何度も言わせないで」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「捜査を続ける気があるなら、おれは君を救うことが出来る。ただ、今の捜査課でなくこっちに入っておれの指示に従ってもらうが」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「弱みにつけこむ気はない。好きにすればいいさ。君の処遇も、近日中には決まってくるだろうし、その間少し休むのも、決して悪い考えじゃない」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マキの正体<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ついに、野上若菜の意識は戻ることはなかった。もともと、そんな予感がしていた。今となってはあのトイレの記憶は遠く感じられたが、彼女の自殺は追い詰められて決意したもの、と言うよりは、誰かに強制された色合いが強いように思えてならなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">あの場には、二人の人物がいなかった。言うまでもなく、満冨悠里と北浦真希だ。少なくとも一人は、近くまで来ていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">あれは緊急事態にあわてて薫に電話したものか、それがどう言う意図のものかは分からなかったが、若菜だけがあの場に残された。彼女は誰かのスケープゴートにされたのだ。薫は彼女を救えなかった。どんな処分を受けても不服はなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ほどなく、事件の担当から正式に薫は外された。処分が決定するまで扱いは、自宅謹慎になった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">処分を受け、自宅へ帰ると電話に、母からの伝言が入っていた。兄の晴文が戻ったらしい。無言で、自室に引き籠もっているという。父親との冷戦状態が解消したわけではないので、一件落着と言うわけにはいかないが、一応、安心はした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">受話器の奥で父親がなにか話したがっていたが、事件の捜査があるということで、先に切った。たぶん、薫が単独捜査で処分を受けた件を小耳に挟んだのだろう。別に何も、意見を求めることはない。　<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">菅沢の携帯には、二度と着信は入らなかった。若菜の事件が騒がれている。魚は、逃げた。捜査線上にもまだ、満冨悠里の名前は浮かんではいないようだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城とは不定期に二、三度、連絡を取り合っている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『野上若菜の件で、彼女の両親から警察に事情を聞きたいと申し出があったよ。今度の件で学校側も捜査協力に難色を示すようになってる。ほとぼりが冷めるまで、こちらとしては大人しくしているしかないな。お前が言ってる線を探るのは、しばらく無理だ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「北浦真希の件は？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『お前が聞いた、レイプ監禁云々の話は漏れてはこないな。もう学校は春休みに入って、彼女は自宅から二駅先の進学塾に通っているが、別に変わった様子はない。それは本当に確かな情報なのか？』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田から聞いた情報だとは言えず、薫は口ごもってしまった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">北浦真希の生徒証の写真が、薫のもとに届けられた。そこに写っている黒髪ショートの女子高生は、確かに薫が学校と美琴の葬儀場で二度も接触した、あの少女だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">やはり彼女が、北浦真希だ。彼女が、「マキ」。二人の少女の死に、関わった。たぶん、あの場にもいた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">不思議なことに悪夢は、その夜から再び復活した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫もこのままでは、引き下がる気にもなれなかった。ある日、真田の指定した番号に彼女はコールすることにした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『分かった。・・・・・じゃあ、早速仕事にかかろう』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は言った。オフィスに来いとも言わず、いきなり待ち合わせの場所と時間を指定してきた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『初仕事だ。君の働きを期待している』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なにをするんですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『そうだな』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と真田は歌うように言い、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『まずは、柄を押さえる』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・誰のですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『決まってるだろ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">愚問だと言うように笑うと、真田は言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『「マキ」のだよ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">指定された場所に、真田は現れなかった。いいようにあしらわれたのではないかと、正直、薫は思っていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">界隈はひどく、物騒な場所だった。盛り場と言うでなく、抜け道のような裏通りでもない。寂れた駅の沿線にある、荒れ果てた裏路地だ。シャッターの下りた店舗が目立つ一本道に通じたＴ字路の境は、潰れた駐車場になっている。唯一営業しているように見える個人経営の楽器屋の店先まで、五百メートルはあるだろうか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">夕暮れどき人気は極端に少なく、明かりもない。風景が、無人の暗室にいるように赤黒く暮れなずんでいる。人目につきたくない取引や接触を果たすのには、絶好の場所だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は車でやってきた。フィルムを張った黒のセダン。こんなところに長く停めてあると、職質されそうな怪しい車両に見えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ミラー越しに真田が隣に乗れと、指示していた。薫は助手席に乗った。真田一人だった。ここからどこでなにをするかは分からないが、夕日も落ちきって、大分冷えてきている。真田を疑った十五分で身体はかなり固まっていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「合図があったらすぐ出るぜ。準備は出来てるか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">わけが分からないまま、薫は肯いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ここで・・・・・なにをするんですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「言った通りさ。身柄を確保する。『マキ』のな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ここで？　『マキ』を捕まえる？・・・・・こんなところでですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は不審そうに辺りを見回した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君の言いたいことは、大体分かる」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は、平然として言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「北浦真希の身柄を確保したいなら、彼女の自宅に行けばいい。それで済むはずだ。ただそれはもし、今、拘束できる理由があったなら、だろう？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">困惑している薫をどこか楽しむように、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君はおれの指揮下に入った。ちゃんと、君の上司にも話は通してある。おれの指示に従って、まずはそれなりに役目を果たしてくれないと、困るな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は言った。ちょうど、無線機に入電した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「入ったか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田が聞く。真田の班員がどこかで張っているのか、対象者が動いた、と言う知らせがノイズとともに返ってくる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「よし、そのまま目を離すな。いいか。・・・・行くぞ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の返答も聞かずに、真田はドアを開けた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君はあっちだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">？　まごまごしながら真田について出た薫に声が飛ぶ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「反対側の路地から中に回ってくれ。早く。君はあの、角の通りを塞ぐんだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、指示通り走ろうとする薫に、真田は小さな塊を投げて寄越した。二十二口径リボルバー、実弾の入った拳銃だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「これは？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「護身用さ。・・・・・・場合によっては撃ってもいい。迷うな。始末書の心配は、無しだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">こともなげに言うと、真田は走り出した。薫もそれに従う。拳銃を携帯した経験はほとんどなかった。まして、発砲が許されたことなど。大体、捕まえるのは、ただの女子高生のはずだ。そもそも、こんな時間、こんなところにいるはずのない。どうして？　薫に答えをくれるものは、鈍い夕闇の中、すでに誰もいなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">路地からは、暴走族でも暴れているのか、若い男たちの怒号が聞こえてくる。捜査員たちはその声を頼りに、なにか右往左往しているようだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田に指定された角を曲がると、そこは古びたラブホテルが建ち並んでいるだけだった。声だけが聞こえてきた。囃すような声、笑い声。そして、たまにあれは・・・・・悲鳴か。女のものではないように思えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（どうすればいいの？）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は無線機を与えてはくれなかった。緊急で間に合わなかったのだろう。それほど、薫には期待していたわけではないのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">やがて、ホテルの裏から何者かが飛び出してきて薫と鉢合わせた。茶のブレザー、紅いリボン。チェックのスカート。北浦真希だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなた・・・・・・！」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">声をかけて、薫は二の句が告げなかった。本当に、現れた？<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・刑事さん？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">不思議そうに、彼女は小首を傾げた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「待って・・・・・待ちなさい」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その姿はこんな場所では、ひどく違和感あるもののように薫には映った。「マキ」も、薫の姿に気づいて一瞬、びっくりしたようだった。盗みをして走り出てきた猫のように、彼女は立ち止まった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なにか用？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">相手は言った。＝電話口の声。感情の抑揚の少ない、真水のような声音だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「こんなところで一体、なにをしてるの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">あなたこそ。と言うように、「マキ」は薫を見た。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あの日、待ってたわ・・・・・池袋駅の南口で」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は、余計な駆け引きなしで「マキ」にぶつけた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「菅沢の情報提供者はあなたでしょう？　あなたは、あのとき、野上若菜と満冨悠里を証言者として同席させようとした」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そうだとも違うとも言わずに、彼女は黙っていた。怒号が遠くに聞こえる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたのせいで二人死んだ。それは、疑いない事実よ。あなたは彼女たちにどんな恨みを持っていたの？・・・・あなたの目的を教えてちょうだい」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「恨みなんか、別にないわ。・・・あなた、勘違いしてる」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼女は言った。薫の剣幕に比べると、道端で盛り上がらない話をしているようなテンションだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「二人が死んだのは、自分たちの責任よ。彼女たちが、たぶん、ゲームに負けたから。つまり、そう言う仕組みなの。美琴も若菜も、死ぬべくして、死んだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ゲーム？　ふざけてるの？　あなた、おかしいわ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そう？　あたしが言ってることは・・・・・ただの事実なんだけどな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の目の前に、彼女の指が突き出された。とっさに薫は身構えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたも見たはずよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">どこかで。と、彼女は言った。その指は彼女自身のこめかみにいって、そこを軽く、二、三回、突いた。彼女は薄く微笑んだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「悪夢は消えた？・・・・・よく思い出して。美琴は、・・・・・あの子は、どんな風に死んだのか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">気がつくと、また同じ風景の中にいた。毎夜毎晩、薫を誘い込む風景の中に。男たちが、笑いさざめている。携帯電話を持ち寄り、吊るされた少女の遺体の写真を撮りつつ、「ゲーム」について話している。やつらは、言う。口々に。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そう。これは、ゲームだ。それに従って彼女は殺された。ゲームには、事実を正確に管理するために厳格なルールがある。彼女は、たぶん、それに則って殺されたのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いいか、これはフェアな、ゲームなんだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">誰かが言う。彼を知っている。彼は、鶴見だ。もう一人が言う。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ハズレを三回引けたら、助けてやる」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「再開の合図を受信したら、第二ラウンド再開だ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">男たちの手には、携帯電話が握られている。その憑かれたような眼差し。物欲に燃えた目、餓鬼の亡霊。ぼんやりとしていた男たちの顔が、はっきりと吊るされた薫の目に映りこんでいく。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「止まりなさいっ！」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は拳銃を構えた。両手で、狙いがぶれないように。反動を覚える。射撃訓練で教わった、基本中の基本をまず思い出した。マキは、はっとした顔ひとつ、しなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">まるで弾丸など、自分を殺す力はない、とでも言うように。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「手を上げて！」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の声には殺気が籠もっていた。なぜこうなったか分からない。悪夢。悪寒。そして憎悪。繰り返し刷り込まれた感情の高ぶりが、怒りが、一気に噴出して、彼女にぶつけられたのか。それでも平然と、彼女は銃口を睨んでいた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「止まらないとあなたを撃つ・・・・・あなたを確保するわ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、彼女は言った。マキとの間は、いつの間にか十メートル近くも離れていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「撃てばいいわ。たぶん、当たると思う。・・・・・・ちゃんと、人を撃った経験があるなら」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「撃てないと思ってるの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ぎりぎりの、はったりだった。撃たない理性くらいは残っている。それに日本の警官は無闇に拳銃を携帯しないし、発砲しないという前提で、厳然たる規則に縛られている。真田は無造作に拳銃を渡したが、薫には元来、街中で発砲すると言う意識それ自体がなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">端から威嚇だと思っているのか、まるで動じる気配がない。ただの女子高生が？　そんなはずはない。まさか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「聞かせて」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">銃口を下に向けながら、薫は聞いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたや、嶋野美琴になにがあったの？・・・・・どう見ても普通じゃないわ、あなた。・・・・・まるで」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「別人みたい？・・・・うん・・・・ほんと、そうかもね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マキは言った。冗談を言ったようには、聞こえなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「みんな、変わるみたい。しかも、本人も予想もしなかった方向に。イズム・・・・これは、そう言うゲームなの」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「イズ・・・・・ム？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">イズム？　なにを言っているのだ、彼女は。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その瞬間、マキの背後から、誰かが走り出てくる気配がした。応援か。薫は、そこで初めて我に返って顔を上げた。そこにいたのは、どう見ても、スーツ姿の応援の捜査員ではなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">身長、一八〇センチ以上の。目を血走らせた、外国人の男だった。南米系、見たところブラジル人。罵り声は英語ではない。紫色のパーカーに、ジーンズ。普通ではない興奮の様子から、薬物を使用している独特の雰囲気がうかがえた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">追ってきたのは、やはりマキだ。彼女の姿を見つけて、男はなにか卑猥なスラングをわめき立て、襲い掛かってくる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">止めないの？　と言う風に、彼女は肩をすくめた。一呼吸遅れて、薫は拳銃を構えなおした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ブラジル人は、殺到してくる。このまま両足を引っこ抜いて、マキを身体ごとさらって行きそうなスピードだった。止めないの？　彼女が仕草で薫に合図したのは、自分自身のことらしかった。<span></span></span></p><p></p></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[警視庁　ＩＴ特別捜査官(上)　パズルのピース１]]></title>
                <description><![CDATA[<p>20××年。世界各国は、第12次諜報戦に突入。政府組織は機能不全に陥り秩序は崩壊。財産、生命、時間全てが電子化され、ギャンブルゲームで全てを奪い合う時代になった。国家はその威信をかけてIT犯罪一掃にでる。警視庁警部補水越薫は所属2年目にして、犯罪組織ISMへの潜入捜査を受ける。IT武装化したマフィア、深まる謎、駆け引き、CIA、MI6の干渉・・・管理社会がいきつく果ては、倫理が崩壊したカオスであり、結局強者が弱者を暴力で支配する地獄だった。サスペンスホラー小説。353ページ　読了時間約4時間（1日30分で8日楽しめます）</p>]]></description>
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                <pubDate>Wed, 03 Sep 2014 18:36:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[サスペンス小説]]></category>
                <category><![CDATA[警視庁]]></category>
                <category><![CDATA[マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[未来世界]]></category>
                <category><![CDATA[ギャンブル]]></category>
                <category><![CDATA[ホラー]]></category>
                <category><![CDATA[CIA]]></category>
                <category><![CDATA[世界戦争]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「だからなに？　マキがなに考えてるかは分からないけど、わたしたちにどうこう出来るわけないし、あいつがなにを言おうとしたって、誰も信用するはずないでしょ。これは、そう言う話なの。・・・・・あんただって、それくらい分かるでしょ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜は泣きべそを掻いているのか、半ば嗚咽している。さすがに悠里の方も万策尽きたようだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうやってびびってると、今に本当にあんたの言うとおりになるかもね。そしたらどうする？・・・・・そのときは若菜、あんたに責任はとってもらうからね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">捨て台詞。悠里は、若菜を置いてトイレを飛び出してきた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「待ってよ、あの子・・・・・本当にやばいんだってば・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">遅れて、若菜が追いすがる。悠里は振り向かない。とっさに男子トイレの入り口に隠れた薫を顧みようともしなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「待って・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">今しかないと、薫は思った。続いて出ようとする若菜の肩を、薫は急いで引き止めた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「待って」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・や・・・・・何？・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">反射的に若菜は薫を振り切ろうとして、愕然とした。誰に話を聞かれていたのかを、若菜は瞬間的に理解したのだ。振り返ったみるみる、若菜の表情に明確な驚愕の色が広がった。落とせる。反応だけなら、これだけでも十分なように思えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「わたしの顔、憶えてる？　野上若菜さん」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「知らない」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">間髪いれずに胸元から取り出した手帳が、彼女の次の動きの絶好の牽制球になった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたたちが、今していた話に興味があるの。・・・・どこかでお話うかがえるかしら？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜は片頬を吊って、無理に笑った。混乱が、去っていない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なに言ってるの、刑事さん。・・・・・あたし、別に悠里となにか話してたわけじゃないし」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「二階のトイレは空いてるわ、野上さん。たぶん今もね。葬儀の真っ最中に誰も席を立つ人はいない。すぐに戻らなくちゃ。こんな遠くのトイレに籠もって満冨さんと二人で一体、人に聞かれて困るような、どんなことを話してたの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「は？　なに言ってんの、あたし別にそんな話とかしてないし」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜は薫を振り切って歩き出そうとした。ここで話を流されたり、応援を呼ばれたりすると困る。薫は一気に切り込むことにした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「調べれば分かることよ。あなたたちが今話した内容をたどっていけばね。『マキ』についても、あなたたちがその子に何をしようとしたのかについても」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたたちが奥田と言う男を使って、渋谷の真篠、と言う男が仕切っていた売春クラブの縄張りを取り仕切っていたことも、あらかた調べがついてるわ。・・・・・・あなたと満冨悠里、故人の嶋野美琴が、どうやらそれに積極的に関わっていたと言うこともね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜の腫れぼったい顔に、動揺の色が走った。もともと、彼女は迷っていたのだ。満冨悠里がここにいたなら、手こずっただろうが、彼女だけなら、根拠の薄弱なこのネタも効果を発揮した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「『マキ』と言う人物が、この事件に深く関わっていることも、わたしたちは掴みかけているわ。美琴を殺したのは確かに複数の男性グループの変質者かも知れないけど、彼らを集めて指示を下した人間は別にいて、そいつが主犯だと推定している。わたしたちの目的はその人物で、あなたたちが不法な行為に関わっていたことに興味はない。ことによっては不問にしてもいい。それにあなたたちがその人物に脅威を感じているのなら、話し次第では、あなたたちを保護することも出来るし」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">保護。その言葉に、若菜は明らかに心動かされたらしい。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「聞くわ。まずはこれだけ答えて。美琴を殺したのは、『マキ』？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">かすかに。ぶるぶると、若菜は首を左右に振った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「違う？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼女は泣いていた。もう一度同じ仕草をして、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「分かんない・・・・・分かんないよ・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「分からないってどう言うこと？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は辛抱強く聞いた。頭を抱えて、若菜は答えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「はっきりそうだって言えない・・・・・・見たわけじゃないから。でも・・・・・たぶん・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼女は脅威を感じているのだ。だからこその動揺のはずだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたの意見でいいわ。『マキ』が美琴を殺した？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜の答えを聞くのには、しばしの時間が掛かった。葛藤を振り切って告白に踏み切る人間の沈黙の綱が切れるのを、薫は辛抱強く待った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">こく、と若菜は肯いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">許して、マキ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">美琴の絶叫が、再び、薫の脳裏に木霊す。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうして・・・・・あなたはそう思うの？・・・・・あなたたちがその子・・・・・『マキ』になにかしたから？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜は答えなかった。躊躇の理由はなんとなく分かる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「話は聞かせてもらった。何か、法に触れるようなことなのね？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">法に触れる、と言う言葉に若菜は反応した。今から、硬く口を閉ざす決意をしようとしたかのように。機先を制するかのように、薫は急いで言い足した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたたちがその子になにをしたかはこの際、問題じゃないし、わたしには興味もない。答えはイエスかノーよ、それだけ答えて。あなたたちは、『マキ』に何か、復讐されるようなことをしたのね？　だから、彼女が美琴を殺した、張本人だと思ってる」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">長い沈黙の後、ようやく若菜は肯き返した。ふーっ、と二人は同じタイミングで大きく息をついた。若菜は胸に溜まったものをついに吐き出してしまった脱力感、薫はようやくここまでたどり着いて一息ついた疲労感。若菜は目を反らし、薫は彼女を睨みつけた。再び、事実に立ち向かうために。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたたちと『マキ』の諍いはなんとなく察しがついてる。だから話したくないことは話す必要はない。まず、どう言う経緯であなたたちがそうなったのか、その関係を話して」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・あたしたちと」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜は言った。虚脱したような表情だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あたしたちとあの子はなんの関係もない」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なにも話さないのは通らないわよ。一から話してほしい？　亡くなった嶋野美琴を含めた、あなたたちが法に触れる行為を取り仕切っていたということと・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あの子とあたしたちは、もともとなんの関係もないっ！」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">辺りに響くような震える声で、若菜は言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ただ・・・・・ただ、美琴がマキならいいって。あの子なら、意気地なしだし、存在感ないし、どんなことしたって黙ってるし、周りの誰も気にしない・・・・・・そうやって言うからっ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼女の胸のうちを一瞬にして、激情がほとばしり出ていった。白いセーターを着た小さな肩がぶるぶると震えていた。落ち着け。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（・・・・まず、わたしから）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">自分に言い聞かせるように薫は心の中で唱えると、われを失った若菜の嗚咽が落ち着くのを待って、慎重に話しかけた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・じゃあなぜ、あなたたちはなんの関係もない子にそんな、ひどいことをしようとしたの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そんなこと、あんたに話しても分かるわけないでしょ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「事実以外のことはね。なら、わたしから聞くわ。こう言うのはどう？　あなたたちは『マキ』に無理やり売春をさせた」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「馬鹿じゃない・・・・・そんなことしてるわけない」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・なら」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜は首を振った。薫と同じ。悪夢を、振り払うように。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あたしはこれ以上、なにも話さない。話す気はない」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「『マキ』の報復を受けてもいいのね？　あなたが恐れていることが、これから現実になっても？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">応えはない。感情の鬱積を放出しつくしたせいか、今度は一転して硬い表情になり、そこから何も読み取れそうになくなった。取り乱してまとまった話が出来ないのも困るが、冷静になられるのもそれはそれで困る。若菜を落とすことで、聞き出すべき最低限の一点を、薫はまだ聞き出していない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、薫は、一旦、呼吸を外すことにした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「頭を冷やすことはなにも悪いことじゃないわ。必要なら、もう少し考えてから、結論を出してもいい。罪を得ても、最低でも命があるうちに。二人でよく相談するといいでしょう。・・・・・・ただ言っておくけど、そう遠くないうちに、わたしも、あなたたちのことを助けられなくなる時が、必ず来るわ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の最後の脅しはそれなりに、効果を発揮したようだった。それはまだ、若菜が五分五分の地点に立っていることを明らかにした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「一応、渡しておくわ。選択肢は増やしておくだけでも、安心出来るでしょ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫が差し出した、番号のメモを若菜は無言で受け取った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・もう、行く。いいでしょ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">メモに目を落としてから、若菜は上目遣いで薫を見た。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ええ、もちろん。・・・・でも、最後にひとつだけ教えて。『マキ』のことを。彼女はあなたたちの、なに？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「同級生。同じ学校の」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「クラスとフルネームは？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・キタウラ。キタウラ・マキが本名。クラスは・・・・知らない。あたしはなにもあの子のこと知らないの。本当に」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜は言った。そして、それ以上は本当に何も話さない、と言う姿勢を示すために、顔を背けた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「もういい？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ええ、ありがとう。手遅れにならないうちに、あなたからの電話、待ってるわ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜は手で払うような仕草をして、薫を振り切ると、虚脱したような雰囲気で、ふらふらと去っていった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（・・・・・同じ学校の同級生）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そして、やはり女の子だ。「マキ」の正体が判った。口ぶりでは、美琴がよく知っている様子だった。キタウラ・マキ。しかも彼女には、美琴たちに復讐するなんらかの動機があったと言う。ついに、尻尾を掴んだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">もちろん、喜ぶのにはまだ早い。若菜の話の裏づけを取らねばならない。「マキ」の周辺を洗うことが次の仕事だ。幸い、美琴と同じ学校の「マキ」のプロフィールは、事前に押さえてある。キタウラ・マキ＝北浦真希。これだ。すぐに発見することが出来た。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">北浦真希、美琴とは同学年のＧ組。Ａ組の特進クラスにいる美琴とは一見、なんの接点もなさそうだ。【被害者（美琴）との関係】についても、一行だけ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「美琴とは一学年のとき、Ｄ組で同クラス」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">としか、書かれていない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜はさっき、「マキ」と自分たちとは、なんの関係もない、と言っていた。だがもしかしたら、それは若菜と悠里に限ったことで、美琴だけが、「マキ」と深い関わりを持っていた？　そもそも、事件発生時の美琴の交際範囲には、浮上しなかった人物なのだ。だからこそ、薫は「マキ」を美琴の裏の顔の関係者と睨んだのだが。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">上が騒がしくなってきた。出棺が始まるのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・あっ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">しまった。薫は、はっとした。そう言えば大分時間が経っている。若菜と同様、自分も持ち場をそう長くは離れてはいけない立場にいたのだ。会場に戻らなくては。金城にまた、迷惑をかけてしまう。薫が一歩、引き返そうとしたそのときだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ドン、と重たく突き上げるような衝撃が、薫の胸を襲った。悪夢がやってきたのだ。まさかこんなところで、こんなときに。吐き気を催すほどの強い力は一瞬で、薫の抵抗力を奪い去った。もしかしたら、今度こそ、ここで死ぬのではないか。そんな恐怖が、薫の脳裏を何度もかすめた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（・・・・・待って！）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">せっかくここまで、あなたを殺した「マキ」のことを突き止めたのに。どうして？　こんなところで。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">苦しさに、薫はついに膝を突き、床に伏せた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（誰か）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">声を上げることが出来たなら、なんのためらいもなく、薫は激痛に絶叫していたろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">無惨な爆死を遂げた、美琴の断末魔が耳朶の奥に蘇った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（死ぬのはいや・・・・）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">いやだ。死にたくない。誰もがそう思う。だが、誰もが、その一縷の望みをかなえられるわけではない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫が死を覚悟した、まさにそのときだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「苦しいの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（・・・・・・誰？）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">霞のように薄い声が、薫の頭上に降った。誰？　続いて、ふわりと、なにか暖かいものが身体を包んでくるような気配がした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">誰か呼んで。そう、薫は言おうとしたが、当然、それが言葉として形作られるはずもなかった。どうやら若い女の声と気配だが、その雰囲気は不思議と落ち着いていて、こんな状況にもかかわらず、なぜかそこを動く様子もない。なにやってるの早く。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫が訴えようとした瞬間、ごく自然な所作でその手で彼女の裾を探って、ブラウスの中に差し入れられた。薫がはっとする間もなく、相手は双つのふくらみの間にある患部を見つけ出し、乳房ごとそこをぎゅっと握った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「顔を上げて」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その声は、ＥＲで処置する看護士のように明確な意思で、薫に指示を下した。苦しい呼吸の中で、薫はなすすべもなくそれに従うしかなかった。しかしなんとか顔を上げて、相手が誰か知ると、再び薫は愕然とした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">高校生なのだ。彼女は、美琴と同じ学校の制服を着ている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「動かないで」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼女は言った。それは依然、断固とした意思を持った声だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（この子）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">喘ぎながら、薫は思った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（知ってる・・・・見たことある。・・・・・確か美琴の学校で）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">すれ違った。廊下で。そのどこか浮世離れした空気感がどこか印象に残っていた。そうだ。あのとき、悪夢に捕えられた。わたしの手帳を拾ってくれた、あの、女の子だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おねがい・・・・・救急車を呼んで。胸が、苦しいの」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「心配ないわ。・・・・・このまま、静かに呼吸を整えて」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼女は言った。ここを動くつもりはないと言う意思表示のため左右に振った。何を言うのだと、薫は思った。彼女はここを、動く気はまるでない、そう言うのだから。自分だけでどうにか出来ると思うの？　なにを根拠に？　そんなことは、絶対にありえないのに。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ふと、薫の呼吸に不思議な変化が兆した。空気が胸に入ってくる。呼吸が出来る？　信じられない。薫は目を見開いた。どうしたことか、手を当てられていただけで、胸の激痛もみるみるうちに治まっていったのだ。悪夢の起こる予兆は去って、すでに影も形もない。驚きに心乱して、薫は彼女を見返した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その様子を見て取ったのか、彼女はすぐに支えていた手を離した。薫は深い息を一回、大きく吐いて自分を取り戻した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あ・・・・ありがと」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼女は、取るに足らないことだという風に、小さく息をつくと、ちょっと肩をすくめた。やっぱりだ。あのとき廊下ですれ違った、薫の電話を拾ってくれた、あの不思議な空気の女の子。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「悪夢を見た？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼女は、有無を言わせない口調でこう言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「見たのね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ええ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・やっぱり」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼女は言うと薄く唇を緩めて、笑った。違いの少ない連続写真を見せられているように、変化はかすかだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「見た・・・・嶋野美琴。あの子が、どうして死んだのか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">反射的に肯いてから、薫は、はっとした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうしてそのこと？・・・・あなたが知って・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「見れば分かるよ。・・・・・だって、そんな感じだったし」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼女は意味の通らないことで薫をからかっているかのように、悪戯げに首を傾げてみせると、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「よくあることだし」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（・・・・・どう言うこと？）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">意味を答えずに、去っていった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その夜、薫は何日かぶりに夢も見ずに熟睡した。意識を失うほど深く眠ったのは、本当に久しぶりだった。まるで台風一過の夜明けのように、悪夢は影も形もなく、薫の中から立ち去ってしまった。開放されてはじめて、その恐ろしさが分かる。断続的に、突然、繰り返し襲ってくる美琴の死のイメージは、確実に薫の神経を研ぎ澄まし、確実にその芯まで蝕んでいた。昨夜のようにひどくなる前に、精神科に行くことも真剣に考えていたのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は倒れこんだベッドのシーツを直しながら、立ち上がった。甘く快い、疲労感の残滓がまだ身体にまとわりついている。鈍磨した神経の物憂い温かさが気持ちいい。昨夜深夜、シャワーを浴びずに寝てしまった不用意さを、後悔する間もないくらいに。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ダイニングテーブルの上の飲みかけのビールの缶を、薫は苦笑しながら流しに移した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">熱いシャワーが、健全な判断力を回復させる。単独捜査の進展が、実を結んだことを今は、単純に喜ぶべきだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マキ＝北浦真希に、なんとかたどり着いた。まだはっきりしないながら、野上若菜の証言はかなり有力だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">動機のあるこの同級生が、犯行の張本人の可能性は高い。彼女が美琴たちとなんらかのトラブルを起こし、ネットで参加者を募って、事件を起こさせた。これで一応の筋は通っている。主犯を取り押さえる証拠さえ得れば、解決まではあと、ほんの一歩だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城には今日中にでも、相談を持ちかけようと思っていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">鮭茶漬けにインスタントの貝の味噌汁で朝食をとりながら、携帯電話をチェックする。まだ、どこからも着信はなかった。昨日、若菜は確かにかなり動揺してはいたが、それほど早く転びはしないだろう。帰ってから満冨悠里に相談したとなると、まだ落ちるまでは時間が掛かりそうだが、別にこっちが焦る必要はない。北浦真希と彼女たちの背後関係を洗えば、おおよそのことは分かってくるはずだ。それにしても、彼女たちは、真希になにをしたのだろう？<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そうだ。ふと、気づいて薫はバッグから菅沢の携帯も取り出した。予感めいたものでなく、失念したことを思い出した。それがまさか、薫が爆睡しているうち、着信が入っているとは思わなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">午前二時から五分の間に二件。二つとも、「非通知」。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は自分のうかつを恥じた。他人の電話を持っているということは、どうしても意識の外に置かれやすい。そのために着信音もバイブもマックスにしておいたのに、気づかないとは大失態だ。あわてて、薫は中を確認した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">二件目には留守録メモが入っている。薫は急いで再生した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『・・・・・菅沢さん』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ピーッ、と言う受信音の後、出てきたのは、若い女の声だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『寝てる？・・・・珍しい・・・・いいネタを掴んだの。起きてからでもいいから、折り返し電話をちょうだい。待ち合わせ場所を指定する。折り返しのナンバーを言うね・・・・』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">録音にもかかわらず、薫はあわてて手帳とペンを引き寄せた。女は機械的にナンバーを二回、繰り返した。連絡のそつのなさは、簡潔で無駄のない、実に馴れた手際だった。有無を言わさない感じ。菅沢が手玉にとられていたのが分かる。声は若いが、一体、何者なのだろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「マキ」。そうかも知れない。菅沢はそんな名前の女は知らない、そう言った。過剰な反応の否定だった。今思うと不自然だったかもしれない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は迷わず、そのナンバーにコールしてみた。朝早すぎるかもしれないと思ったが、その心配は無用なようだった。ものの数回のコールで電話がつながった。出たのは、やはり連絡してきた若い女の声のようだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『・・・・・もしもし』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は黙っていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『あなたにしては上出来・・・・・朝早いけど。おめでとう、ちゃんと間に合ったね』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">朝早いせいか、心なしか声には籠もった響きが感じられる。シーツを動かす音。たぶん、向こうも今、目を覚ましたに違いない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『とっておきのネタよ。有力な証言者を同伴する。取材用のテープレコーダーを必ず持ってくること。今から詳しい、待ち合わせ場所を指定する。・・・・・・メモを用意して』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ＯＫ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">声をひそめて薫は言った。相手はそのまま話した。池袋西口・・・・東部デパートの地下、噴水広場の腰掛。・・・・・エスカレーターのちょうど裏側のカフェの前。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『今から約二時間後、午前九時に。・・・・・絶対遅れないでね』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そのまま電話が切られそうな気配になった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「待って」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">思い切って薫は言った。切られるなら、もともとだと思った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「緊急時の連絡方法は？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">案の定、電話口から漏れてきた女性の声に相手は戸惑った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『あなたは誰？』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「菅沢の代理よ。わけあって同じ件を追ってる。彼はまだ・・・・眠ってるの。その間にメッセージが入ったら・・・・・わたしが代わりに出るように、そう、言われてて」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『へえ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">我ながら、つたないアドリブ。しかし、大した不審も持たずに相手は納得した。あまり、興味もないような言い方だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『それなら彼にも伝えておいて。緊急時にはこちらから連絡する。あなたが指定の時間に現れなかった場合、こっちは、あなたはこの件にもう興味はない、そう判断すると思って』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたたちは何人で来るの？　特徴は？　本人だと確認する方法は？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『人数は二人か・・・・・場合によっては三人になる。後の二つの質問については答えるまでもないと思う。あなたが分からなくても、菅沢が見れば、あたしたちが誰だかは分かるはずよ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それはあなたのこと？　それとも、その有力な証言者のこと？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">あくびをする気配がした。眠たげなため息も。相手は、朝早い時間からそんな愚問にどうして答える必要がある、そう言っている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『・・・・あなたが来ようが、菅沢が来ようがこちらにはあまり関係のないことよ。情報を提供する。取引の条件や方法については、あたしが決める。取り交わしたルールはそれだけ。・・・・後、残された問題は、あなたがそれを買えるか、買えないかってこと』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お金が欲しいの？　あなたがこうする目的は一体・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ブツリ。電話は、突然、しかも一方的に切られた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ふりかかった悲劇<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">二時間後、菅沢の情報提供者が現れる。しかも、とっておきらしいネタを持って。それは恐らく、同伴する有力な証言者のことに違いない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">相手は二人か、場合によっては三人で来ると言った。少なくとも一人を証言者とすれば、彼女はその証言者になにを話させる気なのだろうか？<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">考えるまでもなく、薫はすぐに準備を始めた。金城に連絡して、今朝は事情で出勤が遅れる旨を伝えておいた。後から考えれば、本当なら彼女はこのとき正直に事情を仲間に打ち明けて、対応策を検討すべきだった。しかし今。それをする手間すら物憂いほどに、薫は自分の考えに没頭しきっていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼女は。自分たちについては、見れば分かると言った。なぜ？　彼女たちはひと目で分かる。答え、たぶん制服を着てくるから。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">それに菅沢が調べている事件の有力な、最後の証言者と言えば、薫の知る限り、あの二人しかいない。＝満冨悠里と野上若菜。<span></span></span></p><p></p></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[警視庁　ＩＴ特別捜査官(上)　真犯人追跡]]></title>
                <description><![CDATA[<p>20××年。世界各国は、第12次諜報戦に突入。政府組織は機能不全に陥り秩序は崩壊。財産、生命、時間全てが電子化され、ギャンブルゲームで全てを奪い合う時代になった。国家はその威信をかけてIT犯罪一掃にでる。警視庁警部補水越薫は所属2年目にして、犯罪組織ISMへの潜入捜査を受ける。IT武装化したマフィア、深まる謎、駆け引き、CIA、MI6の干渉・・・管理社会がいきつく果ては、倫理が崩壊したカオスであり、結局強者が弱者を暴力で支配する地獄だった。サスペンスホラー小説。353ページ　読了時間約4時間（1日30分で8日楽しめます）</p>]]></description>
                <link>https://ch.nicovideo.jp/22thproject/blomaga/ar614779</link>
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                <pubDate>Wed, 03 Sep 2014 12:57:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[サスペンス小説]]></category>
                <category><![CDATA[警視庁]]></category>
                <category><![CDATA[マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[未来世界]]></category>
                <category><![CDATA[ギャンブル]]></category>
                <category><![CDATA[ホラー]]></category>
                <category><![CDATA[CIA]]></category>
                <category><![CDATA[世界戦争]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田と思わぬ遣り合いをしたせいか、頭の方も一旦冷えて、一歩下がって出直す決心はついた。いわれのない悪夢から始まって独自に洗い直したこの事実について、まだ放棄するのは早過ぎる。そのことも、よく分かっていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ここで諦めるほど、成果が上がらなかったわけでもない。もちろん、大きな壁にはぶちあたったにしても、推理を進める取っ掛かりは出来たのだ。これに確証を伴う裏づけが見つかれば申し分ない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">塚田と菅沢が証言した内容については確かに、金城や捜査本部を納得させられるような話ではまだないが、個人的にはかなり信憑性の高いものだと、薫は思っている。二人の証言内容について書いたメモを要約してみる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">①わずかな期間で、美琴は別人のように変身した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">②そして誰もが持ち得ないような強大な権力を手に入れていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">くしくも無関係の二人の人間が揃って同じ内容を証言していることが、まったくの偶然とは思えない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">もともとのネタ元が塚田の可能性もあるが、菅沢の携帯を薫は念入りにチェックしても、彼はまだ塚田と接触した形跡は見当たらなかった。このことは逆に考えると、当の菅沢自身が例の売春の黒幕について、その正体が嶋野美琴を取り巻く数名のグループであることを知ったのが、ごく最近のことであると言う事実を端的に示している。もともと彼は、取材を諦めていたのだ。期せずして突破口が開けて、狂喜したことは想像に難くない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">菅沢の着信履歴の中に不審な「非通知」が頻繁に登場するようになるのは、美琴の遺体が発見され、事件が報道された前後になっている。言うまでもなくこの「非通知」が菅沢の情報提供者であるとして、タイミングから考えてもこの人物は、嶋野美琴の裏側の顔の、相当深い関係者と見て、まず間違いはないだろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">言うまでもなく、密告者は菅沢が掘り当てたのではなく、取材に頓挫して煮詰まっている彼の元に偶然、向こうから飛び込んできたものだ。彼にとっては確かに、思わぬ救いの神と言っていい。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ただ、その菅沢が運命に与えられたチャンスを、今のところ、満足にものにしているとは、到底言いがたい。暴露情報の発信者として菅沢は、ほとんど無力な存在だ。反対に情報を提供する側にしてみれば、これほど甲斐のない相手もいない。それなのになぜ、この人物は菅沢などに接触したのだろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">情報を流す対象を大手マスコミや捜査機関にしなかったのは、言うまでもなく、真相が追及されたときに自分の素性から罪状までが白日の下にさらされてしまうのを恐れたからとも考えられる。そのことから考えても菅沢はもしかしたら、この提供者の素性を定かには知らされてはいなかったのかも知れない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">非通知で好きなときに一方的に情報を横流しすることで、菅沢に対してイニシアティヴを取ろうとする接触のやり方からも相手が持つ警戒感の度合いは想像できる。なにしろこの人物が流したのは実名入りの、それもかなり具体的なスキャンダルなのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">満冨悠里と野上若菜が恐れているのも、十中八九、この人物だろう。恐らく彼女たちは、この密告者の正体をよく知っており、美琴の遺体が発見された時点で今、自分たちの間でなにが起きているのか、いち早く理解していたに違いない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">だから、警察が動き出す前に売春クラブの事実も含めて後々、自分が不利益になる証拠を始末して回ることに手を尽くしたはずだ。ちょうどあのときの、薫に聞かれてはまずい相談の中身は、削除された美琴のブログやホームページに代表されるような証拠品の始末について議論をしていたと、ほぼ見ていいだろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ところで彼女たちにとっての裏切り者は一向に、警察に駆け込む気配を見せない。今までやったことと言えば菅沢を使って、ネットに暴露記事を載せさせたことぐらいだ。これはもしかすると、それが精一杯だからなのかもしれないとも考えられなくもない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">たぶん、その提供者は、美琴の殺害に深く関わっているのだろう。犯行に当事者かそれに近い立場で立ち会ったか、少なくとも、公の場に姿を現した時点で、そのまま、自身がなんらかの嫌疑を受ける圏内にいるはずだ。知っていることを話すと美琴に手を下した犯人から復讐されるのか、もしくは、その件で確実になんらかの不利益を被ることがあるのか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">売春は公にしたいが、殺人の嫌疑を受けることだけは避けたい。提供者が裏で動きたがる真意は、そんなところだとすれば。満冨と野上、彼女たちも恐れているが、菅沢の情報提供者もなにかを恐れているのだろうか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（『マキ』とは違う？・・・・・じゃあ、あなたは一体誰なの？）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「マキ」の名前に至るまでの道のりはいまだ険しく、ゴールはまだ、見えてきそうにない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（でもまだ届かない場所にいるわけじゃない）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「マキ」は実在するのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">必ず、うろついているに違いない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">満冨悠里と野上若菜、そして薫の周辺を。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">こうしている間にも、悪夢は絶え間なく、薫を責め立ててくる。いまや突発的にやってくるイメージは薫自身の記憶の断片と化し、唐突に薫の意識をジャックしてくるその感覚は、彼女自身の肉体に直接与えられた衝撃に、ほぼ近づきつつあった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">電車のシートにもたれて眠っていたはずの、薫の足は剥き出しになり、宙をかすかに掻いて今、左右に揺れている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若い肌の張りきった裸の足、艶のある黒い毛の萌えた陰阜、これらはみずみずしい光沢を帯びて、まんべんなく、臭気のある液体に浸っていた。まるで失禁したかのように、気分が悪い。冷たい風が一気に空気中に水分を揮発させていくのが分かる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">刺激臭。恐らく灯油か、ガソリン。死を確実にするための補助剤。ちょうど昔、魔女を焚刑に処するとき、素肌にコールタールを塗りつけたと言うのを何かで読んだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">死の使者は、無言のまま足元にうずくまっている。深い緑色のプラスティックケースに包まれた、ホームベースサイズの、無愛想な物体。もう千年近くも岩陰で眠っていた亀のようなボディからは、無数の白い紐が伸びだしており、それはちょうどドアのない戸口の向こうに遠く続いている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なんだよ、また、ハズレかよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ドアの向こうから、うんざりしたような声がした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「鶴見さん、リタイアだね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「残念でしたー」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">息を詰めて見守っていた沈黙から一転、緊張の切れた雰囲気。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「つか、本当につくのかよ、これ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">男たちは談笑しながら、ぞくぞくと戸口から入ってくる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「馬鹿、どこから買ったと思ってるんだ。米軍だぞ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「これ、ヴェトナム戦争かなんかのときの骨董品だろ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「だから、そんなに古くねえって」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いいから、もう一回、よく点検しろよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">舌打ち。談笑。ビールの缶に誰かのつま先が当たる。けたたましい音の無限の反響。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">男たちは、みな、携帯電話を手にしている。朦朧とした意識に視界は霞がかって、そのどれもに印象はないが、とりあえず、面子の中に女性はいない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">このうちの誰かが「マキ」なのか。マキは男？<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">この中の誰が？<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">男たちは吊るされた身体には目もくれずに、血走った目でディスプレイを見つめて、黙々と片指でキーを叩いている。仲間内での和んだ会話の雰囲気から一転、誰もがわき目もふらず、お互い、一切言葉を交わそうともしない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その異様に一心不乱な集中力は、正常な大人が日常生活で失ってしまったもの、すべてを賭けたギャンブルに狂った人間の、ひどく思い詰めた眼差しを思い起こさせた。中には泣きそうな顔で携帯電話にかじりついている男の顔すらある。彼らは決して、この猟奇的な殺人自体に目的を見出しているようには見えなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ちゃんと繋がってるよ。絶対、間違いない」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">足元の声がぼやく。しかし誰も、携帯電話から顔を上げない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なあ、大丈夫だってば」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「本当だろうな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そもそも後、何本残ってるんだよ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">作業から解放された誰かが声を上げた。足元の男が答える。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「一応、あと五本にした」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いいか、これはフェアなゲームになんだ。ブービーのやつも含めて、見て分からないようにまた、ちゃんとばらしとけよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「分かってるっつの・・・・・言われなくても」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なあ、速攻狙いの二人はもうリタイアだろ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そりゃないぜ。不発は仕切りなおしじゃないのか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そんなルールねえっての。負けたやつはそこで終わり。だからこその、フェアなゲームだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">フェアなゲーム？　いったいなんの話をしているの？　それぞれに夢中になったこの場の誰もが、他の人間の意志に応えてくれそうにない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・よし、送信ＯＫだ。折り返し、再開の合図が来る。そしたら、第二ラウンド開始だぞ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「時間のことも考えろよ、せいぜい、あと三十分だ。タイムリミット守らねえと元も子もないんだからよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうふてるなよ。お前、チャンスがなくなったからって」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おい、女、気絶してるぞ。・・・・・早く起こせ。さっきみたいにろくに話ができない状態じゃ困るぜ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「薬、おれ扱えないんだけど」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ぶっ飛ばない程度にやれよ。正気じゃなきゃ、このゲーム、成立しないんだからな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おい、やれよ、鶴見。お前の役目だろ、いい加減にすんなよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「分かってるよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">誰かがやってきた。後ろに回る気配がした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">首筋を掴まれて、あごを持ち上げられる。自然と、弛緩した唇が開いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・効きすぎじゃねえのか、これ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">誰かがぼやく声。側頭葉後野の彼方から、うつろに響いてくる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">自分のすぐ背後の頭上。見守っている誰かがいる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そいつはいつも、訳知り顔で地上の世界を見下ろしている。祈ることでその声が届くような気がするときもあるが、生きている人間にその存在の不確かさや世界の見え方が分かるはずがないのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「来たぞ、すぐに再開だ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">反響も滅茶苦茶に。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「起こせ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">声が響いてくる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">わたしは。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「選ぶんだ。お前の命綱を・・・・・そうだ。・・・・・後三回、ハズレを引いたら、解放してやる」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・聞いてるのかよ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おい、ちゃんと女起こしたのか」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は、いつしかその吊るされた肉体に変わって訴えている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">とうに起きているのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">声を出す気力があったら、とっくにそうしていたろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">血を噴くような絶叫を。全力で身をよじって、抵抗を。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">男たちの姿も見ているのだ。みな、同じ目をしている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「マキ」はいない。ここに。・・・・・それもよく分かる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「マキ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">だが、わたしはその名前を呼ぶ。彼女？　そう、彼女は、わたしの意識の中に最期に、一人だけ残った人間の名前だから。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「準備完了。・・・・・いくぞ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">美琴には出来ない。薫が叫んだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「やめて」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">誰かが、絞首台の羽目板を落としたのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">がくん、と、浮遊、落下する感覚があった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">深い、奈落の底に。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">足が空を掻いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その瞬間、目が覚めていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は、はっ、と声を上げそうになって、あわてて辺りを見回した。夢につられて、身体が落ちていくことに反応してしまっていた。危なかった。また、引きずり込まれたのだ。シートの揺れも匂いも、辺りの喧騒も、すべてはさっきと同じように元に戻ってきている。夢が夢でなくなる瞬間がいつか来るのかもしれない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">美琴が、薫に。他人が味わった死の記憶が、完全に自分のものに。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">例えばもし。やがてそうなるとしたら。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">まだ、心臓が早鐘を打って危機の余韻を訴えている。ずきんと突き刺すような痛みが薫の呼吸を止めた。声にならずに、あえぐ。死を、体感したせいだ。しばらく呼吸が出来なくなった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫と差し向かいのシートには杖にもたれて和服を着た身なりのいい老婆が、うとうとと眠り込んでいた。彼女はそこでそのままもう半世紀近くも、夢の中で安らぎを得ているように薫には思えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その幸せそうな顔を見ながら、きりきりと痛む心臓を押さえこんで、薫は大きなため息をついた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「思ったより時間かかったな、大丈夫だったか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城はすでに、当番の捜査員との引継ぎを済ませて待っていてくれたようだった。弔問客の中に、今のところ不審な人影は見当たらないらしい。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お陰で上手くいったわ。兄と両親との話も、どうにかまとまりそう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">善意の金城に嘘をつくのは、どうも心苦しかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「急にわがまま言っちゃってごめんね。本当に、感謝してる。この埋め合わせは必ずするから」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いいから気にすんな。まあ、肉親でも一緒に暮らしてりゃ、行き違いとかはあるさ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「マキ」を見つけ出して、本当のことを話すことが出来るのは、一体、いつのことになるだろう。気は重いが、めげている暇はない。今日の参列の中にも、「マキ」がいるかも知れないのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それより公安に気をつけろよ。あの真田のやつ、いきなり乗り込んできてこっちの捜査を、大分掻き回してるらしいからな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「捜査に口出されたりして、みんな、ぶーぶー文句言ってるよ。一体、なに狙ってやがんだかな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ふうん」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城は太い首の後ろを手で撫でて、右に傾げた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・真田から、なんか聞いてないのか、お前」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「別に？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫も訝しげな金城に合わせて、不思議そうに首を傾げてみせる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「捜査に出るのに時間もなかったし、すぐに出ようと思ってたから。わたしも、真田さんの話は全然聞かずに断ったのよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「もしかしたらお前が断ったから、腹いせに色々立ち回ってるんじゃないのか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そんなひどい断り方したつもりは、別にないけど」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・あの公安、お前に気があるって話だぞ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「まさか・・・・・・馬鹿なこと言わないでよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は相手にしないと言う風に首を振って、笑い飛ばした。まったく、うかつなことは言えない。また変な噂が再燃しないとも限らないのだ。下手なことを話すと、どんな誤解されるか知れたものではない。金城も冗談めかして聞いてはいるが、そう言うことを聞くとき、言葉が構えているのがよく分かる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（でも、真田さん、本当にどう言うつもりだろう？）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そもそも真田が追っているのは、金融やくざの使い走りのはずだ。それなのになぜ、この件に口を出して回るのだろう。自分の扱っている案件と美琴の事件は、同一線上にある事柄の枝葉だみたいなことを言っていたが、女子高生の殺人事件が海外を股にかけて暗躍する非合法組織のいざこざと、関わりがあるはずがない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ただ薫を引き抜くことが出来ない腹いせのために、捜査課に圧力をかけたり、思わせぶりな嫌がらせをしたりしていると言うのは、それこそ邪推だろう。確かに真田は、お世辞にも平衡のとれた人格の持ち主とは言いがたいが、そんな陰湿なやり方を好む男ではないし、仕事がらみでなければ、他局の捜査に口を出す余裕があるほど暇な身体とは思えない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">それにさっき唐突に現れて菅沢を痛めつけたのは、もちろん偶然のはずはない。単独行動をとっている薫のことも、ある程度知っているような口ぶりだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そのうち、薫のバッグの中身がぶるぶると振動しだした。金城が、怪訝そうな顔をこちらに向ける。薫のではない。菅沢の携帯に着信があったのだ。薫はあわてて、電話を確認した。例の非通知ではない。菅沢本人からのものだろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうかしたか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「うん・・・・・親よ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">メッセージの内容を確認しながら、薫はまた嘘を言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なんだって？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・今、無事、うちに着いたから心配するな、って」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">伝言メッセージには、脅しとも恨み言ともつかない声が吹き込まれていた。真田か薫か、電話を持っているのがどちらか、見当がつかないせいか、かなり遠まわしな脅し文句だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おい、これ見とけよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城が薫の前に四つ折にしたプリントアウトを差し出した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「不審車の目撃証言を洗っていた班の情報をもとにして作成された犯人グループの一人の似顔絵だよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・これが？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「念のためだけど、万一ってこともあるだろうからな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そこには年齢三十歳くらい、薄っすらと無精ひげを生やして、眼鏡をかけた丸っこい顔の男のバストショットが描かれている。この男が美琴の遺体を積んだと思われるバンを運転していたらしい。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">一見して見覚えはなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ついさっき悪夢で見た、男たちの面子にあるかと思ったのだが。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（それほど都合のいいものじゃないのね）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">美琴が薬を使われていたためか、ひどくぼんやりとしたイメージだけが、薫の頭の中に残っているだけだ。言えるのは、男たちは話し振りや雰囲気から、二十代後半から三十代前半くらいの若い男たちで、人数は確認できただけで四人と言うこと程度しかない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『鶴見』と言う固有名詞も登場した。彼はもっとも近く、美琴の傍に寄った。彼の額から下、鼻の辺りまでがどうにか、薫の記憶にも印象としては残っている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうした、薫。もしかして見覚えあるんじゃないか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「え・・・・・うん、少しね。高校のとき引っ越した、ずいぶん会ってない同級生とか、思い出したりしただけ。たぶん、完全に人違いだと思うけど」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「まあ、ありふれたご面相だからな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城は難しい顔であごをひねると、似顔絵の男の鼻っ面を指で弾いて、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「正直、おれもどうも似た顔のやつ、二、三人見かけたことある気がしてならないんだよ。そんなに話もしない、高校の同級生とかな。見たとこちょうど、おれらくらいの年頃だろ、こいつ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">わたしもそんな感じよ、と言うように薫は軽く微笑んで見せた。葬儀なので、歯は見せられない。金城はわざとらしく時計を確認すると、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「始まったらおれ、奥の出口辺りで監視してるよ。なにかあったら、電話で連絡くれよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">胸ポケットの電話をマナーモードして、金城は去っていった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">途端に壁際にもたれると、薫はため息をついた。金城と接するのが辛いのではなく、悪夢の消耗から、まだ抜け切っていなかったのだ。実は背中にびっしょりと汗を掻いている。開け放した両開きのドアから吹き込んでくる春の風に、寒気を感じて薫は身を縮めた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（待って。・・・・・・もう少し待っててくれたら、あなたが言う「マキ」にたどり着くはずだから）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ついに接触してきた相手は<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">やがて静かに、葬儀が始まった。会場を見渡す限りそれは、なんの変哲もない葬儀のように見えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">季節外れの花をいっぱいに活けた祭壇の前、左右に三列ずつ設けられた席のほとんどは、学生服で埋まっている。どこからともなく、クラスメートの女の子のすすり泣きが、式次第の合間の静寂を縫って思い出したように響いて、それが同席した大人たちのもらい涙をも誘っている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">用意された遺影は、薫にも見覚えのあるアングルの写真から起こされたもののようだった。そこには本当に年頃相応の明るさの、ごく普通のかわいい十八歳の女の子が、自分にはなんの疑問もないと言うように笑窪を作って微笑んでいた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">こうしてみると、美琴の周辺に疑問をもって独自の調査をしてきた薫でさえ、菅沢の言い分がまったく根も葉もない、興味本位の中傷に思えてならなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">果たしてそんな美琴が、本当にそれほど得たいの知れない大きななにかを動かすような持っていたのだろうか。つい、一年半前、日本に帰ってきて、独りぼっちだった高校生の女の子にいったい、なにが出来ただろう。クラスでも孤立無援だった。もはや馴染みも愛着もない、日本の学校に行くのが嫌だと言っていた女の子がたったの三ヶ月で急変していく、どんな出来事があるのだろうか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">学校生活に慣れて友達も増え、生来の積極性が再び芽を出してきたと言うならともかく、もともとがそんな女の子ではなかった。あの後、元彼の塚田が何枚か、昔の美琴の写真を添付してメールをくれたが、どれも今、祭壇の遺影で微笑んでいる彼女とは別人のように暗い顔をしていた。それが、どうしてこれほどまでに変わったのか。しかも、考えうる限りの両極端で、だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">学業も学校生活も積極的で、人望があり、生徒会役員に選出されるほど、優等生だった美琴。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">満冨悠里と野上若菜を従え、自分の学校全体だけでなく、都内一円の中高生たちの買春の斡旋を行っていた元締めとしての美琴。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">いずれもが今までの美琴と比べると、辻褄が合わないほど、両極端な変化だ。どちらか一方ならともかくどれもが不連続で、ひどく脈絡がない。生前の彼女は実際、どんな子だったのだろう。今、この場にいたなら、どんなことを思っただろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ちょうど、喪主の父親が挨拶をしている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">二日ほど遅れて到着した父親は、白髪頭が目立つ五十過ぎの紳士で、細長い体格した、どちらかと言えば厳しい風貌の初老の男だった。船会社の重役と言うが、美琴の母親とは大分年が離れており、後添えをもらったのだと薫は聞いていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">どちらかと言えば古風な雰囲気の、国際派のビジネスマンと言うよりは、高級官僚を思わせる無機質な感じの男性で、話し振りや物腰は薫に、自分の父親を思い起こさせた。美琴の父親は出席者の参列に気を遣いつつ、感情のない声で、ただ淡々と弔辞を読んでいる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は、この父親も娘の美琴にはっきりとした関心を見せず、仕事にまい進して家庭を顧みない人だったのではないかと、ふと思った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫がもし、殉職しても父親は、自分の社会的地位に応じたやり方で淡々と警官としての薫を葬ってしまうだろう。それと同じで、冷え切った父娘関係には、隠しようのない白々とした空気が漂う。直感的にそう感じたのは、ただの薫の邪推なのだろうか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">式中、満冨悠里と野上若菜の様子を薫は観察し続けていた。彼女たちがここで、なにをするとも思えなかったが、不審な動きがあれば話を聴くきっかけにもなるだろうとも思ったからだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">満冨悠里は例の固い表情のまま、座りこみ、ずっと前を見ていた。顔を赤く泣き腫らしたような痕跡があるのは、野上若菜だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は見ていて、二人の間に時折なにかのやり取りがあるのをすぐに感じた。折に触れて若菜が、悠里の制服の袖を引っ張って、しきりになにかを話しかけていたのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">雑談というのではない。彼女は必死になにかを訴えかけていた。悠里が静かにしろ、と言うような仕草で再三いなそうとするのに、しつこく袖を引っ張り続けて話しかける。それが小声でしかも、辺りを憚っている感じが見受けられるのが、ますます怪しかった。二人はなにか、誰かに聞かれてはまずい秘密を、話し合っている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">やがて若菜のしつこさに耐えかねたのか、突然、悠里が立ち上がり、彼女を引き立てて外へ出て行くのが見えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">かまをかけるなら今しかない。薫は人並みを掻き分けて先に式場を出た。彼女たちは、トイレで話をするようだ。二人の跡をつけて薫は、様子をうかがうことにした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼女たちはつとめて、人のいないトイレを選んでいる。この式場がある二階のは奥が使用中だったらしく、わざわざ一階の奥のトイレに入り込む。壁際を伝いそっと、薫は近くに添った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ちょっと本当、まず落ち着きなよ、若菜」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">満冨悠里のなだめる声が耳に入る。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あんたが騒いでるとわたしまで不安になるでしょ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「だって・・・・・もう無理だって・・・・・絶対にやばいよ、あたしたち」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">見たところ、若菜は大分取り乱している様子だった。なにが起こったのか。彼女にとって緊急事態が起きたことは確かなようだ。若菜は泣き声になりながらも、一生懸命、今の自分の気持ちを形にしようとするのだが、順序だてて何一つ話すことが出来ない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">耐え切れなくなったように、悠里が若菜の話を切った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お願いだからわけの分からないこと言わないでよ、若菜。冷静に考えて。大体今、わたしたちがどうして危険なの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">若菜は答えない。でも、強くかぶりを振ったようだ。なにかの恐怖に、もうこれ以上、耐えられないと言うように。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・しっかりしてよ、本当に」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">腹立たしげに、悠里はため息をついた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あいつが無事だったから、どうだって言うの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">あいつ？　一体、誰のことを話しているんだろう？<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大体、もう、手は打ってあるんでしょ？　あんたに全部、任したし、あんたも大丈夫だって言ってたはずだよね？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・そうだけど、またもし、あの子が」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「絶対そんなことないから。たぶん、なんかの偶然で、その日は来なかっただけ。それで偶然助かっただけよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「でも、森田くんとも全然連絡つかないし・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">悠里の声が少し、ひそめられた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・こんなことになって、警察が入ってきたから、ばっくれたに決まってるでしょ？　未遂だとしてもあれがばれたら、わたしたちだって、面倒くさいことになるんだからね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「で、でも、だってさ・・・・・マキが話すかもしんないじゃん、警察に。・・・・・あたしたちが、どうにかする前に。・・・・・そしたら、どうすればいいの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「マキ」だ。その名前がようやく出てきた。「マキ」は実在したのだ！　思わず、薫は息を呑んだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「悠里もマキと話したんでしょ？・・・・・あの子、あの夜から別人みたいなんだよ。・・・・・なんか今までと、全然違うの」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・だから澤田さんに連絡して、手打ってもらったんじゃないの」<span></span></span></p><p></p>
<span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「変な雑誌の記者とか使って、探りいれてきてるし・・・・」</span></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[警視庁　ＩＴ特別捜査官(上)　近未来裏社会]]></title>
                <description><![CDATA[<p>20××年。世界各国は、第12次諜報戦に突入。政府組織は機能不全に陥り秩序は崩壊。財産、生命、時間全てが電子化され、ギャンブルゲームで全てを奪い合う時代になった。国家はその威信をかけてIT犯罪一掃にでる。警視庁警部補水越薫は所属2年目にして、犯罪組織ISMへの潜入捜査を受ける。IT武装化したマフィア、深まる謎、駆け引き、CIA、MI6の干渉・・・管理社会がいきつく果ては、倫理が崩壊したカオスであり、結局強者が弱者を暴力で支配する地獄だった。サスペンスホラー小説。353ページ　読了時間約4時間（1日30分で8日楽しめます）</p>]]></description>
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                <pubDate>Wed, 03 Sep 2014 12:56:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[サスペンス小説]]></category>
                <category><![CDATA[警視庁]]></category>
                <category><![CDATA[マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[未来世界]]></category>
                <category><![CDATA[ギャンブル]]></category>
                <category><![CDATA[ホラー]]></category>
                <category><![CDATA[CIA]]></category>
                <category><![CDATA[世界戦争]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">もちろん真田と薫の間には、仕事以上の関係は本当になにもなかった。それは誓って言える。男としてみた場合、確かに真田は社会的地位もルックスも悪くないが、極めつけの仕事人間で、一緒に行動中もはたして血が通っているのかと疑うほど、捜査のことしか考えないし話さない。真田の鬼気迫る仕事振りは、偏執的と言っても過言ではなかった。一週間も仕事をすれば、同性異性関わらず、大抵の人間は辟易するだろうとすら思う。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">別に個人的な関係をもったわけでもないのに犠牲者になった薫が言うのだからこれは間違いない。まして、もう一度一緒に仕事をするなど、二度とごめんだった。今、真田と行動したらそれこそ、寝ても覚めても悪夢と言うことになってしまう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「しかしなんだ・・・・・随分、話が早かったな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">探るように、金城は聞いてきた。金城も例の噂を吹き込まれたクチなのだ。態度を見ていれば、よく分かる。同じ配属になって、結構親しくなったのに、なかなか本格的な攻勢に出てこないところを見ると、どうやらそのせいのようだ。真っ向から体育会系の癖にまったく、意気地がない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「別に」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">わざと険悪な声を出して、薫は挑発した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なんの話だと思ったの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そんなこと、おれには分からないよ。・・・・・ただ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ただ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「困るだろ、お前に・・・・・抜けられたらさ。この事件のうちの捜査課の担当員は、ただでさえ人手足りないんだし」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ふうん」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は、言った。思えば少し、その言葉にかちんと来ていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それって別にいいってこと？　他に人手があれば、わたしじゃなくても」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そんなこと言ってないだろ。って言うかお前・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">むきになってそこまで言いかけて、金城は押し黙った。怒っているのか、なにか照れくさいことを言おうとしたのか、見ると、顔が真っ赤になっている。乱暴にハンドルを使ってごまかしている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">さすがにいじりすぎた、と薫は思った。こっちも思わぬ横槍が飛び出てきたせいで、なんだか絡み性になっていたのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「わたしは降りるつもりはないから、この事件」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">口で絶対言う気はないが、内心で謝りながら薫は言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「だから断ってきたの、きっぱりと。別の事件に気を回す余裕はありません、って」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">それを聞くと、金城はとたんに明るい顔になった。運転まで露骨に変わった。単純すぎるのも、ちょっと考えものだ。正直、薫は思った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">単独捜査は進まない<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『マキ・・・・・マキですか、男か女で？』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「苗字でも名前でもどちらでもいいんだけど、誰か思い当たる人、いないかな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『美琴の友達でマキ・・・・・苗字でも名前でも？・・・・・・いや、ちょっと憶えないですね。すんません』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">電話の相手は、本当に済まなそうに薫に言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼の名前は塚田芳樹<span>(</span>つかだよしき<span>)</span>。嶋野美琴の最初の交際相手だ。香港のインターナショナルスクール時代の同級生の紹介で、彼女とは二年前の秋に交際を開始する。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">年齢は美琴より年上、現在二十歳になったばかりのはずだ。大学生と聞いていたので、まだ在籍しているのだと思っていたが、とっくに中退して、横浜のみなとみらいにある若者向け雑貨のショップの店員になっていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『美琴とは三ヶ月くらいしか付き合ってなかったですね。こっち戻ってきたばっかりで学校にもなじめないとかで・・・・・本当に地味な感じの子でしたよ。友達とか作るのも上手くないみたいなこと言ってたし』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">編入したのが一年生でも、二学期の九月から入ったので、友達はなかなか作れなかったのだろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『勉強とかにもついていけないとかって、よく愚痴られてました。日本の学校と向こうって同じ教科でも習う順序とか、内容自体も違うこと多いらしくて。そのこと先生に話したら、帰国子女で調子に乗ってるって、結構いじめられてたとかも聞きましたよ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「成績も良くって、すごく明るい子だって聞いてたけどな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『どうすかね。とにかく地味な子だったから。がり勉だって聞いてたけど、それは他にすることなかったからで、親とかもそこだけは厳しかったみたいだから一応やってたみたいだけど、成績は言うほどよくはなかったですよ。本当のところ、本人もそんなにやる気もなかったみたいだし』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたと別れたときはどんな感じだったの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『たぶん三ヶ月で日本の高校の雰囲気にも馴染んだって言うのもあったと思いますよ。・・・・・それでも、最後に会ったときはすごく感じが変わってたんで正直驚いたんですよ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「本当？　それはどんな風に？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『いや、わたしはもう今までのわたしじゃないから、みたいなことを言われました。確かに見たところ、なんかそんな感じだったし』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どんな？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『いや、言葉では言えないですけど、外見も目に見えて明るくなってたし・・・・・・悪くなったとかって感じじゃないんですけど、なんか別人みたいになってて』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">二年前のこともあり表現に困った様子で彼は口ごもり、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『あんまりに言うこと変わってて、別れ話もふられたんでこっちも動転してた、ってこともありますけどね』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そのときに誰かの名前を口にしてたりとかは、あった？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『マキ、でしょ？・・・・・どうだったかな。たぶん、そんなのはなかったと思いますよ。自分の話ばっかりで。学校では、なんでも思い通りになるようなこと、言ってましたよ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それについてなにか思い当たることはある？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『ないですよ。いきなりですから』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">一年で美琴が豹変した？　思いがけなく、奇妙な話を聞いた。薫が感じた違和感は、ある意味、的を射ていたのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「美琴さん、ブログをやってたって話だけど、それについては？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『ずっとやってたことは知ってましたよ。学校ずる休みして一日中ネットしてたりとか、ホームページ作ったりとか、もともとパソコンおたくみたいなところありましたから』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「彼女が作ってたブログやホームページ、消されてたんだけど内容とかは知らないかな？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『分かんないですね。おれはそう言うの苦手だったし』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「消されるような内容が書いてあったとかは、聞いてない？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『削除されるようなまずいこと書いたことがあるとかは、聞いたことないですよ。荒らしとか書き込みの悪口が多くて困ってるとかは聞いたことはあるけど、それかなり昔だし』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「最近の接触は？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『全然ですね。こんなこと言いたくないですけどなんか彼女、あんまり良くない噂とかも聞いたんでこっちも距離置いてたところもあったんですよ』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「良くない噂？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『ええ、なんか仕切ってるって』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「学校を？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『それもあるんですけど、池袋とか新宿とかあの辺りのもっと、悪いやつらともつながりがあるって』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城が缶コーヒーを買って戻ってきた。薫は塚田に礼を言って、急いで電話を切った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どこに電話してたんだ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「実家」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫はとっさに嘘をついた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「兄が同居の父と折り合い悪くて、母親の愚痴を聞いてたの。実家から離れて住んでるから、たまには相談に乗るくらい、ね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どこも大変だな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城は、ため息をついて言った。その物憂い仕草には、現場を特定するためのローラー作戦にすっかりうんざりしている色がみえみえだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・で、そのせいで午後から、ちょっと抜けなくちゃいけなくなるかも知れないんだけど、いいかな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そんなに大変なのか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「うん。実は兄がもう一週間も帰ってこないみたいで、母親が心配して、こっちに来ちゃってるのよ。なんとか説得して帰さないと」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城は腕時計を見て、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「夕方には戻ってこれるよな？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「うん、それまでには絶対になんとかする」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">兄の失踪が今日で一週間になるのは、事実だ。朝、電話をかけてきた母と話が出来て本当によかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">菅沢学<span>(</span>すがさわまなぶ<span>)</span>が指定してきたのは、府中競馬場近くの喫茶店だった。薫が到着した頃に、菅沢はまだ到着していなかったので、彼女はちょうど塚田から仕入れた情報をもとに質問の内容を吟味する時間を作ることが出来た。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">菅沢は週刊誌に、犯罪実話などを書いているフリーのライターだ。若者の風俗にも詳しいらしく、ドラッグや売春、暴走族やチーマーなどの噂をかき集めて、著書も二冊ほど出している。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫がこの男とコンタクトをとったのは、比較的早い段階から菅沢が、被害者の嶋野美琴の内実を探るすっぱ抜き記事を嗅ぎ回っていたからだ。警察官が手帳を持って乗り込んでいくよりも、つぼを心得ている聞き上手のプロの方が、意外な情報を掴んでいるものだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">これはあの真田の受け売りだ。もちろん集団作業的な捜査の中で今まで思い出す機会などなかったのだが。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">塚田から思わぬネタを仕入れたので、「マキ」について話を聞ける方向性がより多角的になった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">転校生の三ヶ月で美琴は豹変した。そして今はあまり良くないことをしている。捜査で手に入れた美琴の個人情報とは正反対の話。真偽は確かにまだ定かではないが、「マキ」が隠れているのは、もしかしたら、この方面の人間関係の可能性が高い。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、言うよりは、もはやこの線しかないのだ。でなければまさか菅沢のような人間と接触しようとは考えなかっただろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">喫茶店は、灰色のジャンパーを着た日雇い労働者のような人間たちで溢れている。彼らは無関心を装ってはいたが、時折、人待ち顔の薫の様子をちらりちらりと窺ってくる。やはり女性一人で来るべきではなかった、と薫は思った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">菅沢は、三十分遅れで入ってきた。汚いジャンパーにくたびれた黒のスラックス。指定された場所柄の予想に反して色白の狐目で、眼鏡をかけた三十過ぎの小男だった。大学八年生で中退、文学青年の成れの果てといった感じだ。童顔で、瞳は落ち着きなく、人の目を直視して話すことはごく少なそうに見えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ど、どうも、菅沢です」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の顔を見た菅沢は一瞬だけ、狐目を開き、意外そうな顔をした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・警察の人だって聞いてたけど、本当に女の人が来るとは思わなかったな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そのコメントを聞いて薫は、初手はまずったかな、と、内心思った。菅沢は強面には逆らえないタイプの男なのだ。もし隣に金城でもいれば、呼び出しは効果を発揮したに違いない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「で、なにが聞きたいの？・・・・・警察の方はおれなんかに、用はないはずだと思ってたけど」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">おどおどした敬語口調が、途端に馴れ馴れしくなった。たぶん、書いている仕事柄、こう言うシチュエーションでの女性を扱いなれているに違いない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「まずはこれについて話を聞きたいの」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は言うと、来る途中にプリントアウトして来たネット記事を見せた。菅沢が書いたものだ。見出しにはこうある。『衝撃！　西池袋女子高生リンチ殺人事件　被害者は現役女子高生の広域売春クラブの主宰者』<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">菅沢はちらりとそれを見ると、詰まらなそうに指で弾いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「この売春クラブのネタについては、ずっと追ってた話なんだ。本も書いてる。もともとは、別にそんな真新しいネタってわけじゃないんだけどね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どこの出版社も記事にはさせてくれなかったんでしょ？　だから、腹いせにネット記事にして流したの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「捕まえるなら、捕まえればいいだろ。おれだって言う証拠があるならな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「別にそれが目的じゃないわ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そこで、薫は外すことにした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「で、どうなの？　根も葉もない記事でもないんでしょう？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ああ、と菅沢は外見に反してふてぶてしく、煙草をくわえながら二重になったあごを引き、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「さっきも言ったけど、広域売春クラブの話はおれがもともと追いかけてた話なんだよ。春先に都内に出てくる家出娘をタコ部屋に監禁して、なんて話はよくあるけど、もっと大規模で都内から千葉、神奈川なら横浜辺りまで一大ネットワークを持ってる売春クラブがあるって話でさ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それはいつ頃から？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ここ、一、二年かな。組織がでかくなってきたって聞いたのは」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">鼻から煙を吐きながら、菅沢は言った。許可してもいないのに、ウエイターを呼んでクリームパフェを頼んだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「もともと、そのシマ仕切ってたやつって言うのは、渋谷でいいとこ張ってた男だったんだ。真篠<span>(</span>ましの<span>)</span>って言ったかな。でも、去年の夏かなんかにそいつがいきなりバレてない前科でパクられて、刑務所に入ることになったんだよね。・・・・・それがどうも、不明のタレこみがあったせいらしいんだけど」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「誰かの密告？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「誰かは知らないけど、突然ね。捕まった本人も寝耳に水だったらしいよ。どうも二年前、真篠の女を寝取ったやつがいたらしいんだけど、真篠はそいつを仲間と奥多摩の山ん中連れてって、首まで埋めてきたらしい。そのとき、そいつに一晩中泣きいれさせたのを写真に撮らせたんだけど、なんかの拍子にそれが流出したんだよね。そのものズバリが直接送られてきて、警察が動かざるをえなくなっちゃった。実はそいつその夜以来行方不明で、実家の家族が捜索願出してたんだけど、奥多摩の山の中から死体で見つかっちゃってね。事件に関わった当時の幹部数名から、真篠本人も殺人と死体遺棄で挙げられたんだけど、クラブはそのままそっくり、別の人間の手に渡ったんだと」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それが嶋野美琴だってこと？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いや、奥田ってひとり残ったホスト崩れの男だって話だったんだ。Ｏって匿名でおれの本にも出てるけど、そいつが都内一円のラブホテル経営者の息子でそっくりシマをもらったはいいんだけど、今度は女の子が集まらなくなって困っちゃってね。ああ言う事件の後だから、警察の目もあってそうおおっぴらには動けないし、女の子も集まらないしで、一回だめになりそうになったんだ。・・・・・・それを救ったやつがいて、ここ一年、おれはずっとその後を追いかけてたわけよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それが嶋野美琴」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">菅沢は、はっきりと肯いてみせた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「彼女がそんな裏の顔を持っていたとは思わなかったわ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">大きくため息をつくと薫は、愕然として言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どう思おうと事実は事実だ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・それに関わっていたのは彼女一人なの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いや、おれの調べではあの学校の女生徒はほとんどだとさ。嶋野美琴の周りにいた人間・・・・・満冨悠里と野上若菜は、幹部として女の子の調達や労務管理を任されていたらしい。やつらが持ってくる女の子たちの質は極上で、なんでも言いなりになってトラブルは少ないし、客は喜ぶしで、一気に販路は拡大した。その売春させられていた子の友達を介してまた友達へって感じで増えていって、有名校の現役生や中学生、その下の子もかなり多かったみたいだよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そんなことがどうして今まで公にならなかったのかしら？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なったさ。アダルトサイトの掲示板や口コミで客は、激増してたし、一部マスコミにも取り上げられた。でも、話はあくまで噂の範囲内で、表に出てくる部分も氷山の一角みたいなもんだからね。奥田に女の子を供給しているのが、または売春仕切ってるのが誰なのか、それが分からないことには、結局本気にはされないわけよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">自分の無念を思い出したのか菅沢は神経質そうに顔を歪めた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そんなわけで、おれもずっと、そいつの正体が分からなくて取材に苦労してたんだよ。これはあんたの前であまり話しちゃまずいんだろうけど、おれも客になって、働いてる子からなんとか、話聞こうとしたよ。でもだめだった。そこは本当に緘口令が、徹底してるんだ。客をとらされているのはばりばりの現役なんだろうけど、それ以外なにか聞くのは全部ＮＧで、なかには脅かされてる雰囲気の子も多かったね。絶対、逃げられないって、言ってた子もいたんだ。女の子の管理の徹底振りは本当に骨の髄までで、まったく、素人の女子高生が仕切ってるとは思えないくらいだったよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、そこまで一気に話してから、初めて気づいたように菅沢は急に訝しげな顔つきになって、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・しかしあんた、どうしてこんな話に急に興味を持ち出したんだ？　わざわざおれに、しかも女一人で話を聞きに来るなんて」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたもたぶん、聞かれたらそう言うだろうと思うけど、秘密のネタ元があったのよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">当の被害者本人から。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その言葉を苦笑で飲み込みながら、薫は言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「へえ、興味あるな、それ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">気のない声で言うと、菅沢は到着したパフェを崩し始めた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「このネタ、最初はすごく、人気が取れたんだ。話題性としても十分だったし、黒幕が現役の女子高生のグループだって噂も読み物としては面白くて編集長も乗り気だった。でも、あの事件が起きたら、みんなが引いて、おれは摘み出された。不謹慎だってな。あんな悲惨な死に方した女の子のスキャンダルを暴きゃ、世間の風当たりは強いだろうよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「でも、あなたはそれを真実だと思っているわけでしょう？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ああ、そうさ。おれにだってプライドはあるよ。なんて言われようと、真実は真実だ。それを撤回する気は毛頭ないね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「撤回しないのは自由よ。わたしも、万人受けする表向きの事実だけが、必ずしも真実だとは思ってはいないし」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">鼻を鳴らして、菅沢は灰皿に煙草を突いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「聞きたいことが聞けて、満足したかい？・・・・・・もし、そうなら、せめてここの代金と、取材費の一部をもってくれてもいいんじゃないかな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「質問はまだ終わってはいないわ。菅沢さん。肝心なことをもうひとつ聞きたいの。あなたが、嶋野美琴に関して話した裏情報を知ったのは、誰から？　最後にそれをぜひ教えてもらいたいのよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「え？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">よく聞こえなかった、と言うように顔をしかめて、菅沢は険悪に言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたは黒幕を知ることが出来なくて、苦労してたのよね、菅沢さん。そのこう着状態を打開した情報者は、いったい誰？　そして、いつ、なんのためにその相手はあなたに情報を話す気になったの？　あなたの推測が入ってもいいわ、それを教えてちょうだい」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「馬鹿言うなよ・・・・・だって、あんた、さっき言ってただろう？　ジャーナリストには、守秘義務があるんだよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「守秘義務は違法に未成年と関係を持ったことを話さない、と言う意味じゃないのよ、菅沢さん」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">三流記者が、吹いたものだ。畳み掛けるように薫は言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「最終警告だと思って聞くのね。あなたに選択の余地はない。未成年の買春で捕まるか、わたしの望むとおりの情報を提供するか、ここで二つに一つで選ぶの」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「児童を買春したなんて、証拠はないだろ。おれはなにか言ったかもしれないが、それはあくまであんたが、勝手に聞いただけだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">菅沢は鼻で笑ったが、笑みが引き攣っていた。買春の二文字で、周りで聞き耳立てていた人間が一斉に反応する。ペースダウンだ。今度は噛んで含めるように。薫は落としにかかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それなら、犯罪被害者に対する名誉毀損でも捜査妨害でもいいわ。事件の関係者としてあなたを拘束する。そんなところに潜入取材してるくらいだから、あなたを引っ張れば当然、洗ったら別件の余罪も出てくるかも知れないしね。わたしはあなたじゃなくても別にいいのよ。それらしい人間の名前はもうこっちで押さえてるんだから」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「嘘だ。そんなんだったら、そいつに直接聞けばいいじゃないか」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ここが、かまのかけどころだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ねえ、菅沢さん。わたしの考えを聞くだけ聞いてちょうだい」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、薫は続けた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたの話から判断するに、彼女たちのガードはかなり高いところにあったはずよ。ちょっとやそっとの関係者では、あなたが望む内部情報までリークできない。あなたが関わったのは、この売春の件では嶋野美琴の直接に近い関係者でしょ？　違う？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「さあね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">菅沢は答えない。だが顔に、動揺が現れている。後、一歩だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「わたしはその関係者と言うのが、今回の殺人事件にも強く関わってると信じてる。直接の実行犯じゃないにしても、主犯として引っ張れるほど責任のある人物のはずよ。それはあの、売春クラブの運営に深く関わっていた。例えば、あの奥田って男は」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・あいつはとっくに逃げたよ。美琴が死んだって聞いたら、商売畳んですぐにな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「満冨悠里と野上若菜にも会った。彼女たちは確かに、なにかを隠している様子だった。でも、殺人者じゃない。はっきり言って彼女たちも、なにかを、恐れているふしがあるわ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「誰なんだ、いったい、あんたの言うそいつってのは」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「マキ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なんだって？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">菅沢がとっ外れた調子の声を出した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「だから、マキ、よ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「はあっ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">菅沢の顔にみるみる安堵が浮かび上がった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なんだそいつは、まったく。そんな名前は聞いたこともない」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">安堵は、軽蔑の色になった。呆然としている薫を置いて、菅沢は勝手に立ち上がった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「誰の名前を言うかと思ったら、なんだ・・・・・ガセ情報かよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">軽蔑には事件を追う記者としての菅沢の失望すら含まれていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">まさか。まったくの空振りだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そんな名前の人間は知らないよ。思わせぶりにかまをかけてくるから、どんな人間の名前を出すかと思えば。・・・・笑わせる」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">やっぱりあれは。ただの幻想。薫の作り出した妄想の産物なのか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「憶えとけ。もう二度と、下らんことでおれを呼び出すな。三文ライターだからって甘く見るなよ。今度おれを脅したら、お前の部署に名指しで告発してやるからな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">白い顔を紅潮させて捨て台詞を言い放つと、菅沢は出て行った。重たい木製のドアに取り付けられたドアベルが虚ろなくらい、派手な音を立て続けているのが、薫の空白の頭の中に響いてきた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">やっぱり、でたらめだったんだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マキなんて人間は、事件には存在しない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">捜査に戻ろう。余計なことを考えていた自分が馬鹿だったのだ。さすがに応えた。まさかここまできて無駄骨とは、思いもしなかったからだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">一応、塚田と菅沢の話していたことは、報告すべきだろうか。いや、それこそ、根拠の薄いガセ話と一笑に付されるだろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">菅沢がどう騒ごうと嶋野美琴には、そうした裏の顔は取沙汰されてはいないのだ。週刊誌も相手にしないようなエセライターの言うことを鵜呑みにして主張したら、それこそ、警官として立つ瀬がなくなるだろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">こうなるとマキは、本当に美琴の関係者ではないのかもしれない。そんな人間がなぜ、犯行に関わっているのかは、もはや薫の想像力では推測しようがないが、自分の妄想で片付けるのには、まだふんぎりがつきそうもない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">でも、どうしよう。後は、縁の薄いクラスメートにいちいちあたるしか手はないが、聞き込むのにもその糸口がなければ、マキをあぶり出すことなど、到底出来はしないだろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">約束の時間までまだ大分ある。しょんぼりしながら、薫は切符を買うべく、駅までの道のりを歩いていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">バス停を過ぎ、ひとけのない駐車場を抜けた辺りだ。ふいに、くぐもった男の声がして、薫の注意を引いた。みると駐輪場の陰の八手の茂みの向こうで、男が二人、揉み合っている。身なりのいいスーツを着た大柄の男が小柄な男を締め上げて、なにかを要求しているようだ。恐喝か。身なりのいい男のほうはことによると、そっちの筋の人間かもしれない。いずれにしても見過ごしてはいられないだろう。薫は携帯した手帳を手に、近づいて驚いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">襟を掴み上げられているのは、啖呵を切って出て行った菅沢なのだ。薫を前に威勢のよかった彼は銀縁眼鏡がずれて、泣き出しそうな顔で目を反らしている。もうひとりの男は兎をつまみ上げるやり方で、菅沢の首を根っこから捕えて、離しそうになかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">男の顔をみて薫はまた驚いた。真田なのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">片手で菅沢を持ち上げられそうな真田は世間話でもするような声音で、菅沢に話しかけていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なんだ、会うなり逃げるなよ、菅沢。久しぶりじゃないか」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「さ、さ、真田さん・・・・・あんた、海外行ってたって聞いたけど、戻ってたのか。げ、元気だったかい？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">古い知り合いなのか。口調はなれなれしいながら、にこりともしない真田に対して、菅沢はほとんどすがるような目で、当の真田に救いを求めている。こういうとき、真田は絶対に容赦しない。そのことをよく、知っているのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「肺はよくなったのかよ、もう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あ、ああ、おかげさんで。大丈夫だよ、なんの問題もなくって」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「もう身体に悪いことしてねえだろうな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あっ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">言うと真田はもう片方の手で乱暴に、菅沢の身体をまさぐった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「や、やめろっ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「心配してやってるんだぜ、おれは。結核やってんだろ、お前」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">やがて真田の手から、覚せい剤のパケやシートがぽろぽろと転がり落ちた。土を掻いてでもそれを回収しそうに飛び出した菅沢の身体を引き上げる。小柄な菅沢は折り詰めの寿司の箱のように宙吊りになってもがいた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「相変わらずやばいもん持ってるな、お前」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">パケを拾い上げて指で崩しながら、真田は言った。化学肥料のように土の上にこぼれた白い粉を、火事で家が丸焼けになったような深刻そうな目で、菅沢は見守るしかなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「か、勘弁してよ、真田さんっ。あんただって、もともと、おれに・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は突然、ジャンパーの襟から手を離した。菅沢は内股気味に膝をついて、まだ無事な落し物に這っていこうとしたが、真田がそれを許さなかった。今度は油気のない髪を掴んで持ち上げた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「痛いっ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「喫茶店で女刑事となんか話してたろ。なに聞かれたか、おれにちょっと言ってみろ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「池袋で女子高生が殺された事件の裏話だよ・・・・・どこにも相手にされなかった。死んだ女の子が、都内一円の売春クラブの黒幕だって、情報提供者が出たんだ。おれだって、二年越しにこの話は取材して黒幕の名前を探ってたのに」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「つまり、その情報提供者の名前を知りたがってたってことか。お前、あいつにその密告屋の名前、話したのか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「話すわけないだろっ。これが飯の種だぞ。そう簡単に・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は菅沢の左腕をとって、逆に締め上げた。そのまま菅沢の背中に膝を落として体重をかけ、土下座の姿勢のまま、菅沢をそこに這いつくばらせた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「こんなことしていいのかっ、訴えてやる、人権侵害だっ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「正当に権利を保障して欲しかったらそう言え。別におれはそれでもいいんだ。いつでもそうしてやる。このお前の持ち物とおれの一言で、次は確実に実刑だな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">堂に入った脅しで黙らせると、真田は、菅沢の持ち物の中から携帯電話を取り出すと、片手で番号をプッシュしてどこかに電話をかけた。菅沢の耳元に電話を押しつけ、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ちゃんと言えよ。急に、気が変わってしゃべりたくなったって」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「！」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その瞬間、胸ポケットの薫の携帯が激しく振動した。分かった。なにをさせるために菅沢を痛めつけていたのか、はっきりと。その音に、はっとしたように、真田がこちらを振り向いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・いたのか」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">電話を切ると、真田は言った。見られたことは気にしていない。なぜずっと見ていて声をかけないんだ？　そんな感じの顔だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「真田さん」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">もしかして。・・・・・・二の句が次げない。なにをしていたんですか？　そんな当たり前のこと、聞けるはずがなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ずっと・・・・・尾行けてたんですか？　わたしのこと」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ああ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">だからどうしたんだ、と言う風に真田は肩をすくめて、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君がこの件の捜査を抜けられないのは、どうも個人的になにか理由があるんだと思ってね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">後半は意味のある含み笑いで、薫を見た。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・しかし、まさか独自の線で捜査を進めているとは、思いもしなかったけどな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そんなつもりはありません。わたし・・・・・わたしは」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">下手な言い訳だった。自分でも分かっていた。でも。口に出したら止めようがなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「このことはいずれ、確証が出てきたら上司にも相談するつもりで自分の気になったことを煮詰めていただけです。被害者の私生活の別の面から、犯人像を検討しようと」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「菅沢みたいな三文記者の言うことを鵜呑みにしてか？　なかなか、冒険家だな。つまり言うと、君のところの捜査員は今、全員、検討外れの方針で捜査をしているわけだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「真田さん、この件のことで、あなたがわたしの上司にどう報告しようと、それは自由です。でも」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は息を大きく吸ってから、言った。目の前の男のペースにはまって再度、巻き込まれたくはなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なんと言われようと、わたしはこの件を外れる気はありませんから。それに、はっきり言って二度とあなたには、協力したくないんです」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・なあ、こうなったら分かってくれるまで何度も言うが」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田も大儀そうに息をついて、言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君は誤解している。君がおれに協力するんじゃない。まずはおれが君に協力しよう。そう、言っているだけだ。今のところは」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「その心配は無用です。わたしは、真田さんからなにか協力を得ようとはそもそも思ってはいないし、あなたのやり方には、ずっと、疑問を感じていたんです」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「待てよ。君は別に、おれのすべてを知っている、そう言うわけじゃないだろう？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ええ、確かにそうですよ。わたしは真田さんのことは、よく知らなかったし、今もそう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は肯いた。知らず、感情的になっている自分がいた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「でも、あのとき、あなたのやり方で事件を解決したせいで、新人のわたしは、確実に迷惑をこうむりました。わたしはそれを今でも忘れてない。わたしがあなたのことをよく知らないように・・・・・あなただって、あなたの仕事ぶりで知らずに迷惑をかけた人たちがいることをよく知らないはずです」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君が具体的にどんな話をしているか、おれにはよく分かってはいないんだが、おれと組んだ事件に関してならあれは」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そのとき絶妙のタイミングで、足元の菅沢が一気に立ち上がった。隙をみたつもりだろう、散らばった持ち物を置いて、なりふり構わず走って逃げていった。彼には災難だったろう。不幸は続くものだ。道路に出た菅沢は三叉路から飛び出した赤いスポーツカーにはねられそうになって、若い男の怒号を浴びていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「まあ、いい」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">菅沢に対してか、言い捨てると真田は、持っていたものを無造作に薫へ投げて寄越した。それは菅沢から取り上げた、彼の携帯電話だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「これ・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「持っとけよ。必要なはずだ。色々な意味でな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">お見通しだと言うように、真田は手を振って見せると、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そいつにおれの番号も入れておいた。その気になったら、いつでも連絡をくれ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">反射的にそれを受け止めてしまった薫の様子がおかしかったのだろう、苦笑混じりで覗き込むと、真田は言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・それともうひとつ言っておくが、この件と、おれが朝話した件は、同一線上にある枝葉の事件だ。菅沢と、現役女子高生の売春クラブに目をつけたのは、なかなかいい着眼点だな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あの・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「さっきの話は、今度またゆっくりすることにしよう。・・・・じゃあな。電話を、待ってる」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">受け取ったものを返すわけにもいかずたたずむ薫を一瞥すると、真田はさっさと、どこかへ引き上げていった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">二人の美琴<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">押収した菅沢の携帯電話の中にやはり、それらしい「マキ」の名前はなかった。唖然とした顔をされるわけだ。恥ずかしいが、柄にもない強面の尋問をした、そのつけだと思うしかない。ホームで缶コーヒーを買って一息入れながら、気分を立て直すことにした。<span></span></span></p><p></p></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[警視庁　ＩＴ特別捜査官(上)　容疑者確保]]></title>
                <description><![CDATA[<p>20××年。世界各国は、第12次諜報戦に突入。政府組織は機能不全に陥り秩序は崩壊。財産、生命、時間全てが電子化され、ギャンブルゲームで全てを奪い合う時代になった。国家はその威信をかけてIT犯罪一掃にでる。警視庁警部補水越薫は所属2年目にして、犯罪組織ISMへの潜入捜査を受ける。IT武装化したマフィア、深まる謎、駆け引き、CIA、MI6の干渉・・・管理社会がいきつく果ては、倫理が崩壊したカオスであり、結局強者が弱者を暴力で支配する地獄だった。サスペンスホラー小説。353ページ　読了時間約4時間（1日30分で8日楽しめます）</p>]]></description>
                <link>https://ch.nicovideo.jp/22thproject/blomaga/ar614777</link>
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                <pubDate>Wed, 03 Sep 2014 12:55:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[サスペンス小説]]></category>
                <category><![CDATA[警視庁]]></category>
                <category><![CDATA[マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[未来世界]]></category>
                <category><![CDATA[ギャンブル]]></category>
                <category><![CDATA[ホラー]]></category>
                <category><![CDATA[CIA]]></category>
                <category><![CDATA[世界戦争]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「死んだ人間のこと、悪く言うやつはいないよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それは・・・・・確かにそうだけど」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ついつい美琴の同性の関係者の中に、嫌疑者を探す思考になっている。丸一日一緒に捜査したが、事件に対する薫の視点の方向性は金城とはまったく違うことをつい忘れて話してしまう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「でもあの満冨って子も、少し変なことわたしに聞いたでしょ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ああ、どうやって死んだかって？　野次馬根性だよ、あれはたぶん。まあ、確かに、ちょっとずれた感じの子だったよな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">散弾銃？<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そう聞いたときの悠里の顔が思い浮かぶ。薫の答えに、彼女は満足しなかったのだろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そうじゃなくて。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">あの焦れったげな顔は、薫が彼女の質問の意図をまったく理解していなかったと言うことに対しての不満をはっきりと表していた。薫からどんな情報を得ようとしたのか。それにあの後。野上若菜や他の同級生たちと、あれからどんな相談をしたのだろう。確かに、彼女たちが、なにかを隠していることはまず間違いない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">でも。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">美琴の人間関係図の中に、いまだマキだけが出てこない。マキとはいったい何者なのだ。美琴の話しかけ方のニュアンスからして同級生の女の子の名前のイメージが薫には強いが、もしかしたら苗字と言うことも考えられる。そうなると男か女かも分からなくなる。マキという人物は美琴のなんなのだろう。現在、もしくは過去のクラスメート？　または恋人？　それとも愛人？・・・・・・あらゆる可能性が考えられるし、すべての可能性が追及されえない。薫が調べない限り、このままだと永久に追及されないまま、消えていくだろう。情報のくずかごの中に放擲されて。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の中の美琴の記憶だって、このまま風化しそうにない。これから捜査が、万が一間違った方向に進んでいったとしたならば、それこそ、この仕事を続ける限り永久に解けない枷になるだろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（・・・・・今、やらないと）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">二人はそれからわけもなく無言になり、やがて小さな渋滞に捕まった。折りよく、薫の方の携帯電話が鳴った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「本部か？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">連絡は簡潔だった。現状を報告し、薫はすぐに電話を切る。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ええ、今日遺体が到着したから、父親の帰国を待って仮通夜やって・・・・・葬式の見張りは交代で出ろって」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「変質者なら、被害者の葬儀に顔を出さないとも限らないしな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">同乗の薫を慮って煙草が吸えないことがよほど堪えるのか、目を細めた金城は中指でしきりにハンドルをかりかり掻きながら、独り言のように、つぶやいた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・預かった写真とか成績表とか、葬式のとき、親御さんに返さないとな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">深夜、自宅に戻った薫は、寝酒も飲まず気晴らしのテレビも点けずに、デスクに座り込んで捜査資料と格闘していた。今夜だけと言う約束で賃借した明日返す美琴の資料のすべてを、金城から預かったのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">事件発生から日数が経つが、身元が割れた時点で彼女の関係者のあらましは大方洗い出しが終わっている。薫たち以外の別の班も動いて、現在から過去にいたる、学校内外に及ぶ、主要な関係者はあらかた調べつくされていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">もちろんまだ鋭意、関係者への聞き込みは進める方針だが、日常的に彼女と関係の深い人間たちよりも、ネット上のみで知り合った関係希薄な関係者の洗い出しに捜査の主眼は向けられてきていると言ってもいい。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マスコミ各誌も、この猟奇的な女子高生拉致殺害事件を学校サイトかそれに類する裏サイトのトラブル、または出会い系サイトによる痴情のもつれや変質者のストーカー的犯行と位置づけて、見出しや特集を絞り始めている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">それ以下は論外と言っていい、デマ情報の嵐である。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼女の父親が一流国際企業の重役と言うことで、例えば家庭は崩壊寸前で娘は出会い系サイトを使って援助交際をしていたとか、学校では二年で突然生徒会長になり、女王様のように威張っていていじめられても誰も文句を言えなかったとか、ネットの掲示板の掃き溜めに落ちていたような裏づけの薄い情報が週刊誌を通してそろそろ表の世界にも出ようとしている。いずれも興味本位の噂と憶測、悪意の作り話であり、捜査の参考になりそうな情報はまったく得られなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">しかし、それにしても玉石織り交ぜた嶋野美琴に関する情報の、そのどこにも、まだ、「マキ」の名前は浮上していないのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（・・・・・・覚悟を決めよう）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の中にいる美琴が、唯一の手がかりだと言うように、マキの名前を告げ続けている。悪夢はいまだ、断片的なイメージのフラッシュバックの形をとって、薫を揺さぶり続けている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（とにかくその名前を捜そう。それでもしその名前に引っかかるものがなければ、一応のふんぎりはつくはずだ）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">とは言ったものの、「マキ」はそれほど珍しい名前ではない。確かにありふれた、とは言わないが、まったく聞いたことのないと言う名前でもない。薫も、これまでの人生を振り返れば、マキと言う名前の同級生が、少し考えただけですぐに二人は思い当たった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">嶋野美琴のクラス名簿の中に女の子の名前で二人、苗字なら学年で男と女一人ずつ、マキがいる。もともとがその誰もが嶋野美琴と接点がなく、捜査線上に浮上してこなかった名前ばかりだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（ひとつひとつ、洗ってみるしか手はないのね）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">なにもかも正直に話せば、金城も手伝ってくれるだろうか。なにより、それは難しいだろう。もともと二人とも、捜査の割り当てから外れることなど出来はしないのだ。仕事の合間を縫って、独自にやるとしても確証がなければ、金城が薫にどれほど気があってお人よしでも、話に乗ってきてはくれるわけがない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">何でも構わないから、なにか糸口になるようなものが欲しい。それがあれば。金城も分かってくれるだろうし、上司にも掛け合える。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（そこまで行くのには、やっぱり一人でやるしかなさそう）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">まずは地道に、薫は学校関係者だけで六人いた「マキ」のプロフィールを書き写した。なるべく美琴と接触の度合いが高かったと思われる人物から、あたってみることにしよう。望み薄だが、納得したことで悪夢が治まるようになれば、それはそれで仕事に集中しなおせる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・そうだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">とりあえず美琴が公開しているブログを、薫はチェックしてみることにした。マキと言う名前に注意して読めば、なにか新たな手がかりが見つかるかもしれない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">パソコンが立ち上がる間、空腹に気づいて、薫は冷蔵庫にビールを取りに返した。ドアを開けて、うかつな自分にがっかりする。買い物をしていないので、中はほとんど空っぽだ。特に予定はないが、これでは誰も家に呼べないところだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">今、満足なものはコーヒーに食パンくらい。考えた末、からしマヨネーズで合えた胡瓜の薄切りとハムのホットサンドウィッチに、冷凍庫に残っていたハワイコナのコーヒーを淹れて、つま先歩きでパソコンの前に戻ってくる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">軽く焼いたパンを口に入れながら、満冨悠里から聞き出した、美琴のブログを検索する。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">まだ眠くはないが、濃い目のコーヒーをひとくち飲む。深煎りのコーヒーは丁寧にドリップしたとは言え、燻した古木のようにかび臭い。粉になるほど細かく挽いてあるせいもあるが、この風味は明らかに冷凍焼けを起こしている。しょっちゅうハワイに行く旅行会社の友達に、お土産にこのコーヒーのパックをもらったのは、確か半年以上前もだったことを思い出した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「んん？・・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マウスを操りながら、薫は眉をひそめた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・ない・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">美琴のブログがどこにも見つからないのだ。影も形もない。封鎖された履歴すら、見当たらなかった。薫は考えうる限り、検索を試してみた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（誰かが、急遽封鎖したのかな）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">事件の注目度を考えると、突然の削除はありうることだが。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">無論、本人ではありえない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（でも・・・・・・じゃあ誰が？）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ＨＰや掲示板なども、美琴は運営していると聞いた。それらも試してみるが、つながらない。そのことごとくが、検索不能なのだ。まるで初めから、そんなものは存在していなかったかのように。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">普通こう言うものは、認証パスワードを知らなければいじることは出来ないはずだが。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は自分の直感に打たれ、思わず、はっとした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（満冨悠里・・・・・あの子が？）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そうだとしてなぜ、そんなことを。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">満冨悠里と野上若菜は、なにかを隠している。このことはすでに分かっている。「マキ」のことか。そうとは限らないにしても、もしかしたら、美琴はネット上にすでに、手がかりを残していたかもしれない。彼女たちが相談して、あわててそれを隠した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">警察は押収した美琴のパソコンは調べたが、ネット上の情報についてはまだ全部を把握しているとは言いがたい。彼女たちに先手を打たれたとすれば、これは厄介なことになる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">だがもし、「マキ」が糸口になれば、彼女たちを調べるための決定的な切り札になりえるだろう。さらに、「マキ」の正体が具体化してくれば、金城を動かすことはおろか、捜査を打開する有力な材料にすらなりうるのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">公安の真田<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おい薫、こっち」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">出動前のどんよりとした眠気を胃もたれのする缶コーヒーで紛らわせていると、金城が呼んでくる。手ぶり荒く、珍しくひどく不機嫌な顔をしているのが、徹夜明けの薫の気にも障った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なに？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は、わざと物憂そうに立ち上がった。なにか文句をつけてくるのかとすら思った。薫が近くに来ると金城は、しょげたいたずら坊主みたいに下に口を尖らせて、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「午前中、一時交代だって」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">え？　きょとんとして薫は聞き返した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたが？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・お前だよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">不満そうに金城は中にあごをしゃくり、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「公安のやつが、お前に話があるらしい」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうして？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「知るかよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（公安？）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">まったく、予想外の横槍だった。公安などに用事はないし、関わりたくもない。日本の警察機構において刑事部と公安部は元来そう言う関係だし、薫にしてみれば今は特にだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「待ってんだよ。例の・・・・・ほら、真田ってやつが」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「真田さんが？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">びっくりしただけの薫の声音がぱっと明るくなったように、金城には聞こえたのだろう。不完全燃焼の風呂釜のような、鬱屈した気分を金城は腹に飲み込んで、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お前をご指名だと。早く行けよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、言い捨ててさっさと行ってしまった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">だから、不機嫌だったのだ。そういうところ、時々金城は、本当に、子どもっぽい。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（でも、いったい何の用だ？）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">思い当たるふしはない。薫は、怪訝そうに首を傾げた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田俊樹<span>(</span>さなだとしき<span>)</span>のことは、よく知っていた。公安に関わった人間で、彼の名前を知らないものはそうはいない。外国人グループの組織犯罪の捜査では、知る人ぞ知る実力者だ。噂ばかりではなく、薫は直接、真田の辣腕を実際に見て知っていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田はいわゆる、天才肌の捜査員だ。どこまでも人を追い詰めていく、この仕事が天職なのかもしれない。捜査員としてのカンや、追跡力、人間の迫力や凄みなどからしても、真田に及ぶ人間は、薫の周りにもそうはいないと思われた。捜査課の刑事になりたての頃は薫も、組織の違う人間ながら、重要な示唆をもらったものだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は資料室にいた。出勤した薫が空き時間に、秘密で調べ物をするために漁っていた資料が散在していた場所だ。薫が入ってきたことにはなんのリアクションも示さずに、真田は彼女が置きっぱなしにした資料を熱心に読みこなしていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・あ、あの」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">私物のある部屋に、捜索令状もなしにいきなり踏み込まれたような、気まずい気分を感じながら、薫は声をかけた。真田は、細い銀縁の眼鏡の下の薄く切れ上がった一重で、入り口にたたずむ彼女の姿をじろりと見た。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">公安の人間は極めつけのエリートが多い。真田も薫とそれほど年齢は変わらないはずだが、アメリカの大学を卒業後、一種で警察に入ったいわゆるキャリアのはずだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">警察トップと言うのは、犯人逮捕の体力よりも、ペーパーテストの成績がどうしても重視される傾向にあるため、押し出しの弱い文官タイプが多いが、真田は違う。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">一八五センチの長身は一見痩せてはいるが、薄くしなやかな筋肉でほどよく覆われている。低重心で柔道体型の金城とは種類は違うが、芯の強い鍛えこまれた強靭さを感じさせる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">だがいかにもスマートなスポーツマン的な体格よりも着目すべきなのは、そのたたずまいに備わった得体の知れない迫力だ。真田には、どこか殺気に似た、初見の人を一歩退かせるような凄みがある。公安の捜査員として、捜査をする相手に本能的な恐怖を感じさせるほどの人間的な迫力は重要な資質かも知れないが、ともすれば人格の暗さとも表現できる印象の鋭さは、真田の生い立ちとか、もっと個人的な部分から出ているように思われた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「すみません」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、薫は次に相手がなにか言う前に、畳み掛けるように言葉を継いだ。急いで机の上の資料を片付けようと手を伸ばす。真田が持っている捜査資料も奪いとりたかったが、どさくさに紛れても、そこまではさすがに出来なかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「例の事件の？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は薫の行動を目で制して、聞いた。不承不承、薫は肯いて、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「被害者の資料です。・・・・・・今日の夜、式場でお葬式があるので、そのとき、ご遺族の方にお返ししようと思って」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">念のため最後にもう一度見ているのだ、とまでは言い訳が続かなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「本当に、いい子だったんだな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ええ、学校での人間関係は悪くなかったみたいです」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「親御さんも自慢の娘ってやつだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は皮肉まじりのため息で肩をすくめると、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・で？　そいつが運悪く、ネットの変質者に目をつけられて殺された、と、こう言うことか」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">なぜか含みのある言い方で、ファイルを閉じた。真田にしてはどこか回りくどいと、薫は思った。少しいやな予感もしたが、とりあえず彼女から口火を切ってみることにした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なにか御用があると聞いたので、うかがったのですが」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「人探しに協力してもらいたくてね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">突然、真田は用件を言うと、自分で持ってきた鞄の中から資料を取り出した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「今、例の成田空港の貨物職員殺しを追ってるんだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その話は知っていた。一ヶ月前、小さくニュースに乗った暴力団絡みの殺人事件だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">成田市の雇用救済者用のアパートで、男が殺された。部屋に侵入され、物色された形跡があることから単純な物盗りと思われたが、男の背後関係を洗うと、広域指定暴力団の存在が浮上したらしい。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「一ヶ月前の殺しを追ってるんですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">興味はなかったが、薫は怪訝そうに聞いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「正確には少し違う。あのとき殺された職員と、十日ほど前、偽造パスポートで入国した男の身元が関係ありでね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田が取り出した事件記事には見覚えがあった。確か、十日ほど前のことだ。成田空港で偽造パスポートを使って入国した男が、事前に情報を得て張っていた公安に逮捕された。捕まったのは、広域指定暴力団泰山会<span>(</span>たいざんかい<span>)</span>の直系若頭と言う、大捕り物になった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・実はその大物が確保された隙をついて、逃走した男がいるんだ。公安は今、そいつを追っててね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は視線を下に落とした。そこに、その大物を囮にして逃走に成功した、強運な男の資料がある。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">神津良治<span>(</span>こうづよしはる<span>)</span>、四十二歳。彫りの深い目が少し垂れた、気障な印象のハーフっぽい男。本人は盃を受けたやくざではない。その手先でベンチャー企業などへの融資や株式市場の操作などで暴力団の資金を運用する、いわゆる企業舎弟だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">もとは大手証券会社を退職後、某ＩＴベンチャーの起業に参加、資金の調達、運用などを担当していた。この頃、暴力団と関わりを持ったのだろう。会社倒産後は本格的に暴力団の資金運用に携わり、香港、シンガポールの華僑ともつながりが深い。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「つまり、その男を捜すのを、わたしに手伝って欲しい、とそう言うことですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は露骨に感情をこめた声を出して、真田に問うた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「せっかくですが、わたしは本筋の捜査があるのでそこから外れて真田さんに協力することは出来ません。それに」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・もちろん、今やってる君の捜査を外れてまで、協力してもらおうとは思ってないよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「暴力団ならわたしの専門外です」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は少し、困ったような顔をした。だが、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君の上司には掛け合ったが、別に悪い返事じゃなかったがな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田の語尾に被せて、薫は聞いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大体どうして、わたしなんですか？　暴力団や組織犯罪に詳しい人間なら、わたしのほかに適任が山ほどいるはずです」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「その理由を、一言で話は出来ない。また、君にする義務も本来ないんだ。・・・・・それに勘違いしてもらうと困るんだが、君に頼みたい仕事は、神津の逮捕それ自体とはまったく違う種類のものでね。つまり」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「この事件の担当から外れる気はありませんし、専門外の事柄で足手まといになるのも、不本意です」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「何度も言うが、仕事で余った時間でいいんだ。休日返上とは言わないが、まさかそんな時間もないわけじゃないだろう？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は、薫が積み上げた資料に目をやった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「その通りです。余った時間もないくらいなんです」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫はあわててそれらを引き取った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ここで一言では語れませんが、わたしはこの事件に思い入れがあります。だから、他のことを考える余裕もないくらい忙しいんです。協力を要請するならぜひ、他の人をよろしくお願いします」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なんだか、話に行き違いがあるみたいだな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真田は、眉をひそめてため息をつくと、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「仕切り直そう。そうだ・・・・・ここじゃなく、どこかでゆっくり、もう一度はじめから話を聞いてほしい。時間を取ろう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「失礼します」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">資料を抱えたまま一礼して、薫は部屋を出た。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">部屋の外に、金城が待っていた。突然の薫の退出に、びっくりしたようだ。たぶん、捜査に出るふりをして聞き耳を立てていたのだろう。ちょっと滑稽なくらい、彼は焦っていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「な、な、なんだ、話は終わったのか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「うん」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城の態度に気づいていないふりで、薫は肯いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「たいした話じゃなかったから大丈夫。それより、交代はなしになったから、わたしと出てくれないかな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お、おう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城ははりきって、準備を始めた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">どうも、薫とあの公安がくさいぞ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そう言われた時期があった。まだ、新米刑事のときだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">南口の新芸術劇場付近で売春をしていた、韓国人の立ちんぼがホテルで殺される事件があった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">違法にキャッシュカードのデータなどを盗み取るスキマーと言われる小型の機械を使った犯罪が、ちょうど多発しはじめた頃で、この立ちんぼも一緒にホテルに入った客の財布からカードのデータだけを読み取って売り渡すのを副業にしていた。商売柄、風営業を中心にこの手口は拡がっており、その手の店が多い池袋でも摘発が相次いでいるときだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">背後に韓国マフィアと思われる海外組織が関わっているということで、事件に公安が入ってくることになった。言うまでもなくそれが真田だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">新米の薫が、真田の相手をした。公安と刑事は同じ警察でも、違う組織でその連携にはなんとなく壁があるものだ。当時の捜査責任者も、なにも知らない薫を真田につけることで、自分たちの縄張りを侵されないようにしたのだろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">捜査課は被害者の立ちんぼを殺した犯人、真田は被害者に違法行為をさせていた背後の犯罪組織、とお互いに目的は違うのだが、うかつに真田のような余所者に、捜査情報は漏らさないぞ、と言う空気が露骨な形でも流れていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">当然のこと薫は、捜査にはほとんど参加させてもらえず、真田とともに蚊帳の外に置かれた感じだった。もちろん薫は新米で右も左も分からないし、捜査の方針に異論を立てるほど事件に思い入れもない。たまに来る真田のあしらいを任されるだけ、仕事はお茶汲み程度のものでくさくさしてもいた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なあ、君、現場の地理案内でもしてくれないか」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">唐突に、真田が言って薫を現状付近に連れ出そうとした。薫は驚いたが、公安の動きを監視しろとも言われていたので、いやだとも言えないし、せっかく刑事になったのに捜査に参加できない憤懣もあるにはあった。結局それから一ヶ月近く、真田の独自の捜査に、薫は付き合うことになったのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">文句なく、真田は優秀な捜査官だった。あのとき薫には比較するような対象も経験もなかったが、後から振り返ってみても、真田は凄腕だった。収集する情報の目の付け所、事件を再構成するカンの良さ、つぼを得た職質や尋問のテクニックまで、余人の真似できない独特のノウハウを持っていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そもそも公安と刑事では、捜査の目的もやり方も違う。前者は、国家の治安に影響する犯罪行為を行う組織の活動を未然に防ぐ意味合いでなされるが、後者は事件発生を起点にして、原因追求的に過去をたぐって逮捕者をたぐり寄せていくものなのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">しかしそのどちらでも通用しそうな真田の手腕は、天性のものと言ってよかった。ほどなく、目的の犯罪組織ばかりでなく、一課が追っていた殺人事件の犯人まで、真田は挙げてしまったのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">被疑者は組織の下っ端で、痴情のもつれから被害者を衝動的に殺害したらしい。その犯人だけを引き渡すと、真田はさっさと去っていった。評判の真田の凄まじい手腕に、誰もが舌を巻いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ただ、正直なところ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">目の前であれよあれよと事件を解決されて、あの後、大迷惑をこうむったのは薫だった。真田の名捜査のせいで薫が捜査情報を漏らしたせいではないか、と言うあらぬ疑いをかけられたのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あの公安、新入りの薫を上手く落としやがって」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">必要以上に親しくしたのが原因だと、なにもしていないし、なにも知らされていないのに、薫は陰口を叩かれた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（わたしが女だからか）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">一番言われたくないことで、仲間内でミソをつけてしまったのだ。<span></span></span></p><p></p></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[警視庁　ＩＴ特別捜査官(上)　被疑者の回想]]></title>
                <description><![CDATA[<p>20××年。世界各国は、第12次諜報戦に突入。政府組織は機能不全に陥り秩序は崩壊。財産、生命、時間全てが電子化され、ギャンブルゲームで全てを奪い合う時代になった。国家はその威信をかけてIT犯罪一掃にでる。警視庁警部補水越薫は所属2年目にして、犯罪組織ISMへの潜入捜査を受ける。IT武装化したマフィア、深まる謎、駆け引き、CIA、MI6の干渉・・・管理社会がいきつく果ては、倫理が崩壊したカオスであり、結局強者が弱者を暴力で支配する地獄だった。サスペンスホラー小説。353ページ　読了時間約4時間（1日30分で8日楽しめます）</p>]]></description>
                <link>https://ch.nicovideo.jp/22thproject/blomaga/ar614776</link>
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                <pubDate>Wed, 03 Sep 2014 12:54:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[サスペンス小説]]></category>
                <category><![CDATA[警視庁]]></category>
                <category><![CDATA[マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[未来世界]]></category>
                <category><![CDATA[ギャンブル]]></category>
                <category><![CDATA[ホラー]]></category>
                <category><![CDATA[CIA]]></category>
                <category><![CDATA[世界戦争]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">悠里は、美琴が死ぬ前に誰かに付け狙われていたと母親が証言した、と言うことを聞かれて、しぶしぶと言った調子で、学校サイトなどのチャットでうざったいやつに因縁を吹っかけられて愚痴をこぼしていた、などと言うどこかはっきりしない情報を漏らした。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">予想通りの図書委員長で美琴とは違うクラスだが、生徒会の活動を通じて仲良くなったとのことだ。来る途中、廊下に貼り出されていたかなりレベルの高いアニメ調のポスターはすべて、彼女が描いたものらしい。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">一番反応が感情的に見えたのは、野上若菜<span>(</span>のがみわかな<span>)</span>だった。彼女は小学校からの彼女の同級生で、この中では異性に映る自分を意識しだした平均的な女子高生だった。下品にならない程度に染めた髪に薄化粧、ほのかにココナッツの匂いをまとって、爪なども手入れしている。混乱してたどたどしい彼女の話し方はじれったかったが、この中では一番、有益な情報を話した。確かに美琴から、変な人に付きまとわれて殺されるかもしれない、などと言う相談を受けていたと言う。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・こりゃ変質者だな」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城は端的に総括した。調書の意見は、それで大体まとまるだろう。聞いた話の印象だけなら、薫にも異論はない。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（やっぱり、夢は夢か）<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ねえ、刑事さん、ひとつ聞きたいんだけど」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、最後に聞いてきたのは満冨悠里だった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「結局、ミコトはなにで死んだの？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ちょっとぎょっとして、薫は聞き返した。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・あなたの聞きたい内容がよく分からないけど」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">文節で区切ってゆっくりと、彼女は言い直した。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうやって、死んだの？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ニュースで言ってる通りよ」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「散弾銃？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は、曖昧に肯いた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・まだ、詳しいことは話せないの」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マスコミ発表ではまだ、美琴の死因の詳細は明らかになっていない。散弾銃のようなもので射殺されたものと思われるとしている。その悲惨な死はやがて詳細を嗅ぎつかれるだろう。ここであえて、伝える必要はない。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「心配しないで。胸から上は傷ついていないから。ご遺族の方には綺麗にしてから帰したから、お通夜のときはきちんと顔をみて、お別れをしてあげて」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・・」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">なにか不満そうだったが、悠里は肯いた。薫の言った意図はないようだ。ひそめた眉になにか後ろ向きの感情を抑制した痕跡を残してから、彼女は顔を背けた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城が本部に指示を仰ぐべく一報を入れる。同時に掛け持ちの事件に対する打ち合わせもいくつか補足。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫はしばし、外のグラウンドを眺めて時間をつぶしていた。授業で実施しているバレーボールを観戦している。球技大会は二年連続してバレーだった。普通、自分の所属している部活のスポーツは選べないようになっているのだが、薫は剣道部でどれも選ぶことが出来た。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">どこか漠然と、これでいいのかと不安を感じている薫がいた。確かに、現実の捜査の方向性には納得した。状況などから考えて犯人は車で移動している。犯人が高校生だとは普通、考えないだろう。外部の変質者の線でまず間違いはない。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ただ、それは実行犯は、と言う点で納得行くだけのことだ。自由な外出時間と車を持たない高校生でも、誰かに頼むと言う手段をとることも考えられる。犯罪を構成するメンバーから、自殺の同伴者までネットで募集できる時代だ。条件次第ではどこの層のどんな人間だって乗り入れてくる可能性はある。だが。嶋野美琴をめぐる関係者には今のところ、その仮説を裏付ける肝心の彼女に深い怨恨を抱いている人間が見つかりそうにないのだ。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の夢の中で。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">美琴は、自分の負けだと言った。一方的に変質者に付きまとわれている人間なら、こんなことは言うはずもない。降りるとも言った。降ろして、とは吊るされている状態から降ろして、と言う意味だけでないのかもしれない。負け。降りる。降ろす。なにか別の意味も含んでいるのだろうか。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">だめだ。どうしても、考えてしまう。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（誰かに相談したい）<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">だが、薫だけが勝手に体験した、夢の中での話など、誰が信じるだろう。他の捜査員にあれを、納得いく形で見せることが出来たなら、誰もが薫の見方を支持しただろうとは思うが、一方的な自分の主観を理解してもらうより、それは無理な話でしかない。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（金城が言ってる通り、やっぱりどうかしてるんだ、わたし）<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そう思いつつ、のめりこんでいくのはそのせいだ。あれほどリアルに、被害者とシンクロしてしまうことがあるとするならば、どんな捜査員も、客観的な状況判断に支障を来たすだろう。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、なるとそれこそ、やっぱり。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（・・・・・カウンセリングを受けた方が、いいのかも知れない）<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">突然、薫の胸ポケットの携帯が激しくバイブした。金城が呼んでいる。ため息をついて、彼女は歩き出した。一階の廊下の踊り場の前を横切る。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そのときふと、誰かが薫の前を横切った。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その顔に見覚えがあった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">野上若菜だ。反射的に振り返って、彼女はこちらを見た。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫がいる。それを知ってなぜか一瞬、彼女の表情が一変した。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（まずい）<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そんな感じの、逃げ方だった。今そこで、なにかを話していたのだ。大人に、いや、警察官に話せないなにかの事情。若菜が通り過ぎたのと、別々の方向に向かって数人の女子が、ばらばらと逃げ散っていくのが見えた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その中に、ちょうど、満冨悠里の姿もあった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「待って」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">思わず誰かを引きとめようと、薫は手を伸ばした。誰も応じはしない。小魚の集まる泉に岩を落としたかのように、彼女たちは消えていく。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その直後だった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「許して」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">頭の中。美琴の声がする。視界がホワイトアウトしたままだ。すべてが白くぼやけている。両耳の後ろ、脳の奥の奥が、びりびりと痺れる。空白に埋もれていく風景の中で、苦痛だけが溶けていかない。ぎしぎしと縄が軋む音が、まだ頭の上で響いている。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「仕方なかったんだってば」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・あんたのことさらわしたのは悪かったから・・・・・・謝る・・・・・・謝るから・・・・・もうなにもさせないから」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「だから許して・・・・・お願い」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「殺さないで」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「聞いてるの？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">いるんでしょう？　そこに・・・・・<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼女は言った。唇が震えるのが自分でも分かった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その名前は、わたしも知っている。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そうだ、確かこんな名前だ。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「マキ？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">かつん、<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">と、足元になにかが落下した音で薫は我に返った。胸ポケットから、携帯電話が落ちたのだ。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そこにはもう、彼女が知っている誰もいなかった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">休み時間の喧騒が、幻のように聞こえる。電話を落としてしまった。溺れる夢を見た後のように、薫は息を吸った。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">すると目の前に、突然、薫の携帯電話が差し出された。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は少しぎょっとして相手を見直した。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">いつのまにか音もなくひとりの女生徒が立っている。黒髪をショートにした、不思議な空気の子だった。透き通るように色が白く、猫のような顔の小ささに比して、瞳が大きい。年頃にしてはちょっとなまめかしい、しなやかな身体つきをしていた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">たぶん、階段を降りてきた。だが、いつ来たのだろう。茫然自失としていた薫が気づかないのも無理はないが、こんなに近くに寄られるまで、気配を感じなかったのには、驚いた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">生気の薄い。人形のような綺麗な顔をしていた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">どこか焦点の合わない視線が、薫を見つめている。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あ・・・・・・ありがとう」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">いたたまれずに、薫は言った。それに対しての応えはなかった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ふーっと息をつくと、かすかに肩をすくめ、彼女は電話を薫の手に戻した。後はなにも言わない。その一瞬薫は、自分が仕事でこの学校に来た大人であることすら失念して、ただ呆然としていた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">向こうで金城が呼んでいる。業を煮やしたのかもしれない。大きく手を振っている。すぐに移動の要請があったのか。それ以上その子に構うことをせずにあわてて、薫は駆け出した。そのとき彼女は薫の前を過ぎて外に出るらしかった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は気づかなかった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">それはちょうど。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">さっき横切っていった野上若菜と同じ方向だった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マキを探して<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・おい」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">クラクションに急ブレーキ。身体が跳ね上がる。強引に上下に揺すられた衝撃が、薫の鈍磨した生理感覚を途端に蘇らせる。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「え？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">右折しそこねて不機嫌そうな金城の顔がそこにある。なにかの話の途中だったはずが、どこかに意識が飛んでいたのだ。あわてて薫は注意を戻した。金城のハンドルを持っていない方のごつい手が、左右にふらふらとなにかを持ち上げて、こちらに差し出している。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「信号が変わる。早くしてくれよ。重いんだ、これ」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">手にあるのは、嶋野美琴に関する、時間と人権が許す限りの個人情報を集積したファイルだ。これには他にも何人かの同級生、または美琴が通っていた学習塾の関係者などから聴取した内容や、学校や美琴の母親から借りた、資料のすべてがこの中に含まれている。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・後ろの座席に戻しておいてくれって言ったろ」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ごめん」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">あわてて、薫はそれを受け取ると自分の膝の上に置いた。具を入れすぎたハンバーガーのように、バインダーが書類を吐き出しそうになっている。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そいつももう、かさ張るし、必要もないだろ」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・・」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「これから厄介なことになりそうだしな」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「え？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・なあ、もしかして本当に聞いてなかったのか？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ついに金城ですら、呆れ顔をされてしまった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・ううん、そんなことない」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">いつまでも、調子が悪いという言い訳でしたくはない。どうにかあてずっぽうで、薫は話を合わせた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「学校の同級生の証言でしょ？　母親が言っていた内容と、一致する」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「決まりだな。こりゃやっぱり、ネットの変質者だよ」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城は無線機をあごでしゃくって言った。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「須田の班が、遺体発見の現状付近の目撃証言集めてる。それらしい不審車の情報、もう見つけたとよ」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「本当に？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ああ、不審な黒いバン、午後九時から十時ごろ、被害者の母親が本人のものと思われる携帯電話から危機を知らせるメールを受け取った直後だと。黒のライトバン、バックに改造ウイングがついてる・・・・二十代から三十代の若い男が数名、窓にスモークかかったらしいし、夜だから、はっきりと面は確認できなかったらしいが」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「実行犯はそいつらに間違いないね」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうだな。問題は、主犯がどのサイトでどうやって、彼女と出逢ったかだが」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・例えばだけど」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ここで薫は思い切って、自分の考えていることを言ってみた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それが同じ学校の生徒だとは、考えられないかな」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「うーん・・・・・どうだろうな」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城はブラックのコーヒーをがぶりと飲んだときの、苦い顔をしてから、<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おれたちが調べた限りでは、学校では出てこなかったからな。ずばり、こっち関係とか」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">太い親指を突き出して、また首を傾げた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おれらの世代じゃ、ああ言う学校のマドンナみたいな子は大抵、人気ある運動部のキャプテンとか、学校のみんなが知ってるような同世代とかと付き合うもんだったがな」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「へえ、そう言うものなんだ？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「違うの？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ちょっとびっくりしてから、異星人を見るような目で、金城は薫を見直した。薫としては冗談ぽく言ったつもりだったが、本気にしたのだろうか。金城は明らかに不自然な咳払いをすると、<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「まあ今の女は本当に早いうちから、大人にちやほやされること憶えちまうみたいだからな」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">満冨悠里の話によると、美琴が交際していたのは横浜の大学生だったと言う。それも、去年のクリスマスには自然消滅的に、関係を清算したらしい。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「でも、その男とは特にトラブルはなかったみたいだ。美琴が変質者に付きまとわれて困ると話していたのは、ごく近々のことのようだし」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「じゃあ同性なら？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「同性？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城は浮かない顔で聞き返した。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「彼氏を盗られたり、実質的な被害を受けなくても、彼女をやっかんだりする同性のクラスメートとか、いてもよさそうだけど」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">自分で言ってみて、薫は今、気がついた。そう言えば美琴の経歴は、どこか完璧すぎるふしがある。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「優等生で目立つ子って、普通敬遠されない？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・いや、どうかな」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">今度はそっちに心当たりがないらしい。金城は、とても難しい顔で首をひねった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それに彼女、帰国子女の転校生だったと思うわ。そう言う目立つ子って最初、なかなか受け入れられないものなのよ」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">美琴は小学校四年生まで、日本にいて高校編入までは、香港で過ごしている。今日事情を聞いた野上若菜とは同じ学校だったとは言っても、一年生の五月に転入した当初は、かなり浮いたはずだ。そう言えば借りてきた写真も、美琴がクラブ活動で目立ったり、生徒会役員になったり、積極的に活躍しだした、二年生のものが多かったように思う。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・写真はごく最近のものが役に立つだろうと思って、そっちを選んで母親が渡しただけの話じゃないのか」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それにしても、彼女のこと、よく言う人が多すぎると思うの」<span></span></span></p>
<p></p></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
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            <item>
                <title><![CDATA[警視庁　ＩＴ特別捜査官(上)　とある高校生]]></title>
                <description><![CDATA[<p>20××年。世界各国は、第12次諜報戦に突入。政府組織は機能不全に陥り秩序は崩壊。財産、生命、時間全てが電子化され、ギャンブルゲームで全てを奪い合う時代になった。国家はその威信をかけてIT犯罪一掃にでる。警視庁警部補水越薫は所属2年目にして、犯罪組織ISMへの潜入捜査を受ける。IT武装化したマフィア、深まる謎、駆け引き、CIA、MI6の干渉・・・管理社会がいきつく果ては、倫理が崩壊したカオスであり、結局強者が弱者を暴力で支配する地獄だった。サスペンスホラー小説。353ページ　読了時間約4時間（1日30分で8日楽しめます）</p>]]></description>
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                <pubDate>Wed, 03 Sep 2014 12:52:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[サスペンス小説]]></category>
                <category><![CDATA[警視庁]]></category>
                <category><![CDATA[マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[未来世界]]></category>
                <category><![CDATA[ギャンブル]]></category>
                <category><![CDATA[ホラー]]></category>
                <category><![CDATA[CIA]]></category>
                <category><![CDATA[世界戦争]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">それより薫には大切な仕事がある。名前の判明した【彼女】の事件の捜査に出なければならない。昨夜の悪夢が、薫に再びやる気を与えていた。確かにあれほど鮮烈な悪夢は初めてで、衝撃的だったが、考えてみれば、薫が担当してきた中でも類を見ない悲惨な事件だった。被害者は若い女性だったし、知らないうちに入れ込んで体調に影響するほどの悪夢を見ないとも限らないと思った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">それにしても、恐ろしくリアルな夢だった。被害者は本当に、ああやって殺されたのだろうか。吹きさらしの廃屋の冷たい空気、複数の男たちの残忍な笑い声、目もくらむような光と衝撃波。よく分からなかったが、あれはどうも散弾銃などではなさそうだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（夢・・・・・よね？）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">まさかとは思う。死因についての具体的な所見は、検案報告書が挙がってこない限り判らないのだ。経験の深い鑑識課のベテラン課員だって、散弾銃だと言っていたではないか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">それに。そうだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">【彼女】は死ぬ前に、誰かの名前を叫んでもいた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（・・・・・まさか）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫も確かに聞いた。あの中で薫もその名前を叫んだのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">それが誰だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">思い出せないが恐らく。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その名前に向かって、嶋野美琴は助けを求めていた。あの暴挙をやめさせる力を持っていた唯一の人間に対して、救いを求めて。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">あれが、少しでもあてになる予知夢の類であることを祈ろう。もしかしたら関係者を洗い出せばその中に、ぴんとくる名前があるかもしれない。まさか夢を信じる気などないが、勘を信じて調べれば、証拠が事実を立証してくれるはずだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">十日前にとった今月最初の休暇に、ショートボブにしたばかりの髪を軽くブロウして、薫は職場に戻った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大丈夫だったのか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">人の好い金城は、本気で心配してくれたようだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ごめん、忘れたわ。調べるの」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">いきなり言うと、金城はきょとんとした可愛い目になった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なにが？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「世の中に自分の他に必ずいるはずの七人」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「七人もいらんさ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城は苦笑して言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「まずは事件に関連ありそうな人間、一人でもあぶり出さんとな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城は、ときどき沖縄人ぽい陽気さが出る。本人は横須賀生まれだが、父親が沖縄人だと言う。そんなとき金城が、薫は好きだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「聞いたか。被害者の嶋野美琴の父親は、大手船会社のアジア部門の責任者だそうだ。黒龍江省の支社で母親から事件の話を聞かされて、急遽、帰国の準備を進めているところだとよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それで、そんなにすぐに身元が割れたの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">まあな、と金城はなぜか得意げに肯いて、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「実は死体が見つかる前の夕方、すでに豊島署に被害届けが出ていたんだ。十八歳になったばかりの誕生日の夜に、今日は早く帰ってくるはずの娘が戻ってこない、ってな。もうすっかり忘れたけど、この時期、卒業シーズンで学校は授業がないんだろ？　駅前の塾に寄って、昼には帰る予定だったらしいよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">だから最終目撃証言は、池袋南口方面にある学習塾を出た、昼以降に絞られてくるだろう。自宅から五キロ圏内にあるどこかで、嶋野美琴はさらわれ、人目につかない場所で長時間監禁されたと思われる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「死亡推定時刻は、二日前の午後十時ごろだと。だからもし昼間、池袋でさらわれたとしたら、最低三、四時間は連れまわされて監禁されたかもしれないな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「で、どこか人気のない場所で撃たれた？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いや、そのな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城は、なぜか浮かない顔で首を振った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「撃たれた、と言う表現だが、どうも違うらしい。解剖による所見を聞いて驚くなよ。まだ特定は出来ないが、死因は散弾銃による射殺じゃない。手製の爆弾による爆死なんだとさ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「爆死？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">爆死？　まさか。思わず、薫は声を上げた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ああ、爆弾。軍用の地雷のようなものを改造したものらしい。例えばアメリカ製だとＭ１８って言う地雷がそうらしいが、爆発時に無数の細かい金属のベアリングが散弾になって飛び散る殺傷力の高いタイプがあるんだな。どうもそれを使われたようだ。遺体に残った炭化の程度を調べたら、下からの爆風と衝撃によって内臓をやられたことが直接の死因だと言うことがわかったみたいだ。遺体の靴と靴下脱がしたら、足の指まで丸焦げだったらしいぜ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城は、遺体の検案によって彼女が、自分の足元からの爆風によって悲惨な死を遂げたと言う検死結果の詳細を薫にもたらした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうやら彼女は両腕を縛られて、地雷の上につま先が着くか着かないか程度の高さで天井から吊るされていたみたいだ。・・・・・怖かったろうな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・ほんと・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">嶋野美琴は、両腕を縛られ吊るされていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の脳裏を昨夜の悪夢がよぎった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（そうか）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">あの目も眩むような衝撃と圧迫感。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">あれは、爆弾によるものだったのか。提示された客観的事実。悪夢を現実が裏づけしていく。確かにあの夜、薫は彼女に引き止められた。そんな感じがした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「母親の話だと、被害者の女の子は、誰かに付け狙われていることを訴えていたらしいんだ。自分が連絡も入れずに、予定を変えたら、とにかくすぐに警察に通報してくれと、相当必死に頼んでいたんだと」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「でも、一晩くらいじゃ普通、捜索願まではいかないはずよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「受信履歴午後八時三十二分、母親の携帯に美琴から最期のメール送信があった。件名はなし、ただ一言『ころされる』。母親はすぐに警察に電話して、捜索願を出した。要請を受けて豊島署の捜査員が、美琴の自宅のマンションに事情を聞きにきたのが午後九時、二時間後に、なんの関係もない学生が、被害者の自宅のごく近くのゴミ捨て場に置き去られた遺体を発見した、ってわけだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">犯人はこのことからも、車を使って移動していたと考えられる。それにしても、警官がすぐ近くにいて、遺体を遺棄しにきたはずの容疑者を目撃していないのは、かなり痛い失点だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それにしても被疑者も危ない橋を渡るものね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ああ、いかれてやがるな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城はうんざりしたように言うと、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「特殊な凶器を用意して使うことといい、手際のいいさらい方といい、犯行のタイプから見ても、犯人は被害者を執拗に狙って、周到に準備した、つまり被害者になんらかの怨恨があった人間の犯行と見ていいだろうな。・・・・・流し（通り魔、無差別の愉快犯）の線も棄ててはいないが、基本的に本部は被害者の交友関係の線から捜査を進める方針を採るってさ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「被害者に怨恨？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ああ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城はうんざりしたように、手を広げて愚痴った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「友達関係か、男関係。今はケータイがあるから、年上年下、日本全国、誰とでも付き合えるからな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">嶋野美琴は死ぬ前に誰かの名前を叫んでいた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は確かに誰かの名前を彼女が叫ぶのを聞いた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">せめて金城には、昨日見た悪夢のことを話すべきだろうか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">いや、確たる証拠も何もない話だ。あくまで、薫の熱で狂った知覚の範囲内での出来事だ。今聞くと確かに驚くほど、実際の犯行状況とは符合した点が多い。彼女は複数人によって拉致され、どこかに監禁された。そして、両腕を縛られて吊るされて捕虜のように嬲られた後、手製の爆弾によって悲惨な爆死を遂げたのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">見ていると言えばその一部始終を、薫は見ている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">だが、夢は夢だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">仕事場で言うような話ではない。本気で話せば、いくら金城でも呆れられるだけだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">確かに、驚くほどリアルな夢の中だが、すべては幻想に過ぎない。連日ろくに睡眠もとらず、あまりにひどい現状で悲惨な死体と連続に接し続けて、その結果、奇妙な感化を受けたに違いない。下手をすれば、カウンセリングを受けろと言われるだろう。そうなればいい笑いものだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ただ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">夢の中の彼女は確かに、誰かの名前を叫んでいた。誰かに許しを請うていた。恨みを持つものと、持たれるもの。もし怨恨の線が本当なら、その名前は被害者美琴の生活していた、どこかで必ず出てくるに違いない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">幸い、薫はその点では恵まれた立場にいた。彼女と金城の二人は、嶋野美琴の通っていた学校に行って、関係者から事情を聞く係を割り当てられていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なあ、おい知ってるか薫。お前が担当した警官の拳銃自殺」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">移動中の車で金城が何気なく、薫に話しかけてきた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「原因はなんだ、うつ病だってな。木津橋って、高校時代から、柔道の全国大会でも有名なやつなんでおれもよく知ってるんだが、そんなに悩んでいたとは思わなかったよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・どうかな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫の知る限りでは、そうした症状に悩まされていたという様子はまったくなかったように思う。通院歴がないのはもちろん、到着した現場の警官たちや関係者が、彼が自殺した理由が思い当たらなくて、唖然として首を傾げていたはずだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「みんなの知らないところで、なにか悩みがあったのかもね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お前も気をつけたほうがいいぜ。過労とストレスはまずいって言うからな。昨夜、お前、死にそうな顔してたぞ。・・・・・その、たまには、息抜きした方がいいんじゃないか」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は苦笑して、金城を流し見た。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・どこかいいところがあったら誘って」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">せめて、一人で薫を誘えることができるほど、金城に勇気があればね、と言う意味で、彼女は言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">いつかみたいに男の飲み友達ばかりの串焼き屋で、薫より先に泥酔してタクシーに乗せられて自宅まで強制送還されるような展開では、それこそお話にならない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あ、ああ・・・・・いい店見つけたら、誘うよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">にやにやしている薫の表情で、いつのことを示唆しているのか、ようやく思い当たった金城はあわてて視線を前に反らした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">拳銃自殺か。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その言葉を聞いたとき、薫はなぜかはっとした。そう言えば、新宿交番で死んだ、あの警官の遺体の検分に立ち会ったとき、薫は死体と顔を合わせてはいない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ミコト。嶋野美琴。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">確か、あの子と目を合わせたときから、少し、おかしかったのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">口をついて出た名前<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">学校に到着したのは、指定された午前十一時過ぎ頃だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">事件の報道は、昨夜辺りから被害者の素性が分かって騒ぎが大きくなっているらしく、取材の記者たちも校門から関係者駐車場辺りにかけて、ちらほらと見られた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">生地のしっかりとした茶色のブレザー、赤い色のタイ。スカートは薫の年ではくじけそうなくらい短めだ。制服の女子たちの姿が目に留まる。被害者の同級生かもしれない。嶋野美琴もこの格好で、この辺りを普通に行きかっていたはずだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">学校側の公式な意見として、亡くなった嶋野美琴は、成績は優秀、明るく社交的で友達も多い生徒会役員で、交友関係についても、危険なことに発展しそうな事件性あるものは聞こえてこないと言う。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">もちろん、この公式見解と言うものは多くの場合、のちのち波瀾を呼ばないためのストーリーで構成されているもので、事実と称する情報には、発信者側の無難であることを期待する気持ちも、希望的観測として含まれている点に注意すべきだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ただ、母親から聞いた話や、見せてもらった多くの資料に添付されている生前の美琴の写真などを見てみる限り、特徴的に問題を起こしそうな生徒とは、まず思えない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">軽く髪を染めた透明感のある面差しは、適度に母性を感じさせるものを含み、積極的な性格にも、無理な押し出しの強さを感じさせない。男子にも女子にも人気があると言うタイプだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">英語が得意だったらしく、ＴＯＥＩＣの認定証をもった写真や、所属していた英会話クラブでの活動やスピーチコンテストでの表彰などを写したものも目立ったりする。父親の仕事の影響もあり、国際交流に関心を持っていたのだろう。卒業後は、海外の大学への進学なども、視野に入れていたに違いない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">警察が話を聞くために、特に学校側が選び出した彼女の同級生は三人。いずれも、同学年。同性が二人、異性が一人。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">夕方から行われる美琴の通夜に列席することも決まっているせいか、一様に放心状態のようだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">多くの場合、身近な人の死が最初にもたらすのは、非日常感を含んだ感覚麻痺だ。揺るがないはずの日常に、ある日ぽっかり空いた喪失の落とし穴。環境に適応して生きる仕組みをもつ人は、大抵の準備していない変化に抵抗を示し、それが急変の場合は、状況判断をやめて真っ白になるものだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">過去と連続しない次の現実とのギャップによる混乱を一旦棚上げして、やがて粛々と感覚の整理を行う。心理学で言う、喪の作業がこれにあたる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">だからもしこの事件についてなにも知らずに直面した場合、感情が復旧するのは、混乱が収束し、現実を認識した後になるだろう。ついこの前までいた友人の身体が灰になり、小さな骨壷に収められ、それが彼女なのだと認識したときが初めて、そのときになる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城と薫は、そうした表情の変化を経験知から、まずは感覚的に見極める。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">話していて三人の中に、すでに感情の復旧をみているものは皆無のように見えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">三人の中で比較的よく話をしたのは、唯一の男子生徒で、同じ生徒会の田辺勝也<span>(</span>たなべかつや<span>)</span>だった。小柄で中性的な、さえない印象の川辺はもちろん、亡くなった美琴と交際経験はなかったが、同じ生徒会の役職で好意をもって彼女に接していたことはともかく伝わってきた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼はいわゆる女の子から、異性としてカウントされない無難なタイプと言ったところだろう。話は学校側の公式見解の詳細を、ほとんどなぞるものに過ぎなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">満冨悠里<span>(</span>みつとみゆり<span>)</span>は神経質そうな、ちょっと取っつきにくい女生徒だった。パソコンゲームのオタクらしく、それらしいキャラクター商品が、持ち物などにも目につく。痩せぎす、オレンジのプラスティックフレームの、幅の細い眼鏡をかけて、それほど長くない黒髪を無造作に後ろで束ねていた。<span></span></span></p><p></p></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[警視庁　ＩＴ特別捜査官(上)　悪夢への誘い]]></title>
                <description><![CDATA[<p>20××年。世界各国は、第12次諜報戦に突入。政府組織は機能不全に陥り秩序は崩壊。財産、生命、時間全てが電子化され、ギャンブルゲームで全てを奪い合う時代になった。国家はその威信をかけてIT犯罪一掃にでる。警視庁警部補水越薫は所属2年目にして、犯罪組織ISMへの潜入捜査を受ける。IT武装化したマフィア、深まる謎、駆け引き、CIA、MI6の干渉・・・管理社会がいきつく果ては、倫理が崩壊したカオスであり、結局強者が弱者を暴力で支配する地獄だった。サスペンスホラー小説。353ページ　読了時間約4時間（1日30分で8日楽しめます）</p>]]></description>
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                <pubDate>Wed, 03 Sep 2014 12:51:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[サスペンス小説]]></category>
                <category><![CDATA[警視庁]]></category>
                <category><![CDATA[マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[未来世界]]></category>
                <category><![CDATA[ギャンブル]]></category>
                <category><![CDATA[ホラー]]></category>
                <category><![CDATA[CIA]]></category>
                <category><![CDATA[世界戦争]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">手を伸ばした空になにも、掴めるものはなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">後頭部からさかさまに、底なしの奈落から、ベッドの上に落ちて。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">やがて、過去への長い旅が終わった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">それから目を覚ましたのは夜中だった。ベッドの上の時計は蛍光色を発している。おぼろげに記憶を逆算すると、もう五時間も意識を失っていた。身体を動かすと、着たままのブラウスが汗を弾いて、隙間から入ってくる風が冷たい。もう大分長い時間、すっかり身体が冷えている。寒気に身が縮む。でもどうやら、悪寒の方は立ち去ってはくれたようだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">暗闇の中で、薫は立ち上がった。空腹感はなかったが、特に食べ物を入れても不快ではなさそうだった。なにか、温かいものを摂ろうと思った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ベッドを立ち去ると、じゃらりと音を立てて携帯電話がシーツの波の上から、下にこぼれ落ちた。幸い携帯電話には、退勤前の金城のメール以外は、必要なものはなにも入っていなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">すり足でキッチンに近づき、コンロでケトルの水を沸騰させる。コーヒーをドリップするための華奢な真ちゅう製のケトルは、すぐに甲高い音を立てて、白い湯気を噴き出しはじめた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（久しぶり・・・・・・参ったな。本当、ひどい目にあった）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">疲れは確かにあったが、熱を出すとは思わなかった。本当に何年ぶりの発熱だろう。立てなくなるほどひどいのは、たぶん、学生以来だ。なにしろ、季節の変わり目だ。本人も自覚しないうちに、どこからか、ひどいのをもらって来たのかも知れない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">熱湯が沸いて、薫はスープを口にした。少しずつ、口の中に浸す。顆粒状の即席コーンスープは砂地に水を撒いたように、喉に沁みた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">なんだか、表現しにくい悪夢を見た。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">もっとも調子が悪いときは、昔からそうだ。無人のはずの部屋の天井から、話し声が聞こえてきたりすることもいつかあった。今度のもどこか、寝覚めの悪い悪夢だった。そう言えば、大人になってからは、ずっとなかったのだ。天井から、ひそひそ声が聞こえてきたのは小学生のとき。別に霊感があるわけでもないのに。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">死者が、薫を引き止めたのか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（そうだ、あの子だ）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そう言えば【彼女】にあそこで引き止められてから、どこかなにかがおかしかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（あの顔を見すぎた）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">頬に泥しぶきが跳ね上がったように。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">点々、涙の痕。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">にごった視線。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">事実はまだなにひとつ、【彼女】に追いついてはいないのに。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（・・・・・知らない子なのに）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">まさか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">苦笑して、薫は首を振った。ありえない。本当に名前すら、薫は彼女のことを知らないのだ。残念なのか幸運なのか、それは分からない。だが。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">突然、低い地響きのような唸り声がした。不覚にもはっとして身体を硬くしてしまった。大したことではない。ただ、ベッドから落ちた携帯電話が床で鳴っているのだ。薫はいまいましげに顔をしかめて、暗闇の中、救いを求めて光る遭難者を拾い上げた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">秒速落下は、ちょうどその瞬間に起きた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">落下直後、反射的に振り上げた腕は、どこかに引っかかって停まり、がくん、と肩が外れた。耳鳴りがこめかみから飛びこんで、脳の奥を突き刺す。痛みはぶらぶらと突き立って揺れる矢柄のように、聴覚を揺さぶって、感覚を支配していく。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">頭の先から全身を貫く激痛に身体をよじる。落ちてはいない。落下はすぐに停まった。しかし、足はどこにも落ち着く底面を探せない。どこかにぶらさがって引っかかっているのだ。どこかから両腕を吊るされ、身体が揺れている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">この痛みは、筋肉の悲鳴だ。歯を噛んで食いしばっても、長くは耐え難い。苦痛に声をあげそうだ。そうしているうちにやがて。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">耳鳴りは絶叫に変わった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">それは獣のような意味不明のうなり声だ。それがヒトの悲鳴だと分かるのに時間が掛かった。なりふりなど、すでにかまわない極限の慟哭。声は迫り来る運命を必死に拒否している。感情を恐怖が一色で塗りつぶす。もはやそこに社会的地位や性別すら、存在しなかった。恐怖が人間の持つ、すべての属性をその肉体から剥奪した後の絶叫に他ならなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">聞くだけでも、苦痛に値する音響。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">耳を塞いで避けることも出来ず、薫は当惑する。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">こめかみを圧迫する、獣の咆哮。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">それはやがて、辛うじて、その人間性を取り戻してきた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">悲鳴は人間の女だ。それもまだ若い、女だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">廃屋に吊るされている。着衣はない。発見された時点のまま。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">【彼女】がそこにいた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">両腕を縛られて、天井から吊るされている。血と涙、泥と粘液でメイクが流れ落ち、軽くウエーブした髪は毛羽立ち、乱れていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">雨季のようなパニック状態が通り過ぎ、短くて永い、憔悴と諦めの時期が左右にかすかに揺れる、その身体を覆っている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おい、早くしてくれよ。なあ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">絶望が最期に彼女に人間性と自由な意志をもたらした。うつむいた顔を上げる。ぐしゃぐしゃの顔は少し腫れて、伏し目がちの長い睫毛には、とめどもない涙の色が滲んでいた。かすれた声で、彼女は最期の言葉を口にした。焼くような喉の痛み、渇き。窒息するほど、咳きこむ。細々と言葉を紡いだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">内容はずっと、誰かに謝り続けている懇願調で、急き立てるような男の声がそれをいちいち否定した。謝罪は拒否。男たちに、被害者の人間性を受け入れる気持ちはない。だから、許しはしない。男たちは彼女を恨んでいる様子は見られなかった。少し眠たげな感情的に起伏のない声で、これが最期の時間になるのだ、と言うことをこんこんと彼女に告げていく。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">死刑執行人と、死刑囚の会話。法務大臣は対話を拒否。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">平行線の会話はやがて、彼女のつぶやきだけになった。恐らく、現実回避の独り言を言っている。彼女の脳が最期に許した、極限の防衛機制の本能。現実に戻ると、彼女は再び哀願を始めた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「謝るから・・・・・ごめんなさい・・・・・わたしの負けだから・・・・ほんと・・・・お願い、だから許して・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">宙を漂う幻に問いかけるような頼りない声。自分がまるで話しているかのように。薫の頭の内側に向かって響く。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「無理もう選べない。・・・・・・無理無理無理無理・・・・絶対、無理だからぁ・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">誰かの笑い声がした。男、若い。複数。嬲るようになにかを言う。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いいから選べって。・・・・・どんな頑張ったってどうせ、もう、終わりなんだからさ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おれたちからの、バースデイプレゼント受け取ってくれよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いやあ・・・・・・やだよ、そんなの・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">男の声は彼女を現実に戻した。再び髪を振り乱して、彼女は赤く潤んだ瞳を向ける。力いっぱい身を捩って、彼女は、切迫した声を出した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「もういいでしょ・・・・・・降りるの・・・・・わたし、降りるんだってば・・・・・だからお願い。降ろしてよっ！」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">パニックが再びアドレナリンを奔らせる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「聞いてるのっ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">声が擦り切れる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「答えなさいよっ。答えてっ、お願い・・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">救いと許しともに、確かに彼女は誰かの名前を求めた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・・っ！！」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">耳を聾する恐ろしげな火薬の爆発音が、辺りを支配した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">目も眩むような閃光。衝撃が内臓を圧殺する。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">焼ける。突き上げてくる。口から、中身が飛び出そうに。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼女が叫んでいた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫も叫んでいた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">なにが起きた？<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">喉が破裂した。激痛が走った。首から下が消し飛んだかと思った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そのとき、確かに、見えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">舌の先からその閃光が飛び出していった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・・・・・・っ！」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">絶叫が喉からほとばしり出たような感覚のまま、薫は、目を覚ました。携帯電話の目覚ましが鳴っていた。すでに、出勤時間前になっていた。表で雀が鳴き、新聞配達のバイク便が近くを通り過ぎていく音がした。ブラインドを下ろしただけの窓から、射し込むのはまた、五時間後の朝陽。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">痛めた喉を左手でいたわりながら、薫は立ち上がった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">悪夢が呼び覚ますもの<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">確かに。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">あれは夢ではなかった。一度はっきりと、薫の目は覚めていたのだから。前後不覚になる前、すでに悪寒も熱も去っていたんだし。だが、内容は下手な悪夢より怖しいものだ。それにしても、リアルな感覚の、あてどもない彷徨だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（でもどうしてだろう。初めてじゃない）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">得たいの知れない既知感がある。もちろん、【彼女】に関してのことではない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そうだ。もっと昔だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（でもそれはいつだった？）<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">シャワーの最中、しばらく考えてはみたが、やっぱり思い出せない。そう言えば、前にもこんなことはあったはずだ。でも、たぶん昔過ぎて思い出せない。残念だが保留するしかない。むごたらしく不気味な悪夢で、ただでさえ、仕事が出来なくなりそうだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">コーヒーを入れて、出勤前に身の回りの整理をする。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">昨夜のうちに二つの着信履歴が、薫の携帯電話に入れられていた。ひとつは金城から。あの後、【彼女】の身元が分かったのだ。都内の私立高校の二年生だった。名前は、ミコト。嶋野美琴<span>(</span>しまのみこと<span>)</span>と言うらしかった。やはり、薫には聞き覚えのない名前と素性だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">もう一件はそれこそ見慣れないナンバーの着信だったが、千葉の母親かららしい。最近、薫の母は電話を替えたのだ。薫の兄の晴文がまた、家を飛び出していなくなった。暇があったら気にかけておいてくれないか、と、実に消極的な救援要請。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">一課の捜査員になってから、どころか、兄の晴文とは五年近く、薫は話をしていない。心理で大学院まで出たのはよかったが、研究室に残れず結局就職先も決まらずに、気儘なフリーター稼業を続けている。新入生や新学期が始まるこの時期に、煙草銭の多寡ほどの下らないきっかけで父親と衝突するのは、半ば恒例行事化した事態といっていい。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">それでもここ一、二年は、もはや諦めたのか、決定的な衝突を招かずにいたのだが、たぶん、来年県警を退官する父が、地方の法科大学院の教授に再就職が決まったせいで、将来が決定せず自宅に引き籠っている兄の問題にも、無駄と知りつつ浅はかな介入をしたのかもしれない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">お前、老後の親が稼ぐ金で、これからも暮らしていくつもりか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">兄の晴文は口が重く、幼い頃から、勉強だけが取り柄だった。今はなにを考えているのか、薫もよくは知らない。家出したとしたら、立ち回り先を推測することは至難の業だろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼女が出来たのも聞いたことがないし、昔の研究室の仲間やパソコンのチャット仲間などもどこかにはいるのかも知れないが、ここ数年、極端に外出と交際の範囲が狭まった兄に、今、どれほど泊めてくれる知り合いが残っているのかと言えば、かなりその望みは薄い。と、なれば漫画喫茶でも泊まり歩いているのだろうと思うくらいだが、そうなれば、探すのはますます不可能だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">母親はもしかしたら妹のところに行ったのかもしれないと考えたのだろうが、正直、読みが甘過ぎる。もともと、兄妹ともに、お互いの優先順位は驚くほど低いのだ。大体、いい年をして親と喧嘩して家出した兄が、今さらどんな顔をして、東京に就職した妹を訪ねるのか。兄にだって、それなりのプライドくらいはあるだろう。<span></span></span></p><p></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">優しくて頭のいい兄だった。薫には及ばない学歴を持ち、その学歴が有効な間は、両親も兄を見習えと妹を叱ることあるごとに言い募った。今、父は就職しない兄に、逆のことを言っているのだ。別にいい気味だとは思わない。意見を言う気もない。そのことを思うとただただ、なにかが虚しく煩わしいだけだった。<span></span></span></p><p></p></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[警視庁　ＩＴ特別捜査官(上)　失われた過去]]></title>
                <description><![CDATA[<p>20××年。世界各国は、第12次諜報戦に突入。政府組織は機能不全に陥り秩序は崩壊。財産、生命、時間全てが電子化され、ギャンブルゲームで全てを奪い合う時代になった。国家はその威信をかけてIT犯罪一掃にでる。警視庁警部補水越薫は所属2年目にして、犯罪組織ISMへの潜入捜査を受ける。IT武装化したマフィア、深まる謎、駆け引き、CIA、MI6の干渉・・・管理社会がいきつく果ては、倫理が崩壊したカオスであり、結局強者が弱者を暴力で支配する地獄だった。サスペンスホラー小説。353ページ　読了時間約4時間（1日30分で8日楽しめます）</p>]]></description>
                <link>https://ch.nicovideo.jp/22thproject/blomaga/ar614770</link>
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                <pubDate>Wed, 03 Sep 2014 12:44:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[サスペンス小説]]></category>
                <category><![CDATA[警視庁]]></category>
                <category><![CDATA[マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[未来世界]]></category>
                <category><![CDATA[ギャンブル]]></category>
                <category><![CDATA[ホラー]]></category>
                <category><![CDATA[CIA]]></category>
                <category><![CDATA[世界戦争]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ミコトとは、よく遊ぶの？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">この質問にも、思いっきり首を振りたかった。でも、そう答えることによって起こる不都合を、なんとなく、真希は感じていた。曖昧に答えて、顔を伏せた。それから、モリタは大声でどこかに電話を始めた。これ以上、話しかけられなくてよかったと彼女は思った。バンが急発進する。三半規管が揺れ、車に弱い真希は、あと一時間、この運転が続いたら酔うな、などとひそかに予感した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">すでに喪われたあなたに出会って<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">おととい学習塾に侵入した散弾銃男自殺　藤沢市の実家付近で遺体発見<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「散弾銃だね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ふいに後ろから立った声に、水越薫<span>(</span>みずこしかおる<span>)</span>は、はっとして振り向いた。藍色の制服を着た鑑識課員が薫の視線と同じ方向を指差している。初めて会った、このベテランらしき中年の男は、英会話学校と飲み屋のビルの側面の電光掲示板のニュースに、薫が視点を合わせていたことを、指摘しているようだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">なにかを揶揄するように、課員は唇に薄笑いを浮かべながら、<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どこも、物騒なこった」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ええ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">少し憮然として、薫は曖昧な相槌を返す。今、別に会話を必要とする気分でも場合でもなかった。言ってみれば少し、放っておいて欲しかったところだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お疲れかい」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そんな気分を見透かしたのか、無神経なのか、課員は薫の顔を覗きこむと歌うようにうそぶいてみせた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大変だろ、一課は。遊ぶ暇もなくて」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">三月十日、午後十一時三十五分だった。後、三十分ほどでまた日付が変わる。夕方、新宿署の交番で巡査が拳銃自殺した。退勤しようとしていた薫はその応援に呼ばれて、貴重な睡眠時間を根こそぎ持っていかれた。ついさっきまで署の仮眠室にいたせいで、顔も髪も直す暇もなかった。目の前の男が暗に指摘したいことはなにか、薫には十分よく分かっているつもりだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は軽くため息をついて、わずかに歯を見せた。女性としてむきになったり、男伊達に突っ張ったりすることは別にしない。感情的な反応で相手の興を買うのが一番面倒くさいことを彼女はよく心得ていた。男性社会での距離感の取り方は犬の喧嘩に似ている。簡単にお腹を見せてもいけないが、きゃんきゃん吠えついてこちらの肚を読まれるのも、逆に墓穴を掘ることになりうるのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「こっちも散弾銃？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫はさりげなく話題を戻した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうだと思うよ。身体中穴だらけだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">灰色が黒ずんだブロックを積み上げた住宅街の裏路地の一角、週別のゴミ置き場の表示が立っている。完全に保全された現場、生活ゴミの異臭に混じって、別の非日常的な異臭が、刺すように冷えた夜気の中に漂っている。そう言えば確か今日は、生ゴミの日だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">豊島区名物、カラスたちを追い払うのに、通報を受けて駆けつけた所轄の捜査官たちは、かなりの苦戦を強いられたに違いない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ラテックスの手袋をはめながら、薫はゴミ袋の山から引きずり出された遺体を検めようと、現場に足を踏み入れた。シーズンが終わって、廃棄されたマネキン人形のように少し汚れた滑らかな物体が、ちょうど鑑識課員に手足を持たれて、そこから取り出されるところだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">遺棄されていたのは、若い女性だった。背は一六〇センチ前後、アプリコットブラウンにブリーチした長い髪。着衣はない。犯人が剥ぎ取ったものだろう。靴と靴下だけは、なぜか残されていた。致命傷は、一見して下腹部のもの。損傷の度合いは激しく、血と肉の塊が、乳房の下から両腿の間にわたって、黒くわだかまっている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「散弾銃で撃たれた」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">火傷を受けてめくれあがった皮膚に、ぽつぽつと黒い穴が開いているのをみれば、それはひと目で分かった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薄暗い街灯の下で、薫は遺体を抱え上げて人相を確かめた。顔に目立つ傷はない。全体として小作りな、綺麗に整った顔立ち。まだ少し、幼さの残る面差しを残している。二十代前半か、ことによるとまだ十代かもしれない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">泥のようにしてみえる付着物は、ファンデーションやマスカラの成れの果てのようだった。涙をはじめとした体液に溶け出して、それが彼女の顔を汚したのだった。大きく見開かれたまま硬直した眼窩に、枯れた川筋のように涙の流れた跡が認められた。死んでからも、袋の中で涙は流れ続けたに違いない。今夜の薫より長く、メイクも髪も崩れたままで。彼女はずっと、泣いていたのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">まだ冬の明けない、寒い三月の深夜だった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫はまず、【彼女】に出会った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">表通りのネオンの明かりの鬱陶しさが、重たく疲労した目蓋にのしかかる、火曜の晩だった。ＪＲ目白駅はすぐそこ、だが脱出するにしても、息苦しいのはごめんだった。誰もがそうだろう。すでに多くの人が、呼吸を止めながら、どこかへ、それも足早に去ろうとする。もちろん誰も、立ち止まろうとはしない。死人ですら、自分の身体を置いてすでにどこかには行ったというのに。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">立ち止まった薫は、路地裏で遺体にとどめられていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">【彼女】は変死体として、大学病院の死体検案室に送られていった。都内に限られた数しかない、この世でもっとも殺風景なそのステンレスの台の、順番待ちの列に並ぶ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">【彼女】は殺害された後、わざわざあそこに遺棄されたものとみて、間違いなかった。裏通りとは言え、人の出入りはないとは言えない住宅街だ。棄てに来るとするならばやはり車だろうが、誰が、どこから、そしてなんのために【彼女】をそこに棄てたのか。そもそも、【彼女】は誰なのか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">まだ、なにも分からない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「薫、おい、待ってくれよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">会議が終わった薫に、誰かが声をかけてきた。同期の金城純也<span>(</span>きんじょうじゅんや<span>)</span>だった。やっと応援に来たようだ。被害者が未成年で、しかも猟奇的な殺人事件の可能性が高いこの事件の場合、多少手の空いている人間はほぼ動員されそうな勢いだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大変だったな。新宿の手伝い済ませて、こっちに一気に急行か」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">金城は大きな目をぐりぐり動かして、薫の顔を見回した。色黒でいかにも南方系の、がっしりとした身体つきをしている。人の良さそうな顔を除けば、組み技系の格闘家以外なら、警察官と言う職種にもっとも向いた体型だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「女の子の死体、それも着衣なしだって言うから。行けたら、わたしが行った方が良かったでしょ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ひどかったみたいだな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ひどいから、変死体なのよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">もちろん、違う。法的に、ただ、自然死ではない遺体をさして言うだけのことだ。便宜上の分類は、ここから自殺体か、他殺体に行き着く。もっとも【彼女】の場合、結論はすでに決まっている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「彼女なりの抵抗はしたみたい。・・・・・もちろん命をかけて。どこかから連れ去られて、もしかしたら長い時間かけて、ひどい目に合わされたのかもね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">暴行されたのかは、もう分かりはしない。だから、彼女にこれほどの暴虐を施したのは一体、何人なのかと言うことも、推定できない。なにしろ下腹部は、ほとんど吹き飛ばされているのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「散弾銃か」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうかな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">薫は首を傾げた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「横浜の塾講師の事件はそうだったろう？　似たような事件って意外と、同時に起こるもんだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「かもね。・・・・・・なにを思いついても、世の中に七人は同じこと考える人っているって言うしね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「こっちの被疑者も早く捕まればいいがな」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・ええ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「被疑者に自殺されても困るけど・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">後半が少し聞き取りづらかった。薫は怪訝そうに眉をひそめた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうかしたのか」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ふいに、金城はそんな薫の顔を覗きこんで、言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「具合悪いのか？　お前、すごい顔色悪いぞ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「え？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">言われて、薫は初めて気づいたように、はっとして頬に手をやった。じっとりと冷たい脂汗を大量に掻いていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「調子悪いのか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大丈夫。仮眠室寒かったから、徹夜したし、疲れただけ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「退勤するなら送ってこうか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「気にしないで。・・・・・本当、なんでもないから」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうか・・・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">少し残念そうに、金城は言った。まだ危険なものでもない、彼の下心に付き合ってもよかったが、それをするには、今の薫はあまりに物憂く、確かに思考の弾力性を失っていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「とりあえず、一回帰るわ。まだいるんでしょ？　なにかあったら、すぐに連絡して」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「分かった。・・・・・無理するなよ。そっちこそ、具合が悪いようだったら、すぐに連絡して来い」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">重たいため息が出たが、熱くはなかった。どうやら、風邪などではないようだ。でも、悪寒とよく似たものが、背中を這い上がってくるような感覚がする。脳がふらっ、と揺れ、意識を失いそうな感じがある。このところ働きすぎなのかも知れない。とにかくまず、どんなことをしても家に帰ろうと思った。気づくと、さっきよりも身体が重かった。本当だ。そう思うと余計に、調子が悪い。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なあ、そうだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「え？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「さっきの話だけど、お前の」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そのとき金城が、わざわざ戻ってきた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それって、七人って似た顔の人のことじゃなかったか？　自分と同じ顔した人が七人いるって話」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">自他共に認める体育会系はこう言うとき、実に上手く気遣いのつぼを外してくる。重い口と頭で、薫は答えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・どっちだったか、分かったら、連絡するわ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ここまで調子が悪いのは、本当に久しぶりだった。冬場のインフルエンザにさえ、ここ数年は罹ったことがなかったのに。シートにもたれかかって外を見ていると、顔も熱くなってきた。身体が浮いているようにすでに自重すら感じなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">気が遠くなりかける自分と何度か戦いながら、薫はどうにか自分の部屋に戻った。なんとかそこのところまでは、憶えがあった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">自分の汗で濡れたシーツの中で、薫は何度か自分の上下左右を失いかけた。今の自分の状況も、自覚していない。完全な無重力空間に放り出されたような気がした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">落ちていく。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">足をつかまれ、強引に夢の中に引きずり込まれる。<span></span></span></p><p></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">時により、高校生の自分になり小学生の自分になり、それぞれ、なにかに急き立てられるような悪夢を見た。とても、せわしない感覚。やがて性急な義務感は、すでにそれが手遅れになったことに対する後悔に変わり、特急列車で乗り過ごしたように一足飛びに遠ざかっていき、漠然としたまま薫の胸に突き刺さった。<span></span></span></p><p></p></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
                <nicoch:article_thumbnail>https://secure-dcdn.cdn.nimg.jp/blomaga/material/channel/article_thumbnail/ch2597532/614770</nicoch:article_thumbnail>
            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[警視庁　ＩＴ特別捜査官(上)　イントロ]]></title>
                <description><![CDATA[<p>20××年。世界各国は、第12次諜報戦に突入。政府組織は機能不全に陥り秩序は崩壊。財産、生命、時間全てが電子化され、ギャンブルゲームで全てを奪い合う時代になった。国家はその威信をかけてIT犯罪一掃にでる。警視庁警部補水越薫は所属2年目にして、犯罪組織ISMへの潜入捜査を受ける。IT武装化したマフィア、深まる謎、駆け引き、CIA、MI6の干渉・・・管理社会がいきつく果ては、倫理が崩壊したカオスであり、結局強者が弱者を暴力で支配する地獄だった。サスペンスホラー小説。353ページ　読了時間約4時間（1日30分で8日楽しめます）</p>]]></description>
                <link>https://ch.nicovideo.jp/22thproject/blomaga/ar614766</link>
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                <pubDate>Wed, 03 Sep 2014 12:37:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[サスペンス小説]]></category>
                <category><![CDATA[警視庁]]></category>
                <category><![CDATA[マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[未来世界]]></category>
                <category><![CDATA[ギャンブル]]></category>
                <category><![CDATA[ホラー]]></category>
                <category><![CDATA[CIA]]></category>
                <category><![CDATA[世界戦争]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">・イントロ<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「さてと」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">山根博司<span>(</span>やまねひろし<span>)</span>は、煙草を揉み消すと軽く伸びをして立ち上がった。いかにも物憂げな調子で目頭を揉む。三十歳、大学卒業後、大手の学習塾に二年間勤めた後、先月の末まで個人指導が専門の学習塾に勤めていた。今、仕事はしていない。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ビニールで出来た深緑色のジャンパーに、ジーンズ、風除けのマスクをしたその姿は、一八〇センチ以上あるその身長にも拘らず、どこに行っても、あまり目立つことはなかった。このとき、彼を目撃したはずのファミレスの従業員も、ドリンクバーにチーズケーキで、一時間近くひとりで過ごしたはずの彼の印象を、ほとんどないとのちに証言している。その意味では、レジ近くに設置された監視カメラに映った、釣り銭を取り損ねている山根の映像が、犯行直前に残された最後の姿になった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ファミレスを出た山根は、駅近くの一本道を何度か往復して時間をつぶしている。しきりに携帯電話を取り出して、連絡を待っている様子があるが、仕事帰りのサラリーマンや学生たちで溢れるこの時間帯に、誰も彼を気に留めはしない。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">背中に引っ掛けているゴルフクラブを一、二本入れるような細長いバッグの正体を通り過ぎた交番に勤務していた巡査が怪しんで職質をかけていたなら、もしかしたら、犯行は未遂で終わったかもしれない。そう言うのは、傍観者の勝手な結果論だろう。ほぼすべての突発的事態は、防ぐ余地があるにもかかわらず、必ず起こるものなのだから。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">山根はここでも煙草を吸った。三月でも気温は五度まで下がっていた。さっき飲んだコーヒーの残り香とニコチンの混じった白い吐息で両手の冷えを防ごうとした山根は、十八時にようやく、一通のメールを受け取った。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「到着・決行二分前」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">件名もなし、簡素な内容が、ディスプレイに表示される。彼は、瞳だけを動かしてその内容を確認すると、電話をポケットに仕舞った。駅前の五階建てのビル、一階はクリニックになっていて、階段の踊り場でちょうど私物を置くようなスペースがある。そこで彼は、自分の背中で壁を作りながらゴルフケースから中身を自由にした。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">三階のオフィスでは、若い女性の講師が高校生の生徒を出迎えている。二十二歳の彼女は近くにある大学の教育学部の二年生で、この春からは小学校の教師として採用が決まっていた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ネームプレートにある顔写真つきのＩＤは、塩田愛美<span>(</span>しおたまなみ<span>)</span>。肩口でそろえた髪を明るい茶色に染めて、包容力のありそうな優しげな笑顔の印象が誰の記憶にも深かった。大人しそうなイメージに反して行動力もあり、フリースクールのヴォランティアなどにも積極的に参加して優しい女の先生として、どこでも人気があった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">この日、彼女は教室を異動後、最後の授業の一コマ目に出るところだった。実は先週まで彼女は、二駅前の教室で仕事をしていたのだ。しかし、新学期から新任になった教室長が立場を利用して彼女をしきりに付け回すようになったのでついに本部に訴えて、ことを公にしたのである。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">当然、塾側は、彼女を含む教室関係者全員の話を聞いた上で警察沙汰にならないように、この件を処理することにした。彼女としては、一人暮らしの自宅の住所まで突き止められている可能性が高いのでやはり警察に相談するべきだと言う考えだったが、長年お世話になっている本社の人たちに説得されて、警察沙汰は思いとどまった。この時期になにか面倒があると、就職に響くかもしれないし、実際にどの程度警察が動いてくれるかも疑問だった。必ず君に迷惑は掛けないからと言う、塾長以下、信頼できる人たちの意見の方がなにかと容れやすかった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">結果として愛美は教室を移り、その室長は依願退職という形で、まず穏便に、身を退くことになった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">もちろん、彼女に不満や不安な点は残ったが、この問題が起こらなくても、来年赴任する学校の研修が始まる以上、年明けに彼女はこのバイトを辞めようと思っていたので、とりあえずは我慢することにしたのだった。残りの勤務は一週間。大学の試験も終わったのでアパートを解約して、来週には実家に戻るし、ストーカー化しかけたその教室長も、まさかそこまでは追ってこないだろうと、たかをくくっていたのだ。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その日、最初の授業の前に彼女は二ヶ月前まで担当していた高校三年生の女の子と会う約束をしていた。早めに辞めようと思っていた愛美は、受験対策の生徒は極力持たないようにしていたが、ＯＡ（推薦）入試で十月までには志望校に合格が決まる女の子だったので、最後に担当することにした。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「先生、なんでそんな早く辞めちゃうのー？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ごめんね。わたし、春から本当の学校の先生になるんだ」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">合格が決まり、愛美が教室を異動する前に退塾したその女の子は、もちろん、愛美の抱えている問題を知らなかった。突然、教室を移った愛美のことを不審には思っていたが、まさか、教室長が問題を起こしたとは、夢にも思いはしなかった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">教室はいくつかのブースで仕切られ、二人はその手前の入り口、受付のカウンター付近で話していた。ブースの仕切りは低く、入り口から、どこに誰がいるか一望出来るようになっている。正社員の担当責任者を含めて、教室には十人近い人がいた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">突然、友達のようにはしゃぎ会う二人の背中で入り口のドアが開き、男が乱入してきた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その場にいる誰もがその男が、この塾の元職員で、ショットガンを持っていることすら確認出来なかった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">爆音は立て続けに三発、その後に二発。炸裂音は爆弾が爆発したのだと、被害者たちが誤認するほどだった。最初の三発のさなか、女の悲鳴がひときわ高く上がり、ついでものが倒れる音が連続する。女が絶叫した。子どもの泣き声もする。その最中、犯人の金切り声も、絶叫していた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「うそつき、うそつき、うそつき、まなみ」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">犯人の男の声は裏声で甲高く、耳に痛いほどだった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「うらぎったなっ、うそつきっ、ころしてやるっ」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">学習塾に散弾銃を持った男が侵入　講師の女性を含む二人が死<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">向かいのビルの電光掲示板が、緊急ニュースを告げている。上から下に無機質なオレンジの文字が流れていく。北浦真希<span>(</span>きたうらまき<span>)</span>は、ロータリーに立ち尽くしてバスを待つふりをしながら、顔を上げてしばらく、それを眺めていた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">循環バスが停車している。動かない真希の後ろで、制服を着た高校生の群れが何人か、見慣れないブレザーの制服を着た彼女を怪訝そうに一瞥してバスに乗り込んでいく。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">確かにこの場所での待ち合わせが、特に不自然だと言うことは決してないし、実際、なにかが不自然であっても、本当の意味では誰も気に留めはしないはずだった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">でも、もし、物好きな誰かが彼女を三十分でも観察していたら、彼女にとってこの待ち合わせがあまり気乗りのしないものだと言うことに気づいたかもしれない。大きな二つの葛藤が、彼女の心と行動をこの場所に縛りつけていた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">見慣れないこの駅で降りて、実はあと、五分ほどでちょうど一時間になる。その間、彼女がしたことと言えばこのロータリーから改札までの短い二十メートルをやや挙動不審な身振りで往復してみるか、学校指定の藍色のバッグの中から、携帯電話を取り出してなんらかの着信の有無と今の時刻をチェックするか、その二種類しかなかった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">向かいのビルに目を留めたのは、そのうちのひとつ、バッグから電話を取り出して時間を確認するのが物憂くなったからに過ぎない。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">実は今日で、先週から始まった冬期講習が三回目の無断欠席になる。始まってすでに三十分を過ぎた授業に自分がいないことが後に及ぼす影響と結果を、彼女は考えずにはいられなかった。それでもここに来なかったことのリスクを考えると、どうしてもそこから立ち去ることは出来ないと言うジレンマが、彼女の視線をさっきから何度も時計に向かわせていたのだ。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">傷者多数　犯人は現場から逃走した模<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">素足をつたってスカートの中に這い上がってくる冷気に、真希は無意識に足踏みを始めていた。手袋をはめた指先すらが、もう感覚を失いかけるほど冷えていた。彼女はもう一度甲斐なく辺りを見回すと、両手で唇の辺りを覆い、そっと息を吐きつけた。顔もなにもかもが強張って、表情すら作れそうになさそうだ、と彼女は思った。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ねえ」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そのとき、後ろから急に男の声が立った。彼女の年から言えば、先輩だと呼べる範囲くらい年上の、ちょっとラフそうな男の声だった。真希は自分ではないと思っていたから無視していたが、肩を軽く小突かれて、おずおずと彼女はそこを振り返った。やっぱり。まったく、見覚えのない男がそこに立っていた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「キミ、あれでしょ・・・・・キタウラ・マキちゃん？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">男は狎れた口調で、真希のフルネームを呼ぶ。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・はい・・・・・・え、いや、でも・・・・・」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">誰ですか？　怪訝そうに上目遣いで相手をうかがった真希の肘の下で、電話がけたたましいバイブ音を立てて鳴り響いた。予想外の事態の連続に、彼女はどちらの対処も出来ずに困惑した。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「電話」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">男は言って、バッグを指差した。とったほうがいいと言っているのだと、真希は解釈した。あわててバッグを押し開けた。青く点滅していたコールは、彼女が電話をとった瞬間、勝手に途切れた。途方に暮れた顔で、真希は電話を握り締めた。その様子がおかしかったのか、目の前の男は、意外に無邪気な顔をして笑い声を立てた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大丈夫？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">大丈夫のはずがなかった。責任の所在を持っていきようがなく、救いを求めるように、真希は視線を泳がせた。あれだけ待っていた電話に出られなかった。後で、絶対にまずいことになる。泣きそうにすらなった。ねえ、と、なぜか男が声を上げる。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「勘違いしてるとこ悪いんだけど、それ俺だから」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼は自分の電話のディスプレイを見せて言った。あわてて電話を確認する。確かに、見慣れない着信がそこに入っていた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ね？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">笑顔で、彼は言った。青いカラーコンタクトを入れた目が三日月形に細まる。どうみても、それに見覚えはなかった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「え？・・・・・・・あの・・・・・」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">状況が把握できない、と言うように、真希は男の顔を見直した。彼の電話にはフルネームで真希の電話番号が入っている。だがもちろん、彼とは面識などないはずだ。接点もなさそうだ。少なくとも真希の住んでいる世界に、彼のような人間はいない。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">たぶん、脱色した髪をまた染め直した長い黒髪、目蓋と唇にボールピアス、薄いあご髭。クラーケンをプリントした黒のシャツに目の覚めるような白のダウンジャケット、だぶだぶのスラックス。顔を近づけると、むっとするほど甘い、オーデコロンの匂いがした。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ごめんね、待たして。聞いてるっしょ、話。ミコトから」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ミコト。その名前に反応して、真希は顔を上げた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ミコトが？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そうそう、と、相手は大げさな身振りで両手を広げて、<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「先、連れてっといてってメールもらってるから。今、他のやつらが車まわしてきて、こっち来るから、もうちょっと辛抱してて」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">拝むような仕草をすると、彼はメールの着信に気づいてどこかに返信した。真希がまだ、自分を不審そうな顔つきで見ているのに気づくと、あ、と少し大げさに声を上げて、<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ごめん、あ、つか、言ってなかったっけ？　オレ、モリタ。モリタ・カツユキ。よろしく！」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">無駄に元気そうな声で言うと、モリタ・カツユキは握手を求めてきた。別にしようと思わなかったが、やっぱり、なりゆきに任せて真希は手を出した。握り返されたその手は、生ぬるくて、なぜか少し湿っていた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">他に二人の男が、バンに乗ってやってきた。全員、モリタと同年代かひとつ下くらい。話し振りから、中学か高校か、とにかく学校が一緒だったらしいことが分かった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">バンはリアにウイングのついた黒いステップワゴンだった。バンドかＦ１のステッカーが、無作為に貼られている。中は、大音量でトランス系の音楽が流れている。単調なパターンのリズムとシンセサイザーののっぺりした音が、外まではっきりと漏れてきた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">真希は窓際に詰め、隣にモリタが座った。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「もうひとり、後で拾うからさ、そいつ来たらそっち詰めてよ」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-size:16pt;font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ミコトだと、真希は思った。首を横に振りたかったが、言うとおりにした。<span></span></span></p>
<p></p></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[企業　内部査察官　明智光太郎のケースファイル　ファイナル　ケース１　大正電力　堂々完結]]></title>
                <description><![CDATA[<p>リーマンショックを金融業界で経験した主人公は、病に倒れる。病床での怒りは、企業を内部から査察、時事的な問題を解決するヒーローを創造した。原発問題や、製薬ドラッグカルテル、食品衛生、金融規制、様々な業界で、上層部の闘争、政治的癒着、国際問題を切ってすてる明智光太郎。彼の人生は謎につつまれている。ホテル住いである。しかも毎週、足跡をたどられないようにホテルを変える。秘書の小林は正義感の塊のような女。おそろしく冷徹で、頭が切れる。肝心な時に牙をむく。正反対のコンビは、大正電力の派閥抗争、世論を揺るがす事件に足をつっこんだ。大正電力のあらゆる声を聞き、キーマンに接触した小林。だが、銀行出向組沼田陣営の勢力はマスコミをも取り込もうとしている。雌雄を決する取締役会議まで、刻々と時間は過ぎていく。最後のキーを手に入れた小林だが、未だ明智は姿を見せない。大正電力の長い歴史と、インフラは戦中世代の南雲の身と引き換えに守られた。しかし、沼田の上司は銀行の網を張り巡らせる。ケース２へと続く。</p>]]></description>
                <link>https://ch.nicovideo.jp/22thproject/blomaga/ar614487</link>
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                <pubDate>Tue, 02 Sep 2014 23:52:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[原子力]]></category>
                <category><![CDATA[査察官]]></category>
                <category><![CDATA[探偵]]></category>
                <category><![CDATA[経済小説]]></category>
                <category><![CDATA[カルテル]]></category>
                <category><![CDATA[政治癒着]]></category>
                <category><![CDATA[金融マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[企業乗っ取り]]></category>
                <category><![CDATA[アクション]]></category>
                <category><![CDATA[ファンドマネージャー]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">このまま沼田蛭田（密談」と接触<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">いつになく緊張した面持ちで赤坂の料亭“”に到着していたのは、沼田と榎田だった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">蛭田が金策の最終報告を持ってやってくるのだ。明日の臨時取締役会でゴングがなり、そのあとのプロキシーファイトは、東都銀行及び<span>CITYS</span>の資金にかかっている。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">待ちきれずに部屋の中をぐるぐる回ってうろついている。俺らしくないじゃないか。しかし、それも仕方がない。何せ国や政治を巻き込んだデッキレースがはじまるんだ。俺の一世一代の大舞台だ。金も数千億単位が動く。マネーファイトは久しぶりだが、蛭田さんがいるから安心できる。しかしその本人が来ない。いつもそうだ。恐ろしいほど細かく戦略を練り、獲物を狙うまでは気配を消して一瞬で相手を飲み込むバンカーだが、音沙汰なしのときはとことんだ。それがまた不気味なのだ。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">玄関が開く音がした。女将を伴って蛭田東都銀行頭取が奥の間に姿を現した。表情はさえない。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お待ちしておりました。さ、どうぞ。女将お膳を。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お待ちしておりました、じゃないぞ。沼田」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうかされましたか。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうかしているのはお前だ、沼田。こないに遅れたのは何のせいじゃと思っている。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「わかりません・・・。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あいつらはお前の連れか？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">黒服の男たちが<span>3</span>人庭の方にひきだされている。榎田と沼田は、はっとした。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「申し訳ありません。近頃南雲社長が呼んだ明智光太郎なるものの素性をあらっておりました。黙って動きまして、申し訳ありません。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「黙って、下働きするのはええ。その間者が見つかって、逆に尾行されてわしの目の前に引き出されたことが問題やというとる！」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">なんと明智は尾行を逆にまいて尾行し、この赤坂の料亭を探り当てたのだ。さらに沼田の背後にいる蛭田頭取の存在を明らかにしてしまった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お前は表、俺は裏だったろう、なあ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「は、はい・・」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「のう沼田君、長いこと電力屋さんにいてバンカーの本分を忘れたようやな。バンカーの本分は黒子だ。黒子が姿を見られてどうするんや！」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">10</span><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">分ほど蛭田は無言で食事をつつき、勺をあおって怒りを静めた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「切腹ものやぞ」「生兵法は怪我のもとやというたやろ」「この落とし前はどうつける」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">様々な悪態を沼田に浴びせながら、徐々に表情が緩んできているのに沼田は気がついた。この人はそういう人だ。感情的にはならない。全て演技なのだ。それが今まで生き馬の目を抜くファイナンス業界で生き残ってきたきた蛭田の強みなのだ。サラリーマンは役者が出世するのかもしれない。サラリーマンだけじゃない。大統領だって、政治家だって、人生終始演技ができる人間が成功してきた。レーガンは映画界では二流だったが政治界では一流の役者だったのかもしれない。蛭田は悪態の限りをつきながら、次の一手を考えている様子だ。主人公は俺なのだ。脇役に榎田をつけ、様々な困難を乗り越えて古狸の大正電力社長をたたいて経営権を握り、日本伝統企業を再生させたフレッシュな経営者として経済界をリードする。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「スジなんてどうでもいいのや。ストーリーなんざ、後からいくらでも書き加えればええ」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「広告政治家といたしましては、最初にシナリオありきだと思っておりましたが、いややはり現実は既成事実がシナリオより強い。勉強になります。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ええか、沼田。お前さんは一流のサラリーマンかもしれん。だがこういう政治劇では二流や。それでもとにかく役割を演じきることだけ考え。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「はい。私は主役ですから。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうや。ただし大正電力のな。あくまでエコプロジェクトの主役は政治家と官僚にまかせる。彼らの日本株式会社のストーリーをどれだけ引き立てられるか。分相応ちゅうこと。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ああ、そうだ。俺は主役だがあくまで第一幕の主役だ。お国の政治劇にはテロップにも名前が出ない男なのか。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「とはいいながらだ。大正電力をプロジェクトにいれれば、経団連は一個にまとまる。竹村さんや民権党さんにやりやすい舞台を作ってさしあげる。今回の件が成功すれば沼田勝は経団連会長やろうな。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">うまく人参を目の前にちらつかされた馬のように走り続けさせる馬主蛭田は、沼田の心をうまく操縦している。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ありがとうございます。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いくは、政治家か、そのまま経団連から好きな企業バッチを選んでもいいんやで。榎田さん、いうたね。あんたもや。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ようやく気分を明転させて蛭田は明日以降の段取りを確認し始めた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「南雲に引導渡したれ。二の手でＣＩＴＹＳも動く。資金は日銀からでもひっぱりだすよってに。お前らは前線で心置きなく暴れてこい。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">臨時取締役会当日<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">朝八時前だというのに、大正電力本社玄関には車が入れないほどマスコミがつめかけている。一応会議メンバーだけしか知らない臨時取締役会の日時は、フライング気味の沼田勝専務のマスコミ露出によって、公に知られることになっていた。玄関、社員用ドア、裏口にいたるまでカメラを持って待ち構えるマスコミがはりついている。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">一台のセンチュリーが玄関口に入ったときは、全てのメディアが玄関に集中しフラッシュをたいて出てくる人物をとらえようとしていた。車は止まったまま沈黙し、ドアは開かない。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">南雲新三郎はアドバイザー明智光太郎とともに、徒歩で人気のなくなった裏口から社内に入った。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いとも簡単にひっかかるな、最近のマスコミは。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうでしょう。ちょっと頭をひねれば裏口に人を残して、玄関入り口に向かうもんですがね。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「水先一郎なんかは双子の弟の顔して受付通って、わしの部屋までおっかけてきたもんだ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「双子のトリックですか。面白い。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「で、車には誰が乗っているの。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おそらくレッドカーペットを歩く女優の気分で、小林がカメラマンのフラッシュをあびるでしょう。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">明智がメールを送信した<span>2</span>秒後、玄関口に止まっていた車のドアが開いた。カメラが一斉にフラッシュをたいたが、中から出てきた見知らぬ女性を見て、沈黙をしてしまった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「やられた。」「なんだよ」という声で離れていくマスコミを確認して小林は玄関を堂々と入っていく。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">続いて沼田専務を乗せた送迎車が、登場の合図のようにクラクションを鳴らして仰々しく入ってくる。カメラは一斉に車に押し寄せた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">自分でドアを開けて沼田勝がカメラの前に登場した。「皆さん、おはようございます。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">最近のマスコミ露出で若干の“慣れ”を感じさせる。矢次早に記者の質問がとぶ。「今日の取締役会で大多数を握られているそうですが、本当ですか。」「東都銀行との密会は存在したのですか。」「新体制を決められるそうですが、具体的にはどのようなことでしょう？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">沼田は一番答えたい質問を、あらかじめ用意した回答でこたえた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「“新体制”という言葉でお分かりだと思いますが、<span>40</span>年近く続いた旧態依然とした組織体制はそろそろ、限界ではないかということです。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それは南雲社長の勇退を意味されていますか？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「私はあくまで“一企業の”取締役会です。お察し願いたい。ただ、日本が一致団結してエコプロジェクトへ船出しているときに、当社だけが違う方向を向いて大船を錨でつないで、動かない。それは許されないように思います。日本の代表的企業として我が社も重責を担うべきではないかと、思います。」暗に自分に大義名分があることを仄めかす。電信堂の榎田のＰＲ戦略通り沼田は応答した。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「社長解任決議を出されて“勝てる”見込みがありますか？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「新社長にはどなたが」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その後いくつか質問が出たが、用意された回答以外はせず。「ご期待に反することはございますまい。」と自信を見せて記者たちの塊をかきわけて社内入りした。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">小林は明智に与えられたご褒美の帝国ホテルのスイートで休日をとっていた。日比谷の大正電力を真上から見下ろせる高位置は、小林の希望でもあり、明智の戦略でもあった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">大正モダン食堂で社員がくつろぐのを見ながら、山盛り頼んだフルーツの束から葡萄を取り出して食べならボーっとしている。午前<span>10</span>時から開始された臨時取締役会で勝負のきぶたは切っておとらされたところだ。<span>2</span>時間予定されているその会議が大正電力と日本の行方を方向付ける大事なイベントである。社員たちは仕事など手につかないだろう。現に屋上のモダン食堂テラスには昼前だというのに人がまばらだ。<span>1</span>週間大正電力に“常駐”し<span>100</span>名以上の部長以下の社員たちにあってきた。もはや大正電力のことを誰よりも詳しい社員の気分であり、大正電力の社屋を見るのは抵抗感があったがそれでも自分の会社を外から見守るように気がかりだった。だめだ。こんなことでは、精神のデトックスなんてできない。窓際から席を離れ、頼んでいたマッサージを再開した。タイ式のオイルマッサージで頭も身体もリラックスして天にも昇る心地よさに身をゆだねた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">水先の社史、杉並の嘆願書、南雲派、沼田派、不思議な機関部管理人、そして北条さん。深夜のカーチェース、大正電力の“箱”・・・小林は明智との直前の会話を思い出した。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ご苦労だった。君はいい助手いや、良いディテクティブになる。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「土日返上で<span>1</span>週間に<span>150</span>名か、凄い数をこなしたな。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ありがとうございます。頭は整理しきれてないですけど。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君のデトックスには相応のふんぱつをするつもりだ。何がほしい。何がしたい。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「帝国のスイートでマッサージですかね。他にデトックスの方法があれば教えてください」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうだな。男向けのものは用意に想像がつくが、女向けならマッサージなり、アロマだろうな。他にしたいことはないのか、ほしいものは。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「元気になることであれば何でも。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「帝国のスイートとマッサージ、それから食べたいものでストレス解消になるものは何でも注文すればいい。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「何でも？いくらでも、ですか？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ああ、散財、食事、睡眠、気分がよくなってリフレッシュできるだけすればいい。金に糸目はつけない。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「かっこいいですね。私が無趣味で買い物も食事も金のかからない女だということを計算していってます？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「察しの通りだ小林。君には物欲も、食欲も、それほどありはしない。性欲はしらんが、ほんとにほしいものはないのか。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「明智さんは私を満足させられるんですか？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「俺がほしいのか？すまないがそれはできない。君の信条にも反する。これからファーストファイトが始まる。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「明後日ひろいにいく。それまで好きなだけ、寝て、食って・・・好き放題だ。あと今日の<span>8</span>時だけリムジンに乗って会社にきてもらいたい。それで休暇前最期の仕事だ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「リムジンに乗ってどうするんです。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君のサイズに合わせてシャネルのスーツを届けさせる。それを着て、リムジンに乗り、合図があったら外に出て記者たちを煙に巻いたら帰っていい。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">自分がアカデミー賞のレッドカーペットのような派手な登場でフラッシュをちょうだいしたときは、まあまあいい気分だった。何よりマスコミ陽動作戦にのせられた記者たちの落胆ぶりが面白い。子供の頃よく自宅をとりまいたうっとおしい存在であるマスコミをこけにしてやった。ほくそえみながらまた、天国へと戻っていった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その日の天気は今にも雨がふりだしそうな暗雲とした天気だった。降りこそしないが、遠くで雷鳴がとどろいている。皇居周辺も薄暗く社員たちは各自仕事に勤しんでいるが、それぞれの気が散漫としていることは確かだった。<span>10</span>階の大会議室には総務の水先の指示でてきぱきと、水や資料、スライドなどの準備がされている。柔和な仏顔の水先にも緊張の色が見える。営業部長執行役員の笹田、続いて杉並マーケティング部執行役員、経営企画室の＠＠、いつも議長をつとめる女性キャリア経営企画室次官の北条、そして悠々と登場した沼田専務、柳田常務、<span>11</span>人の役員が次々と入るのを、社長室のモニターで確認していた明智は<span>10</span>分経過後、南雲社長に合図を送った。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「じゃ、本陣の守りはよろしく頼むぞ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「はい、社長も<span>good luck</span>を願っています。戦略は打ち合わせとおりに、逐次メールを遅らせていただきます。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「うん。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">数分前、沼田専務室では明智と同様榎田がスタンバイしている。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「では、シナリオ通りにお願いします。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「分かった。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「笹田営業部長がお持ちになっている小型カメラを通じてこちらで監視させていただきます。なにかのときは、笹田さんにメールをさせていただきます。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「しかし、大丈夫かな。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大丈夫です。ことは我々のシナリオとおりに進んでいます。マスコミへの露出と、世論形成、竹村事務次官や蛭田頭取のバックマネー、準備万端ですよ。明日の大正電力を担う新社長沼田勝が一声上げるんです。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">空調のからからという音のみが会議室に聞こえ、緊張した空気がまだ来ぬ社長を待っているボードメンバーをじりじりとさせていた。秘書が扉をノックした音で全員の注目を集めた南雲新三郎大正電力社長はゆっくりと会議室に入った。全員が起立して見送り、<span>88</span>歳という年を感じさない歩きで独特のオーラを静かに抑えながら将軍南雲は円卓の中央奥の席に座った。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お座りください。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">南雲の視線をうけた議長北条静香がメンバーの着席を促した。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「本日の議題は、お手元の資料にあります４つの議題です。株主総会での発表事項である」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「その前に、本日は私沼田の方から１つ議題をださせていただきたい。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">社長室の明智、専務室の榎田が見守る中、ゴングがなった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それは総会前の取締役会よりも重要な議題ですか？」北条が応じる。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「はい、わが社と日本の未来に影響する重大な議案です。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「何でしょう。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「本日<span>6</span>月　日をもって南雲新三郎社長の解任決議を提出いたします。」一呼吸置いて沼田は言い切った。会場には驚きの声は上がらない。皆が予測できたこだからだ。既に沼田から支持をとりつける“工作”を受けていた役員たちは南雲が睥睨する視界に入らないよう下を向いている。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「理由は何でしょう」北条は躊躇なく確認した。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「直近<span>3</span>年の赤字転落及び株価低迷に対する経営責任でございます。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">明智は一応やりとりをメモしながら、思った。赤字転落は電力需要への対応（原発など設備投資）であり、株価低迷は言うずもがな。業績市場ではなくウォールストリートがしでかした大規模な<span>CDS</span>（サブプライム）問題である。南雲社長に問題はない。あるとすれば政府主導のエコプロジェクトに経営方針をあわせないことだろう。役員たちはそれをわかっている。南雲新三郎は黙って静かに様子を眺めている。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「本議案に賛成の方は挙手願います。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">営業部執行役員笹田を含め、沼田及び銀行出向組の監査役など数名が勢い良く手を挙げ、経営企画室長＠＠が続いた。杉並、水先が南雲と目線を合わせた上で手を上げた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「<span>11</span>名中、<span>8</span>人の賛成多数を持って本議案を可決いたします。」北条が淡々と決議結果を述べた。笹田が拍手をしようとしたが、沼田の視線で制された。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「では、社長職はどうされますか？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「南雲幸四郎常務はどうかと」沼田が言う常務は南雲新三郎の弟だが、ここ数年持病の心筋梗塞で入退院を繰り返し、今は自宅療養中である。会社としてこの事実は隠さずとも出すべきことではない。まして<span>100</span>年続く伝統ある上場企業の社長が、病人をすえることは、自ら世間に大正電力はおかしくなったといわせる愚案だ。株主はおろか誰が考えてもおかしい人事である。明らかに南雲新三郎に関連する人間を追い落とす目的である。会社の名前を貶めても、経営権を奪取せんとする手段ともいえない手段である。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「常務はとてもその職務をまっとうできる状態ではありません。」水先が反論した。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いや、世間では常務の体調は知られていない。名門大正電力の社長が南雲姓であることは意味があるので、お名前だけお借りする“つなぎ”も必要かと」笹田がメールの文章を読む。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「常務がそのようなつなぎを承諾されるとは思えません。」杉並が正論で対応する。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「今必要なのは大胆な改革と、同時に社内世論を安定させるための“方策”です。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">皆が発言のたびに沈黙する南雲を気にしている。しかし将軍南雲は沈黙を破らない。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「常務の次は専務、沼田専務が社長職を継がれては」笹田がまた文章読むように発言した。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いやいや、私ではとても大正電力<span>4</span>万人の雇用を背負う重責は担えません。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「では、社長職は空席になりますよ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ただでさえ、南雲社長が退任されるのだ。空席にしては面子が立たない。株価にも影響する。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「一度、沼田専務社長昇格案を採決してはいかがでしょう。」北条があくまでも議長として発言をまとめにかかった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">下手な腹芸だが、沼田派としては賢い選択だ。北条さんも肝が据わっている。結果を予測した上で自ら沼田社長決議を取りに行く。明智は興奮を抑えて観戦している。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「沼田専務を社長職に昇格する決議に賛成の方」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">笹田と監査役数名が手をあげるそぶりこそみせたが、状況を見てひっこめた。なんて面白い連中だ。結果は見えているだろうに。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「賛成なし。否決します。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">さあ、出番ですよ杉並さん。明智の念は通じた。杉並が経営権の主体をどこにするのか、代替案を前にだした。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「社長職は空席のまま、南雲元社長が歴代非常時にしかおかれなかった会長職につかれ、今まで通り経営を主導いただくのはどうでしょう。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">決まりだな。大正電力は明治創業以来、江戸幕府のような数人の役員による協議制をとっている。あまり良いイメージではないが、幕末に老中協議制から井伊大老一任へと体制移行したことに似ている。そもそも大老職は非常時に老中協議制が機能しないときに発動されるシステムであり、強権を発動して安政の大獄で弾圧を加えて暗殺される井伊直弼とはまったくイメージが違う。そもそも今回の社長解任劇は沼田専務が出身元の東都銀行、そして政府の指令を受けて起こした内部クーデターなんだ。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「南雲社長の会長職就任決議に賛成の方は“ご起立”願います。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">沼田はあやうく立ちそうになる笹田を視線で殺していたが、<span>8</span>名が直立不動で起立した。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">明智はその瞬間拍手しようという衝動にかられたが、モニターに一礼することにした。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">南雲社長の威光は大きく、沼田が経営権を奪取するには至らない。沼田と背後のバックの圧力には屈しても、南雲将軍への忠誠は変らないということだ。同時に沼田では大正電力は背負いきれないし、彼の“本部”もそれを認めないだろう。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">３つの議題のうち一つは、東都銀行が大正電力株の筆頭株主になったこと（発行株式の<span>10</span>％を<span>15</span>％に引き上げ）など重要な議題もあったが沼田がお茶を濁した。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">南雲新三郎は一言も発せずしてクーデーターを制したのだ。明智は沼田が携帯メールをうっている先の榎田と、蛭田氏への“昨晩のご挨拶”を思い出してにやりとした。同時にこれから株主総会までの<span>7</span>日間戦争が始まることに身震いしていた。大正電力社員<span>4</span>万人の命運がかかっているのだ。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（南雲と栗林の面談）メディア獲得合戦（榎田）<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">“大正電力の内部抗争　第一ラウンドは沼田専務陣営の勝利“号外こそでなかったが、新聞各社は夕刊で沼田 勝 専務側が優勢であることを伝えた。街頭テレビでは<span>Tv</span>ジャポンの人気キャスター　長谷川エリーが快活な笑顔を保ちつつ、冷静な口調で話している。「政府主導のエコプロジェクトに最期まで反対姿勢を見せていた大正電力で、本日午後臨時取締役会が終了しました。南雲社長<span>88</span>歳が社長を退き、会長として現場からは離れることが決定したとともに、東都銀行が大正電力株の<span>12</span>％を取得を発表。メインバンクである東都銀行が筆頭株主<span>1</span>位になる意味合いはどのようなことが考えられるでしょう。渡辺さん」経済評論家にして元大蔵省事務次官の渡辺達也が、分かりやすく回答を述べた。「東都銀行が株主になることによって、会長である南雲新三郎氏の影響力をけん制する意図があるかと思われます。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「では、テレビ出演を重ねる沼田専務と南雲会長の間で意見の相違があることは間違いない。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「沼田氏は東都銀行からの出向です。出身銀行からの援助を受けて大正電力の方針を固めていきたいことはメディアへの対応でも明らかです。南雲氏が社長職を“退かれ”ましたが、５％の大株主として存在しています。社長職が空席の状態で株主総会を迎えることになりますので、以後の展開を有利に運ぶために東都銀行からの支援を受けたのでしょう。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「南雲氏の意向とは、相反して沼田専務はメディアへの露出が増えています。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「戦略でしょう。株主総会に向けての」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「業務に支障が出たり、社内の戦いをあおる恐れはありませんか。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「南雲会長の意向とはまさにそこでしょう。しかし、日本的経営のカリスマと言われる人物の進退は、日本経済じたいに影響せざるをえないと思います。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「株主総会まで<span>1</span>週間。大正電力と、日本経済の動きに注目が集まります。以上ニュース速報、長谷川エリーがお伝えしました。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">緊急ニュースでテレビ各社が一斉に<span>1</span>企業の取締役会の経過を伝えるのは異例だが、日本型経営の雛形である同社の動向が、“エコプロジェクト”という政局絡みのニュースに直結していることを日本中が注目していることを示している。連日テレビに出演する沼田勝や経団連の幹部は政治家よりも注目度が高い。衆議院選挙より視聴率が上回る結果に長谷川は複雑な表情を見せた。今の日本は政治ではなく、経済で動いている。フランス人の母と日本人の父を持つ長谷川は、<span>10</span>歳までフランスで育った。フランスでは経済よりも、政治の方が注目される。順番として当たり前のことだ。政治参加意識が高い国民、もちろん両親もそうだった。母はフランス初の女性議長を勤めた政治家であり、父は外務省在仏勤務だったからエリーは自然と政治感覚を身に着けていた。父が日本へ帰国する際、立場上フランスを離れられない母をフランスに残し、エリーは日本へ帰った。母が任期を終えて、政治に自分のやり残すことがなくなるまでには、そこから<span>10</span>年の歳月が経った。事実上の父子家庭であった。今は両親ともに引退して余生を過しているが、日本でも政治意識は高かった。現在のシステムでは日本は不幸になる、というのが二人一致した意見で娘のエリーに政治家への転身を促したこともある。エリーはテレビタレントとして売名行為の上で勝ち取る議員バッチには納得いかないため、また偏りのない客観的な立場が自分に一番あっていると確信しているため、アンカーキャスターをできる限り長く勤めたいと考えている。少なくともジャーナリストとして日本に一役買いたいという思いは両親を喜ばせている。<span>Breaking news</span>を伝え終えたスタジオで、<span>cm</span>入りを確認したエリーは明智がスタジオに来ていることを確認して駆け寄った。二人は周囲の人間が分からないように、英語で会話を始めた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「光太郎。元気？こんな形で会えるとは思わなかったわ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「僕もだよ、エリー。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いち早いお知らせありがとうございます。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いやいや、南雲さんの意向を受けただけのこと。一番信頼できて視聴者の支持があついエリーお願いしたんだよ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「南雲会長のメディア露出は避けたかったのよね。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「仕方ない。あの方自身が日本経済にインパクトがある。いやでもメディアが取り上げる。それに沼田さんと電信堂がせっせとキー局通いをしているだろう。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうみたい。他局のキャスターに聞いても彼らの番組出演と<span>CM</span>攻勢はすごいみたい。またエコで大正電力さんの名前で視聴率もとれるからね。光太郎の狙いは？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「もちろん、大正電力をエコプロジェクトから一線おいたところで、従来通りインフラ企業として消費者に安定したエネルギーを供給させることさ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それは難しいでしょう。南雲社長の後継課題、政府主導の圧力、世論もある。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「明智<span>MK</span>事務所創立以来のビッグな案件だ。それだけにやりがいもある。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「手ごたえも大事でしょう。世論はエコを認めつつある。常識としてね。内容には関心がなくもて。それに相手が多数で大きすぎない？私心配しているのよ。勝敗が見えているから。それにこういう政治からみの巨大キャンペーンに関わると長期戦になるわ。そうすると社内がめちゃくちゃにならない？いくら正論をうちたてても世論もついてこれないでしょう。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「うーん。電気は現代生活要だからね。仮に総会まで<span>7</span>日間電気が止まったら」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おそろいしいこといわないでよ。経済どころか、生活もできないわ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「都銀や証券市場が停止する。サブプライムの<span>4</span>日間のときの数倍ダメージは大きい。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「喜ぶ人間はいないわ・・・もしかして」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「何？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いや、流石にそんなことはないだろうけど、喜ぶ人間がいないわけじゃないわ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「誰だい？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「外国。特に中国やアメリカ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「さすがにないだろう。確かに日本の原子力技術は世界有数だ。沼田専務と銀行の連中、政府の人間も全て原子力のことは今まで通りカードとしてもっておくだろう。エコをやって儲けたいだけであって、原子力は有効だからな。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「でもさ、<span>CITYS</span>が東都銀行の背後にいるんでしょう？アメリカが背後にいるのと同じじゃない。彼らにしたら資本を握って日本の原子力技術を弱めておきたいんじゃない？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「確かにな、後ろめたい人間が考えそうなことだ。相当我々日本人が怖いんだろう。世論的に表立って言うことはないが、これだけ日本が世界を支えていながら尊敬されないとなるとな。アメリカや中国は巨大な軍事力を背景にした政治経済支配が弱まることには極端に敏感だからな。ただそこまで事を大きくしないよ、南雲さんは戦争世代だけど、短絡的にアメリカや政府を刺激することはしない。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「だったらいいけど。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「最近のマスコミ批判でちょっとびびってるのか？らしくねいね、今や櫻田さんの後継者とも言われる“論客”長谷川エリーともあろう人が」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そんなことはないわ。マスコミが批判されるのは、政府や企業“スポンサー”に利用されて、偏向報道するからでしょう。全部経営層が悪いのよ。札束と権力に弱いのよ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そこは言い切ってくれてるから、エリーは強いね。そう強かに行かないといけない。日本は武器も経済も弱いです。と外国にポーズをとりながら、原子力技術を維持して技術革新して未来をつくる。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうね、未だに砲艦外交してくる連中には弱さを見せながら、強かに武力をつけないと。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「これくらいの議論をご近所のおばちゃんが話せるように情報提供してほしいね。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「まだ無理ね。お隣のおばさんが聞いたら、あなたそんなこと言ったら軍国主義者とか、過激派と言われるわよ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そろそろ、俺くらいがスタンダードな世の中にしたいもんだよ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうね、そのうち目覚めるわよ、日本人も後<span>20</span>年経ったら」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「アメリカ教育世代がバトンを渡してくれたらな。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あ、ちょっと待って。南雲会長のスポークスマン明智さんの今後の戦略は？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それはメールしますよ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「だめよ。社内メールはおろか、携帯だって、便利なものはすべて管理されている。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「言ったら、遊んでくれるのか？個人的に」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたは好きよ。でも公私混同は私のルールに反するの。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「<span>0629 1500</span>」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それじゃあ、お疲れ様でした。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">長谷川エリーは暗号を理解した。彼女が世論に対する最終導線の要だ。味方の援護射撃に感謝しながらスタジオを出た。次なる導線に火をつけに。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マーケティングとは、何だろうか。今日はそれを改めて考えてみる。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ビジョン、経営戦略が根幹となった商品、サービスの認知、売上げ向上の方法。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">経営者の方が創業理念に基づいて、もしくはマーケット分析の結果を考えた上で、ＰＤＣＡを企画するので、経営者の方に特にマーケティングを“認知”していただき“活用”してもらいたいと思います。小規模の会社であれば、営業企画（営業マンが企画をかねている）場合と大規模の場合はプロダクト、商品ごとにマーケティング部があります。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">私の経験上、経理、営業、メーカーなら技術畑から出身の社長に大別され、「良い商品を作れば、マーケティングなど必要ない」とか、「マーケティング＝広告代理店でお金がかかる」とか「マーケティング会社は理論ばかりだ」「社員はわが社の商品を理解していない」「全部任せたのに効果がない」という声を良く聞く。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">これは経営と現場、外注先との齟齬だと思います。実際に経験したミスマッチの事例をリアルにご紹介しよう。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">①広告代理店とのミスマッチ<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ドカンとＣＭを出して、派手にイベントして、アドバルーンを飛ばしましょう。」（バブルの頃の広告代理店だが、メディア枠を代理販売するのが主要目的なので、企画書の主旨は同じである）<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">これは予算<span>5000</span>万円の会社でよくあることで、広告代理店でも分析調査がしっかりしている会社でなれれば、つまり長期視点でクライアントが利益を出す志向であれば問題はないが、単発の広告で盛り上がって、効果がなかっためにアレルギーを起こす担当者及び経営者の方がいる。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">広告代理店のイベント感覚もさることながら、経営者にマーケティングの視点がないために起こる悲劇である。現在経済における金融のめぐりが悪くなって（不景気で）気がつくというわけである。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">②社内ミスマッチ<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「社員はわが社の商品を理解していない」君は部長なのにまだわが社の商品を理解していない。君が社長だったらどうするか、無駄遣いはしないだろう。もっと安上がりの広告をだすはずだ。こういわれたことがある。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「良い商品を作れば、マーケティングなど必要ない」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">一本木で職人、創業経営者にはあまりお会いしたことがないが、カリスマもしくは怖い経営者に部下が萎縮しているケースを見てきた。証券時代、経営陣には為替一筋<span>30</span>年の強面や、相場師経験者を相手にマーケティングを実行していた。彼らは好きが高じてプロになった（客観視すればマニアな職人）。ファイナンスに関しては彼らのフィールドである。これが創業社長なら、なおのこと部下は大変だろう。「トレードに興味がない君が、トレードを始めさせる」的を得ている。私はそこに教育コンテンツという解答を出した。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">これなら自分の土俵にもちこめる。なおかつ、投資力を鍛えることは銀行、証券会社の優先課題なのだから。日本の投資家が素人で、勉強や実践もしないまま“投資に手を出し”失敗して「ほらみたことか、投資なんかせずにまじめに働くべきだよ」となる。それはそうだ。欧米人投資家のように、狩人気質で金融になじみが深い連中を相手に素人がいきなり勝てるわけがない。「良い商品を作っても、その使い方、認知がなければ作った意味がない。エジソンの発明はボランティアではなく、ビジネスのためだったのだから。」こういうスタンスで職人社長はマーケティングの土俵に乗せるべきではなかろうか。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（実際エジソンは貧しい家庭に生まれ、良く知られているごとく学校に行かなかった。そんな彼は良い物を作れたら食えなくていいと思うはずがない。世間に自分を認めさせたいと同時にリッチになりたい。というのがモチベーションである。動機不純といわれても、事実エジソンの会社はＧＥという巨大グループ企業として金融業も営んでいる。発明家というより、宣伝家だったという記録もある）<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">③まるなげミスマッチ<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">一番最悪のミスマッチがこれで、クライアントがマーケティング及び広告を理解せず、言葉をきつくすれば、職務怠慢で広告代理店以下にまるなげするときに起こる悲劇である。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「全部任せたのに効果がない」という最悪の言い訳になる例である。（広告代理店に責任転嫁する。）<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">④惜しいミスマッチ<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「マーケティング会社は理論ばかりだ」と言う会社は<span>4</span>つのパターンの中では一番まともな失敗である。この台詞は広告代理店との取引があり、有る程度の効果はあるが、それが頭打ちになって、広告屋でなく、マーケティングとコンサルティングの両方が分かっている会社が必要だと考えているケースだから。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">正論では経営企画がブレーンとなり、経営サイドの理念、数値目標と利益計画をひいて、商品企画の段階でマーケティング部と戦略立案から部署連動、ＰＤＣＡの実施を行ない、<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その上で客観的ブレーンが必要ならコンサルやマーケティング会社に依頼し、いよいよ広告宣伝を開始するときに広告代理店を利用すればいい。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">あくまで正論であり、世の中そうはうまくいかない。社風（トップダウンの風潮など）や部署間連動（組織がスムースに動かないなど）、で調整が必要になる。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そういうわけで、経営とマーケティングは綿密に行動をともにすることになる。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そうすれば、上記のようなミスマッチは少なくなりはしないだろうか。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">小林は生意気といわれるのを覚悟で自分なりのマーケティング本を書き始めていた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">最初は帝国ホテルのスイートに“住むこと”でとにかく心と身体をデトックスすることに全力だった。だがこの貴族のような暮らしはどうだろう。<span>19</span>世紀パリの内装を現在建築で実現した室内には、シャンデリア、使用しない暖炉、豪奢な机、まるで天国の雲のようなベット、どれもアンティーク家具で値段は小林の年収ほどもする。それらが既に私のモノになって<span>3</span>日。住めば都、いやそもそもここは都なのだが。休暇は<span>3</span>日までだったが株主総会に向けて“張り込み場所”兼臨時事務所としてこの部屋は機能していた。小林はもう<span>1</span>週間以上スイートを自宅としたゴージャスな暮らしをしている。実家は裕福ではあったっが父が質素倹約、堅実を絵に書いたような人間だったので贅沢な暮らしはしたことがない。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ロンドン留学でもインフレ経済のさなか、ボロアパート暮らしを経験し、社会人成り立ての一年目で“明智<span>MK</span>”に弟子入りしてからも、給料はそこそこで<span>1k10</span>畳のつつましい暮らしをしていた。これが貴族というものなのね。朝食は果物、焼きたてのパン、ベーグル、日本食も、バイキングで出されるメニューが全て部屋に運ばれてくる。オーク製の<span>10</span>人掛けテーブルに所狭しと並ぶ料理をおいしいところだけ食べて、後は残して下げてもらう。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">時にはプリン、ケーキなどあらゆるスイーツだけ食べておなかがいっぱいになった日もある。マリーアントワネットの気分だ。質素倹約の父に見られたら即連れ戻されること間違いなしだろう。昼食はサンドウィッチだが、中に挟む野菜や肉の種類は豊富だった。私ここのままじゃ、デブの仲間入りだわ。友人の中でもスタイルはよいほうではないが、太って大変ということもない。ただしこのままホテル暮らしのセレブを続ければ確実にデブになる。そこでホテル付のプールとジムで身体をしぼることになる。西洋人とくにアメリカ人が何故あれほど肥満体になり、ジム通いをしなければいけないかが分かった。必要以上のエネルギーをとりすぎているからだ。狩猟採集民族は常に何か食べている印象がある。そもそも寒く、農耕に適した大地に恵まれない欧州ではハンティングや牧畜が主流になるのだろうが、何故にそれほど食べるのか、そしてそのカロリー＝エネルギーを消費できないために、スポーツジムに通う。こんな無駄なことはない。和食一筋の父親なら一喝するだろう。午後<span>13</span>時<span>15</span>分。そろそろ後場が始まる。東都銀行や個人投資家が電子ボード上で、鎬を削るマネーゲームを<span>watch</span>しなければいけない。プールから部屋に戻りテレビをつけると<span>cnbc</span>と<span>bllomberg</span>で株価をおった。同時に机の上の<span>30</span>インチのパソコンでも板情報で敵方の動きを監視した。日経平均の雄たる大正電力株の南雲社長の電撃解任、会長勇退、社長空席で経営権の争奪が始まってから、連日<span>100</span>円<span>up</span>高値をつけながら、機関投資家、おそらく東都銀行や<span>CITYS</span>、ファンドなどの売り浴びせにより、<span>1,200</span>円近辺で落ち着く日々が続いている。発行株式数<span>1</span>億<span>3</span>千、株価は<span>1200</span>－<span>1300</span>円。東都銀行つまり、沼田専務陣営してはできるだけ安く大量に株を取得しておきたい。そのためには<span>CITYS</span>など外資やファンドなどを通じての空売りも辞さない。自社の株の価値をおとしめて、数を取りに行く手法は投資家では許されても、当事者たちは許されない。沼田が自社株売りができないために、そのバックにいる銀行群が空売りを連発。当事者ではない外資系投資銀行が便乗していくる。<span>PC</span>画面に写される昭和証券の取引画面には、大量の塊になった売り注文が爆発的に増えた個人投資家の買い注文と対峙していた。新興市場の小型銘柄ならこのようなことはありえない。個人投資家のわずかな買いに、機関投資家主に株主が売りで利益をとりにくるだけに、新興市場バブル、サブプライム問題下では軒並み株価は<span>1/5</span>以下に低迷している。大正電力、大和自動車などの大型銘柄も南雲体制の行方を巡って、日本人投資家マネーが市場に戻っている。証券市場はにわかに活気づいているのだ。政権がかわっても、地震が起きても変動しない日本市場を南雲個人の進退が動かしていることに驚きを隠せない。市場には良し悪しは別にして、“ニュース”が必要とされる。市場はファンダメンタルやテクニカルで分析できるものではなくなっている。投資家の心理、思惑が市場を動かしている。部屋の電話がなった。「昨日の音を流して、携帯に切り替える」明智の指示で<span>3</span>秒後にふるえる携帯をとった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「はい、小林です。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうだ、調子は。少しは太ったか」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おかげさまで、ちょうどいいぐあいに。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大正電力内部の様子は？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">明智が贅沢な帝国暮らしを小林に許した理由。それは大正電力から近い場所での監視、明智とは別の人間がそれを行えること。社内のセキュリティ用モニターを小林のいる帝国のスイートにひいている。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「役員たちの部屋以外はこれといった動きはありません。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうか、その方がいい。おそらく動かないのでなく、動けないのだろうが。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「杉並執行役員屋、経営企画室は静かです。ただ営業部がこの時期にストをおこそうとしてはいます。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「内容は？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「労働環境の改善と、経営者不在を糾弾しています。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「賃金値上げと、沼田社長担ぎだな。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうですね。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おそらく沼田の指示を受けて社内世論を一気に作り上げようって思惑だろう。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「手を打たないんですか？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「銀以下“駒”の動きは放っておいて問題ない。杉並さんや、北条さん、水先さんら金がしっかり玉を守っていれば。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「相手は確かに王なし、銀以下の陣営ですが、飛車角のかわりにビショプとルークが乱入してきていますけど、大丈夫ですか。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そこなんだ。今俺もお前さんと<span>2km</span>も離れていない証券会社ビル内で板とにらめっこしているが、こいつらの容赦ない売り浴びせは個人の買いの数倍の強さがある。日本の代名詞とも言える大正株にして互角には戦えない。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「予想通り、山が動いたら、風がふきました。南雲新三郎に個人投資家がエールを送っています。でも株主総会まであと<span>4</span>日、そろそろ体力も限界じゃないですか。東京興業銀行さんはまだ動きませんか。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「栗林さんは明日には“参戦”する。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「良かった。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「飛車が一つ増えたようなものだ。でだ以前お願いした件だが。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お断りします。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「日本の行く末がかかってるんだぞ？お前は我々陣営の銀だ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「分かっています。その件は上司命令でもお受けできません。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「自由党は味方してくれないのか。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「分かりません。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「何とかお父上を口説いてくれないかな。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「父と私の関係はさわらないという約束のはずです。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いかにも。ただ今回の件は相手方も政治家を利用しているからな。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「民業への政治介入はあってはいけないことです。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうだ。だが毒には毒をもって対抗する。そういうこともある。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「意志は固いか。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「はい。父が私を政治家にしたいことは今でも代わらないでしょう。でも半ば絶縁状態になってもそれを拒み、母の実家の援助でロンドンに行ったんです。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「小林幹事長はあまり体調がよくないとの噂だ。あの人がいなくなれば自由党はなだれをうったように崩壊するだろう。そうすれば今まで光星さんが守ってきた日本の国益が傷つけられる。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「明智さんはフェアな紳士だと思ってます。だがら私を政治家の娘だと知って利用することはないと信じています。やはり私ではアシスタント以上のことができないようですね。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そんなことはない。君は総務省官僚より良い調査官だし、経営とニアリーイコールのマーケターとしてどこへ出しても恥ずかしくないぜ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「次の指示ですが、大正電力内部の監視と、株価、ニュースのチェックでいいですか。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「よろしくな。俺は大野証券のディーリングルームにはりついているわけにもいかないから。現場はしっかり見ていてくれ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">電話が切れらた後、日比谷から愛宕の先に見える霞が関国会議事堂を見つめた。もう１０年以上口を聞いていない。連絡をとっている母からは、年々衰えが見え政治力にもかげりがみえはじめた父小林光星のことを聞いてはいた。何度か人を通じて会いたいという連絡もあったが無視し続けている。往年を過ぎても、息子のいない光星にとって“跡継ぎ”である自分に戻ってきてほしいことはわかる。しかしあれほど荒れた家庭を作った父親を許せない私的なわだかまりがある。小林には二人の妹がいる。いずれも父の政略結婚の道具に使われた。門閥という政治家、官僚、経済界でのパワーポリティクスには欠かせない常識だったが、小林には許せなかった。家族もプライベートまでも政治に変えてしまうことが。そういう父に反発して海外に飛び出した。どこまでも自由をもとめて。小林は自分の力で独立して生きていくことを目指した。キャリアエリート崩れの明智<span>MK</span>に入って、マーケティングどころか、経営のコンサルまで現場で覚えた。２０代そこそこの小娘が会うことさえできないお偉方とも話すことができた。スパイのようなことも、カーチェイスもやった。明智も才能を認めてくれている。同時に思うのは大人しく、小林の家のためにつくす妹たちのことだ。次女節子は戦前から続く森田派の５代目の御曹司と結婚、三女の貴子も世襲で成功している恩田自動車の息子との縁談が進んでいるという。物思いにふけっている小林をメール音が現実に引き戻した。メールの送信者は大正電力経営企画室次官　北条静香、「栗林“中将”ご出馬も・・・」とある。とっさにパソコンの取引画面を見入った。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">売り注文が<span>10,000</span>本単位で数秒ごとに入っている。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">大興証券ディーリングルームでは沼田が手をたたいて喜んでいた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「南雲将軍も、盟友栗林頭取に見限られた。これで我々の経営権奪取もより磐石になったというものだ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その浮かれぶりを慎重な面持ちで榎田が制した。「私の邪推ですが、まだ栗林頭取が南雲会長を見限ったと捉えるのは早計かと。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「何？いくら天下の東興の頭取でも、自分の金じゃない。<span>1</span>日<span>100</span>億単位で金を動かせたとしても、株主として資産価値下落には耐えられない。社内調整が難航したんだろう。買い支えは不利とみて、売りに回ったんだ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「確かに大正電力株価を下げたところで、我々が買い集めやすくなりますが、それは相手にとっても同じことでは？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いいんじゃないか。蛭田さんと<span>CITYS</span>の資金バックがあればいずれにしても資本力で圧倒できる。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">解せない、という表情を崩さないまま榎田は携帯で部下に指示を出し始めた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「俺だ。数値はどうだ？うん。前場と後場の時間帯の反応がいいのは予測通りだ。大正株は老人株だからな。総会までにできるだけ垂れ流せ。それからメインバンク東京興業銀行の大正株売りのニュースを速報と、シルバータイムで流せ。南雲将軍、盟友栗林に離反される。タイトルはなんでもいい。ネガティブキャンペーンだ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「相変わらず動きが早いですな。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「栗林頭取の真意は別として、今はどれだけ大正株を安く買い叩けるかが重要ですから。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「南雲ファンの個人投資家の失望感は相当だろう。投売りが始まるぞ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「はい、ここまでは思惑通りです。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ここまではか・・・このまま<span>51</span>％を取得して株主総会を迎えたいね。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「現時点での当方陣営の取得数は全株式の<span>25</span>％。おそらく今回の東興の売り向かいで、明後日には<span>35</span>％を超えるでしょう。<span>CITYS</span>が底値で買いに回れば<span>45</span>％超となるでしょう。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「君は本当に広告屋かね。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ええ、キャリアとしては広告屋より金融の方が長いですから。ビジネスのオリジネーターたれ。そう思っています。金融で始まり、広告で終わる。ビジネスの血流である金融を元に有形無形のものをつくり、広告で世相をも作る。金融と広告は資本主義戦争では最強のタッグです。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「私もバンカー（銀行員）でなければ、今の地位にもつけなかった。所詮世の中は金だ。<span>90%</span>のことは金で片がつく。政治も経済も、君の言う“血流”を握るんだからな。大正電力の“血”も新しくいれかえねばならない。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「日本全体の血もね。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうだ。戦時世代に頭をおさえつけられ、下克上を狙う若年層にたたかれ続けた、我々学生闘争世代が天下国家を動かさねば。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「珍しく雄弁でいらっしゃいますね。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">榎田が、本音とは言えない冷たい口調でおべんちゃらを使った。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">7</span><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">日前　大磯の南雲別邸</span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「栗林、今なんと言った。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「東京興業銀行は、大正株を売りに回る。そういった。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それがどういうことか、どういう印象を世間に与えるか」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お前の怒りはもっともだ。安定株主である我が銀行が大正株を売り出せば、株価は大幅下落する。東京興業銀行は、大正電力を“見限った”といわれるだろう。週刊誌などは、南雲将軍、盟友栗林中将に裏切りられる。そんなところじゃろう。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「とても許されることではないぞ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いいか、新三郎。大正株がマネーに翻弄されるのは、俺たちが戦後に味わった屈辱感とやるせなさと同じようなものだ。それは分かっている。しかしここは、情を捨て、理を取ることで最終的に情を引き出す戦略なんじゃ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どういうことだ。東都や<span>CITYS</span>と同じ側に立って利益を上げるのではあるまいな。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「違う。大正株を売り出すことで、安くして買取やすくすれば反転買いしやすい。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「理解はできる。が、納得しかねる。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大正は南雲新三郎そのものだ。だから気持ちは痛いほど分かる。だがこれはマネー戦争のパフォーマンスにすぎん。実際の大正株の価値を落とすのではない。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「よしんばわしには理解できても社員が納得せん。マネー戦争になることは覚悟しているがな。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そこだよ。敵をだますにはまず味方から、そう思ってくれ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「信じよう。その作戦に。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「<span>0625</span>　東京興業銀行は売りから、大正電力防衛線に参戦する。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ありがたし。わしの株はどうする。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「栃木銀行が株と貴公の全財産と社屋を担保に<span>100</span>億用意する。底値で買いまくれ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「分かった参謀殿。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「後はバランスシート上でも少々傷をつける。いいかな？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「自身はおろか、社員、会社全てのプライドはかなぐり捨てる覚悟だ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">分かりました。では今期の決算発表を総会前<span>25</span>日に出してください。設備投資などを前倒しして経常利益を減らし、負債、<span>CP</span>を増やした状態で公表くだされ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「死に体であると、フェイクをかけるのか。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お察しくだされたく。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">二人は海軍<span>25</span>期生で出世も同じくらいだった。ともに終戦時は中尉で房総の駐屯地で玉音放送を聞いた。海軍は西郷隆盛の育てた薩摩出身が多く、山本権兵衛（日露戦争の海軍大臣のちに内閣総理大臣）やバルチック艦隊を破った東郷平八郎（日露戦争時連合艦隊提督）、秋山真之（日露戦争時作戦本部長）、終戦内閣鈴木貫太郎、、国際感覚に優れた人物を擁していた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">陸軍が過激で暴走しアジア諸国を占領していき、戦争を拡大。海軍は英語を公用語とするほど、親米英で戦争終結を主張という、単純な構図が現在でも一般的であろう。黒澤明監督の終戦間もない衝撃作「日本の一番長い日」（<span>8</span>月<span>14</span>日御前会議の日本閣僚の奮闘、混乱ぶりを描いている。）そこでは海軍の方がむしろ、アメリカに通じる背信行為を行い、太平洋で意図的に負けることで終戦に導くハト派の行為を欺瞞としている、三船敏郎演ずる阿南陸軍大臣は部下たちに追い腹（殉死）を許さず、日本の敗北を認めて抵抗せず、終戦決議に賛同して切腹をとげるが、米内海軍大臣を殺せとまで言っている。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">南雲たちは、そのような雲の上のリーダーたちのやりとりなぞついぞ知らず、房総沖を眺望する海軍駐屯地で終戦を向かえた。海軍はイギリスにならって瞬く間に西洋化した部門であり、戦時中でも英語を話しジャズを聴き、西洋流の生活を楽しむことがあった。南雲や栗林は戦後、政府の公式文書を目にする機会が増えると海軍のほうがアメリカやイギリスに通じていたことが感じていた。あくまで推測に過ぎないが、ガダルカナル島で戦死した山本五十六連合艦隊司令官が追撃された偵察機の遺体は本人のものではないこと、ミッドウェー海戦以降戦う様子すら見せず硫黄島、最後は沖縄まで取られてしまうお粗末な米内、＠＠など海軍首脳の姿勢は南雲らが一下士官が見ても不自然であった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">親米派として戦中にマークされていた吉田茂も陸軍や特高警察から追われたというが、<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">東京裁判では何故か終戦時の閣僚ではなく、開戦時の内閣（東条英機元陸軍大臣）や陸軍首脳が多く裁かれている。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">戦勝国にによる敗戦国の一方的な私的暴挙であり裁判と呼べるものではない。だが戦後電力普及に努める大正電力で仕事を始めたときも<span>GHQ</span>の幹部が臆面もなくお前は海軍だったからラッキーだった。陸軍なら今頃闇市で小銭稼ぎに汗水たらしていただろう、としきりに言われた記憶がある。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">南雲はイギリス式の正攻法、王道の戦術を好んだ。一方栗林は奇策を常道とするようなゲリラ的戦術を好んだ。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> という訳だ。明智は他人事のように言った。日比谷公園から丸の内方面へと歩く道すがら。<br />「今回の我々の報酬は？」<br />「さっと、2億といったところだ。」<br />「私、死ぬ思いをしました。」<br />「そうだなあ。いくらほしい？」<br />「3000万」ふっかけても撥は当たらないと思う。ほとんど、わたしが働いたのだ。<br />働いたのだが、肝心な情報と仕掛けはこのむかつく上司が決めた。試合終了間際、ゴール前に突如出てきて、ゴールを決めたのはこいつだ。<br />「ナイスアシスト」<br />うう、本当に何もかも見透かしたように。分かっているなら、教えろ。無駄に疲れた。<br />「５０００万円振り込んでおいた。確認しとけ。」<br />「だから、何でアシストしたのに、そんなに少ない・・・今いくらって言いました？」<br />「また、自分会議していたのか？引き出しておがめ、そしたら、複数口座に振り分けろ。」<br />唖然としていながら、５０００万円が頭をこだましている。目の前に銀行がある。<br />これも明智の仕掛けかと、思いながら窓口で一言告げる。銀行員は少し動揺しながら支店長に相談している。<br />「いいか。これは銀行屋も絡んでる。政治屋もだ。だから、現金を金、国債、株式、外貨に分けろ。ポートフォリオはこれだ。読んで実行したら焼け。・・・・聴いてないな。俺は次の会社に潜る。新しい携帯だ。じゃやな。それから、これからしばらくホテル住いだ」<br />「これが５００００万。」<br />「はい、さようでございます。」支店長が変わり者を見る目で慇懃な手もみをしている。<br />「数えていいですか。」<br />「どうぞ、ご随意に」<br />銀行の奥の部屋でしばらく数え終わった札束を前に一服つけていた。<br />「案外、多いのね。いつも古い紙幣みてるからしら。」<br />「ようやくお済みですか？では、危ないので金庫の方へ」<br />「いいえ。すぐこの証券口座へうつします」<br />領収書の束はざっと計算しても、1億はある。<br />感情の振り幅に目を白黒させて銀行を出る。ポートフォリオですか。ありがとうございます。<br />「しばらくホテル住い。ていうくらい身の危険があるんですね。」<br />1億の経費。2億の収入。私の５０００万。てことは、明智さんと私は同じ取り分。<br />自然と笑みがこぼれる。身の危険・・・眉間にシワが寄る。<br />「タクシー。とりあえず、一番高いホテルへ」<br />ケース２に続く。<br /><br /></span></p></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[企業　内部査察官　明智光太郎のケースファイル　ファイナル　ケース１　大正電力　社長解任決議まで残り1日]]></title>
                <description><![CDATA[<p>リーマンショックを金融業界で経験した主人公は、病に倒れる。病床での怒りは、企業を内部から査察、時事的な問題を解決するヒーローを創造した。原発問題や、製薬ドラッグカルテル、食品衛生、金融規制、様々な業界で、上層部の闘争、政治的癒着、国際問題を切ってすてる明智光太郎。彼の人生は謎につつまれている。ホテル住いである。しかも毎週、足跡をたどられないようにホテルを変える。秘書の小林は正義感の塊のような女。おそろしく冷徹で、頭が切れる。肝心な時に牙をむく。正反対のコンビは、大正電力の派閥抗争、世論を揺るがす事件に足をつっこんだ。大正電力のあらゆる声を聞き、キーマンに接触した小林。だが、銀行出向組沼田陣営の勢力はマスコミをも取り込もうとしている。雌雄を決する取締役会議まで、刻々と時間は過ぎていく。最後のキーを手に入れた小林だが、未だ明智は姿を見せない。大正電力の長い歴史とインフラ事業は、南雲に進退と引き換えに守られた。小林は安堵もつかの間、突然現れた明智とともに刺客に狙われる。</p>]]></description>
                <link>https://ch.nicovideo.jp/22thproject/blomaga/ar614476</link>
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                <pubDate>Tue, 02 Sep 2014 23:45:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[原子力]]></category>
                <category><![CDATA[査察官]]></category>
                <category><![CDATA[探偵]]></category>
                <category><![CDATA[経済小説]]></category>
                <category><![CDATA[カルテル]]></category>
                <category><![CDATA[政治癒着]]></category>
                <category><![CDATA[金融マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[企業乗っ取り]]></category>
                <category><![CDATA[アクション]]></category>
                <category><![CDATA[ファンドマネージャー]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"></span><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">図には表れない現場の声、雰囲気<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">アナライズ<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ＢＳ，ＰＬ、株価、ＭＫ効果測定表　提案資料の図解<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">見知らぬ<span>11</span>桁の番号が表示されている。とっさに小林は携帯に出た。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どう？南雲ビジョンはつかめたか？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・明智さん。<span>3</span>日間も電話に出ないで何してたんですか。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「今回はでかいヤマだからね。だいぶ空中線で時間をとられてる。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「よくわかりませんけど。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「まだ最期の決め手にかけるが、出口導線だけは確保した。尾行（つけ）られるといやだったんで、姿を消して動いてたんだ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「つけられたのは今回が初めてじゃありませんけど。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あまり、長い時間話せない。この回線も盗聴（きかれ）るからな。ステータスをくれ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「肝心のＭＫは分裂状態、営業はほぼ沼田陣営、総務人事は南雲社長支持が多く、経営企画室のトップは敵におとされています。ただ次長の北条さんは南雲支持で動いていただけます。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうか。想定の範囲を出ていないな、結構。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「明智さんの成果はどうですか。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おお、今日はくいかかるな。明智<span>5</span>条を言ってみろ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「<span>invisible eye </span>見えないものを見る。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「虚をつき、実を取る」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「<span>inside job </span>内部工作」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「<span>be shadow </span>黒子に徹する」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「その行動規範から著しく逸脱しているか？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いいえ。だけど明智さん、今回の大正電力は私一人で社内を見るのは限界があります。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いいや、まだ限界はきてない。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「企業の規模が大きすぎます。私にはとても背負いきれない・・」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「男はつくらない。誠意をつくす。同情しない。これが小林ルールじゃなかったかね。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「３つのうち、２つは守ってます。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「３つ目が君の課題だな。ラスト<span>5</span>秒だ。何かほかに報告は？」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「南雲ボックス。杉並さんから明智さんに渡してくれと。何ですか、これ。大正電力の全てが入ってるって。必要なときまであけるなって。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「明日、新橋駅いつものロッカーに入れてくれ。<span>Pick up</span>する。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「明智さん・・・」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「小林君、早く帰って着替えたまえ。お気に入りのスーツがだいなしだぞ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「え・・！」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">携帯は切れた。小林はとっさに周囲を見渡した。暗闇に浮かぶ皇居周辺に人影は見当たらない。近くにいたのか。姿を消して。携帯にコールバックした。機械的な音声が応えるだけだった。携帯を堀に投げ入れたい衝動を何とか抑えて、小林はタクシーに乗った。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">私も姿を消して、動きたい。そうすればこんなに重圧を感じることはないのに。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">様々な人間の言葉が頭を反芻する。不協和音をたてて。全国<span>4</span>万人の大正電力の声など拾ったら頭がパンクするだろう。「新橋駅烏森口まで、そこで少し待機してください。そのあと」その後は今日受けた様々な“気”を全部おとして、まったく新しい小林で出社しよう。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">小林を乗せたタクシーが発車した。それを確認したようにバイクが<span>1</span>台。夕闇に消えていった。大正電力の社長室の電気はまだついている。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">＠＠＠＠<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">小林は新橋駅で用事を済ませてタクシーに再度乗り込んだ。次は品川でいいですよね、という運転手にうなずいて発車を促した。タクシーは新橋駅を国道＠＠線に出て、浜松町、田町を通り過ぎる。品川駅近くの自宅マンションまで後数百<span>m</span>、御殿山を左手にソニーが見えたとき、小林は突如Ｕターンを促しタクシーは一路逆方向へ向かった。やっぱり。尾行（つけ）られてる。バイクが<span>1</span>台小林の切り替えしに少し遅れてつけてきていた。黒の<span>BMW</span>全身黒の皮ジャケットとフルヘルメットで夜の闇にとけこんだバイクを振り切るように、できるだけ大通りを日比谷方面に引き返した。細かい道はバイクの方が有利。小回りが利く。戸惑っていた運転手も何やらただごとじゃない事態を少し楽しみながら、うまく他の車を抜き去る。大通りでも追い抜きはバイクの方が楽な上にスピードの加速、減速がじざいだ。ぴったりと車<span>2</span>台分後ろをつけて離れない。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「運転手さん。次の信号で赤になった後、左車線に乗れますか」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「右側から来る交差道路に左折ではいるんですな」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ええ、そうです。やりましょう。最終的にはどこへ」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「このホテルへ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ああ、このビル群にとけこんだホテルね。空中トイレ、私あれだけ使いに行きましたよ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あれ、よかったですか」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ええ、お客さんにはもうしわけないが、男としては快感ですな。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「行って！」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">信号が赤になり、皆一様に減速したところを一番右の車線から、左の車線をぬうように切り込み、交差する車道の信号が赤から青になる一瞬の間を利用して一気にハンドルを左に切って加速。バイクを赤信号に取り残して左折に成功した。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">タクシーは右折、左折を<span>2</span>回ほどくりかえして日本橋のホテルに向かった。後ろからバイクの姿はみえない。まいた。小林はいままでに数回明智が尾行をまいてみせるところに乗り合わせていた。見よう見まねで尾行をまくことに成功したのだ。運転手は始めてであろう、体験と自分の腕が映画のプロドライバー並みかと確認してくるのを冷静に応えてやりながら、小林はあの部屋への入り方を思い出していた。タクシーはゆっくりとホテルにのりいれてた。御代はけっこう、と言ってきかない運転手に数千円を渡してロビーに入る。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">エレベーターで<span>32</span>階のフロントに上る。例のフランス人スタッフはいない。小林はさりげなく<span>staff only</span>のドアの前まで行き、振り返って後ろ手にドアを開けて、再度尾行がいないか中と外を両方の目で確認したうえで中に入った。灰色の長い廊下はまるで人気がしない。小林はどんつきまで走りぬけ壁にとけこんだボタンを押したエレベーターがゆっくり上がって、扉が開いた。<span>31</span>階に下りた。明智の部屋はドアが開いていた。風が吹き抜けて小林の髪をゆらした。<span>1</span>分ほど躊躇して立ち止まっていた小林は部屋の入り口に向かう。エレベーターは知らぬ間に<span>32</span>階に行き、また降りてきていた。小林はそれに気がつかない。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">部屋の入り口で手鏡を床に置いて中の様子を見た。空調が激しく動き、音は聞こえないが中に入るのは何となく危険な気がした。すると空調が突然落ち、風がやむとともに無音になった。最悪のタイミングで小林の携帯がなった。しまった・・・！着信音がこだまする。手鏡に人影が映った。こちらに近づいてくる。エレベーターに向かって全速力で走った。短い廊下はすぐ終わりエレベーターの扉が開いた。尾行はまけていなかった。バイクの男がヘルメットをかぶり中から出てきた。小林は合気道<span>3</span>段だが、実践ではほとんど使用したことがない。使用する機会がなかったからだ。そんなに私は女の色気にかけるのかと、つまらないことが脳裏をよぎった。時間が随分ゆっくり経っているように感じる。ヘルメットの男が小林の右腕をつかんだ。小林も瞬時に相手の腕をねじまげたが、するりと抜けられた。小林は壁に飛ばされた。明智の部屋から人影が近づき小林の背後に立っていたのだ。二人の男は小林を見て、同時に両腕をつかんだ。尾行においつかれ、待ち伏せされていた。自分の読みの甘さに反省しているとき、ヘルメットの男が相手と格闘し始めた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">一撃だった。組み合ったとき、ヘルメットの男が相手の喉を一突きしノックダウンしたのだ。小林にとって状況は変らなかった。ターゲットはヘルメットの男がものにしただけ。小林には自分からしかける攻撃がない。あくまで防御あっての攻撃だから。男は小林に近づき、声をかけた。<span>1/100</span>の確率があたったかのような気分だった。明智がヘルメットを<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">とり、小林はその場にくずれおちた。しばらく倒れている男を眺めながら冷静さを取り戻すことにした。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「よくやったよ、君は。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「何をですか。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「新橋のロッカーではなく、直接ここに箱をもってきたこと。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「一度使った手は二度使わないでしょ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうだ。そしてもう一つ良くやった。俺をまいたことだ。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あれは・・・そうか今考えれば明知さんをまいたんですよね。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">小林はまた倒れている男を見ていった。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なにものなんですか、この人」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「俺をマークしていた二流の探偵かごろつきだろう。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「秘密の事務所を探り当てられました。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「<span>3</span>日の原則通り、<span>3</span>日もあれば人を探すことはできる。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「だから、帰らなかった。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうだ。今日次のホテルに移動するつもりでいた。電話を切った後、君が予想を少し超える行動に出た。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「私をつけていて良かったということですか。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうだ。あじとをかぎ分けたこいつが俺を待ち伏せしているところを君が狙われるところはめになった。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">明智は男の服をさぐり、小型カメラで顔をとってフィルムに収めた。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「俺もなめられたもんだ。身分証持った素人にさぐらせるとはね。<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「逃げましょう。」<span></span></span></p>
<br /><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いや、こいつがお連れさんを呼んでるはずだ。いい機会だから敵の尻尾を押さえて、ご尊顔を拝そうじゃないか。」<span></span></span></p>
<p></p></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[企業　内部査察官　明智光太郎のケースファイル　ファイナル　ケース１　大正電力　小林の焦燥]]></title>
                <description><![CDATA[<p>リーマンショックを金融業界で経験した主人公は、病に倒れる。病床での怒りは、企業を内部から査察、時事的な問題を解決するヒーローを創造した。原発問題や、製薬ドラッグカルテル、食品衛生、金融規制、様々な業界で、上層部の闘争、政治的癒着、国際問題を切ってすてる明智光太郎。彼の人生は謎につつまれている。ホテル住いである。しかも毎週、足跡をたどられないようにホテルを変える。秘書の小林は正義感の塊のような女。おそろしく冷徹で、頭が切れる。肝心な時に牙をむく。正反対のコンビは、大正電力の派閥抗争、世論を揺るがす事件に足をつっこんだ。大正電力のあらゆる声を聞き、キーマンに接触した小林。だが、銀行出向組沼田陣営の勢力はマスコミをも取り込もうとしている。雌雄を決する取締役会議まで、刻々と時間は過ぎていく。最後のキーを手に入れた小林だが、未だ明智は姿を見せない。</p>]]></description>
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                <pubDate>Tue, 02 Sep 2014 23:41:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[原子力]]></category>
                <category><![CDATA[査察官]]></category>
                <category><![CDATA[探偵]]></category>
                <category><![CDATA[経済小説]]></category>
                <category><![CDATA[カルテル]]></category>
                <category><![CDATA[政治癒着]]></category>
                <category><![CDATA[金融マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[企業乗っ取り]]></category>
                <category><![CDATA[アクション]]></category>
                <category><![CDATA[ファンドマネージャー]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">司馬遼太郎のファンは多い。司馬先生のファンでなければ日本人ではないとまで言う人間もいる。ましてや戦前世代の元軍人が何故司馬史観に共感しないのかというのだ。確かに司馬遼太郎の読者は戦前世代から団塊の世代が多い。若い人にも少数ながら歴史ファンに長く親しまれている。南雲は戦前世代の元海軍少尉だった。しかし司馬良太郎のファンではない。元軍人だから共感し涙すること人もあろう。しかし南雲は海軍出身者だからこそ、感傷にひたり、懐かしむことができないのだ。内乱他国干渉を防ぎ、近代化のスタートとなった明治維新の偉業も、西郷隆盛、坂本竜馬、維新志士のまぶしいばかりのヒロイズムも評価が高い。近代化のスピードは海外からも評価が高い。いやそもそも日本には古来から連綿と続く経済感覚と適応性があった。中国から稲と制度を輸入し、宦官や王政ではなく、神道にもとづく天皇制を維持して独自の文化と歴史を<span>2000</span>年きざんできた。輸入ものを導入利用することに長けていたのだ。南雲は司馬遼太郎の本は全て読んでいる。土佐の英雄坂本竜馬も、四国、瀬戸内水軍の戦法を応用してロシアのバルチック艦隊を撃破する“坂の上の雲”の盛り上がりは最高だと思った。海軍にいたころは司馬遼太郎の本があるわけもなく、むしろ乃木将軍、東郷司令官を現実の人物として尊敬していた。ただその後の結論、つまり敗戦への末路の捉え方は同世代の人間とは違った。明治の偉業と日露戦争をピークとして帝国主義に走り大陸進出を狙い、堕落した果てに敗戦した。南雲たちがおごり、失敗して敗戦したという経緯は言い訳ではなく、反論の余地ありと思っている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そもそも帝国主義ルールでアジア諸国を苦しめていた西洋諸国が、後進の帝国主義国日本が、アジア解放＝西洋領土の奪取（侵略と表裏一体であるが）を脅威と感じターゲットにしたことは客観視すれば分かることだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">戦争の<span>20</span>世紀。（南雲から見れば、<span>21</span>世紀は武器が鉄砲から金に変っただけというかんもあるが。）この戦争はそもそも、西洋諸国どうしの地球（世界領土）の奪い合いに端を発している。争いが絶えない欧州に嫌気がさしたか、生活のためやむなく新大陸に“移動”した移民の国“アメリカ”はこの争いをまさに対岸の火事で済ませるつもりだった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">第二次大戦直後、アメリカが日本と戦う理由はあったろうか。欧州諸国が疲れ果てた頃にノルマンディーに上陸、ハルノートという脅迫、パールハーバーの“だまし撃たせ”、最悪最低の原爆投下。歴史家がどう“後述”するかは南雲の知るところではない。ただ自分たちの世代が明治以降の遺産の上にあぐらをかき、おごりたかぶり、悲劇を招いたとは思えない。間違った。反省せねば。そんな思いが焼け野原になった母国に残された人間が思うことだろうか。今日の歴史感覚と接したとき、アメリカのＷＧＩと文化政策が頭にちらつくのを南雲は感じる。大義名分、実戦と戦後の戦略。これが有史世界共通の常識である。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ハルノートで追い詰め、パールハーバーで戦争をしかけさせ、物資、戦力で圧倒。文化教育でのソフトな手なずけ。南雲が悔しいのは戦略で負けたことではない。武力のちらつかせながら、思想でてなづけられたことが悔しいのだ。賠償金と反省。これも世界共通の常識である。多額のＯＤＡと自虐史観、その上さらに国民生活をじわじわと悪化させている日本政府には、ほとほと愛想がつきる。こうした政府に怒れない国民も珍しい。日本人は昔から良くお上に怒りをぶつけてきた。もちろん弱者のいなおりではない。怒れない。安保の怒りは、“岸信介への怒り”であったし、学生闘争は外部煽動を抜きにして“旧世代への怒り”であった。もっと言えば、明治維新は外圧占領という最悪の事態の中での“地方の怒り”であり、そもそも武士は成熟して腐りかけた貴族制度への“怒り”から生まれたのではないか。無論、歴史というのは社会システムの入れ替わりである。勝者、敗者も、善悪もその時代によって違うものである。これは南雲の独り言である。<span>60</span>年間、<span>1</span>年に一度のペースで繰り返す独り言である。自分はもういつあの世にいってもいい。だから最期は、真実に目を向け、正すべくを正す言動をと思う。奇しくも大正電力は自分の進退と重なっている。南雲には最期の舞台のイメージ、つまりエコプロジェクトへの対抗策と大正電力の進退を決める決断が、頭に描かれていた。躊躇もある。自分の行動が結局は歴史の一部にすぎなくなることも、社員を振り回しかねないことも、言動によっては国家問題になりかねないことも、気がついている。これが俺の最期の仕事。単に役割をこなして、人生のケリをつけよう。盟友栗林道弘のファイナンス戦略と鷹の目の切れ者明智のＰＲ戦略で、沼田、蛭田、竹村の政官財のトライアングル（エコプロジェクト）に対抗できる自信がある。後は俺のスピーチしだいだ。<span>1</span>対<span>3</span>の割合で不利ではある。結果は神のみぞしる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">自分は日本のこころ、精神的支柱なのだという。大正電力グループの社員は<span>4</span>万人、家族などを入れれば、<span>10</span>万人、持ち株会で<span>100</span>万株、個人株主は<span>100</span>万株、南雲株で<span>500</span>万株、東京興行銀行の持ち株が<span>1000</span>万株。明智君のマーケティング戦略に乗り、ここにさらに上乗せられたなら、発行株式数<span>1.3</span>億株の<span>20</span>％＝<span>2600</span>万株まで残り、<span>900</span>万株。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">買値が重要だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">沼田マスＰＲ<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">（沼田、蛭田連合）ＴＯＢ　かけること４回タイムリミットを演出<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">株主総会　将軍の花道　全メディア<span>5</span>分ジャックによるＰＲ　<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ＥＭＯ<span>(Employee</span>　<span>Buy Out ) stock otition</span>で社員株を<span>4</span>倍へ　ＣＢＯ<span>(Customer or Citizin Buy out) </span>で“㈱大正ファンド”<span>30</span>％達成　社長には北条静香<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">会社は誰のものか、株主ものか、経営者のものか。国は誰のものか、総理大臣のものか、銀行のものか。大正電力株式会社は従業員と我々市民のものであります。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[企業　内部査察官　明智光太郎のケースファイル　ファイナル　ケース１　大正電力　南雲遺言状]]></title>
                <description><![CDATA[<p>リーマンショックを金融業界で経験した主人公は、病に倒れる。病床での怒りは、企業を内部から査察、時事的な問題を解決するヒーローを創造した。原発問題や、製薬ドラッグカルテル、食品衛生、金融規制、様々な業界で、上層部の闘争、政治的癒着、国際問題を切ってすてる明智光太郎。彼の人生は謎につつまれている。ホテル住いである。しかも毎週、足跡をたどられないようにホテルを変える。秘書の小林は正義感の塊のような女。おそろしく冷徹で、頭が切れる。肝心な時に牙をむく。正反対のコンビは、大正電力の派閥抗争、世論を揺るがす事件に足をつっこんだ。大正電力のあらゆる声を聞き、キーマンに接触した小林。だが、銀行出向組沼田陣営の勢力はマスコミをも取り込もうとしている。雌雄を決する取締役会議まで、刻々と時間は過ぎていく。</p>]]></description>
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                <pubDate>Tue, 02 Sep 2014 23:40:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[原子力]]></category>
                <category><![CDATA[査察官]]></category>
                <category><![CDATA[探偵]]></category>
                <category><![CDATA[経済小説]]></category>
                <category><![CDATA[カルテル]]></category>
                <category><![CDATA[政治癒着]]></category>
                <category><![CDATA[金融マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[企業乗っ取り]]></category>
                <category><![CDATA[アクション]]></category>
                <category><![CDATA[ファンドマネージャー]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">沼田マスＰＲ<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">相変わらず沼田が<span>tv</span>でエコプロジェクトに賛同の声を上げている。環境問題委員会に出席し、プロジェクトに積極的姿勢を見せ、メディア露出のピッチを上げてきている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">エコビジネス批評家と討論する番組にも出ている。“エコ”にネガティブな<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">葛城次郎東都大学教授「地球に優しいというメッセージ性の裏で、したたかにビジネスをすすめておられる。御社はインフラ費用である将来電気代の値上げも検討されているとか」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「我々は外郭団体ではなく、東証一部で<span>60</span>年以上お世話になっているインフラ企業です。できる限りの低コストを維持してまいりたいと思っています。そのため、太陽光発電をＳＨＥＥＰ様と共同でご家庭にお勧めしています。これからは家庭が電気を作り、販売もできる。消費者の皆様は生産者になっていただく時代です。わが社が電気代を買いとらせていただくのはそのお手伝いです。買取価格を<span>2</span>倍にさせていただきます。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「太陽光発電を購入できる家庭は限られています。一戸建ちでなければ、使用分のエネルギー量を生産できないのでは？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「既に政府の援助を得て、公団様など都営住宅には太陽光を導入開始しております。戸建ちでないご家庭にも太陽光発電をお届けできます。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「話を根本にもどします。エコプロジェクトに、大正電力さまが賛同されていないのは何故ですか。南雲社長がエコの問題性に気づかれているからでは？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「南雲と私の見解の相違はございます。ですが国を挙げてのプロジェクトに、経団連の責任ある企業が賛同しないことがおかしい。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「政府が御社ほどの日本の基幹産業の支持をえていないのは、何故でしょう？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「当社でも政府プロジェクトに賛成のものが多数おります。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「沼田さん、あなたがその多数派で支持を得ていると？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「<span>1,2</span>週間でそれがわかるでしょう。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">Tv</span><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">だけではない。新聞や雑誌のインタビューに登場し、温暖化肯定を展開する学者や専門家とのやり取りを見せている。あくまでも賛成者とではなく、“反対者”との“対峙”を演出する。良く有るパターンは企業とメディア、もしくはこういった討論では反対者にみせかけた賛成者、完全な肯定派がおもねることがあるが、それは<span>tv</span>の歴史のなかで既に古びつつある手法で、今や視聴者＝消費者を納得させることができない。“完全な”反対者と討論する方がより現実性を感じ、討論者（この場合大正電力の沼田）を引き立てることになる。これが榎田の考えだった。その上で<span>tv</span>での編集、紙面での校正の段階で“フィルタリング”をかける権利をスポンサーとして持ちながら、沼田＝大正電力＝新主導者というイメージを作る。落としどころありきの討論ではなく、徹底的な反対者と討論することで、真実味をもたせ編集でスポンサーに有利なカッティングを行う。アメリカの政治、経済番組などはこの“正、反、合”の手法で世論を形成していく。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">例えば大統領選挙でヒラリーとオバマが民主党内で競争する。他に<span>3,4</span>人の候補がいるがサクラか当て馬もしくは、将来を希望される若手がデビュー戦である。この時点で“女性初”か“黒人初”かでめぼしいのは<span>2</span>人（正）だと決まる。今回の大統領選挙は<span>8</span>年<span>2</span>期続いた共和党、ブッシュへの不支持が前提であるから、共和党から戦争英雄である老議員マケイン候補（反）を当てる、人気はオバマが圧倒的だ。ネガティブキャンペーンをはることなく、黒人初、<span>yes we can</span>、<span>change</span>　<span>3</span>ワード（広告理論でもマス＝大多数が覚えられる単語はどんなに良いコピーライティングでも<span>3</span>つ）で世論は（どんなショーよりも）盛り上がり、予定調和される（合）。そうして対外的にも平衡感覚を保てるオバマという黒人大統領が誕生し、ヒラリーが女性初は果たせないが閣僚入りする。国内的には中国、そしてヒスパニックの移民が増える最大の移民国家アメリカで様々な人種が納得できそうで、対外的にもあらゆる国が“対等に見える”知的かつ、バランス感覚のよい黒人を顔にもってくることで一応アメリカをまとめたのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">マスコミ産業、いわゆるメディアは基本的には広告主＝スポンサーの資金が主な収入源である。リーマンショック以降、企業は真っ先に広告宣伝費を削る。企業規模が大きいほど、その割合や規模が大きい。現在<span>tvcm</span>にゲームやパチンコ企業が多いのは、自動車、家電、食品などこれまでの大スポンサー（年間広告費<span>100</span>億以上）が出稿をしないためだ。ただエコプロジェクト関連は政府及び外郭団体などを通じで、“補助金”がでて商品も売れるため、電波を通じての“露出”が自然と多くなる。今まで大正電力は南雲社長の方針で“エコ”を銘打ったＰＲは行わず、「広告出稿費をおさえ、市民や株主、日本の全てのみなさま<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">に無駄な費用を出していないこと」を伝えてきた。不景気で世帯収入が増えない中、広告露出による不必要な世間の批判を浴びないためでもある。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">遅れたことも一切とがめず、むしろ仲間を見る目穏やかなムードで、小林は迎えられた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">簡素ではあるが、渋い部屋は経営企画室のトップではない北条静香が一人で使っている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">以前会ったときから女性として魅力を感じていた。小林が尊敬するジャーナリストである櫻田頼子と同じ凛とした雰囲気だ。自分のように情熱とパワーだけでなく、それらを内に秘めながらバランス感覚に優れ自然と人を動いてくれる柔和さがある。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">グレーのスーツと同じくらい髪の色はロマンスグレーに近い。着物がさぞかし似合うであろう。これが大和撫子という感じである。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ようこそ、小林さん。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お待たせしてすいません。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「待つ？いいえ。他の仕事を片付けていたところ、ちょうどいいタイミングいらしたわ。お疲れでしょう。コーヒー・・・ではなく紅茶でよろしい？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「はい。ありがとうございます。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「良く分かったとお思いでしょう。経営企画室は秘書とは違いますけど、秘書と同様の能力が必要なんですよ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「何でしょう。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「相手が次に何をしたいか、経営者が何を考えているか。先回りしちゃう能力。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なるほど。私とは大違い。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「気を使うことが一番苦手」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうです。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いいのよ。あなたはそれで。私も紅茶党なんですよ。アールグレイ、＠＠＠　ロンドン大学でＭＢＡを専攻。私もロンドンですのよ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「え、ということは先輩にあたるんですか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ええ、あの頃は日本人女性は少なかった。社長が海軍出身でロンドンに行けといわれたときも、驚きはしなかった。西の果ての島国海軍大国のイギリスに自然と足が向きました。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">社交界での経験もあり、国際マナーを自然と覚えているのだ。その上でこの日本女性の鑑のような立ち振る舞い。明智が弟子にしてもらうべきだ、と言っていたことを思い出した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おそらく、私が最後の面談者になるのでしょう。何でも聞いてください。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あ、はい。今御社は南雲社長と沼田専務との間で意見が大きく分かれています。沼田さんが経営陣の過半数いえ、<span>2/3</span>を味方につけていることは聞き込みで確認されました。経営企画室も沼田さんに賛成ですか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「私に経営会議に出る権利はありません。室長が執行役員として沼田専務を支持しています。ですができるなら南雲社長を応援したいと思っています。それができないのは、エコプロジェクトの政官財の強い圧力があるからです。正直奇麗事だけで結局はビジネスのことしかない。私だけでなく社内にも密かに南雲社長に支持してプロジェクトに不参加できたらと思います。現実的な課題と対策を考えています。想定されるのは明日の臨時取締役会で、南雲は解任決議をつきつけられ、可決されるでしょう。でもこれは第一ラウンドに過ぎない。以降は株主総会まで、ファイナンスに戦いの舞台は移される。南雲は<span>5%</span>の大株主でもあり、東京興業とも太いパイプもあります。経営権を巡って大きな混乱があるでしょう。その混乱を少しでも抑えるように南雲の指示を密かに各部署に伝えています。もちろん、営業部など沼田陣営にはもらさずに。何らかのカードが切られるでしょう。そのカードを一枚でも多くもちたい。おそらく、それが今あなたがお持ちになっている箱の中にあると思います。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">小林はすっかり箱のことを忘れていた。杉並が「大正のすべてが入っている」と言った箱を小林はまだ開けていない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「これは、杉並さんから預かりました。明智に渡そうと思っています。ただその前に」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「私に見せろと」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「はい。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「拝見します。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">小林は真鍮の箱を北条に渡した。中にはいくつか書類が入っている。手紙や手形のようなもの、写真が見えた。小林には書類を見て意味が分かるはずもなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「これは・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">北条静香の目が少し潤んだかに見えた。しかしすぐ表情を元に戻していった。古め買いしい手形を持って。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「南雲は・・・これらを私、いえ大正電力に残して・・・。この手形は最終カードになりそうです。そしてこの遺言状も。」<span></span></span></p><p></p></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
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            <item>
                <title><![CDATA[企業　内部査察官　明智光太郎のケースファイル　ファイナル　ケース１　大正電力　追い詰められる南雲陣営]]></title>
                <description><![CDATA[<p>リーマンショックを金融業界で経験した主人公は、病に倒れる。病床での怒りは、企業を内部から査察、時事的な問題を解決するヒーローを創造した。原発問題や、製薬ドラッグカルテル、食品衛生、金融規制、様々な業界で、上層部の闘争、政治的癒着、国際問題を切ってすてる明智光太郎。彼の人生は謎につつまれている。ホテル住いである。しかも毎週、足跡をたどられないようにホテルを変える。秘書の小林は正義感の塊のような女。おそろしく冷徹で、頭が切れる。肝心な時に牙をむく。正反対のコンビは、大正電力の派閥抗争、世論を揺るがす事件に足をつっこんだ。大正電力のあらゆる声を聞き、キーマンに接触した小林。だが、銀行出向組沼田陣営の勢力はマスコミをも取り込もうとしている。雌雄を決する取締役会議まで、刻々と時間は過ぎていく。</p>]]></description>
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                <pubDate>Tue, 02 Sep 2014 23:35:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[原子力]]></category>
                <category><![CDATA[査察官]]></category>
                <category><![CDATA[探偵]]></category>
                <category><![CDATA[経済小説]]></category>
                <category><![CDATA[カルテル]]></category>
                <category><![CDATA[政治癒着]]></category>
                <category><![CDATA[金融マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[企業乗っ取り]]></category>
                <category><![CDATA[アクション]]></category>
                <category><![CDATA[ファンドマネージャー]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">6</span><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">月<span>7</span>日　臨時取締役会まで後<span>1</span>日。大磯の海岸は初夏を迎えて早くも人でにぎわっている。今年は梅雨がないのでもう夏がきたと言ってもいい。自衛隊の横須賀駐屯地、在日米軍キャンプ、横須賀まで<span>km</span>山手の方からは飛行機が飛び立つのが見える。ときおり巡洋艦が演習のため太平洋へ乗り出すこともある。南雲新三郎の別荘は山手の高台近くにある。自宅は目黒にあるが、別荘はここ大磯にある。別荘ブームで大磯が有名になったのは、いつごろだったろうか。故吉田茂首相が高知の海を懐かしみ余生を過した大磯に、南雲が別荘をもったのは別の理由からだ。吉田茂が同郷の先輩であることは事実だし、海への生理的な親近感があるのも事実。何千ｋｍも離れた太平洋諸島と横須賀を睥睨できるからだ。今は平和な太平洋に向かっていった多くの戦友への慰霊である。そして横須賀の米軍基地を自戒の念をこめて見続けるためだ。戦後高度成長を経て、大正電力を日本有数のトップ企業に育てた南雲に、政界から、もしくは思想団体からの誘いがあった。戦争の生き残りとして、政界もしくは官界で活躍した同期がたくさんいる。敗戦の汚名返上といきまくもの、日本人の精神のよりどころを思想にもとめてひた走るもの。南雲はそれを全てドライに断った。日米の経済戦争や国内の政治戦争とは距離を置くためだ。距離を置かねばならない。戦争体験のある人間が政治や国家レベルの戦いの御旗になったり、リードをとればまた、同じ事を繰り返すような気がする。自分はただ日本の人々のためにインフラ事業に注力し、戦友の慰霊を重ねる。ただあの経験を忘れはしない。むしろ横須賀を冷徹に監視しながら、自分の心に残る武士道をとどめおくために。大磯海岸の水平線を見ながら、南雲は栗林と<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">歩いていた。もう数時間も椅子で会話していた。歩いて脳を刺激しつつ、なかなかできない決断をしようと考えていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「くどくど、いうがね新三郎。明智君の言うとおり、敵の目的はただ一つ、お前さんの排斥だ。第一手は臨時取締役会での社長解任決議」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ボードメンバーの<span>2/3</span>は握られているよ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「解任されていいというのか。それともその後、策でもあるのか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ない。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「王手じゃないか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうでもない。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「何度も聞くが、その根拠は」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「分からない」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「解任されても<span>5%</span>の大株主として残ることはできる。そこできゃつらは蛭田のところへ行って、<span>25</span>％超の大正電力株買占めに走る。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「<span>1</span>億株、時価総額<span>300</span>兆の<span>1/4</span>を買える企業があるかい。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ないな。大正は、我が東京興行銀行と時価総額で変らない。銀行が全部たばになれば<span>impossible</span>ではないが、<span>merit</span>より<span>risk</span>が大きいからどこもやらんだろう。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そこで敵は、明智君が書いている第三手に出てくるわけか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「沼田の背後にいる東都銀行の蛭田がエコプロジェクト賛同企業から資金をかきあつめるというやつだ。通常の経営判断なら、賛同企業が金を出すとは思えないがね。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大和自動車や、西芝の経営陣はもう俺の知らない世代になったよ。日本を代表する企業がこぞって“中国経産省”参りとは呆れるね。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「相変わらず<span>wit sharp</span>なジョークを言うが。これがご時世ってもんだよ、<span>general</span>南雲。それはそうと、東都の蛭田という男は曲者だぞ。狡猾で、手段を選ばない。そしてまだ若い。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「若いといっても<span>60</span>前だろう。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「俺が言いたいのは、俺たちより長く生きるぶん有利ということだ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「蛭田氏は富士、一銀、もみじの合併をさせた男だろう。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ああ、それも外資から資金を誘導してな。裏では<span>3</span>つの銀行株を売り浴びせて時価総額を下げて、バブル時代の債権を買い叩いて合併を優位にすすめたらしい。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「外資？それはどこだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ＣＩＴＹＳだよ。一度日本上陸に失敗したペルリ頭取が、ここぞとばかりにくいこんできた。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ＣＩＴＹＳといえば、今相当苦しい。例の詐欺紛いの不動産証券商品で。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「サブプライムで<span>1</span>兆ドルの赤字を出したが、黒人大統領が<span>100</span>兆ばらまいたからな。巻き返しもありえる。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「懲りんやつらだな。<span>Wall street</span>の連中は。一体ＦＲＢでどれだけ無価値のドル札を刷るつもりなんだ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「イギリスのブラウント首相も、トリフＥＵ総裁も実際には数百兆ユーロをパラシュートでまいたからな。経済指標と帳尻を合わせられなくても、増やせるマネーは増やし続けるだろうよ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「素人意見だが、インフレになったりせんのか、イタリアのように。まさかアルゼンチンのようにデフォルトするでは」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「借金踏み倒しか？<span>last option</span>だろう。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「じゃあどうなる増え続けた紙幣は価値が下がるぞ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「燃やして減らすんじゃないか。（笑）といってもアメリカさんは世界一位なんだよ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「税金や国債言うに及ばず、中国に負けじと軍事力を増強するさ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大陸は大陸どうし戦ってほしいものだね。金はだしてやるから。（笑）我が日本は武器をもたない“衛星中立国”だからとね」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大丈夫さ。お前のところがいくつか持ってるから」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「皮肉にならないがな。原発があるといえば、<span>bomb</span>くらい作れる。やましいところがあるアメリカは、そう勘違いするかもしれん。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「抑止力。金も武器も出したら終い。どこの国も抑止されたらそれでいい。・・・仮にだ。いや、いずれ誰かに大正電力を任せたら、高速炉はどうする？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「沼田は減らすことはできんだろう。建前上、原子力は増やさないとしても、実質のエネルギー供給量は原子力なしでは賄えん。電気代値上げで儲けても相殺される。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「相変わらず原子力アレルギーはあるだろうな。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「アレルギーはある。ただもともとこいつは、アメリカが植えつけたもんだ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・。アメリカが植えつけた“外来種”はわしらが生きとるうちに消しておきたいものだ。話は戻るが、ＣＩＴＹＳやエコプロジェクト賛同企業が全てが大正株の買占めに協力するとは思えんが、万が一もある。長い時間をかけて買い占めることはあるぞ・・・。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「俺の排斥、もしくは自らの引退を促すことが目的ではないのか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうだが、大正を企業ごと丸呑みできるなら、それにこしたことはない。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「時間勝負か・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「泥仕合になる。お前の最期の戦いがな・・・。しかも時間では敵が有利。明智君が書いているとおり。解任決議、株主奪取、エコプロジェクトへの大々的参加ＰＲ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「つまり俺の排斥と<span>TOB</span>、その上でインフラ生産者から消費者搾取にきりかえるということか。関東、東北、北陸、東日本の個人世帯は言うに及ばず、企業や街の電気までが<span>2</span>倍に跳ね上がる。日本のインフラの大きな旗振り役として、エコプロジェクトなる欺瞞に広告宣伝費をつぎこみ、原子力への設備投資を増やさず、利益を積み上げるつもりだろう。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「調査によれば自動車、電化製品、ガス、水道などの大企業群は政治主導でプロジェクトに賛同しているという。確かにＴＶをつければエコ商品があふれている。大正電力がプロジェクトに反対している意義は大きい。逆を言えば、大正が“おちれば”　プロジェクト側の完勝だ。建前的に原子力をＮＯといいながら、実質原子力は稼動しながら増設せず、エコの名前のもとで“節電”を促して供給量を抑える。利ざやをとるわけか。せこいのう」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大正電力がプロジェクトに屈する。すなわち政治主導をゆるし、欧米型の株価を目的とした利益主義がまかりとおれば、日本企業経営の“良心”が死ぬことを意味する。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「明智氏が言う、“昭和の良心”南雲新三郎という最期の良心がな。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「最期の良心は二人だけか。道弘・・・・。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうだ。それも最終ラインは<span>7</span>日後だ。ただ短期戦略ではいかんと思う。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そのとおりだ。わしらはもう長くはない。短期的に反対陣営をはっても、意味がない。当然これだけ政治主導のエコキャンペーンが企業総出で行われると、エコが当然。スタンダードになりつつあるところに、ネガティブキャンペーンでも展開すれば、大正電力が悪者にされてしまう。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「<span>30</span>年～<span>50</span>年スパンで考えれば、このエコプロジェクトなる“法案”は天下の悪法となるだろう。だが新三郎の言うとおり、面と向かってのネガはできない。敵はファイナンスと広告でせめてくる。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「わしが<span>30</span>％いや、短期的には<span>20</span>％でもいい。大正電力株をもてればなんとかなるが・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「光星君は」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「その名で呼ぶな。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「光俊君とは和解していないのか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「和解もなにも、あのとき以来<span>20</span>年口も利いていない。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「自由党の政調会長として、君譲りの保守派としてがんばっとるがな。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「話だけは、ニュースで知っておるさ。だがわしの死後、大正電力をひっぱり、エコプロジェクトを廃案にもちこむ後継人は光俊ではないだろう。政治家に経営は無理だ。わしの保有株を持たせることはできても。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「後継者は決めているのか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ああ、わしが経営権を維持できることが条件じゃが。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「答えたくなければそれでええが。後継者は僕が想定している君のお気に入りかね。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・・・。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「まあいい。まず大正電力の経営権の維持だ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ＭＢＯはどうだろうか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「経営陣の多数を握られている以上無理だろうな。それに金額がでかすぎる時価総額３００の２０％はとれないだろう。僕のところで出せて<span>600</span>億。その他銀行から集めても、<span>1,2</span>兆だろうな。第三者割り当て増資はやらんだろう？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「やらん。株価を薄めるだけだ。債権やＣＰ発行でも足らんか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「足らん。ただ一つだけ可能性がある手段がある。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「中東やチャイナ、<span>wall street</span>はごめんだぞ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ああ、敵と同じ作戦はとらんよ。外資マネーに振り回されるような負の遺産は残さない。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ではどんな手がある」<span></span></span></p><p></p></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[企業　内部査察官　明智光太郎のケースファイル　ファイナル　ケース１　大正電力　地底の技術者]]></title>
                <description><![CDATA[<p>リーマンショックを金融業界で経験した主人公は、病に倒れる。病床での怒りは、企業を内部から査察、時事的な問題を解決するヒーローを創造した。原発問題や、製薬ドラッグカルテル、食品衛生、金融規制、様々な業界で、上層部の闘争、政治的癒着、国際問題を切ってすてる明智光太郎。彼の人生は謎につつまれている。ホテル住いである。しかも毎週、足跡をたどられないようにホテルを変える。秘書の小林は正義感の塊のような女。おそろしく冷徹で、頭が切れる。肝心な時に牙をむく。正反対のコンビは、大正電力の派閥抗争、世論を揺るがす事件に足をつっこんだ。</p>]]></description>
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                <pubDate>Tue, 02 Sep 2014 23:33:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[原子力]]></category>
                <category><![CDATA[査察官]]></category>
                <category><![CDATA[探偵]]></category>
                <category><![CDATA[経済小説]]></category>
                <category><![CDATA[カルテル]]></category>
                <category><![CDATA[政治癒着]]></category>
                <category><![CDATA[金融マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[企業乗っ取り]]></category>
                <category><![CDATA[アクション]]></category>
                <category><![CDATA[ファンドマネージャー]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ここは地底だ。日比谷の大正電力地下道を右に左に、下に上に案内役の総務部長水先は笑顔で大正電力の歴史をとつとつと語りながら迷路のような地下を地図もなしに歩いていく。まるで映画の世界のようだ。でなければ、鍾乳洞体験ツアーとでもいおうか。大きな水道管並みの電気パイプが天井をぬうようにして張り巡らされ、正確な機械音を立てている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「昭和＠＠年大阪万博。パリ万博での我が社の展示はお話しましたね。かのパリ博以来と呼ばれる盛況ぶりで万博は日本の技術力と名前を世に知らせることになるわけです。アメリカ館や、ロシア館が二大パビリオンでしたが、大正電力は民間企業として一番の入場者を記録しました。そのときの展示物は、ＪＲと共同開発したかのリニアモーターカーでございます。」やっと<span>70</span>年代まできた。初日から数えると何時間話してくれているだろうか、最初はメモをとっていたが、さすがの私もその余裕はない。しかし大正電力と日本の最盛期の話は社史の盛り上がりの部分だけに楽しかった。それ以上にこの地下世界の雰囲気と疲れに顔をくもらせていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「この地下の電力基幹は大正電力の要、いわば南雲社長の心臓です。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">その言葉に切れた集中力が戻ってくるのを感じた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そうして<span>15</span>分ほど歩いたろうか、壁にとけこんだような灰色の扉の前で水先が止まった。「ここです。」部屋の中からなにやら男の声が聞こえる。数人いるようだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「まだ、旅順は落ちないのか、旅順口のロシアを落とさねばわが国の勝利はない。バルチック艦隊はインドネシア海峡を越えたと報告あり、急がれよ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ここの社員は少々変わり者ですから、今回は私も同席させていただきましょうか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いえ、内部調査ですので、ここは私一人で」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・・そうですか。分かりました。では仕事もありますので総務室にてお待ちします。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">水先はそういうと、またせかせかウサギに戻り時計を見ながら、もときた道と違う方向へ向かっていった。部屋からはまだ、声が聞こえる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「</span><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">北緯３３度１０分　東経１２８度１０分　信濃丸からの伝令が走る。」</span><span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">『敵艦見ユトノ</span><span>.</span><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">警報ニ接シ、連合艦隊ハ直ニ出動。コレヲ撃沈セントス、本日天候晴朗ナ</span><span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">レドモ波高シ』</span><span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">居住まいを正して、灰色のドアをノックした。返答はない。手が痛い。この扉はコンクリ</span><span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ート製なのか。部屋の声は一段と大きくなる。</span><span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「皇国の興廃、この一線にあり、各員一層奮励努力せよ。全館に戦闘配置につけ。」</span><span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「すいません。＠＠さん。明智ＭＫの小林です。」反応がないので、こぶしでドンドンと扉をたたいた。部屋の声は続く。</span><span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「東郷長官が乗る旗艦“三笠”には、決戦をつげる</span><span>Z</span><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">旗が翻った。</span><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">小林は灰色の扉にボタンらしきものを発見した。そうかブザー式なのね。すぐさま、ブザーをならした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「敵艦縦列にて直進し、まさに双方すれ違おうとするとき、だからちょっと待って」</span><span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">小林のブザーにさえぎられつつも、声は続く。</span><span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">東郷元帥　左面舵イッパイ。伝説の残る東郷ターン！</span><span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お取り込み中のところ、すいません。明智ＭＫの小林です！」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">連続ブザー攻撃にようやく気がついたのか、ばたばたと何やら片付ける音がして、静になった。そして重たい扉がゆっくり開かれた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">暑い、そして男くさい。それを口には出さず。目の前の男に頭をさげ、再度挨拶した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「明智ＭＫの、小林です。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">カメムシ。たぶんもう何度となくそう呼ばれたであろう顔をした<span>30</span>代の細身の男が小林の前に現れた。少々起こっているようだったが、やがて珍しそうに笑顔を浮かべてぽろりと小声でもらした。「女性だ。しかも若い。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">5</span><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">分も経過せずに、男は打ち解けた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「技術大国日本の未来は明るいですよ。知ってます？海底ケーブル。地下電柱。国と国、地下、電気とインターネットが通っていないところはまだこの地球上にたくさんある。つまり市場はまだまだ未開拓だ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ずっとこのサーバールームにいるんですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ええ。僕ら<span>30</span>代はネット世代。僕はこのサーバールームの住人。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「暑いですね。何度あるんですか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「今は<span>35</span>度くらい。夏場は<span>40</span>度近くなることがあります。やりがいですか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「え、どうぞ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「僕にとって一番心地が良い場所。それ以外にありません。強いて言えばですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「人知れず穴倉で作業して、お客さんは涼しい顔してネットですいすい。いやビジネスの根幹を担う大切な任務にやりがいとかんじております。おっと、すいませんいですか」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「はいはい。こちら某巨大企業サーバーセンター。おいおい、まだれっきとしたビジネスタイムだぞ。・・・まあな俺にビジネスタイムもプライベートタイムもないさ。・・・うん。土曜は駄目だよ。だいたいサーバーメンテで事実上営業日なんだから。日曜にしてくれよ。どうせなら、ここでやるか。うそだよ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">どうやら、サーバールームの住人は友人と休日の遊びの話をしているらしい。厳しい環境でもお気楽な人がいるもんだ。いや、水を得た魚はどんな水でも生きれるのか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あ、ちょっと小林さん。そこ踏まないで、駄目それ。<span>100</span>万ボルトじゃきかないよ。感電しちゃうよ。でも待って、動かないで、動くと・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「え？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">小林はかえって慌ててその場から飛びのいてしまった。真っ暗になった。どうやらまずいことをしたようだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「動かないでっていったのに」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">懐中電灯を下から照らした＠＠がぬらりと顔をあらわした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「きゃっ！」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「大丈夫、<span>10</span>秒以内にリカバリーするようにセッティングしてるから。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「すいません。責任問題ですよね。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いやいや、私こう見えてタフですから、お叱りを受けても全然気になりません。というか、私以外ここの管理人なんてできるオタクはいませんから。まあ神様も、いや南雲様も私の常日頃の行いに対してこんな特別ボーナスをくれるなんて」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">もしこの人がこの部屋で人知れず倒れたら、どうするのか。そんな労働集約的な体制でいいのか。これこそ、日本型経営の悪しき慣習・・・電気が戻り明るくなった。気がつくとオタクの＠＠はほぼ自分の目と顔をつきあわせていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「きゃあ！」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">小林は先ほど以上の叫び声を上げ、逃げようとこころみた。それを素早く制して、基幹システムの電源を守りながら、＠＠言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「危ない、危ない二回も同じミスをおかすところだった。しかし失礼しちゃうね、まるで人を化け物のような目で見て。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「すいません。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いいですよ。この部屋に小林さんみたいな綺麗な女性が来たことだけでも。南雲社長に感謝すべきなんですから。」と部屋の入り口上の飾られている南雲社長と社旗に向かって敬礼した。今まで会った中で一番おかしな社員だが、目は真剣そのものだ。最先端技術者の若者をここまで心酔させる南雲新三郎の威光を感じた。カリスマなどと、表面的におだてる社員や、古い軍人経営者と非難する反対派の人間よりも、オタクの技術者の方が真剣な敬愛の感情が伝わってうれしくなってきた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「さあ、これでおそらく小林女史の質問に答えずとも、答えは出ていると思いますが。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「南雲新三郎社長はもともと海軍の諜報技術技官でありました。ご存知か？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうなんですか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ここにきたかいがあったでしょう。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「はい。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">表情を緩めて手を握られながら、小林は確かに精神的な何かを得た。しかし改めて歴史と、秋葉系、オタクと技術は密接に結びついていることに気がついて手をふりほどこうとした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">部屋にはさりげなく、目立たない形でガンダムや戦艦大和の模型。信長の野望、太平洋戦争などのゲーム機、そして海軍とおぼしき制服、女の子のフィギアがそこかしこに、見うけられた。さきほど部屋に入る前の声は、一人海軍ごっこだったのかも。小林はとっさに手を離そうとしたが、さらに強く手を握り返された。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「手を離していただけますか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「社長に会われたんですよね。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「はい、一度だけ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なんと、私なんぞは入社以来テレビでしかお顔を拝見しただけなのに。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「・・このインタビューをまとめて報告する際にまたお会いします。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「東郷いえ、南雲連合艦隊司令官にしかとお伝え願いたい。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">あなたの趣味のことをですか、といいそうになったが、小林はそれを堪えた。声を裏返しながら、＠＠が言った。目は真剣である、それがゆえに少し怖い。でも程度はさておき、こういう信奉者がいるから大正電力は生きている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「平成<span>12</span>年“入隊”の＠＠＠最後までお供つかまつりますと。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「はい、伝えておきます。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「では、これにて」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">やっと手を離した＠＠は仕事に戻ろうとする。小林は急いで、かつ複雑にいり込んだ電線などを踏まないようにして出口を開いた。さっと心地いい風が吹いてきた。少し滅入りかけた気持ちをオタクの南雲信奉者に勇気付けられてやる気がでてきた。勢い良くドアを閉めると、次の聞き込み先に向かった。しまったドアの向こうで何かが壊れ、オタクの嘆き声がしたが小林には聞こえなかった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">忘れていた。電力機関室は地下の迷路だ。案内人の水先に待ってもらえばよかった。いや一緒にオタクの管理人と面談すればよかったのだ。「内部調査なのでここからは私だけで」そう見得を切った自分を恨んだ。そのとき今まであらゆる部署を時間を無駄にすることなく回ってくれた案内人の水先の悲しそうな顔にわびた。次のアポの時間をとうに<span>30</span>分も過ぎている。もう<span>1</span>時間以上はこの地下の迷路をうろうろしている。＠＠が住んでいる電力機関室も何度も通り過ぎた。携帯はつながらない。アポをすっぽかされた社員はさぞかし、怒っているだろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[企業　内部査察官　明智光太郎のケースファイル　ファイナル　ケース１　大正電力　社内のあらゆる声]]></title>
                <description><![CDATA[<p>リーマンショックを金融業界で経験した主人公は、病に倒れる。病床での怒りは、企業を内部から査察、時事的な問題を解決するヒーローを創造した。原発問題や、製薬ドラッグカルテル、食品衛生、金融規制、様々な業界で、上層部の闘争、政治的癒着、国際問題を切ってすてる明智光太郎。彼の人生は謎につつまれている。ホテル住いである。しかも毎週、足跡をたどられないようにホテルを変える。秘書の小林は正義感の塊のような女。おそろしく冷徹で、頭が切れる。肝心な時に牙をむく。正反対のコンビは、大正電力の派閥抗争、世論を揺るがす事件に足をつっこんだ。</p>]]></description>
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                <pubDate>Tue, 02 Sep 2014 23:32:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[原子力]]></category>
                <category><![CDATA[査察官]]></category>
                <category><![CDATA[探偵]]></category>
                <category><![CDATA[経済小説]]></category>
                <category><![CDATA[カルテル]]></category>
                <category><![CDATA[政治癒着]]></category>
                <category><![CDATA[金融マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[企業乗っ取り]]></category>
                <category><![CDATA[アクション]]></category>
                <category><![CDATA[ファンドマネージャー]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">沼田派の声<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「この会社は日本そのものです。お偉いさんが決めて、私たちを動かす。私たちは労働者。あくまで道具にすぎません。ヒト、モノ、金それが資本主義ってもんでしょ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ありがとうございました。」一言聞いて小林は次の営業マンに面談した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あなたね、たぶんだけど無駄足になると思うわよ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「なぜですか？」何度も聞く。無駄足。私はこういう人の努力に水をさす人が嫌いだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「何故って、経営陣の大半は沼田専務支持が占めているからよ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「本当の支持と、ポーズの支持とは違うと思います。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「本当の嘘もないわよ。いずれにしても数の原理で沼田社長が誕生するんじゃない？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「失礼します。」あなたと話すことが無駄なのよ。そう思って早々と面談を切り上げて営業部執行役員笹田武雄の部屋に向かった。だが秘書に門前払いをくらった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「笹田は急遽予定を変更して本日の面談はキャンセルさせていただきます。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">インテリ秘書が冷たい目で上からドタキャンを通達した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「納得いきません。昨日アポイントを取らせていただきました。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ですから、急用でお会いできません。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">大正電力の女性社員は何故こういう気取った類の人間しかいないのか。相手を見下す微笑を浮かべながらしょうがいないでしょ、と言っている。でも残念ながら私にはその手は通じません。分かるんです。こう見えてディテクティブ明智のアシスタントを<span>5</span>年やっている。人の気配や、嘘と本当の見極めにはとても敏感なんです。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「分かりました。では明日は、お会いできるでしょうか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「無理のようですね。執行役員ともなると一度チャンスを逃すと会うことは難しいんです」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">秘書はスケジュール表を見るともなくぱらぱらさせながらいった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「明日以降では、<span>15</span>分でもお時間いただけませんか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「厳しいですね。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そうですか。分かりました。」大人しく引き下がる素振りを見せると。ものわかりのいい、お嬢様ね。さようなら。さて今日は誰と飲みに行こうかしら。笹田執行役員の部屋の扉を開いて中に入ろうとしたその瞬間。小林は素早く切り返して扉に足と手をかけた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ちょっと、何をするの！」驚いて素っ頓狂な声を出す厚化粧の秘書の奥に大柄のラガーマンを発見した。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「笹田執行役員ですね。おられるとおもいました。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「入れるなというたやろ。」昔ラガーマンでならした大正電力営業部長笹田は、もはや贅肉と化した筋肉を揺らしながら小林をしめだそうとした。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「すみません。一瞬の隙をついて」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「居留守なんて卑怯ですよ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「何が卑怯や君のほうこそ、だまし討ちみたいなことして。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「<span>foot in the door</span>です。営業の基本です。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あんたら外部のもんに話すことなんぞない。他のもんにあたれ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「外回りと言えば、接待営業。これは怠慢ですよね。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「やかましい。インフラ企業は法人客が命や。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そんな不遜な態度で個人からは電気代値上げをして搾り取る気？顧客第一主義が聞いてあきれるわ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「な、なんやと。でかい声で。おい、さっさと追い出せ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">体育会系の小林に秘書は何にもできない。とうとう部屋に入り込んでやった。元ラガーマンの笹田が追い出そうとする。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「触らないで！」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「静かにしろ。触ってなんぞおらん！何が目的や、ええ。わしが沼田専務派ということ以外に何を聞こうちゅうねや。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「別に。営業部さんの職務怠慢ぶりが社内に伝わればそれで結構。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「今更、社内で部長以下がもめても形勢はかわらんわ。今度こそ、将軍もご“勇退“や」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">小林は大人しくなり、さっと扉を開けてでていく。扉を閉める直前に一言だけ言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「稲本事件。これが笹田執行役員のご勇退につながらないことをお祈りしますわ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">口をあんぐりあけた笹田たちを置き去りにして小林は「ありがとうございます。失礼します」と慇懃な演技で出て行った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">中立派の声<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あんた、何のつもりか知らないけど、スパイみたいなことやるらしいね。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「スパイは、こんなにどうどうと行動はしません。社内マーケティングです。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「社内マーケティングね、そりゃもう昔のやり方じゃないかな。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「失礼ですが、課長は大正電力の方針をどう思われますか？南雲社長のご意見ですか、それとも沼田さんの利益主義ですか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どちらでもないことは知ってるんじゃないの。南雲社長の共同体ビジョンは最高だ。今の時代に終身雇用、ノーリストラ、会社は国だ。社員は家族だ。しかしどんなものにも長所と短所がある。時代性ってもんもあるでしょ。俺はね、元々電気工事の技術屋だったんだ。南雲社長の博愛主義に生かされた人間ですよ。でもねいくらうちがインフラ屋だからって、利益度外視したら会社がつぶれてしまう。どんな良い船だって時代の波に乗らないと、難破するでしょ。良い船だって、時代の波を超えられないなら乗り切れる船頭さんが船のかじとりしないとさ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「つまり沼田専務の利益主導型で乗り切らないといけないと。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「とはいいきれないけどね。確かなことはこういう、なんてかな不景気には必要な人でしょ。会社は南雲さんと僕ら従業員の“国”だと信じてたけどさ、最近は会社は株主のものでしょ。株主のものってことは、お金持っている人のものってことでしょ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それは極論だと思います。銀行だって、元々は預金者つまり市民のお金です。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「まあ、まあ最後まで聞きなさいよ。要は沼田専務のように銀行屋さんとうまくやって、利益がでてりゃ、それでいいわけだ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「利益主導というのは、欧米流の資本主義を本格的に日本で適応するということです。つまり、会社の利益のためにはリストラと消費者負担が前提になります。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「おれたちブルーカラーを切るってのか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「沼田専務の利益主導経営、いいえ本格的資本主義というのはとても冷徹です。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">会社の利益を守るという“大看板”を全面にだして、多少の犠牲は大多数の利益をまもるために不可欠と言って押し通すでしょう。ご存知と思いますが、南雲社長が守っておられるあなたがの雇用は真っ先に切られます。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「何でだよ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「日本に電信網がないところはもうありません。つまり、仕事がないんです。技術の方はコンピューター関連の方のみを残して・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「<span>40</span>年だよ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「え？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「日本中の電信柱にのぼって、電気ひいてきた。この手を見てくれ。人間手をみりゃ、どういう仕事して、年輪重ねてきたか分かるんだ。この手で数え切れない数の電気を引いてきたんだ。電気が町に通ったときの、あの時のよろこびが分かるか。あんたの年じゃ、電気のありがたさは分からんだろうなあ。・・・マレーシア、ベトナム，タイ、アジアの国に<span>10</span>年回って電気引いてきたよ。彼らの純粋な笑顔ときたら、あれだけで俺は満足だったよ。技術屋は技術が資本だ。俺たちの技術が必要ない時代なら、お払い箱でも仕方がねえ・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ああ、それは辛かったでしょうね。僕なんか今時珍しい<span>20</span>代の電気工事屋ですから。ベテランさんの技術屋根性もわかるし、小林さんがいうような利益主導ていうのも分かるんですよ。小林さんが言うように若い電気屋は残される可能性は高いっていうのに安心していうわけじゃないすよ。ただ俺たちの世代は社長だ、専務だっていう派閥てものに興味がないし、興味持ったところで何ができるんだっていう気がするんですよ。年が近いから言えると思うんだけど、小林さんみたいにエリートも俺ら普通のブルーカラーも、何かできるっていう気がしないんじゃない？いや、ごめんね。頑張ってる人に向かって、こういうこといっちゃいけないよね。でも何しても無力感が残るんだよね。」<span></span></span></p><p></p></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
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            <item>
                <title><![CDATA[企業　内部査察官　明智光太郎のケースファイル　ファイナル　ケース１　大正電力　キーマンはどこに]]></title>
                <description><![CDATA[<p>リーマンショックを金融業界で経験した主人公は、病に倒れる。病床での怒りは、企業を内部から査察、時事的な問題を解決するヒーローを創造した。原発問題や、製薬ドラッグカルテル、食品衛生、金融規制、様々な業界で、上層部の闘争、政治的癒着、国際問題を切ってすてる明智光太郎。彼の人生は謎につつまれている。ホテル住いである。しかも毎週、足跡をたどられないようにホテルを変える。秘書の小林は正義感の塊のような女。おそろしく冷徹で、頭が切れる。肝心な時に牙をむく。正反対のコンビは、大正電力の派閥抗争、世論を揺るがす事件に足をつっこんだ。</p>]]></description>
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                <pubDate>Tue, 02 Sep 2014 23:30:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[原子力]]></category>
                <category><![CDATA[査察官]]></category>
                <category><![CDATA[探偵]]></category>
                <category><![CDATA[経済小説]]></category>
                <category><![CDATA[カルテル]]></category>
                <category><![CDATA[政治癒着]]></category>
                <category><![CDATA[金融マフィア]]></category>
                <category><![CDATA[企業乗っ取り]]></category>
                <category><![CDATA[アクション]]></category>
                <category><![CDATA[ファンドマネージャー]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「私が“兄”です。ずいぶん違う道を歩みましたが、最期は南雲さんの所に納まった。私はね、産業面一筋の記者だから良くこの国の形の変貌が分かるつもりでいるんですがね、そもそも戦後の復興時から政官財の鉄のトライアングル、言いいきってしまえば癒着はありましたよ。戦後の焼け野原からだから、インフラ、食品、不動産、作れば作るほど、売れた。売れたら父ちゃんの給料も上がって、家庭が消費できた。高度経済成長のときはどんな国だって何やったって、よかっただよね。政治と経済が二人三脚だったのが、経済が成熟していくと癒着になっちゃんうんだね。でもね、私は南雲さんにまだ期待してますよ。エコプロジェクトの欺瞞に対抗できる最後の将軍だ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そういって水先シニアは遠く上を見た。戦後育ちのジャーナリストらしい見解と、独特のマスコミ的表現で南雲を将軍と言った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「南雲将軍。これは私がジャーナリスト時代につけたニックネームなんですよ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">なるほど、何故か慣れ親しんだ感じで将軍と呼べるのはそのせいか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「この視線の向こうに将軍が鎮座しておられるのさ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">小林も水先シニアが視線を向ける方向を見て、思わず手を合わせた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「手を合わせる方じゃないよ、小林さん。どちらかというとこうだ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">手で敬礼のポーズをとり、シニアはおどけてみせた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「マーケティングコンサルタント。最近らしい肩書きだね。だが実際は明智探偵事務所の企業調査員だ。記者上がりなもんでね。言わなくても分かるよ。で、たぶん弟があんたをここに呼んだのは理由がある。単刀直入にいこう。」記者独特の“時間に追われてる”感じをながらシニアは手帳をめくっている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あんた、これまで何人の社員に会いました？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「<span>5</span>人くらいです。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「少ないね。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「キーマンを重点的に面談してるんです。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「少なくてもいいが、そのキーマンって誰だい。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それは・・・」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「杉並、営業の＠＠、企画室の＠＠てとこだろ。それは表面のキーマンだね。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「表面のキーマン？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そう、組織には表と裏がある。なんでもそうでしょう。表に出て人を引っ張る人、裏方で影響力を発揮する人。政治家でも、会社人でも、組織っていうのは表裏一体で動く」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「御社の場合、その裏のキーマンはどなたですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ストレートな性格だね。まず沼田専務付の魚住顧問、税理士の合田。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">知らない名前だった。組織図には出てこない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">彼らは組織図などという表面にはでてこない。当然会議もだ。最期は経営企画室次長北条静香さん。この<span>3</span>人だな。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「北条さんはキーマンなんですね。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「当然だ。南雲将軍の秘蔵っ子だからね。魚住、合田は沼田陣営だができれば接触したほうがいい。相当疲れると思うが・・・。敵の腹を少しでもさぐることだね。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「分かりました。ありがとうございます。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ああもう時間がない。失礼する。あ、あと人事の稲本君には会ったかい。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いいえ。君のタイプじゃないだろうけどね、いい男だよ。ああ、忙しい」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">シニア水先は、ジュニアと同じようにせかせかと部屋を出ていった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">窓際族とはこういう場所のいる人のことなのか。部下も上司も周囲の人と距離を保たれ、机を一つ部屋の片隅に目立たないかたちでおいてある。仕事はできない、さえない中年。典型的な窓際族とまったない見えない目の前の男と話しながらそう思った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「今日で<span>3</span>日目、そうお疲れでしょう。でも取締役会まで<span>2</span>日営業日しかないものね、がんばってください。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「有益な情報をいただければ幸いです。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「俺に声をかけてくれて、うれしいよ。何せ俺はとっくの昔に終わった男だからね。もともと杉並さんと南雲社長の指示でハウスエージェンシーつまり、大正電力専門の広告代理店（子会社）を作ったんです。電信堂に<span>10</span>年在籍してましたから、そのときはバブルの頃でね、広告会社が雨後の竹の子のようにできたんですが、大正アドＭＫは今でも誇れるマーケティング会社でした。だいたい、広告屋というのは広告仲介業が一番もうかります。親身にクライアントにマーケティングサービスを提供しようという代理店は少ない。今大正アドＭＫが存在したら、榎田さんに食い込まれることもなかったかもしれない。沼田さんの銀行的なやり方にひっついて年間予算<span>100</span>はもっていってるんじゃない？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">バブル世代の元広告マン、一時はハウスエージェンシーとしては異例の業界トップ<span>10</span>を果たしたマーケティング会社の社長・・・。終わった男と自称する彼は自嘲的なものでなく、むしろ哀愁を感じた。堀が深く、色黒の稲本は元ジゴロのイタリア人という印象だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">バブル世代は、本当に楽観的で明るい。就職氷河期と不毛の<span>10</span>年を経験したとは思えない若さも感じられる。シャープだがメランコリーな私たちよりも若い、そして明るい。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">この人の社内の評判はよくない。南雲社長に可愛がられたその人が、今はひっそりと人事の課長職にいる。その真相を聞かないと。南雲派なのか、沼田派なのか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あの稲本さんは現在どちらにつかれるおつもりですか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">しまった。なんて質問の仕方だ。それはもっと後だろう。そう後悔した小林を無言で見詰めた後、話の順番を戻してくれた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「南雲社長にはほんとに良く教育してもらいました。派手なイベント屋みたいな若造にマーケティングの真理を説いてくれた。“広告費いくらかけたら、いくら儲かる”そんな発想はぶっとんだね。“稲本君、それは玉屋（パチンコ屋）の発想だよ”とね。商売なんて安く買って、高く売れば良いと思ったし、右から左に物を動かせば儲かると思ってた。ほら、良くいるでしょ。顧客第一主義とか、サービス精神がモットーですっていう経営者の方。そういうとこに限ってサービスの本質をわかってない。南雲さんはね、“利は公共の利“　共有の利といった。昔は良く分からなかったが、今は良くわかります。」遠くのビル群は夏の蛍のように輝いている。その夕闇を見ながら悲しげな様子を見せた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">どう切り出そう。その迷いを悟ったかのように自分の過去を話し始めた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「僕の実家の家業はね、代々続く“的屋”でね。けっこう有名な“老舗”でね。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">小林は神社や祭りなどでよく見る少し裏の社会の人を想像した。しかしそれは違ったようだ。ふいに小林に近づき小声で「やくざ」と言った。“的屋でね”この程度の表現が適当なんだという顔をして右目をまたたいてみせた。なるほど、この人は怖い、一筋縄ではいかないかんじがするのは、その“実家の家業”からくるのか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「実家の家業を私は継がなかった。跡取りは俺以外にいないのにね。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それで、お父様の“会社”はどうなったんですか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「私のエージェンシーに、後は父の紹介でまともな会社に行きました。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">なんていうことだ、それは企業舎弟ということじゃないか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「南雲社長もご存知でいらしたのですか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「そこだよ。そこがあの人の凄いところ。将軍といわれるゆえんだ。あの人の凄さは、あの外見やマスコミがはやし立てるカリスマとかじゃない。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">次の一言次第でこの人が聖か邪か、評判がきまってくる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あの人の懐の深さ、それが南雲新三郎の将軍たるゆえんですよ。親父が死んで、残された“社員”を連れて、南雲さんに会いました。“ルールはその時代のルールにすぎない。道を極めるに正しいも間違いもない。”」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">小林は右脳がふわっと興奮するのを感じ、資料にある南雲新三郎の写真を改めて見た。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「小林さん、あなたが聞きたいのはその先でしょ？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">この日聞いたことは明智の戦略上、重要なものになると判断できた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ハウスエージェンシー社長稲本氏が人事の目立たないところに潜んでいる訳を。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「南雲社長は実の親父より僕を可愛がってくれた。入社の前から、ハウスの社長にしてくれたときも、そして今こうして潜伏させてくれてるのも。親父の戦友だっていった。だが俺にとっては一生新三郎おじさんだよ。そして俺はおじさんの秘密兵器なんだ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「秘密兵器？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「俺が言うとなんだか、胡散臭いかもしれないが、いざと言うとき。たぶんリントリ以降は俺に何か期待しているようだよ。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「何をですか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「それは分からない。あなたにもいえないな。あんたの上司、明智光太郎なら分かるんじゃないか。あの人は警察時代から有名人だぜ。鷹の目の明智。見えないものを見る男。」<span></span></span></p><p></p></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[22世紀プロジェクト編集部]]></dc:creator>
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            <item>
                <title><![CDATA[企業　内部査察官　明智光太郎のケースファイル　ファイナル　ケース１　大正電力　その地下施設へ]]></title>
                <description><![CDATA[<p>リーマンショックを金融業界で経験した主人公は、病に倒れる。病床での怒りは、企業を内部から査察、時事的な問題を解決するヒーローを創造した。原発問題や、製薬ドラッグカルテル、食品衛生、金融規制、様々な業界で、上層部の闘争、政治的癒着、国際問題を切ってすてる明智光太郎。彼の人生は謎につつまれている。ホテル住いである。しかも毎週、足跡をたどられないようにホテルを変える。秘書の小林は正義感の塊のような女。おそろしく冷徹で、頭が切れる。肝心な時に牙をむく。正反対のコンビは、大正電力の派閥抗争、世論を揺るがす事件に足をつっこんだ。</p>]]></description>
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                <pubDate>Tue, 02 Sep 2014 23:22:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[原子力]]></category>
                <category><![CDATA[査察官]]></category>
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                <category><![CDATA[ファンドマネージャー]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">キーとなるマーケティング部内はどんよりとした雰囲気が漂っていた。一人の中堅の男性社員が暗い表情で話始めた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「杉並部長は昔は業界紙や報道番組に取り上げられるのるほどのマーケターだったんです。ＣＭ賞もとるクリエイティブもあるし、営業成績を残すバランス感覚があります。僕は電信堂の社員だったんですが、利益重視主義にうんざりして、だって<span>30</span>代なら毎年<span>10</span>億、<span>10</span>社は担当しなきゃあいけないんです。給料は良かったですが、時給に換算したら・・・まあそんなとき南雲社長の共同体ビジョンを社内外にスマートかつ効果的にＰＲして<span>30</span>年以上に渡って大正電力の伝道師として活躍された杉並さんと出会いまして今の自分があります。何卒、わが社をよろしくお願いします。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「できる限りのことをさせていただきます・・・。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">気がつくと、部内社員全員が小林に頭を下げていた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">水先が杉並マーケティング部長の部屋に行くまでに、杉並の経歴と現状を補足してくれる。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">杉並哲郎<span>55</span>歳。年齢は沼田専務など現経営陣と変らない。入社時は南雲直属の企画部に在籍し、<span>28</span>歳にして社命で<span>2</span>年ロンドン留学、帰国後マーケティングと言う真新しいメソッドを大正電力の持ち込み、マーケティング部を立ち上げ以来、<span>25</span>年マーケティング、広告業界で常に先端を行くキーマンとして注目を集め続けた。マーケティングを始めて日本に持ち込んだ一人と言われる。「杉並さんは南雲社長の懐刀と言われています。バブルの時代も派手な広告を控え、着実に予算を増やしていました。銀行の過剰融資を回避していましたが、市場が飽和状態に近づいていたのです。こちらが杉並執行役員のお部屋です。」水先が軽くノックをする。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「総務の水先です。明智ＭＫの小林さんをお連れしました。」ゆっくりと足音がして、杉並が自らドアを開けて迎えてくれた。「どうぞ、お待ちしていました。水先さん、ありがとう。慎重は<span>175cm</span>はあるだろう、彼ら年代にしては大柄な杉並哲郎は、昨日会議で同席したが挨拶はしていない。目の前にした杉並氏は、とても大きく見えた。しわや白髪の多さが年齢以上の印象を相手に与えている。「小林です。今日はお時間ありがとうございます。」名刺を交換しながら、杉並は着席を促した。「とんでもない、さあおかけください。」水先は「私は外でお待ちします。」と言って、さりげなくドアを閉めた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">入り口右手にはｃｍ賞のトロフィーや盾が所狭しと並び、応接用の椅子は茶色の革張りで仕事机及び本棚も含めクラシックテイストでそろえら手いる。欧米の学者の部屋を思わせた。本棚にぎっしりつまった飾訂本も絵画や写真、映画を中心に西洋、東洋の文学集もある。マーケティングや広告に関する本はない・・・。室内のアート感覚に見せられ手いる小林を杉並の目線がとらえた。「すいません、つい見入ってしまいました。良いお部屋ですね。」「ありがとう。」欧米感覚なのか、謙遜せずに杉並は答えた。「マーケティングの分厚い本や、広告関連の本はおいてないんです。絵や、文学の歴史は長く、含蓄を含んだものが多い、比較的歴史が浅い学問であるマーケティングや広告はそれを何とか権威付けしたいように重くて分厚い本をだしたがる。マーケティングの事例は企業と同じ数が存在します。相応した広告の事例なども多い。だがそれを持ち歩いて考えるのが私らの仕事ではないのでね。」現場で常に生のマーケットを見続ける、それが<span>marketing</span>だということですね。「クリエイティブは、祖先の残した芸術、文学にヒントがあると思ってます。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">カンヌやニューヨークで賞を取ることよりも、現地でのアートとの出会いや、ユーザーの評判の方が参考になるし、醍醐味を感じること。数々のクリエイティブ賞のユーザー評判や、成功要因について、顔をほころばせて話す杉並はアート肌なのだと小林は感じた。性格がアートだけに、南雲社長はロンドンへ留学させ、理論を学ばせたのだろう。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">アートな人間が社内政治に向かないことは、杉並の顔見れば一目瞭然であった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">執行役員部長の杉並は改めて現実にひきもどされるように複雑な表情で小林を見た。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「小林さんには、我々スタッフにかわり、社内マーケティングに活躍してもらい本当にありがたい。これは部員及び関連会社<span>8000</span>名の嘆願書です。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「嘆願書？まだ南雲社長がおやめになると決まったわけではないですが。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「その通り、でも社長が勇退をよぎなくされたときは社内でもっとも南雲体制を信じているマーケターたちの思いを経営陣にぶつけたい。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ありがとうございます。でも、まだ」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「あきらめてはいないんですよ。ただこの雰囲気を見てもらえばお分かりの通り、いくら<span>40</span>年の南雲ビジョンを信じたいと思っていても、会社のボードメンバーが沼田専務の利益重視主義になびいており、すなわち南雲社長の進退が危ないという現実を感じている。私たちマーケターは大正電力の伝道師です。だから余計にその現実の重さを感じてまいってしまっている。伝道師というと、いささか宗教じみているが、南雲ビジョンは社の精神的支柱なんです。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">精神的支柱、今の日本企業にどれだけ支柱となる人物やビジョンがあるだろうか。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">戦後ＧＨＱは天皇陛下は日本の精神的支柱だから、残したという。敗戦国への哀れみではない。天皇の精神的影響力が大きかっただけに、天皇という精神的支柱がなくなれば国民は再度立ち上がりアメリカに抵抗すると考えた末の、賢しい戦略からである。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">現にアメリカが戦争に勝って、占領に成功した国は世界でも例は見ない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">南雲ビジョンすなわち大正電力の精神的拠り所となる考え方は、リッツ・カールトンやオリエンタルランドに負けない、日本的サービス精神を表現していた。元来日本人が持つ、礼節や慣習がサービスとは違うことが良く分かる。南雲ビジョンを明確に映像化した<span>CM</span>や広告を見せながら、淡々と語る杉並には往年の覇気こそないものの、伝道師としての円熟味が感じられる。マーケティングの最高責任者から直接“教え”を受けたことで小林の理解度は高まった。同時に精神的支柱を守らなければいけないと思った。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「教え、ビジョン、社長自身が人を一つにさせると信じていた。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">愛国心にかわり、愛社精神がこの国を成長させてきたことは事実だ。数字、利益目標が、愛社精神にとってかわろうとしているのだ。どうしたらいいのだろう。その答えを求られて、私はここにいる。私がすぐに答えを出せるほど簡単なことではない。沈黙と思考を止めて杉並は一つの箱を小林に手渡した。真ちゅう製の３０ｃｍ四方の箱は軽くはない。鍵がかけられて開かない。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「ここに南雲と大正の全てがあります。鍵はこれです。明智さんに箱を渡して、小林さんがかぎを持っていてください。必要なときが来たら開けて使用してください。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">ものには魂が宿るという。使用した人間の思いが残るのだ。箱は小林が持てる重さだ。嫌な雰囲気は感じられない。何がしまわれているのだろう。いわゆるパンドラの箱だろうか。大正電力が隠す事実や事件・・・いやそんなことはない。私は“必要なとき”が来るまで中身を知らなくていいのだ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「よろしくお願いします。」まるで全てを託してどこかへ行ってしまうようだ。小林は言葉ではなく目で応えて、大正電力のビショップから箱を受け取り部屋を出た。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">杉並執行役員の扉をでると、水先が柔らかな笑顔で迎えた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お疲れ様です。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「お待たせしましたか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いえ、<span>1</span>時間きっかり業務をこなして、今きたばかり。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「もう少しマーケティング部の人間をご紹介しましょうか。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「はい、よろしくお願いします。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">水先が再び大正電力社史を続けた。「創業から<span>20</span>年、時代が明治から大正に変った頃、くしくもわが社の電信網、当時は木の電信柱が関東及び関西を結びました。でもまだ日本ではランプ灯がほとんどでした。普及率<span>20</span>％。小林さんの世代なら信じられないでしょう。当時の日本は現在日本のように東京一極集中ではなく、各地方で重軽産業が個別に活動していました。八幡製作所や三池などの炭鉱、女工哀史の繊維も本社は東京ではなく書く地方に存在しました。これは戦後しばらくまで続きます。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">豊島課長のデスクまで進んだところで、話を一旦終了した。豊島は小林を待っていたかのように、デスクから歩みよんできた。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「課長の豊島です。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「小林です。今日はお時間ありがとうございます。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いえいえ、ちょっと飲み物でもいかがですか。私がデスクであなたが椅子で面と向かっては、上司と部下のようだ。応接室に移動しましょう。」周囲の目がきになるのだろうか。豊島は水先を残して、小林をエレベーターホールへと連れ出した。エレベーターに入ると、屋上のボタンをおした。屋上はもちろん応接室はない。そこはオールドファッションのカフェがあった。ドアをあけると、１フロア分全てが食堂なのだが、食堂というよりカフェだ。銀座のロマン館を広げたイメージだ。ウェイターもいる。豊島は小林に飲み物を尋ね、注文を受け取って外へ出た。社員食堂のある最上階は日比谷の新しい高層ビル群を下から見るかたちになるが、ニューヨークの古い建物の屋上を思わせる。ビルの狭間で休息も悪くない。大正モダンの社員食堂とレンガ作りのテラス。名前の通り、大正モダニズムが現代に息づいている。豊島がレモネードを小林に渡した。夏はビールといいたいところだが、昼間はフルーツジュースがいい。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「すいません。部内ではおおっぴらには話せないこともあるもので。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「いえ、事情は理解しています。素敵な社員食堂に連れてきていただいて。気がつかなったと思います。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">大正電力のビルは日比谷駅から地下でつながっている。縦<span>200</span>ｍ、横<span>400</span>ｍの外装は東京駅を建築した辰野金五郎の作品であり、重要文化財に指定されている。大正建築の代表としても有名だ。内装もできる限り大正モダンを維持しながら、エレベーターやシースルーの会議室などの現代建築とうまく融合させている。九段の＠＠会館や迎賓館ほどの派手さはないが、屋上のカフェを社員食堂にするとは見えないお洒落だ。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「恥ずかしながら、部内も一枚岩ではなくてね。営業部のように数字重視の人間とは一線引いてるんですが。やはり、数字は重要だという意見もある。会社というのは社会の縮図だというでしょう。会社がふんばりどころにあるときは、人間本音で動きます。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">動けない人間、動こうとしない人間、口を閉ざす人間、私のように声を上げて内部を動かそうと言う人間。当然反対派で動くものもいる。部長にお会いになったんでしょう。杉並執行役員が力不足だったわけじゃないです。南雲ビジョンに利益重視と銀行側の圧力があることが問題なんです。我々大正電力はエコプロジェクトの最後の抵抗者ですからね。<span>1</span>企業が国に強がっているようなものなんです。エコプロジェクトはビジネス目的の“プロパガンダ”とまでいいませんけど・・・国の方針がビジネスでいいでしょうか。国こそ、国民全体に“奉仕”するのが正常でしょう。いくら杉並さんが伝説のマーケターでも、大多数の企業と、国家の“ビジネスマン”が相手では、勝負になりません。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「どうでしたか？」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;"> </span></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">時間は万物に平等。聖人にも時間は限られているのだ。執行役員の水先が案内をしてくれることじだい無理をいっているのだ。めがねをかけ、懐中時計を見たあと、急いで手帳をめくりる姿もゆったりとしたものを感じたが、「申し訳ありません。後<span>10</span>分で部長会議にでなければいけません。今日はここまで、明日改めて案内をさせていただきます。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そういって、小柄な身体に初速をつけて走り去っていった。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">そうだ。水先を見て、何と表現したらいいか、一つ気にかかっていた。せかせか、ではないか、不思議の国のアリスのせかせか兎に似ている。<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">「忘れてました。総務へ行ってください。この名刺をさしあげます。」<span></span></span></p><p></p>
<p><span style="font-family:'ＭＳ 明朝', serif;">総務部長代理　水先一郎。<span>5</span>分後に名刺の男にあったときには驚いた。水先と瓜二つの、しかし少々曲者顔の中年男と差し向かいで面談している。総務“部長”の水先は白兎、こちらは灰色兎ってところかしら。<span></span></span></p><p></p></p>]]>
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