アニメ「エロマンガ先生」 兄と妹はゴールを見つけられるか
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アニメ「エロマンガ先生」 兄と妹はゴールを見つけられるか

2017-05-28 15:00
    AIR です。

    今回のお題はアニメ「エロマンガ先生」です。電撃文庫より原作ライトノベルが
    刊行されている最中の小説のアニメ版です。今の時点では原作が完結していない
    ため、アニメ版一期も区切りが良いところで一応の終わりを迎えると思われます。
    作者が「伏見つかさ」さんでイラストが「かんざきひろ」さんで、OP主題歌を
    「ClariS」さんが担当しているため、前作「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」
    のファンが引き続き視聴するには良い内容かと思います。前作を見ていない私が
    「エロマンガ先生とは、ひどいタイトルだ」と遅れながらにして視聴を開始して
    みたところ、予想を裏切っておもしろく感じられたので語ってみたいと思います。


    【 主人公は誰? 】
    おそらく原作小説ではライトノベルの流行りの文体が採用されていると思われる
    ことから「一人称」の「僕(俺)語り」を容易に想像できますがアニメは主観で
    語られませんので、「原作がライトノベル」の先入観にとらわれずに受け取ると、
    松岡禎丞さん演じる「和泉正宗」のほうではなく藤田茜さんが演じる「和泉紗霧」
    を主人公に見ることで全体の物語の見通しがよくなります。最近は放送している
    アニメの本数が多いですので、いわゆる「一話切り」という「第一話の印象にて
    視聴を継続するかしないか」の判決をアニメファンはくださなければなりません。
    本作は「伏線を提示-直ちに回収」するスタイルをとっているため同居中の妹が
    自分の著作に挿絵を描いてくれている正体不明のイラストレーターだったという
    事実を兄が知るところから物語が起動します。もったいぶることも出し惜しみも
    せず視聴者に明かしてしまうところが好印象でしたので視聴の継続を決めました。

    その妹のペンネームが「エロマンガ先生」であり、本作のタイトルでもあります
    から、本作は高校生ながら現役人気作家である兄の人生を追いかけていくよりも、
    「エロマンガ先生」の人生の物語を追いかけていくほうが自然な見方といえます。
    その根拠はOPアニメーションにも描かれています。Bメロでは自分の殻の中で、
    楽しそうに「踊ってみた」をやっています。サビ1からは「走り出す」のですが、
    その表情には「寂しさと不安」が出ています。その後「妹を心配する兄」「兄の
    気持ちも知らずタブレットの絵にバカと殴り書きする妹」の絵が挿し込まれます。
    続いてサビ1’でも「走っている」のですが、今度は「妹と兄の併走」になります。
    「兄と一緒」だから「穏やかで満たされた気持ち」が表情に出ています。中一の
    女の子でメンタルが幼く感情が顔に出てしまうのですが、アニメを読み解くには
    見逃せない部分です。サビ1の不安の原因は「走る妹」の背景で、目まぐるしく
    通り過ぎていく「兄の興味を私から奪っていく兄の周囲に存在する女子達」です。
    ですがサビ1’は「心が通じ合った兄と妹の関係が築かれてからの併走」ですから、
    「兄の興味を私から奪う仕事関係の人達」が通り過ぎても大丈夫と言うわけです。

    さて妹の紗霧ですが、十二歳の中学一年生にして現役の人気イラストレーターで
    ありますから才能に恵まれています。義理の兄妹とはいえ、兄のほうも十五歳で
    紙の本を出していて知名度もある小説家を続けているため才能に恵まれています。
    この場合の評価として公平でない点は、ライトノベルは小説というよりはグッズ
    として売られている側面があることです。一般的に本は内容を確認できなければ、
    買いにくい商品のひとつです。そのため書店でも内容を確認する程度の立ち読み
    ができるように売り場に陳列されています。対してライトノベルは商品の主体が
    絵であるとの考え方からか、本体は小説でありながら内容を確認できないように
    ビニール状の袋でシュリンクされています。つまり表紙の絵が気に入った十代の
    中高生が買っていく商品の扱いですから、エロマンガ先生こと紗霧さんが描いた
    表紙イラストや挿絵がなければ、兄の小説は読者に読まれることすらないのです。
    この関係性を前提として踏まえておくことで本作のテーマを読みやすくなります。


    【 リア充は誰? 】
    流行り言葉に「リア充」という単語があります。現実の生活が充実している人を
    指すスラングなのだそうですが本作では紗霧さんのクラスの学級委員長を務めて
    いる神野めぐみさんがリア充キャラとして登場します。紗霧さんは不登校児です。
    神野めぐみさんが何様かは知りませんが、ライトノベルを指して「キモオタ小説」
    呼ばわりしたことで、正宗さんの同級生で「たかさご書店」の書店員をしている
    高砂智恵さんと喧嘩寸前のところまでいってしまいます。その根拠は、学校中の
    人気者が不登校児の紗霧さんを登校させようとクラスメイトに呼びかけて家まで
    押しかける運動を働きかける力を持っていたことで、彼女の自信を支えています。
    しかしながら、人間としての格は圧倒的に紗霧さんのほうが上回っているという
    事実がありますので、めぐみさんの「思い上がり」はギャグ要素になっています。

    ひきこもりであろうと不登校児であろうと、全国市場で商業作品を手がけている
    プロのイラストレーターという肩書きや売上実績は、経済に貢献していますので
    中学一年生にして納税者です。対して「何者でもなく、今後も何者にもなれない
    であろう」めぐみさんはみじめなものです。日本全国に少なからずファンがいて
    ニコニコ生放送のようなものでネット配信を行えばコメントで場が賑わう人気を
    持つ紗霧さんに向き合うには、「学級委員長です」「友達が多いです」では力が
    不足しすぎています。というよりも、相手になりません。主人公にしても、その
    兄にしても、ラノベ同業者であるところの売れっ子作家の「山田エルフ」さんや
    「千寿ムラマサ」さんにしても十三歳や十四歳という若すぎる年齢でありながら
    アニメ化される原作のラノベで出版社の経営を支えています。このような事実が
    ありますから、同世代で学生と社会人を兼業している面々を並べたとき一般人の
    めぐみさんは人生がみじめなギャグ要員です。人気作家こそが、リア充なのです。


    【 妹どうなる? 】
    主人公の和泉紗霧さんは、最初から完成形にして不完全な存在として登場します。
    アニメの第一話が始まったときは設定が見えませんから、きっと不登校児という
    欠陥の克服が物語の結末であろうと予想できて、その目的で兄が妹を登校させる
    ために奔走する様を一クールかけて描くくだらない内容かと侮っていたのですが、
    本作は展開がスピーディーですから設定が見えてくれば、兄と妹の二人の関係が
    「ビジネスパートナー」であったことがわかります。そして「紗霧さんに学校は
    いらない」ということころまで第一話で見えてきます。ただ、他の面々が学生と
    社会人を兼業していますから、プロのイラストレーターをしながら中学校に通う
    ことも本人の選択としてありえますし、将来的に本格的に絵の勉強をし直したい
    ということを思うようになるイベントがあれば「絵でつまずいたので専門学校に
    通うようになる」という形で、ひきこもりが解決する可能性が本人の選択として
    ありえます。しかしそれは遠い先の話であり、本編では「兄は妹との関係を向上
    させたい」と願って努力していますから、本作は「相互に信頼できる関係の完成」
    が一応の着地点でしょう。それでは作品全体としての物語はどこに着地するのか
    といえば、「エロマンガ先生」という作品はハーレムものですから、兄のほうが
    若くて可愛らしい女の子にモテモテになっていく内容です。紗霧さんは義理でも
    妹ですから、彼女達に嫉妬して焼き餅を焼いていても兄が誰かと付き合うことを
    妨げることはできても止めることまでできません。しかし兄は妹を心から大切に
    思っていますから、ハーレムに対して決着を付けることなく、適当に折り合いを
    付けて、妹とはビジネスパートナーとして平行線の関係を続けることになります。

    紗霧さんの欠落は「常識」です。中学生らしい中学生の生活を送っていないこと
    です。その紗霧さんが「何らかのイベントを通して欠落を克服することによって
    人間として完成する」ことが一般的な物語の落とし所ですから、兄がいなくても
    社会人として生きていける水準に至るまで、「紗霧の人間性が回復」することが
    メインのストーリーになります。見せ方のうえでは兄のほうが主役ですが、兄の
    正宗はアニメ「エロマンガ先生」においても、紗霧さんの人生においても脇役に
    過ぎません。そのような形の描き方しかできなかった理由は決して作者の力量が
    不足していたからではなくて、紗霧さんがひきこもりという設定であるがゆえに、
    「ストーリーを動かせない」からです。そのため「兄が代理で主役の仕事をする」
    形でアニメ「エロマンガ先生」は描画されていきます。兄の正宗の人生において
    妹の紗霧さんは足を引っ張る存在でしかありませんから、ビジネスパートナーで
    なかったとすれば、切り捨てることで人生が楽になります。両親が不在とはいえ、
    「兄妹が出来の悪い兄妹の面倒をすべてみなければならない責任はない」のです。
    小説家として売れなくなり廃業したときには会社員として時間に自由がきかない
    仕事に転職するかもしれません。そのような状況になると紗霧さんが兄に用事が
    あるときに床を叩いて呼びつける「床ドン」に応じることもできなくなりますが、
    生涯にわたって妹と同居して面倒を見続けるという義務は兄の正宗にありません。
    しかし紗霧さんのほうは絵の仕事が順調で編集者を通じて他の作家と手を組んで
    いくことができれば収入を得られますし、ペンネーム通りにエロマンガやエロで
    エッチなイラストを売って稼ぐこともできます。紗霧さんは勉強をしていないと
    思われますから「お金はあるが、生活力がない」といった困った将来になります。


    【 まとめ 】
    紗霧さんにとっての幸せは「いつまでも兄と暮らせる今の生活が続くこと」です。
    兄の正宗にしてみれば「中学や高校に通って一般教養を身に付けて、生きていく
    力を身に付けてほしい」と考えてはいますが、「大事な妹が苦しむことを無理に
    させたくない」という気持ちも心のなかに同居しています。ひきこもりの期間が
    長すぎたために会話するときも声が小さく、ヘッドセットを通してスピーカーで
    音量を増幅しなければならないくらいに社会性が欠落している紗霧さんが学校の
    クラスメイトや学級委員長のめぐみさんの声にそそのかされて登校するといった
    展開も幸福なゴールには見えません。前述しましたように主人公がひきこもりで、
    アニメ「エロマンガ先生」のストーリーを動かせないがために主役でありながら
    紗霧さんはアニメのストーリーの描き方の上で主役の座を兄に代理させています。
    「不登校やひきこもりを克服する」という一般的な物語の解答が自身にとっても
    正解にならないことくらいは気が付いているでしょうから、紗霧さんとその兄は
    別のゴールを二人の人生の着地点に設定し直さなければなりません。本作はその
    期間の二人の生活模様と人間関係を描いたものとして表現されますが、自発的な
    人生の改善が見られない紗霧さんの性格からは「兄に社会性をも代理してもらう」
    ことでしか生きていけません。そのために、『共依存の関係を強固にすることが、
    二人にとっての幸福なゴール』になるのです。愛情という名で依存しあう二人が
    生活のうえでも仕事のうえでも「助け合い支え合う家族」の礎になるのであれば、
    視聴者である他人が否定の言葉を述べる必要はありません。兄が妹を好きになる
    ことがあっても良いですし、創作という内向きのベクトルの行為を媒介してから
    心を通わせる関係があっても良い、そのような作者の嗜癖に触れられる作品です。



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