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■久瀬太一/8月8日/25時10分
2014-08-09 01:10
――ん?
スマートフォンを覗き込んでいたオレが顔を上げる。
「読めてるよ。みんなには助けられてばかりだ」
サクラも足を止めて、振り返った。
「え? なにかいいましたか?」
「いや」
オレはまたスマートフォンを確認しながら、先へと進んでいく。
「それはなんですか?」
とサクラが尋ねる。
彼女はスマートフォンを知らない。
やっぱり、現実の「佐倉」とは違うのだろう。――当たり前か。言動をみていればわかる。
「神さまがメッセージをくれるんだよ」
と、どこかぶっきらぼうにオレは答えて、ずんずんと進んでいく。
煙@制作者派 @smoke_pop 2014-08-09 01:13:05
おっ??もしや今これ誰かリアルタイムに編集した!?
QED @qed223 2014-08-09 01:12:44
攻略本の「読めたら返事して」に反応してるのか
かめ@kameaa -
■久瀬太一/8月8日/25時
2014-08-09 01:00
スマートフォンをみるオレの手つきをみて、思い当る。
オレが確認しているのは、メールではないようだ。
――向こうのオレにも、電波は届いていない?
なら、あの制作者から届いたアドレスか。
これでカンペキ、とアドレスに入っていたページ。
本当に時がくれば、あのページを読めるようになるみたいだ。
とりあえずあのページを読めばいいのか、と考えて、窓の向こうの自分とオレが入れ替わった場面を想像して、背筋が震えた。
※
次の部屋は、あいかわらず薄暗いけれど、緑があった。
萎れて元気のない草。花はない。
ぐるりと囲まれた緑の中心に、少女が横たわっていた。
その風景は、古い童話の挿絵のようだった。――昔々、悪い魔女に呪いをかけられたお姫様がいました。彼女は長い眠りにつき、それまで元気だった草花もすっかり萎れてしまいました。そんな場面を想像した。
――少女。
オ -
■久瀬太一/8月8日/24時45分
2014-08-09 00:45
ようやく扉の錆を落としたオレは、またスマートフォンをチェックする。ずいぶん慎重になっているようだ。
小さな声で、ぼそりと、
「常にダッシュって。歩いてる余裕ないよ、こんなの」
と呟いた。 ――なにがあるんだよ。
軽く深呼吸をして、ドアノブをつかむ。
そして、ドアをあけた直後、オレは駆けだす。
オレは部屋の外周にそうように走る。部屋の真ん中には、黒いローブのようなものを着た、背の高い男がいる。
そいつはオレに気づいたようだった。
「貴様は、英雄クゼ……生きていたのか」
妙にしぶい声で話し始める。
「仕方ない。私が始末してやろう」
だがオレはそんなこと、聞いちゃいなかった。
部屋の奥にある扉にまっすぐ向かう。
「逃がすか」
黒いローブの男が、軽く右手を持ち上げる。
その直後、オレの目の前で、扉が燃え上がった。
だがオレはまるで、そのことも知っていたようだった。 -
■久瀬太一/8月8日/24時30分
2014-08-09 00:301
棚の上に残されていた、2本のボトルを回収したオレは、次に古びた壺の前に立つ。オレの胸に届くくらいの、巨大な壺だ。あちこちにひびが入っている。
中には水が入っているようだ。オレはいったん、2本のボトルを足元におき、ゆっくりと壺を傾ける。
流れ出た水が足にかかり、オレは顔をしかめた。すでにその水は腐っているのかもしれない。それでもオレは、ゆっくりと慎重に、壺を傾けて水を捨てる。
――そんな壺、どうするんだよ?
わけがわからなかった。
オレはしがみつくようにして、空になった壺を持ち上げ、よたよたとした足取りで歩き出す。その先にはドラゴンがいる。
――まさか、それでドラゴンを倒すつもりか?
オレは馬鹿なのか、と思った。
だがどうやら違うようだ。
ドラゴンのすぐそばに巨大な壺を置き、オレはそれで満足したようだった。額の汗を拭っている。
さらにオレは、部屋のかたすみにある -
■久瀬太一/8月8日/24時20分
2014-08-09 00:20
アナウンスが告げる。
――次は青と紫の節、9番目の陰の日です。
窓の外にみえるオレは、あのリアルすぎて嘘みたいなドラゴンに背を向けて、一心不乱に逃げていた。
その光景をみて、オレはまず希望を感じた。
――持っている。
バスの窓の外にみえる、未来のオレは、手に持ったスマートフォンを横向きにして覗き込んでいる。
――オレは、あれを取り戻すんだ。
現実がこのまま進むと、きっとそうなる。
このまま。
――八千代が血を流した先で?
それは正しいことなのだろうか? わからない。
ともかく窓の向こうのオレは、スマートフォンをポケットにしまい、ドラゴンに背を向けて走る。腰から妙に豪華な装飾の施された剣を抜く。
それで、向かって左手の扉を斬りつけた。
剣の破片が舞う。それは根元から折れてしまったようだった。扉は? すっぱりと下半分が切り取られている。オレに一発で扉を斬れる -
■久瀬太一/8月8日/24時10分
2014-08-09 00:10
シンプルなアナウンスが聞こえた。
――次は、8月15日です。
窓の外にみえた景色に、オレは、息を飲んだ。
※
そこにいたのは八千代だった。
八千代は縛られて倒れていた。
うつぶせで、顔はみえない。だが頭部の辺りから、じっとりと血が広がっている。
――聖夜協会は、人を殺さないんじゃなかったのかよ?
だがオレだって、ソルに助けてもらえなければニールに撃たれていたはずなのだ。八千代からの情報は意外にあてにならないのかもしれない。
八千代の周りには、数人の男たちが立っていた。
ファーブルたち? 違う。少なくとも、彼の姿はない。
男のうちのひとりが言った。
「答えろ。センセイはどこにいるんだ?」
八千代は微動だにしない。
男は平然と続ける。
「お前は悪い子だ。とてもとても、悪い子だ。センセイを独占しようだなんて、そんなことが許されるはずがない」
平然 -
■久瀬太一/8月8日/24時
2014-08-09 00:00
24時になるころ、オレは夢の中でバスに乗った。
今回は、バスの中にいるのは、あのきぐるみだけだった。リュミエールの姿も、グーテンベルクの姿もない。
オレは最後尾の座席に腰を下ろす。
ソルのスマートフォンが奪われた、と告げると、少年ロケットのきぐるみは言った。
「なるほど。そりゃ大変だ」
ちっとも感情のこもっていない言葉だ。
オレはバスから窓の外を眺める。みえるのは相変わらずのトンネルだ。オレンジ色の光が、ほんのわずかな時間だけオレを照らして、すぐに後方へと流れていく。
「あのスマートフォンだけは、取り戻したい」
「もちろん。ソルの協力は必要だ」
「どうすればいい?」
「オレが知るかよ。ただの少年だぜ?」
「ロケットだろ」
「ロケットは空の飛び方しか知らない」
やっぱりこいつは頼りにならない。わかっていたことだが。
ソルからのメールを思い出し、オレはきぐるみに尋ねる。 -
■佐倉みさき/8月8日/17時
2014-08-08 17:00
東京を出発して、名古屋、秋田ときて、次は尾道である。
さすがにもう少し理性的なルートはなかったのだろうかとつい考えてしまうが、どうやら久瀬くんの年齢を辿っているようだから文句もいえない。
ノイマンとニールは誘拐犯であり、私はその被害者だからということで、飛行機は避けている。結局のところ、新幹線で8時間もかけての移動になった。
隣ではノイマンが、一心不乱にノートPCを叩いている。さらにその隣では窓に側頭部を押しつけてニールが眠っている。
車内販売のワゴンを押す女性が通りかかり、私とノイマンはアイスコーヒーを買った。移動が増えるとコーヒーを飲む機会も増えるなと思う。
アイスコーヒーで、ノイマンがようやくノートPCから顔をあげたから、私は声をかける。
「大変そうですね」
「今夜、続きのデータを公開する予定なのよ」
「間に合うんですか?」
「とりあえず深夜にはなにかしらアップす -
■久瀬太一/8月8日/14時
2014-08-08 14:00
ホテルの部屋に戻って、違和感に気づいた。
鞄の位置が変わっている。
――誰かが、この部屋に入った?
書き物机の引き出しを開ける。
そこになければならないものが、なかった。
思わず舌打ちがもれた。視界が暗くなったような気がした。
オレは部屋を飛び出し、すぐ隣の八千代の部屋をノックする。
ドアはすぐに開いた。
「どうした?」
と八千代が顔を出す。
「あんた、オレの部屋に入ったか?」
「いや。どうして?」
「誰かが、部屋に侵入した」
八千代が珍しく険しい表情を浮かべる。
「なるほど。ファーブルは意外に強引だな」
「どういうことだよ?」
「考えればわかる。君があいつに会いに行ったなら、オレは君のあとをつける。ホテルに人はいない」
「鍵のかかった部屋だぞ?」
「どうにでもなるさ。オレにだってそれくらい、どうにでもできる」
「そうかよ」
「なにか盗られたのか?」
オレは額 -
■久瀬太一/8月8日/13時45分
2014-08-08 13:45
ファーブルとの面会は、表面上は何事もなく終了した。彼とはファミリーレストランを出てすぐに別れた。
オレは当事者にみえて、当事者ではなかったのだと思う。これはきっと、八千代とファーブルとのつばぜり合いのようなものだ。
オレのみたところ、その結果は引き分けだった。
八千代の「魔法の言葉」は確かにファーブルの口を閉じさせ、一方でファーブルの「八千代の秘密」は確かにオレの胸に小さな棘を突き立てた。
――八千代は、すでにプレゼントを持っている?
本当に?
あいつはつい最近まで、聖夜協会員ではなかった。だが彼の父親は聖夜協会の連絡役をしていた。以前から、八千代も聖夜協会と関わっていたのかもしれない。
答えの出ないことを考えながら歩いていると、ふいに、すぐ隣から声が聞こえた。
「どうだった?」
八千代だ。タイミングが良すぎる。
「オレを見張っていたのか?」
「見張るふりをしていた
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